タイトル:もやしの家で遊ぼうマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/07/14 01:57

●オープニング本文


ヘタレ共!

私の家に招待してあげるわ、だから感謝なさい。

七代先まで感謝するといいわよ、このクズ!

※※※

それはキルメリア・シュプール(gz0278)から届いた一通の手紙から始まりを告げた。

何でもキリーの家に招待してあげるから感謝しなさい、という内容の手紙だったけれど「来なかったらぶっ飛ばすからね」という内容にも読めた。

しかし最近のキリーは多少、気持ちの分だけ、もしかしたらそうでもないかもしれないけど、本当に気持ち分だけ大人しい傾向にあった。

少なくとも男性の急所を蹴りつけたりするような真似は――そんなにしていないはずだ。

「うわぁ、どうしようかな‥‥」

「何がどうしようかなぁ、なのよ。絶対に来なさいって書いてあるでしょ? 人類の言葉すら読めないほどに頭の中が劣化したわけ? はっ、本当にあんたは救いようがないわよね。救いようのないあんたにもわかるほどの簡単な説明をしてあげるわ。ここに、来なさい、ヘタレ」

べらべらと毒舌を発揮する為に突如現れたキリーに驚くけれども、浴びせられる罵倒に少しだけ立ち直ろうとする自分すらもくじけてしまいそうなほどだった。

「折角だからインスタントの粗茶くらいは出してあげるわよ。勿論自分でお湯沸かして飲みなさいよね。あぁ、ちなみに私のはちゃんと高級茶葉を使って丁寧にお茶を淹れるのよ? わかってるんでしょうね、ヘタレ」

キリーは呟いた後「来なかったらどうなるか判ってるでしょうね、ちゃんと来なさいよ、クズ」と言葉を残して何処かへと行ってしまったのだった。


●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
南 十星(gc1722
15歳・♂・JG
海原環(gc3865
25歳・♀・JG
ララ・フォン・ランケ(gc4166
15歳・♀・HD

