タイトル:シュプール家の災難マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/03 23:08

●オープニング本文


私の名はモニカ。

シュプール家のメイドとして働かせていただいております。

この家に来て4年、慣れてしまえば大抵の不幸に対する耐性がつきます。

※※※

最初、このお屋敷に来た時は凄く嬉しかったんです。

こんな大きなお屋敷で働く事が出来て、お優しい奥様、そして可愛いお嬢様が笑顔で迎えてくださいました。

しかし、この時の私は気づいていなかったのです。

母親の前でだけ天使の微笑みを向ける悪魔がこのお屋敷に取り憑いている事に。

「モニカ、お茶」

「モニカ、あんたちゃんと掃除してンの?」

「給料泥棒、ちゃんと給料分くらいは働きなさいよね」

私、このお屋敷で働く事になってからあのくそガ‥‥キリーお嬢様の首を何度絞めかけたか分かりません。

殺意が芽生える事だけなら数万回は超える事でしょう。

しかし、少しだけ困った事になってしまったのです。

何故か、何故かお屋敷のお庭(キリーのお気に入り)にキメラがいるのです。

どうしましょう、お嬢様に電話をしたら「何キメラなんか招き入れてるのよ! ぶっ飛ばすわよ!」といわれてしまいました。

ぶっ飛ばしたいといいたいのは私のほうです、むしろこのままではぶっ飛ばされるのは私のほうなのです。

「今から行くから命綱ナシのバンジージャンプの準備して待ってなさいよね! この役立たず!」

どうやらお嬢様は仲間の能力者の皆さんと一緒に助けに来てくれるそうです。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
アーシュ・シュタース(ga8745
16歳・♀・DF
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
フロスヒルデ(gc0528
18歳・♀・GP
エスター・ウルフスタン(gc3050
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

