タイトル:青空マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/10 00:43

●オープニング本文


俺、青空を見るのが大好きなんだ。

だってさ、青空って何か凄く綺麗な気持ちになれるから。

だからこの青空とか守る為に頑張りたいんだっ。

※※※

「あのさっ、お願いがあるんだ!」

七海・鉄太(gz0263)は本部の前で数名の能力者達に話しかける。

「俺を強くして欲しいんだ。俺ってば今まで何回か任務いったけど、毎回役に立てなくて‥‥でもこんなんじゃ大好きな彼女も守れないから、俺を強くして!」

がばっと勢いよく頭を下げて能力者達へとお願いをする。

「強くって言われてもなぁ‥‥あ、そうだ。これからちょっと簡単な任務に行くんだけど、一緒に行く? いきなり難しい任務とかしても足を引っ張るだけだと思うし、簡単な任務から慣らしていこうよ」

能力者の言葉に「うん、俺がんばる」と鉄太は言葉を返し、任務の準備に取り掛かる事にした。

今回の任務は新人能力者達向けの簡単な任務。

しかし簡単な任務だからと言って油断は出来ない、任務内容はキメラ退治なのだから。

簡単な任務と言えど相手は此方を殺すつもりで来る以上、此方も全力で行かざるを得ない。

●参加者一覧

椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
ホキュウ・カーン(gc1547
22歳・♀・DF
守 鹿苑(gc1937
37歳・♂・EP
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
相賀琥珀(gc3214
21歳・♂・PN

●リプレイ本文

―― 守る為の強さを ――

「俺、てった! 宜しくなっ!」
 七海 鉄太(gz0263)は元気な声で今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶をする。
(「この子が蛍ちゃんの‥‥」)
 椎野 のぞみ(ga8736)は鉄太の顔をジッと見ながら心の中で呟く。
「どーかしたか?」
 見られている事に気づいたのだろう、鉄太が不思議そうに言葉を返してくる。
「あ、ごめん。初めまして! 椎野のぞみです! 宜しく!」
 椎野が握手を求めるように手を差し出しながら挨拶をすると「俺てった! 宜しく!」と鉄太も笑って言葉を返し、手を出して握手をした。
「そういえば‥‥初めて真実を知った時以来ですか。元気でやっているようですね‥‥って覚えているでしょうか?」
 苦笑しながらアリエイル(ga8923)が鉄太に言葉を投げかけると「勿論覚えてるぞ! 俺一度会った人は忘れないもん」と言葉を返してくる。
(「ほたるの彼氏‥‥保護者代理としてボクが見定めなくちゃ――ほたるにふさわしいかを‥‥」)
 柿原ミズキ(ga9347)は鉄太を見ながら心の中で呟く。
「宜しくなっ」
 にぱっと笑って鉄太が挨拶をしてきて「よろしくねてった」と柿原も言葉を返す。そんな柿原の姿を見た雪代 蛍(gb3625)は少しだけ複雑そうな表情を見せていた。
(「何でかな‥‥ミズキには来て欲しくなかったな‥‥おかしいな、人を、あたしを好きになれたのはこの人のおかげなのに‥‥でもあっちが気負うから‥‥」)
 こっちだって、と雪代は小さく呟いた。
「う? どーした? 何かむずかしー顔してる」
 かくりと首を傾げながら鉄太が雪代に問いかけると「なっ、何でもないってば!」と顔を赤くしてぷいっと逸らした。素直じゃない態度は取ってしまうものの鉄太が自分を守りたいと言ってくれた事――それは雪代に嬉しいという気持ちを与えていた。
「えぇと、今回の任務は――‥‥街の中にいるのはキメラだけで民間人は避難完了。なるべくなら民間施設への被害を食い止めたい所ですが、まぁ、費用対効果から考え、ある程度は壊すかもしれませんね」
 ホキュウ・カーン(gc1547)が資料を見ながら呟く。民間人の避難が完了している事である程度は楽に出来そうだが、住人達の心配がなくなった分、今度は建物などに気を使わねばならない。能力者達がキメラを退治した後、住人達はそこで再び生活を始めるのだから全壊などになってしまったら任務は失敗したも同然になるからだ。
「よーし! 俺も強くなる為に頑張るっ!」
 ぐ、と拳を強く握り締めながら鉄太が呟くと「強くなりたい‥‥か」と守 鹿苑(gc1937)がポツリと独り言のように呟いた。
「難しい事だが、そのきっかけでも与える事が出来たら‥‥」
 強くなる、言うだけならば誰にでも出来る事だが実際に有言実行するには難しい事だ。だがそのきっかけでも鉄太に与える事が出来ればいい、守はそう考えていた。
「住人の皆さんは避難中ですか‥‥何か、さびしいですね‥‥」
 和泉譜琶(gc1967)は資料を見ながら眉を下げ、少し哀しそうに呟く。キメラが現れたからといって自分達の街を離れなければならない、それがどれだけ住人達を悲しませているのだろう――そう思うと和泉は寂しい気持ちでいっぱいになった。
「鉄太さん、大切な人を守りたいから強くなりたいといいましたよね」
 相賀琥珀(gc3214)が鉄太に問いかけると「うん! 蛍まもりたい」と首を縦に振りながら言葉を返してくる。
「大切な人を護る為、大切な事をご存知ですか?」
「大切な事?」
「えぇ、自分の命も護る事です。大切な人を1人にしない為、自分自身も守らなくてはいけません。その為にもお互い強くなりましょうね」
 相賀の言葉に「そっか、蛍まもるだけじゃダメなんだ、自分も守らないといけないんだ‥‥」と鉄太は納得したように小さな声で呟いた。
「それでは参りましょうか」
 アリエイルが呟き、能力者達は高速艇に乗り込んでキメラが徘徊している街へと向けて出発したのだった。


