タイトル:娘を返しなさい!マスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/12 23:24

●オープニング本文


私の娘を拉致するなんて‥‥。

娘の友達だと思ってたのに、酷い悪人だったなんて!!

キリーの心を弄んだ罪は重いわよ!!

※※※

「放しなさい! キリーを助けに行かなくちゃいけないのよ!」

某兵舎に連れ去られたキルメリア・シュプール(gz0278)の母親、リリシアは激しく怒っていた。

ちなみにキリーは連れ去られたのではなく、能力者達に『連れさらわせた』のだという事をリリシアだけが気づいていなかったりする。

「お、おい‥‥落ち着こうよ。この手紙を見て、どう解釈したら誘拐になるんだよ」

「だって書いてあるじゃない! お前の娘は預かった! ふははははは! って!」

「どこをどう曲解したらそうなるんだよ! キリーちゃんが頼んで出て行ったんだって!」

大剣を振り回しながら、自宅で暴れるリリシアを抑えるのはリリシアの友人でもある数名の能力者達。

「いいえ、今頃キリーは酷い目にあわされて泣いてるわ‥‥あぁ、可哀想なキリー!」

(むしろ連れてった奴が泣かされてる方だと思うんだけどなぁ‥‥)

リリシアの友人能力者(男性)は心の中で呟くが、おそらくリリシアは聞く耳持たずなのであえて口にする事はなかった。

「あぁ‥‥もしかしたら、あんな写真やこんな写真を撮られていたりするんじゃ‥‥キリーがお嫁にいけなくなるわ!!!」

(あぁ、せっかく丸くなってきたと思ったのに、昔のハチャメチャに戻ってるよ‥‥一緒に行く俺たちも大丈夫かな‥‥)

※※※

「お茶」

「は、はい!」

「お菓子」

「は、はい!」

「何コレ、こんなお菓子を私が食べるとでも思ってんの? 最高級カカオを使ったチョコケーキが食べたいのになんでセンベイなのよ。馬鹿じゃないの?」

現在キリーがいる場所ではキリーの横柄な態度に色々な能力者たちが耐えていた。

(い、いつまでいるんだろう‥‥)

センベイを食べるキリーを見ながら(早く帰ってほしいような、そうでないような‥‥)という気持ちに葛藤している人物が数名存在していた。

これは、リリシアが襲撃してくる1時間前の話――‥‥。


●参加者一覧

/ UNKNOWN(ga4276) / 土方伊織(ga4771) / 百地・悠季(ga8270) / 龍深城・我斬(ga8283) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 白虎(ga9191) / 水無瀬みなせ(ga9882) / 佐倉・拓人(ga9970) / 仮染 勇輝(gb1239) / 佐渡川 歩(gb4026) / ソフィリア・エクセル(gb4220) / 神咲 刹那(gb5472) / 諌山美雲(gb5758) / ソーニャ(gb5824) / 綾河 零音(gb9784) / ソウマ(gc0505) / 御闇(gc0840) / ガル・ゼーガイア(gc1478) / 南 十星(gc1722) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / 張 天莉(gc3344) / 市川良一(gc3644) / 和泉 恭也(gc3978) / 南 星華(gc4044) / 馬刺し(gc5632

●リプレイ本文

―― 静かに、そして騒がしく終わりを告げる平穏 ――

 全ての始まりが一体なんだったのか‥‥能力者たちは思い出す事――は出来るけれど、キルメリア・シュプール(gz0278)の母親が襲撃に来る事など誰が予想できただろう?
 まさに『この親にしてこの娘あり』という言葉がぴったりな親子なのだという事を、数時間後の能力者達は身を持って知る事になる。

