タイトル:キメラの街マスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/25 02:56

●オープニング本文


ダンスを踊りましょう。

殺し合いという名のダンスを。

アタシ達はただ立ち位置が違うだけなのよ。

あんた達からみればアタシ達はヒトゴロシかもしれないけど、それはあんた達だって同じなのよ。

元が人間であろうと、助けられないからと言って簡単に殺すじゃない。

アタシ達がヒトゴロシなら、あんた達も同じだって事を忘れちゃいけないわ。

全てに置いて都合が良い、なんて事は現実には存在しないんだから。

正義の味方ぶっていても、それは悪者が居るから出来るって事を忘れないようにね。


※※※

その町は小さいながらも活気に溢れた町――だった。

山に囲まれた小さな町で、場所柄か麓の町で必要な物は買い足すというのが住人達の暮らしだった。

だが、数週間前から町の住人が誰も来なくなったのだ。

不審に思った麓の町の住人が向かってみると――そこには。

――

「町の住人は50名あまり、本当に小さな町だったのね」

女性能力者が呟きながら資料を見る。

麓の住人が見たもの、それは見知った顔ばかりの――キメラだったのだとか。

住人の中には翼を無理矢理植えつけられた者、既に原型すら留めていない者、様々だったけれど、恐らくその町の住人は全て犠牲になったと考えて間違いないだろう、という言葉が資料には書かれていた。

「一体何の為に‥‥こんな事を?」

――

町の中にある小高い丘に彼女は立っていた。

元は優秀な能力者だったが、死亡した後、人類にあだなすバグアとして再び姿を現した女性――ビスタ・ボルニカ。

「何をしているんですか?」

「あんた達って似たような性格してるから、今のあんたがどっちなのか分からないわよね。普通、二重人格って元の人格とは違う性格になるモンじゃないの? 詳しくは知らないけど」

ビスタが後ろに立つ青年・オーガスタに言葉を投げかける。

「どちらの『私』ですからね。弟を見つけるという目的を持った自分自身」

(よく言うわよ。その弟を自分で殺したクセに‥‥)

「あんた、本当に破綻してるわよね。全てにおいて」

「貴方ほどではないですよ」

オーガスタはちらりと町の方へ視線を移しながら言葉を返す。

「活気に溢れていた町が一変して静寂の町、キメラの巣穴になったわけね」

アタシを楽しませてくれる奴はいるのかしら、ビスタは薄く笑みを漏らしながら呟いたのだった。


●参加者一覧

/ 榊 兵衛(ga0388) / セシリア・D・篠畑(ga0475) / ロジー・ビィ(ga1031) / 須佐 武流(ga1461) / 西島 百白(ga2123) / 漸 王零(ga2930) / UNKNOWN(ga4276) / Letia Bar(ga6313) / 堺・清四郎(gb3564) / 石田 陽兵(gb5628) / ソウマ(gc0505) / 沁(gc1071) / レインウォーカー(gc2524) / ネオ・グランデ(gc2626) / 和泉 恭也(gc3978) / ミリハナク(gc4008) / イレイズ・バークライド(gc4038) / ティナ・アブソリュート(gc4189) / ジョシュア・キルストン(gc4215) / ジャン・ルキース(gc4288) / 那月 ケイ(gc4469) / リック・オルコット(gc4548) / 緋本 かざね(gc4670) / 香月・N(gc4775) / 安原 小鳥(gc4826

