●リプレイ本文
「仲間が助けを待っている? それは見過ごせないよ!」
拳を握り締めながら叫ぶのは葵 コハル(
ga3897)だった。
「夜の森か‥‥確かにメリットもデメリットもあるけど悪い判断じゃないわね?」
呟くのは海音・ユグドラシル(
ga2788)だった。それに言葉を返したのはアウグスト・フューラー(
ga2839)だった。
「‥‥確かに厄介です、狙撃手としてもこれ以上にやり辛い場はありませんが‥‥それでも頑張らなきゃいけませんね」
「油断、無様といえば無様だが‥‥状況が状況だ、責める事は出来んか」
呟いたのは不破 梓(
ga3236)だった。
「えっと‥‥その‥‥つ、通信から位置の割り出しは‥‥あの、可能だったのでしょうか‥‥」
少しおどおどしながら喋るのはシャルロッテ・エンゲル(
ga4231)だった。
「どうも位置の割り出しは出来なかったみたいですよ、でもある程度の場所を聞いたらしいですから、そこを重点的に探せば見つかるんじゃないでしょうか」
五代 雄介(
ga2514)がシャルロッテに言葉を返す。
「‥‥どちらも早く見つけないとな」
レィアンス(
ga2662)が低く呟き、キリト・S・アイリス(
ga4536)が「そうですね、急ぎましょう」と答え、能力者達は2人の捜索・救助に向かい始めた。
●夜の森――潜む闇と希望を待つ星
「此処からは決めた班で動きましょう」
海音が短く呟く。
能力者達は班を2つに分け、それは以下の通りだ。
A班:五代・海音・不破・シャルロッテ
B班:レィアンス・葵・キリト・アウグスト
どちらかが二人を発見したら、持って来ている呼笛で別の班に連絡を行う、夜の森、きっと呼笛は響くことだろう。
「さて、大体の位置は聞いているのよね、その辺をお互いの班で捜索しましょう」
海音が同じA班のメンバーに話しかける。
「そうですね、キメラもいる事ですし‥‥」
「油断は禁物――だな」
五代が呟き、不破が答えるように話す。
「そ、そうですね‥‥油断しないように‥‥しなくちゃです‥‥」
シャルロッテが呟き、A班は夜の森を移動し始めた。
A班は森の木々がざわめく中、キメラの気配、人の気配を感じ損ねることのないように集中する。
すると、小さな女の子の声が少しはなれた場所から聞こえてくる。
「あ、あの‥‥女の子の声が‥‥」
シャルロッテが呟くと「あぁ、聞こえた」と不破が答える。
「近くみたいですね。何やら嫌な予感もしますし、急ぎましょう」
五代が急ぎ足で声のする方向へ歩いていく。
「‥‥これは‥‥」
海音が呟く。声の方向には人が入れる大きさの洞窟があり、その中に少女と肩を負傷している女性の姿があった。
「紗奈さんですね? 助けに来ました」
五代が話しかけると同時にB班からの呼笛の音がする。その後、通信機に連絡が入り、キメラを見つけたとの連絡を受けた。
「キメラ――わ、私も‥‥」
肩を押さえながら起き上がり、紗奈が呟く。
「キメラは私達に任せておけ、それとも一緒に来て足手纏いになるつもりか? 子供を守ったのは立派だが‥‥倒れることは許されんぞ、今は大人しく寝ていろ」
不破は呟き、洞窟の外へと出る。
「私も一緒に‥‥と言いたいけれど紗奈の怪我を治療するのが先ね、このままじゃ出血多量で死んじゃうわ」
海音は紗奈を寝かせ、救急セットで治療を施していく。
『練成治療』の方が効果は高いのだが、いかんせん手元には超機械がない。
「‥‥今はB班の皆さんが‥‥キメラと交戦中みたいですので‥‥急ぎましょう」
シャルロッテが呟き、海音に紗奈を任せてキメラのところへと向かい始めた。
●キメラを倒せ!
時間を少し遡る事、十数分前。
B班は二人を探しながら、キメラの気配にも注意していた。
「‥‥来たな」
レィアンスが呟き、刀を構える。他の能力者も気づいたのか、葵もレィアンスと同じ刀を構えた。
「危ない!」
キリトが叫び、アウグストを突き飛ばす。最初は何事かと思ったアウグストだったが、突き飛ばされた後にキメラの爪が木をどすりと突き立てていた。
「ありがとう――しかし嫌ですね、遠くから相手をじわじわといたぶるようなやり方は‥‥」
「ホントだね、それに女の子の肌に傷を付けるなんて良い度胸だね? 天の裁きを受けなさい!」
葵は叫ぶと同時にキメラに攻撃を仕掛ける。
しかし、キメラは甲羅によって葵の攻撃を防ぐ。
「‥‥作り出され、無理矢理に戦わされている生命体――同情はしますが‥‥それが人を傷つける理由にはならない」
キリトは呟く。彼はキメラに対しての同情もしており、戦いの時は毎回葛藤に苦しんでいるのだが、戦闘になれば憎悪の方が勝る。
「あの爪は厄介だな――‥‥」
レィアンスがキメラの伸縮する爪を見て呟いた。確かにキメラがあの攻撃を持っている以上、キメラに近づくことすら出来ない。
「伸ばしてきた爪を捕まえて敵を捕縛か、それとも爪の攻撃を受けてそのまま捕縛‥‥か。後者はやりたくないな、痛いし」
レィアンスがキメラを捕まえる方法を考えるが、一番手っ取り早いのは攻撃を受ける‥‥なのだが、その後、戦闘が出来る保証は無い。むしろ命の危険もある。