「今日も世は事もなし、バグアが蔓延っている現状は置いといて、まぁ平和か」
 龍深城・我斬(ga8283)は兵舎・しっと団の入り口を掃除しながら空を見上げる。
「おお、今日は綺麗な青空だな‥‥何か良いことがあるといいが――おや?」
 そこへ兵舎の方に向かって百地・悠季(ga8270)が荷物を持ってやってくる姿が視界に入った。
「どうしたんだ?」
「突然キリーから呼び出されてね‥‥、最高級カカオを使ったチョコケーキが欲しいって」
 苦笑しながら百地が言葉を返すと「またか」と龍深城は言葉を返す。
 さきほどもキリーのワガママによって呼び出された人物がいた為、龍深城はたいして驚く事はなかった。
 ケーキが食べたい気分にセンベイを出され、不機嫌MAXになってしまったキリーの為にユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が現在調理室でお菓子を作っている最中だったりする。
 ちなみにユーリは栗かぼちゃのパウンドケーキを作っていたのだが「私はチョコが食べたいのよ!」というキリーのワガママによって、チョコケーキを作り直している所だったりする。
 そして‥‥現在キリーの部屋(元は総帥室)では尊大な態度で優雅に紅茶を飲んでいるキリーの姿がある。
「ぬるいわよ! もっと熱い紅茶を持ってきなさい!」
 カップごと佐渡川 歩(gb4026)に投げつけながらキリーのワガママが始まる。
「キルメリアさん‥‥可憐な姿とストレートな言動‥‥素敵な人だ‥‥」
 ぽっ、と頬を赤く染めながら佐渡川が呟く。ちなみに彼はいつもの如く運命を感じただけであったりする。
 キリーが来てからは普通の毎日となってしまった現状。
 それを崩す存在がしっと団に来訪する――‥‥。
「キリー! 何処にいるの! お母さんが助けに来たわ!」
 ばき、と扉を壊し、玄関を掃除していた龍深城を吹っ飛ばしながらやってきたのは、キリーの母親でもあるリリシア・シュプールだった。
「ちょっと! そこで倒れてるあなた! 娘はどこ! 娘を返しなさい! 返さないと酷いわよ!」
 龍深城の胸倉を掴み、がくがくと揺らしながらリリシアが問いかける。既に酷い状態になっていると思うのは、きっと龍深城の気のせいではないだろう。
「あの」
 そこへ運悪くやってきてしまったのは佐倉・拓人(ga9970)だった。彼は今回の騒動に全く関係のない人物であり、今日もしっと団総帥である白虎(ga9191)に交渉にやってきただけなのだ。
「うるさいわ!」
 ばき、と佐倉は殴られた理由すらも分からずにしっと団の玄関前に倒れてしまう。
(な、なんでこんな事に‥‥?)
 佐倉はお菓子屋さんとしてクリスマスやバレンタイン、つまり桃色イベント推奨派であり、非推奨派であるしっと団と協定を結べないかと考えてやってきただけなのだ。
 そう、それなのに交渉に来てすぐに佐倉は殴られてしまったのだ。桃色イベントに全く関係のないリリシアによって。
「あら、キリーさんの久しぶ――って‥‥」
「い、いったいどういう事なのか俺には全く分からないんだが‥‥」
「ここの人たちが娘のキリーを拉致したのよ! おまけにあんな事やこんな事までされて‥‥キリーが凄く可哀想じゃない!」
「な、なんだってー! ‥‥総帥、いくらキリーちゃんが可愛いからって拉致監禁の上にあんな事やこんな事まで! 最近ただでさえリア充化してるのに、この所業‥‥許すわけには行かんな♪」
 龍深城は今回の経緯を知っているのだが放っておいた方が面白そうだ、という事で放っておく事にしたようだ。
 その証拠に最後らへんの言葉は笑いを堪えながら言っているのだから。
「‥‥あぁー、行っちゃった。せっかく挨拶しておこうと思ったんだけどな‥‥」
 一部始終を見ていた神咲 刹那(gb5472)は挙げかけた手を下ろした後、懐からデジタルビデオを取り出し「行くぞ、ランサー! 決定的瞬間を撮るんだ」と愛犬に向かって呟き、しっと団の中へと入っていったのだった。

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
 和泉 恭也(gc3978)はしっと団に入ってきたリリシアと彼女の友人である能力者達に言葉を投げかける。
 ちなみにリリシアと一緒にやってきた能力者達は申し訳なさそうにリリシアの壊した扉を直そうとしていた。
「キリーは何処なの!」
「キリーさん?」
 和泉は暫く考えた後、天使の微笑みを浮かべて「あちらから入れますよ」と秘密の入り口を指差しながら言葉を返した。
「今日は色々な能力者達が来ていますからね。皆様、歴戦の傭兵ですから気をつけてください。先手を取れないとつらいかもしれませんよ?」
 和泉の言葉に「ありがとう、キリィィ!」とリリシアは叫びながら大剣を振り回してしっと団の中を暴れまわる。
「‥‥あの、請求はここにしていいから」
 一緒にやってきた能力者達は請求書を和泉に託し「とりあえず、死なないようにな」と言葉を残してリリシアの後を追っていったのだった。
「おあっ! な、なんだ!?」
 綾河 零音(gb9784)は猪の如く突撃してくるリリシアに驚いて思わず身構える。
「キリーは何処、何処なの!」
 キリーと言う言葉を連呼している所から(あぁ、なるほど)と綾河は納得したように心の中で呟く。
(総帥がキリー嬢を連れてきた時から薄々こうなるんじゃないかと思ってたけどね? でもここで動かないでしっ闘士を名乗る資格はないと思うんだぜー)
 にやり、と綾河は黒い笑顔を浮かべた後で「私も手伝う!」とリリシア側の陣営に乗っかる事にした――と見せかけて、実際は白虎陣営に属するつもりの彼女だったりする。
「喰らえ‥‥! 必殺☆レモン目薬!」
「ぎゃああああ‥‥」
 綾河がレモン汁を水鉄砲で能力者の顔面へとお見舞いするのだが、それを受けた人物は「た、助けてー‥‥」と助けを求めに来ていた佐倉だったりする。
 もはや踏んだり蹴ったりの至れり尽くせりで彼にとっては何が何やら、何を信じていいのかすら分からない状況だろう。
「はわわ‥‥き、来てしまったのですよー‥‥! キリーさんがここに来て2ヶ月ちょっと‥‥どれだけ苦労したことか‥‥八つ当たりもイヤですぅー」
 土方伊織(ga4771)はこの2ヶ月と少しの事を思い出し、思わず瞳に涙を浮かべる。わんこと蔑まれる日々、八つ当たりで作った怪我の数はもはや数えるのも面倒になるほど。
(うぅ、僕‥‥今ならサスケさんと本当の意味で親友になれる気がするのですよー)
 心の中で呟く土方だったが、今はきっと平和な毎日を送っているであろうシュプール邸を思うとやはり少しだけイラッとした気持ちになってしまう。
 その頃のキリー部屋(元は総帥室)はと言うと‥‥。
「バッカじゃないの。何女の子相手に格闘ゲームで本気になってるわけ? 男の風上にもおけない外道ね」
 キリーの相手をしていたガル・ゼーガイア(gc1478)はキリーの鉄拳を顔面に受けていた。
「うぅ‥‥」
 ガルは顔を押さえながら、一人でゲームを続けるキリーを見て小さくため息を吐く。
(最近もやしを見ると胸が痛くなるんだよな‥‥凶器で刺された事はねぇハズなんだけど。もやしの傍にいたいって気持ちがあるから恋なのかもしれねぇ‥‥うぅ、何だか守ってやりたいって気持ちでいっぱいだぜ‥‥)
 ガルは再び小さくため息を吐く。
「そ、そうだ。そういえばさっきフォンダンショコラ作ったんだ。もやし食わね(バキッ)ゲフォ‥‥」
「そういうのがあるんならゲームをする前に言いなさいよ、このヘタレクズ!」
 コントローラーを投げつけながらキリーはおやつの時間と言わんばかりにフォンダンショコラを食べ始める。
「やっほー‥‥、って何か美味しそうな匂いしてるじゃん!」
 春夏秋冬 立花(gc3009)はキリーの部屋(元は総帥室)へとやってきて「お喋りでもしよーよ」と入ってきた。
「粗末な味のフォンダンショコラだけど食べるがいいわよ」
 作ったガル本人を前にして粗末な味と言う辺りがキリーらしいといえばキリーらしいのだろう。
「ありがと。そういえば私、みんなにないむねないむねって言われてさー。酷いと思わない?」
「思わないわよ。だって本当にないじゃない。ないむねに対してあるむねって言った方が何倍も失礼でしょう。だからあんたはないむねって言われても落ち込む必要がないのよ。
 本当にないんだから」
 べらべらと捲くし立てて、春夏秋冬が「な、なにおぅ!」と言いかけた時に「キリーさん!」と仮染 勇輝(gb1239)が部屋の中に入ってくる。
「レディの部屋に入る時はノックくらいしなさいよね、ヘタレ!」
 もみあげ人形のモミーを仮染に投げつけながらキリーは「用件を言いなさい」とまるで女王様の如く言葉を返す。
「え、えぇと。実はキリーさんのお母さんが来ている‥‥というか、暴れているというか」
「「暴れる?!」」
 春夏秋冬とガルが言葉を合わせて驚く中「あー‥‥」とキリーだけは心当たりがあるのか苦笑して言葉を濁している。
「今だから言うんだけど、私の性格って‥‥お母さん譲りなのよね」
「「「!?」」」
 キリーの爆弾発言に3人は目を丸くして驚くばかりだった。

