●リプレイ本文
―― 褌ブーム来たれ ――
褌ブームが廃れ気味だと言う事に気づいてしまった大石・圭吾(gz0158)は自分なりにブームを取り戻そうと必死になっていたのだが‥‥。
しかし歩く変態である彼が必死になった所で状況が良くなる筈も無い。むしろ悪化する展開しか想像できないのは気のせいだろうか。
そんな姿を見て、はたまた大石のそんな噂を聞いて心優しい能力者達が褌ブームを取り戻すべく協力してくれる事になった――のだが、果たしてどうなる事やら‥‥。
「よし、今日も褌普及活動を頑張ろう」
大石はキラリと歯を輝かせながらガッツポーズを取り、呟く。
「さぁ――今日もがんば(ドカッ)グボゥ‥‥ッ!」
大石が歩こうとした瞬間、UNKNOWN(
ga4276)の運転する車が大石を轢く。
「む、何処だ、大石!?」
ばたん、と慌てUNKNOWNが叫びながら車から降りてくるのだが‥‥勿論、そこに大石の倒れている姿は見あらたない。
「大丈夫か!? 大石!」
まるで自分には関係ないかのような口ぶりだが、先ほど大石を轢いたのは他の誰でもない彼自身である。
しかも、彼の巧みな運転は大石を車の下に置いたまま。
「――くっ、バグアめ‥‥大石を神隠しに合わせるとは。声は聞こえど大石の姿が見えぬ」
UNKNOWNは悔しそうに呟く。確かに「あんのおおおおおおんっ!」と叫ぶ大石の声は聞こえるのだが、大石の姿は見えない。ベストな位置で車の下に隠れているのだから見える筈も無いのだけれど。
「仕方ない、他の能力者と合流する事にしようか‥‥」
UNKNOWNは小さく呟き、他の能力者達の所へと向かい始める。車が去った後には間抜けなポーズで倒れる大石のみが残されていた。
「褌王子として、大石に協力するか。れっつ、ふんどし!」
リュウセイ(
ga8181)が大きく伸びをしながら呟く。彼を含む数名の能力者達は褌ファッションショーを行い、他の能力者、もしくは一般人に褌の良さを伝えようと考えていた。
「ふ‥‥久々に俺の登場だ」
格好良く不敵な笑みを浮かべながら呟いたのは天道・大河(
ga9197)だった。彼いわく、こういったモノは彼の嫁や娘には任せられないと考えたからだ。
「おおう、俺はどうすればいいだろうか」
ややよろめきながら現れた大石を見て「何を遊んでるんだ」と天道が言葉を返しながら、大石の行動について考え始める。下手に動かれては能力者達の行動すら無駄にされてしまう可能性がある。
「折角だ、スタンダードな越中褌‥‥って言うか、自分のお気に入りでモデルとして参加しておけ」
天道の言葉に「お、俺もモデルとしてデビューする日がやってきたのか‥‥あいどる誕生だな!」と間抜けな言葉を天道に返す。はっきり言ってこんな変態のアイドルは不必要である。
「大石さん、あんまりウザい事をされると練成弱体をかけてしまいますよ?」
にっこりと大石に脅しをかけるのは八葉 白雪(
gb2228)だった。
「う、うむ‥‥き、気をつけよう」
流石の大石も満面の笑顔で言われる脅しは怖いらしい。
「ふふ、ファッションショーを運営する機会なんてあまりないですから面白そうですよね」
白雪は楽しそうにアナウンスの確認などを行い始める。彼女はファッションショーなどでのアナウンスや解説を行う事になっている。
(はぁ‥‥相変わらず濃いですね)
げんなりとした表情でエイミ・シーン(
gb9420)は大石を見て、心の中で呟く。彼女は今回のファッションショーの為に褌の歴史などを調べていたりしていた。
それを知った大石は「褌の事なら俺に聞けーぃ!」と暑苦しい笑顔と共に迫られ、思わずロケットパンチで攻撃を行う。
「は‥‥しまった、つい手が出ちゃった‥‥で、でも大石さんだから大丈夫だよね‥‥」
エイミは倒れる大石を見て呟くのだが、元気に起き上がる姿を見て(心配しなければ良かった)と直ぐに後悔してしまうのだった。
(‥‥ナニ、ガ‥‥彼ヲ‥‥ソコマデ、熱ク、サセテ‥‥イルンダロウ‥‥)
ムーグ・リード(
gc0402)は大石を見ながら心の中で呟く。
「‥‥タマ、ニハ、異文化、交流、モ、良い、ト、思い、マシテ‥‥フンドシ、ノ、事ハ、ワカリ、マセン、カラ‥‥誰、カ、教えテ、貰えル、ト、嬉しい、デス‥‥」