その時にA班が合流してきて、人数では圧倒的に此方の方が有利となった。
「紗奈さん達は?」
「い、今は‥‥海音さんが治療についているので‥‥心配はないかと‥‥」
シャルロッテがアウグストの問いかけに答え、己の武器・バトルアクスを構えた。
「そ、その‥‥ロングレンジからの攻撃を何とかしないと、私は攻撃に転じれないかもしれないので‥‥」
「俺が囮になる」
呟いたのは五代、俊敏さの高い彼ならば上手くキメラを引き付け、他の仲間が攻撃する隙を作れるかもしれない。
「‥‥頼む――」
レィアンスが呟き、五代は「任せて」と答えた後、キメラの前に飛び出したのだった。
「一人じゃ無理だ、私も行く」
不破もファングを装備し、五代の後に続いた。
「‥‥闇の中を離れた距離からの攻撃か、頭のいいやり方だが‥‥狙う相手を間違えたな」
五代と不破はキメラの爪を悉く避け、隙を見せ始めた。
「二人とも! 避けてください!」
アウグストが大きな声で五代と不破に話しかけ、二人はその言葉と同時にキメラから離れる。
そして、アウグストは二人が離れたのを確認すると長弓で矢の雨を降らせる。彼の放った矢はキメラの甲羅以外のところに何本も刺さり、そのうちの数本が腕の部分に刺さっていた。
「僕の後ろをついてきてください、ポリカーボネートで爪を防ぎながら前衛まで進みますから」
キリトが前衛組に話しかける、前衛組はキリトの言葉に甘え、彼の後ろをついていき、近距離まで進んだ所で一気に叩き潰す――という作戦になった。
「いい加減にやられちゃえっての!」
ハンドガンで援護射撃を行いながら葵が叫ぶ。彼女は木を利用して頭上からの攻撃を行っている。
「本当に‥‥防御ばかりが高いというのも考え物ですね」
アウグストが呟きながら長弓で援護射撃を行う。後衛組や援護組がキメラの気を引き付けてくれたおかげで前衛組は何とか攻撃範囲内に潜り込むことが出来た。
最初に攻撃したのはシャルロッテ、彼女はバトルアクスを振り上げ、厄介な爪だけでも切り落とそうとした――だが、キメラは腕でそれを防ぐ。
「‥‥構いません、こ、このまま落とします」
シャルロッテはキッと視線をいつもより厳しくすると、力を込めて防御したキメラの腕ごと切り落としたのだった。
「へぇ、やるじゃないか」
レィアンスが呟き、彼もキメラに攻撃を仕掛ける。その攻撃に合わせるようにキリトも攻撃し、キメラに反撃を許さないため、シャルロッテが少し遅れての攻撃を行ったのだった。
三人同時の攻撃を受け、後から駆けつけた海音、紗奈、少女が来た時には全てが終わった後だった‥‥。
「あら、私の出番はなかったようね‥‥」
海音が小さく呟き、キメラの亡骸を見て、続けて呟いた。
「この子は限りある生の中で何を見ようとしたのかしら?」
●夢――それは果てしなく可能性が広がるもの
「もう大丈夫だよ、よく頑張ったね」
キメラを倒した後、五代が本を抱えて泣きじゃくる少女の頭を撫で、優しく話しかけた。
「ん、あたしは大丈夫だけど‥‥お姉ちゃんが‥‥ぐす」
少女は紗奈を見ながら、再び涙を溜める。
「お姉ちゃんは大丈夫、キミはお星様の学者になるんでしょ? だったらなかないで」
ね? と紗奈が少女に語りかけたとき「あなたも‥‥」と五代が呟く。
「たとえ能力者でも、夢を諦めなきゃいけないってことありませんよ――いつか平和になったら、世界中を旅する冒険家になる、俺の夢なんです」
五代の言葉に「そうです」とアウグストも話し始める。
「人が歩みを止めるのは自身の立場に絶望するからではなく、そこから這い出るのを諦めるから‥‥皆を守りながら、それでも夢を追えばいいじゃないですか。何事にも諦めない強い意思があれば‥‥私達は何だって出来るはずですよ」
アウグストが呟く言葉に紗奈は瞳に涙を溜め始める。
「そう、街の灯りのない空を見て、自分の心に問いかけるといい。本当に夢を諦めれるのか‥‥」
不破も紗奈に話しかける。
「守りたいものあるんでしょ? どうせなら自分の手で守りたいもんね、守りたい人も、自分の夢も」
にっこりと笑って葵も答える。
「あの‥‥能力者として生きるも‥‥夢を追うのも‥‥あなたの自由だと思います。こんなご時世ですから後ろ指さされるかもしれないですが、それでも‥‥その、あの、夢は追うだけの価値があると思うんです」
シャルロッテは話した後「な、生意気言ってすみません」と顔を真っ赤にしながら謝っていた。
「人を守るも、夢をかなえるも、自分の行動次第だと思いますよ、信じていれば‥‥そして夢の為に動けば、きっと叶いますよ」
キリトは少女に防寒具を着せながら紗奈に向けて話す。彼は夢を語る少女が妹と重なったのだろう、慈しむような表情で防寒具を着せていた。
「‥‥ありがとう、私‥‥夢をもう一度追いかけてみる。傭兵を続けながらだから‥‥叶うのがいつになるか分からないけど‥‥私、諦めずに頑張るから」
そう言って笑顔を見せた紗奈はまるで学生のような笑い顔だった。
自分次第で何でも出来る、それを思い出した紗奈はきっと自分が後悔しない道を選ぶのだろう。
夜空には、彼女の新しい旅立ちを見送るかのように無数の星が瞬いていたのだった。
END