「にゅああああ‥‥わ、我が兵舎が‥‥!」
 白虎は監視カメラを見ながら次々に破壊される自分の居城を見て嘆き始める。
「っていうか、明らかに面白がったしっ闘士も混じってるにゃああああ‥‥」
 白虎はふるふると怒りに体を震わせ、マイクをがばっと取る。
「もやしお姉ちゃんのお母さん! 覚えていますか! 一年半前に送ったメールの事を! もやしお姉ちゃんはあれからも相変わらずです! その間、娘の素行にも気づかず! かと思えばいきなりすっ飛ばして軟禁して、もやしお姉ちゃんとマトモに向きぷぎゃ!」
 館内放送で白虎の可愛らしい、そして恥ずかしい「ぷぎゃ」という言葉が流れ、至る所からくすくすと笑い声が漏れている。
「馬鹿虎。館内放送で人の悪口を言うなんていい度胸してるじゃないの」
 近くにあった灰皿を何個も投げつけながら「いいたい事は本人に言いなさいよ、ねぇ? 分かってんの?」と白虎を蹴りつける。
「レッツ・放送!」
 ソーニャ(gb5824)がニヤリと笑いながらキリーと白虎が言い争いをしている間に予め録音していたものを流し始めてしまう。

『ママ、早く助けに来て。じゃないとあんな写真やこんな写真を撮られちゃう』

 ソーニャが自分で言った言葉を自分で録音したものだが、はっきり言ってカオス状況になっている今のタイミングで流してしまえば――もう、カオスの神が降臨するしかないだろう。
「にゃあああああああああ!」
 カメラを見れば、先ほど以上に暴れまわるリリシアの姿があり「今の状態だと話し合いにもなりませんねぇ‥‥」と張 天莉(gc3344)が苦笑気味にカメラを覗き込む。
「遊びに来たのですけど‥‥タイミングが悪かったみたいですね」
 でも総帥のサポートくらいはしましょうか、と張は言葉を付け足す。
「‥‥さて、始めるか」
 にやり、と不敵な笑みを浮かべながら市川良一(gc3644)がちらりと白虎を見る。
 ちなみに市川は既に罠をいたる所に仕掛けていたりする。嘘の写真などを貼っていたり、その他にもリリシアが激昂しそうな事を仕掛けていたり、と。
 もちろん、その事実に白虎が気づくはずもない。

