タイトル:魔王様ご一行旅行マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/05/10 00:12

●オープニング本文


旅行にいくわよ!

は? 何処に行くのかって?

お化け屋敷に決まってるでしょ!!

※※※

もやし――キルメリア・シュプール(gz0278)から一通の手紙が届いた。

その手紙の中には真っ黒な紙に赤い文字で書かれた招待状も同封してあり、何事かと手紙に目を通せば‥‥。

『旅行に行くわよ、もたついてないでさっさと準備に取り掛かりなさいよね』

最後には『へたれ』と書かれており、相変わらずの魔王ぶりにむしろ笑いしか出て来ない。

しかし、ここで普通の旅行と考えた人はまだもやしという人物を知らないという事だろう。

彼女が選んだホテルは、ホテルまるごとがおばけ屋敷になっている特殊な場所だった。

スタッフから出される料理までお化けじみたものばかり。

ベッドは棺桶であり、そのまま永眠しそうな程にスリル満点な仕掛けばかり。

もちろん、もやしが黙っているはずがない。

きっと仕掛けに紛れて同行者たちにスリルを与える事だろう。

しかし、まだ能力者たちは知らない。

もやしの荷物が異常に大きいことに。しかもがらがらと何かキャスターの音がすることに。

●参加者一覧

土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
フロスヒルデ(gc0528
18歳・♀・GP

●リプレイ本文

― お化け屋敷ホテル ―

 今回は魔王・もやし――キルメリア・シュプール(gz0278)から突然招待状が届き、数名の能力者達は旅行に行く事になった。
 しかし、彼女が選ぶホテルなのだから勿論普通である筈がない。むしろ普通のホテルを選んだら逆に怪しんでしまうあたり、彼女の普段の行いが悪い事を示している。
(「はわわ‥‥キリーさんの提案の旅行の行き先はお化け屋敷との事なのです‥‥すっごく不安なのですけどー」)
 それに、と土方伊織(ga4771)はちらりとキリーの荷物が異常に大きく、そして異常に重そうなあたりを見て不安を更に掻きたてていた。
「お化け屋敷風のホテルねぇ‥‥」
 龍深城・我斬(ga8283)はホテルのパンフレットを見ながら苦笑する。彼は危険な依頼から帰還し、疲れを癒す為にのんびりしようと思って参加したのだが、別な意味での危険が待ち受けていそうな気がしてならなかった。
(「まあ、一番酷い目に合うのは首領とわんこ辺りだろうしな、俺は大丈夫だろう」)
 龍深城はちらりと首領こと白虎(ga9191)を見ながら心の中で呟く。
(「‥‥首領、重体だけどな」)
 そう、白虎は今回重体にも関わらず、痛む身体を抑えての参加となっていた。まだホテルにも到着していない状況なのにミイラ男が1人いるのは白虎が重体&包帯ぐるぐる巻きだからである。
「も、もやしお姉ちゃんに目に物言わせてやるにゃー‥‥」
 威厳回復を狙う白虎だが「‥‥そして少しは認めて欲しいのだが」という密かな野望&願望が見え隠れしている。
(「旅行か‥‥お化けの季節にはまだ早いような気もするけど‥‥まぁ、いいか」)
 少し嬉しそうな表情をして心の中で呟くのは仮染 勇輝(gb1239)だった。
「ゆーき、ちょっと」
 キリーから手招きをされ、仮染が視線を合わせる為にしゃがむと「季節先取りして何が悪いのよ!」と頭突きを受ける。
「はぐ‥‥ッ!」
 予想以上に強力な頭突きがやってきて仮染は額を押さえながら蹲る。ちなみに彼は何も口にはしていない。
「キリーちゃん。俺には何も言っていなかったように見えるんだが気のせいかね」
 龍深城が少し哀れみをこめた視線で仮染を見ながら呟くと「ううん、あの目は絶対『季節先取り過ぎだろ、うわー』とか馬鹿にしてる目だったわ!」と言葉を返す。かなりの被害妄想が入っているが、魔王なので仕方ないと思っていただこう。
(「はわわ‥‥こ、今回はいつも以上に気をつけないとーですよ。訳の分からない事で殴られちゃうーです」)
 土方はいつも以上にはわわ状態に陥る。
「本日はお招き頂きましてありがとうございます」
 にっこりと笑顔で巫女さんの格好をした女性がキリー達に話しかけてきた。
「あんたなんか呼んでないわよ、帰れ」
 ばっさりと斬り捨て「まだ集まってない奴がいるのね、ノロマめっ」と女性に背中を向けて話の続きをし始める。
「い、いえ‥‥兄が所要の為来れませんので、私が代わりに同行を仰せつかりました」
「兄ぃ? 誰よ」
「神咲 刹那(gb5472)です」
 にっこりと穏やかな笑みを浮かべて「私は妹の久遠と申します」と丁寧に頭を下げながら挨拶を行う。
「何で刹那さんは来れないのにゃー?」
 白虎が久遠に問いかけると「兄は彼女との旅行らしいです」と言葉を返す。そこでしっと団総帥の白虎が「‥‥粛清にゃ!」としっとの炎を燃やす(重体だけど)。
「キリーちゃーん! お出かけ楽しみ〜♪ 楽しい旅行になるといいね〜♪」
 フロスヒルデ(gc0528)がキリーに抱きつきながら話しけるのだが、彼女が抱えるもう一人の彼女・なっちゃんは(「このメンバーで無事に済むのかしら」)とまるでこれから起きる事を予言でもするかのように呟いていたのだった。
「と、とりあえず全員そろったーです? はぅ、あんまり気乗りしませんですけど出発なのですよー‥‥」
 土方が呟いた時「仕切ンな」とキリーからチョップを受け「い、痛いですぅ」と土方は泣きながら出発する事になったのだった。