●リプレイ本文

―― 平和な町は一変して‥‥ ――

 今回の事件は50人くらいの一般人が住んでいた町で起きた。
 住人だった人間達は全てキメラにされており、平和な町は一変してキメラ達の巣穴へと変わってしまったのだ。
「‥‥村人を虐殺して、キメラに仕立て上げた、だと! バグアめ! 最後の安らぎさえ奪おうとは許さないぞ!」
 怒りを露にしながら資料をぐしゃりと握り締めるのは榊 兵衛(ga0388)だった。
「元人間のキメラ‥‥別段、何とも思わない‥‥」
 セシリア・ディールス(ga0475)は小さく呟きながら、ちらりとロジー・ビィ(ga1031)を見て、口を閉ざす。
(‥‥何も思わない‥‥けれど、けれど‥‥もしも私の大切な人が、大切な人達が敵となって私の目の前に立ったら‥‥? その時、私は何を思うだろう‥‥)
 セシリアは答えの出ない問いを自分に問いかけ、唇を少しかみ締めた。
「キメラに侵略された街‥‥せめて安らかに眠れるよう、意を決して戦いますわ」
 それが最後の餞ですわ、とロジーは言葉を付け足しながら悲しそうに呟いた。
「たとえ元が人間であろうと、もう人間ですらないんだ。躊躇う理由にはならないさ」
 須佐 武流(ga1461)が「ふん」と鼻を鳴らしながら呟く。その瞳に彼自身も言っているよう躊躇いの色は見られない。
「‥‥キメラの巣か‥‥また1つ‥‥町が、消えた‥‥か」
 西島 百白(ga2123)が資料を見ながら小さく、そして低い声で呟く。
「いたた‥‥流石にこれで本格的な戦闘は厳しいかもな」
 漸 王零(ga2930)は怪我で痛む身体を抑えながら呻くように呟く。
(しかし‥‥今回の任務は正義を信じる連中にはきついだろうね。この身体がまともに動けば、そいつらの分も戦えるんだけどな‥‥ま、しょうがない)
 現状で出来る事をしよう、と漸は小さくため息を吐きながら言葉を付け足したのだった。
「さて、私に出来る事は‥‥時間を稼ぐ事くらい、かな? ――私には戦いにくい相手なので、ね」
 UNKNOWN(ga4276)は「ふぅ」と一つ小さく息を落とし、キメラの町へとなってしまった方向を見た。
「ひど‥‥い、ね‥‥」
 Letia Bar(ga6313)は町の雰囲気を感じ取りながら途切れ途切れに呟く。町から感じ取れる雰囲気、それは重苦しいものであり、時折風に乗ってやってくるのは血の匂い、腐敗した匂い。
「あぁ、本当に酷い事を‥‥早く楽にしてやる事が最大の供養か‥‥?」
 堺・清四郎(gb3564)がLetiaに言葉を返しながら資料に視線を落とす。
(小さな町が全滅した‥‥か。欧州や中国では珍しくないものだが住人全員がキメラ化しているなど普通ではない。一体どんなサイコパスが此処を襲撃したんだ?)
 堺は資料を見ながら全く敵の姿が見えないため、考える事をやめてキメラと化した住人達を楽にする事が最優先だと考えたのだった。
「本当に‥‥全員が犠牲になったのかな? もしかしたら生き残りが居る可能性だって‥‥」
 石田 陽兵(gb5628)が表情を曇らせながら呟く。キメラ化しているというのは麓の住人達が言ったことで、全員を確認したわけではないだろうと石田は考えていた。
 そして、もし生き残りが居るならば何が何でも助けたい――と。
「住人全員がキメラ化‥‥どうやら趣味の悪いバグアが居るようですね」
 ソウマ(gc0505)が低い声で呟く。住人全員をキメラに変える、普通のバグアならば此処までするだろうか? という思いがソウマの中にはあった。
「正義を名乗るつもりは無い。だけど‥‥守りたいモノがあって、戦っているだけだから」
 ソウマは拳を強く握り締めながら、これから経験するであろう惨劇にむけて覚悟を決めたのだった。
「これだけ‥‥キメラがいるなら或いは‥‥」
 沁(gc1071)は資料を見ながら小さく呟く。
「どんなにキメラの数が多くても‥‥片っ端から‥‥潰せば‥‥」
 沁は呟く。今回の任務に参加している能力者は25人。50のキメラ討伐は決して難しいものではないのだ。
「元、人間ねぇ」
 レインウォーカー(gc2524)は呟く。
(ボクは道化、相手が誰であろうと関係ない。元人間だろうとボクは躊躇わない。今まで、普通の人間を何人も殺してきたんだ、今更迷うのもおかしな話だしねぇ)
 ふ、と小さく笑みを浮かべながらレインウォーカーは心の中で呟き、でも、と言葉を続ける。
(なんでだろうなぁ‥‥とても、とても不愉快だぁ)
 心の中では関係ないと思いながらもレインウォーカーは今回の事件に対して少なからず怒りに似た感情を持っているのだろう。
「やれやれ‥‥住人全員をキメラ化か、厭らしい事をする奴がいたもんだ‥‥」
 ネオ・グランデ(gc2626)はやや苛立ち気味の自分を抑えながら資料を見る。
(‥‥なんと生産性のない‥‥と思ってしまう自分は何処かおかしいのでしょうね)
 和泉 恭也(gc3978)は心の中で呟く。彼は今回キメラ退治が目的ではなく、生存者の捜索を目的に任務に参加していた。
「生存者、居ればいいんですけどね‥‥」
 ぽつり、と和泉は言葉を付け足したのだった。
「ふふふ、私と同類の匂いがしますわ‥‥この狂気に彩られた戦場は人への激しい愛憎が感じられます。この舞踏会を開いた主催者とは、楽しいダンスが踊れそうですわ」
 ミリハナク(gc4008)はクスクスと妖艶な笑みを浮かべながら呟く。
「キメラとなってしまった皆様には申し訳ありませんけど、眠らせる事しか私達には出来ませんもの」
 ミリハナクが呟くと他の能力者達も同じ事を考えているのか、表情を曇らせた。
(ただ斬る、心を殺し、己のエゴで‥‥ただ背負う、重ねられる罪、流される黒き涙の数だけ)
 イレイズ・バークライド(gc4038)は心の中で言葉を紡ぎ、自分の心を落ち着かせる。これから殺されるのは何の罪もないただの一般人。
 だが、キメラとなってしまった以上、存在を許される事のない――元、人間。
「何で? 何でこんな事が出来るの? ‥‥ただ静かに暮らしていただけなのに‥‥」
 ティナ・アブソリュート(gc4189)は今にも泣いてしまいそうな表情で呟く。
「ティナ‥‥」
 イレイズが心配そうに声をかけると「‥‥そんな事、聞いても誰にも答えられないね」と俯きながら言葉を返した。
「今回のキメラは元人間ですか? でも人間同士だって殺しあいます。まさか今更自分の手が綺麗だなんて言うつもりはありませんよ」
 ジョシュア・キルストン(gc4215)は呟き「躊躇いなく、行きましょうか♪」と言葉を付け足した。
「酷い事するねぇ‥‥ただでさえ負傷で思う通りに動けなくてイライラしてるってのに」
 皆に迷惑かけたくないから無茶はしないけどね、と言葉を付け足したのは那月 ケイ(gc4469)だった。
「簡単だ。参加傭兵25人、元住人50人弱‥‥一人で二体始末すればいいだけのことだ。負傷者のことを考えても、これだけの人数がいれば何とかなるだろう」
 リック・オルコット(gc4548)は呟く。
「UNKNOWN、無茶しないでくれよ? 怪我してるには変わりないんだから」
 リックがUNKNOWNに言葉を投げかけると、彼は苦笑しながら「分かって、いるよ」と言葉を返してきた。
(どんなに頑張っても元には戻らない‥‥なら倒す事がキメラになった人への供養。全力で殲滅に当たる)
 緋本 かざね(gc4670)は心の中で呟く。彼女はキメラになった人達の解放を目的としており、キメラになった苦しみから解放させるべく今回の任務に参加していた。
「この住人達は香月たちをどう思うかしら? でも正義も悪も知らないわ。裏の裏は表、鶏と卵、そんな問答、面倒くさい」
 香月・N(gc4775)は小さく呟く。
「生きて、奪って、それだけよ」
 香月は淡々とした口調で呟き「兄さんに迫るかもしれない危険を排除する為に、そして‥‥シスターとの約束の為だけに香月は動くのよ」と言葉を付け足したのだった。
「私達で皆様に安息を与えられるか分かりませんが、私達に出来る事をするまでです‥‥それが、滅する事でも‥‥」
 安原 小鳥(gc4826)は祈るような仕草をして「皆様もお気をつけて」と言葉を付け足し、能力者達は作戦上で決めた班に分かれ、キメラ殲滅を開始したのだった。


