●オープニング本文

私はキルメリア・シュプール（gz0278）。

まぁ、人は私を萌える癒し・もやしとか魔王娘とか呼ぶみたいだけど。

ぶっちゃければはっきり言って萌えてくださいとか言ってないし。

勝手に「イメージがぁぁぁぁ」とか言われても困るのよね。

‥‥さて、あの変態おやぢをどうしたものかしら‥‥。

※※※

「いい加減にしつこいわね！　私はあんたの変態ロリコン道中に付き合うほど暇じゃないのよ！」

本部にキリーの大きな声が響き渡る。

いつも罵声で大きな声は聞きなれているが、こんなに困った声というのは初めてなんじゃ‥‥？　と思い、様々な能力者達がちらちらと見ている。

「そうは言っても君が断るのを僕は断固拒否する！」

「私にも拒否権を与えなさいよ！　このヘタレクズが！」

キリーに言い寄っているのは人形師らしく、キリーをモデルに人形を作りたいと言ってきたのが始まりだった。

『私で人形を？　私が可愛すぎるからモデルを頼みたいって言うのは分かるけど却下。面倒だし』

しかしこの魔王ぷりがいけなかったのだろう。

高貴な姿の中にも屈する事のない心が〜とか訳の分からない事を言い出して余計に言い寄り始めたのだ。

「もう！　この変態ロリコン親父！　いい加減にしてよ！」

「人形師なんだ。変態で何が悪い」

（世界中の人形師にアクロバット土下座しなさいよ）

キリーは心の中で叫ぶが、目の前には理解していないであろう変態親父が１人。

「私はこれから仕事に行くの！　あんたはヘタレな一般人でしょ！　大人しくしてなさいよね！」

びしっと指差しながら鼻息荒く出て行ったキリーなのだが‥‥。

「行き先は‥‥ふぅん、僕の仕事部屋があるところじゃないか。先回りして更にアピールできるように頑張ろう」

キリーは仲間との合流や準備の為に出遅れ、人形師・ライルは嬉々としてキリーの行くべき場所へと先回りしたのだった。

――まさかキメラ騒動があるとも知らずに。

●参加者一覧

●リプレイ本文

―　影が薄いけどキメラ退治なんです　―

「全くいい加減にして欲しいわよね」
　いつも以上に機嫌の悪いキルメリア・シュプール（gz0278）は近くにいた土方伊織（ga4771）の鳩尾にパンチを入れながら呟く。
（はぐ‥‥何ておそろしー事考える人ですかー。まおー人形なんて‥‥どう考えても呪いのアイテムですよー‥‥）
　土方は痛みに耐えながら心の中で呟くのだが、恐らく表情に出ていたのだろう。キリーから平手打ちを受ける事になった。
（人形、ですか‥‥俺はどちらとも言えないけど、俺的には人形なんかより、キリーさん自身といる方がいいし、本人には適わないでしょうしね）
　仮染　勇輝（gb1239）は心の中で良い事を呟いているのだが、キリーにそれが届く事はなく「何むっつりな事考えてンのよ！」と脛を蹴られてしまう始末。
「今回は宜しくですわ〜」
　ソフィリア・エクセル（gb4220）がにっこりと笑顔で挨拶をする。彼女はキリーが嫌がっている人形を、しつこく詰め寄り無理にでも作ろうとする人形師に対して女性として許せない気持ちになっていた――が、彼女の性格を考えて真っ先に率先して事態を面白くしそうな気がしたのは、きっと他の能力者達も思っていた事だろう。
「やっほー、今回も一緒だね、キリー」
　後ろからぎゅっと抱きつきながら神咲　刹那（gb5472）がキリーに挨拶をする。
「何するのよ！」
　キリーもいつもの如く攻撃を仕掛けるのだが、ひらりと神咲に避けられてしまう。
「いつも攻撃を受けるばかりじゃない‥‥よ、って仮染君は何でそんなに怖い顔して僕の首を後ろから絞めてるのかなぁ」
　あは、と笑いながら視線だけを後ろへ向けると仮染が立っていて神咲の首に手をかけていた。
「理想は抱きつく前に締めるのが良かったんですけどね」
　にっこりと仮染も負けじと爽やかな笑顔で言葉を返す。一見すれば爽やかな挨拶風景なのだが、それぞれの心の中は爽やかとは正反対に真っ黒である。
「全く酷い目に「キリーちゃーん！　久しぶりー！」はぐっ‥‥」
　ふぅ、と一息つこうとした時にフロスヒルデ（gc0528）が鬼のような素早さでキリーに抱きつく、もといタックルを食らわせる。
「んー、やっぱりこの抱き心地最高〜♪」
　フロスヒルデが満足している中、なっちゃんは「ツッコム間もないわね‥‥」と呆れたように呟いていた。
「よう、もやし」
　ガル・ゼーガイア（gc1478）が「今日は宜しくな」と挨拶をしたのだが‥‥「よぅ、ヘタレ」とキリーから言葉を返されて、思わず地面に突っ伏したくなる。
「俺に対しての第一声がヘタレって‥‥ヘタレって‥‥」
「何よ、ヘタレだからヘタレって言ったのよ！　第一、ヘタレな人にヘタレじゃないって言う方が失礼でしょう！」
　キリーは正論っぽく言っているが、言っている事が酷いという事には変わりがない。
「ま、まぁ、いいけどよ‥‥そういえば、人形のモデルを何で嫌がってるんだ？　モデルくらいいいじゃねぇか！　話題になればアイドルになれるかもしれないんだぜ！？」
「私は十分癒しのアイドルよ。これ以上私のアイドル度を増やして忙しくさせて過労死させたいの、あんたは。だからヘタレって言うのよ」
　ガルに対して反論する間も許さぬほどの毒舌っぷりを見せるキリーだったが、それを見ていた市川良一（gc3644）は「変わった、人もいるんだな」と小さな声で呟いたのだった。
「今回は宜しく」
「何で私があんたと宜しくしてあげなくちゃいけないのよ、あんたと宜しくして私に何のメリットがあるのよ、その辺の理由を一文字で言いなさいよ」
　市川に対しても毒舌を披露するキリーだったが、市川は毒舌をスルーしてキリーの問いに言葉を返さなかった。
「君が噂のもやしの君ね。始めまして、私の名前は‥‥何だったかしら？」
「あんた馬鹿なの？　初対面だから挨拶してるのに何であんたが私に名前を聞くのよ。それとも自分の名前すら覚えられないくらいに脳みその容量が少ないわけ？」
「まぁ、些細な事よね」
　カノン・Ｓ・レイバルド（gc4271）は一人納得しながら「とにかく‥‥宜しくね」とだけ言葉を返したのだった。