― ホテル到着 ―

「‥‥ほ、本当にこんな場所に泊まるのです? あり得ないほど、おどろおどろしてるですぅ。な、何か出そうなんですけど‥‥」
 がくがくと震えながら土方が身体と同じく声も震わせながら呟く。
「おお、結構な雰囲気が出てるなぁ‥‥」
 龍深城は苦笑しながら呟く。自動ドアが開くたびに「ぎゃあああ!」とか「うわああああ!」とか悲鳴が流れるのであまり心臓に良くなかったりする。
「‥‥っていうか、白虎君は無理しない方が良かったんじゃないの?」
 よろよろとふらつきながら歩く白虎を見てフロスヒルデが苦笑して話しかける。
「キリーお姉ちゃんとのお泊り旅行にゃ‥‥這ってでも来るのが当たり前なのにゃ‥‥」
 弱々しい声で白虎が言葉を返す。その言葉すら微桃色だと言う事を彼は理解しているのだろうか。
「いらっしゃいませぇ‥‥」
 仮染の背後から支配人らしき人物が現れ、その外見と突然現れた事に仮染の心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「本日ご予約下さった皆様ですね? お部屋を用意してありますのでどうぞあちらでチェックインをお願いします」
 ひっひっひ、と気味の悪い笑い声をあげながら能力者達をフロントへと案内する。勿論フロントもお化け屋敷風になっており、フロント係が何故か上からさかさまで降りてくる。最初は結構ドキッとした能力者達だったが、全員分のチェックインを確認している間にフロント係が頭に血が上ってつらそうだったのはあえてスルーしたのだった。
 2階の大部屋が女性陣、3階の大部屋が男性陣という事になった。
(「ほっ、今回は普通のパジャマで良いのですよね」)
 土方は心の中でほっと胸を撫で下ろす。キリーの家に泊まりに行った時は女性用のパジャマしかなく、不本意ながらも無理矢理それを着る羽目になった。だから普通のパジャマの今回は凄く嬉しかったのだ。
 夕飯まではまだ時間があり、余った時間をどうするか、という話になり、肝試しをしようという事になった。
 キリーを入れて能力者は7人、だから2、2、3に分かれる事になりくじ引きで相手を決める事になった。
 その結果――‥‥。
 A・土方&フロスヒルデ。
 B・白虎&仮染。
 C・龍深城&神咲&キリー。
「‥‥な、何でこうなるのにゃ」
「本当に‥‥」
 恐るべし運、キリーに対してライバルである筈の2人がペアになると言う奇跡(本人達が嬉しいかどうかはさておき)が起きたのだ。
 白虎&仮染はキリーと同じ班の龍深城をジト目で見ながら「くっ」と視線を逸らしながら嘆いたのだった。
「道順は3階からスタートして2階の女部屋で写真を撮ってくる事、いいわね」
 キリーが呟き、まずはA班の2人がスタートしたのだった。