―― キメラが徘徊する街 ――

 能力者達がキメラ退治のためにやってきた街、そこは資料にある通り既に住人達は避難しており、不気味な静けさだけが残っていた。
 椎野と守が『探査の眼』を使用し、周囲への警戒を強める。
「『強さ』というのは、ただ戦っていれば判るというものでもない、覚えておいてくれ」
 守の言葉に「他にも強さってあるのか?」と首を傾げながら言葉を返す。外見的には18歳の少年でも中身は10歳の少年――まだ強さという意味の判別がつかない部分もあるのだろう。
「強さといえば椎野君、いい妹さんだな。戦う理由をきちんと心に持つ、強い子だ」
 守の言葉に「ありがとう」と椎野も言葉を返した。
「能力限定‥‥解除‥‥鉄太君、私の場合は最初から最後まで全力です。敵はどんな姿であれ‥‥本気で襲ってきますからね」
 アリエイルも鉄太に『強さ』を教える為に言葉を投げかける。たとえ戦うべき敵が人の姿をしていても躊躇う事は能力者には許されない。躊躇う事、それは即ち自分の命を危険に曝す事、そしてこれから先幸せに暮らすであろう一般人達を危険に曝すという事なのだから。
 他の能力者達が鉄太に教えている中、柿原は別の事を考えていた。
(「ほたるも変わったな、彼氏まで出来るとは‥‥ま、根は優しいからね。素直じゃないけど」)
 そう心の中で呟き、柿原は表情を曇らせる。
(「ボクは、信頼を裏切った。そして守れなかった‥‥強化人間の攻撃にボクは壊れた‥‥だから、見定めさせてもらうよ、てった」)
 柿原は1つだけ心に決めている事があった。恐らくそれは鉄太の彼女である雪代が決して喜ばない、それをわかった上で鉄太に対して行おうと考えている事があったのだ。
「これからどうするんだ?」
 かくりと首を傾げながら鉄太が問いかけると「行動は任せるよ」と雪代が言葉を返した。
「強くなりたいならあたしが手を出しちゃいけないからさ」
 少し照れるような表情で雪代が言葉を付け足す。
「それでは‥‥作戦開始と行こうか! どれほど市街地をぶっ壊すのを避けられるか!? こいつは派手なギャンブルだ!」
 ホキュウは覚醒を行い、楽しそうに呟く。覚醒を行ったホキュウは普段の冷静さが消え、戦闘をギャンブルとして楽しむ節がある。
「よしっ! ワンちゃん退治がんばろー!」
 能力者達は固まって行動をして、キメラへの警戒を強める。
「ワンちゃんワンちゃん、ワンワンワー、ガウガウガー!」
 和泉は楽しそうに歌いながらキメラ捜索を続ける。
「楽しそうですね、キメラもすぐに見つかるといいんですけど‥‥」
 相賀が小さく呟き、建物の上、遮蔽物の陰の死角などを警戒しながらキメラ捜索を行う。
「「っ!」」
 そして突然、椎野と守の表情が険しくなる。
