●リプレイ本文
「閉鎖的な場所は結構残っているものだ‥‥気づかれないだけでな‥‥」
呟くのは真田 一(
ga0039)だった。しかし美咲について不可解なことがあった。それは美咲の事だった。彼女は町に到着すると同時に、住人達に対して鋭い視線を向けているのだ。
「今回はお互い接近攻撃だろ、宜しくな」
美咲に話しかけるのは鷹見 仁(
ga0232)だった。自分と同じファイターである美咲は今回キメラと最も近い場所で戦う。
「さて‥‥キメラの事を聞きたいのだけれど‥‥あんまり友好的な町じゃないわね」
海音・ユグドラシル(
ga2788)は住人の様子を見て、苦笑する。
「‥‥この町は昔からそうよ。他所者に対してはこんな態度‥‥これはまだマシな方よ」
ポツリと呟くのは美咲だった。
「町の閉鎖性‥‥あぁー、これも文化の形か‥‥嫌だねぇ」
比留間・イド(
ga4664)ががっくりと大げさに肩を竦めて見せる。
確かに家の窓、しかも顔を半分だけ覗かせるように見られては気分も悪くなる。
「‥‥世の中、色んな人がいるしね?」
くす、と笑みながら呟くのは真紅櫻(
ga4743)だった。彼女は住人達の態度を気にしていないようだ。
「確かに‥‥余計な諍いは起こさないようにした方がいいですね」
エクスティ・レミントン(
ga5106)も呟く。
「私には彼らが閉鎖的であろうと興味がない。あるのは町の歴史と図書館の蔵書の数、それと彼らが閉鎖的な理由の『何故』の部分のみだ」
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(
ga4859)は呟く。
「おらだつの仕事を終わらして帰るべや」
内藤新(
ga3460)は呟き、町の住人に話を聞きに行ったのだった。
●キメラとの戦闘・そして美咲の真意は‥‥?
キメラが生息しているのは、町から山へ向かう途中なのだと言う。それを教えてくれた住人は「早くキメラを倒しに行ってくれ、金を貰うんだろう」と嫌味ったらしく言われた。
「‥‥どうしても倒さなくちゃいけないのかな」
キメラのところへ向かう途中で美咲がポツリと呟く。
「え?」
鷹見が聞き返すと「な、何でもない」と美咲は先を歩き出した。
「‥‥美咲さんとあの町は何かあるみたいだね」
真紅が美咲に問いかけると、美咲は立ち止まり、能力者達に自分の身の上を話した。
他所者というだけで嫌がらせを受けていたこと、そして両親がキメラに襲われ、殺されたときに言われた言葉など‥‥。
「私は傭兵‥‥戦うことでお金を貰い、生活をしている――その事に誇りはある。けれど‥‥心の何処かであの町の人間が死んでしまえばいいとも思う自分がいるんだ」
美咲は拳を強く握り締めながら震える声で呟く。
「なるほどな‥‥話を聞いただけの俺に、美咲の思いを完全に理解できるとは言えないが‥‥確かにそんな目に遭えば相手を恨んでしまってもおかしくない」
美咲の話を聞き、答えたのは鷹見だった。
「君は何の為にこんな片田舎まで足を運んできたんだ? それをよく考えてほしい」
内藤が美咲に呟き、美咲ははっとしたように顔をあげる。
「あんたに同情はするがね、キメラのせいで家族を失った痛みが分からないわけじゃあるまい?」
比留間が呟く。もちろん彼女は美咲が傭兵としての自分、そして両親を見殺しにされた恨みを持つ自分、その二つの自分の中で葛藤しているのは分かっていた。
「そうですよ、キメラを退治して、言いたいことがあるならはっきりといえばいいです」
エクスティの言葉に「そう、ね‥‥そうするわ」と美咲は少し笑って答える――がその笑顔は直に消えた。
何故なら――キメラが鼻息荒く現れたからだ。
「どうやら‥‥一匹だけのようだが、油断せずに行こう」
真田は呟くと同時に刀を構え、攻撃を仕掛ける。彼が一番に斬りかかったことでキメラの気を引きつけ、サイエンティストが『練成弱体』を使い、キメラの防御力を低下させる‥‥という作戦だ。
「いぐど豚キムチ〜!」
内藤が叫び、海音と一緒に練成弱体をキメラに向けて発動する。
「あたしは比留間・イド。世界を縮める女だ、宜しくぅ!」
比留間はキメラに挨拶するとロングスピアを構えて攻撃を仕掛ける。
「受けろよぉっ、あたしの速さを!」
比留間が攻撃を仕掛け、その後ろで真紅も攻撃の準備を始める。
「あかん‥‥絶望的に不味そう‥‥」
がっくりとしながら真紅はヴィアを構え、攻撃態勢を取る。ここで疑問なのだが、もし豚キメラがおいしそうだったら彼女は食べる気だったのだろうか。
「逃がしはしない――ここで土に還ってもらおう」