―― 殲滅開始・かつての面影なく ――

 それぞれの思いを胸に秘めたまま、キメラ殲滅作戦は開始される。
 それは望まない戦いだったのかもしれない、だけど――此処で能力者達がキメラと化した住人達を屠らねば被害は拡大する。
 複雑な思いのまま、予め作戦で決めた班に分かれ、キメラ殲滅を開始したのだった。

※ 東班 ※
 町の東側のキメラを殲滅するのはネオ、セシリア、ロジー、香月、西島の5名だった。
「感傷に浸っている暇は無いか‥‥近接格闘師、ネオ・グランデ、推して参る」
 ネオは小さく呟きながら此方へと向かってきているキメラの姿を確認する。元が一般人だったせいか動きそのものはお世辞にも素早いとは言えなかった。
「酷い、ですわね‥‥」
 ロジーがキメラと化している住人を見ながらポツリと言葉を漏らす。
「行きますわよ‥‥セシリア‥‥」
 ロジーの言葉に「えぇ」とセシリアが短く言葉を返し、2人はそれぞれ武器を構える。
「先に謝っておくわね。ごめんなさい、香月に躊躇いなんて――‥‥微塵も無いわ」
 香月は呟き、一番近くにいたキメラにカンヴィクションアクスで攻撃を仕掛ける。先ほどの言葉通り、彼女にはキメラが元人間であろうが迷いも躊躇いも一切無いようだ。
「‥‥奴ら‥‥人型を見てると‥‥頭が‥‥痛くなる‥‥」
 西島はグラファイトソードを強く握り締めながら「さて‥‥始めるか‥‥」と言葉を付けたし、武器を振り上げた。

