タイトル:奔る赤い影マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/17 02:23

●オープニング本文


その街には赤い影が走る。

黒いマントを羽織った骸骨が、同じく朽ちた馬に乗って襲い掛かる。

それは、まるで死神のように。

※※※

「うげ、何だコレ」

資料に挟んであった写真を見て男性能力者が思わずテーブルに放り出す。

その写真に写っていたのは、死神、という言葉がふさわしいキメラ。鋭い大きな鎌を持ち、黒いマントに不気味に光る赤い目。

どれもが一般人に恐怖を与えるのに十分過ぎるものだった。

「それが今回のキメラですって。街の中を走り回って、見かけた人を襲いまくってるみたいね」

女性能力者が呟くと「自分から家に襲い掛かったりしないのか?」と男性能力者が首を傾げて言葉を返す。

「今のところは――、そんな報告は無いわね。だからといって必ずその行動をしないと視野を狭めるのは感心しないけど」

「分かってるって。でも不気味だなあー‥‥幽霊とか俺キライだから戦いたくねぇ」

「‥‥キメラでしょ。幽霊じゃないじゃん」

「外見が似てるじゃねぇか。その鎌で斬られたら死にます、的な!」

「‥‥ゲームのしすぎもほどほどになさいよ」

呆れたような視線を男性能力者に向け、女性能力者は盛大にため息を吐いたのだった。

●参加者一覧

ファティマ・クリストフ(ga1276
17歳・♀・ST
レイド・ベルキャット(gb7773
24歳・♂・EP
アンナ・キンダーハイム(gc1170
22歳・♀・SF
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
青野 彼方(gc2790
22歳・♂・FC
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
アリス・レクシュア(gc3163
16歳・♀・FC

●リプレイ本文

― 馬を駆る死神 ―

(「長旅から帰って久々の依頼‥‥少し不安はありますが、頑張っていきましょう」)
 ファティマ・クリストフ(ga1276)は心の中で呟きながら今回の依頼が無事に終わる事を神に祈る。
 そして(「そういえば」)とファティマは心の中で言葉を付け足す。
(「こういう戦闘が関わる依頼に、1人で挑むのは初めてですね‥‥いつもなら、あの人と一緒に、と言うのがありましたから‥‥」)
 その点でも不安が残るのかファティマは少し唇をかみ締め、成長した所を見せるためにも今回の依頼を頑張るつもりでいた。
「キメラ‥‥私達にとってはただのキメラですが、一般人にとっては恐怖そのものですね。早く退治して、街の人達には安心してもらいたいです」
 レイド・ベルキャット(gb7773)が資料を見ながら呟く。姿格好が死神を連想させる事から一般人達は余計に恐怖を感じるものだろう。
「‥‥‥‥‥‥」
 ぺこり、と頭を下げて挨拶をするのはアンナ・キンダーハイム(gc1170)だった。
「絶対ェ許せねぇ‥‥もう誰も傷つけさせねぇ‥‥!」
 ぐぐ、と強い力で拳を握り締めて低い声で呟くのは赤槻 空也(gc2336)だった。バグアによって知人を全て殺された為、今回の街を襲うキメラに対しても激しい憎悪が溢れるほどに湧き上がってくるのだろう。
「お馬さんに乗ったキメラかぁ‥‥やっぱりお馬さんもキメラ、だよね‥‥よぉし、街の皆の為に頑張っちゃうぞ☆」
 うん、と呟きながらユウ・ターナー(gc2715)が首を縦に振る。
「キメラが現れるのは夜だけか‥‥闇夜の街に死神ってか? ベタだね〜。ま、実害も出てるみたいだし、さくっとヤっちゃいますか」
 青野 彼方(gc2790)が緊張のない様子で呟く。軽いノリで話している姿を見ていれば、今回が初任務だと言う事が嘘かのような雰囲気だった。
「あ、依頼を遂行する上で1つだけ言っとく事があるんだった」
 思い出したように悠夜(gc2930)が能力者達全員に声をかける。
「何ですか?」
 ファティマが言葉を返すと「覚醒時の俺をあんまり見ない方がいいぜ」と悠夜が言葉を続ける。
「俺の背後には女性の幽霊が見えるから――と言っても女性と俺にしか見えないがな」
 家族が殺されてから覚醒変化が変わったため、悠夜は他の仲間達が驚かないようにあらかじめ言う事を最初から考えていた。そして彼の言う女性の幽霊は妹の姿をしているのだが、それはあえて言う事はしなかった。
「死神型‥‥」
 アリス・レクシュア(gc3163)が資料を見ながら呟く。
「どうして死神のイメージは大鎌持っているものばかり‥‥? まぁそれはどうでもいいんですけど‥‥」
 アリスは呟きながらキメラの写真を見る。そこには骨格のみで動くキメラの姿が映し出されており、どのような構造で動いているのかがアリスには分からなかった。筋肉がなければ動けないはずなのに――とアリスはキメラについて気になる事ばかりだ。
「それでは行きましょうか。色々とお話を聞かなければなりませんし‥‥」
 ファティマが呟く。今回の能力者達は状況を把握する為にも昼間のうちに街へと赴き、街の住人と話をし、キメラ退治の内容と住人達が知るキメラのことを聞く事にしていた。
 能力者達は高速艇に乗り込み、キメラが徘徊する街へと出発していったのだった。


