●リプレイ本文
―― キメラ退治の為に ――
(‥‥ロマンチックって何だろう?)
う〜ん、と唸りながら心の中で呟いているのは七海・鉄太(gz0263)だった。
「‥‥鉄太もしかして‥‥今日の事、分かってるのかな‥‥」
はぁ、とため息を吐きながら小さな声で呟くのは鉄太の彼女でもある雪代 蛍(
gb3625)だった。感情表現が苦手な雪代は今日――クリスマスについて分かっているのかと問いかけたくとも出来ない状況にあった。
「‥‥蛍」
何度もため息を吐く雪代を心配したのは瑞姫・イェーガー(
ga9347)だった。
「なぁ、ロマンチックってなんだと思う?」
鉄太が八葉 白雪(
gb2228)に言葉を投げかける。自分で考えていても一向に答えが出ない為、鉄太は他の能力者たちの知恵を借りる事にしたのだ。
「うーん‥‥クリスマスとかなら、ケーキ焼いて料理作って二人で楽しく話しながら過ごせればいいかな?」
白雪の言葉に「ふぅん‥‥」と鉄太が言葉を返す。
「私だったら‥‥」
白雪が真白の人格へと変わり『自分が思っているロマンチック』について言葉を続ける。
「ホテルの見晴らしの良いレストランでディナーを食べ、ラウンジでお酒を飲んで‥‥その後は――きゃあ、とても私の口から言えることじゃないわ!」
両手を頬に当てながら顔を真っ赤にしている真白に「‥‥口から言えないことをするのがロマンチック?」と鉄太はますます分からなくなってしまった。
「よぉ鉄太! 俺の事、覚えてるか?」
篠崎 宗也(
gb3875)が軽く手を挙げながら鉄太に言葉を投げかける。明るい口調で話しかける篠崎だったが(俺の事、覚えてっかな‥‥)と少しだけ心の中ではドキドキしていた。
「覚えてるよ!」
鉄太が言葉を返すと「そっか! 会うのは約一年ぶりくらいだからちょっとだけ心配したぜ」と篠崎は言葉を付け足したのだった。
「そうだ、ロマンチックについて聞かせてよ」
「ロマンチックか‥‥綺麗な夜景を見るとか幻想的な所にいる事とかを言うんじゃねぇか? よく分かんねぇけど‥‥」
篠崎はやや自信なさそうに鉄太に言葉を返す。
(‥‥ロマンチックか‥‥こんな無骨者にはロマンチックなど分からんな‥‥)
赤い霧(
gb5521)は鉄太が能力者達に聞きまわる姿を見て、心の中で呟く。
「なぁなぁ、ロマンチックについて教えてくれよ!」
鉄太が赤い霧に問いかけると「俺に聞かれてもな‥‥」と少し困ったような表情を見せた。
「‥‥俺はそう言った事は分からんよ‥‥だから恋人にもよく呆れられる‥‥」
はぁ、とため息を吐きながら鉄太に言葉を返すと「おにーさんも苦労してるんだなぁ」と何故か肩をポンと叩かれてしまった。
「女の子ってのはいつもお姫様でいたいんだよ。依頼や、友達より優先して欲しいし、好きっていう言葉が欲しいものなんだよ」
夢守 ルキア(
gb9436)が鉄太に言葉を投げかける。
「‥‥お姫様?」
「うん。やっぱり好きな人の一番でいたいんだよ、女の子は」
ねぇ? と夢守は八葉 白珠(
gc0899)に話を振ると「え、わ、私ですか‥‥?」と驚いたのか、目を瞬かせながら「あの、その」と小さな声で呟いている。
「あの‥‥あのね。私は‥‥好きな人と一緒にいられれば、それで‥‥。あ、でもその‥‥できたら手を繋いだり出来たら‥‥」
顔を赤くしながら呟く白珠に「そうそう、それだけで幸せになれちゃうんだよ」と夢守も言葉を付け足した。
「なるほど‥‥皆様のロマンチックはそういうものなのですね。私であれば、一晩共に句を読んだり、茶事にもてなしたりしてみたいですね」
八葉 白夜(
gc3296)がしみじみと呟く。
「お兄様‥‥それはそれで素敵な事なんですけど‥‥」
白雪が苦笑しながら呟く。
「あの、さ。早くキメラ退治に行こうよ」
他の能力者には聞くのに自分にだけ聞いてこない寂しさからか雪代は少しだけキツい口調で能力者達、そして鉄太に言葉を投げかけた。
だけど彼女はまだ気づいていない。鉄太があんなにも必死で『ロマンチック』について聞こうとしているのは他ならぬ雪代のためだという事に。
―― 静寂の町中、潜むキメラ ――
今回、能力者達はキメラを退治する上で二つの班に分かれて行動する作戦を立てていた。
A班・瑞姫、雪代、赤い霧、白夜の四名。
B班・白雪、篠崎、白珠、ルキア、そして鉄太の五名。