●リプレイ本文

―― 魔王城へ挑む者達 ――

「今回は招待してあげたんだから、屋敷を汚したら承知しないわよ! あんた達の全財産没収するからね!」
 キルメリア・シュプール(gz0278)が能力者達へと言葉を投げかける。
 ちなみに今回能力者達が来たのは、キリーが勝手に招待状を送りつけてきて、勝手に「来なかったら許さないわよ!」と言ったからだったりする。
(はわわ‥‥キリーさんの我侭がまた始まったのです。とほほ、今回は何事も無く過ぎてくれるといいのですけど‥‥‥‥)
 土方伊織(ga4771)は心の中で呟き「‥‥無理ですよねー」と諦めたように言葉を付け足した。あのキリーの家に来て、しかも魔王度全開のキリーがいて、無事に帰れるはずがないのだ。むしろキリーが無事に帰すつもりなど毛頭なさそうだ。
「でも‥‥」
 ちらり、と土方は噴水の方を見る。そこには少し前に依頼で壊れたキリーの像。だけど何故か完全復活しており、像ながらも威圧感たっぷりに能力者達を見下ろしていた。
(何気にあの噴水の像が復活してるですけど‥‥また壊れそうな気がするのは、何故です?)
 かくり、と首を傾げながら土方は心の中で呟くけれど、その問いに答える者は存在しない。
「おい、こら、わんこの分際でシカトなんて100億年早いのよ!」
 ばしーん、という音と共に土方の頭に痛みが走る。どうやら土方が考え事をしている間にキリーが話しかけ、それをシカトされたと勘違いしたキリーからの攻撃だったらしい。
「うぅ、痛いですぅ‥‥」
「痛いですぅ、じゃないわよ。このヘタレが!」
 更にもう一撃くらい、土方の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる――がキリーはそれに気づくこともなかった。
「ふふふ、今度こそ! お姉ちゃんの罠を突破してやるにゃ!」
 くわっ、と気合十分の白虎(ga9191)が叫ぶが「うるさいわよ!」とキリーから平手打ちを喰らい「にゅあああ‥‥」と遊びに来た数分後に泣かされる羽目になった。
「白虎さん‥‥なんです? そのかさかさ聞こえる箱は‥‥な、何故かすっごく八つ当たりが来そうな予感がするのですけど」
 土方が問いかけると「そういえばあんた達、ちゃんと手土産持ってきたんでしょうね」とキリーがくるりと土方と白虎の方に向き直りながら言葉を投げかけた。
「ぼ、僕はとれたてみったんゼリー持ってきたです」
「ボクは山で頑張って取ってきたにゃ!」
 それぞれが持ってきた箱をキリーへと差し出す。土方の手土産は問題なかったようだが‥‥「ゴルァ!!」と白虎の箱を手にした途端、怒りの鉄拳が白虎の顔面にめり込む。
「な、何故だ――――ッ!」
「何故だ、じゃないわよ。何ゴキブリなんか持ってきてんのよ。うちの屋敷はね毎朝(メイドが)掃除して綺麗にしてあるのよ。それなのに何? ゴキブリなんか持ってきてあんたは私の家を滅茶苦茶にしたいわけ? そうなのね? そうなんでしょう?」
 ごごごごご、と詰め寄りながらキリーが白虎に話しかける。
「違うにゃ! カブトムシ! それはゴキブリじゃなくてカブトムシだにゃ!」
「煩いわね。私にとってはカブトムシもゴキブリも大差ないわよ。もしかして私が虫嫌いなのを知ってて持って来たわけ?」
 苦手、という言葉を聞いて白虎の頭に浮かんだのは1つだけ――‥‥。
「これは‥‥ついに弱点を発見した!?」
「声に出てるわよ、このハゲヘタレ!」
 すぱーん、と白虎の頭を叩きカブトムシの入った箱を棚の上に置く。
「キリー! 友達からのプレゼントに何文句を言ってるの!」
