タイトル:シュプール家の災難2マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/16 23:35

●オープニング本文


最初は俺、彼女の事を天使だと思っていたんだ‥‥。

可愛いお嬢様、俺が守ってあげなくちゃ――って。

でもでも、誰かお願いです。

お嬢様から俺を守ってください。

※※※

「サスケ、お茶」

「サスケ、何か暇」

「サスケ、あんた目障り」

サスケ・フライディア――日本人の母とイタリア人の父を持つ少年。

そして父親はシュプール家の執事であり、母は奥様の親友でもある。

その息子である俺はもう3年ほど両親と一緒にシュプール家のお屋敷に住ませてもらっている。

最初にキルメリアお嬢様を見たとき、凄く可愛くて、もしかしたら幼馴染みたいな感じで成長したら恋仲になれるかもしれないとか淡い期待を抱いていた事もあったんだ。

だけど、俺は断言しよう。

世界中に女がお嬢様1人であっても、俺は絶対にお嬢様なんか選ばない。むしろ一生独身の方がマシだ。

「何考えてンのよ、気持ち悪いわね」

近くにあったグラス(数百万の代物)を投げつけてきて、慌てて俺はグラスをキャッチする。これでもし落として割れてしまったら俺のせいにされるからだ。

「あのさ、漫画買ってきて。最新刊が出てるのを忘れてたわ」

「え? でももう夕方だし明日で「漫画、買ってきて」――イッテキマス」

「あらあら、お嬢様、うちの息子と仲良くしてくれてありがとうございます」

(「母さん、気づいて――俺、仲良くしてない。むしろパシらされる」)

「いいえ、だってサスケは私の大事な友達ですもの。私だってサスケに色々お世話になってるわ」

にっこりと外面のよいお嬢様は笑って俺の母親に言葉を返す。

「本当にありがたいお言葉ですわ、サスケ、ちゃんとお嬢様を守ってあげるのよ?」

(「母さん、気づいて――守られるべきはむしろ俺」)

