タイトル:もやしの着せ替えマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/05/24 03:38

●オープニング本文


普段は魔王な彼女にあの服を着せてみよう。

ただし、ろくでもない服を差し出すと大変な目に合いますよ。

※※※

「そろそろ新しいお洋服が欲しいなぁ‥‥」

キルメリア・シュプール(gz0278)はファッション雑誌を見ながら小さく呟く。

母親の趣味と言うこともあり、キリーの私服はほとんどがフリルたっぷりのロリ系の服ばかりだったりする。

「まぁ、お母さんが私の為に選んでくれたお洋服だから文句は無いんだけどね。何よ、このモデルぶさいくね」

ファッション雑誌のモデルにすら文句を言うキリーを止められる人間は居ないだろう。


―― ヘタレども ――

こんにちは――なんて何で私が言わなくちゃいけないのよ。

とりあえず、新しい服が欲しいから持ってきて。今すぐに。

もし持ってこなかったらどうなるか分かってるわよね?

精神的に全殺しにしてやるわよ、この馬鹿!

―――――――――――


そんな明らかに上から目線のはがきが届いたのは、キリーが新しい服が欲しいといった次の日。

キリーはわくわくしながら自分の家で新しい服を楽しみにしているのだった。

●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
フロスヒルデ(gc0528
18歳・♀・GP

●リプレイ本文

―― もやし変身☆大作戦 ――

「遅いわね。まったくさっさと来なさいよね。ヘタレどもめ」
 キルメリア・シュプール(gz0278)は自室に置いてあるピンクのソファに腰掛けながらいらいらとした口調で呟く。
 今回はキリーに(理不尽に)呼ばれた能力者達が彼女の家に訪れる事になっていた。理由は『新しい服もってきて』という『自分で買いに行けよ』とツッコミを入れたくなるような内容だったりする。

「はわわ、キリーさんの理不尽行動は何時もどーりですけど、今度はお洋服ですか‥‥ある意味、まおー様への御献上品なのですよ‥‥」
 うぅ、僕のお小遣いにえらい出費がきちゃったですぅ‥‥と土方伊織(ga4771)は少し涙声で呟く。お小遣いを守る為にはキリーからの呼び出しをスルーすれば良かったのだろうが、後が恐ろしくて土方にその選択は選べなかったのだ。
「ふふ、キリーも年頃の娘だけあって色々着替えたい気分なんでしょうね」
 百地・悠季(ga8270)が苦笑しながら呟く。彼女は勿論キリーの為の洋服も用意していたが、キリーの我侭を聞いて打ち上げのお茶会用の料理の材料を多く持っていた。
(「ふふ、どんなのが気に入られるか楽しみだわ」)
 百地は心の中で呟く。
「今回は着せ替えか‥‥」
 何処かそわそわとした様子で白虎(ga9191)が小さく呟いた。彼は色々な服を着るキリーを見られる事が楽しみでそわそわとしているのだが‥‥哀しいかな、彼のしっと団総帥という立場がそれを表立って浮き足立たせるのを制止していた。
「あれ? 何か落ち着きがないみたいだけど? どうしたのかな、白虎君は」
 神咲 刹那(gb5472)が見透かしたような口調で白虎に言葉を投げかけるが「な、何でもないにゃー!」と慌てて白虎は言葉を返す。
「キリーさん、ビックリするだろうなぁ‥‥エイプリルフールに見た夢が正夢になっちゃったよ‥‥」
 冴木美雲(gb5758)は自分のお腹に手を当てながら苦笑交じりに呟いた。
「お洋服かぁ‥‥そういえば衣替えの季節だっけ?」
 フロスヒルデ(gc0528)が呟くと(「そろそろあんたも衣替えしてみる?」)となっちゃんがフロスヒルデに言葉を投げかける。
「んー、上着を脱ぐと半袖だから一年通して大丈夫かもー」
 フロスヒルデの言葉に(「そう‥‥まぁ、別にいいけどね」)となっちゃんが呆れたような口調で言葉を返したのだった。
「さ、とりあえずキリーが待ってるでしょうし向かいましょうか」
 百地が呟き、能力者達はそれぞれ自分が選んだ服を持って苛々が限界に近づきつつあるキリーの屋敷へと出発したのだった。