―　キメラにも視線を向けてあげて下さい　―

　今回の目的、ちょっと忘れられがちだがキメラ退治だったりする。
「はわわ‥‥か、仮染さん、ひ、一つだけ聞いてもいいでしょうか？」
　土方が呟く。
「何ですか？　何となく予想が出来ますが、とりあえず聞きます、何ですか？」
「な、何で僕達はもうキメラの前にいるんでしょう？」
　土方の疑問も尤もだったりする。確か先ほど出発して、キメラを見つけたらトランシーバーで連絡を取り合おう――そういう作戦だった筈。
　それなのに、いざやってきたら怪しげな大剣を持った男性がうろうろとしていた。
「うわ、目立ってる‥‥もうちょっと隠れるとかした方がいいんじゃないかなぁ？」
　フロスヒルデが苦笑しながら呟くと「だよなぁ」とガルも引きつった笑みを見せて言葉を返した。
「剣を持ったらバレるだろ‥‥カムフラージュする気あんのか‥‥？」
　ガルがため息を吐いて「まぁ‥‥直ぐに終われるし、いいんじゃないかしら‥‥？」とカノンも言葉を返して、キメラ退治を開始しようとした時だった――‥‥。
「おおう、やっぱり来ていた。マイエンジェル！」
　そこに現れたのは変態人形師の男性。勿論キメラと能力者の間に割って入ってきて、キメラからすれば「私を人質にしてね☆」的な状況を利用しないわけには行かない。
「あ〜〜れ〜〜」
　キメラから剣を向けられ、人形師の男性はその場に座り込んでしまい――能力者達からすれば、いっそのこと殺っちまえ――と思いたくもなる。
「とりあえず、あの方には後でお仕置きですわね」
　ソフィリアが天使――もとい悪魔の笑顔を浮かべながら呟く。
「はわわ‥‥何て厄介なー人ですかー‥‥」
　土方が呟きながらスキルを使用しながらキメラの背後へと回る。いくら人質を取られていようとも、痩せ型の男性キメラが扱うには持つ剣が大きすぎる。振るう際には僅かの隙が生じるのだ。
　能力者達はそれらを計算しながら土方の先制攻撃の後に追撃するように行動を開始した。
「そんな大きな剣を扱うには‥‥経験不足だ」
　仮染は低く呟きながら雲隠を振るう。側面からの接近攻撃を仕掛け、大剣を使わせにくく仮染は行動を仕掛けていた。
「ほら、少し下がってろ」
　仮染は人形師の男性に言葉を投げかけ、再び戦闘へと戻る。
「あらあら、刺さってしまいましたわねぇ」
　キメラが仮染に気を取られている間にソフィリアがキメラの肩口へとスパイラルレイピアでスキルを使用しながら攻撃を仕掛けていた。
　そしてレイピアの特徴でもある回転機能でぐりぐりと‥‥此処まで言えば、後の惨事は簡単に想像する事が出来るだろう。
「うわぁ、なっちゃん‥‥あれ、痛そうだよ‥‥」
　フロスヒルデが呟くと「痛い、で済むと思ってるの？　アレが」となっちゃんからツッコミを受けていた。
「ま、相手はキメラだし！　私もお仕事お仕事♪」
　フロスヒルデも竜斬斧・ベオウルフを構え、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「っていうか、俺だけか？　キメラが哀れになるくらいにフルボッコになってんのは‥‥」
　苦笑しながらガルが呟き「で、でも見逃すわけにもいかねぇしな」と言葉を付け足して、スキルを使用して攻撃を仕掛ける。
「援護する」
　市川は長弓・草薙を構え、スキルを使用しながら接近能力者達の援護をするように矢を放つ。彼の放った矢はキメラの目を潰し、キメラはそこら中に響き渡るような悲鳴とともに大剣を地面に落として目を押さえ、激しく痛がる。
「さようなら、キメラの君。安らかに眠‥‥れそうにないわね、その怪我じゃ‥‥とりあえず、おやすみなさい」
　カノンは呟き、普段のおっとりさが何処に行ったのかというほどに小銃Ｓ−０１で射撃を行った後、サパラに武器を持ち替えて再び攻撃を仕掛け、影も薄く、実力もない哀れなキメラは地面に倒れ、二度と起き上がる事はなかったのだった‥‥。