そのまま母さんは気づいてくれることなく、部屋から出て行ってしまう。

「さっさと買ってきなさいよ。グズでノロマでブサイクなんて救いようがないわよ」

でもお嬢様に逆らえるはずもなく、俺は仕方なく漫画を買う為に屋敷から出る。

向かったショッピングセンターが今まさにキメラに襲われていることなど知らずに。


●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

―― もやしの漫画の為に ――

「今回は宜しくしてあげるから最大級に感謝しなさいよね、ヘタレ共」
 ふん、と鼻息荒く挨拶をするのは果て無き上から目線のもやし魔王、キルメリア・シュプール(gz0278)だった。
「全く、サスケの奴‥‥漫画買って来いって言ったのに何でキメラ騒動に巻き込まれるわけ? 本当にありえないくらいの役立たずだわ」
 キリーは苛々が最高潮なのか土方伊織(ga4771)をバシッと叩きながら文句を言う。
(はわわ、すっごくサスケさんが他人に思えないのです。まおー様被害者の会の一員さんなのですよ、ちなみに僕、今被害を受けたですよー、痛いですぅ‥‥)
 土方は心の中で呟き痛みに耐えるのだが「何ぶつぶつ言ってンのよ、このいヘタレ犬!」と更に攻撃を受ける。
(はう、でも例えどんなにサスケさんが可哀想でも誰もまおー様からお守りする事は出来ないと思うのです‥‥だ、だから、サスケさん。お願いだから頼まれたものを買っておいてくださいー)
 買っていなかった場合の八つ当たりは100%自分に来る事が判っている土方は切実に祈っていた。
「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえずサスケを助けてあげないと漫画も読めないって事だろ? 落ち着いて冷静に行こう」
 龍深城・我斬(ga8283)がキリーを宥める言葉を投げかける。とりあえずキリーがサスケの心配ではなく漫画の心配をしている事に突っ込もうとする勇者はこの中にはいなかったようだ。
「幼馴染‥‥何と言うポジションをキープしてるにゃ‥‥! キリーお姉ちゃんは渡さな‥‥いや違う‥‥と、とにかくお前達、粛清だ「煩い」にゅああ‥‥」
 白虎(ga9191)が自分の中で葛藤する言葉を聞いてキリーはばっさりと斬り捨てる言葉と共に拳骨を白虎の頭に振り下ろし、白虎は痛みでその場に蹲る。
「キリーさん、とりあえず人命がかかってるから悪ふざけは後にしましょう」
 仮染 勇輝(gb1239)がキリーに言葉を投げかける。
「人命? ‥‥‥‥あぁ、そうだったわね」
 まるで忘れていたかのようなキリーの言葉に仮染は頭を抱える。この分では目的の物さえ手に入れたら「私帰るから」と言い出しそうだからだ。
「やっほー、キリー‥‥ってこの格好だから、今日は抱きつけないね」
 苦笑しながら神咲 刹那(gb5472)が言葉を投げかけると「誰も楽しみにしてないし」とキリーは言葉を返す。
「こんにちは、キリーさん。今日は、見事なまでに全員が顔見知りだねぇ、しっと団的に」
 先日結婚して苗字の変わった諌山美雲(gb5758)が苦笑しながら呟く。確かに全員が顔見知りという状況も珍しいので彼女が言うのも解るような気がした。
「あ、そうだ♪ 私冴木性から諌山性に変わったんだ。これからは諌山美雲として、今までと変わらず仲良くしてね♪」
 冴木がキリーに話しかけると「わかったわよ、はれんちガール」と言葉を返した。
「‥‥‥‥は、はれんち‥‥」
「結婚したのよね、そんでお腹の中に――はれんちな!」
 キリーの言葉を聞いて「ええ!?」と諌山は驚いたように言葉を返したのだった。
「よお、久しぶりだな! 俺の事覚えてるか?」
 ガル・ゼーガイア(gc1478)がキリーに話しかけると「誰よ、あんた」と言葉を返す。
「はぁ!? 忘れたってのかよ「胸が小さい私ですが何か文句でも?」覚えてるんじゃねぇか‥‥」
 苦笑しながらガルが言葉を返すと「でも、そっちの人は知らないわよ。誰よあんたさっさと自己紹介くらいしたらどうなの、ヘタレ」と張 天莉(gc3344)にキリーが言葉を投げかける。ちなみに自己紹介する暇を与えないくらいの罵声を浴びせたのはキリーである。
「えぇと、初めまして。新人の張天莉です。宜しくお願いしま「別に宜しくしたくないわよ、ヘタレ」とにかく宜しくお願いします」
 自己紹介をしろと言ったのに途中で言葉を遮るという魔王っぷりに張も苦笑する。
「とりあえずさっさと漫画取りに行くわよ」
 キリーが呟き、能力者達は現在混乱に巻き込まれているショッピングセンターを目指して出発したのだった。


―― 混乱する場所で ――

 問題のショッピングセンターから少し離れた所に高速艇を停めて、能力者達はショッピングセンターへと急ぐ。
 そして、現状を見て言葉を失う。キメラが現れたせいでセンター内は混乱の真っ只中。能力者達が本部を出る前に地元の警察に連絡して誘導などを頼んではいたけれど、さすがにこの混乱状況では手に負えないという感じだった。
 能力者達はキメラの足止めと避難誘導の2つの班に分けて行動をする作戦を立てていた。
 足止め班・土方、白虎、神咲、ガル、キリー。
 誘導班・諌山、仮染、龍深城、張。
「それじゃ被害者が増えないうちに急ごう」
 龍深城が呟き、それぞれの班は行動を開始したのだった。

「えぇと、キメラは何処かな‥‥」
 諌山はまず警備室へ直行して監視カメラのチェックを始める。諌山は念入りにカメラをチェックしてキメラを2匹確認する。
 そして館内放送を使って一般人、そして館内で足止めをする能力者と避難誘導をする能力者達に伝える事にした。
「ぴんぽんぱんぽーん、迷子のお知らせです。狼によく似たキメラが玩具売り場と紳士服売り場で迷子になって暴れております。お近くにおいでの方は速やかにその場を離れ、現場係員、もしくは傭兵の指示に従ってください」
 そして「みなさん、避難の三大鉄則は押すな、走るな、物言うなですよ〜? なお、お子様の手は離さないようお願いします。ぱんぽんぴんぽーん」と言葉をつけたし、よし、と呟いたのだった。
「紳士服売り場‥‥って此処から近いじゃないか。皆さんコチラに逃げてください! 俺達が守り抜きますので、どうか騒がず、焦らず! 近くの傭兵、アナウンスに従ってください!」
 仮染はわぁわぁと騒ぐ一般人達に向けて言葉を投げかけ、怪我をしないように避難誘導を行う。
「そっちは危ない、こっちから逃げてくれ!」
 龍深城も一般人に声をかける。
「避難誘導ってやった事無いんだよなぁ、こういう時って大抵足止めとか囮やってたし‥‥」
 龍深城は小さく呟き「我々はLHから派遣されてきた能力者です、皆さんの安全は我々が全力で確保しますので慌てずに此方の誘導に従って避難してください!」と言葉を付け足したのだった。
「ちょっとどいてよ! キメラがいるんでしょう?! 早く逃げさせて!」
「キメラへの対処は開始しております、安心して落ち着いて避難してください」
 ややパニックになりかけている女性に張が声をかけて避難させる。
「とりあえず、避難はどうにかなりそうですね」
 張が呟いた時、トランシーバーに足止め班から連絡が入る。
「2匹とも裏口の方におびき寄せたのにゃー!」
 白虎の言葉を聞いて、避難誘導が落ち着いた能力者達は裏口の方へと向かって駆け出したのだった。

