●リプレイ本文
―― 仕事に生きる‥‥かもしれない悲しき男 ――
「誰かがしっとに燃える時! しっと団は現れる!」
くわっと険しい表情をしながら叫ぶのはしっと団総帥の白虎(
ga9191)だった。
「そういえば、すごい転がってましたけど何かあったんですか?」
ララ・フォン・ランケ(
gc4166)は先ほどまで本部内を転がりまわっていた男性能力者に言葉を投げかける。
「いや、別に何もないんだ‥‥そう、彼女がいないから、クリスマスにも何も用事がないんだ‥‥あああああ!」
再び叫びだした男性能力者は先ほどと同じように転がり始め「いい加減にして下さい。少し、いやかなりウザいです」とオペレーター訓練生の室生 舞(gz0140)から厳しいツッコミを入れられていた。
(クリスマス‥‥確か西洋の祝い事でしたね。里では中々機会がありませんでしたので興味深いものです)
八葉 白夜(
gc3296)は能力者達のやり取りを見ながら心の中で呟く。
「ねぇ、お兄ちゃんはクリスマス暇だよね? クリスマスパーティー参加できるよね?」
白夜の妹である八葉 白雪(
gb2228)が言葉を投げかける。恐らく彼女に悪意はない‥‥が、普通の男性に「クリスマス暇だよね?」という言葉はタブーである事を彼女は知らない。
「えぇ、その日は晩以外は特に用事はありませんから是非参加させていただきますよ」
にっこりと穏やかな笑みで白夜は白雪に言葉を返した。
「‥‥‥‥クリスマスに浮かれるのは‥‥イベントだから? ‥‥良く分かりません‥‥」
九条・葎(
gb9396)は首をかくりと傾げながら小さな声で呟く。
「クリスマスかー‥‥狙いは定めてんだけどなぁ‥‥」
ガル・ゼーガイア(
gc1478)がポツリと呟くと「ああああああ」と男性能力者が転がりながらガルに攻撃を仕掛けてくる(体当たりだけど)。
「い、いてぇ! 何すんだよ!」
「クリスマスに狙いを定めている奴なんかに用はない! むしろクリスマスごと燃えてしまえ!」
理不尽な言葉に「おおい! 俺に彼女がいるって言ったか!? 狙いを定めてるだけで彼女なんかいねぇんだよ! こんな事を語らすな! 馬鹿野郎!」と涙目で叫び、ある意味では哀れ度100%である。
「俺は、仕事に生きるんだよ! 仕事に生きて‥‥「仕事に生きる? ‥‥ふ、自分を偽るのはよせよ‥‥」」
男性能力者が語っていると何かを悟ったような表情で白虎が男性能力者の言葉を遮る。
「戦うんだよ! 現実(という名のリア充)と! 僕達と共に全世界に届けるのだ! 熱き魂の叫び声と‥‥クリスマス中止のお知らせを!」
拳を強く握り締めながら語る白虎はまさにしっと団総帥であった――が、自分の事は棚に上げているらしい。白虎自身も桃色なのに。
(‥‥明らかに自分のことは何処か宇宙の彼方に飛ばして話していますね)
張 天莉(
gc3344)は表情こそ笑顔だったが、心の中では冷めた声で白虎に「あんたが言うなー!」とツッコミを入れていた。
「‥‥この時期は‥‥キメラ以外も‥‥狂うんだね」
ミコト(
gc4601)はこれまでの出来事を見ながら小さな声でぼそっと呟く。
「そうですね‥‥いまいちボクには分からないですけど、狂った人が多そうです」
舞も首を縦に振りながら「あ、これ今回の資料です」とミコトに依頼の資料を渡した。
「ちょっと待つにゃ! そこのオペレーターさん! リア充はいねーがー!」
白虎は彼氏のいる舞になまはげっぽく言葉を投げかけると‥‥ふぅ、と舞は小さく息を吐く。
「リア充ですか? ここにはいないんじゃないでしょうか? 確かにボクには素敵な彼氏がいますがボクは24日も25日も果てはお正月までお仕事なんです。こんな状況でどうやってリア充を発揮しろと言うんですか? っていうかお話はボクも聞いてますし、もういっそのこと『しっと団』から『桃色団』という名前に変えてみたらどうでしょう?」
息を吐く暇もないほどに舞は喋り続け「それでは依頼を宜しくお願いします」と言葉を返して能力者達の前から去ったのだった。
「‥‥な、何か黒いオペレーターだな‥‥喋っている間、黒いオーラをすっげぇ感じたけど‥‥」
ガルが苦笑気味に呟き「相手がいるからってリア充になるわけじゃないんだな」と言葉をつけたし、能力者達は当初の目的であるキメラ退治へと出発したのだった。
―― 滅びた町の中心で女を叫ぶ男 ――
あれから能力者達はキメラが潜伏しているとされている廃墟へとやってきていた。
「‥‥あんまり‥‥大きな町じゃ‥‥ないですね‥‥これなら、キメラ捜索も‥‥スムーズに終わる‥‥かも?」