「悪いな、このまま放っておくと――被害が出るんだよ」
 ネオは呟きながらエーデルワイスを構え、スキルを使用してキメラの側面や背後に回りながらキメラを撹乱する。ネオの役割は撹乱。常に動き回ってキメラの狙いを定められないように立ち回っている。
「‥‥おやすみなさい」
 ネオが撹乱したキメラをロジーが二刀小太刀・花鳥風月で次々に切り裂いていく。蒼い闘気に包まれ闘うロジーの姿は何処か神秘的にも見えた。
「ロジーさんっ!」
 攻撃を終えたロジーの背後に新たなキメラが現れ、彼女は避けきれずに多少ながらもダメージを受けてしまう。
「‥‥ロジーさんには、これ以上指一本‥‥触れさせません‥‥」
 セシリアは自らにスキルを使用し、超機械・ブラックホールでロジーに攻撃を仕掛けたキメラへ攻撃を行った。
 そして、そのキメラを退治した後「大丈夫ですか?」とセシリアはロジーに声をかけ、スキルを使用して傷を回復した。
「‥‥恨むのなら‥‥俺だけを‥‥恨め‥‥」
 ざくり、と鈍い感触が手に伝わる中、西島が倒れたキメラへと言葉を投げかけた。
「‥‥お前達を‥‥殺すのは‥‥俺だ‥‥恨まれようが‥‥俺は‥‥俺の仕事を‥‥するだけ‥‥だ‥‥」
 西島は呟きながらもキメラを斬る手を休める事はしない。
「‥‥どうした‥‥? もっと‥‥俺を‥‥恨めよ‥‥」
 本当に元人間だったのか、そう問いたくなるほどまでに原型を無くしたキメラが彼の前に立ちふさがり、西島の頬を鋭い爪が掠める。
「‥‥もっと‥‥恨め‥‥貴様らを‥‥喰い殺す俺を!」
 激しく叫ぶような言葉の後、武器を振り下ろす。キメラの攻撃も受けたけれど、西島に斬られたキメラも事切れ、地面にばたりと倒れた。
 そして、5人が必死に戦う中――遠くの屋根からそれを見つめる女性がいた。
「所詮あんた達の正義なんて、その程度なのよ。助ける為に殺す、救いを与える為に殺す、殺された者が本当に助かったと思うと思ってるのかしら? 救われたと本当に思うのかしら?」
 ふ、と女性――ビスタ・ボルニカ(gz0202)は楽しそうに笑みを浮かべながら呟いたのだった。