「その壁の向こうから来るよ!」
 椎野が叫んだ瞬間に、壁を壊してキメラが能力者達の前に姿を現した。恐らくキメラ自身は近くにおり、能力者達の物音に反応して姿を現したのだろう。
 キメラ捜索を開始した時からキメラと対峙してもいいようにそれぞれ準備を行っていた。
 椎野は洋弓メルクリウスを構え、後方から援護射撃を行う。
「‥‥必ず守り‥‥必ず生きて帰る‥‥それが絶対条件です!」
 アリエイルはスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛け、鉄太が攻撃しやすい状況を作る。
「鉄太君! 彼女を守るんでしょ! なら蛍ちゃんと息合わせなさい!」
 鉄太が攻撃を仕掛けようとすると椎野が後方からやや大きめの声で鉄太に言葉を投げかける。
 そして鉄太は雪代の攻撃に合わせて自身も攻撃を繰り出す。
「犬っころが! 燃え尽きちまいな!」
 ホキュウは超機械マジシャンズロッドの射程の長さを生かしてキメラに攻撃を仕掛ける。
 守はスコーピオンを構えキメラの足を狙って撃つ。
「何で足? 足じゃなくて体狙った方が‥‥」
 鉄太が疑問を守へと投げかける。
「私達にも『撤退』という選択があるように、敵にも『逃げる』選択肢がある事を忘れてはいけないぞ。もし此処で逃げられた場合、しなくて良い怪我を他の見知らぬ人がする事になる」
 守の言葉に「そっか‥‥逃げられちゃうから足を‥‥」と納得したように呟く。
「犬の敵さん‥‥噛まれたらとぉーっても痛そうですね」
 和泉も苦笑しながら呟き、スキルを使用しながらマーシナリーボウで攻撃を仕掛ける。和泉の攻撃を受け、キメラは動きを一時止めて痛みの鳴き声をあげた。
「其方にはあまり行ってほしくないですね、建物に被害が出ますから‥‥」
 今は無人の家の壁に激突しかけたキメラだったが、相賀は夜刀神を構えて攻撃を仕掛け、壁にキメラが激突するのを避ける。
「鉄太君、私の攻撃の後に仕掛けてください」
 アリエイルが鉄太に言葉を投げかけ「わかった」と鉄太も首を縦に振り、アリエイルの攻撃の後に自らも攻撃を仕掛ける。
「強さというのは腕力や戦闘技術だけではありません‥‥仲間を信じる心‥‥自分の力不足を認める事が出来る‥‥などですね」
 力不足なのに無理をすれば仲間全員をも危険に巻き込むのですから、とアリエイルは言葉を続けた。
「ボクは遠慮なんかしない‥‥敵である以上は倒すだけ‥‥」
 柿原は妖刀・天魔で攻撃を仕掛ける。勿論本気を出しすぎてすぐに退治してしまわないようにと気をつけながら。
 その後も能力者達は鉄太を鍛える為に鉄太がキメラにトドメを刺せるようにと行動をし、鉄太がキメラへとトドメを刺したのだった。