冥姫は呟くと同時に覚醒を行い、バトルアクスを両手で持った。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 痛くしたくないけど! でも、ごめんなさい! こうしないといけないんです!」
覚醒し、異常なほど謝り続けるのはエクスティだった。彼女は覚醒をすると謝罪の言葉を連呼し、泣き出しながら戦うという特徴を持っていた。
「グオオオオオッ」
キメラが叫んだかと思うと、勢いよく走り出してきた。突進の直撃を受けないように能力者達は横に飛ぶ。エクスティは木の上からの攻撃だったのでキメラの突進を受ける心配はなかった。
その中で、ただ一人動かない人物がいた―――美咲だ。
「何してるんだよ! 避けろ!」
比留間が美咲に叫び、呼びかけるが彼女は動く気配はない。
「‥‥私達を苦しめたのに――あんな町の奴らなんか‥‥助ける必要は‥‥」
美咲はぶつぶつと呟き、武器を震える手で持っている。
「美咲――――っ!」
冥姫が言うが、避けるには時遅く、美咲はキメラの突進を受けてしまう。
「目を覚ませ!」
一番早く美咲に駆け寄り言葉を掛けたのは真紅だった。
「憎む気持ちも分かるが、お前は美咲であると同時に傭兵じゃねぇのか! お前のその行動は‥‥お前が一番憎いと思ってる奴らと同じなんだぞ!」
真紅の言葉に美咲は涙を流し始める。
「‥‥お前にはまだ妹がいるんだろう? 俺は全てを失ったが、お前は違う。自棄を起こすには‥‥まだ早い」
「俺は‥‥美咲と同じ経験をしても、恨みを晴らす以上にそんな奴らの同類にはなりたくない」
鷹見が呟き、美咲はハッと我を取り戻す。
「つまらないことの為に誇りを捨てるのは簡単よ。でも、それを亡き者が本当に喜ぶと思うの?」
「‥‥私は‥‥戦うわ‥‥あの町の奴らのためじゃない。私自身のために‥‥戦うわ」
美咲は立ち上がり、武器を構える。
「あの〜! ごめんなさい! いい加減に押さえておけません〜!」
エクスティが泣きながら、此方に向けて叫ぶ。彼女は他の能力者が美咲を立ち上がらせるために離れた戦いの場で、一人戦っていたのだ。
「あぁ、ごめんごめん――‥‥戦える、よな?」
真田が問いかけると「もちろんよ、無様な姿は一度でいいわ」と美咲本来の性格で答えた。
それから前衛組はキメラと接近して戦い、エクスティは木の上から援護射撃を行う。キメラが一匹だという事もあり、上手く戦えば苦労することはなかった。
「豚も煽てれば木に潰される」
冥姫は小さく呟き、それと同時にキメラの隣にあった木が倒れ、キメラは木に潰されてしまう。
「何か知らんが‥‥チャンス?」
真紅が呟き、能力者達は自分達の使える技を使い、動けぬキメラに総攻撃をして倒したのだった‥‥。
●解放される心
「ふん、倒したか。まぁ、それがお前達の仕事だろうから当然だな」
町長の男がキメラを倒して帰ってきた能力者達に吐き捨てるように言う。
「町長さん、そんな言い方はないんじゃねか?」
内藤が少し怒ったような口調で話しかける。
「な、何がだ」
町長は少し怯え、一歩下がりながら言葉を返してくる。
「美咲さんは、あんただつの事を嫌いだけども、きちんと仕事をしただ」
「今のあなたたちなら分かるでしょう。もし、あなたたちが美咲の立場なら、あなたたちはどう思いますか?」
真紅が問いかけると町長は俯き、黙りこくってしまう。
「困っている人がいれば助けるのは、能力者以前に人として当然だ。赤の他人だからといって見捨てるようでは、人でなしと言われても仕方ないからな」
鷹見の言葉に町長は自分達が行った行為、そして言葉を思い出し、青ざめる。
「わ、私達は――」
「愚かな人たち‥‥限りある生を限られた空間から抜け出そうという気すらないようね」
海音が嘲るように呟く。
「私は、あなたたちが嫌いだ」
美咲は呟くと同時に町長を殴り飛ばした。その行動に能力者達は呆気に取られてしまう。
「感謝しなさいよね。これぐらいですんだんだからさ、本当は殺しても飽き足りない。けれどそれじゃ‥‥あんた達と変わらない。それだけはごめんだわ」
そう言って美咲は踵を返し、帰る為に足を動かしていく。
「やるじゃないの」
海音が可笑しそうに、美咲に話しかける。
「ふふ。なんだか皆に言われたら、恨みとかどうでもよくなっちゃってさ」
美咲が笑いながら答える。
「美咲さんはやっぱり笑ってる方がいいだね」
内藤は心からソウ思っているのか、笑顔で話しかける。
「閉鎖性な場所‥‥しかし文化を否定すること、そして人類を否定することはバグアを擁護してしまうことになるから、あたしは―‥‥って誰も聞いてないし!」
比留間が少し良い事を言おうとしていたのだが、それを聞いているものは誰もいない。
その事に能力者たちは、また笑う。もちろん美咲も‥‥。
それは恨みから美咲の心が解放された瞬間だった――‥‥。
END