 キリーの屋敷に到着すると既に腕組みをして門の所で待ち構えている彼女の姿があった。
「おっそいわよ! 時間前行動くらいしなさいよね、このノロマ」
 キリーはぎゃあぎゃあとわめきたてるが、ハガキには時間も日にちも書かれていなかったのだから彼女の言葉には矛盾がある――がそれを抗議出来る勇者は存在しない。
「やっほ〜、キリー。今日も元気そうだねー♪」
 神咲がキリーの後ろから抱きつき、話し掛けながら頬にキスをする。
「な、ななななな何をしてるだー!
 白虎が暴れて神咲とキリーを引き離す――が、「何してんのよ、このせくはら魔が‥‥!」と白虎を勢いよく突き飛ばして、キリー必殺☆白虎投げを炸裂させるのを神咲はさらりと避けて実質的に被害を受けたのは白虎だけだったりする。
「とりあえず中に入りなさいよ。喉渇いたから砂糖たっぷりの冷たい紅茶が飲みたい」
 とりあえずキリーは客である能力者達をもてなす気は皆無のようだ、むしろこき使う気満々である。
「それじゃあたしがするわ。お茶会用の料理も作るからキッチンを借りるわね」
 百地が呟きながら持ってきた材料を持ってキッチンへと向かっていった。
 そして能力者達が向かうのはキリーの部屋の隣にある大きな客間。
「とりあえず、部屋で着替えてこっちに来るからさっさと持ってきた服を寄越しなさいよ、ヘタレども」
 キリーが手を差し出すと最初に渡したのは土方だった。彼は夏から秋にかけて着られる物と聞いて『天使』と『悪魔』の浴衣を2着持ってきていたのだ。
「へぇ、ユカタだ。それじゃ着てくるから適当にくつろいでなさいよ。ただしゴミは持って帰りなさいよね」
 部屋から出る時に念を押してからキリーは浴衣を持って自室へと着替えに向かったのだった。
 それからキリーが出てきたのは数十分後、メイドに着付けを手伝ってもらい、現れたのは天使を身に纏ったキリー。白を基調としたデザインで背中に天使の羽のようなオブジェがついている。
(「天使と悪魔‥‥キリーさんの表と裏の性格みたいですぅー」)
 土方は浴衣を着たキリーを見ながら心の中で呟いたのだった。
「あ、悠季さんの代わりに服を渡すように頼まれたんだった、これが悠季さんの持ってきた服だよ〜」
 冴木が百地から渡された服をキリーに渡し、預かったメモを見て説明をする。ベージュの半袖エスニックトップスでデコルテ部分はインド風格子柄の模様が施されている。下はデニムのショートパンツに黒レギンスという組み合わせだった。普段のロリ系の服を着ているキリーとは少し印象が違って、可愛らしいという言葉も合うのだが元気っぽく見えるという印象の方が強いかもしれない。
「あらあら、可愛いわね。ふふ、ぜひ次はこれを着て欲しいわ」
 白虎の代わりに母親であるくれあ(ga9206)がキリーに服を渡す。黒とブラウン系の色合いのミニ丈チュニックワンピースに長袖シャツという組み合わせで薄手のベージュ系カーディガンと頭には帽子をかぶり、下は黒のニーソックス。髪のほうには緩く青いリボンをつけて飾る――という格好になった。
 ちなみに青いリボンは総帥ファミリー伝統らしい。つまりキリーに嫁に来いと遠回しに、あるいは直線的に言っているのだろうか?
「あらあら、可愛いじゃない。ね?」
 くれあが白虎に賛同を求めるように言葉を投げかけると「な、何でボクに振るにゃ!」と慌てて言葉を返す。ちょっとだけ顔が赤いのは気のせいではないだろう。
「はい、次は僕の選んだ服だね。普段はあえて女の子って感じだから『男の子風』にしてみたけど‥‥気に入ってくれるかな?」
 神咲が渡したのは、赤いTシャツにデニムのショートオールにハンチング帽。動きやすさが重視された格好であり、今まで以上にキリーの悪戯が活発になりかねない服装とも取れた。
「こうして見ると、服ってのも色々種類があるのね。ま、私はどれを着ても可愛いし似合うから大した問題じゃないけど」
 キリーはさらりと呟き、冴木に「あんたはどんな服を持ってきたのよ」と手を出しながら言葉を投げかけた。
「私はこれ。キリーさん、凄い綺麗な金髪してるから、きっとこういうの似合うと思うんだ」
 冴木は言葉を返しながらミニスカートタイプの着物ドレスを見せる。ピンクに白を基調とした花柄で、掛衿は花びらのようにひらひらと波打つようなリボンが縫い付けられ、フリルがあしらわれており、お腹の部分で蝶結びになっている。
「あ、可愛い」
「でしょう?」
 腰部分は黒を基調に色とりどりの花柄が描かれた幅広の帯ベルトで、其の上にピンクの紐が一本巻かれて結ばれている。スカートの裾にはひらひらのフリルがついており、いかにもキリー好みの服だった。
「袖は広衿で袖口に白いフリルもついてるから白いブーツと似合いそう」
 冴木から服を受け取り、キリーが自室に戻って着替える。普段の格好もフリルたっぷりの服を着ているキリーだが、冴木の持ってきた服を着たキリーはまた違った雰囲気を持っているように見えた。
「わぁ、凄く可愛い! えへへ、服を選んでる時って凄く楽しかったよ。自分の子供に服を選んであげるのって、きっとこんな感じなんだろうなぁって‥‥」
 冴木の言葉にキリーがピキンと固まり「子供?」と言葉を返す。
「あ、前に話したことなかった? あの夢が正夢になっちゃったみたいなんだ」
 冴木が照れながら呟くと「つ、つまり――破廉恥な!」と顔を真っ赤にしながらキリーは自室へと駈けていったのだった。
「あ、キリーちゃん。この前は楽しかったよ〜♪」
 服を持っていくのを忘れたキリーを追いかけてフロスヒルデがキリーに抱きつき、頬ずりする。
「わ、分かったから離れなさいよ」
 少し苦しそうに呻きながらフロスヒルデを引き剥がし「あんたはどんな服を持ってきたのよ」と手を差し出す。
「じゃーん♪ テーマは学生だよ〜♪」
 フロスヒルデが取り出したのは白のYシャツに首元にチェック柄の短いネクタイ。ネクタイの色は夏っぽく水色を選んでフロスヒルデは持ってきていた。後はそのYシャツの上に着るサマーセーター。スカートは格子状チェック柄で灰色に近い緑をベースに落ち着いた感じになっている。あとはオーバーニーソックスに紺に近い深緑色のブレザーに靴は革靴を用意してきていた。
「わぁ、キリーちゃん似合うよ〜♪ モデルさんみたいな格好もいいけど、こういう制服も似合うよ♪」
 ぱちぱちと手を叩きながらキリーの制服姿をほめる。他の皆にも見せるために客間にキリーを連れて行くと、意外と他の能力者達にも好評だった。
「あ、何だ。もう一着あるんじゃない」
 白虎と名前の書かれた袋を見つけてキリーが中を見る。そして凍りつく。
「ぱいふぅぅぅ‥‥」
 まるで何かに覚醒するような低い声で名前を呼ばれて白虎がビックリする。ちなみに白虎はその袋に覚えがない。その中にはくれあからの陰謀のバニースーツ‥‥は神咲によってすりかえられておりスクール水着(白)が入っていたのだ。
「にゃにゃにゃ! ぼ、ボクは何もしてにゃああい!」
「どの口がそんな事言ってるわけ?」
 白スク水の胸部分には『きるめりあ・しゅぷ〜る』と書かれており隅っこには『BY白虎』という文字も入っている。
 そこで白虎は見た。妖しげに微笑む神咲の姿を。
「え、これボクじゃな‥‥「黙れ」‥‥にゅああ、イタイにゃ!」
 ごす、と頭突きを受ける。
「そんなに嫌がらせをしたいのね、分かったわ。着てあげるわよ。覚悟して待ってろ、この馬鹿野郎」
 え、着るの? と誰もが思ったのも束の間。スクール水着というものが初めてのキリーは少し浮き足たって自室へと向かう。
「‥‥あれ? もしかして、もしかしなくてもなんか喜んでない?」
 神咲が「予想外」と言葉を付け足しながら呟く。
「こ、これはダメにゃ! 見せちゃダメにゃー!」
 其の後、客間から出て行った白虎がキリーを客間に入れないように努力をしていた。好きな子の水着姿を俺以外が見るんぢゃねぇ! という心境なのだろうか?
「何よ! あんたが持ってきたんでしょ! この馬鹿!」
 ごすん、と音がした後に「にゅああ」という白虎の悲鳴が客間まで響く。
「はわわ、白スク水を着たまおー様‥‥恐ろしいです、悪魔な浴衣を着たまおー様より恐ろしいですぅ」
 土方が小さく呟いた後「聞こえてるわよ! わんこぉぉ!」とキリーの怒鳴り声が響く。
「あら、何してるの? 料理できたから持ってきたんだけど‥‥一番気に入った服を着てキリーも来たら?」
 料理をワゴンに乗せて百地がやってくる。キリーも「分かったわ」と言葉を返して着替えに戻り、百地に引きずられながら白虎も客間へと戻っていったのだった。