― 死神に取り憑かれた街 ―

「ふぅん‥‥あんまり大きな街じゃないんだな」
 街に到着すると、赤槻が街を見渡しながら呟く。確かに彼が言う通りあまり大きな街ではない。だが小さな路地が多く、路地裏に誘いこまれると能力者達にとっては不利になる可能性の方が高いかもしれない。
「でも、狭い場所の方がお馬さんの機動力を削ぐことが出来るかもしれないね」
 ユウの言葉に能力者達は一理あると考える。だがその場合だと機動力を削ぐ事は出来るが大人数での攻撃を行う事がしにくくなるというデメリットも生じる為に良し悪しと考えるのがいいだろう。
「この街の方ですよね?」
 怯えるように外を歩く男性にアリスが問いかけると男性はびくりと大げさに怯えてみせる。キメラによる被害がある街だから無理もないだろう。
「あんた達は能力者か‥‥? キメラを退治に来てくれたんだよな」
 男性の言葉に「えぇ、少しお話を伺ってもよろしいですか?」とレイドが言葉を返す。
「まずは今夜の説明を。キメラとの戦闘になりますので多少大きな音がすると思いますが、決して外に出ないでください。戦闘に巻き込まれる可能性もありますから‥‥」
 そして、とレイドは言葉を続ける。
「戦闘に適した広い場所などありませんか? 空き地でも何でもいいんですけど」
 レイドの言葉に「空き地なら、確かこの先にビル建設予定地が‥‥」と男性は言葉を返してくる。男性の話を聞くとまだ何も準備すらされていない場所なので戦闘を行っても大丈夫だろうという事だった。
「あ、あとキメラを目撃した場所って分かる? 分かったらこの地図に書き込んでほしいんだけど‥‥」
 ユウが地図を広げながら男性に言葉をかける。男性は「分かる範囲でいいなら‥‥」と言って地図上に書き込んでくれた。いたる箇所に記されたその印は、キメラが街中を徘徊している証拠となり、特定の場所にいる――という事ではないという事が伺えた。
「あとは地理も少し覚えたいし、街の中を歩き回って地理を覚えるとするか」
 青野が呟き、能力者達は夜になるまで街の中を歩き回り、どんな状態になっても戦えるよう路地、公園、空き地など街の中で戦えそうな場所を幾つも見つける。

 そして、夜――‥‥。
 能力者達は2つの班に分かれてキメラを捜索する作戦を立てていた。
 A班・ファティマ、アンナ、赤槻、悠夜の四人。
 B班・レイド、ユウ、青野、アリスの四人。
 それぞれキメラを発見、そして他にも何か異変を感じたらすぐに互いの班にトランシーバーで連絡を入れる、もしくは照明銃などの相手に分かる合図を送る事にして、それぞれ捜索を開始したのだった。