「おや?」
 UNKNOWN(ga4276)は暴れまわるリリシアを見て「どうかしたのか?」と問いかける。
 すると娘をさらわれた、お嫁にいけなくなる写真を撮られた、などと予想を決定にしてさめざめと泣きながらUNKNOWNに言葉を返す。
「私はキリーの身が心配で心配で‥‥」
「確かに、そうだ。そうだ、気をつけたまえ‥‥ストックホルム症候群、というものがある。娘さんは危うい心理状況にあるのかもしれん」
 UNKNOWNはリリシアに言葉を投げかけながら(面白い事態になりそうだ。収束させるような事は防がねば‥‥)と事態悪化を願っているのか、不敵に笑む。
「ふははははは、娘を放してほしければ武器を捨てなさい!」
 まるで悪役のような台詞を吐きながら、水無瀬みなせ(ga9882)がリリシアに言葉を投げかける。
「アナタがキリーをさらった人ね! キリーにあんな事をして‥‥許さない!」
 もはやリリシアの中では『されたかもしれない』が『されてしまった』と決定されてしまっているのだろう。
 もちろん、しっと団の皆は自分達の知らない所で、リリシアの中で罪状が大きくなっている事に気がつかない。
「あらら‥‥だからあれほど反省文を書いておきなさいと言いましたのに‥‥、それにしてもリリシアさん、メールを送ったのに見ていなかったのかしら?」
 ソフィリア・エクセル(gb4220)が携帯の送信履歴をガン見しながら呟くのだが「‥‥メール未送信、届いていませんでした」かと、がくりと肩を落とした。
「さて、少しだけ追加してキリーさんにメールを送っておきましょうか」
 ソフィリアはメールを送り、携帯を閉じた後に「ソフィリアは目撃者ではありますが誘拐犯ではありませんわよ〜」と言葉を残して、自分の身の安全を図る為、こっそりとその場を離れたのだった。
「‥‥い、一体これは‥‥」
 ソウマ(gc0505)は鬼のような形相でしっと団へ赴くリリシアの姿を見つけ、ただ事ではない何かが起きているのか、とついてきたのだが‥‥。
 ある意味では確かにただ事ではない何かが起きていた。
「あ、あの‥‥一体、何が?」
 リリシアと一緒にいた能力者にソウマが問いかけると、今回の事を説明する。
(この親にしてあの娘あり、ですか)
 ソウマは苦笑しながら「なんとも人騒がせな親子ですね」と鼻を鳴らしながら言葉を付け足したのだった。
「あぁ、もう! 全然キリーが見つからないわ! 何て無駄に広い場所なの!」
 リリシアの我慢も爆発寸前なのか、やや苛々とした口調で叫ぶ。
「まずは、リリシアさんに話すより、キリーさんを見つけた方が良さそうですね」
 御闇(gc0840)は小さく呟くと、潤滑油を持ってキリーを探し始める。
「‥‥せっかく要望のチョコケーキが出来たと知らせようと思ったんですけどね」
 南 十星(gc1722)は苦笑しながら、ある意味戦場と化している兵舎を見渡しながら呟く。
「私としては、キリーの好きなようにしてあげたいのですが‥‥」
 十星はため息混じりに呟く。キリーが帰りたくないというならば、ここに居させてあげたいし、帰りたいというならば母親と一緒に帰らせたい――あくまでキリーの考えを優先してあげたい、と十星は思っていた。
「あら、キリーちゃんは見つからないの?」
 十星の姉でもある南 星華(gc4044)が十星に声をかけると「あ、うん。この騒ぎだから‥‥」と十星は苦笑しながら言葉を返した。
「それにしても、猪突猛進なお母さんね。キリーちゃんのお母さんは」
 星華は「でも、やりすぎるようなら少し諌めた方がいいわね」と呟き、十星の前から姿を消した。
「何か、騒ぎが起きてると思って来てみれば‥‥一体この状況は何なんだ? まるで誰かが襲撃にでも来ているかのようじゃないか」
 馬刺し(gc5632)はまるで戦場にでもいるかのような錯覚を起こしながら周りを見渡す。
「とりあえず‥‥安全な場所にいた方が、いいのか?」
 誰に問うでもなく馬刺しは呟き、巻き込まれないように静かな場所を探し始めたのだった。
「‥‥うーん、この騒ぎじゃ起きちゃうかな? せっかく寝たばかりなんだけど‥‥」
 諌山美雲(gb5758)は眠ったばかりの我が子を見ながらため息混じりに呟く。
(これ以上騒ぎが酷くなってもいけないし‥‥)
 諌山は心の中で呟くと、スキルを使用してリリシアに自分の居場所を教える。
「さて、いつくらいに来るかな? 紅茶でも用意して待ってよう」
 諌山は独り言のように呟き、来るであろうリリシアの分の紅茶も淹れ始めたのだった。

「テラスは何処!?」
「ぎゃああっ!」
 リリシアは諌山から告げられた場所を探し、一人爆走していた。その途中でガルと出会い、いきなり平手打ちをした後にテラスの場所を聞きだそうとガルの胸倉を掴みながら激しく問いかける。
「し、知ら「うそおっしゃい! 早くキリーを連れて帰るんだから早く言いなさい! 知らないなら探してきなさいよ!」ふぐっ‥‥」
 リリシアはガルの鳩尾を殴りながら言葉を続けたが、キリーと言う言葉を聞いて「何する気だ! もやしは俺が守「うるさいわよ!」はぐっ‥‥」と『もやしは俺が守る』というカッコイイ台詞もリリシアの攻撃によって遮られてしまった。
「はわわ‥‥と、とんでもないものを見てしまったですぅ‥‥。ま、まるでまおー様が成長しただけのような人がいます‥‥」
 それを偶然にも目撃してしまい、土方はガルの助けに入ろうかと思ったが(で、でもここで助けたら僕はどうなるのです?)と助けた後の自分の事を考え始める。