※ 南班 ※
 町の南側のキメラを担当するのはLetia、安原、那月、ジョシュア、和泉の5名だった。
「はぁ‥‥はぁ‥‥こ、こんな子供まで‥‥」
 Letiaは震える声で呟く。彼女が先ほどフォルトゥナ・マヨールーで撃ち殺したのは子供のキメラだった。普通に生存していれば遊びたい盛りだっただろう、背中には無理矢理に翼を植えつけられたような後があった。
「どうしてバグアは地球に来たんさ! 何で全部壊して行くんだよ‥‥!?」
 キメラであろうと子供を殺してしまった、その事実がLetiaの中で弾けて泣き叫ぶような悲痛な声が辺り一帯に響き渡る。
「Letia様‥‥」
 安原が悲痛に叫ぶLetiaの姿を見て、悲しそうな表情をする。殲滅戦が開始されてから南班も何体かのキメラを既に屠っていた。
 そのたびに安原の心にも罪悪感と言う名前の傷が抉られるようにつけられていた。
(本当に‥‥もう、助からないんですね‥‥)
 安原は此方に向かってくるキメラを見て心の中で呟く。既に原型を留めない程に弄られたキメラもあったけれど、ほとんどのキメラは『普通の人間』そのものだった。
 だからこそ、心優しい能力者達は自分を責めるように罪悪感を感じるのだ。
「本来は守る側だってのに‥‥後ろは任せとけ‥‥って言えないのがつらいところだな」
 あーもう、情けない‥‥と那月は盛大にため息を吐きながら呟く。Letiaの激昂する姿も宥めようと那月は試みていたが、気の利いた言葉を思いつかず、宥めることも出来なかった。
「那月さん!」
「ケイさん!」
 和泉と安原の声が同時に響き渡る。那月は同じ班の能力者達に迷惑をかけないよう、射程ぎりぎりの所からの攻撃を行っていた。
 しかし――‥‥背後に潜んでいたキメラに気づく事が出来ず、先に気づいたのは和泉と安原だった。
 和泉はスキルを使用して那月を守り、安原もスキルを使用して那月に近づいたキメラへの距離を一気に詰めて攻撃を行い、那月は攻撃を受けずに済んだ。
「わ、わりぃ‥‥」
 那月は感謝の言葉を述べながらも少しだけ悔しそうな表情を見せていた。先ほど言っていた『守る側』が『守られている』のだから少しばかり悔しい思いが那月の心にはあるのだろう。
「良い覚悟ですね。せいぜい早く楽にしてあげましょう」
 ジョシュアはハミングバードを構え、スキルを使用してキメラを攻撃していく。
「Letiaさん! 仕留めそこなったのがいますので任せます!」
 ジョシュアの言葉に「分かった!」とLetiaは言葉を返し、ジョシュアが打ち漏らしたキメラに狙いを定めて攻撃を仕掛ける。
「僕は他の皆さんが見せているような表情は見せてあげませんよ」
 ポツリと誰にも聞こえないくらいの小さな声でジョシュアが呟く。
「こんな任務なんです、少しでも他の仲間達の苦悩をかき消す為に‥‥その為にも、僕は泣いてあげません、怒ってあげません」
 ジョシュアは薄く笑みを浮かべながら再びキメラに攻撃を仕掛けたのだった。

※ 北班 ※
「人を撃つ事には抵抗があるけど‥‥キメラなら大丈夫――でも」
 ちくしょう、と言葉を付け足しながら石田は小銃・M92Fをキメラに向けて発砲する。今、彼らの前に立っているのは元人間ではあるが既に助けられる状態ではないキメラ。
「今楽にしてやる‥‥ちくしょう」
 心の底から搾り出すような声で石田は呟き、キメラを狙い撃つ。
「本来ならば、このような力を持つ事なく、異形に姿を変える事無く、平穏無事に暮らしていく筈だった人間なんだがな‥‥」
 榊は低い声で呟き、鳳錬槍を豪快にふるってキメラに攻撃を行う。だが改造された住人はその攻撃に耐え、榊に攻撃を返してきた。
 その行動がまるで『死にたくない』と言っているようにも見えて、榊は今回の事件の首謀者に対する憎悪が膨らむ。
「‥‥もし誰かを恨まずにいられないというのなら、今ここでその骸に手を掛けている俺を恨むが良い。おぬしらの恨みは俺が引き受けて、バグアに叩きつけてやる」
 榊は呟くと同時にスキルを使用して、キメラに攻撃を仕掛け、攻撃を受けたキメラは地面へ倒れこんだ。
「‥‥安らかに、とは言ってやれぬが望まぬ死から解放してやろう」
 榊は呟くと地面に倒れこんでいるキメラに槍を突きたてて、キメラを退治した。
「‥‥くっ‥‥」
 榊がキメラを退治し終えた頃、少しだけ離れた場所で堺がキメラと戦っていた。相手はキメラであろうと元は平和に暮らしていた住人。
 その事が堺にスキルを使わせなかった。異形の者として変えられた、ならばせめてその骸は崩さないまま弔ってやりたいという気持ちがあったからだ。
「‥‥悪いな」
 堺は呟き、獅子牡丹を振るってキメラを退治する――と同時に堺の背後からキメラが二体攻撃を仕掛けてきた。
「危ないですわ」
 ミリハナクは双斧・パイシーズで1体目のキメラの攻撃を受け止め、2体目のキメラに斧をつきたてていた。
「ごめんなさいね。私は貴方達を殺してあげることしか出来ないの」
 そう呟いた後、ミリハナクは躊躇いの色を見せずに攻撃を続け、キメラを退治していた。
「‥‥生存者、居てくれるといいんだけど‥‥」
 ぐ、と唇をかみ締めながら石田はスキルを使用しながら翼を植えつけられて空から攻撃を仕掛けてくるキメラに狙いを定めて攻撃を行ったのだった。
「どんなに泣いても後悔しても結果は変わらない‥‥戦うしか方法がないのならっ」
 緋本は呟きながらイアリスと傭兵刀を構え、向かってくるキメラに対して迎撃を行う。
 まだ傭兵になって日が浅いのか彼女はキメラの攻撃を受け止めながら、厳しそうな表情を見せた。
「強い‥‥っ、これが本当に人だったなんて‥‥!」
 緋本は呟き、スキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「でも‥‥どんなに苦労しても倒してみせる、それが貴方達が解放される瞬間なんだから」
 緋本はイアリスを強く握り締め、キメラを倒す。
 それが唯一の方法だと信じて。