※A班※
「‥‥街灯はありますけど、やっぱりそれだけじゃ見えにくいですね」
 ファティマはエマージェンシーキットに入っていた懐中電灯で前方を照らしながら呟く。ファティマ以外の3名はランタンで光源を取りながら捜索を行う。
「なぁ、アンナ。その仮面の下にどんな顔をしてるのか見せてくれないか? あぁー、先に言っておくけど嫌なら別に見せなくてもいいから」
 悠夜がアンナに話しかける。仮面をしており、表情の見えないアンナの事が彼は気になっていたようで捜索を行いながらアンナに話しかける。
「‥‥‥‥‥‥」
 一方、問いかけられたアンナは暫く考え込みながら『駄目』とでも言うように手をクロスさせて『×』をした。
「そっか。いきなり言ってごめんな、気にしないでくれ」
 悠夜は軽く手をあげながら謝る、するとアンナは『気にするな』とでも言うように首を横に振って見せた。
「あ、あれは‥‥キメラによる被害、でしょうか‥‥」
 ファティマが見つけたのは折れた電信柱、そして電信柱付近にある血痕だった。あまり古くはなく、ここ数日の血痕であることが伺える。
「くそっ‥‥俺らがもっと早く来てりゃ‥‥」
 ぎり、と唇をかみ締めながら赤槻が低く呟く。
「あまり自分達を責めてはいけません。これ以上の被害が出ないように、今回キメラを倒してしまいましょう」
 ファティマが赤槻を宥めるように言葉を投げかける。実際に能力者達にキメラ退治の要請が来て、今回の能力者達はすぐさまこの街へとやってきた。
 だからこれ以上早く街に到着するのは無理だったのだ。赤槻自身もそれを分かっているだろうが、やはり生々しく残る跡に思わずにはいられなかったのだろう。
 その時だった。B班からの合図、照明銃が打ち上げられたのは――。そして続いてトランシーバーに、照明銃をあげた所でキメラを発見し、空き地に誘導すると連絡が入ってきた。
「行こう!」
 悠夜が呟き、A班の能力者達はキメラを待ち伏せる為、空き地へと向かって駆け出したのだった。

※B班※
 まだB班がキメラと遭遇していない頃に時は遡る。レイドとユウはランタンで光源を取り、青野はエマージェンシーキット内の懐中電灯で光源を取っている。
「一応、探査の眼を使用してはいますが‥‥油断されぬよう気をつけてください」
 レイドが他の3名に声をかける。キメラから待ち伏せされたりするのを回避する為にスキルを使用してはいるが、やはり他の能力者達も警戒を強めてもらわないとキメラを発見する事は出来ない。
「一応、元探偵ですからね。こういう事には慣れているつもりですよ」
 主に家出した猫とか犬専門でしたけど、とレイドは言葉を付け足して苦笑する。
「あは☆ 今回もキメラだけど相手はお馬さんがいるもんね。意外と見つかるかも?」
 ユウが笑って言葉を返す。
「それにしても、いないなぁ‥‥向こうの班からの連絡もないし‥‥」
 はぁ、と青野はため息を吐きながらトランシーバーを見る。先ほどからそれなりに歩いて捜索してはいるものの、それらしい気配、音も無くただ淡々と歩きまわるだけになっている。
「危ない!」
 突然レイドが叫び、能力者達は足を止める。すると、コツ、コツ、と軽い何かが地面に当たるような音が此方へと近づいてくるのが分かる。
 それがキメラだという事に気づき、能力者達は武器を取る。恐らくレイドのスキルがなければ不意打ちを受けていた可能性が高い。
「照明銃、打ち上げます!」
 アリスが能力者達に言葉を投げかけ、A班に知らせるように照明銃を打ち上げる。そしてユウがキメラを発見した事、これから空き地に誘導する事をA班に伝え、B班はキメラの攻撃を避け、または受け流しながら目的の空き地まで急いだのだった。


