タイトル:彼の名はダウさんマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/27 01:32

●オープニング本文


HAHAHA☆

アイアム・ダウさんデース!!

ヨロシクあるよー!!

※※※

「なぁ、一つ聞いてもいいかな?」

男性能力者は依頼を選びながらため息混じりに呟く。

「質問の予想が出来るけど、あえて聞くわ。何?」

「能力者って、変な人が多いのかな?」

ちらりと男性能力者が見た方向、そこにはアメリカ人で、容姿性格口調共にエセアメリカンなアゴの割れたムッサイ男が存在していた。

「あいあむ・ダウさーん!」

「自分で『さん』つけてるし‥‥」

「そんなアナタに残念なお知らせがあります」

女性能力者はキリっとした表情と敬語で、男性能力者へと言葉を投げかける。

「な、何!? いきなり敬語だし!」

「アナタの次の任務、アレと一緒です」

「いやだ!」

「即答しても決まっているので、諦めたほうが宜しいかと思います」

「何で!」

「私が面白そうだからと勝手に受けておきました。でも私が巻き込まれるのはイヤなので、さっさとあのむっさいエセアメリカンな男の所に行ってください」

「何で拒否権ないの! 誰か! 頼むから依頼変わってぇぇぇぇぇぇ!!!」

本部の中に悲痛な叫びが響き渡り、男性能力者の事を哀れに思った心優しき能力者によって、男性能力者はダウさんとの任務を回避することが出来たのだった‥‥。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
緑間 徹(gb7712
22歳・♂・FC
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
鹿島 行幹(gc4977
16歳・♂・GP

●リプレイ本文

―― 彼の名はダウさん ――

「‥‥代わりに受けましたが‥‥なんとも強烈ですね‥‥」
 アリエイル(ga8923)は自らさん付けで名乗るダウさんと、今回の任務を一緒にする能力者達を見ながら呟いた。
「ま、まぁ‥‥キメラ退治に専念するとしましょう」
 今回のダウさんに触発されてなのか、そうでないのか、若干濃すぎるメンバーに苦笑しつつもアリエイルは言葉を付け足したのだった。
「‥‥ダウさん‥‥すごく‥‥エセっぽいです‥‥」
 幡多野 克(ga0444)はダウさんを見ながらため息混じりに呟く。
(‥‥テンション‥‥無駄に高いし‥‥一緒にいるの‥‥ちょっと疲れそう‥‥)
 だけど、面白いよねと幡多野は言葉を付け足しながらハイテンションで喋り捲っているダウさんを見た。
「オーゥ! ナイストゥーミーチューミスターダウ! アイアムジャパニーズイケメン! シェイクハンズOK?」
 植松・カルマ(ga8288)がダウさんに合わせてエセアメリカンな口調で話しかける。
「おーぅ! ダウさんと同類ネー! 仲良くするアルよー!」
(‥‥見るからに面妖な人物だが、新手のキメラではあるまいな?)
 孫六 兼元(gb5331)はダウさんを見ながらやや引き気味に心の中で呟く。
「HAHAHA☆ そこの不機嫌ボーイ! 何が不機嫌アルかねー!」
 ダウさんが緑間 徹(gb7712)に言葉を投げかける。確かに不機嫌そうな顔をしており、他の能力者達はダウさんのハイテンションがウザいだけなのだろうと思っていた。
「‥‥フン」
 緑間はちらりとダウさんに視線を向けた後、ため息を吐きながら再び視線を逸らす。
「ハッハー、テレているのデーすね! シャイボーイ!」
 緑間の肩をバシバシと叩きながら「シャイではダーメですよー!」とダウさんは大きな声で叫んでいる。
(あんなむっさいのより、この資料にあるお嬢さんの方がいいね‥‥)
 布野 橘(gb8011)はため息を吐きながら資料に視線を落とす。今回、能力者達が退治すべきキメラは人型、それも女性型であった。
(面白い奴は嫌いじゃないんだけど‥‥アレはなぁ‥‥)
 資料からダウさんに視線を移し、布野は苦笑する。まだ任務は始まってもいないのに、何故か能力者達には疲れの色が見え、とんでもない影響をダウさんは能力者達に与えていた。
「‥‥はぁ」
「おや、ため息ですか」
 ジョシュア・キルストン(gc4215)は苦笑しながら布野に言葉を投げかける。その視線の先にはダウさんがいて、布野が何の事でため息を吐いていたのか分かったらしい。
「ダウさん‥‥ですか。いや〜、僕ね、ああいう人結構嫌いじゃないですよ? ただのオッサンに見えないこともないですが」
 ジョシュアが布野に言葉を投げかけると「面白い奴ではありそうなんだけどな」と布野も言葉を返す。
 ちなみにジョシュアは『ただのオッサンに見えないこともない』と言ったけれど、どう見てもただのオッサンにしか見えないのが事実である。
「‥‥何というか‥‥マジで凄いわ、あの人‥‥」
 鹿島 行幹(gc4977)はダウさんを見ながら引きつった表情を見せた。まだ経験の浅い彼、そんな中で見せられた強烈な人物。トラウマにもなりかねないほどだ。
「と、とりあえず皆さん、まずはキメラ退治をしなくては‥‥」
 アリエイルが呟き、能力者達はダウさんと一緒に高速艇へと乗り込み、目的地へと出発し始めたのだった。