 一方、足止め班は白虎が自腹でお金を出し、焼肉用品と肉を購入して匂いでキメラをおびき寄せる作戦を決行していた。
「早くしなさいよね」
 焼けた肉を食べながらキリーが偉そうにふんぞり返って白虎や他の能力者達に言葉を投げかける。ちなみに肉はキメラをおびき寄せる為に焼いているのであって決してキリーをもてなす為に焼いているわけではない。
(はわわ、サスケさんは目的の物を手にしているのでしょーか‥‥それによって僕の運命が決まりそうですぅ)
 土方はサスケの心配もしているが、自分の心配もしている。
「んー、キリーの所のサスケ君は本を買いに行ったんだよねぇ‥‥だったら本屋さんにいるのかな?」
「サスケはとりあえず後でいいわよ、私はさっさと終わらせて漫画読みたいんだから」
 キリーはなおも肉を食べながら言葉を返す。
「お、何かキメラがこっちに向かってるみたいだぞ」
 諌山からの放送を聞いてガルが呟く。1匹が此方へ向かってくるのを確認したガルは武器を構える。人が少なくなってきた事でキメラもセンター内を走り回っているのだろう、そして人のいる場所へと行き着いた――という感じだろうか。
「にゅ、それじゃ誘導班の皆にも言っておくのにゃ!」
 白虎がトランシーバーで連絡を行い、キメラを他の場所に行かせないように足止め班は行動を開始したのだった。


―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――

「おらおら! 苦労して手にいれたこの機械剣の切れ味を試させやがれ!」
 ガルはスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「うぅ、狼さんなのでちょっと戦い難いですけどー、仕方ないですぅ‥‥」
 土方も呟きながらスキルを使用し、キメラに攻撃を仕掛ける。
「おっと、お前の相手はこっちだ」
 もう1匹のキメラが土方に攻撃を仕掛けようとしたので龍深城がツインブレイドを構え、スキルを使用して攻撃を繰り出す。
「にゅははは! ボクの攻撃も受けるにゃー!」
 白虎も攻撃を仕掛け、仮染も白虎の攻撃にあわせて武器を振るう。
「磔刑に処す、お前に手出しはさせない」
「‥‥もう少し付き合ってもらうよ」
 仮染が攻撃を仕掛けた後、神咲も呟きながら攻撃を仕掛ける。だが反撃としてキメラも攻撃を仕掛けてきて神咲はそれを避ける。
「ん〜なかなか動きがいいなぁ」
 負ける気はしないけどね、と言葉を付け足しながら再び攻撃を仕掛ける。
「‥‥鬼哭の剣‥‥対人相手なら一撃必殺の技なんだけどね‥‥やっぱりキメラの生命力は大したものだね」
 神咲は感心するように、小さく呟く。
「私にとっては初めてのキメラ戦、負けるわけにはいかない」
 張は短く呟き、キメラへと攻撃を仕掛ける。
 今回は人混みが一番の難題であり、キメラの強さそのものは能力者達にとって大したものではなく簡単――とまではいかなかったけれど、どちらかといえば楽の部類に入る程度で退治する事が出来た。
 しかし、傭兵としての仕事はここで終わりでもキリーに関してはこれからが始まりだったのだった。