〜助けた後に起きるであろう出来事〜
「そ、その手を放すのですぅ!」
「何よ、あんたは!」
 ばちーん(叩かれた音)
「い、痛いです‥‥」
 ばちーん(叩かれた音)
「な、何で叩かれるですかー」
「うるさいわよ!」
 ばちーん(叩かれた音)
〜予想終了〜

「‥‥‥‥ぼ、僕は何も見てないのですぅ」
 くるりと背中を向け、自分に起きるであろう出来事を考えたら大人しくガルに犠牲になってもらおうという結論に土方は達していた。
(す、少なくとも三回は確実に叩かれるのですぅ‥‥。可哀想だと思うですけど、助けたら確実に僕の方が可哀想になるのですー)
 さようなら、土方は心の中で呟きながらリリシアに叩かれるガルの姿を見なかった事にして巻き添えを食わないようにと足音を忍ばせながら離れようとしたのだが‥‥。
「おや? そこにいるのは‥‥キリーちゃんのわんこじゃないか」
(な、なんて事言うですー! あなたは鬼ですかー! これで僕も巻き添え決定なのですー!)
 龍深城に向かって土方は(心の中で)ありとあらゆる言葉で罵るのだが、悲しい事に口から出ていない言葉が龍深城に伝わるはずもなかった。
「にゅあああああ! もやしお姉ちゃんはどこにゃー!」
 そこへ更なるカオスに状況を陥れる為(偶然だが)現れたのは白虎だった。
「あなたが私のキリーを唆し、誑かし、挙句にあんな写真やこんな写真まで‥‥!」
「ち、違うにゃ! 何で話がそんなに飛躍してるにゃ!」
「何を言うか! リリシアさんの言葉に間違いがあるはずないだろう!」
 龍深城は笑いを堪えながら慌てる白虎を見る。
「そ、そうなのです。ほとんどの責任は白虎さんの変な欲望とキリーさんのせい‥‥じゃなくて白虎さんがひゃくぱーせんと悪いのですぅ!」
 ここでキリーの悪口を言ってしまえば問答無用で敵認定されそうな気がして土方は新たなる犠牲者として白虎のせいにしてしまった。
「にゅおおおお‥‥」
「違うぞ! もやしは俺の恋人だ!」
 ここでガル君によるガル君の為のカオス状況勃発。
「‥‥何か外が騒がしいわね」
「うん。でもとりあえずここに被害がなければいいんじゃないか? ここで下手に出て行けば俺たちも巻き添え食う&敵とみなされそうだし」
「そうね。まずはキリーのおやつを作ってあげないとね」
 厨房の中では百地とユーリがのほほんとしながらキリーのおやつ作りを再開し始めた。
「ところでもやしは何処だ?」
 ガルが呟いた時「お母さん! 助けて!」とわざとらしい悲鳴をあげながらやってくるキリーの姿があった。
 その後ろにはタイミングが良いのか悪いのかソウマがおり、リリシアの中ではソウマに追いかけられている! という方程式が成り立ってしまった。
「キリー! 何があろうとあなたは私が守ってみせるくわあ!」
 キリーの所に行く間際、ソウマのキョウ運が発動したのかしてないのか分からないがリリシアは落とし穴に落ちていってしまい「ひゅううぅぅぅ」という効果音と共に能力者達&キリーの前から姿を消した。
「お、お母さん!? ちょっと何てもん作ってんのよ!」
(い、一体いつのまに落とし穴なんて出来たのにゃ‥‥おかしい、我が兵舎なのに、自分で自分の兵舎が分からにゃい‥‥)
「‥‥大丈夫かしら、キリーちゃんのお母さん。ちょっと私が様子を見てくるわね」
 騒ぎを聞きつけてやってきた星華は苦笑しながら自ら落とし穴の中へと落ちていく。
「さて、僕もお茶の用意をしなくちゃいけませんね。今日はお客様もいっぱいですし‥‥おやつが出来た頃にキリーも来たらどうです?」
「後で行くわよ、すぐに飲み食いできるように準備してなさいよね。ヘタレ」
「とりあえず、ここから離れた方がいいんじゃないかな? リリシアさんがきたらさっきの落とし穴の件で半殺しにされそうだし。いや、もしかしたら全殺しかも?」
 最初のカオス状況を作り出したソーニャが笑いながら能力者達に言葉を投げかける。
「俺もリリシアさんの様子を見に行ってくるよ。この分なら地下の方から出てくるのかな。
 キリーさん、じゃあね」
 仮染は言葉を残してキリーの、そして能力者達の前から姿を消そうとするが――‥‥。
「‥‥キリーさん?」
 キリーが仮染の服の裾を引っ張り、仮染はそれ以上進めなくなっていた。
「‥‥‥‥ちゃんと帰ってくるでしょうね。大事な下僕に怪我をさせたら、私でもお母さんを許せなくなるからね」
 キリーの言葉に仮染はきょとんとした表情を見せ、笑ってその場を後にした。
 だけど、この時誰も気がつかなかった。仮染自身が「心配ないよ」という言葉を言わなかった事に。

