タイトル:誰もが持つ狂気の鎖マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/21 01:23

●オープニング本文


誰だって、一度は思った事がある筈だ。

こんな事なんて思った事がない、とは言わせない。

だって俺達はそこらの一般人より遥かに違う『人種』なのだから。

※※※

「うわぁ、壮絶ねぇ、この依頼」

女性能力者が表情を引きつらせながら小さく呟く。

彼女が見ている依頼、それはキメラ退治でもなく――能力者を制圧するという内容の依頼だった。

「何で能力者が制圧対象になってるのよ‥‥」

ため息混じりに女性能力者が資料をぱらぱらと捲ってみると‥‥。

――

事件が起きたのは小さな町、農作物などで生計を立てている者が多い若者の少ない町だった

近くにキメラが現れ、住人達は能力者要請を行い、キメラを退治してもらった。

お礼と言う形で料理や酒などを振舞った――のだが、異変はこの辺から起き始めた。

キメラ退治が終わって一週間が経過しても能力者達が帰ろうとはしない、という異変が起きたのだ。

住人達はキメラを退治してもらった事もあり、早く帰れ、と言う言葉もいえずに連日もてなしていた。

だが、はっきりいって裕福な人間など居ない町。料理や酒を振舞うにも限界が来ていたため、町に残る数少ない若者が能力者に「いつまで居るんだ」と言った――のだが‥‥。

その言葉に激昂した能力者達がその若者に向かって斬りつけ、若者は大怪我を負わされてしまったのだ。

――

「他にも数名の住人が負傷させられている模様――この能力者達ってバカなの?」

はぁ、と女性能力者が大きなため息を吐きながら呟く。

「まだ死人が出てはいないみたいだけど、こんな調子じゃいつ死人が出るか分からないわね」

――

だって、気づいたんだ。

俺達には一般人が持っていない『戦う力』がある。

それを使えば、命をかけて戦う事もなく楽に暮らせるんじゃないかって‥‥。

きっと、誰だって一度は考えた事がある筈だ。

無い、なんて言える奴なんか、この時代に存在するはずが無い。

●参加者一覧

流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

― 身内の不祥事 ―

 今回の任務に当たる能力者達、それは誰もがいつもと違う表情を見せていた。憂いた表情を見せる者、怒りを滲ませる表情をした者――その理由は、己の力を過信したあまり、やってはいけない事をしてしまった能力者達が現れたからだ。
(誰にでも欲と言う物がある、それは分かります‥‥けれど自分の欲の為に、他人に迷惑をかけていいものではありません‥‥)
 流 星之丞(ga1928)は心の中で呟きながら資料を見て、小さなため息を吐いた。
「相手は同じ能力者‥‥まぁ、別に特別な事でも‥‥」
 朧 幸乃(ga3078)は小さな声で呟く。彼女は少しだけ他の能力者達と違う考えを持っていた。人の目によって何が正しいのかと言う事も姿を変える。問題を起こした能力者達は自分の正しいと思う選択をしただけ。
「あちらが自分達の道を通すのと同じ、私は私の道を通すだけ」
 朧の言葉に「まぁ、そうなんスけどね」と六堂源治(ga8154)も苦笑いを浮かべながら言葉を返す。
 六堂は自分達の力は容易く人を傷つける力だと考えていた。その力は『バグアと戦う力』という一点に於いて許されている力であり、無害で有用だからこそ能力者は一般人から友好的に迎えてもらえる。
「その力を戦う力を持たない人に向けた時、しかも己の欲望を満たす為に向けた時‥‥俺達は『化け物』になっちまう」
 バグアと何ら変わらないモノに、と六堂は言葉を続けた。
「っていうか、こいつらは力を持つという事の意味がわかってねぇようだな」
 何の為に能力者になったんだか、龍深城・我斬(ga8283)は大きなため息を吐きながら言葉を付け足した。
「僕達で道を誤った先輩達を正道に戻せればいいのですけど」
 沖田 護(gc0208)が呟くと「でも‥‥」と和泉譜琶(gc1967)が表情を暗くしながら言葉を続ける。
「‥‥能力者に対する不信感‥‥強まってますよね‥‥」
 和泉が悲しそうに呟く。助けを求めた能力者達に住人達は苦しめられている。不信感を抱かない筈が無い。呟いた和泉の言葉に沖田は返す言葉が見つからず、俯いたまま唇をかみ締めた。
「能力者による犯罪行為か‥‥今まで無かったのか? だとすれば驚きだな」
 ニコラス・福山(gc4423)は小さな声で呟く。能力者による犯罪が今までも無かった訳ではない。バグアについた能力者すらいるのだ。
「‥‥言いたい事は山ほどありますが後にしましょうか‥‥」
 ティナ・アブソリュート(gc4189)は呟き、先ずは暴走している能力者達を制圧する事を第一にするようにと他の能力者達に向けて言葉を投げかけた。
 能力者達が起こした事件は許され難いもの、だが怒りや悲しみに身を任せてしまっては元も子もないからだ。
 それぞれの思いを胸に秘め、能力者達は高速艇で事件の起きている町へと出発していったのだった。