 そこで一部始終を見ていたキリーの母親が注意をしてきたのだが‥‥。
「違うのよ? こっちの伊織君が虫が苦手って言ってたから避けてあげてたの。キリーは凄く嬉しいけど、伊織君が嫌がるから仕方ないよね?」
 キリーは思いきり猫をかぶって母親へと言葉を返す。しかしここで親が馬鹿だというのも問題があるのだと白虎と土方は心の中で思う。
「あら。そうなの? 男の子なんだから虫くらい平気になってなくちゃだめよ?」
(にゅああああ、何かキリーお姉ちゃんがキモイにゃあああ!)
(はわわ、い、伊織君って誰ですかー! 僕ですぅ! は、初めて伊織君って呼ばれましたけど、後が怖いですぅ)
「こんにちは〜、今日はお邪魔します♪」
 その時、神咲 刹那(gb5472)がキリーの屋敷へとやってくる。
「あら、いらっしゃい。いつもキリーと仲良くしてくれてありがとうね」
 母親のリリシアはキリーに背中を向けて神咲へと挨拶をする。
「あ、あはは‥‥いや、ボクも仲良くしてもらってるし」
 リリシアは知らなかった。まさか自分の背後で『仲良くしてやってんのは私の方なのよ、その辺を理解しなさい』という書きなぐった文字が書かれた紙をキリーが持っているなんて。
(今、ママさんが後ろを向いたらビックリするんだろうなぁ‥‥)
 神咲は苦笑しながら心の中で呟く。
「今日はママさん、家にいるの? たまにはゆっくりとお話できればって思ってたんだけど‥‥」
 神咲が問いかけると、リリシアは申し訳なさそうに「ごめんなさいね、これから任務なのよ‥‥」と眉を下げて言葉を返してきた。
「ん〜残念、でもお仕事だから仕方ないよね」
 神咲は言葉を返し「キリーを宜しくね」と言葉を残すリリシアを見送ったのだった。
「で? あんたももちろん手土産の1つくらい持って来たのよね?」
「あ、持って来てないや。ごめんね、キリー」
「何してんのよ。あんたは人の家に招待してもらって手ぶらで来るってわけ? どんな神経してればそんな事が出来るのよ。なんてあつかましい奴なのかしらね。このヘタレ!」
 キリーの罵声が屋敷の中に響く中、神咲は慣れているかのように苦笑して「ごめんごめん。次は持ってくるから」と言葉を返す。
「キリーさん、招待してくれてありがと‥‥う、って何か取り込み中?」
 その時、最近結婚した諌山美雲(gb5758)が屋敷の中へと入ってきた。お腹が大きくなり始めた頃なので、いつもの諌山より少しだけ違和感をキリーを感じていた。
「あ、これはお土産ね。生クリームとイチゴたっぷりの白兎型のケーキ♪」
 諌山がケーキの入った箱をキリーへと渡しながら「ほら、もうすぐママになるでしょ? だからお菓子も作れるようになっておこうと思ってね。えへへ」と言葉を付け足した。
「ふん、私のは試作品ってわけ? 何かムカつくわね。でも貰ってあげないこともないわ」
 口では罵声のような言葉を吐くキリーだったけれど、ケーキを受け取った時の表情は何処か嬉しそうなものだった。
「こんにちは、今回はご招待ありがとうございます」
 ソウマ(gc0505)がにっこりと微笑みながらキリーへと話しかけてくる。
「個性的な招待状をありがとうございました、深読みすれば酷く素直じゃない女の子が『寂しいから絶対に来てね』と言っているようにも読めますけど」
 くすくすと笑みを零しながらソウマが招待状とキリーとを交互に見ながら呟いた。
「はぁ? 何言ってるのよ。あんたの頭、暑さで沸いてんじゃないの? どこをどう読んだらそんな風に見えるのかぜひとも聞かせて欲しいわね。別に聞きたくないけど」
