●リプレイ本文
「お願いです‥‥おねにー様を助けて下さい」
ぺこりと頭を下げながら能力者達に懇願するのは鵺(gz0250)の妹でもあるつばめという少女だった。
今回、何故こうなったのかをつばめは能力者達に簡単に説明をしていた。
「僕に任せて、何とかしてみるよ。鵺さんとお父さんを何とかしたいってのは僕も同じだし」
ビッグ・ロシウェル(
ga9207)はつばめを安心させるように言葉を返す。
「‥‥鵺さんも親御さんと仲悪いんだね‥‥」
八葉 白雪(
gb2228)が小さく呟くと(どこの親も言う事は一緒って事よ。特に‥‥子供より家柄が大切な家はね)と白雪の姉人格である真白が言葉を返した。
「ふむ‥‥しかし、一番の問題は鵺に一人でやらせると言う事だな」
フローネ・バルクホルン(
gb4744)が資料を見ながら呟く。ただでさえ、鵺は何で能力者をしているのか分からないほどに役立たず。
きっと鵺の父親もその辺の事は調べた上での取引条件だったに違いない。
「鵺嬢の気持ちも分かるんだが‥‥」
エイミー・H・メイヤー(
gb5994)は「あたしも父が大っ嫌いだしなぁ‥‥」と言葉をつけたし、ちらりとつばめを見る。
「でもつばめ嬢を悲しませるのはよろしくない。いかなる時もレディの笑顔を曇らせちゃいけないんだよ」
エイミーの言葉を聞いて「私の事はいいんです‥‥」とつばめは悲しそうに笑う。
(ふむ‥‥あいつもあいつで、色々あるんだな‥‥なるべくあいつの判断を優先したいが‥‥)
クアッド・封(
gc0779)は心の中で呟くが、能力者達は取引通りに行動する事に多少の抵抗が存在していた。
何故なら、里中に関する全てと縁が切れるという事は、鵺を慕う妹との縁までも切れるという事なのだから。
「一人でキメラ退治‥‥大丈夫カナ‥‥凄く心配ダヨ」
ラサ・ジェネシス(
gc2273)は俯きながら、一人でキメラがいる場所へと向かってしまった鵺を心配して呟いた。
「大丈夫ですよ‥‥でも、鵺さんはそこまでして家族との縁を切りたいのかな‥‥」
ラサからある程度の事は聞いていたティナ・アブソリュート(
gc4189)は小さく呟く。きっとそこまで思うのだから、生半可ではない事があったのだろうけど、そう思いながら。
「自分は鵺殿とは初めてお会いしますね。だからよくは分かりませんが、今回はどうしたいのか鵺殿に聞いてみるのがいいと思いますよ」
クラヴィ・グレイディ(
gc4488)は能力者達に言葉を投げかける。
「そうですね。最終的に私達が手伝うか手伝わないかの判断は鵺さんにお任せした方がいいかもしれません」
ティナが言葉を返し、能力者達は高速艇に乗り込んで、里中家の私有地へと出発したのだった。
―― 到着・寒い山の中で ――
「広いナァ‥‥」
到着後、ラサがポツリと呟く。かなり遠くにはここから見ても大きな屋敷がちらりと見える。きっと別荘か何かなのだろう。
今回、能力者達は班分けを行う事なく、鵺がいる所を探す事にしていた。
「資料によれば、猪みたいな外見で体毛が白みたいだな」
フローネが資料を確認しながら呟く。
「さて、まずはどうやって鵺を探すことやら‥‥」
フローネが呟いた時、どすん、という音が聞こえる。聞こえた音が微かでしかなかったので、きっと近場ではなく、ここから少し離れた場所なのだろう。
「もしや、既にキメラとの戦闘に? ならば急がなければ鵺嬢が危ない」
エイミーが呟き、能力者達は音が聞こえた方向へと向かって走り始める。
(なんだかんだ言って、親父さんに会うあいつは‥‥決めかねているんだろうか、ね)
鵺の元へ急ぎながらクアッドは心の中で呟く。本当に強固に縁を切りたいと思っているのであれば、呼び出しにも応じなかったはず。クアッドはそう思っていた。
「あ、あそこにいる人じゃないですか?」
クラヴィが指差した方向には、木にもたれながら荒く息をする鵺の姿があった。
「あら? な、何でみんながここに?!」
鵺も能力者達の姿を見て、驚いたように目を大きく見開いた。
「や、山奥にいるという、しっと仙人の所で修行をする為に来たんです! クリスマスという聖戦に備えて修行を‥‥」
「‥‥‥‥ここは私有地よ?」
ビッグの言い訳に鵺が鋭いツッコミを入れると「うっ」とビッグは言葉に詰まる。
「隠しきれる事ではないな‥‥あたし達はつばめ嬢の依頼で此処にきたんだよ、鵺嬢」
エイミーが小さく息を吐きながら言葉を投げかける。
「‥‥つばめ?」
予想していなかった人物の名前が出て、鵺も更に驚いた表情を見せた。
「どうやら、妹くんは鵺と親父さんの話を聞いていたようで、鵺が一人で行く事を心配した妹くんが俺たちに――という事だな」
