タイトル:籠の中のもやしマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/28 00:38

●オープニング本文


失敗した。

凄く失敗した。

まさか、お母さんがあんなに怒るなんて‥‥。

※※※

「なんてこったい‥‥」

キルメリア・シュプール(gz0278)はベッドに腰掛けながらため息混じりに呟く。

事の始まりはキリーの魔王っぷりだった。

いつものように(見知らぬ)男性能力者を苛め抜いていたのだが、この日キリーにとって最悪とも呼べる出来事が起きてしまったのだ。

そう、キリーの母親がそれを偶然にも目撃してしまったのだ。

「あんたって子は! 少しはやんちゃが直ったかと思えば‥‥!」

(すげぇな、今までの態度の何処を見たら直ったって思えるんだろう)

苛められていた男性能力者が心の中で呟き、キリーと母親のやり取りを眺めている。

「もうお母さん怒ったんだからね! キリー、あんたはもう家から出なくて宜しい!」

ぐいぐいとキリーの腕を引っ張りながら自宅へと戻り、友人である能力者達にキリーを見張ってくれるようにと頼んでいた。

「今日で4日目。牢屋に閉じ込められた囚人ってこんな感じなのかしら。大体お母さんは大げさなのよ。あんな男イジメたって何にも変わらないんだから」

さて、と呟きながらキリーは携帯電話を取り出し、メールを打ち始めたのだった。


『緊急事態。さっさと助けに来い。ヘタレ』

●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
ソフィリア・エクセル(gb4220
19歳・♀・SF
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
南 十星(gc1722
15歳・♂・JG
カノン・S・レイバルド(gc4271
18歳・♀・DF

●リプレイ本文

―― (自宅に)囚われたお姫様 ――

「どうぞずっ見張りも疲れたでしょう? お茶とお菓子を用意してきましたので、少し休まれてはいかがですか?」
 南十星(gc1722)はキルメリア・シュプール(gz0278)の母親の友人である能力者達にお茶とお菓子の乗ったトレイを差し出す。
 彼は別にキリーの家に就職した訳ではない。これもキリーを助ける為の準備行動だった。
(若干疑問も残りますが仕方ありませんね。それに更正されても困ります。キリーはあのキリーだから良いのです)
 南は心の中で呟く。勿論、キリーの家にいる使用人達には予め作戦を言っておりキリーを連れ出す事は伝えてある。


(はわわ‥‥ついにバレちゃったのですね、遅いくらいですけどー‥‥でもだからって、僕達を巻き込むのはどーかと思うのです)
 土方伊織(ga4771)は心の中で嘆きの声を漏らす。しかし此処で助けなかったら、と考えると土方は「とほほ」とため息と共にがっくりと肩を落としたのだった。
(ついに僕の時代が来たのにゃー! しっと団にお泊りさせるのにゃ!)
 白虎(ga9191)は心の中で叫ぶ。もはや今回の彼はそれだけの為に動くといっても過言ではないだろう。
「それにしても‥‥お母さんの対応も極端ですねぇ」
 仮染 勇輝(gb1239)は苦笑交じりに呟く。彼もキリーを全力で救い出し、全力で母親に土下座なり何なりして謝るつもりでいた。
「キリーさんが幽閉? 面白いですけど‥‥直接見に行った方が余計に面白くなりますわよね?」
 ソフィリア・エクセル(gb4220)は天使(むしろ悪魔)な笑顔で「うふふ」と笑みを浮かべたのだった。
「幽閉ねぇ、んー‥‥キリーも大変だねぇ。さてさて‥‥囚われのお姫様を助けるのはどちらの王子になるのか」
 見物だね、と言葉を付け足して神咲 刹那(gb5472)は白虎と仮染の二人をちらりと見たのだった。
「はは‥‥今回は、まぁ‥‥自業自得としか言い様がねぇな。だが女が助けを求めてるなら行くしかねぇだろ!」
 いざゆかん、もやし要塞へ! とぐぐと拳を強く握り締めながらガル・ゼーガイア(gc1478)は意気込みを見せるかのように大きく叫んだのだった。
「もやしの君‥‥この前はお友達になりましょうって、言い忘れたのよね‥‥今回は言えるかしら? 大丈夫、メモはちゃんと持ってるからちゃんと名前を伝えられるわよね」
 カノン・S・レイバルド(gc4271)は用意してきたメモを見ながら小さく呟いた。
 キリーを助けようと思う者、面白がる者、様々な能力者達を交えてキリー奪還作戦は開始されたのだった。


