●リプレイ本文
―― クイーンズ新企画・能力者達による記事作成 ――
今回はクイーンズ記者であり、編集長でもある土浦 真里(gz0004)が起こしたクイーンズ新企画。
この企画に参加したのは4名の能力者達だった。
新企画内容は至って簡単であり、能力者達が自分達で記事を作成すると言うもの。勿論取材が必要な場合は個々で取材に赴き、記事を作成することになる。
今回の企画に関してクイーンズ記者たちが編集を手伝ったりなどは一切許されなかった。個人雑誌と言えどクイーンズは今までにも多数の雑誌を発売している。それなりに編集の腕なども全く関知しない人間達よりは上手なのだと思う。
だからこそ、マリは手助けをする事を許さなかった。
もし手伝ってしまえば、その能力者が書いた記事の個性をも殺す事になると考えていたから。
「‥‥取材に行って来ても良いかな?」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)がマリへと言葉を投げかける。
「勿論♪ 新しい企画の雑誌だから詳しい発売日は決まってないし、皆が納得いくまで取材してきても大丈夫だよ」
マリの言葉に「それは助かるな」とホアキンは言葉を返し、そのまま取材旅行へと向かい始めた。
「俺は此処で記事作成をさせてもらおうかな」
威龍(
ga3859)は資料の入ったバッグを持ち「入っても構わないか?」とマリへ言葉を投げかける。
「いいよー。あ、静流に助けを求めるのはナシだからね。その辺はマリちゃんは厳しいのです」
マリの言葉に「分かってるよ。それに俺が助けを求めたらシヅが困るだろ、シヅが困るような事はしない」と苦笑しながら言葉を返す。
「うおう、ノロケを聞かされてしまった。お暑いことですねー」
「からかうな」
威龍は言葉を返し、編集室の中へと入る。
「あ、静かに記事書きたいなら二階の空き部屋使っていいよ。ちょっと色んな資料が散乱してるけど、記事書くのに必要なモノは揃ってるから」
「あぁ、わかった。ありがとう」
マリから指示された部屋を使う為、威龍は階段を上り始める。
「私達の目線で‥‥ねぇ。なんて企画を立てるのかしら。この娘は〜!」
シュブニグラス(
ga9903)はマリにぎゅ〜っと抱きつきながら言葉を投げかける。今回、彼女がクイーンズ編集室を訪れたのは他の能力者達のように記事作成の為にというわけではなく、暑中見舞いにやってきただけだった。
そこで新企画の事を知り、参加する事になった。
「あ、これ暑中お見舞いね」
シュブニグラスは差し入れ用にと京都で買った水羊羹をマリへと渡しながら「記事はどうしようかしら」と小さくため息を吐く。
「このまま此処にいても良いアイデアが浮かばないわね。ちょっと気分転換も兼ねて街の方に行ってくるわ」
シュブニグラスは言葉を残し、そのまま街中へと姿を消していく。
「にゃーん♪ 何の記事を書こうかな? 書きたいことがたくさんあって決めきれないかも!」
過月 夕菜(
gc1671)はいつも持ち歩いている猫の手帳を見ながら楽しげに呟く。
(本物の雑誌記事を書かせて貰えるなんてなかなか出来る経験じゃないよ! 真面目な固いテーマは他の人がやってくれるだろうから私は読んで楽しい記事を作っていくよ)
過月は心の中で呟き、猫の手帳を見ながら、記事に出来そうな面白いネタを探し始める。幸いにも彼女の手帳には色々な事が書かれており、ネタに困る事はなさそうだった。
「さてさて〜♪ とりあえずネタの本人に取材に行ってこないとね〜♪ それに一応掲載許可も取っておかなくちゃね!」
過月は『ぐ』と拳を強く握り締めながら手帳を手に街の方へと駆け出していったのだった。
―― それぞれの記事作成 ――
※ホアキンの取材旅行※
ホアキンが赴いた先はアラスカ。今回の取材旅行に関してホアキンは故国ボリビアの事も頭の中に浮かんでいた。
実のところ、故国ボリビアの不穏な情勢はホアキンも重々承知しており、気にならないと言ったらそれは嘘になる。故国がどのような状況なのか、確かめたいと言う気持ちも確かに彼の中にある。
