●リプレイ本文
―― キメラを退治する為に集まった能力者達 ――
今回、能力者達は街に現れたキメラを退治する為に現地へとやってきていた。
だが、そこで能力者達にとって予想外とも呼べる出来事が起きたのだ。負傷した1人の男性が白い薔薇を街の南にある霊園に供えて来て欲しいというのだ。
能力者達が男性に話を聞けば、男性の大事に思っていた今は亡き女性の墓には白い薔薇を供えると約束をしていたらしく、今日が命日なのだという。
「花、届けて、か‥‥大切な、大切な人、だったんだね‥‥」
鈴木悠司(
gc1251)が男性に向けて言葉を返し、少しだけ表情を曇らせる。
「う〜ん‥‥」
鈴木に「大事な人だったんだ‥‥」と言葉を返す男性を見ながらオルカ・スパイホップ(
gc1882)が首を傾げながら唸るように呟いている。
男性の願いも数人の能力者達もキメラを退治した後に花を供えに‥‥という話をしていたけれど、オルカを含む数名の能力者達の考えは異なっていた。
「あのさ、そういうのって本人が行ってこそ意味があると思うんだよね〜」
オルカの言葉に「そうだな」とレインウォーカー(
gc2524)も短く言葉を返し、男性を一瞥しながら言葉を続ける。
「それに俺達の仕事はキメラ退治だ。花を置く――その仕事は報酬のうちに入っていない。自分の足があるんだ、自分で行きな」
レインウォーカーの言葉は一見すると冷たく突き放すような言葉に聞こえるけれど、見ず知らずの他人が花を供えるという無粋な真似はせず、墓に眠っている女性を大事に思う男性自身が行くべきだと考えての言葉だった。
「お花を届けるの、セラは構わないけど‥‥お話からするとやっぱりお兄さんが届けに行った方がいいと思うな♪ お姉さんもただお花を届けて欲しかったんじゃないと思うよ」
セラ(
gc2672)は「お兄さんが届けてくれるのを願ったんじゃないかな」と言葉を付け足しながら男性ににっこりと言葉を投げかける。
「でも‥‥僕は足が‥‥」
男性は自分の足を見ながら呟く。彼自身も足に怪我をしており、そのせいで能力者達に頼もうという結論に至ったのだ。
「あ、街で車椅子か何か調達して僕が押していくよ♪ セラさんも言ってたけど、キミが持って行った方が亡くなった彼女も喜ぶよ♪」
オルカの言葉に「ありがとう‥‥」と男性は涙混じりの声で能力者達に礼を言う。
「その想い‥‥必ず届ける‥‥だから‥‥今は静かに待っていて‥‥」
幡多野 克(
ga0444)が男性に話しかける。
「そうですね。下手に外にいたら余計な怪我をしてしまうかもしれません。キメラ退治を終えたら直ぐに来ますので、待っていて下さいね」
レティア・アレテイア(
gc0284)は男性に優しく微笑みながら言葉をかける。
「おにーちゃん、待っててね! キメラなんてユウ達が倒してみせるからッ☆」
ユウ・ターナー(
gc2715)が男性に元気良く話しかける。
(このおにーちゃんは大切で素敵な事をしてるんだね。おにーちゃんの為にもキメラはさくっとやっつけちゃうんだカラっ!)