―― キリー宅、ピンチ! ――

「あぁ、もう! 全殺しにしても飽き足らないわ」
 キルメリア・シュプール(gz0278)はぶつぶつと呟きながら怒りを露にしている。いつも偉そうな態度を取っているが、今回は更に偉そう&不機嫌というオプション付なわけで彼女を知る能力者達は恐怖&憂鬱しか感じない。
「キメラがいるのは‥‥モニカさんのせいじゃないと思うけど‥‥」
「は?」
「‥‥何でもない。とにかく‥‥被害が広がる前に‥‥退治しようか‥‥被害が広がると‥‥いや、何でもない‥‥」
 俺の命も危険に曝されそうだし、と呟きかけて幡多野 克(ga0444)は口を閉じる。きっとその言葉を言ってしまえば今この瞬間に危険に曝されそうだと感じたからである。
「はわわ、何でキリーさんのお屋敷のお庭にキメラが‥‥ん〜、まおー様の瘴気に惹かれたのかも(ドス)違うのです違うのですよー」
 土方伊織(ga4771)はポロッと本音を零してしまったのだが、その瞬間にキリーによる拳骨が降ってきて慌てて言葉を撤回する。
(「モニカさんが凄く不憫なのですー。今回のキメラ発生はふかこー力なのですから、キリーさんの八つ当たりから守ってあげなくちゃですよー」)
 土方は心の中で呟くのだが、彼自身はまだ気がついていない。八つ当たりから守ると言う事、それ即ち自分に被害が来ると言う事に。
「ふふん、久しぶりね。キルメリア・シュプール」
「‥‥‥‥」
「シカトしてんじゃないわよ! 私だってあんたなんかに二度と会いたくなかったわよ!」
 アーシュ・シュタース(ga8745)は相変わらずキリーからの無視攻撃を受け、少し大きな声で叫ぶのだが「耳が痛いわよ、ババア」とばっさりと斬り捨てられてしまう。
(「くっ、話に聞いた頭打って性格変わった状態なら会ってみたかったけど! 十分に苛める事が出来たでしょうに!」)
 何故今キリーが元に戻っているのか、とアーシュは嘆かずにはいられなかった。
「‥‥おいコラ。何逃げてンのよ」
 キリーがジロリと見るとそこには明らかにキリーと距離を取る白虎(ga9191)の姿があった。
「何でもないにゃーホントだにゃー!」
 顔を少し赤くしながら手をぱたぱたと振って「何でもない」と言い続けるが、実は少し前に魔女っ子もやしに告白して盛大に自爆するという夢を見た事が原因だった。
「何でもないわけないでしょ! この馬鹿虎!」
 ごすん、と理由もなく殴られて「にゅあー‥‥!」と頭を押さえて蹲る。しかし他の能力者達は助けようとしない。助けた瞬間に矛先が自分に向かうのが分かっているからだ。
「今回はキリーさんのお庭にキメラですか、お庭を壊さないように気をつけないとっ」
 冴木美雲(gb5758)がぐっと拳を強く握り締めて気合を入れたのだが「庭の平和を思うなら帰れ」とキリーから冷たい目で言葉を投げかけられる。
「ちょ、な、何でですか! 私だって頑張ろうと‥‥」
 冴木の言葉を最後まで聞かず、キリーは肩をポンと叩き、哀れみをこめた視線で冴木を見る。
「あのね、あんたが頑張ると全てにおいてマイナスに動くわけよ。だから逆に気合入れてもらわない方がこっちとしても安心できるわけなのよね。何でも破壊するそのドジぶりに自分で気づいてないわけ? 私としてはキメラよりもあんたの方が怖いのよ」
 分かる? と長々と言われ冴木は「で、でもお仕事ですから!」と言葉を返す。こうなったらきっと冴木は止められないだろう。
(「‥‥此処で殴って気絶でもさせて置いていけば庭の平和を少しは保てるかしら」)
 キリーの言葉を『友達思いの良い子』としか受け取っていない冴木はキリーがそんな物騒な事を考えている事など気づく由もなかった。
「折角綺麗なお庭を滅茶苦茶にするなんて、許せないの! そんなキメラは退治するの!」
 キリーと似たような服を着た少女・ファリス(gb9339)が小さく呟く。そして「ファリスはファリスなの、宜しくお願いしますの」とキリーに丁寧に挨拶をする。
「おいコラ。あんた私と被ってるんだけど。これじゃ萌えな私が目立たないでしょ? その辺ちゃんと弁えて任務に来なさいよね、へたれ」
 キリーがファリスに言葉を投げかけるとファリスはきょとんとした表情でキリーを見る。
「‥‥姉様、綺麗なお顔してるのに、言葉使いが汚いの。物凄く勿体無いとファリスは思うの」
 かくりと首を傾げながら呟いてくるが「ふん、あんた如きに私の良さは分からないわよ」と言葉を返す。
 しかし『誰もわかりません』と思っている事にキリーは気づかない。
「やっほ〜、今回はキリーちゃんのお家なんだよね? 初めてだから楽しみだなぁ♪」
 フロスヒルデ(gc0528)がキリーに抱きつき頬ずりしながら話しかける。
「1つ言っておくわよ。庭を壊したら‥‥どうなるか分かってるわよね」
 キリーの言葉に「あによ、めんどーねぇ‥‥戦ってりゃ壊れるってのに」とエスター・ウルフスタン(gc3050)が盛大にため息を吐きながら呟く。その言葉を聞いて他の能力者達ははらはらとした表情で見守る。
(「‥‥? 彼女と面識のある面々はどうしてそんなに震えているのかしら?」)
 エスターは心の中で呟くが、それを口に出す事はしなかった。
 そして能力者達はキリーの文句を聞きながら高速艇へと乗り込み、キメラのいるキリー宅へと出発したのだった。