―― キリーを助けよう、後で罵られようとも ――

 作戦決行数日前、土方はシュプール家の執事のサスケに執事見習いとして雇ってくれるようにと連絡を入れていた。
「いいに決まってる! 早く魔王退治してくれ! 連れてってくれ! 八つ当たりが酷いんだよ!」
 顔中が青あざだらけのサスケを見て土方は(はわわ、お、恐ろしい人相になってるですぅー)と心の中で雇ってくれるように頼んだ事を瞬時に後悔していた。
「わんこ! 早く連れ出しなさいよ! 何考えてるの!? あんたなんか首から鎖でも繋がれてきゃんきゃん鳴いてればいいのよ!」
 準備の為に土方がコスチューム・アリスをキリーに渡しに来た所、部屋に入るなり罵声の嵐で土方は「はわわ、むしろ僕を助けてください」と切実に願った。
「白虎さん達からの連絡によればもうすぐ犯行声明が届くらしいのですよー」
「どうでもいいからあんた早く荷造りしなさいよ」
 白虎からの電話でお泊りセットを用意しておくようにと言われたキリーは土方に荷造りを開始させた。
「モミアゲ人形のモミーは必需品ね。出来ればそのベッドも持って行きたいし、洋服はちゃんと日数分以上入れておいてよね。ぱんつはうさぎ柄のを入れておきなさいよ」
(ぱ、ぱんつくらい自分で入れてくださいですぅー!)
 恐らく他の能力者に知られては粛清されそうな準備に土方は(ぼ、僕‥‥生きて帰れるです?)と心の中で呟いたのだった。
「キリーちゃん!? ちゃんと居る!? 何か妙な手紙が来たから気をつけてね!」
 ドアの外で女性能力者がキリーに話しかけてくる。
 ちなみに届いた手紙と言うのは『もやしお姉ちゃんには、暫くうちに来てもらうのです。しっと団☆総帥』と誰が送ってきたのかバレバレな内容だったりするのだが。
「キリー、お茶ですよ」
 南が能力者達に休憩と言う名目でサロンに集まってもらっている間、キリーの部屋にうさぎの着ぐるみを持って来た。
「停電が起きた後、それを着「嫌よ」此処から出たいなら言う通りにして下「私に命令しないでよ」さいね」
 キリーの罵声を見事にスルーして南は部屋から出ていく。その後八つ当たりとしてボコられたのは土方だというのは言うまでも無い。

「貴方ですか、何度もピン逃げしていたのは。いい加減にして下さい。こっちはあの魔王娘のせいで精神的に参っているんです。これ以上私達の胃に穴が開くような事はしないでもらえますか!!」
 ガルはピン逃げを十回程繰り返してサスケが出てくるのを待っていたのだが、出てくるのはげっそりとやつれたメイドだけ。
 しかもキリー脱出劇の事を話す前に捲くし立てられてしまい、ガルは落ち込んだ様子で諦め――たフリをして裏口の方へ回っていった。
「どうせならスパイのように潜入したかったぜ‥‥」
 ガルがぶつぶつと文句を言う中、神咲も別ルートから屋敷の中へと侵入していた。以外とこの屋敷、侵入に対してセキュリティなどは無いかのようにばっちりと忍び込む事が出来るのは何故だろうか。
「うぁぁ、何で執事服がないかなー‥‥」
 神咲は使用人達の部屋に忍び込み、ずらりと並ぶメイド服を見てがっくりと肩を落とす。使用人の服さえ着ていれば、ぱっと見では侵入者だとバレないと神咲は考えていた。
(もしバレそうになっても体調が悪くて何日か休んでたって言えばいいだけだし)
 神咲が屋敷内を歩いている中、南や土方によって屋敷内に入れられたソフィリアは彼女特製のチョコをお披露目していた。
「こっちの方はVD時期じゃなければ普通に美味しい和スイーツなのですわよ?」
 ソフィリアが取り出したのは外側だけチョコ香料を使用した羊羹、中身は白玉ぜんざいという物と、外見だけはボンボンで中身はハバネロなどの激辛なもの。後者の物を口に入れれば最後、天国が見えるに違い無い。
「こちらにサンプルを置いておきますけど、食べちゃ駄目ですわよ? 食べちゃ駄目ですわよ?」
 むしろ喰え、的な意味合いの「食べちゃ駄目」を連呼するソフィリア。
 その時だった。バシン、と言う音が響き渡り屋敷の中が突然真っ暗になった。そしてその停電が合図であり、陽動役としてキリーに変装して屋敷の中を走り回る能力者達はコスチューム・アリスを着て行動を開始した。