ムーグの言葉に大石が食いつき「俺が教えてやろう!」と大石がムーグのところに駆け出そうとした時‥‥人ごみを上手く避けながらやってくる暴走車、もといUNKNOWNがやってくる。
「会場の皆様にお願いがございます。会場内では時折車両が猛スピードで突っ込んでくる恐れがあります。むしろ現在突っ込んできております、左右の安全をご確認いただき、大石さんの傍に寄らないようにしてください」
白雪が会場内にアナウンスを行うが、彼女の言葉を直訳すると大石は轢かれてもいいという言葉に聞こえなくもない。
勿論、その後UNKNOWNという名のバグア(?)に大石が轢かれたのは言うまでもない。
「きゃー! やってまいりました! 褌祭ファッションショー!」
きゃあきゃあと騒ぎながら姫川桜乃(
gc1374)がテンション高く舞い上がっている。
「これは、何のお祭?」
楽しそうな雰囲気に誘われてやってきたのはセラ(
gc2672)だった。彼女は雰囲気に誘われてやってきただけなので、何のお祭騒ぎなのか理解していない。
「はっはっは☆ ここは褌の良さを分かってもらうファッションショーの会場だぜ!」
大石がきらんと歯を輝かせながらセラに説明をすると「褌‥‥お祭用特殊スタイルだね!」とセラが満面の笑みで大石に言葉を返す。
「まだ自己紹介がまだだったね。初めまして、セラだよ♪ ところで大石さんってタイコとか得意なの? それともオリエンタルな踊りが得意とか?」
常に褌一丁という奇怪な姿である大石を見て、伝統舞踊などをしている人物だと解釈してしまったらしい。
確かにまさか普通に褌一丁で歩く人間がいるなど常識の範囲で考える事は出来ないだろうから無理も無い。
「会場にお集まりの皆様、お待たせしました。これより褌ファッションショーを開催いたします。心行くまでお楽しみくださいませ」
白雪のアナウンスが会場に響き渡り、褌ファッションショーが開催されたのだった。
―― ファッションショー・開催 ――
「さぁ、始まりました。本日のファッションショー‥‥まぁ、ぶっちゃけ褌オンリーなのですけども。その辺は気にせず楽しんでいただければ幸い! 進行は私エイミ、解説は白雪さんにお願いしますー。よろしくですよー」
エイミの挨拶が終わると拍手が起こり「それではエントリーナンバー1番、大人の色気とダンディズム満載のUNKNOWNさんです!」と紹介が行われ、それと同時にUNKNOWNがセッティングされた場所を歩き始める。
UNKNOWNは股切れ最高の褌を着用し、鋼線を束ねたような細身だが引き締まった筋肉をしており、細すぎるという印象は無い。咥え煙草をしながら歩き、常に余裕と知性を漂わせている。
「褌は日本古来より用いられてきた伝統的な服の1つです。御召しになる事で身も心も引き締まる事でしょう。お祭などの特別行事以外でも、普段着のお供として再考されてはいかがでしょうか?」
白雪のアナウンスが終わると同時にUNKNOWNは控え室の方へと下がっていく。
「続いてはエントリーナンバー2番、褌王子ことリュウセイさんの登場です」
エイミのアナウンスが始まったけれど、リュウセイはまだ登場せず、彼が調べた事を他の能力者、一般人にも知ってもらうべく語りを始める。
「褌は衣に軍と書くように元々は侍の身分を分けるものであったりしたんだ。履いてないのは下級武士とかな?」
「また、褌は中南米や東南アジア地方の原住民のスタイルがもとになっているとも言われている」
「奥が深いんだよ、褌ってのはな!」
褌王子参上、と大きな声と共にリュウセイがステージへと立つ。越中褌を履きながらリュウセイは「下着の一種とも言われてるが、それだけじゃないぜ!」と言いながらステージの上を歩き始めた。
「彼の着用している褌は越中褌といい、クラシックパンツ、サムライパンツとも呼ばれているものです。医療用のT字帯も越中褌の一種であるようですね」
白雪の解説にあわせてリュウセイはステージを歩き、一番奥まで歩くとくるりと向き直って控え室の方まで同じ速度で戻っていった。
「続いては天道・大河さん。褌は六尺褌と呼ばれる前垂れの無いタイプの褌です‥‥ってちょっと何ですかっ」
エイミが天道を紹介している最中に大石にマイクを奪われ「真面目な顔してるが奴は変態だ!」と大石が横槍を入れる。
「お前だけには言われたくないわ!」