だが、実際に故国の様子を見たとしても雑誌の記事に書きたいとは思わない。あくまでも今回は雑誌の記事を書くことが目的である為、故国の事は今回パスしようとホアキンは考えていた。
「折角だし、夏のアラスカでリフレッシュも兼ねて取材するとしようか」
ホアキンがやってきたのはアラスカ。南部の港湾都市数箇所を拠点にして、アラスカ湾に面した国立公園をいくつか巡る事にしていた。
公園の名の一つには先住民の言葉で『偉大なもの』と言う意味もあり、アラスカの様々な鳥類や哺乳類の生息地ともなっている。
「グリズリーに、クロクマ‥‥向こうにはトナカイの群れか」
ホアキンは持参してきたデジカメで色々な野生動物の写真を撮る。
「異星人と戦っていると、つい忘れがちになるけど‥‥地球は俺達人類だけのものじゃない‥‥」
のどかに歩く野生動物を見て、ホアキンは小さく呟く。動物、鳥、魚、この地球から欠けてはいけないもの。
たとえバグア達から地球を守りきっても動物や鳥、魚などが欠けては意味がなくなってしまうのだ。
「さて、次の写真を撮りに行こうか」
ホアキンは呟き、他の動物達を撮る為に行動を開始する。その中でホアキンが見た動物達はザトウクジラ、シャチ、ビーバー、ハクトウワシなど。
「植物はトウヒやヤナギが多いのか‥‥土壌や地温のせいだと聞くが‥‥」
山麓周辺地域では木の十分な成長は見込めないのだと現地の人間は語る。
「さて、ホテルに戻って記事の作成に取り掛かろうか」
ホアキンは呟き、ホテルへと戻り大まかな記事の作成に取り掛かり始める。もし足りなかったらまた取材をして色々な場所を見てくればいい、とホアキンは考える。
今回、ホアキンが作成しようとしている記事のテーマは『フロンティア』だった。旅行日記風の記事を書くと決めており、撮影した写真からイラストを起こし、雑誌記事の挿絵にする事にした。
8月●日 / 晴れ
フィヨルドの中をクルーズしていると、クジラ2頭と出会った。
息もぴったりに、並んで泳いでいく。
じっと見守っていると、奇岩の彼方へ消えていった。
この記事の所にはクルーズの際に撮影した写真からイラストを起こし、優雅に泳ぐクジラの挿絵が行われる。
8月×日 / 曇り
大きな氷河が、大きな音を立てて崩れ落ちていく。
見ているだけで‥‥凄い迫力。
‥‥これが大自然の力だ。
この記事の所には崩れ落ちる氷河のイラストが挿絵として使われるのだが、やはり写真を元にしていると言えども大自然の迫力をそのまま表現する事は難しかった。
8月△日 / 曇り
バスに乗っていると、グリズリーの親子を見かけた。
母親の貫禄に比べ、子供はまるでぬいぐるみだ。
何を食べたら、ああも大きくなるのだろう。
この記事の所には可愛らしいグリズリーの子供と、親子と思えない母親の姿のイラストが挿絵に使われており、子供の部分だけを見れば和めるイラストに仕上がっている。
「さて、記事もある程度固まったしもう少しだけ見てこようか。バグアもキメラもたまには忘れ、地球に生きる仲間達の今の姿をもっと見ておきたい」
ホアキンは原稿をしまい、再びデジカメを持って取材に向かうのだった。
※威龍の記事作成※
「編集部に来るのも随分と久しぶりな気がする」
マリから指示された空き部屋に入り、椅子に腰掛けながら威龍は小さく呟く。机と椅子の他には多数の本棚やダンボール箱が部屋の面積を占めており、空き部屋というより資料部屋だ、と威龍は苦笑しながら心の中で呟いたのだった。
「‥‥そういえば、シヅと初めて会ったのも、傭兵に記事を書かせる依頼だったよな、確か。マリの奴も進歩がないというか、何と言うか‥‥」
資料を机の上に出し、出会った頃から全く性格の変わらないマリを思い出して苦笑する。
「まぁ、読んで恥ずかしくないモノに仕上がるように精々努力させてもらうかな」
威龍は呟き、資料に目を通し始める。威龍が記事として書こうとしているのは堕ちた英雄の話の物語。実話を元にして記事を書こうと考えているので、威龍は極力実名を出さず、ぼかすような書き方を心がける事を決めていた。