九条は町の中を見渡しながら小さな声で呟く。
「うん。人数も揃ってるし、今回の依頼は結構早く終わりそうか「依頼が終わったら、一緒にお茶でもどうだろうか」‥‥は?」
ミコトが資料を見ながら呟いていると男性能力者が言葉を投げかけてきた。どうやらミコトを女性と思って話しかけているようであり、ミコトにとっては不愉快極まりない言葉でもあった。
「‥‥人を見て、男か女か判別できない時点で異常だよね。異常な人間は死ぬべきだと思うんだけど‥‥どうかな?」
ミコトは剣を抜く事はしなかったけれど、不愉快な気分にされた仕返し――と言わんばかりに拳骨で男性能力者の鳩尾を殴る。
「ぐはぁっ!」
「‥‥っていうか、俺をナンパした時点で『仕事に生きる』ってのが嘘になってるんだけど‥‥その辺についてはどう考えているのかな?」
口調こそ静かだが、その表情からは怒りがひしひしと感じ取れる。
「まぁまぁ。き、きっと悪気はないと思うから‥‥多分」
ララが苦笑しながら怒るミコトを諌めると「悪気がなかったら余計にタチが悪いよ」とため息混じりに言葉を返した。
「うう、やはり俺には彼女という物とは無縁なのか‥‥いいんだ、今度こそ仕事に生きる傭兵になってやるんだから!」
男性能力者は再び拳を強く握り締めながら叫ぶ。今度こそ、と言っているがきっとまた先ほどのような事になりそうだと能力者達は表情を引きつらせながら心の中で呟いたのだった。
「三枚目ってツラいよな‥‥どうやったら二枚目みたいにモテるんだろうな‥‥」
男性能力者の肩に手をポンと置きながらガルが嘆くように呟くと「や、俺は二枚目だし。三枚目はキミだけ」と男性能力者から酷い言葉を返されてしまう。
「はぁ!? いやいやいやいや、さっきとか本部での行動見る限り、お前こそ三枚目じゃないかよ!」
「‥‥そう信じていればいいと思うよ」
「何かすっげぇムカつくんだけど! お前も彼女いねぇくせによ!」
(どっちもどっちだと思うんですけどねぇ)
張はにこにこと笑顔でガルと男性能力者のやり取りを見て心の中で呟く。恐らくほとんどの能力者達が張と同じ事を思っている事だろう。
「張さん張さん。彼の為にこれに着替えてくるのにゃ! 総帥命令にゃ!」
白虎はこっそりと張にナース服を渡そうとすると「‥‥この衣装にどんな意味があるんでしょうか‥‥」と張がにっこりと笑顔で言葉を返す。
「なに‥‥? もっと凄いのがいいのか‥‥仕方ないにゃあ‥‥後はスク水くらいしかない「マテ」」
白虎の言葉に張はツッコミを入れる。こんな寒空の中でスク水になると完璧に風邪を引く――いや、そういう問題ではなく何故着替える事が前提なのでしょうか‥‥などと張の頭の中では色々な言葉が浮かんでは消えていく。
「あら? もしかして‥‥あれがキメラさんかな?」
白雪が首を傾げながら前方を見ると大きな剣を持った明らかに不審な女性が立っていた。
「‥‥ちっ、着替えさせられなかったにゃ」
(助かった‥‥)
白虎と張はそれぞれ言葉を呟き、キメラに対してどうやって行動するかを話し合う――が「一番に行動してくれる人ってかっこいいと思うなー」とララが呟いた瞬間「うああああああ」と男性能力者がいきなり駆け出していった。
「ここまで予想通りだとつまらんにゃー」
そう、男性能力者をたきつけて囮にしよう――という作戦が男性能力者以外の中で行われており、男性能力者はその焚きつけに見事なほど引っかかって囮としての行動を始めたのだ。
「ああああああ! しかし美女じゃないか! どうしよう禁断のラブを俺たちで「正気に戻れにゃー!」」
男性能力者は極度の女性渇望症なのかキメラの女性にすら運命を感じてしまうらしい。そのままでは危険なので白虎がピコハンで男性能力者の頭を叩き、正気に戻そうとする。
「‥‥このままではちょっとあの人が危険そう? 早めに倒した方がいいかもしれない」
白雪が苦笑しながら呟くと「‥‥男と女の判別どころか、人間とキメラの判別も出来ないんだ‥‥」とミコトが哀れみを込めた視線で男性能力者を見た。
「はぁ〜い、お注射しましょうねー」
覚醒によってハイテンションとなった九条が男性能力者に向けてぶすっと超機械・シリンジで注射――という名のお仕置きをする。
「ぎゃああああ」
正気には戻ったけれど、ある意味で発狂しそうな男性能力者を後ろへと下げ、九条はスキルを使用して能力者達の武器を強化した。
「キメラに惚れそうになってんじゃねぇよ、見境なしか、この野郎!」