 どっちなんだ、とツッコミを入れたくなるような言葉をキリーはソウマへと返す。
「‥‥噂を聞く限り、そして実際に会って見てそういった人じゃない事は判りました」
 ソウマが苦笑気味に言葉を返すと「あぁ、そうだ手土産でしたね」と神秘的な薔薇の香りのする香水をキリーへと差し出した。
「今は必要ないかもしれませんが淑女の必須アイテムですからね」
 ソウマの言葉に「残念ね、私は今でも立派な淑女よ。はげ」と言葉を返す。
「キリーさんは極度の照れ屋さんなんですね」
「だから、あんたの沸いた考えで私のイメージを作るのはやめてくれる? ヘタレ」
 げしげし、とキリーはソウマの脛を蹴りながら「このヘタレ」と更に同じ言葉を付け足した。
「キルメリア・シュプール嬢、このたびはお招きに預かり光栄です」
 南十星(gc1722)がキリーに話しかけると「その気障な台詞やめてくれる?」とキリーは丁寧に挨拶してくる南をばっさりと斬り捨てるような言葉を返した。
「えぇと、じゃあ呼び方はキリーさんでいいですか?」
「なれなれしいわよ」
「えぇと、それじゃあなんて呼べばいいですか?」
「キリーでいいわよ」
(噂通りの人だ)
 南は心の中で苦笑しながら「あ、これお土産です」と薔薇の花束にローズリングをしのばせ、それとフリフリ傘も差し出した。
「貰ってあげるから感謝なさい」
 何処までも上から目線でキリーは品物を受け取る。
「はー‥‥大きなお家ですねぇ。しかも招待までしてくれるなんて良い人ですね」
 海原環(gc3865)が屋敷の中できょろきょろとしていると「何を挙動不審にしてるのよ、田舎者」とキリーが言葉を投げかけた。
「いやいや、それほどでもないですよ」
「ほめてないわよ。何あんた馬鹿なの? 頭弱いの?」
 魔王度全開で言葉を投げかけるキリーだったが、優しいのかはたまたキリーの言う通りなのか海原はまるで気にする様子が欠片もない。
「あ、これお土産ですよ」
 ずずい、と海原は手作りプリンと発泡スチロールを渡す。
「何よ、これ」
「あ、こっちがプリンで、そっちはまだ見ちゃダメですよぅ」
 海原は発泡スチロールをキリーから取り「あっちに置かせてもらいますね。夕食時に皆で食べましょう♪」と意気揚々としてキッチンの場所を聞き、発泡スチロールを持っていったのだった。
「おー、ここが噂のキリーちゃんの家かぁ」
 ララ・フォン・ランケ(gc4166)が呟くと「あんたらじゃ一生働いてもこんな屋敷には住めないでしょう、とくと堪能していくといいわよ、ヘタレ」とキリーがララに言葉を投げかける。
「それで? あんたは何か土産でも持ってきてるの? 持って来てないならそのまま後ろ向いて帰りなさい」
 キリーの言葉に「えっと、兎が好きだって聞いたからクッションにしてみたんだ」とウサギのクッションをキリーへと差し出した。
「‥‥‥‥別に気に入ってないけど、仕方ないから使ってあげてもいいわよ」
 もふ、と抱きしめながらキリーはララの持つもう1つの袋に気がつく。
「あ、こっちはアイスの詰め合わせ。アイスも奮発して高級なの買ってきたんだから♪」
 ララがアイスの袋を見せながら呟くと「招待してあげたんだから当然よね、むしろ安物のアイスなんていらないわよ」とキリーは「ふん」と鼻を鳴らしながら言葉を返した。
「折角だから屋敷の中を適当に歩いててかまわないわよ、壊したり汚したりしたら滅殺だけどね。その辺を理解したうえで這いずりながら歩き回るといいわ」
 キリーはいまいち言葉になっていない言葉を能力者達に投げかけ、能力者達はそれぞれ自由時間を楽しむことにしたのだった。