―　彼女の人形は‥‥　―

「嫌だって言ってるでしょ！」
　そして話は人形へと戻り、キリーは断固拒否、人形師は拒否を断固拒否というわけのわからない状況になっていた。
「ええい！　真の萌えっ子たる、この僕を無視するとは何事だ！　作るなら僕の人形から作れい！」
　白虎がピコハンで人形師を叩きながら叫ぶ。
「嫌だ。何か君はＭの雰囲気がするんだもの」
　人形師からの言葉に「にゅおおお」と白虎は地面に『orz』のようにがっくりとうな垂れた。
「おじさん！　私はキリーさんの色んな角度を終始撮影していました！　これを役立ててください！」
　諌山美雲はカメラのネガを人形師に渡しながら「人形、楽しみにしています！」ときらきらとした表情で言葉を付け足した。
　ちなみに彼女はキリーだけではなく、色々な能力者の写真もばっちりと撮っていた。
「ちょっと待ってください。私の可愛いキリーが嫌がる事はさせられません」
　南十星が前に出ながら呟く。
「ちょっと待ってください。今の言葉は聞き捨てなりません」
　南と同じように仮染も前にずずいっと出ながら呟く。別な問題での争いが勃発しそうな気がするのは気のせいだろうか。
「ちょ、ちょっと待つーですよー！　そんな呪われたアイテムを作らせるわけには行かないのです」
　土方もキリー人形反対派として動くのだが「呪われたって何よ。あ？　何で私の人形が呪われるのよ」とキリーからじろりと睨まれてしまい「はわわ」と口を慌てて押さえるけれども、後の祭。土方はキリーから攻撃を受け（精神的に）再起不能となってしまった。
「貴方は確かに腕の良い人形師のようだ。今までに作った人形も評判が良い、でも貴方の人形への意欲は無理矢理作って自分で納得するだけでいいんですか？」
　仮染はオペレーターなどに頼んで人形師の男性の素性を調べて貰っていた。そして分かった事は意外にも有名な人形師であること、今まで作った人形が絶賛されていること、などであった。
「純粋に芸術の何かを求めているなら、他の人でもいいんじゃないですか？」
　仮染は何とか対象をキリー以外に向けようと、人形師へと言葉を投げかけた。
「なぁ、おっさん！　あんな魔王の人形なんか売れねぇよ！　どうせなら覚醒したかっこいい俺の人形を作ってくれよ！」
　ガルが手を挙げて立候補するも「断る」という短い言葉で斬り捨てられる。
「何でだよ！　ちくしょう、人形作れねぇ体にしてやろうか！」
「何でって、男の人形作って何が楽しいんだね！　可愛いふんわりとした女の子を人形にするから可愛いんじゃないか！　むっさい男を作って眺めて、この僕に変態になれというのか！」
（言ってる事は既に変態ですわねぇ）
　ソフィリアは心の中で呟き「ガルさん、ちょっと人形師の方の隣に並んでもらえますかしら？」とにっこりと笑顔で呟く。
「あ？　別にいいけどよ‥‥」
「ふむ‥‥やはり同類の匂いが‥‥擬似人愛好（ロボ愛好）で、非モテ‥‥哀れですわね‥‥」
　ふ、と妖しく笑みを浮かべながら呟かれた言葉。それはガルに対して痛恨の一撃だったようで「ちくしょう！　ちくしょう！　どうせ俺なんか―――――！！」と叫んだ後に座り込み、思わず慰めたくなるくらいにネガティブになってしまった。