―― オペレーション・カミカーゼ ――

「おーぅ! サームイー!」
 現地に到着するなり、ダウさんは「寒い」といい始め、他の能力者達を困らせていた。
「皆さん、キメラが現れた時にはまず僕が向かってやられた振りをしますので、焚きつけるのを宜しくお願いします」
 ジョシュアはダウさんに聞こえないように他の能力者達に言葉を投げかける。
「くくっ、囮だということにも気づかず‥‥幸せな奴だな。ここでダウがキメラを倒せればよし、倒せずとも、敵は多少消耗するだろう。そこを我らが頂く‥‥くく、はははは」
 布野はまるで悪役のようなセリフをダウさんに聞こえぬよう、小さな声で呟いている。
 今回、能力者達はダウさんの実力を測る――という名目でやや嫌がらせに近い何かを考え、その作戦名を『オペレーション・カミカーゼ』と名づけていた。
 勿論、ダウさん本人はその事は全く知らない。むしろ知らせては作戦そのものが駄目になる可能性の方が高いから、誰も告げようなどと考えはしなかった。
「‥‥住人は避難‥‥してるんだね‥‥」
 幡多野が周りを見ながら呟く。資料にもある通り、住人達は既に避難済みであり、町はひっそりと静まり返っており、不気味さを醸し出していた。
「ヤァヤァ、これぞフーリューでーす!」
 何を持って風流というのか、ダウさんは静かな町の中を大声で、そして楽しそうに笑って歩いている。
「‥‥今回は早めに覚醒しておきましょう‥‥」
 限定解除、と言葉をつけたしアリエイルはいつもより早めに覚醒を行い、周囲に警戒を強めていた。
 町の中を歩き回りながらキメラを捜索していた能力者達だったが、公園近くの空き地に踏み入った所で全員が異変に気がついた。
「!」
 ひゅん、と風を切る音と共に矢が飛んできて、能力者達は身構える。矢が飛んできた方向を見ると、黒く長い髪の妖艶な女性が弓を構えながらにっこりと微笑んでいた。
「さて、作戦開始ですね‥‥」
 僕が行きます、ジョシュアがきりっと真剣な表情(演技)をしながら呟き、愛用の槍を構えて「うおおおお」と掛け声をあげながらキメラへと向かう。
 しかし、真正面から向かってはキメラの的になるようなもので、キメラは再び矢を放ってくる。
「!」
 その矢が当たる前にジョシュアはスキルを使用して、後ろへと飛ぶ。傍から見れば攻撃を受けて派手に吹っ飛んだようにも見える。
「オウ! ダイジョウブだねー!」
 大丈夫か、と言葉を投げかけたいダウさんなのだろうが「大丈夫だね」と言い切られているようにも聞こえ、後ろで待機している能力者達は笑いをかみ殺す。
「ぼ、僕は‥‥もう限界です‥‥ダウさん、ど、どうか僕の仇を‥‥!」
 がくり、と死ぬ振りまでジョシュアはしてみせ「おーまいがー!」とダウさんはややパニックになりつつある。
「ダウさんなら‥‥きっと、やってくれるはず‥‥(実力知らないけど)」
 幡多野が俯きながら呟く。
「HAHAHA! HEYそこのナイスGUI! いっちょYOUの腕前を見せてくれYO!」
 布野がエセアメリカンな口調でダウさんに言葉を投げかける。
「ここらでちょっとジャパニーズ・タイマン張ってセクシーガールにモテモテにならないかい!?」
 更に乗せるかのように植松も言葉を続け、ダウさんは拳を強く握り締めた。彼の頭の中には無念の殉職(演技)をしたジョシュアの事、それと自分に期待してくれている(演技)仲間たちのことが考えられているのだろう。
 ちなみにジョシュアに関しては(早くしてくれ)と切実に祈っている。何故なら、もう笑いを堪える事に限界が来ているからだ。
「ダウさんいきマース! YOU達は援護おねがーいヨー!」
 キッと真剣な表情でキメラへと向かっていく。