― 恐怖に慄く町 ―

「静かですね」
 流が敵能力者達に気づかれぬように町を大まかに見ながら呟く。町の中はシンとしており、町の至る所から何かに怯える気配が感じて取れた。
「無理ないっちゃ無理ないけどな。まさか自分達を助けに来た能力者達が牙を剥くなんて考えもしなかっただろうし」
 ニコラスが呟き、バイオリンケースを持ちながら歩き始める。彼の持つバイオリンケースには超機械が隠されている。
「問題を起こした能力者は4人。バランスの取れた4人で戦闘するとなれば結構厄介かもしれませんね」
 朧がメモを見ながら呟く。彼女は予め敵能力者達について調べており、ファイター、スナイパー、グラップラー、サイエンティストの4人組が事件を起こしている事を突き止めた。
「周囲の民間人を避難させた後じゃないと流石に戦闘はまずいよな。何処かで避難を促した方がいいかな」
 龍深城が呟き、能力者達は依頼主の所へと急ぐ。

「貴方達が、ですか」
 依頼主、それは町を取り仕切る町長だった。能力者要請をする原因となったのも能力者のため、あまり歓迎はしていない様子だった。
「えっと‥‥避難していない人って、いますか?」
 重苦しい雰囲気に耐えかねて和泉が町長に問いかけると「3人いますね」と短く言葉を返してきた。
「能力者達に飲み物や食べ物などを届けている女性が3人。その他は隣町まで避難しています」
 その言葉を聞いて流が「少々厄介ですね」と呟いた。
「あまり考えたくはありませんが、万が一の場合、その人達を人質にしてくる可能性があります」
 黄色いマフラーを靡かせながら流が呟くと「人質‥‥これ以上自分を貶めないで欲しいですね‥‥」と沖田が悲しそうな表情をしながら言葉を返した。
「何とか避難させるのは‥‥「無理でしょうね」‥‥それなら戦闘を行う際に優先して保護しないと」
 ティナの言葉を遮り、町長が呟く。町長の話によれば既に人質のようにして扱っているという。
「その人達は何処に?」
「此処から少し離れた旅館にいます、食事は此処から見えるあそこの食堂で取っていますが」
 町長の言葉に「旅館で食わないのか?」とニコラスが問いかけるのだが、旅館の人間達も避難しており、食事を作るのは町長夫妻なのだとか。
「ほら、来ましたよ」
 町長の言葉に能力者達が身を潜めながら窓から外を見ると4人の能力者達が此方に向かって歩いてくるのが見える。
 制圧する為にやってきた能力者達はそれぞれ武器を手に持ち、外に出ようとする――が、町長によって一時足を止められる事になる。
「何か御用ですか?」
「‥‥あまり、こういう事は言いたくありませんが――貴方達は大丈夫でしょうな?」
 町長から発せられたその言葉が能力者達の心を抉る。それほどまでに能力者達が起こした事件は住人達を傷つけたのだろう。
「おいおい、失礼だな。あんな奴らと一緒にしないで欲しいね」
 ニコラスは町長に言葉を返すが、町長もジロリと能力者達を睨んだままだった。