かつて、KVがなかった時代、己の才覚1つで欧州の海を守っていた誇り高き戦士が居た。
だが、バグアやキメラとの力の差は覆いがたく、その誇り高き戦士は味方を守る為に犠牲になったのだった。
そこまで書いた時に部屋をノックする音が聞こえ「誰だ?」と威龍はドアの方に視線を向ける。
すると、そこに立っていたのはトレイにコーヒーカップを乗せた静流だった。
「マリの無謀企画に巻き込まれたって聞いたから差し入れ」
静流は威龍が記事を書いている机の上にコーヒーと軽く摘めるお菓子が乗せられた皿を置く。
「ありがとう、そういえばシヅに会うのも久しぶりだな」
「そうね。仕方ないんじゃない? お互いに仕事が忙しいし。会えなかったくらいで変わるような気持ちは持ってないし。それが記事の資料?」
ぱらり、と静流が資料を手に取り、そして表情を強張らせる。
「‥‥困ったわね。何て言えばいいか分からない」
静流が苦笑しながら資料を机の上に置く。
「記事に関しても資料に関してもノーコメントでさせてね。下手な事言っちゃうと冬のボーナスが無くなるから」
「分かってる。だが、聞かせて欲しいことがある」
威龍の言葉に「何?」と静流が言葉を返す。
「この資料を見て、記事にしてもいいと思うか? 雑誌的な面で」
威龍の言葉に「あぁ、そういう事‥‥」と静流が言葉を返し、暫く考え込む。
「‥‥いいんじゃないかしら? 傭兵家業をしていれば、誰だって少なからず似たような経験をしていると思う。クイーンズはどっちかといえば能力者の表の部分を記事にする雑誌。恐らくクイーンズを読んでいる人は能力者=楽しい人ばかり、と考えている一般人もいるんじゃないかしら? どれだけ苦しんでいるか、どれだけツライ思いをしているか――‥‥どれだけ仲間の事を考えているか、それを記事にする人も必要だと思うわ」
静流はそれだけ言葉を残し、部屋から出て行く。
威龍は再び資料に視線を落とし、途中でペンを止めた原稿に向かい始める。
誰もが、その誇り高き戦士の死を忘れようとした時、彼らは戻ってきた。
彼らの犠牲に敢えて目を瞑って来た人々の眼前にその罪を白日の下に晒す為に。
彼らは狂気の内にいた。
だが、それはかつての仲間を殺さなくてはならなくなった彼らが纏った心の鎧そのものであったのだ。
そして、傭兵は涙を堪えて、自らがあり得たかもしれない姿を闇へと葬ったのだった。
原稿を書き終えたところで威龍はペンを置き、小さく息を吐き、瞳を閉じる。
「‥‥俺はこの手で殺した『奴』がただの裏切り者ではない、戦士であった事をせめて何かの形で残してやりたいと思っている。もし記事に出来ないといわれても、それはそれでよかった。シヅやマリたち、クイーンズの面々が俺の書いたモノに少しでも関心を持ってくれるなら、それでよかった」
恐らく威龍は分かっていたのだろう。
ドアの外に静流が居る事に。
だがその言葉を聞いた静流が自分には分かってあげる事の出来ない歯がゆさに表情を歪めていた事に威龍は気づく事が出来なかったのだった。
※シュブニグラスの調査記事※
「な、何て事なの‥‥」
街中に出て、記事になりそうな事を探している途中、暑さに疲れてしまい、カフェでお茶をしていた時だった。
シュブニグラスは今まで自分が請けた過去の依頼メモを見て驚愕する。彼女が驚いた理由、それは彼女自身がそうそうまともな依頼を受けていないという事。
京都に行って遊んで、マリと馬鹿騒ぎをして遊んで――‥‥恐らくマリの方は半分以上本気もあったのだろうが、過去の仕事を思い返し、依頼メモを見返してみると、馬鹿騒ぎをしている事が圧倒的に多かったのだ。
「‥‥なんだか私、遊び人みたいじゃない‥‥」
シュブニグラスは自分で言った言葉に自分でちょっと傷ついてしまう。
「と、とりあえず私が遊び人じゃない事を証明する為にも記事をちゃんと書かなくちゃ‥‥」
シュブニグラスが呟いた時、カフェから少し歩いた場所に本屋が見えた。
「本屋‥‥クイーンズの売上でもチェックしておこうかしら」
シュブニグラスは呟き、グラスに残ったジュースを飲み干して本屋へと移動する。