クアッドが説明すると「‥‥そう」と鵺は俯きながら言葉を返した。
「自分達は鵺殿を助けるよう依頼されてきたでありますが、鵺殿はいかがしたいのでありますか?」
クラヴィの言葉に「え?」と鵺が言葉を返す。
「お話の通り、お一人で退治されたいのであれば、自分達は援護に回ります」
「そうだな。支援はしてやる。お主が家との縁を切りたいのであれば、頑張ることだな」
フローネもクラヴィの言葉に合わせるように言葉を紡ぐ。
「‥‥‥‥」
暫くの間、鵺は黙っており、やがて大きな息を吐いた。
「‥‥‥‥手伝ってちょうだい。どうせどこかで見ていることだろうし、もしアタシ一人で退治できたとしても、あいつが取引に応じる保障なんて何処にもないわ」
「鵺殿‥‥」
ラサが寂しそうな表情で鵺の名を呼ぶ。
「きっと、何かにつけて文句を言って取引になんて応じないわ。それなのに、無理をして一人で突っ走ってバカみたいね」
鵺が立ち上がると、ラサが大きく深呼吸して「鵺殿!」と大きな声で鵺を呼ぶ。
「鵺殿がどんな選択をしようとも我輩、ラサ・ジェネシスは鵺殿についていくのデス!」
真剣な表情で叫ぶラサに「何で、そこまで‥‥」と鵺が問いかけるが、現状をこれ以上ややこしくしたくないという事もあり、ラサは自分の気持ちを伝えることはなかった。
「鵺、腹が減っては戦も出来まい。さっさと食ってしまえ」
フローネはレーション・レッドカレーを鵺に渡す。先ほどから「ぐぅ〜」と鵺のお腹が鳴っている事に気づいたのだろう。
「わ、我輩もコーンポタージュを‥‥!」
ラサがコーンポタージュを渡し、鵺は「ありがとう」と受け取り、二人から貰ったものを食べ、飲み始めた。
「でも、鵺さんのお父さんも酷い。よりにもよって女の子にキメラ退治をさせるなんて!」
白雪が拳を強く握り締めながら叫んだ言葉に(え、えぇ、そうね‥‥ってちょっと待って)と真白が言葉を返す。
女の子に=あれ? なら自分は? という気分になってしまったのだろう。大抵キメラ退治を担当するのは真白の方なのだから。
「よし、それじゃキメラ退治をしちゃいましょうか」
鵺が食べ終わったのを見計らった所でティナが呟き、能力者達はキメラ退治を行う為に行動を開始したのだった。
―― 戦闘開始 ――
「こっちの方で間違いないか?」
フローネはキメラがいた場所を確認するかのように、鵺に問いかける。
「えぇ、間違いないわよ。そっちの方に居て、ちょっとヤバそうだったから逃げちゃったんだもの」
(逃げたのか‥‥)
鵺の言葉を聞いて、ビッグは苦笑しながら心の中で呟いた。
「白い外見だという事でありますから、目立つはずですけどね」
クラヴィもキメラを捜索しながら呟く。
「危ない!」
真白が大きな声で叫ぶ。上の方から、崖を降りて能力者達に向かってくる白い猪の姿を彼女は確認してしまったからだ。
他の能力者達もキメラを確認し、それぞれ武器を構える。
「ぐっ‥‥!」
突進を受け、ビッグがその場に倒れこむ。
「たーすーけーてー‥‥ってこれ演技でするはずだったのに、何で僕はマジ助けて叫んでるんだろう‥‥」
何処か自嘲気味に呟き、ビッグは天剣・ウラノスを構える。
「鵺さん、援護はさせてもらうわよ。取引云々は置いておいて、頑張ってみて」
真白が鵺に言葉を投げかけるのだが、やはり戦いなれていない鵺にとってキメラは恐怖対象しかない。
「鵺、あんたそれでも男なの!? しゃんとしなさい!」
真白は叫びながら、スキルを使用して能力者の武器を強化し、そしてキメラの防御力を低下させる。
「血を見て倒れる、別にそれでも構わないぞ。私が文字通り『叩き起こして』やるからな」
フローネも怪しい笑みを浮かべながら鵺に言葉を投げかける。その笑みを見て、鵺がキメラ以上に恐怖したという事をフローネは知らない。
「奇襲は成功でしょうけど、あなたには逃げ場がありませんよ」
エイミーは「ふ」と笑みながらキメラへと言葉を投げかける。
「‥‥治療するよ」
クアッドが鵺の治療を行う。彼は素直に戦闘を支援しているが、それで本当の意味で助けたことになるのか――その答えにYESとは言うことが出来なかった。
恐らく鵺一人で退治しても、能力者が手伝ったことにより取引が駄目になろうとも、どちらにしても鵺の心境に大した変化はないだろうと彼は考えていた。
「鵺殿、これを着てください」
ラサは軍用歩兵外套を鵺に渡す。少しでも寒さを軽減できるようにと。
「我輩は鵺殿のために頑張ります。だから、鵺殿も一人で苦しまないで欲しイ」
ラサは呟きながら、キメラへと向かう。