※ 西班 ※
(ただ殺す、心を殺して、黒き涙だけを流し、本当の涙は流さず)
 イレイズは心の中で呟き、キメラの攻撃をステップや体を捻って避ける。
 彼、イレイズも出来るだけ原型を留めたまま退治する事を願っており、彼自身はキメラの攻撃を避け続け、隙を突いて心臓を一突きにする――という退治の仕方を行っていた。
 勿論、リスクが高いわけで他の能力者達よりも僅かに傷が多かったりもするのだけど。
「そういえば、イレイズとは初めましてだなぁ」
 レインウォーカーが思い出したように呟くと「そういえば、そうだな」とイレイズもキメラの攻撃を避けながら言葉を返す。
「ボクは前に出て徹底的に殺す。後と空は任せるよぉ」
 レインウォーカーはそれだけ言葉を残し、言葉通り前線に立ってキメラを攻撃し続ける。
「今日はかなり機嫌が悪い。だから、お前ら全部ボクが殺してやる」
 そう呟くレインウォーカーだったが、道化を称する彼にしては冷たいまなざしだった。
「早く‥‥こんな任務を終わらせられるように‥‥」
 ティナは呟きながらスキルを使用してキメラの側面へと周り、再びスキルを使用してなるべく一撃で沈められるように心がけながら戦っていた。
「瞬雷!」
 沁が機械巻物・雷遁を使用しながら攻撃を仕掛ける。威力は弱いが詠唱する言葉が短い、そしてその攻撃は鋭く速いものとなっており、キメラの動きを一時的に止める攻撃にはぴったりなものだった。
「雷撃‥‥」
 先ほどの攻撃で動きが止まった所に再び攻撃を仕掛ける。先ほどの攻撃よりも遅いのだが、威力は強い。
(もしかしたら、今回で‥‥分かるかも‥‥しれない)
 沁は心の中で呟く。彼には自分自身の為にとあるキメラを探すという目的があった。そこで大勢現れたキメラ。もしかしたら自分が探すものの終着点になるかもしれない、という事も考えていた。
「怖いか? 痛いか? 苦しいか? 辛いか? だったらボクに殺されろ。全部ボクが奪い去ってやる‥‥!」
 レインウォーカーは飄々とした口調で呟くのだが、見て取れる表情の変化に他の能力者達も気づいていた。
 攻撃をするたび、キメラを退治するたび、彼自身の心が痛んでいるという事に。
「なんで、こうも不愉快なんだろうなぁ‥‥! ボクはもう殺す事を躊躇うようなモノじゃないのに。なんで、心が痛むんだ!」
 こんな任務を受けていれば当然の事、レインウォーカーの言葉を聞いた能力者達は口にこそ出さなかったけれど、心の中で呟いたのだった。