ぐ、とユウは拳を強く握り締めながらキメラ退治への意欲を見せていた。
「僕の‥‥弔いの為に迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ございません‥‥気をつけて」
男性が能力者達の無事を願いながら呟く。
「トムラ、う‥‥? 何故、ヒト。死‥‥消滅、者。想う‥‥?」
不破 炬烏介(
gc4206)が呟く。彼は殺意以外無感情、無感覚なのだが――弔うという事に微かな違和感を覚えていた。
「‥‥トムラ、う‥‥」
繰り返し呟くけれど、不破はまだ自分の中にある違和感が何なのか理解する事が出来ず、まずはキメラ退治の為に行動を起こす事にしたのだった。
―― 弔いの花の為、そして街の為に ――
今回の能力者達は班を2つに分けて行動を行う作戦を立てていた。
A班・オルカ、レティア、鈴木、ユウの4人。
B班・レインウォーカー、不破、幡多野、セラの4人。
「それじゃ、何か見つけたら直ぐに連絡という事で宜しいですね」
レティアが呟くと「そうだな、とりあえず戦いやすい場所に誘導も考えなくちゃいけないしな」と言葉を返し、2つの班に分かれた能力者達はキメラを探して行動を開始したのだった。
※A班※
「キメラは確か羽が生えてるんだよね? もしかしたら飛んでるかも?」
オルカは空を見上げながら呟く。
「まー、飛んだ所で見つけやすいからいいけどねー」
オルカが言葉を付け足す。確かに彼が言う通り、上空からの不意打ちなどにさえ気をつければキメラ捜索という点では見つけやすいかもしれない。
「あそこに公園がありますね。あそこに誘導できれば多少此方も有利に戦えるかもしれません」
レティアが少し離れた所にある公園を指差しながら他の能力者達に話し掛ける。
「本当だ〜♪ でも公園って言うにはちょっと遊具が少ないみたいだねー。最低限の遊具しかないように見えるけど〜」
ユウが公園を見ると、確かにブランコや滑り台などの最低限の遊具しか存在していない。
「あ、何かキメラ襲撃のせいで遊具のいくつかは壊されてるみたいです」
鈴木は資料を見ながら呟く。追加で付け加えられた資料には公園を含む何箇所かが壊されたりしていると書かれていた。
「これ以上、キメラを放置してしまったら‥‥街が滅茶苦茶にされちゃうね」
頑張ろう、鈴木は言葉を付け足し、他の能力者達に言葉を返した。
「うん、頑張ろう☆ レティアお姉ちゃんとユウはちゃんと警戒してるから安心して! それにキメラが何匹いるかも判らないもんね」
油断は駄目だね、ユウは言葉を付け足して言葉を返すと「大丈夫ですよ、皆で力を合わせればきっと無事に依頼を終わらせる事が出来ます」とレティアが優しく微笑みながら言葉を返したのだった。
「でも、住人の皆が避難してくれてるって分かったし良かったよね」
鈴木が呟く。最初に男性と会った時に住人の避難の事を問いかけており、既に避難は完了しているという言葉が返って来た。
勿論逃げ損ねた住人が居るかもしれないけれど、その辺は自分達がちゃんと気をつければいい、そう鈴木は考えていた。
「ん〜〜、居ないなぁ‥‥」
オルカは双眼鏡を使ってキメラ捜索を行っているのだが、さっぱりキメラの姿が見えない。
「もしかしたら、あっちの班が捜索してる方にいるのかな?」
オルカが呟いた時だった、B班からの「キメラを見つけた」という内容の通信が入ったのは‥‥。
※B班※
「敵キメラは人型か。人間をベースにしている可能性もあるなぁ」
ま、僕には関係ない話かぁ――とレインウォーカーは言葉を付け足しながらちらりと他の能力者達を一瞥する。彼自身は人間をベースにされていようが何であろうが敵なら殺すだけ――そういう考えの持ち主だった。