 それから10分後、キリーが一番気に入った服は――神咲の持ってきた服だった。男の子風という辺りと動きやすい事が気に入ったのだとキリーは呟く。
 そして百地が用意したオレンジを挟んだミルクレープ、マンゴー、ビワ、サクランボを添えてオレンジソースをかけたフルーツクレープ、あとキリーの要望だった四種のフルーツと生クリームたっぷりのパフェ、そして甘さ控えめのシュークリームを食べながらお茶会が始まったのだった。
「あ、そういえばキリーさん。悠季さんから預かった服がもう一着あるんですよ」
 冴木がごそごそとしながら取り出したのは白のウェディングドレスだった。スレンダーラインを基本に螺旋状にフリルがあしらってあり、髪が透けるようなベール、白い長手袋の手元に持つのは白薔薇とアマゾンリリーのキャスケードブーケ。キリーのサイズに仕立て直されているのできっと可愛らしい花嫁が出来上がる事だろう。
「それと、白虎さん」
 にっこりと冴木が笑い、土方、神咲などに羽交い絞めにされながら別室へと連れて行かれる。
「ちょっと着てみたら? きっと可愛いわよ」
 百地の言葉に「分かった」と食べていたシュークリームをぱくりと口の中に入れてウェディングドレスを持って自室に戻って着替えたのだった。