―― 戦闘開始・死神 VS 能力者 ――

 B班がキメラを空き地に誘導し終えた時、既にA班は空き地で待っていた。相手は馬に乗っている事もあり、追いつかれて攻撃を受ける事が多かった為、B班の能力者達は戦闘を開始する前から予想以上にダメージを受けてしまっていた。
 勿論、戦闘に支障が出るような傷ではないから問題はないのだけれど。
「そっちの道に追い込んでお馬さんの機動力を削いだらどうかなっ」
 ユウが空き地横にある細い道を指差しながら叫ぶ。路地と違って能力者達が3名は横に並んで戦闘が行える広さだから多少は大丈夫だろうと考える。広い空き地内で戦っても馬を駆るキメラの方が有利に事が運ぶ可能性の方が高いのだから、先に馬を潰す作戦は悪い考えではない。
「傷ついた方は無理せず下がってきてくださいね。すぐに治療しますから」
 ファティマが後方から能力者達に向けて言葉を投げかける。そしてスキルを使用して能力者達の武器を強化する。
「まずはその馬から倒させてもらいましょうか」
 ポツリとレイドが呟き、クルメタルP−38で攻撃を仕掛ける。元々が朽ちた馬と言う事もあり、あまりダメージを与える事は出来ないけれど、レイドは続けて攻撃を行う。元々は足止めをする為に攻撃を行っているのだからその場にとどめる事が出来れば十分なのだから。
「‥‥‥‥」
 アンナはスキルを使用してキメラの防御力を低下させる。
「死神気取りってか‥‥? ゲーム気分で人の命弄びやがって‥‥!」
 赤槻が怒りを露にしながらマーシナリーナックルで馬に攻撃を仕掛ける。スキルを使用して素早くキメラに近づいた為、キメラも対処しきれなかったのか赤槻の攻撃をマトモに受ける。
「ごめんねっ、お馬さん! ユウ達の為に脚は頂くよ!」
 ユウは呟き、愛用の特殊銃で馬の脚部分を狙って射撃する。レイドの攻撃と合わさり、威力が増し、馬の脚がバキリと折れる。ぐらりとゆれ、乗っていた死神が地面へと倒れこむ。
「ふふっ、死神さんと遊べるなんて、中々ないよね」
 楽しげにユウは呟き、再び銃を構える。
「おいおい、ちょっとはこっちも気にしてくれよっ! っと」
 青野は大鎌を振るう死神キメラの背後から攻撃を仕掛ける。
「‥‥お前らはいつも奪うだけだな。俺もてめぇらに奪われたよ‥‥だから、俺も躊躇わない」
 悠夜は呟きながら小銃・ブラッディローズで攻撃を仕掛ける。
「大丈夫ですか?」
 アリスは攻撃を受けた赤槻の治療を行う。ざっくりと斬られた場所があったけれどサイエンティストの治療スキルのおかげである程度は回復し、再び赤槻は戦線へと戻る。
「かかってコいよ! やってやろうぜ悠夜ァ! 皆ァ!」
 赤槻は吼えるように大きく叫ぶ。
「ほら、こっちだ! 骨野郎!」
 既に馬型キメラの方は退治されており、大鎌を振るって攻撃を仕掛けてくる死神キメラを警戒して固まって行動しないように気をつけていた。
 悠夜はファティマ、アリス、アンナのいる後方へとキメラの攻撃が行かないように気をつけていたのだが、素早く間を抜かれて後方側にまで攻撃が及ぶ。
「‥‥っ!」
 後方がダメージを受けた後、もう一撃キメラが大鎌を振り下ろしたのだがレイドがソードブレイカーでそれを受け止める。
「‥‥‥‥」
 アンナはスキルを使用して能力者達の武器を強化し、同時にファティマがスキルを使用してキメラの防御力を低下させる。
 その直後、レイド、ユウ、悠夜がキメラに向けてスキルを使用しながら射撃を行う。そして射撃によって一瞬だけ動きの止まったキメラに向かって赤槻がスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「粉々にしてやらぁ‥‥! 貫通錬拳ッ!」
 赤槻の攻撃がヒットした次の瞬間、青野が蛍火を振り下ろして攻撃を仕掛けて死神キメラは地面へと倒れ、二度と起き上がってくる事はなかった。


「あー、やっぱり仕事終わりの一服はうまいねー」
 ぷはぁ、と紫煙を吐き出しながら青野が呟く。キメラを退治した後、アリスやアンナがどのような構造でキメラが動いていたのか調べようとしたけれど、結局どのような仕組みで動いていたのかを解明する事は出来ないままだった。
「骨の中に筋肉が、と思ったのですが‥‥ないようですし‥‥一体どうやって?」
 アリスは首を傾げる。キメラは退治できたけれど謎が残り、彼女にとってはしっくりと来ない任務だったのかもしれない。
「‥‥‥‥」
 アンナが割れた地面などを指差す。恐らく被害状況などを纏めて後から街の住人達に知らせようと言う事なのだろう。
「ん? どうした?」
 悠夜がぼうっとしている赤槻に話しかけると「ん‥‥これは、ゲームじゃねぇんだなってよ‥‥」と呟きながら自分の腕を見つめる。確かに戦って倒した。まるでゲームのようなやり取りだが、自分達の命がかかっているのだ。
「とりあえずは喜ぼうぜ」
 悠夜は呟き、赤槻とハイタッチして報告の為に本部へと帰還していったのだった。


END