「おい! キリーちゃんがいないぞ!」
 停電になった事で母親に頼まれていた能力者達はキリーの部屋へと向かい、キリーがいない事を確認して大騒ぎを始める。
「おい、外! あそこにいるぞ!」
 少し遠くからカノンがコスチューム・アリスを着てキリーのように見せて能力者達にわざと見つかる位置に立っている。
「ええ!? あっちにもいるぞ!?」
 別の能力者が見つけたのは土方が変装しているキリー。
「勘弁してくれよ! あんなのが何人もいたら俺達死ぬぞ!?」
 何気に酷い事を言われるキリーなのだが、それだけ普段の行いが悪いという事なのだろう。
(はわわ、こっちに来てしまったですよー‥‥このまま捕まったらまおー母に何をされるか、か、考えただけでもおそろしーのですよー‥‥)
 土方は捕まった時の事を考え、さぁっと青ざめる。
「にゅー、あっちに逃げるのにゃー!」
 白虎がこっそりと土方を誘導し、土方は白虎の誘導通りに逃げる。
「にゅはははは、いけい! 奴らにカオスを教えて来い☆」
 白虎がバッと手を差し出す。するとキュイーンと機械音を響かせてキリー自慢のパイ投げマシーンが暴走を起こしたかのように動き始める。
「センサー 不能 敵ヲ捕捉デキマセーン」
 しかし暗闇で動けるようなセンサーがついていなかった為に被害は白虎にまで及んでしまう。恐らく彼自身もこんな結末は予想していなかった事だろう。
「何してるんだろう‥‥」
 その様子を少し離れた所から見て(聞いて)いた仮染。暗闇の中なのではっきりした事は仮染自身にも分からないが、はっきりしているのは白虎自身にも予想していなかった事が起きたという事、このまま仮染が行けば仮染自身も巻き込まれるという事。
「おっと、鳴子‥‥っていうか屋敷内に鳴子を仕掛けなくちゃならない状況って‥‥」
 仮染は苦笑しながら鳴子や他の罠に気をつけながら屋敷内を進んでいたのだった。
「あぁ、もう! 何が何やらの状態でどうすればいいんだ!」
 能力者の一人が大きな声で叫ぶ。
「あぁ、大変です‥‥あちらにお嬢様のご友人の方が‥‥お嬢様を連れ出す為に電源を落としたようです‥‥」
 神咲の言葉に「何だって!? もし連れ出されたら‥‥俺達‥‥」と最悪の状況を予想しているのかまるで土方のように顔色を真っ青にしている。
 その頃のキリーと言えば‥‥。
「‥‥何で私は自分の家で着ぐるみを着たまま徘徊してるのかしら‥‥っていうか皆は何処なのよ」
 うさぎの着ぐるみを着たまま屋敷の中をぽてぽてと歩くキリーはどうしたものかと考えていた。
「うお、もしかしてもやしか!?」
 そこで現れたのはガルだった。うさぎの着ぐるみが暗闇の中で歩いている姿に多少ビックリして話しかけたのだが‥‥。
「見つかって良か「良いわけないでしょ!?」な、何「何で私が自分の家で着ぐるみ着なくちゃいけないわけ!?」いや、だからちゃんと見つ「遅いのよ!」だから見つけたじゃねぇかっ!」
「おい、こっちで何か声が聞こえたぞ?」
 2人の叫び声に能力者達が気づいたのだろう、ばたばたと走る足音が聞こえ「やべぇ!」とガルはキリーの手を掴んで外まで走り出した。
 その頃、キリーを外に連れ出そうと考えていた南は肝心のキリーがいない事で屋敷の中を捜索していた。
 そう、キリーがちゃんと待っていれば南が迎えに来ていた筈だったのだが、キリー自身が勝手に動き回ったせいで南がキリーを見つけられないという状況になっていただけだったのである。
「にゅ、にゅああ‥‥キリーお姉ちゃんは何処にゃー‥‥」
 携帯電話でキリーに電話した白虎なのだが‥‥着ぐるみを着ている為に電話に出れず、ガルが代わりに電話に出た――のだが既にガルがキリーを連れ出そうとしている事に驚きを隠せず別な意味でのしっとパワー全開である。
「へぇ、白虎君や仮染君じゃなくてガル君と逃避行になるのかなー? 予想外なところがきたなぁ」
 神咲も逃げる準備をする中、ガルと逃げようとしているキリーを見かけて面白そうに呟く。
「もやしの君、無事に逃げられそうね。でも‥‥もやしの君のお母さん、ビックリでしょうね‥‥やっぱり、連絡は必要よね‥‥」
 カノンは首をかくりと傾げながら「子供を心配しないお母さんなんて、いないものね‥‥」と言葉を付け足した。
 ガルはAU−KVのバイク形態の後ろにキリーを乗せようとしたのだが‥‥。
「キリーお姉ちゃんの手を取って逃げるのは僕だぁー!!」
 ガルとキリーの間に割って白虎が入ってくる。
「さて、俺は後始末をしておかなくちゃ――ですかね」
 仮染は書いてきた手紙を目立つ場所に置く。手紙の内容は今回の騒ぎを起こした謝罪とキリーを匿う場所。
 そして『自分の子供でも全部無条件で信じるというのは無関心な事と同じ事ですよ。こんな若造の戯言ですが心に留めて置いてくだされば幸いです』と書かれてあり、その事が一番仮染の伝えたいことだった。
 その後、キリーが脱出したことをトランシーバーなどで知り、キリーを助ける為にやってきた能力者達も散り散りになってキリーの屋敷から離れたのだった。