「へぇ、結構大きな本屋なのね。こういう専門店の方が常連さんとかいそうね」
シュブニグラスは本屋の中に入り、雑誌コーナーを見回る。いくら破天荒記者として多少名を(悪名とも言う)響かせているマリでも、個人が刊行する雑誌という事もあり、あまり大きくは扱われていないようだ。
「そういえば‥‥」
シュブニグラスはふと思い出す。彼女も遊んでばかりいたわけではなく、重要度の高い作戦にも身を置き、戦闘の記録を行っていた事に。
クイーンズのような雑誌である程度一般人も能力者達のことを知る機会があるとは言え、重要度の高い作戦についてなどは一般人が自ら知ろうとしない限り、知る機会は恐らく少ない。
だからこそ、シュブニグラスは能力者ではなくても現在の状況、どのように作戦が遂行されたのかなどを知ってもらいたいと前々から思っていた。
(そうだわ、私だっていつも遊んでばかりじゃない。記事内容はこの事を書けばいいんじゃないかしら? そうすれば他の人にも知ってもらえるし‥‥)
シュブニグラスは心の中で呟き、自分が書きたい記事の方向性を見つけ、本屋の中を歩き、能力者達の戦いにどれほどの人間が興味を持っているのか、そしてどの程度広まっているのかを調べ始める事にした。
「ちょっと聞いてもいいかしら?」
シュブニグラスが最初に話しかけたのは本屋の店員だった。話しかけられた店員は「何かお探しですか?」とシュブニグラスに言葉を返してくる。
「いえ、そういう事じゃないの‥‥能力者達の戦い、たとえば大規模な作戦とかが詳しく書いた本とかあるのかしら?」
シュブニグラスが問いかけると「無い事はないんですけど‥‥」と店員は案内しながら関連コーナーへとシュブニグラスを案内する。
「意外と、少ないのね‥‥」
コーナーを見てシュブニグラスは少しだけ驚く。確かに全くないわけではない。だが彼女の予想以上に少なかったのだ。
「本の中には『多分、こんな感じ』みたいな書き方をしている本もありまして‥‥」
(つまり、一般人にはどの本が確かな情報を載せているのか分からないって事ね‥‥戦いの記録だからあんまり公に出来ない事もあるのかもしれないけど‥‥)
シュブニグラスは心の中で呟き、(でも、きっと知りたいって思う人も多いはずだわ)と言葉を付け足す。
たとえば能力者を家族に持つ者にとっては、現在の戦況がどうなっているのか知りたいだろうし、家族の無事も確認したいはず。
その事を考え、シュブニグラスは一日だけ本屋の中を観察させてもらうことにした。傭兵たちのことが書かれている本を購入していく人間は極僅か。
(少しでも多くの人に理解してもらえるような記事を書いてみようかしら‥‥)
シュブニグラスは心の中で呟き、クイーンズ編集室へと戻り記事作成に取り掛かったのだった。
能力者達は確かに一般人とは違う力を持っている。
キメラやバグアと戦う力、それは能力者にしかない力だけど能力者も人間。
悲しい事にその身をテロリストに堕とした者も少なくは無い。
シュブニグラスはその記事の所に、そのような記事を取り扱った雑誌名などを小さく記載する。テロリストに身を堕とした者全てが悪と言うわけでもない。
だから事件を詳しく知る事が出来ない一般人のために誤解のないように書いて置かねばならないのだ。
一般人の中には能力者すら異端な存在に思える者も居ると思う。
だけど、出来れば能力者達の戦いを知って、能力者達のことを知ってもらいたい。
シュブニグラスは少しでも多くの人間に受け入れられる事を願いながら記事を書き終え、マリへと持っていったのだった。
※野良猫の日常記事※
「にゃーん♪ 何処にいるのかなー?」
過月は猫の手帳を見ながらLH内を歩き回っていた。彼女が記事のテーマにしたのは『傭兵の日常生活でのちょっとした事件』だった。
このテーマならば、彼女が普段持ち歩いている手帳に書かれている情報も活用しやすいし、面白くて読みやすく、そして親近感がわく記事にしやすそうだと考えたのだ。
「あ、いたいた〜♪」
過月が見つけたのは、とある男性能力者。彼は任務の際にちょっとしたドジをしてしまった事があり、過月はその事を記事にするつもりだった。
