タイトル:薔薇の咲く場所マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/20 23:54

●オープニング本文


その場所には大きな薔薇が咲いている。

人々の血を吸い、赤く、醜くも美しさを感じさせるような真っ赤な薔薇――‥‥。

その中心には上半身を薔薇と融合させたような女性がおり、地面に潜ませた根で攻撃をしてくるのだ。

※※※

それは突然現れた。

何かあった訳でもない、学校の校庭に突然大きな薔薇が現れたのだ。

町の住人達は不気味に思いながらも子供たちのことを考えて薔薇を切ろうとした。

しかし、その場にいた4名の大人達は校庭に潜んでいた根によって突き刺され死亡した。

だが、近寄らなければ――と思った別の大人たちは薔薇を燃やそうとした。

しかし、根についていた棘を放たれて5名の大人達は死亡した。

もはや一般人がどうにかできる相手ではないと悟ったのか、本部へキメラ退治の要請が出された。

「キメラは能力者でないと倒せません。最初から本部に要請していれば死人を出さずに住んだかもしれないのに‥‥」

要請を受けたオペレーターはその悲惨な状況を聞いて、呟かずには居られなかった。

フォースフィールドを持つバグアやキメラ、それは能力者達にしか打ち崩す事は出来ず、どんなにあがいても一般人がキメラを倒す事など出来ないのだ。

合計9名の被害者を出したキメラを退治に、能力者達は集まったのだった。

●参加者一覧

宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
凍月・氷刃(gb8992
16歳・♀・GP
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
諷(gc3235
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

―― 妖しく蠢く妖花 ――

「半人半花とでも言うのか? どこかの伝承にこういう魔性がいた気がするが‥‥何だっけ」
 まぁ、いいや――宵藍(gb4961)は言葉を付け足しながら資料に目を通す。
 今回の能力者達に課せられた任務――それは学校の校庭に現れた巨大な薔薇、そしてその中央に主のように植わる女性の姿。
「9名もの犠牲を出したキメラ、これ以上野放しには出来ないな‥‥もっと早く依頼して欲しかったが‥‥今言った所でどうなるわけでもないな」
 宵藍がため息混じりに呟く。
「これがキメラか‥‥哀れだな、ただの花で在れたなら‥‥此処で散る事もなかっただろうに」
 水無月・氷刃(gb8992)が資料を見ながら呟く。彼女の言う通り、ただの花として生を受けることが出来ればこの薔薇は退治される対象ではなく愛でられる対象としてみてもらえた筈なのだから。
(「この薔薇は何を思って咲き誇っているのでしょうね‥‥」)
 エイミ・シーン(gb9420)はため息を吐き、資料にある写真を見て心の中で呟く。写真に写っているキメラ――女性の方は妖艶な笑みを浮かべている姿が写しだされていた。何を思っているのか、それはきっと能力者達には理解する事はできないだろう。何故なら狩る者と狩られる者という平行線のように交わる事のない立場に身を置くのだから。
「でも宵藍さんが言った通り、もっと早く依頼を出してくれていたらここまでの被害にはならなかっただろうに‥‥子供達がまた元気に学校に通ってくれるように一刻も早く駆逐しよう」
 黒瀬 レオ(gb9668)はくしゃりと資料を握り締めながら呟く。言っても始まらない事は勿論彼自身も分かっていた。
 だけど死者が9名と言うあまりにも酷い状況は能力者達に依頼する事で避けられた状況だった筈。それを考えずにはいられなかった。
「一般人が9人もか‥‥仇は取ってやるぜ」
 守剣 京助(gc0920)はハンドガンにペイント弾を装填しながら呟く。
「早くキメラを倒しちゃおう! じゃないと学校に対する思いが嫌なものになっちゃう」
 和泉譜琶(gc1967)が強く拳を握り、自分を奮い立たせながら言葉をつむぐ。
「哀れだな、こいつはぁ‥‥」
 レインウォーカー(gc2524)が写真のキメラを見て呟く。彼はキメラに殺されてしまった被害者にではなく、キメラに対して同情をしていた。
「静かに花を咲かせる事なく歪められた薔薇‥‥同情はする。だけど容赦はしない、立ちはだかるのなら――斬るだけだ」
 レインウォーカーは愛用の【OR】黒刀に触れながら呟く。右腰には黒刀、左腰に刀の鞘を差している。
「はぁ、それにしても場所が学校かぁ‥‥学校に根を張るなんて頭沸いてんじゃね?」
 諷(gc3235)が苦笑しながら呟く。
「おっと、挨拶が遅れたかな。初めまして、諷って言う。よろしくね」
 にっこりと細目で笑いながら能力者達に挨拶を交わし、他の能力者達も挨拶をする。
「とりあえず、校庭とは言っても広いだろうし。どの辺に位置しているかは書いてないから現地に行ってからのことになるな‥‥出来れば校舎から離れていて欲しいんだが」
 宵藍が呟き、能力者達はキメラが現れた学校に赴くため、高速艇へと乗り込んでLHを出発したのだった。