※ 遊撃班 ※
「元が人間だったという事は考えない方がいい。ただ『キメラ』を駆除する。それだけさね」
 リックはAU−KVに乗り、後ろにUNKNOWNを乗せながら他の能力者達に言葉を投げかけた。恐らくリックに言われる以前に能力者達も覚悟を決めていた事であろう。
「UNKNOWN、死角のカバーなどを頼むよ」
 リックの言葉に「まぁ、お手柔らかに頼む、よ」とUNKNOWNは言葉を返す。
 遊撃班は東西南北の位置を決めず、黒幕との戦闘を想定して広域に渡って担当する班。
「こんなキメラを作って‥‥悪趣味な」
 ソウマは眉をひそめながら呟き、イアリスでキメラを斬る。
「さて、黒幕とやらは何処に現れるかな?」
 須佐は初めから黒幕――ビスタ達との戦闘を主眼としていた。彼を含む能力者達はまだビスタ達の犯行とは気づいていないのだが、こんな事件を起こした黒幕が何処かにいる。
 そう考えていた。
「こんな身体ではなければ、戦いに参加することが出来たんだけどな‥‥」
 漸が少し申し訳無さそうに呟く。だが、それを責めている者はなく、漸を含む能力者達はどのような手段であれ、生き残る事が大切と考え、任務に当たっていた。
「他の班に聞いたところ、かなりの数を倒しているようだ。恐らくこの辺に残っているキメラが最後なのではないかな?」
 漸がトランシーバーで他の班にキメラの撃破状況を聞いたりして状況整理を行う。
「と言うことはこの辺のキメラを退治してしまえば、終わり――と言うことになりますね」
 ソウマが言葉を返しながらキメラを斬りつけていく。
 リックとUNKNOWNは予め用意していた5Setの荒縄と苦無を結びつけたもの。
「ふむ、ここらがいいか」
 ちらりと空を飛ぶキメラに視線を移し、キメラが降りてくるタイミングを計って、ソウマと漸に縄を引くようにと指示を出す。指示通り縄を引いたらキメラが木に括られるような体勢になり、須佐がキメラに攻撃を仕掛けてトドメを刺したのだった。
 その後、遊撃班もキメラが居ないことを確認して能力者達は町の入り口付近に合流する。


―― 現れた黒幕、彼女の目的は ――

「笑わせてくれるわね」
 キメラ退治を終え、一時休憩を挟んだ後で生存者探しを開始しようとしていた時、面白そうに笑う女性の声が響き渡った。
「アンタ達がキメラをコロス所、見せてもらったけど――楽しんでやってたんじゃない?」
 壊れかけた建物の屋根の上から能力者達を見下ろし、ビスタは言葉を続ける。
「アンタ達もあたし達バグアと何ら変わりないのよ。必要とあれば殺す、救う為に殺す、本当に相手が救われたとでも思ってるわけ? 可笑しいを通り越して呆れるわね」
「お前が‥‥この事件の‥‥?」
 西島が低い声でビスタに問いかけると「そうね、これを仕掛けたのは私達よ」とさらりと言葉を返す。
「‥‥貴様らの正義‥‥喰らってやる‥‥」
 西島の言葉に「ふふ、偽善な能力者があたしの正義を喰う? 食あたり起こすんじゃないかしら」とからかうように言葉を返した。
「‥‥こんな事して‥‥何が見たいんさ!」
 Letiaが激昂しながらビスタに言葉を投げかけると「正確には見せてもらった、かしらね」と言葉を返した。
「普段は正義だの何だのと抜かしている能力者達がどんな行動に出るか見たかっただけ。まぁ予想通り過ぎて面白くも何ともなかったけどね」
「僕は『正義』を名乗った覚えはない。ただ、守りたいものがあって戦っているだけだ」
 ソウマはキッと強い視線でビスタを睨み付けながら言葉を返す。
「多くの命を弄んだこと、その罪は万死に値する。閻魔の裁きを待つまでもない。僕がこの手で冥府魔道に叩き落してやる‥‥!」
 ソウマの言葉にビスタがけらけらと笑い始める。
「閻魔様? 本当に裁くべき神のような存在が居るのなら何でこの状況を何とかしなかったのかしらね? 信じる者は救われる? 違うわね」
 信じれば裏切られるのよ、ビスタは先ほどまでの笑みを消し、怒りと殺意を混えた視線で能力者達を睨みつける。
「貴方が間違っているなんて言えません。自分はまだ人間なのですから」
 和泉がビスタを確りと見据えながら言葉を投げかける。
「そうね、どうせ交わる事のない平行線のようなものだからね、あたし達は」
「私と戦ってみませんか?」
 にっこりとミリハナクは笑みながらビスタに言葉を投げかける。ミリハナクはビスタに同類の狂気を見いだし、同類の友として力の限り戦いたいとも思っていた。
「‥‥遠慮しておくわ。はっきり言ってこの人数でかかられたらあたしも勝てるなんて絶対の保障がないもの。どうせ殺し合うならもっと相応しい場所で殺し合いしたいの」
 それに、とイレイズに視線を移しながら「あたしが下にいたら確実に襲い掛かってきそうなのが何人もいるし」と笑って言葉を返す。
「惨劇を作り出し、自分は安全な位置で――ですか。良い趣味をお持ちのようで」
 ジョシュアも表情こそ笑みを作っているが、瞳の奥底には怒りを感じ取れる視線でビスタに言葉を投げかけた。
「あんまり挑発しないでくれるかしら? 最後の生存者を生きたまま保護したいでしょう?」
 ビスタの言葉に能力者達が目を丸くする。
「実はさっき見かけたんだけどね、面白いものを見せてくれたお礼に生かして返してあげようかなぁとか思ってたりするのよね。あんまり挑発されると‥‥殺したくなっちゃうなぁ」
 ふ、とビスタは笑みを浮かべ、能力者達は人質とも取れる扱いに悔しそうに表情を歪める者もいた。
「生存者は此処から正反対の農作業小屋の地下室にいるわ。所詮能力者が偽善で動いているという所を見せてくれたお礼よ。それに‥‥結構な数のキメラと戦ったせいでボロボロじゃない。あたしと殺し合いをして前の傷なんかを言い訳にしてもらいたくないものね」
 それじゃごきげんよう、ビスタはそれだけ言葉を残すと能力者達の前から姿を消したのだった。