「何だよ、お前‥‥」
男性能力者は過月を見て小さく言葉を投げかける。
「にゃーん♪ この前の大コケばっさり事件について詳しく聞きたいのだけどいいかな?」
過月の言葉に男性能力者の顔色がざぁっと青ざめる。それもそうだろう、事件名からしてお間抜けなのだから事件内容そのものもお間抜けにしか思えないのだから。
しかもそれを起こした張本人となれば、思い出したくない、考えたくないというのが本音だろう。
「アレのことを聞いてどうするつもりだ。俺を陥れるつもりか」
男性能力者は刀に手をかけながら過月に言葉を投げかける。
「うにゃ〜! 書いて欲しくないならちゃんと内緒にするよお! だからその刀は置いてくれないかな? ね?」
過月がちょっと焦り、苦笑しながら言葉を返す。
「まぁ、幸いにもアレを知ってるのはお前だけだしな‥‥」
「そうそ――にゃーん♪ 良い事思いついたよ! 名前も出さないし、貴方の特徴とかも一切書かないからこの前の件を記事にさせてもらってもいい?」
記事、という言葉に男性能力者の顔色が更に青ざめる。記事にされるという事は、男性能力者にとっては忘れたい出来事が大勢の人の目に触れるという事。顔色の1つや2つくらいなくしたくなるというものだ。
「も、勿論ちゃんと名前も伏せるし、あのことを知ってるのは私と貴方だけだし、匿名にすれば問題ないんじゃないかなーとか思ったんだけど‥‥!」
過月の言葉に男性能力者は唸りながら「どうしてもこれを記事にするのか?」と半ば諦めたように過月に言葉を返す。
「うん。出来れば、だけどね。でもでも無理にとは言わないし、本当に嫌だったら言ってくれて構わないからね」
過月のしゅんとした姿に、男性能力者は一つ大きなため息を漏らして「‥‥本当に匿名なんだろうな」と小さく言葉を漏らす。
「え?」
「匿名なら、構わないよ。絶対に俺だってわからないようにしてくれりゃあな」
男性能力者の言葉に「にゃーん♪ ありがとう!」と過月は笑顔で言葉を返し、記事を書く為のネタを詳しく知る為にメモ帳を手に持つ。
「だから、あの時は‥‥」
男性能力者がその時のことを話し始め、過月は「ふむふむ」と相槌をうちながら要点をメモ帳に纏め、話を聞き終わった後はクイーンズ編集室に戻り、記事製作に取り掛かるのだった。
能力者といえば、一般人の中には怖がってしまう人もいるかと思います。
確かに能力者は命を駆け、必要とあらば敵の命を奪うことを生業にしているけど、怖い能力者もいれば、お茶目でお間抜けさんな能力者もいるんです!
先日の出来事です。
とある任務で能力者がキメラ討伐に向かいました。8人で赴き、2人4班に分かれて捜索をしたのですが、その時1人の男性能力者がキメラを見つけ、攻撃する為に走り出したんです。
ですがその日はあいにくの雨、勿論足場も悪い。キメラ退治に向かった能力者はその事を踏まえて退治に挑んだのですが‥‥。
なんと、ぬかるみで足を滑らせてしまい、そのままキメラに特攻、更にその勢いのついた攻撃でキメラを倒してしまったんです。
‥‥もちろん、キメラから最初に攻撃を受けて、受けなくても良いダメージをその人は負ってしまったんですけどね。
他にもその人は目が悪いのか、木をキメラだと勘違いして切り倒してしまったりなどと、結構お間抜けさんな能力者なのです。
過月はそのほかにも普段からその男性能力者が見せているドジっぷりの記事なども書き、手作り感溢れる記事に仕上がっていた。
「うにゃん! 出来た! 私的には良い出来かな〜♪ 折角だし、クイーンズの人に感想を聞いてみよう♪」
過月は出来上がったばかりの原稿を持ってマリのところへと向かう。
だが、感想も手助けの一部になるといわれて望んだ感想を聞くことは出来なかったけれど「マリちゃん的には良い記事になってると思うよ」といわれ、過月の表情が笑顔になり「ありがとう♪」と言葉を返したのだった。
そして、能力者達が作成した記事を掲載した『KING−S』が刊行され『KING−S』のKを取った記者称号が能力者達に与えられたのだった。
END