「うぅ‥‥何でこんな事に‥‥休むホテルくらい安心して休めるように作れーなのですよ」
 土方が嘆いていると「うわぁ!」と壁から手が出てきて「きゃー!」と叫ぶ。それに対してフロスヒルデは「何これおもしろ〜い♪」と楽しげに出てきた手をつついている。
「た、たくましーですよ‥‥」
 それから色々な仕掛けが出てきたにも関わらず、驚いていたのは土方ばかりでフロスヒルデはまるで玩具でも見つけたかのように仕掛けを楽しそうに眺めていた。
「んん? 何か音がしない?」
「はわわ、音、ですか?」
 フロスヒルデの言葉に土方が耳を澄ませるとガラガラと確かに音が聞こえる。
「何だろ、とりあえず進んじゃおう」
 フロスヒルデが呟き、女部屋の扉を開けた瞬間――。
「さぁ、写真を撮るがいいわよ!」
 キリーの声が聞こえたと同時に物凄いスピードでボールが飛んでくる。彼女が持ち込んだマシーン、それはバッティングセンターなどにある物の簡易版で時速数十キロでボールを飛ばす物だった。
「はわわ、こ、こんな物が当たったら死んじゃうーですよー、ぐえ」
 当たってしまったのか土方は床に倒れこむ。
「あ、玉切れだ」
 呟くとキリーは何事も無かったかのように部屋から出て行く。その途中で「何寝てンのよ!」と土方の頭を叩きながら。
「‥‥ぼ、僕‥‥叩かれる必要があったですかー‥‥」
 呻きながら土方が呟くが「ど、どんまい!」としかフロスヒルデは言葉を返す事が出来なかったのだった。

 続いては白虎&仮染ペア。この時、土方はこれ以上の被害を被らないようにキリーの手伝いを買って出たのだった。
「フロスヒルデさんは結構楽しんでましたよね。そこまで危険な事はなかったのかな」
 仮染がA班が帰ってきた時の事を思い出しながら呟くと「でも伊織さんは物凄く怯えていたのにゃ」と白虎が言葉を返した。
 結論、結局警戒を解く事はやめた方がいいと言う事に行き着いた。
「‥‥この子、可愛いでしょう?」
 暫く歩いていると赤ちゃんの人形を抱えた白い着物の女性が現れ、子供(人形)を見せてくる。だがしかし‥‥。
 ボキっ!
「あぁ!」
 何故か人形の首が折れて取れてしまい、床にゴトンと落ちる。
「何故首が取れた!」
 別な意味でのツッコミを仮染が行い「誰か‥‥誰か、この子の首を捜してください‥‥」と涙目になりながら四つんばいで探し始める。
「いや、目の前にあるにゃ」
 鋭いツッコミに白い着物の女性は「うわぁん」と叫びながら人形片手に去っていく。ちなみに人形が壁にぶつかっており『ガガガガガ』と不気味な音を出していた。
「一体何だったのにゃ」
「あのドジぶり何処かで見たような‥‥」
 そう、仮染の予想は正しく去って行った彼女は冴木美雲だったのだ。驚かそうとしても結局ドジになってしまうあたりが彼女らしかった。
「この部屋にゃー」
 白虎がドアを開けると『ぶおおおおお』と強風が2人を襲う。
「きゃはははは! 何その顔! ウケるわよ!」
 あり得ないほどの強風に見舞われた2人は叫ぶキリーの声を聞いて「にゅおあうあう‥‥」と白虎は言葉にならない悲鳴を上げる。
「き、きりーさん!」
 その様子をキリーは写真に取り「あ、充電切れた」とおさまった風起こしマシーンを見ながら呟き、何事もなかったかのように去っていく。
「ちょっと待ってくださ――(ベシッ)ぐ‥‥」
 仮染がキリーを呼び止めようとした時、待ち構えていた土方が「ご、ごめんなさいですぅ」と叫びながら鳩尾を蹴る。
「‥‥キリーお姉ちゃんめっ」
 復讐を決意する白虎は次のキリー達を驚かす為に動き始めたのだった。