―― 校庭に現るは妖しき薔薇の化身 ――

 能力者達が高速艇から降りると、学校関係者、町の住人達数名が能力者達を出迎えた。
「貴方たちがあのバケモノを倒してくれる人たちですか‥‥」
 じろじろと中年の男性達は能力者達を値踏みするような視線で見る。恐らくは自分達より年若い子供達に任せて大丈夫なのだろうか、という不安もあるのだろう。
「何か問題でも? とりあえず校庭のどの辺にキメラが居るのかを知りたいのだが‥‥」
 水無月が住人に言葉を投げかけると「中央部分です」と別の住人が言葉を返してきた。話を聞く限り、校舎からは離れているとの事なので戦闘する際に多少気をつければ校舎を壊す事なくキメラとの戦闘を出来る事がわかった。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
 住人の1人が恐る恐る能力者達に問いかける。住人達は一般人とはいえ大人が死んでいくのを見ていたのだ。だからこそ能力者とはいえ、子供に任せて大丈夫かという事もあるのだろう。
「うん、大丈夫だよ。おじさん達よりは若いから頼りなく見えるかもしれないけど、ちゃんと能力者だし今までもキメラ退治とかしてきたから!」
 エイミが住人に言葉を返す。
「とりあえず、早くキメラがいる場所に行ってみよっか」
 黒瀬が呟き、能力者達は住人達に学校の場所を聞いて其処を目指す。
 今回のキメラは学校の校庭に根を張っているという事から、能力者達は班分けせずにそれぞれキメラを囲むような陣形を取って戦闘を行う作戦を立てていた。
「ニャハっ! 作戦いっくよ〜!」
 おー、と言葉を続けながら和泉が手を大きく上げる。
「とりあえず、全員で包囲してから攻撃――でよかったんだよな。後の注意点はキメラが移動するかもしれないって事も考慮しておかなくちゃいけないのか‥‥」
 レインウォーカーが呟く。今までの報告からキメラが動いたと言う報告は無かった。だけどそれを鵜呑みにして警戒を怠れば危険な目にあうのは結局自分達なのだ。
 だからレインウォーカーを含めた能力者達は警戒を怠る事なく戦闘を行おうと決めていた。
「えーっと、あれ――かな?」
 学校が見えてきたところで諷が校庭を指差す。遠目でも分かるその存在は確かに学校と言う場所には不釣合いなほどに禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「キメラでも、薔薇の香りはするのかな‥‥?」
 くん、と鼻を鳴らしながら黒瀬が呟く。すると確かに薔薇の強い香りが学校を囲むようにしており、ほのかに香る上品なものではなく、むせ返るほどの強い香りだった。
「ん〜‥‥何とも禍々しいね。嫌いじゃないんだけど」
 苦笑しながら黒瀬が呟く。
「禍々しいながらもその美しさは健在か‥‥せめて其の美しさ、我が氷で永遠にしてやろう」
 水無月が小さく呟く。まだ学校には到着してはいないのだが、能力者達はキメラの位置などを見て、それぞれが行動を開始する。
 宵藍はキメラにアプローチする場所から最も遠い奥側からの攻撃を行い、レインウォーカーと隣接して行動を起こす事になる。
 水無月は正面からの攻撃でエイミと黒瀬も隣接した場所でどちらかと言えば正面寄りから行動を起こす。
 そして守剣は側面からの行動で諷と和泉はやや側面寄りから行動を起こすことになる。キメラを包囲して逃げ場所も与えず、一気に叩く。
 それが最も効率のよい戦い方だと今回の能力者達は判断したのだ。だが一気に攻撃するリスクがないわけでもない。キメラの戦い方を実際に見ていない彼らにはキメラがどのようにして攻撃を行ってくるのかが分からないからだ。
 だから最初はそれぞれで攻撃を行う事にした。
「それじゃ、行きますか――ねっ!」
 諷が呟き、能力者達は自分の位置まで各自走り出す。突然の出来事にキメラは僅かに出遅れ、能力者達が先手を打つ事が出来た。
 宵藍は盾を構え、スキルを使用しながらキメラへと接近する。キメラは向かってくる宵藍に気づき、棘を放射するが彼は盾によってそれらを防ぐ。しかし地中から襲ってくる根からの攻撃は避けきる事が出来ずに僅かにダメージを受けてしまう。
「ただの薔薇であったならばその美を認められたのに‥‥」
 水無月は呟きながら武器を振り下ろしてキメラへと攻撃を仕掛け、そして下がる。下がった所に根からの攻撃が来たがエイミが根を切り落として水無月はダメージを受けることは無かった。