―― 魔王城、攻略? ――

「まったく、キリーお姉ちゃんも我侭にゃ。折角カブトムシを取ってあげたのに」
 箱の中でかさかさと動くカブトムシに話しかけると「頼んでないわよ」と背後から突然話しかけられて「にゅあっ!」と白虎は箱を落としてしまう。
「「‥‥あ」」
 此処からは言うまでもない、箱の中にいたカブトムシたちが飛び出してキリーの絶叫が響き渡る。
「‥‥ど、どこ行くにゃー!」
 捕まえようと手を伸ばすが、カブトムシたちは白虎に捕まる事なく屋敷の至る所に散っていった。
「白虎‥‥」
 背後から威圧感たっぷりに話しかけられ、まるで機械のように振り向くと殺虫剤を手にしたキリーが立っていた。
「にゅああああ、それだけは勘弁してにゃあああ!」
「はわわ、白虎さんが駆除されそうです? 近くにいくと僕まで駆除されそうです?」
 屋敷の中を見て回っていた土方が偶然白虎とキリーとのやり取りを見て、見なかった事にしようと決意した――が「わんこ! 犬なんだからさっさと匂いでゴキブリ捕まえてきなさいよね!」と大きな声で叫ばれる。
「はわわわ、ど、どうして隠れてるのに見つかったーですかー‥‥」
「くっ、こうなったら殺虫剤を振りかけられる前に見つけて救助せねば‥‥!」
 白虎は呟き、バナナの皮を大量に持ってきていたのでそれを持って屋敷の中を駆け出したのだった。
「ちょ、白虎さん! ばななの皮はだめー! ばななはだめー! 前回と、前回と同じお約束が起きちゃうー!」
 慌てた土方はバナナ阻止をする為に白虎を追いかけていったのだった。
「うーん、罠に引っかからないように白虎君の後ろをついていこうかなって思ったんだけど、それどころじゃなさそうだねぇ」
 神咲は苦笑しながら駆け出した白虎達とすれ違いながら呟く。
「確か色んな部屋があったんだよね――とここは何かな」
 神咲が開けたのは色々な本などが綺麗に並べられている書庫であり、本棚の一角にはアルバムも存在していた。
「へぇ、アルバムかぁ‥‥あ、キリーの名前が書いてある」
 キルメリアと書かれたアルバムを見つけ、神咲がぱらぱらと捲ってみると生まれたばかりのキリーの写真やまだ1歳2歳の頃の写真が幾つも貼ってあった。
「うわぁ、何か今と違って本当に天使みたいだ」
「天使とか悪魔だとか勝手にイメージしてんのはあんた達の方でしょ、私は天使に見えたいとか思った事はないわよ。ヘタレ。勝手に何してんのよ」
 そこで現れたのは言うまでもなくキリーであり、腕組みをしながらドアに寄りかかっていた。
「あ、もしかして見ちゃいけない所だった? それならごめん」
「別にいいけど。ちゃんと出したもんは元の場所に置いといてよ、ヘタレ」
「うん。解った。だったら僕はもうちょっと此処でアルバムとか見させてもらうよ」
 神咲は再び視線をアルバムに戻しながらキリーへと言葉を返したのだった。
 そして、庭園を歩いているのは南。まだ自由時間もあるし庭園から屋敷までは近い距離にあるので何かあったらすぐに駆けつける事が出来る事から、彼は庭園を散策していた。
「こんにちは、手入れをされている方ですか? 綺麗な庭園ですね」
 初老の男性が花の手入れをしており、南が話しかけると「‥‥そりゃそうさ、もし汚くしようもんならお嬢ちゃんから何をされるかわからんからの」と遠い目をしながら言葉を返してきた。
「あ、あはは‥‥」
 その男性の表情を見る限り、恐らく何かをされた経験があるのだとわかった南は笑って誤魔化すしか出来なかった。
 そして、その頃、海原は夕食のために持って来たものを料理係の使用人たちに見せていた。
「こ、これをお嬢様に――ですか?」
「はい、結構奮発して持って来ました」
 使用人の言葉に海原は爽やかな笑顔で首を縦に振り、言葉を返す。
「いや、でもこれは‥‥私達が調理するんですよね?」
「いいえ、特別に皆の前で捌こうかなと思っています」
「皆の前で!?」
 海原の言葉に使用人たちは更に驚く。まさか彼女自身が皆の前で捌くなんて言うとは思わなかったのだ。
「で、でも‥‥こ、これはその、耐性がないと少々キツいんじゃないかなと私共は思うのですが‥‥」