―― それから‥‥ ――

「ごめんなさい」
 あれから能力者達はサスケを探しだし、キリーの所へと連れてきた。しかし彼が手に持っているぐちゃぐちゃの袋を見てこれから彼が言おうとしている言葉は容易に予想する事が出来た。
「‥‥漫画、汚れてる‥‥役立たずね、これ以上ないくらいに役立たずで生きてる価値すらないわ」
 はぁ、と盛大なため息と共にキリーが言葉を投げ「もう一度買ってきなさい」とサスケに命じた。
「って隅っこに隠れんな、馬鹿犬」
 持っていたウサギのぬいぐるみをスパコーンと投げつけながら漫画が読めない八つ当たりを土方へと行う。
「にゅははははは! 漫画はボクが買ってきたのにゃー!!」
 ショッピングカートに乗って勢いよくサスケを轢こうとしながら白虎が叫ぶ。しかし彼は気づいていない。大声を出していれば早い段階で気づかれてしまうという事に。
 そしてサスケはその後、すっと横に避けるだけでいいのだ。
「にゅああああああ」
 ずどーん、だか、どかーん、だかの効果音と共に白虎は壁へと激突する。
「‥‥まぁ、アレも撮っとくか。ネタは多い方がいいしな」
 龍深城はデジカメで白虎を撮る。あとで白虎を弄るために。
「か、買ってきたにゃ‥‥それとボクと勝負するのにゃ。どっちが面白い漫画を持ってこられるかという勝負「うるさい、いい所で続いてたんだから邪魔すんな」ふごおおお‥‥」
 勝負を仕掛けられるもキリーは見事にスルーし、漫画から視線を逸らすことなく白虎を攻撃する。
「スポ根漫画‥‥まさか、練習で苦しむ様を楽しんでいるとか‥‥?」
 キリーが漫画に集中しているのを見て仮染が苦笑して呟く。このキリーならありえるというのが何と言うか、という気分である。
「うぅ、痛い‥‥」
 キリーから殴られた場所をさすりながらサスケがため息を吐く。
「ん〜、なんだかんだ言っても、色々頼まれるって事は頼られているって事じゃないのかな? まぁ、キリーのことだからそんな事はおくびにも出さないだろうけどね」
 ね、と神咲はキリーの肩に手をかけながら呟く。
「せくはらダメ! 絶対!」
 そこで仮染によって引っぺがされてしまう。神咲が手をかけただけでせくはらになるという事実に「今回は本当に何もしてないじゃないか」と困ったような表情で言葉を返したのだった。
「キリーさん、ジュース買ってきました! 疲れたでしょうから飲んで下さ――あぁっ!」
 諌山は相変わらずのドジぶりでキリーにジュースの缶をぶつけてしまう。角を。
「み〜く〜も〜ぁぁぁぁ‥‥」
 ずきずきと痛む頭を抑えながら地の果てから搾り出すような声でキリーがゴゴゴゴと後ろを振り返る。しかしそこにいたのはサスケ。何故か諌山はジュースをサスケ越しに投球していたようだ。
「サスケ、あんただったのね。いい度胸してるじゃない。ちょっと何固まってンのよ」
 すぱーんと平手打ちがサスケに食らわされ、それを見たガルが「幼馴染だからって何しても許されると思ったら大間違いだぞ!」と2人を引き剥がして叫ぶ。
 そこでサスケは思う。ようやく助けてくれる人物に出会えた――と。しかしその期待は秒殺されてしまう。
「判ってんのかよ、サスケ!」
「俺かよ!」
 おい! とツッコミ的な言葉をサスケがガルへと言葉を返す。
「今いちゃついてただろうが!」
「今のどの部分を見ればいちゃついているように見えるんだよ! 一度眼科行った方がいいんじゃないか、アンタは! 大体アレは女じゃないだろ! 女の振りした魔獣じゃないか! そんなんにキャッキャウフフな展開が来ると思ってるのか!」
 サスケがガルにまくし立てると「へぇ、魔獣ねぇ」とキリーがこれ以上ないくらいに天使の微笑を浮かべる。
「‥‥サスケ! こういう幼馴染はいるだけで楽しいんだぞ! 贅沢言ってると罰が当たるんだからな!」
「見てるほうは楽しいだろうなぁ! 俺は何も贅沢言っちゃいねぇよ! むしろ俺に平穏をくれ!」
 サスケの心からの叫びに他の能力者達はほろりと涙が出そうになる。
「にゅああああ! 何してるんだー! ボクも混ぜろにゃー!」
「白虎さん、それは抜け駆けです」
 白虎と仮染が割って入ってくる。
「何というか、総帥が楽しそうだという事だけは把握できましたね」
 張が苦笑交じりに呟く。
「そうだ、おねえちゃん! この徐々に奇「色んな意味でアウトよ」にゅううう」
 そんなやり取りを見て張は「やっぱり桃色なんですねぇ」と呟く。
「これから、強く生きてくださいね。きっといい事が多分、奇跡的にあると思うんです」
 張が慰めにならない慰めの言葉をサスケへと投げかける。

 その後、神咲がキリーと話しているだけでせくはら扱いをされ、白虎によってペイント弾を打ち込まれる。
 それに腹をたてた神咲は笑顔で白虎を追い回すのだった‥‥。


END