「‥‥どこに行っちゃったのかしら?」
 一方、落とし穴に自ら落ちた星華はリリシアを探して歩いていたけれど、それらしき人物を見つけ出す事は出来なかった。
「でも怪我しているような感じはしないのよね。血とか見つからないし。この分なら心配は要らなさそうね」
 そのころ地下から出た後、リリシアの前に仮染が立っていた。
「あら、あなたは‥‥」
「手紙は読んでいただけましたか? 連れて帰るのは構いませんが、キリーさんにこれからどう接するつもりですか?」
 リリシアの言葉に答えず、仮染は言葉を投げかけた。
「勿論ちゃんと愛情を持って接するわ! だって私のたった一人の可愛い子供なんですもの」
「だったらこの騒ぎは何ですか? こんな騒ぎを起こした後で言われても説得力はありません」
 雲隠の切っ先をリリシアに向けながら仮染が言葉を投げかけた。
「‥‥キリーのお友達に怪我をさせたくないわ‥‥でも邪魔をするなら、遠慮はしないわよ」
 リリシアも愛用の大剣を構え、仮染へと攻撃を仕掛ける。

「さてさて、こんな滅茶苦茶な状況じゃ誰が何処にいるのかすら判りませんねぇ」
 水無瀬が苦笑しながら戦場と化した兵舎内を見渡す。
「あら。これは‥‥」
 水無瀬が発見したのは至る所に貼り付けられている写真の数々。白虎が誰かに抱きしめられていたり、諌山の子を抱いている所など――リリシアが見たら別方面での勘違いを起こしそうな写真の数々。
「‥‥せっかく貼ってあるんだし、剥がすのはもったいないですね」
 水無瀬は見なかった事にして「それにしても何処にいるのかしら」と他の能力者達を再び探し始めた。
「よ、よし‥‥うさぎさんの可愛い日記帳を持ってきていて良かった‥‥。こ、これでキリーさんと交換日記からのお付き合いを‥‥そして、ふふ、あはははは‥‥」
 色んな事を妄想しているのであろう、妄想戦士の佐渡川は可愛いうさぎの描かれた日記帳を持ちながらキリーを探していた。
「‥‥な、なんですの‥‥。明らかに周りにピンクのお花を浮かべた人が通り過ぎましたけど‥‥」
 あはははは、と満面の笑みを浮かべながら歩く佐渡川の姿を発見したソフィリアだったが、あまりの怪しさに声をかける事も躊躇う程だった。
「ランサー、そこ踏んじゃ駄目だよ。多分何か落ちてくるから」
 神咲は兵舎内を歩きながら愛犬に言葉を投げかける。
(それにしても‥‥怪獣映画のテーマとか流すと似合いそうな惨状だねぇ‥‥)
 苦笑しながら神咲は兵舎内を見渡して呟く。一体何があればこんな状況になるのだろうか、と問いたくなるほどだった。
「さすがはキリーのお母さんって所かな」
 成長したらキリーもあんな風になるのかな、と言葉を付け足しながらビデオを回しつつ神咲は愛犬と共に再び歩き始めたのだった。

「遅いなぁ‥‥」
 もう何杯目になるか分からない紅茶を飲みながら諌山は、まだテラスでリリシアを待っていた。
「‥‥ここがテラスね」
 そこへ来訪者が来て、諌山が振り返ると大剣を抱えたリリシアの姿があった。
「あ、紅茶でいいですか?」
「‥‥えぇ」
「?」
 何故か顔色の優れないリリシアを不思議に思いながら、諌山は紅茶の準備を始める。
「赤ちゃん?」
「‥‥可愛いですよね。ふふ、今でこそああいう性格ですが、キリーさんもこういう時があったんですよね」
 自分の子供を見ながら諌山が呟く。
「リリシアさん、今のキリーさんとしっかり向き合った事がありますか? きっと、キリーさんがああいう風になっちゃったのは何かキッカケがあると思うんですよ」
 心当たりはないですか、と諌山がリリシアに問いかけると彼女はゆっくりと首を横に振る。
「‥‥私の前では聞き分けが良くて、大人しい良い子だったから」
「キリーさんは破天荒な所もありますが、根は優しい子ですよ? これは、同じ母親としてのお願いですが‥‥一度冷静になってキリーさんと話し合いをしてみて下さい」
 諌山の言葉に「‥‥分かったわ、もう一度話し合ってみる」とリリシアは言葉を返し、テラスから出て行こうとする。
「あ、待ってください。ケーキの良い香りがしてきてるので、きっとどこかでお茶をする頃だと思いますよ」
 ありがとう、とリリシアは言葉を返した。