しかし他の能力者達はどうだろうか、と彼は考える。もし元が人間だと分かったら、いや――それ以前に人型の敵と戦う事が出来るのだろうかと心配をしたのだ。
「心配する必要は無いよ。例え人型であろうがなんだろうが私に‥‥いや、セラに刃を向ける者は全て排除するのみだ」
セラ‥‥いや、今は覚醒している為に第二の人格であるアイリスが表へと出ている。レインウォーカーとセラの2人が索敵を行い、残りの2人は遭遇した場合のフォローなどを行う役割をになっていた。
「‥‥そう‥‥だね‥‥気を抜けば‥‥やられるのは、こっち‥‥だから‥‥」
幡多野も首を縦に振りながら言葉を返す。
「‥‥敵、排除。奇襲。ふせ、ぐ‥‥。索敵‥‥す、る」
不破も首を縦に振りながら呟き、キメラからの奇襲を防ぐ為に索敵を行う。視界の注意は勿論、不審な音なども聞き逃す事なく耳を澄ませる。
「‥‥ソラノコエ、言う‥‥『羽音無シ‥‥』」
不破の言葉に「そうか、もしかしたら飛んでいるわけじゃないのかもしれない」とアイリスが言葉を返す。
「‥‥ソラノコエ、言う『‥‥影‥‥急降下、来る』」
不破の言葉と同時に能力者達に影が差し、能力者達めがけて巨大な槍を持った人型キメラが急降下を始め、地面に大きな穴が開く。勢いをつけた分の威力が増しており、避けなければ能力者達も無事ではすまなかった事だろう。
「誘導‥‥しようか‥‥このまま、此処で戦闘しても‥‥被害が広がるだけだし」
幡多野が呟きトランシーバーを使ってA班に連絡を入れた後、B班の能力者達はA班に連絡した際に教えてもらった公園へと誘導を開始したのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
B班が公園へキメラを誘導した時には、既にA班は公園の中で待機していた。
「さぁて、おにーちゃんの為にも早く倒させてもらうからね」
ユウは呟き、愛用の特殊銃を構え、スキルを使用しながらキメラに攻撃を仕掛ける。射撃の際、ユウは翼を狙って攻撃を行う。
ユウの攻撃を受け、上空でバランスを崩し、キメラは少し上空から地面近くまで降下してくる。
「行くよ!」
ユウの攻撃で怯んだ隙を突いて鈴木がスキルを使用して攻撃を繰り出す。その時、自分の間合いにする為に懐へと潜り込んで攻撃を行っていた。
「‥‥倒させて、もらう。その長い得物、接近すればそう簡単に使えないはず」
幡多野が呟き、スキルを使用しながら月詠で攻撃を繰り出す。攻撃の後、幡多野が後ろへ下がろうとした時、キメラからの攻撃を受けるが大きな傷にはならなかった。
「神のご加護です、頑張りましょうね」
レティアは呟き、スキルを使用して能力者達の武器を強化する。そして能力者達が負傷した際に治療できるようにと、後ろへ下がる。
このまま前線にいて彼女が怪我をしてしまえば、能力者達が負傷した際に治療を行う事が出来なくなるからだ。
「これだけの能力者に囲まれて敵う筈がないんだからさ〜、さっさとやられようよ」
オルカはキメラの背後に回り「悲想恩讐!」と叫びながら自らの技を繰り出す。数多の斬撃がキメラを襲い、その衝撃でキメラは持っていた槍を地面へと落としてしまう。
勿論それを見逃す能力者達ではない。
「お前らはキツイの喰らわせてやりなぁ」
レインウォーカーは呟きながらキメラへ攻撃を繰り出し、他の能力者達へと活路を開く。キメラの翼を完全に切り落とす為、スキルを使用し二刀小太刀で攻撃する。
だが、レインウォーカーの攻撃の後、キメラは槍を拾ってアイリスへと攻撃を仕掛けるのだが、アイリスはプロテクトシールドで防御して、キメラをジロリと見る。
「私を砕く気で来たようだが‥‥残念、砕けたのは君のプライドだ。それと‥‥私一人に向かってきたのは失敗だったな、他の能力者達からはキミの背中が丸見えだ」