―― 強さの意味、守る事の責任 ――

「ん? どーしたの?」
 キメラを退治した後、柿原は武器をしまう事もせず、鉄太をジッと見つめた。
「知ってるよね。敵はキメラ以外にもバグアの連中やヨリシロ、強化人間ってさ」
 柿原は覚醒を解除する事なく、鉄太へと問いかける。
「うん。俺ってばまだ会った事はないけどそういう奴らもいるってのは聞いた事があ――え」
 鉄太は驚きで言葉を途中で止めてしまう。それもその筈。柿原が鉄太へと襲い掛かってきたからだ。
「なぁ、蛍を守るんだろう! 強くなりたいんだろう! ならここで、示してみせろよ!」
 柿原は強く鉄太を睨みつけながら斬撃を繰り出す。
「ミズキ!」
 雪代の声が柿原にも届くけれど、柿原は止めることはしなかった。
「奴らには情けなんてない、慈悲なんてない! 殺るか殺られるかだ!」
 大きく柿原が武器を振り上げて攻撃を仕掛けようとした時「ミズキねえさんストップ!」と椎野がバスタードソードを2人の間に割り込ませながら言葉を投げかける。そして同時に守もスキルを使用して鉄太の前へと飛び出していた。
「すまないな、柿原君。万が一、があっては困ると思ってしまってな」
 守と椎野が入ってきた事で柿原も気持ちが落ち着いたのか大きく息を吐いた後、武器をおろした。
「ミズキの馬鹿! 何であんなコトするの! またしたら絶対に許さないんだから!」
 雪代が柿原に駆け寄りながら大きな声で叫ぶ。
「ごめん‥‥てった、まかせたよ。でも、泣かせたら‥‥ぶっ飛ばす」
 柿原はそれだけ言葉を投げかけると鉄太の前から姿を消す。
「ボクが戦闘中に言った言葉の意味、わかる?」
 椎野が鉄太に問いかけると鉄太は首を横に振る。
「蛍ちゃんは傭兵、それも鉄太君より傭兵として先輩。だから守りたいのなら‥‥息を合わせる、連携を学んだ方がいいと思ったの。それは彼女だけではなく、ボク達仲間との連携を学ぶ事が多いから」
 キミは1人で戦っているわけじゃないから、と椎野は言葉を付け足す。
「ボクも昔は1人で戦えると思ってた。他人が傷つくのなら‥‥他の力なんていらないって、でも違った。ボクは1人ではなく皆で戦っている事に気づかされた。だから鉄太君、これからも一緒に頑張りましょう、そして一緒に強くなりましょう!」
 椎野の言葉に「うん!」と鉄太は強く言葉を返した。
「でも、誰かを守る為に強くなりたいという気持ち‥‥一番大切にしなければならないと思います」
 アリエイルの言葉に「そうなの?」と鉄太は言葉を返す。
「意味なく力を振るう事、それはただの暴力に過ぎないのですから」
 アリエイルは「何の為に力を使うか、それが重要なのですよ」と言葉を付け足した。
「鉄太君、誰かを守りたい気持ちはわかります。ですが最低でも自分の身は自分で守れるようになりなさい。それがパートナーです。幸いにも貴方は能力者です。まずは自分の身を守れるほどに鍛える事です。今のあなたに人を切れますか?」
 先ほどの柿原さんのように、とホキュウが言葉を付け足すと鉄太は「‥‥わかんない、無理、かも‥‥」と俯きながら言葉を返す。
「肉体的な強さだけではなく、それに耐えうる精神も作らねばなりません。それを忘れないようにしてください」
「でも、俺、怖がりだから」
「私は臆病者だから、力に差があっても、傍にいようと努力する七海君を尊敬するよ。七海君は決して弱くなんかない。強い『心』を持っているんだ。だから立ち止まらなければ彼女をきっと守れるさ」
 守の言葉に「俺強いの?」と聞き返すと「誰しも簡単に得られるものではない強さを持っているよ」と言葉を返す。
「でも、困った時は誰かに頼るといい。それは決して恥ずかしい事じゃない。助けてくれる人がいる事は誇っていい事だと思うよ。1人で抱え込むんじゃないぞ?」
 守の言葉に「うん! その時はおっちゃんに頼るな!」と鉄太は言葉を返す。
「お‥‥」
 鉄太の何気ない言葉に多少ショックを受けるけれど、鉄太はそれに気がつくことはなかった。
「鉄太君と蛍さんは彼氏彼女なんですよね? いいな〜、彼氏いいな〜」
 和泉は雪代と鉄太を交互に見ながら羨ましそうに呟く。
「鉄太君、大事な彼女を泣かせないように頑張ってください」
 相賀は優しい笑顔を見せながら、雪代を一瞥した後に鉄太に言葉を投げかけた。
「僕も、無事に戻らなくてはいけません。大切な人が待っていますから」
 そう呟く相賀の瞳には強い意志が揺らめいているように鉄太には感じた。
「鉄太君、今回のことで強くなれましたか?」
 相賀が問いかけると「わかんない」と鉄太は言葉を返す。
「でも、強さって色々あるんだって今回のことでわかったよ」
 だからがんばる、と鉄太は言葉をつけたして返した。

 その後、能力者たちが高速艇に戻ろうとした後、雪代に呼ばれて他の能力者達は先に高速艇へと戻ることにした。
「ねぇ、眼を閉じてくれない?」
「眼? 何で? 眼を閉じて何かくれんのか?」
 見当違いな言葉に雪代は顔を赤くしながら「そんな事聞かないでよ‥‥あたしだって恥ずかしいんだから‥‥」と言葉を返した。
 鉄太は言われるがまま目を閉じると、雪代からキスをされる。
「蛍が俺にちゅうしたぞ!」
 高速艇へと戻るなり「俺、蛍からちゅうされた!」と騒ぎ始め、雪代は色々な意味で居心地の悪さを感じたのだった。



END