ガルはキメラに攻撃を仕掛けながら男性能力者に言葉を投げかけるが、彼は現在痛みでそれ所ではない。
「今日は私が先に仕掛けます。どうか宜しくお願いします」
白雪は真白へと変わり、白夜へと言葉を投げかける。
「えぇ、私が合わせます。好きにおやりなさい」
白夜は言葉を返す。
「八葉流参の型‥‥乱夏草」
「八葉流四の型‥‥乱夏草」
真白と白夜はそれぞれ連携して行動し、キメラに強烈な攻撃を繰り出した。
「この程度なら‥‥俺の出番じゃないね。もう少し骨があると良かったんだけどね」
二人に続き、ミコトが不敵に微笑みながら攻撃を繰り出す。
「防御力低下、いっきま〜す!」
九条が頃合を見て、スキルを使用してキメラの防御力を低下させる。
「シングルベルは全然役にたたないし、一体何しにきたんだよ、アイツは!」
ガルは痛みに悶えている男性能力者を見ながらため息を吐き、キメラへと攻撃を行った。
「う〜ん、もしかして私が言った一言のせいかなー?」
ララは苦笑して「あとでからかってた事を謝ろう」と言葉をつけたし、愛用のグローブでキメラを殴り飛ばす。
「せぇーの! これで倒れるにゃー!」
白虎がガラティーンでキメラに攻撃を行い、その後に続いたミコトによってキメラは無事に退治されたのだった。
「にゅ、張さん大丈夫かにゃー?」
戦闘が終わった後、白虎が張に言葉を投げかける。張は戦闘の間ずっとストライクフェアリーの九条をキメラの攻撃から庇っていたため、他の能力者より僅かに傷が多い。
「大丈夫ですよ。そんなに強くない攻撃ばかりでしたし」
張が言葉を返すと「‥‥ありがとう‥‥」と九条がお礼を言ったのだった。
―― 男性のしっと団入り? ――
「お兄様‥‥あの、そのクリスマスイブの晩のことですが‥‥」
「もちろん覚えていますよ。だから最初に『晩以外は』と言ったでしょう? お前との対局は久しぶりですからね。楽しみですよ」
真白は白夜の言葉に安心したように「ありがとうございます」と言葉を返した。
「そういえばシングルベル! お前、しっと団に入れよ! もしかしたら彼女が出来るかもしれないぜ?」
ガルが勧誘ちらしを渡しながら男性能力者に言葉を投げかける。
「お、俺は別に彼女が欲しいわけじゃない! だから別にしっと団になんて入りたくもない!」
「‥‥しっかり入団申し込みしてんじゃねぇか」
ガルの言葉に反論しながらも手は言葉とは裏腹に名前と住所、電話番号まで書いて「こんなものは返す!」と突っ返す。
「にゅ。白夜さんとミコトさんももっていきますか?」
白虎がミコトと白夜に『しっと団』の勧誘チラシを渡す。
「え、俺は別に‥‥」
「わ、私も‥‥」
「お兄ちゃん。あの人も彼女いないらしいし、お兄ちゃんと気が合うんじゃない?」
明らかに空気を読んでいない白雪の発言に「そうですか‥‥」と白夜は考え込むような仕草をした後‥‥。
「貴方も随分と家族を大切にしているようですね。愛する方と祝うのも良いですが、家族との団欒も掛替えのないものですからね」
にっこりと純真な笑みで言われ(いや、祝う為の『愛する方』がいないのにゃよ)と白虎は心の中で密かなツッコミを入れていた。
「そういえば‥‥しっと団で思い出しましたが。恋に生きない奴と一緒に仕事をするのと、恋に生きる奴を妬む‥‥もとい、粛清するお仕事とどっちがいいですか? 今年から年明けにかけて暴れる機会が目白押しですよ」
張の言葉に「粛清か‥‥この気持ちを他人にぶつけろという事だな」と男性能力者は納得したように頷く。
「ちなみにこの小さな子がしっと団の総帥ですが、恋に生きながらもちゃんとこなしてますよ」
「――――は?」
張の言葉で男性能力者が凍りつく。
「にゅあああ、何を言うのにゃー!」
「‥‥つまり、しっと団というのは総帥は恋に生きているにも関わらず、他人の幸せを妬む集団という事なんだな?」
「ち、違うのにゃ!」
「何か‥‥すごい団体なんだね」
ミコトもやや引きつりながら白虎に言葉を返す。
「違うったら違うのにゃー!」
「違わないよ! 総帥は恋に生きるんだから! ‥‥ぷっ」
ララが力説しながら答えるが、最後の『ぷっ』という辺りが面白さ半分で言っている事を証明していた。
「‥‥随分‥‥賑やかですね‥‥これも‥‥クリスマスが近いから、でしょうか‥‥」
やや見当違いのことを呟きながら「まぁ‥‥楽しければいいのかな‥‥」と言葉をつけたし、止める事はしなかった。
この後、能力者達は報告の為に本部に帰還したのだが――‥‥。
高速艇の中、そして本部の中でうるさかったのは言うまでもなかったりする。
END