アイリスが不敵に笑みながら言葉を呟き、後ろへと飛ぶ。
「はいはい、動いちゃ上手く攻撃が当たらないでしょー? ユウ達の邪魔をしないでよね」
ユウはキメラへ不満の言葉を漏らしながらスキルを使用してキメラの足止めを行う。
「黒い天使‥‥気取りか‥‥ソラノコエ、言う‥‥『ナラバ炬鳥介、悪魔ダ』‥‥殺してやる」
不破は殺意を露にしながらキメラへと飛び掛り、千切れかけた翼を無理矢理引きちぎる。
「オラ‥‥痛がれよオラ‥‥みっともなく死ねよ‥‥!」
不破は思いつく限りの激痛攻撃をキメラへと施し「虐鬼王拳‥‥」と呟き、自らの編み出した技を使用してキメラへ攻撃を行い、トドメを刺したのだった。
―― 約束の花 ――
能力者達がキメラを退治した後、花を届けて欲しいといってきた男性の元へと戻る。その途中でオルカが車椅子を借りてきて「さ、コレに乗っていこうか♪」と男性に声をかける。
キメラ騒動もあったせいか、霊園には人の気配は全く感じられず、男性はそのまま霊園の奥へと能力者達と一緒に向かう。
「白い薔薇‥‥相思相愛、か」
男性が車椅子を押されながら持っている白薔薇の花束を見ながらポツリと呟く。
「‥‥彼女なりの‥‥告白だったのかな‥‥相思相愛か‥‥その身体がなくなっても‥‥想いが消える事はないんだね‥‥」
幡多野が小さく呟く。そのように想い合える事が出来る男性と亡くなった女性を思うと少しばかり羨ましいと思えた。
「きっと、彼女は喜んでるよ‥‥願った花を、願った人に届けてもらえるんだから‥‥喜ばないはずがない」
鈴木も少し目を細めながら呟く。墓に花を供え、祈りを捧げる男性の言葉は彼女に届いているのだろうか、と心の中で呟き、きっと届いているはず――と小さく首を縦に振る。
「でも花束を届けに来れてよかったよ♪」
オルカがにっこりと男性に言葉を投げかけると「皆が命をかけてキメラを退治してくれたからだよ、ありがとう」と男性は言葉を返した。
その頃、レインウォーカーは霊園の入り口で他にもキメラが居ないかなどの索敵をしていた。
もしキメラが複数存在していれば、現在の能力者達はほとんど無防備状態で攻撃を受ける事になる。それに一般人である男性も居るのだから残存キメラの事も十分に考えていなければならないのだから。
「キメラから街を守らなくちゃ!」
「‥‥終わったよ」
レインウォーカーが苦笑しながら言葉を返すとセラは「え、もう終わっちゃったの!? セラ何してたのかな」ときょとんとした表情をしている。彼女の覚醒人格・アイリスが表に出てきている間の記憶はセラにはない。
だからセラとしては『キメラ退治に行こう!』→『キメラ退治終了』と直ぐに終わってしまったように感じるのだろう。
「おにーちゃんとおねーちゃん、凄く幸せな人なんだね。相手の姿が分からなくても、お互いを想い合えるんだから」
ユウの言葉に「そう、なのかな?」と男性は言葉を返す。
「その白い薔薇、相思相愛って花言葉なんでしょ? それはおねーちゃんの方もおにーちゃんのことが凄く大好きだったって事だとユウは思うよ」
ユウが満面の笑みで呟いた言葉に「ありがとう‥‥」と男性は涙を流しながら礼を言う。
「‥‥コイビ、と‥‥想い‥‥大切。ナも、の‥‥」
不破は男性が花を供える姿に違和感を覚え、懐から一枚の写真を取り出した。その写真に写るのは紛れもなく不破自身なのだが、隣に写っている女の子には全く覚えがない。
「俺‥‥大切、な‥‥もの。過去‥‥記憶、無い。わから‥‥ない。オマエ、は。誰‥‥だ‥‥? ‥‥俺、は‥‥誰、だ?」
だが不破の言葉に答えてくれる者はいない。
キメラ退治を終え、男性の付き添いも終わった能力者達は本部に報告すべく帰還していったのだった。
END