「にゅう、動き回ったらお腹が‥‥」
 ぐぅ、と鳴るお腹をさすりながら白虎が呟く。
「総帥! くらえ!」
 突然現れた綾河がレモン汁入りの水鉄砲を白虎に向けて発射する。
「にゅああああ! な、何するのにゃああ!」
「ノリだ」
 さらりと悪びれた様子もなく答える綾河に「何で僕の周りには理不尽な女しかいにゃいのにゃあああ」と己の女運のなさを嘆き始める。
「はっ、噂のしっと団も大した事ねぇな! 俺の足元にもおよびやしねぇ!」
 綾河は突然どこかの敵隊長のような口ぶりで話し始める。
「何突然俺様になってるのよ、ヘタレツンデレレモン女」
 ばしーんとキリーは遠慮なく綾河の背中を強く叩く。
「大体、俺様な性格の私の前で俺様になるってどういうこと? 私を馬鹿にしてるの?」
「ちょ、待て、おま、わ、ぎゃああああ‥‥!」
 キリーは「待て」と叫ぶ綾河の言葉など右から左へ聞き流してガスガスと脛を蹴りつける。
「何かおかしいだろ! っていうか何で誰も止めないんだよ!」
 自分が殴られているというのに、周りで我関せずの方針を貫く能力者達に綾河が不満をぶちまけると‥‥。

「え、関わって自分が殴られたくないし」

 ‥‥と見事に皆の意見が一致しており、綾河は少しだけ涙目になったのだとか。
「キリーさん、そういえばお母様とちゃんと話し合った方がいいんじゃないでしょうか?」
 御闇がキリーに言葉を投げかけると「そうね。無理矢理連れてこられた事をちゃんと説明しなくちゃね」と言葉を返した。明らかに状況悪化を狙っていそうな悪い顔のキリーを見て(母娘して暴走したら、果たして止める事が出来るだろうか?)とほとんどの能力者達が同じ事を心の中で呟いていた。
「そういえば‥‥ガル君はさっき聞き捨てならない言葉を言っていたような気がするにゃ」
 もやしは俺の恋人発言について言っているのであろう。その時の白虎の目は「ゴルァ、俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ」的な意味が込められていた。
「ちなみに僕も狙ってますよ。ほら、ちゃんと交換日記用のうさぎさんノートも!」
 能力者達が騒いでいる所を見つけ、佐渡川がやってくる。
「キリーさん! 僕と交換日記からのお付き合いをしましょう!」
 佐渡川が大きな声で叫び、キリーにノートを差し出す。
「いいわよ」
「にゃあああああ!」
 キリーの言葉に驚いたのは白虎。
「でも私は忙しいから、私の分も自分で書いてくれる?」
「えぇ、いいですよ! じゃあ僕がキリーさんの分まで日記を書いておきますね! これで交換日記のお付き合い‥‥あ、あれ? 交換‥‥なのに自分で書く? あ、あれぇ?」
 浮かれているが、実際やんわりとストレートに断られている事に佐渡川は気づいていない――いや、気づきかけているが認めようとはしない。
「キリー!」
 そこへリリシアの声が聞こえ「キリーちゃん!」とタイミングよく現れた春夏秋冬がキリーの喉下にフォークを突きつける。
「娘が大事なら大人しくしなさい!」
 大剣を抱え、今にも襲い掛かってきそうな勢いだったリリシアをとめようとした策なのだが、ここでとある人物がきたことにより、春夏秋冬は自らをも危険に曝すことになった。
「さぁ、大人しくしないと斧が飛びますよ!」
 水無瀬が斧(レプリカ)を構えながら叫ぶ。リリシアを挟み撃ちにして大人しくさせようという魂胆なのだろうが、水無瀬は果たして気がついているのだろうか? 斧を投げつければ、その先にいるキリーや春夏秋冬にも被害が及ぶという事を。
「‥‥それを使うと、私も危険なんですけど‥‥」
 小さく呟く春夏秋冬なのだが、その呟きは水無瀬には届いていない。
「違うわ、私はもう暴れたり――きゃあっ!」
 そこで床に仕掛けられていたオイルに滑ってしまい、リリシアは派手に転んでしまう。

(‥‥‥‥白いぱんつ)

 派手に転んだせいでリリシアのぱんつが能力者達の視界に入る。
「お、お母さん! あ、あんた達‥‥私のぱんつだけじゃ飽き足らず! お母さんのぱんつまで!」
 きゃあきゃあと騒ぎ立てるキリーは「馬鹿」だの「アホ」だの言葉を言うたびに誰かの頬を平手打ちで殴りつけている。
(おかしいな‥‥剣を奪うだけのはずだったのに、何であんなに派手に転んだんだろう)
 仕掛けた張本人の御闇が心の中で呟く。彼が黙っているのは、仕掛けたのが自分だとバレた場合、きっと色んな方面からただでは済ませてくれないだろうから。
「あぁ、ここにいたんですね。ケーキと紅茶の用意が出来たみたいですよ」
 和泉が「ようやく見つけました」と苦笑しながら呟き「早く行かないと冷めてしまいますよ」と言葉をつけたし、客間の方へと案内をしたのだった。
「‥‥キリー、ごめんね」
 しょんぼりとしながらリリシアが言葉を投げかけると「何でお母さんが謝るの? 悪いのは私をさらったこの兵舎の連中よ?」とあくまでさらわれた立場を崩そうとしない。
「おや? もう和解してしまったのかな?」
 UNKNOWNは苦笑しながら客間へと行く能力者達を見て呟く。
「もう収束ついてしまったとは‥‥つまらんな」
 はぁ、とため息混じりにUNKNOWNは言葉を付け足した。