「住んでる人たちは避難してるみたいだし、念の為に確認しながらキメラを捜索していけばいいんじゃないかな?」
夢守が呟き、能力者達は予め決めていた班に分かれて行動を開始したのだった。
※A班※
「てった、まだボクの事を怖がってるのかな?」
はぁ、とため息を吐きながら瑞姫がポツリと呟く。呟かれた言葉に「あぁ‥‥」と雪代も鉄太の行動を思い浮かべて「何かそういう感じっぽかったね」と言葉を返した。
「それよりもさ、いつまで続けるつもりなの‥‥恥ずかしいんでしょ?」
雪代の言葉に「うーん、わかんないなー」と瑞姫は苦笑しながら言葉を返した。
「このままの方がいいような気がするんだ‥‥いつまでも、このまんまじゃないだろうし、じぶんが傷を癒せるまで待ってて」
瑞姫からの言葉に「うん、わかった」と雪代は言葉を返す。
「それにしても‥‥この辺にキメラの気配というか、何かがいるような気配は感じられませんね‥‥」
白夜が周りを見渡しながら呟く。住人が避難しているという事もあり、物音すらしない。時期が時期だけにキメラさえ現れなければクリスマスらしい雰囲気だったろうに、と白夜は心の中で言葉を付け足した。
「確かに気配は感じられないな‥‥だが、だからと言って『いない』というワケじゃなさそうだしな‥‥資料によれば素早い獣のキメラだとあるし」
赤い霧が資料を見ながら呟くと「確かにそうですね。油断はしないでいきましょう」と白夜は言葉を返す。
(‥‥そういえば、あたしが見てる景色が鉄太が見てる景色なんだよね‥‥ドラグーンと勝手が違うから、まだ動きにくいけど‥‥)
雪代が心の中で呟く。
「この辺はキメラが暴れた場所でしょうか」
白夜が立ち止まり、壁や家についた傷などを見る。
「そのようだな‥‥キメラは複数、ではなさそうだな」
赤い霧が傷の具合や付き方などを見て呟く。
「たしかに、キメラが沢山だったらもっと酷い事になってるだろうし‥‥」
瑞姫も傷跡を見ながら呟く。
「じゃあ、キメラは一匹? どちらにしても大勢じゃなさそうだね」
雪代が呟いた時、瑞姫が持つトランシーバーに「キメラを見つけた」という連絡が入り、B班がいる場所を聞いて、合流する為に走り出した。
※B班※
まだA班に連絡を入れる前、B班はキメラを捜索しながら町の中を歩いていた。
「なぁ鉄太‥‥、お前ちゃんと戦えるのか? 一年前は役立たずだったぜ?」
篠崎が鉄太に言葉を投げかけると「う‥‥」と言葉に詰まる。鉄太自身もまだ自分が役に立っているとは思っていないのだろう。
「‥‥おれ、前よりは強くなってる‥‥と思いたいんだけど、やっぱり他の皆に迷惑ばっかかけちゃって‥‥」
しょんぼりとしながら言葉を返す鉄太に「前より強くなってると思うんなら大丈夫じゃないか? 前より役に立ってないってワケじゃないんだろ?」と篠崎は「これからだって」と言葉を付け足して鉄太に応えた。
「‥‥白夜兄さま‥‥大丈夫でしょうか‥‥」
分かれてしまった兄の心配をしながら白珠は小さく息を吐く。兄より自分の事、と思うけれどやはり大事な兄に何かあったらと思うと気が気でないのだろう。
「心配しないで大丈夫。それは私や白珠がよく知ってるでしょ?」
真白の言葉に「‥‥はい」と白珠は言葉を返すのだが、やはり心配なものは心配なのだ。
「鉄太君、ロマンチックについて聞いてたよね。知ってるかな? ヤドリギの下でキスするとその男女は幸せでいられるんだ」
「やどりぎ‥‥きす‥‥」
(そうなんだ‥‥今後のためにメモっておこう)
夢守の言葉を聞いて篠崎はこっそりとメモを取る。
その時だった。獣の唸り声と共に家の影からキメラが姿を現したのは‥‥。
「A班に知らせよう!」
篠崎が叫び、トランシーバーで連絡を行い、A班に自分たちの位置を伝えたのだった。
―― 戦闘開始 ――
B班がA班に連絡を行い、二つの班が合流したのは十五分くらい経過した時だった。
「これが、今回ボクたちが倒すキメラ‥‥」
「‥‥素早くて厄介そうだね」
瑞姫と雪代がポツリと呟く。外見は犬のようだが鋭く伸びた牙と普通の犬を超えた動きが目の前の獣がキメラである事を示していた。
「白珠は離れて頂戴!」
「え‥‥、で、でも」
「いいから!」
真白は白珠に後ろへ下がるように指示をして愛用の刀を構えてキメラへと向かう。