「ねぇ！　マイエンジェル！　もう一度考え直してみないかい！」
「オジサン、駄目だよ。キリーが嫌がってるんだから。その辺に良い素材が揃ってるんだから、そっちの方で作った方がいいよ」
　神咲がキリーの前に立ちながら呟く。
「私もあんたが毎回抱きついてくるのを嫌がってるんですけどね。何自分の事は棚にあげた事言ってンのよ」
　ぼそ、とキリーが呟くと「何のことかなぁ？」と神咲は笑って誤魔化した。
「でも、キリーちゃんの人形を見てみたいよね♪　ここはキリーちゃんの寛大な心の見せ場じゃない？」
「私の心は寛大じゃないもの。物凄く狭いんだから」
　フロスヒルデの言葉もばっさりと斬り捨て「あんたも何か言いなさいよ」とキリーは市川に言葉を投げかける。
「別に僕は人形が出来ようと出来まいと関係ないし」
　市川はそ知らぬ表情で言葉を返す――が、人形が出来た時には１つくらい奪おうかとも考えていた。
「うううん、でもマイエンジェルの人形は作りたいんだよなぁ‥‥」
「人形師の君、あきらめない‥‥一見美談ね、でも‥‥人形師の君のそれは、子供の我侭と一緒よ」
　カノンが淡々とした口調で人形師へと言葉を投げかける。
「分かった‥‥僕も男だ、潔く諦めるよ！　ただし、彼女の人形を作らせてくれるというなら！」
　人形師がビシッと指差した人物――それは‥‥。
「はわ、ぼ、僕ですか！？」
　そう、土方だった。乙女ちっくな雰囲気が人形師の創作意欲を擽ったのだろう。
「ぼ、僕より白虎さんの方が「あの子はＭっぽいから駄目」はわ‥‥わ、わんこ作っても楽しくないですよ？」
　それに僕は男です、といいかけた所でキリーから全力チョップを食らわされ「『彼女』なら喜んで協力するといってるわよ」とキリーが天使の微笑みで言葉を返す。
「え、えぇー！　ぼ、僕はお「煩い、ここで男とか言ったら、生物的に女にするわよ？」はわわわ‥‥」
「とりあえず、解決――かな？　まぁ、何かを解決するには犠牲がつきものだよね、土方さん」
　仮染もにっこりと笑って土方を見送る。
「ちょ、ちょっと待つーですよー‥‥か、仮染さんは立ち位置的に止めてくれるんじゃないんですかー、ちょっと待ってぇぇぇ‥‥」
　人形師に連行されていく土方を微笑ましく見送りながら能力者達は影のように存在が薄かったキメラの退治を成功した事を報告する為に本部へと戻っていったのだった‥‥。
「ところで、あんたの名前、本当になんていうのよ‥‥未だに知らないんだけど、私」
　キリーがカノンへと言葉を投げかけるのだが「名前なんて‥‥些細なものよ、もやしの君」と最後まではぐらかされてしまったのだった。


　その後、人形師の彼は『男の娘』人形師として影で囁かれるようになったらしい。
「確かに、素晴らしい出来だな」
　市川は出来上がった土方人形を見て、うんうんと唸りながら呟く。
「もやしの人形が出来上がってたら‥‥結構な事になってただろうな。色々な思惑がある人たちばかりだったから‥‥」
　市川は苦笑する。人形を手に入れたものがどのようにするか容易に想像できたからだろう。

　とにかく、土方という犠牲が出たけれど、任務は成功したし、キリー人形作成も阻止され、一部の能力者を除いては納得できる結果になったのだとか‥‥。

ＥＮＤ