 その後、能力者達は生存者を救助する班と住人達の埋葬をする班に分かれて行動を再開し始めた。
「‥‥おやすみ、なさいませ‥‥」
 安原は持って来たバイオリンで鎮魂歌を奏でる。悲惨な最期を迎えてしまった住人達が少しでも安らかに眠れるように、と。
「‥‥‥‥」
 香月も埋葬作業を黙々と手伝っていた。表情こそ変えないけれど香月も住人達が安らかに眠れるようにと祈りを込めながら。
「来世はもっとマシな人生を歩めよ?」
 リックも埋葬を行いながら次に生まれてきた時の幸せを願う。
「許してくれとは言わない、全部背負って生きてやる、それが俺の弔い方だ」
 安原の演奏を聞きながら黙祷を捧げ、那月は小さな声で呟く。
「イレイズさん‥‥少しだけ背中を貸してください」
 ティナは呟いた後、イレイズの背中に顔を埋める。
「ティナ?」
「少しの間でいいから‥‥お願い‥‥」
 呟くティナの声は涙の混じったもの。状況を理解したイレイズは「少しといわず、いつまででも構わないよ」と言葉を返し、空を仰いだのだった。
 イレイズは自分が手に掛けた命の、人の名前を覚えておきたいと考えていた。自分が奪った命を忘れぬよう、己の罪の証として。
「くそったれが‥‥」
 か細く呟かれた言葉は誰の耳にも届くことはなく、広がる空の中に消えていった。
「結局は見解の違い、ただそれが致命的なだけ‥‥憎む人も多い、敵も味方も死にすぎた‥‥しかし‥‥」
 いつか理解し合える日が来ればいいのですが、と和泉は言葉を飲み込んだ。
「雨、降らないかなぁ。冷たく激しい雨。降ってくれれば嫌な事全部流してくれるのになぁ――はは、無様だなぁ。情けないぞぉ、道化ぇ」
 レインウォーカーは空を仰ぎながら呟き、雨を望むのだがあいにくとこんな時に限って雨は降ってくれない。
 まるで忘れることを許さない、とでも言うかのように。
「‥‥この‥‥キメラ達も‥‥ない、か」
 沁は何処か残念そうに呟き、埋葬作業を続ける。
(この光景を見るたび、何度でも誓うよ。この戦いを早く終わらせて見せると)
 ソウマは傷ついた身体で強く心の中で呟いたのだった。
「このくらいの事しか出来ないが‥‥どうか静かに眠ってくれ‥‥」
 堺は呟きながら住人達の弔いをしながら呟く。
「ねぇ、ジョシュ? 帰ったら‥‥前に言ってた手品、見せて欲しいな‥‥」
 元気のないLetiaを案じたジョシュアが薔薇を差し出すと、Letiaはそれを受け取りながら弱々しく微笑む。
「現実ばかり見てても、つまらないって言ったけど‥‥あれ、少し違うの」
 現実ばかり見てると‥‥苦しいんさ、とLetiaは言葉を付け足した。
「‥‥偽善かもしれないな。だが罪もなくキメラとされた村人達の魂が安らかになるのなら、やらないよりやった方が俺達の気休めになるからな‥‥」
 榊は呟きながら埋葬作業を再開する。
 そして、一人離れた西島は大きく激昂した叫びをあげていた。自分の村の人たちもこんなキメラに、と思ったら叫ばずには居られなかったのだろう。

 その後、救助活動に行った能力者達は小さな子供をつれて帰ってきていた。住人全員が無残な姿にされ、退治されたのだが――‥‥1人だけでも生存者がいた事だけでも能力者達の心は救われた――のだろうか。



END