「はいはい、それはさせないですよーっと」
 ぼとり、音をさせながら落ちる根を見ながらエイミが呟く。そして視線だけを動かして能力者達が攻撃に移ろうとしているのが分かるとエイミはスキルを使用して能力者達の武器を強化する。
「さぁ、紅炎‥‥焼き尽くしていいよ?」
 黒瀬は愛用の武器にポツリと言葉を落とし、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。黒瀬の攻撃がヒットする瞬間、キメラが避けられないようにと守剣がペイント弾を装填したハンドガンでキメラ――女性部分の目を狙う。残念ながら守剣の攻撃は外れてしまったけれど、十分にひきつけたおかげか黒瀬の攻撃はキメラに当てる事が出来た。
「あったり〜!」
 黒瀬の攻撃を受けた後、和泉がペイント弾を装填していた小銃・S−01でキメラの目を狙い、それを見事にヒットさせる。
「学校は友達と楽しく過ごす場所なのに‥‥許せないです!」
 友達と仲良く過ごせる場所、それを汚したキメラを許す事が出来ないのだろう。和泉は少し怒りを露にした表情で呟き、武器をマーシナリーボウへと交換する。
「くっ‥‥その程度かぁ? 何万発当たっても効かないなぁ」
 レインウォーカーがキメラの攻撃を受けながらも不敵に笑って呟く。どこか挑発めいた言葉だったけれど、キメラがその言葉を理解する事はなかった。
「‥‥喰い千切る」
 小さく呟いた後にレインウォーカーはスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「きゃあ!」
 突然和泉の声が響く。その声を聞いて諷が慌てて駆け出し、和泉を狙う根をイアリスで切り落とした。
「綺麗な花には‥‥ってやつか」
「うぅ‥‥この敵さん、許せないけど、怖いです。花が嫌いになりそうだよ〜」
 少し涙交じりの声で和泉が呟くと「大丈夫だから下がって支援してくれ」と諷が言葉を返す。そして諷もスコーピオンに武器を持ち替えて近接武器で攻撃を仕掛ける能力者達の間を縫ってキメラに射撃を行う。
「‥‥なかなかスリルあるな」
 少しタイミングを間違ったら仲間に誤射してしまう。そんな状況だからなのか、諷は小さな声で呟いた。
「みんな!」
 黒瀬が照明銃を使用する。高速艇の中で一斉攻撃の合図は照明銃、という事を話していた事もあり、能力者達はすぐに照明銃の意味を理解してそれぞれ攻撃を仕掛ける。
 全包囲から攻撃をされてはいくら根や棘放射などの能力が使えてもキメラ自身に対処はしきれない。体中に目がついていればともかく、弱点部分だろうと伺える女性の上半身は人間と同じ作りで目は2つ。正面からの攻撃は対処できても側面、背後となれば対処は不可能に近い。
 黒瀬はスキルを使用してキメラを攻撃し、後の本体叩きは他の同行者に任せる事にする。どうしても、という状況になれば勿論動くつもりではいるけれど。
「単純な軌道で狙わせるほど、ぬるくはない」
 宵藍は呟きながら、スキルを使用して変則的に動き的を絞らせないようにしながらキメラへと近づく。
「根が出てくる時は地面が一瞬盛り上がる。そこさえ見抜けば避けられる!」
 宵藍が他の能力者達に教える。すると水無月の足元が盛り上がり、彼女は素早くその場所から移動する。すると確かに一瞬の間をおいてから根が地面から突き出される。
「我が刃に永遠の眠りの契りを‥‥Good night and it is an ugly dear child」
 呟きながら水無月は攻撃を仕掛ける。ひゅお、と冷たい風を感じさせるその攻撃がキメラへとヒットし、苦しそうにキメラが呻く。
「鬱陶しい根っこは‥‥叩きー潰すっ!」
 エイミは出てこようとする根っこをロケットパンチで叩き潰す。
「ほらほら、こっちにも気をつけないと危ないですよー?」
 キメラの気を引くようにエイミが動き回る。そしてキメラはエイミの作戦に乗せられ、動き回る彼女を標的として攻撃を仕掛ける。
「こっちも危ないよ――っと! 薔薇なら薔薇らしく、害のないように咲いてな!」
 守剣がスキルを使用しながらキメラの死角から攻撃を仕掛ける。そして追撃するかのようにレインウォーカーがスキルを使用して攻撃を繰り出す。
「こっち向け、雑種」
 諷が呟き、キメラへとペイント弾を装填したスコーピオンで攻撃を仕掛け、視界を奪う。見えない視界を取り戻そうとキメラが動いている間にそれぞれが攻撃を仕掛け、学校に巣食うキメラを退治する事が出来たのだった。