(何で、乙女走り!? だめだ、もう笑っていいですか!)

 走っていくダウさんの姿を見て、能力者達全員、口を手で覆って笑いを堪える。
「ジョシュアボーイの仇――覚悟せい! オオオオオ――ぎゃああああ」
 勢いだけは良かったダウさんなのだが、ジョシュアと同じく真正面から向かっていった為に、かすり傷すらキメラに与えることなく矢に塗ってあった痺れ薬によって、派手に地面へと顔面から転んでしまった。
「だ、ダウさん、ありがとう? 仇は取るから!」
 幡多野はダッシュしながらダウさんの横を通り過ぎる。ありがとうという言葉が疑問系なのは、全く彼が役に立っていないためであろう。
「なん‥‥だと‥‥? あの程度の攻撃で倒れると言うのか‥‥」
 緑間はダウさんのあまりの弱さに驚きを通り越して、あきれ果てていた。
「不甲斐なければ‥‥ハラキリだな‥‥」
 孫六はポツリと呟きながら再びダウさんを狙うキメラの矢を叩き落す。
「む、皆! 矢には気をつけた方が良さそうだ! 何か塗ってある!」
 毒々しい色の液体が塗られていることが判明し、孫六は他の能力者達に注意を促す――が、先に攻撃に向かった鹿島は矢の攻撃を受けてしまっていたようで、孫六がスキルを使用して回復させた。
「‥‥結局‥‥ダウさん‥‥何がしたかったのかな‥‥」
 ポツリと呟いた後、幡多野はキメラの側面へと回りこんでスキルを使用しながら攻撃を繰り出した。見た限り、キメラは持っている弓での攻撃しかなさそうで、ならば側面からの攻撃には弱いはず――と考えての行動だ。
「ははん、キメラとはいえ美人なオネーチャンに注目されるのは悪くないッスね! 俺ってほら、イケメンなモンで!」
 チョリーッス、と言葉をつけたしながら植松は小銃・ブラッディローズを構え、射撃を行いながら前衛の能力者達の援護を行う。
「私達の力を味わいなさい。絶対的な破壊力‥‥それがエースアサルトの真髄です!」
 アリエイルは呟きながらセリアティスを構え「せぇぇぇ!」と叫び、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を繰り出したのだった。
「容姿が良くても関係ない‥‥どんなに容姿が良くてもあなたはキメラ。それ以上でもそれ以下でもありません!」
 攻撃を終えた後、アリエイルはキメラをしっかりと見据え、言葉を紡いだ。
「八双の構え」
 孫六は呟き、右肩に墜剣・ルシファーを構え、低く腰を落とす。これは攻撃主体の構えであり、キメラが防御を取る間もなく、孫六の攻撃がキメラへとヒットした。
「ガッハッハ! どうだ、わしの攻撃は!」
 孫六は地面に倒れたキメラを見下ろしながら言葉を投げかけるのだが、キメラは痛さと苦しさで恨めしそうに孫六を見るだけだった。
「ちっ、さっさとトドメを刺せばいいのに‥‥」
 緑間は呟き、アキレウスを構えてキメラへと向かう。だがキメラは無理な体勢から矢を次々に放ってきて、正面からは近寄ることも出来なかった。
「ちっ、矢を撃たせるな!」
 緑間は矢を避けながら射撃を行う能力者達に声をかける。
「ははっ、打ち抜かれたぜ。俺のハートをズキュンってよ!」
 布野は拳銃・ライスナーでキメラの腕を狙い、腕を撃たれたキメラは弓を地面へと落としてしまう。
「サクっとやっちゃいましょう」
 キメラの背後に位置取っていたジョシュアがにっこりと微笑みながら呟き、槍を振り下ろす。
「人型のキメラはやりにくいッスね――だからと言って遠慮はしないけど!」
 鹿島は呟き、キメラが逃げようとしている方向から攻撃を行い、刺されたキメラは苦しそうに血を吐きながら地面へと倒れこみ、起き上がる事はなかったのだった。