「行きますよ」
ティナが呟き、スキルを使用しながらキメラの死角へと移動し、攻撃を繰り出す。
「これだけの能力者を前に、たった一人のアナタが勝てる筈がありません」
ティナは更に攻撃を行い。後ろへと下がる。
「‥‥アタシだって、いつまでも震えてるわけじゃないわ‥‥」
持っていた剣を手に、キメラへと攻撃を繰り出す。今までの鵺だったら、一度も攻撃を行う事なく戦闘を終えていた事だろう。
「ぬ、鵺さんが攻撃した‥‥」
ビッグが驚きを隠せず、目を丸くしながら呟いた。
その後、能力者全員で攻撃を行い、キメラを無事に退治する事が出来たのだった。
―― 話し合い、父と息子の確執 ――
その後、キメラを退治したことを報告する為、鵺は自宅へ行く事を決めていたが、能力者達もお互いの話し合いをして欲しいと考えており、つばめに場を設けてもらっていた。
「キメラは退治できたようだな」
「‥‥白々しいわね。どうせ見ていたんでしょうに。アタシ一人だったら退治できなかったわよ」
鵺は横を向きながらため息混じりに呟く。
「ここにいる皆の助けがなかったら、アタシは死んでたかもね」
鵺は8人の能力者に視線を移しながら呟き、父親は「そうか」と短い言葉を返してきた。
「あの、喧嘩するのは勝手ですが、つばめちゃんを悲しませている事にそろそろ気がついてほしいんですけど」
ビッグがため息混じりに呟くと「わ、私の事はいいんです」とつばめが慌ててフォローに入ってくる。
「つばめの事? まだ子供だし、大人の話に加わる必要は無い。それに子供じゃないとしても、女に家の事を口出しする権利は無い」
「なっ‥‥」
あまりの言い草にさすがのビッグも怒りがにじみ出てくる。
(うわ、外見私のお父様みたいだ‥‥まぁ私のお父様はもっと軍人らしいですが‥‥)
「どうしてそこまで鵺さんに会社を継がせたいのですか? 話を聞けば鵺さんは三男ですよね? 普通に考えれば長男の方が継ぐ事になると思うのですが」
ティナが疑問を父親に投げかけると「一番優秀だと思う奴に継がせるのは当然だろう。それが会社の為だ」と子供の事を考えてなどいないとでも言う台詞を吐き出してきた。
「父上殿、あまり意固地になっていては鵺嬢もつばめ嬢も離れていく結果になりかねませんよ」
エイミーが淡々とした口調で言葉を投げかけるが「親と子は切っても切れぬもの。決して子は親から逃げる事など出来はしないのだよ」と言葉を返してくる。
そして、そんな父親の言葉を聞いて鵺が父親を嫌うことが少し分かってきたような気がした。
「とりあえずは下がれ。また後日使いをやる」
「‥‥‥‥帰りましょう」
鵺は唇をかみ締め、父親に背中を向けたのだった。振り向いた所でつばめと目が会い、鵺は気まずそうに俯きながら何も言わずにその場を去った。
「‥‥自分は鵺殿にどんな事情があるのか分かりませんが、ご心配してくれる家族がいるなら、その方の為にも心揺るがず、他者を恨まずで対応するのも女の道だと思うのでありますよ」
クラヴィの言葉に「‥‥女の道、か‥‥男でも女でもつらい事は一緒なのね」と鵺は寂しそうに呟いた。
「後はお主が決めることだ。妹を含め、すべてを捨てられるのなら‥‥な。一人で生きるのは案外しんどいものだぞ‥‥」
フローネが言葉を投げかけるのだが、鵺は言葉を返すことはしなかった。
「‥‥今回、一人で無謀にも突っ走って‥‥危険に踏み込む事が必要な時もあるだろうな‥‥だが、必要な覚悟や決心はついていたのかな?」
クアッドの言葉に鵺の手がびくりと震える。
(俺にはあんな親父さんが取引を素直に守るとは思えなかった。だけど鵺はそれを信じて一人でキメラ退治に向かった‥‥家族の仲だから、信じたかったのかな‥‥)
クアッドは鵺を見つめながら心の中で呟いていた。
「ティナ殿、エイミー殿、我輩は鵺殿に何が出来るのかな‥‥」
ラサがポツリと呟く。
「何があっても想い、支えてあげて。私には見守るしか出来ないけど、ラサさんは違うでしょ?」
「そう、無理に何かをしなくていいんじゃないか? 理解者がいるってだけで心強いものさ」
ティナ、エイミーはそれぞれラサに言葉を投げかける。
「っていうか、あんな言い方はありえない。親父がツンデレしても萌えないから! どんなマニア向けだよ!」
ビッグはむかむかといらだつ心を抑えるように呟く。
能力者に出来るのはここまで。
それを分かっているから、誰も踏み込んだことを言う者が居ないのだろう。
どうするのか、何を決めるのか、それを行うのは鵺自身なのだから。
その後、能力者達は本部へと向かい、鵺と一緒にキメラ退治を行ったという報告をしたのだった。
END