―― 去りしキメラ ――

「‥‥もっと早くに来れればよかったね、亡くなった人の家族達の学校に対する思いが哀しくなるのは嫌だなぁ‥‥」
 和泉が俯きながらポツリと呟く。周りには能力者の他にキメラ退治の事を知ってやってきた住人達も居る。意図的に言ったわけではないだろうが和泉の言葉は住人達の罪悪感をちくちくとつつくような言葉になっていた。
「なーんて、元気出さなくちゃね! 私の学校の思い出は楽しい事いっぱいなんですよー!」
 だからこの学校も早く楽しい思い出でいっぱいにしてくださいね、和泉は住人達に言葉を投げかける。
「花のキメラか‥‥元来の花は散り際を弁えてるもんだがな」
 宵藍はちらりとキメラの死体のほうへと視線を向けながら呟く。
「‥‥普通の薔薇だったら綺麗な薔薇だったんでしょうね」
 エイミはレインボーローズを眺め、紅色の髪を優雅になびかせながら呟く。
「うー、終わったー‥‥もう当分、薔薇の香りはお腹いっぱいだ」
 黒瀬がぐったりとしながら呟く。身体中にしみこんでいる薔薇の香りはなかなか消えてくれる事はなく、鼻の奥にまで匂いが染み付いて居そうな気がした。
「失われた命は多いけど‥‥これからはきっと大丈夫だから」
 守剣は呟きながら犠牲となった人たちに向けて黙祷をしたのだった。
「次は、もっと綺麗な花を咲かせなぁ」
 レインウォーカーはキメラの花びらを手にとって、風に乗せて空へと飛ばしながら呟く。
「今回はお疲れ様! また縁があったら宜しく!」
 諷が能力者達に言葉を投げかける。
 その後、能力者達は校庭の片付けを手伝ったあとに本部へ報告する為に帰還していったのだった。


END