 使用人たちの言葉に「大丈夫ですよ、本当に美味しいんですから」と少々ズレた言葉を返したのだった。
「どうしましょう、この皺寄せが私達に来るような気がします‥‥」
「でも、お嬢様のお友達のご好意を無下にも出来ないし‥‥」
 満面の笑みを浮かべる海原の近くでは使用人たちがそれぞれひそひそと会話をしている事に海原自身は気がつく事はなかったのだった。
「これがこの前壊されたって言う像みたいね」
 ララは噴水に聳え立つように設置されたキリーの像を見上げながら呟く。壊された形跡などは全く見当たらなく、綺麗に直されていた。
「折角新しく設置しなおしたんだから壊したらぶっ飛ばすわよ」
 ララの後ろからキリーが現れ、ジロリとララを見ながら言葉を投げかける。
「え? 新しくしたんだ?」
「当たり前でしょ。首の飛んだ像なんて縁起悪くて使ってられないわよ」
 そうなんだ、と言葉を返し「お屋敷も見させてもらうね」と言葉をつけたし、ララは屋敷の方へと向かっていったのだった。
「それにしても遅いわね、ゆーきの奴」
 腕組みしながらいらいらとした口調でキリーは呟く。
「あ、此処にいたんですか――「遅いわよ! この馬鹿!」――はぐ‥‥っ」
 仮染勇輝がキリーを見つけて挨拶をしようとしたのだが、キリーからの鳩尾パンチをくらい、地面に膝をついて蹲る。
「あんたが一番最後よ。何で遅れたのかくらい聞いてあげてもいいわ。何で?」
「え、いや、その普通に寝坊――かな?」
「馬鹿でしょう、あんたは!」
 再びキリーからの攻撃を受け、仮染は来た瞬間から遠いお空へ旅立ちそうになる。
「まぁ、いいわ。手土産くらい寄越しなさいよね」
「こ、これを‥‥」
 仮染はダメージを受けながらもフリフリ傘を手渡す――が既に貰ったものであることを仮染は知らない。
「‥‥‥‥ありがとう、大事に使ってあげてもいいわよ。馬鹿」
 それだけ言葉を残し「雑用で働きなさい、働かざるもの喰うべからずよ」と言いながら自室へと向かい始めたのだった。
「し、白虎さん、これはさすがにまずいーですよー。ばなながたくさん落ちてますぅ」
 キリー専用マシーンの数々が置いてある部屋近くの階段、そこには大量のバナナが仕掛けられている。勿論部屋の周りにも仕掛けられてある――のだが、そのばななの皮が仕掛けられる前にララはマシーン部屋に入っている事を土方も白虎も気がついていない。
「静かにするにゃ! お姉ちゃんが来たんだから」
 白虎が呟き、物陰から静かに見守る。
「何よ、このバナナの皮の山は! うちの屋敷でゴリラやサルを飼った覚えはないわよ!」
 ぎゃあぎゃあと喚きたてるキリーの声が聞こえ、土方と白虎は声を押し殺すように潜める。
 ちなみに白虎と土方の位置は仕掛けたバナナの皮から少し離れた所。キリーの部屋とは正反対側の方に身を隠していた。
「一体誰がこんな事をしたのよ! 犯人を見つけたらとっちめ――きゃあっ!」
 ばたん、と音が聞こえ、土方と白虎が恐る恐る物陰から出て見てみると‥‥。
「はわわわ、ぼ、僕はみてませんっ。何も見てないですぅ!」
「にゅああああああ、あばばばばばば‥‥」
 その時、2人の視界に入ってきたのは、バナナの皮に滑って転んでお尻の部分に可愛い可愛いうさぎのイラストが描かれている‥‥‥‥ぱんつだった。
「‥‥この状況で言えることはあんた達がバナナの皮を仕掛けたって事よね? 確か前にもこういうことをしたわよね? 何、つまり私のぱんつ見たさにこういう事を仕掛けたって事よね? そうよね? それ以外に考えられないわよね?」
 その場に正座しなさい! とキリーは大きな声でさけび、白虎と土方は逆らう事も出来ずにその場に正座をする。
「二度目だからこれを1日つけててもらうわよ」
 きゅ、と油性ペンで書いたプレートを2人の首に下げる。
「はわわ、何ですか、この『えろわんこ』って! ま、巻き込まれただけなのに酷いですぅ」
「にゅあああ、ボクのなんか『えろそーすい』なのにゃあああ!」
 しかも2人のプレートの下には『ボクはキリー様のぱんつを見ました』と書かれている。
「いいわね、それ――取ったら、コロすからね」
 ぎろり、と睨みながらキリーはどすどすと足音荒く2人の前から姿を消したのだった。