―― しっと団本部に魔王降臨する ――

「はうー‥‥もう持てないですぅ‥‥」
 結局キリーの荷物は土方がしっと団本部まで運ぶ事になり、人形や洋服などもぎっしりと詰められていた。
「ちゃんとぱんつはうさぎを持って来たでしょうね!」
「はわわ、それ言っちゃうとまずいーで‥‥」
 土方の言葉が終わらないうちにガシっと両肩に手を置かれる。
「土方君――今の話、じっくり聞かせてもらおうか?」
「お姉ちゃんのぱんつを――見たんだにゃ?」
 仮染と白虎は黒く爽やかな笑顔で土方を追いつめ「ご、ごかいーなのですよー」と弁解するが実際に詰めたのは彼であり、弁解の余地は無い。
「もやしの君‥‥私の名前は‥‥カノンよ、前回伝え忘れたから‥‥それでね、もやしの君‥‥私と、お友達になってくれないかしら?」
 カノンが呟くと「別にいいわよ。友達と言う名前の下僕にしてあげるから感謝なさい」と言葉を返す。
「ありがとう」
 カノンは感激でキリーに強く抱きつき「ちょ、痛いってば!!」とキリーから物凄く暴れられていた。

 しかし、彼らは知らない。
 束の間の平和だと言う事を――‥‥後日、しっと団総本部にキリーの母親・リリシアによる襲撃がある事を、彼らはまだ知る由も無かった。


END