― 戦闘開始・能力者 VS 能力者 ―

 能力者達は覚醒を行った状態のまま身を潜め、問題を起こした能力者達が自分達に背を向けるまで息を殺していた。幸いにも避難できずにいた3人は旅館に置いたままなのか、周りに一般人の姿は見られない。

 そして――‥‥能力者達は動き出す。

 先手を打ったのは制圧にやってきた能力者達だった。六堂は超機械を持つサイエンティストを狙って奇襲を仕掛けた。
 だがグラップラーが割って入ってきて、六堂の攻撃はサイエンティストに届く事は無かった。その隙にサイエンティストは練成強化を使用したのだが朧がスキルを使用する。
「ちっ、そっちの女から潰せ!」
「降伏するつもりは‥‥無さそうッスね‥‥」
 剣を抱えた能力者がグラップラーに指示を出すが、朧としては接近戦も望む所であり、武器をライガークローに持ち変え、襲い掛かってきたグラップラーに攻撃を仕掛けた。
「まずい、銃を‥‥」
 その時、流はスナイパーが銃を構えて朧や六堂を狙っていることに気づきスキルを併用して、スナイパーが銃を撃つよりも早く接近して殴りつけた。
「させませんよ」
 そのまま流が腕を縛り上げてスナイパーを拘束しようとしたのだが、砂を投げつけられて拘束するに至らなかった。
「ほら、そっちばかりに気を取られていいのか? こっちは8人もいるんだぞ?」
 龍深城がスキルを使用しながらグラップラーに接近して一撃食らわす――筈だったのだがそれは避けられてしまう。
「当たるかよ!」
 グラップラーは紙一重で避けたのだが、龍深城は逃げようとした先を予測して動いており、グラップラーは避けた所で龍深城の攻撃をまともに受けてしまう。
「ふむ、フェンサーのスキルは便利だな」
 グラップラーが地面に倒れ、龍深城が拘束しながらしみじみと呟く。
「畜生ッ!」
 スナイパーが銃を龍深城に向けたと同時に銃声が響き渡るのだが、撃たれたのは龍深城ではなくスナイパー自身だった。
「自分の為ならたとえ同じ能力者でも躊躇わずに撃つ‥‥最低最悪ですね‥‥問答無用、情けは無しですよ」
 呟いたのはスナイパーの足元を狙い撃った和泉。彼女は自分の位置を敵能力者に知られぬよう身を潜めて狙撃を行っていた。
「おーい、こんな事今すぐやめるんだー。親御さんが心配してるぞー」
 だるそうに敵能力者達に向けて言葉を投げかけるのはニコラス。
「うるせぇ! お前らだって自分の力を使えば楽して暮らせるって思った事があるだろうが! 俺達は限りなくバグアに近い人間なんだからよ!」
「無いよ」
 ファイターの言葉に沖田が直ぐに言葉を返した。
「家族が全員居る、それはとても恵まれた事。元警官のお爺ちゃん、護衛業の父さん、鍛えた力で他人を護る、僕の誇り。彼らが僕の名に込めた願いを、裏切るなんて出来ません」
 沖田が視線を逸らす事無く言葉を返すが、それは敵能力者達の神経を逆撫でするばかりだった。
「綺麗事言ってんじゃねぇよ。そんな甘ちゃんで‥‥「甘ちゃんで、いいです」‥‥は?」
「貴方達は僕より強い。でも‥‥立ち向かう勇気を失った今は、誰にも勝てません」
 沖田の言葉に動揺しているのか、敵能力者達の動きが鈍くなり始める。
「4人と8人、たとえ貴方達がどんなベテラン能力者でも、4人分の差を埋める事が出来ますか? それに‥‥そんな動揺した心のまま、私達に勝てるとお思いですか?」
 ティナがスキルを使用しながら攻撃を繰り出し、ファイターの首に剣の切っ先を突きつける。
「貴方達は何の為に能力者になったのですか? 特別な力も持たない人達を力で抑えつけ、傷つける為?」
 違うでしょ? とティナは言葉を付け足しながら敵能力者達の言葉を待つが、誰一人として言葉を返す者はいなかった。
「お前らは戦う力が人より優れているだけだ、たったそれだけの事なんだよ。それで一般人を下に見てたら‥‥バグアと同じなんじゃねぇのか」