―― 楽しいティータイム〜お風呂の時間 ――

 それぞれの自由時間が終わり、お茶の時間になるとみんなサロンへと集まってきた。
(マシーンとかたくさんあったけど、ほとんどは一体何につかうのか判らないものしかなかった‥‥)
 ララはマシーンで攻撃されても怪我しないように下見をしていたのだが、ほとんどのマシーンがどのように使うのかすら判らないものばかりで下見はあまり意味を成さなかった。
「‥‥白虎君、人にはいつも言う癖に自分ではそういうのをするんだね。しかも伊織君まで‥‥っていうか、僕はまだぱんつとかまでしてないよ‥‥」
 神咲はやや引いた表情で2人を見る。
「どうぞ、紅茶になります。あっつあつですので今すぐ飲む事をお勧めしますね」
 がちゃん、と乱暴にカップを置いたのはこれ以上ないくらいに黒く爽やかな笑顔を持つ仮染だった。
「いきなりぱんつはダメですよ。あ、紅茶が入っとぁあ!! っとっと、危ない危ない」
 諌山はコケそうになったが、紅茶の乗ったトレイをブンっと勢いよく投げ捨てながらバランスを取る。
「あぶなーい!」
 南がキリーを突き飛ばし、紅茶攻撃から庇おうとするが――トレイの勢いが予想以上だった為、トレイが『めきょ』という鈍い音を響かせながら南の顔にめり込む。
「‥‥だ、大丈夫?」
 さすがのキリーも「大丈夫?」と聞かずにはいられなかったらしい。
「『他人の不幸は蜜の味』――昔の偉人は良い言葉を残しました」
 ソウマは自分が絶対に巻き込まれない位置からお茶菓子を食べながら頷きながら呟いている。
「‥‥あんた、意外と見た目と違って腹黒い奴ね」
 ソウマの呟きを聞いていたキリーが言葉を投げかけると「いや、それほどでも」と照れたような表情で言葉を返してきた。
「褒めてないんだけどね、ってびしょ濡れじゃん。着替え持ってきてるの?」
「えぇ、大丈夫です。替えの服がありますから、ちょっと着替えてきますね」
 南はそういって一時サロンから出て行く事になった。
「あんたはやっぱり天然殺人機械ね」
 キリーは少し後ずさりながら諌山へと言葉を投げかけると「そんなに褒めないで下さい」と諌山は照れたように言葉を返してきた。
「「「「「「「褒めてない!」」」」」」」
 それから紅茶を作り直し(諌山以外の能力者)が他の能力者達に手渡す。そして南も着替え終わったのかお菓子などを配り始める。
「‥‥1つ、聞いていいですか? 何故メイド服に?」
 ソウマが紅茶を飲みながら問いかけると「なぜか、バッグに入っていた着替えがこれだったんです。恐らく姉さんの仕業かと‥‥」とポニーテールにした髪を揺らしながら南は言葉を返した。
「私の姿より、むしろあの2人が掲げてるプレートの方が興味ありますけどね」
 南は苦笑しながら土方と白虎が首から提げているプレートを見ながら呟く。
「とりあえず、ご飯の前に風呂でも入ってきなさいよ」
 キリーの言葉に能力者達はそれぞれお風呂の準備を始める。
「一緒に入ります? ‥‥ふふ」
 諌山が土方に問いかけると「はわわ、え、遠慮しますぅ!」とあわあわしながら土方は言葉を返す。
「‥‥美雲がわんこにせくはらしてる」
「違いますから!」
 キリーの呟きに諌山は反論する。その時「ねぇ、お風呂に入ったらゲームでもしない?」と神咲がトランプを見せながら他の能力者達に問いかける。
「面白そうですね。僕のキョウ運が今回どこまで通用するかためさせてもらいましょうか」
 ソウマが楽しそうに呟き、それぞれお風呂へと向かい始めたのだった。
「お腹が目立ち始めてるからちょっと恥ずかしいな‥‥」
 諌山は呟き「ぶっちゃけキリーさんは誰が本命なの?」とキリーへと言葉を投げかける。
「あ、それ気になるかも♪」
 ララが呟くと「やっぱり女の子同士は恋の話ですよね」と海原もキリーに詰め寄るようにして応えた。
「そうね。まず私の方からも質問するわ。本命がいたとしてなんで私が言わなくちゃならないのかしら? っていうか言ったらどうなるか判ってるから言うわけないでしょ!」
「あ、じゃあ本命はいるんだ?」
「う、うるさい! 私はもうあがる! あとで入る!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらキリーは出て行き、覗き見されぬよう守っていた白虎が入り口にいた事で「あんた何覗こうとしてんのよ!」と勘違いされ、ばちこーんと叩かれることになってしまったのだとか‥‥。
 そしてゲームの前に夕食――の時間なのだが‥‥。
「これを今から捌いて皆さんに食べてもらいますね」
 海原は生きたホヤを取り出し、特にもやしの前で捌き始め盛り付けを始める。赤黒いイボイボを切り落とすと橙色の中身が出てきて「ぎゃあああ!」という声が響き渡る。
 ちなみに本人は新鮮さのアピールをしているだけで悪気は全くない。
「次はフジツボをしますから先にホヤを召し上がっててください!」
 ぐつぐつとフジツボを茹で始めたのだが、茹で上がったフジツボを見た能力者達が思った事は(キメラの巣みたい)だったという。
「こうやってクチバシをつまみ出して食べてくださいね〜♪」
 海原が得意気に出した料理、恐らくは美味しいのだろう。しかし調理の様を見せられた能力者としては少々、いやかなり食欲が失せてしまう――という事に海原は気がついていない。
 とりあえず能力者達は作られる様は忘れて夕食を食べる事に専念する。そのせいか、楽しい話題が飛び交いそうな食卓では全員が無言で黙々と食べていた。