 白虎がキリーに対して復讐する為に準備をしていた時「おいおい、そこはボロボロの自分を使って甘える所‥‥」と龍深城が話しかけるのだが‥‥。
「甘えられないにゃ! 重体者にこの仕打ちだったんだにゃ! むしろKOされるよ! それになんでがー君がキリーお姉ちゃんと同じ班にゃ!」
「公平な班分けに文句でもあるの? 馬鹿虎!」
 すぱーんっと叩きながらキリーが「がー君、久遠、行こう」と腕を引っ張って肝試しに行く。
「こういう事してると、嫌われちゃいますよ?」
 神咲が話しかけると「向こうに言ってくれにゃー!」と白虎が抗議してきた。
「やれやれ、雰囲気は出てるんだけど何か慣れて来た感もあるな」
 苦笑しながら龍深城が呟くと同時に壁から手が出てきて「きゃあ!」と神咲が龍深城へと抱きついてしまう。
「あ、す、すみません‥‥」
 神咲がぱっと離れて謝ると「何ラブコメしてんのよ」とキリーからツッコミが入る。
「きゃ‥‥!」
 突然、キリーの悲鳴が聞こえ「どうしました?」と神咲が問いかけるとキリーの首筋に冷えた蒟蒻が当たっていた。
「何よ、こんな陳腐な仕掛――‥‥ぱーいーふぅぅぅ」
 釣り糸で下げられており、その釣り糸を辿っていくと釣竿のような物を持った白虎と目が合う。
「に、にゃー♪」
 笑ってごまかすのだが、ごまかされる相手ではなくキリーが殴りかかろうとした瞬間に後ろから肩を叩かれる。
「何よ!」
 手をぱしっと取って「気安く触るんじゃないわよ!」と言った瞬間、手がずるりと滑り落ちる。
「うおわぁ!」
 流石にビックリしたのか飛び上がって後ろを振り向くと死神の格好をしている仮染の姿があった。
「きゃああああ!」
 驚いたキリーは白虎に抱きつき、死神の格好の仮染に僅かながら精神的ダメージを与えていた。
(「桃色記録、と」)
 龍深城は白虎粛清の為の桃色を記録する為、カメラで写真を撮る。
 その後、仮染だと分かった瞬間にキリーのとび蹴りが炸裂したのは言うまでもない。


―― 夕飯&お風呂 ――

 肝試しが終わった後、ちょうど夕食の時間になり、能力者達の前にディナーが用意される。あからさまに不気味そのものな夕食が並び、空腹だった筈なのに何故か食欲が無くなる思いがした能力者も数名存在した。
「あ、見た目はアレだけど結構うまいよ」
 ぱくぱくと食べながら龍深城が呟く。
「本当だ♪ このお肉も凄く味が染みてて美味しいよ」
 フロスヒルデが食べていると(「よく食べられるわね‥‥」)となっちゃんからのツッコミが来ていた。
 夕食が済んだ後はそれぞれお風呂へと入る事になり、男女に分かれて入る事になった。

「はわわ、血の池みたいなお風呂なのですぅ‥‥」
 土方が不気味に思いながらも疲れたせいかあまり気にする事なく入浴する事が出来た。
「あ、そういえば口直しーにお部屋にお菓子がありましたよー。チョコとか」
「ぎにゅあああ‥‥チョコ怖いチョコ怖い」
 チョコ、という単語を聞いたせいか白虎がぶくぶくとお風呂へと沈んでいく。
「ちょ、白虎さん!」
 沈む白虎を助け「此処にはチョコありませんよ」と言葉を返す。

 そして女性陣がお風呂に入る頃、白虎が風呂の前で覗きが出ないように見張りをする事になった。
「私も入っていいですか?」
「久遠さんは女の子だから大丈夫ですにゃー」
 白虎は神咲をあっさりとお風呂場へと通し、見張りを続ける。
 
「キリーちゃんはどっちが本命なの〜? 風の噂に聞いたんだけど‥‥」
 フロスヒルデの言葉に「両方大好き」とさらりとキリーは言葉を返す。
「あら、意外と悪女さんですね」
「だって、2人がいるのが当たり前なんだもん。どっちかを選べって言われても困っちゃうよ」
 きっと本人達が聞いたら絶叫だろうなぁ、と考えながら神咲は薄く微笑むばかりだった。


 そして、夜中に驚かそうと入った仮染の部屋で血のりたっぷりの死神君が棺おけに入っており、仮染自身はすぐに見つかるような所で寝ていて、更にそこでも仕掛け発動という幾重にも施された逆ドッキリでキリーが泣き始め、仮染は悪いと思いながらもパジャマ姿と泣いてしおらしいキリーに鼻血を出したのだとか。
 次の日の朝、何故か久遠の寝ていた場所で神咲が起きて「妹は3年前に死んだけど?」と言われ、能力者達をゾッとさせた――のも束の間。
「てめぇぇぇ! キリーお姉ちゃんと風呂に入りやがったにゃああ!」
 白虎と仮染によって追いかけられる事になってしまったのだった。


END