 ニコラスが言葉を投げかけると同時にスキルを使用してティナの武器を強化する。
「動かないで、それ以上動いたら――もっと動けなくしなくてはなりません」
 背後から攻撃を仕掛けようとしていたサイエンティストに切っ先を向けながらティナが言葉を投げかける。
「どうして、どうして貴方達はこんな事をするんです?」
 流の言葉に「わざわざ命をかけなくても楽して暮らせる方法があるんだ、誰だって選ぶだろ」とファイターが素っ気無く言葉を返す。
「僕はそんな事は思わなかった‥‥この力は自分で望んだものじゃないから。楽して生きようとしてもあの頃には戻れない‥‥貴方達にとっても、能力者になってしまった事が、不幸だったのかもしれませんね」
 流は寂しそうに笑いながら言葉を紡いだ。
「一応、猿轡とかさせてもらいますね。貴方達が今後どうなるのか分かりませんけど、自決とかされても困りますから」
 朧は既に戦闘する気をなくした敵能力者達を拘束し、猿轡を噛ませる。
「能力者か化け物か。決めるのは己自身。俺は、能力者でいたい。だから俺は、お前らを止めた。能力者として」
 六堂は拘束された能力者達を確りと見据えながら言葉を吐く。
「んー、俺も一言。別に能力者になったからって無償で誰でも助け、その為なら命を投げ出せとは言わん‥‥だがなぁ! 他者を傷つける事の痛みを理解せぬ者に、力を振るう事の意味を考えぬ者に、エミタを纏う資格は無い!」
 きっぱりと言い切ったのは龍深城だった。
「っつか、お前らエミタのメンテどうする気だったんだ?」
 龍深城が問いかけるが、敵能力者達は俯いたまま。恐らく何も考えずに突発的に行動を起こしたのだろう。後先考えずに。
「何か‥‥本当にやりにくかった。やっぱり対人ってけっこう違いますね」
 和泉が呟くと「おまけにそれなりに場数踏んでる奴らだからな」とニコラスが言葉を返す。
 その後、能力者達は拘束した能力者達を連れて町長のところへと向かった。
「許してもらえる事ではないですけど、本当にごめんなさい」
 沖田は深く頭を下げて町長に謝罪をする。能力者達を制圧したという事で避難していた他の住人達も戻ってき始め、全員が冷たい視線で能力者達を見ていた。
「あの、時間の許す限り事後処理の手伝いを‥‥「いらないよ」‥‥」
 沖田が事後処理の手伝いを申し出るが、若い男性から短い言葉で断られる。
(まぁ、住人からしたら早く帰ってくれって感じなんだろうけどな‥‥)
 龍深城がため息を吐きながら心の中で呟く。
(でも、ULTにはこの町にきっちり保障するよう訴えておくか)
 このまま捕まえてさよなら、では住人達があまりにもかわいそうだと龍深城は心の中で言葉を付け足した。
「えっと‥‥本当にごめんなさい」
 ぺこり、と和泉が深く頭を下げて住人に再び謝罪して拘束した敵能力者を連れて高速艇へと向かい始める。
「大体なんでこんな事件を起こしたんだよ、お前ら」
 ニコラスがため息混じりに呟き問いかけ、猿轡を外して言葉を待つと「‥‥楽してぇからだよ。死ぬ危険もねぇしな」と言葉を返してきた。
(ふぅん、つまんねぇ動機だな)
 ニコラスは心の中で毒づくように言葉を返す。
(私も‥‥死ぬ事は怖い‥‥でも‥‥それ以上に私は、大好きな人達を失う事が怖い‥‥だから、戦う。これからもずっと‥‥)
 ティナはちらりと敵能力者達を一瞥した後、自分に言い聞かせるように心の中で呟いたのだった。
「でもまぁ、とりあえず五体満足で降伏させる事が出来てよかったッスよ。お前らを殺すつもりは無かったッスけど‥‥腕くらいは斬り飛ばすつもりでいたッスからね」
 六堂の言葉に敵能力者達はぞっとする思いがしたのだとか‥‥。

 その後、能力者達は本部へと帰還して敵能力者達を引き渡した後、任務報告を行うのだった。


END