 そして着替え終わったキリーの前にいるのは(恐らく無理矢理着せられたであろう)タキシード姿の白虎の姿。
「はいはい、ちゃんと並んで並んで〜♪」
 フロスヒルデがカメラを構えてジューンブライド風に写真を撮影し始める。ちなみにフロスヒルデは今までキリーが着た服装は全て写真に収め、自分が持ってきた学生スタイルのはおそろいで着た所を写真に収めていた。
「とりえずー、僕達に被害が来ないように我慢してくれーなのですよー。ちょっと可哀想な気がしますけど、僕、やっぱり自分が一番大事なので犠牲になってくれーですぅ」
 土方のおっとりした口調には似合わない台詞が吐き出され「な、なん‥‥だと‥‥?」と白虎もこの状況を打破できる作戦を思い浮かべる事が出来ない。
「とりあえず、キリーとの結婚写真を撮ったからには皆に見せないとね。さぁ、白虎君。ちょっと縛られてくれる?」
 ぱし、とロープを伸ばしてにっこりと神咲が白虎に言葉を投げかける。
「じょ、冗談じゃないにゃー! 何でおねえちゃんとの結婚式なんかになってるんだー! こんな、ぼ、暴力な人と結婚じゃいやぶぁ‥‥!」
 途中でキリーからの鉄拳制裁が入り「誰が暴力よ、何なら血痕式にしてあげてもいいのよ?」と上から白虎を見下ろしながらキリーが言葉を返す。
「ダメですよ、白虎さん。好きな人にそんな事言っちゃ! じゃないと私みたいに幸せになれませんよ?」
 へにゃりと笑いながら冴木がのろけを半分交えて白虎に言葉を投げかける。
「あ、これ似合うだろうからあげるよー♪」
 フロスヒルデは聖なるティアラをキリーに差し出して「うん、可愛い」と満足そうに笑う。
「ふふ、次は本物を見せて頂戴ね。随分先になるでしょうけど」
 くれあが穏やかに笑う――が、白虎の恐怖はこれより始まるのだ。
 何故なら、この話がしっと団員に伝わらずに平穏無事に白虎がこれから先を過ごせるか――それはきっと無理なのだろうから。


END