「はい、チョコケーキよ」
 百地がキリーの前に紅茶とケーキを差し出す。
「こっちはフォンダンショコラだ。外はちょっぴり香ばしく、中はとろーり♪ 温かいうちに食べてくれ♪」
 百地に続いてユーリもキリーの前にフォンダンショコラを差し出した。
「美味しい♪」
「こちらにもありますよ。チョコケーキと温かいミルクです」
 十星も差し出し、キリーは何日分ものおやつを一日で食べてしまう。
「キリー、ちょっとだけ抜けようぜ! バイク乗せてやるからよ!」
 ガルがにやりと笑いながらキリーにこっそりと言葉を投げかける。
「そうね‥‥どうせ帰るんだし、先に帰っててもいいかしら」
 キリーはぱくりと食べた後、ガルについていこう――としたが「あれ? どこに行くの?」と神咲が目ざとく2人を見つけてしまう。
「にゅあああ! どこに行くのにゃ! っていうかママ連れて帰れにゃー!」
「白虎さん! 僕は常々思っていた事があるんですが。貴方が煮え切らないからこんな事態になるんです! キルメリアさんの事が好きなら、はっきりそうリリシアさんに伝えてください! ちゃんと挨拶していればリリシアさんが誤解をする事もなかったのに!」
 佐渡川が怒りで拳を震わせながら叫ぶ。佐渡川本人としては白虎が相応しくない! といいたいのだろうが、彼自身は気づいていない。外堀を埋めているという事実に。
「ですから、キルメリアさんのことは僕に任せていいと思うのです! 交換日記の仲ですし!」
(‥‥一人交換日記にゃけどね)
 白虎は心の中でツッコミを入れる。そこまでしてキリーと交換日記の仲だと思い込みたい佐渡川を白虎、そして他の能力者達は哀れに思っていた。
「さぁ、白虎さん。どうするんですの?」
「首領、ここまで言われちゃなぁ?」
「でも認めた瞬間に粛清開始ですけどね」
「あぁ、人の不幸って面白い」
 能力者達は自分が関係ないからと言って次々に自分の感想を述べていく。
「こ、こうなったらお姉ちゃんの家を占領してやるにゃ!」
 あばばばば、とエラーを起こしながら白虎はキリーの手を取ってキリーの家へと向かう。
「おいコラ! 待て!」
 その様子をガルが慌てて追いかける。
(((‥‥つまり、押しかけ女房になると)))
 言葉で否定していても行動が認めてるぜ、と綾河が呟きながら紅茶を飲んだ。
「っていうか、え? 今度はリリシアさんがここに残るの?」
 春夏秋冬が目を瞬かせながら呟くと(え、早くお帰り願いたい)と兵舎の住人達は心の中で言葉を返した。
(‥‥ゆーき、いなかったけどどこに行ったんだろ?)
 キリーは見かけなかった仮染の心配をしたが、この時キリー自身は夢にも思わなかった事だろう。自分の母親が仮染を攻撃して、病院に行かせるほどの怪我をさせていたという事に。
「総帥、こっちこっち〜♪」
 今まで隠れていた張が手招きをして白虎たちを外に出す。
「今まで何処にいたのにゃ!」
「え? この隠し通路作ってました」
 けろりとして答える張に「にゅおお、僕の居城がどんどん分からなくなっていくー!」と叫びながら言葉を返した。
「邪魔にゃ!」
「はぐ!」
 玄関から出て行こうとした佐倉は白虎に突き飛ばされ、キリーに蹴られ、ガルに踏まれ、文字通り踏んだり蹴ったりな一日になってしまった。
「雨降って地固まる――を狙っていたんですが、血の雨が降りそうですねぇ」
 ソウマは逃げていく3人を見ながら小さく呟いた。

 結局、キリーは自宅に帰る事になったのだが――ケーキなどに一目ぼれしたリリシアが代わりに居座るというワケの分からない状況に陥ってしまい、もう既に何が何やら――という状況であった。
 そして白虎はまだ気づく事が出来ない。キリーの部屋(総帥室)がリリシア好みのメルヘンに模様替えされているという事に。
「気のせいかな? 白虎君の帰ってくる場所がなくなってない?」
「確かにな‥‥」
「でもこの部屋可愛いですよー?」
「しっと団――というか、白虎さんは人生の道に迷っているような気がしますねぇ。まぁ、リア充なら爆ぜさせるだけですが」
 神咲、龍深城、諌山、御闇は模様替えをするリリシアの姿を見ながら呟く。
「あら、十星? どうしたの?」
「いえ、少しだけキリーが羨ましいなぁって‥‥心配してくれる母親がいるから」
 寂しそうに呟く十星に星華は言葉につまり「愛されてるのね、キリーちゃんは」と言葉を返したのだった。
「と、リリシアさん」
 白虎たちを外に出した後、張がリリシアに話しかけ、今回の事はやりすぎだと少しお説教をする。
「‥‥ごめんなさい」
 性格もキリーと同じなのか、しょんぼりとしながら言葉を返す。いや、謝ることが出来る分、まだリリシアの方が話が分かる――といいよね、と思いたい。
「あー、とりあえず俺ら帰るんで‥‥お邪魔しました」
 バツが悪そうにリリシアの友人達が何度も頭を下げると「いえいえ、次はお客様として来て下さいね」と和泉が言葉を返し、能力者達を見送った。

 その後、シュプール邸では魔王再臨、そして騒ぐ暴れるという厄介者が増えた、とシュプール邸の使用人達の僅かな平穏は終わりを告げていた。



END