「それじゃあ、ゲーム大会を始めよっか♪ もちろん罰ゲームつきだよ〜」
 神咲の言葉に「は!?」と能力者達が驚いたように神咲を見る。
「罰ゲームって何をするつもりなのよ」
 キリーが問いかけると「ん? 罰ゲームはやっぱり告白っていうか自分の暴露でしょ。肉親以外で好きな人を告白してもらおうか」と神咲はにやりとしながらキリーに言葉を返した。
「はぁ!?」
 その言葉を聞いて、能力者達&キリーは絶対に誰を蹴落としてでも負けるわけにはいかない――と考え、恐ろしい雰囲気の中でゲームは開始されたのだった。
 ちなみに、神咲は上手く調整しており、キリーか白虎が負けるようにいかさまを仕組んでいたという事は誰も知らない。
「‥‥‥‥さて、そろそろ寝る時間ね」
 ゲームが終わった後、キリーはトランプを放り出して逃げようとする――‥‥そう、負けたのはキリーであり、そのまま何事もなく逃げようとしていたのだ。
「こらこら、負けたのはキリーなんだから罰ゲーム受けてもらうよ」
 にっこりと神咲がキリーを逃がさぬように捕まえて話しかける。
「私の肉親以外で好きな人? 言えばいいんでしょ、言えば」
 キリーはちらりと白虎と仮染を見ながら「‥‥やっぱ、やめた。この家では私の言うことが絶対なのよ。それが嫌なら今すぐ出て行きなさい」と神咲の腕を振り払い、そのまま足早に逃げていった。しかしキリーの顔が少しだけ赤かったのは誰も気がつく事はなかった。
 その後、少しだけ休憩をした後、能力者達が持ち寄った花火を楽しむ事にした。
「よくもさっきは私を苛めようとしてくれたわね!」
 キリーは花火を人に向けながらぎゃあぎゃあと喚きたてる。
※注意・良い子は真似をしてはいけません。
「そういえば、白虎は?」
「さぁ、何処にいったんだろうねぇ」
 神咲は笑いながら花火を楽しんでいる。ちなみに現在の白虎は神咲が持って来た大きなうさぎのぬいぐるみの中に詰められてキリーの部屋に置かれている。おまけに白虎は三時間ほどゆっくりと眠れるツボを押されており、まるで死んでいるかのように眠っている。うさぎのぬいぐるみの中で。
 その後、ひとしきり花火を楽しんだソウマは一人庭園に立つ。
「僕から皆さんに、ちょっとしたサプライズをプレゼントしますよ」
 ソウマはスキルを使用しながら呟く。すると呟いた次の瞬間に流星群が夜空を流れ始めた。
「僕は『キョウ運使い』ですからね、皆さんは何を願うんでしょう」
 悪戯っぽく笑いながらソウマは呟く。

「何このうさぎのぬいぐるみ。誰かが置いてくれたのかな?」
 キリーが自室に置かれているぬいぐるみに抱きついて「おっきくて可愛い!」と叫んだが、何か違和感を感じ、背中のチャックを開けると――‥‥。
「‥‥‥‥白虎」
 そう、うさぎの中には白虎が入っていた。
「この馬鹿がぁぁぁっ!」
 ごすん、と拳骨を白虎の頭に振り下ろすけれど神咲によって白虎は起きられない状況。
「起きたら覚えてなさいよ、この馬鹿変態、人のぱんつ見た変態!」

 そして夜――‥‥。
「にゅ? 何で僕はここに‥‥「それは私が聞きたいことね」あばばばば。ち、違うのにゃ! これは僕を陥れようと‥‥」
 そこで白虎は言葉を止める。
(ここでなら少しはキリーお姉ちゃんの気持ちが聞けるかにゃ?)
「き、キリーお姉ちゃんはボクの事をどう思っているのにゃー?」
 どきどきしながら言葉を投げかけると「私は‥‥」とキリーが言葉を続けようとする。
 しかし‥‥。
「ニシシ、キリーちゃんの可愛い寝顔ゲットだ‥‥ぜ? ‥‥あら?」
 突然ララがドアを開けてきて白虎とキリーを目撃する。
「あらあらあらあら、まさか2人はそんな関係!? まだ子供なのに! 子供なのに!」
「違うのにゃあああああああ!」
 白虎の出した大きな声によって仮染が目撃してしまう。
 その後、朝まで『ボクはキリーお姉ちゃんのぱんつを見たあげく、夜に部屋までしのびこんだ変態総帥だにゃー☆』と書かれたプレートを下げられ、吊るされていたのだとか。

 そんなこんなで終わった今回のお泊り会。
「次はナマコを持ってきますね!」
 海原がとても良い笑顔で呟くので、キリーは「いらないわよ!」と大きな声で叫ぶ――のだが、それすらも『照れ』としてしか見ていない海原にキリーの心からの願いは届く事がなかったのだった。


END