シリアス度増量で『渋い漢』をイメージしながら歩いていた天道だったが、大石の余計な一言のせいで、それが全て台無しである。
「じ、時代劇や仁侠映画などでの『戦う漢』のイメージをこの褌に垣間見た。常に死と隣り合わせの世界を生きる能力者にはぴったりの褌といえるだろう」
真面目に説明しながらステージを歩く天道なのだが、先ほどの大石とのやり取りのせいか観客達もクスクスと笑いを堪えきれずにいるようだ。
(大石め、此処は「あの人カッコイイわ」とか言われるはずだったのに、何で俺は笑われてるんだ‥‥あの馬鹿野郎)
天道は笑いの視線に耐えながら、ちょっといたたまれない気持ちになりながらも自分のステージを歩き終えたのだった。
「何か笑いありのステージでしたね、さてさて次はもう褌といったらこの人! 大石さんの登場です! お気に入りの褌を持ってきてくれたようです」
エイミのアナウンスと共に虹色な褌を履いた大石が登場する。
「‥‥って何で虹色!? レインボー!? 意味が分からない!」
「‥‥さすがは大石さんですね、全く意図をつかめない行動です」
エイミと白雪も苦笑しながら、誇らしげに歩く大石を生温い目で見つつ小さく呟いた。大石を見ながら、次の出番でもあるムーグも褌を着用して自分の番に備えていた。
(‥‥なぜ、人前デ、下着姿デ居ル‥‥事ガ、デフォルトなのカ‥‥分からない、デス‥‥日本って、もっと、ぶんめー的デ、紳士的な国だと、思って、まし‥‥タ)
ムーグは誇らしげに歩く大石を見ながら心の中で呟く。そして褌を着用したムーグはそそくさと服を着ようとするのだが、ファッションショーを終えた大石から「何をしているんだ!」と怒られてしまう。
「服を着たら褌が見えないだろう。褌の良さが伝わらないだろう! 俺のように褌一丁で歩くのだ!」
きら、と歯を輝かせる大石によって褌一丁にされてしまい、ムーグはステージに放り出されてしまった。
「続いてはムーグさん、異文化交流の為に今回のショーに参加されたみたいです!」
「ムーグさんの着用している褌は越中褌ですね」
エイミと白雪のアナウンスの後、ムーグがステージを歩き始める。
「‥‥コレ、は‥‥着ている、ダケで‥‥身も心も、引き締まル、ラシ‥‥ク‥‥」
ムーグは素人ながらも一生懸命褌の良さを伝えようとしている。その初々しさが観客を煽っているのか真剣に聞いている人が多かった。
「続きまして姫川さん、彼女は九尺褌でちょっと露出が高いかもしれませんね」
「九尺褌と言う事で姫川さんは褌一枚で済ませているみたいです」
アナウンスの後、ステージに立つ姫川は楽しそうに歩き始める。
(なんだろう、他の褌と大差ないんだけど、裸みたいな感覚にいっそう近いかも‥‥)
一瞬ドキドキした姫川だったけれど、本当に一瞬でそのドキドキは終了した。
(うん! 私はこんな事を気にするキャラじゃないわ! 褌の良さを伝える為にも頑張るもん!)
そこで観客席から見ていたリュウセイと視線が合い「大丈夫か?」と言葉を投げかけられる。
「褌師匠! 異常ありません! と言う事でこのまま続行です」
にっこりと笑って姫川は胸を張ってステージの上を歩き始める。
そして姫川が控え室側へ戻ってくる間にセラが白雪やエイミに手伝ってもらいながら褌姿になる。
「セラってば、歌いながらくるくるまわってアピールしちゃうんだから♪ 夏の暑さに負けないような情熱的でアツアツのテンションを歌にしちゃうよ!」
にっこりと笑って帰って来た姫川と交代してセラがステージに上がる。
「最後はセラさん、歌って踊れる褌アイドルになるかもね!」
「最後に相応しく、元気に可愛らしくアピールしてくれる事でしょうね」
エイミと白雪のアナウンスに背中を押されながらセラがステージに上がる。先ほど自分で公言したとおり、歌いながらステージの上を歩き、観客達を沸かせていた。
そしてファッションショーは大成功に終わり、褌ブームが再来するかは分からないけれど能力者達は一生懸命手伝ってくれた。
「さて、片付け(ガガガガ)グハァっ!」
大石が珍しく手伝いをしようとした矢先にUNKNOWNから轢かれ「あんのおおおおおおおん!!!」と叫びながら大石はUNKNOWNを追いかけていく。
「轢かれる、なんて‥‥何、カ‥‥悪い事、でモ、した‥‥のでしょうか‥‥」
呟くムーグだったけれどその問いに答えるものはいなかったのだった。
END