「この時期に現れるなんて無粋極まりないね。この時期を楽しみにしていた人たちがどれだけいると思うのかな?」
夢守は呟きながらエナジーガンと拳銃バラキエルを構え、キメラを狙い撃つ。
「‥‥犬は好きだが、こんな凶暴なのでは恋人にあわせられないな‥‥」
赤い霧が静かに呟き、覚醒を行った後にそこら中に響き渡るような雄たけびをあげ、紅刀・邪龍を振り上げてキメラへと攻撃を行う。
「GYAAAAAAッッッ!!」
その雄たけびに一瞬だがキメラも怯み、僅かな隙を作る。その隙を突いて赤い霧は攻撃を行った。
「よし、いくぞ! 鉄太!」
「う、うん!」
篠崎は鉄太に声をかけ、鉄太と行動をあわせて連携して攻撃を繰り出す。
「‥‥っと」
雪代も薙刀・昇竜を構えキメラへと攻撃を繰り出す。
「わ、私も‥‥「危ないから白珠はジッとしていなさい!」‥‥うぅ」
白珠も攻撃を行おうとしたが、近くにいた白夜により止められてしまう。
「いきますよ、真白」
白夜は真白へと声をかけ「分かりました」と真白も白夜と動きをあわせてキメラに攻撃を行う。
「苦痛はすぐに終わります、今しばらくの辛抱です」
白夜はキメラに話しかけながらも手を緩める事はない。
「わ、私だって‥‥! オーブよ、お願い!」
白珠は姉と兄の言いつけを破って攻撃に参加するのだが‥‥。
――ごちんッ。
「――――痛ッ!」
白珠の攻撃はキメラではなく、キメラの近くで戦っていた姉・真白へと見事にヒットした。
(‥‥うわぁ、痛そう‥‥すごい音がしたよな、今)
篠崎が引きつった表情で真白を見る――が、すぐに視線を逸らした。
「ご、ごめんなさ‥‥ひぃぃ‥‥」
白珠がすぐに謝ったけれど、ギロリ、とキメラ顔負けの睨みで真白は白珠を睨み「後で覚えていなさい」と短く言葉を残し、再び戦線へと戻る。
「蛍!」
「分かってる」
瑞姫の言葉に雪代は首を縦にふり、それぞれ動きを合わせてスキルを使用し、キメラへと攻撃を行う。
その結果、二人の攻撃がキメラにトドメを刺す事になり、大きな怪我をした能力者もおらず、キメラ退治を見事に能力者達は成功させたのだった。
「鉄太! 本当に少しは成長してると思うぞ、俺は」
戦闘終了後、篠崎が鉄太に声をかけると「本当に?」と鉄太が嬉しそうに言葉を返したのだった。
―― それは誰の為に? ――
キメラ退治が終わった後「しーらーたーまぁぁぁぁぁぁ!」と叫びながら鬼の形相で真白が白珠の前に立つ。
「真白姉さま‥‥いひゃいいひゃいれす」
「これこれ真白。白珠も悪気があったわけでは‥‥」
白夜が苦笑しながらとめているのだが「‥‥それにしても伸びますねぇ」と横にみょーんと引っ張られた白珠の頬を見ながら笑う。
「ねぇ、てった」
「‥‥な、なに」
瑞姫が話しかけるとあからさまに怯える鉄太の姿を見て「もう、そんなにこわがんないでよ」と瑞姫はため息混じりに言葉を付け足す。
「なんでそんなにロマンチックにこだわるの? 大事なのって‥‥そんなことなのかな?」
「え?」
「ロマンチックってさぁ、形なんかないよ。人それぞれだと思うしさ」
瑞姫の言葉に「‥‥ひとそれぞれ」と鉄太が何かを考え込むように呟く。
「‥‥蛍は寂しいのを隠してるんだよ‥‥鉄太なら分かるんじゃない?」
蛍の欲しいもの、と言葉を付け足すと「蛍」と鉄太が雪代の手を引っ張って、能力者達から離れた場所へと連れて行く。
「ちょ、ちょっと何?」
雪代がちょっと驚きながら鉄太に言葉を投げかけると「おれ」と鉄太が言葉を返す。
「おれ、蛍が喜ぶことしてやりたくて、色んな人にロマンチックについて聞いたんだけど、全然わかんなかった。でも約束する。俺、もっと大きくなったら蛍をお嫁さんにする」
鉄太の言葉に「は?」と雪代は驚いて目を丸くする。
「それに蛍が喜ぶような事、沢山する。やくそく!」
小指を差し出しながら鉄太が満面の笑みで雪代に言葉を投げかけ「‥‥ありがとう、鉄太」と涙混じりの声で言葉を返したのだった。
ちなみに、こっそりと他の能力者達も見ていたのだが二人の微笑ましさに邪魔をする者は居なかった。
その後、帰りの高速艇の中で両頬に手を当てて「いたいー」と呟く白珠と、同じく両頬に手を当てて顔を赤くしている雪代の姿があったのだとか‥‥。
(ロマンチックか‥‥喜んでもらえるなら何か考えるべきなのかもしれんな‥‥)
雪代の様子を見て、赤い霧は大事な婚約者の事を考え「ふむ」と呟いていた。
END