―― 戦闘終了・ダウさん‥‥イラネ ――

「っていうか、役に立った?」
 戦闘終了後、布野がダウさんに問いかける。布野の想像としてはダウさんがキメラを倒さずとも多少のダメージを与えてくれていればよい、だったのだが、現実としてはかすり傷すら負わせる事が出来ずに終了――だった。
「こ、今回ダウさんちょっとユダーンしたねー!」
 ふふふふん、と鼻歌を歌うダウさんを見て能力者達は疲れがどっと押し寄せてくる感覚がしていた。
(‥‥なんていうか‥‥ただの‥‥騒がしいおっさん‥‥だったような‥‥)
 戦闘では役にたたない、記憶にあるのは騒がしい部分のダウさんのみ。幡多野のダウさん認識は既に『やかましい人』としてインプットされてしまっている。
「ミスターダウ! まずは戦闘の知識から詰め込むことを要求するぜ!」
 植松が言葉を投げかけると「オーゥ、もうダウさんには容量がありませーん」と言葉を返してくる。
(‥‥パネェ、脳みその小ささがパネェ‥‥)
「そういえば、今回キュアを使ったのは初めてでしたね。上手くいってよかったです」
 アリエイルが思い出したように呟く。彼女は戦闘中、攻撃を行いながらも矢を受けて痺れてしまった能力者達の回復を行っていた。
 ダウさんとは違って、キュアを持つ能力者達は特に戦闘に貢献していた。
「がっはっは! ダウさん氏、ハラキリするかぁ!」
 孫六が豪快に笑いながらダウさんに言葉を投げかけるが「ノーセンキュー! ダウさん、痛いのヤですねー!」と手でクロスを作って拒否してきた。
(こいつを連れてきた意味が果たしてあったのか? いや、なかったよな)
 ダウさんを見ながら緑間は心の中で呟き、小さくため息を吐いたのだった。
「HEY! キョーダイ、次の依頼も張り切っていこうぜ! HAHAHA!」
 布野がダウさんと肩を組みながら楽しそうに笑う。どうやら彼は次の任務にもダウさんがいて良いと判断した珍しい人物のようだ。
「いやぁ、今回の依頼は楽しかった――というより楽だった。こんな依頼なら大歓迎ですよ」
 ジョシュアは笑いながら起き上がり「オーゥ! ジャパニーズユウレイ! オヒャクドマイリネー!」とダウさんが驚きながら飛び上がる。
「‥‥本当に死んでしまったと思っていたんですか」
 アリエイルが苦笑しながら呟き「仇といいながら、自分も殉職しそうな勢いだったからね」と鹿島が言葉を返した。
「まぁ、でも‥‥ダウさん大丈夫っすか? キメラの攻撃を受けた事には変わりないし‥‥」
「モンダイありませーん! ダウさん、この通りムキムキのマッチョ元気デスヨ!」
「うん、問題しかないね。これなら大丈夫そうだ」
 ツッコミ所満載のダウさんの言葉を、鹿島はあえてスルーして他の能力者達に言葉を投げかけた。

 ダウ=トダロソレ。
 彼は名前が示すとおり、色んな意味でダウトな人であった。

 その後、能力者達は報告の為に本部へと帰還していったのだった。
 報告書にはダウさんがまったく役にたたなかった事が強調されており、オペレーターは苦笑しながら報告を受け取ったのだった。


END