―― 庭に蠢くキメラ ――

 今回はキメラの位置が分かっている事から、さっくりと倒してしまおうと言う事になった。勿論班分けなどはせず、そのまま庭へと能力者達は向かう。
「うわぁ、大きいお家だね〜」
 フロスヒルデが屋敷を見渡しながら呟くと「これは‥‥良い所のお嬢だったのね」となっちゃんも驚いたように呟いた。
「‥‥壊さないように気をつけたいですけどー、物凄く壊されちゃいそーな位置に噴水の像があるのですー」
 土方の言葉に能力者達も視線を其方へと向ける。すると涼しげな造りの噴水の真ん中にキリー像があった。
「‥‥噴水に自分の像ってアホでしょ」
 アーシュがぽつりと思っていた事を口にすると、キリーが無言でアーシュの脛を蹴りつける。
「痛い!」
 アーシュは「こ、この‥‥!」とちょっと涙目で呟くが「此処には誰もいないものー」と尚も蹴りつける。悪魔なキリーの行いに「にゃにゃ‥‥いつも以上に怖いのにゃー‥‥」と白虎が呟き、近くにあった薔薇で叩かれる。棘一杯というサービスに白虎は本気で泣きたくなっていた。
「よし、行きましょう!」
 冴木が弓でキメラを狙って攻撃を行う――がその方向にはキリー像しかない。予想を裏切らずキリー像に攻撃を仕掛けてしまう彼女だったが弓矢での攻撃では崩す事が出来ないらしく矢は地面に落ちた。
「‥‥美雲‥‥とりあえず動くな騒ぐな動くな」
 大事な事を2回言ったキリーだったが「いえ! キリーさんのお家ですもの!」と何故か気合十分。それを見てキリーは「このお屋敷ともお別れか‥‥」と遠い目をして呟いたのだった。
「姉様も戦って欲しいの。姉様もその為の力を与えられている筈なの。大切なモノを護る為に戦うのは当然の事なの」
 ファリスが呟くが「その為にあんた達がいるんでしょ? あんた達が私の為に戦うのは当然なのよ、そうよね、白虎」と鬼のような形相で問いかける。
「そ、そうなのですにゃー」
 哀れ白虎はキリーに逆らう事が出来ずに照明銃をキメラに放ち、挑発を行い100tハンマーを振り回しながら「にゅあー!」と叫び、キメラへと攻撃を仕掛ける。
「よぉし、私もいくよ! 全力全開‥‥一・撃・必・殺!」
 フロスヒルデは持っていた巨大斧で攻撃を仕掛ける・どすん、と音がする度に地面に斧がめり込み、キリーの魔王ゲージが上昇していく。
(「庭を壊さないようにって言われてもね‥‥ま、花が可哀想だからなるたけ踏まない方がいいわね」)
 エスターは呟き、足元に注意しながらスキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛ける。しかしキメラはそれを避け、エスターの攻撃は地面へとめり込む結果になる。
「これ以上、庭に被害は出させない‥‥‥‥殲滅する!」
 幡多野は途中で「自分の為にも」と呟きながらスキルを使用しながら攻撃を仕掛けた。しかし彼は気づいていない。今現在キリーの庭にダメージを与えているのはキメラではなく能力者達なのだと言う事を。むしろキメラとしては「ええ! 俺!?」と言いたい所なんじゃないかなと思う。
「ふふん、今回は庭という人質‥‥物質? がいるから余計な手出しは出来ないでしょうね」
 アーシュは呟きながらちらりとキリーを見る。しかし「人質が通じると思ってンの? 壊れたら壊れたで構わないわよ」と凄く笑顔で言葉を返してきた。はっきり言って天使の微笑みほど恐ろしい物はない。
「詰めが甘いのよ、このぽんこつ魔王が」
 キリーの言葉に「だ、誰がぽんこつ魔王か!」と言葉を返し、アーシュもキメラに攻撃を仕掛ける。
「み、みんなー‥‥像の近くで戦いはやめるですよー‥‥」
 土方は噴水から離れて攻撃を仕掛けようとしていたのだが、一緒に来た能力者達のほとんどが噴水の近くで戦ってしまい、もはや最悪の状況になるのは時間の問題だった。

 ――ゴトン

 何かが落ちる音がして、能力者達はぴたりと動きを止める。能力者が見つめるその先には――‥‥キリー(像)の首が落ちていた。
「にゅあああああ! お姉ちゃんの首が首が!」
「はわわ、だから言ったのにーですよー!」
 ちなみに『誰が』壊したとかではなく『全員』の攻撃が積もりに積もってキリー(像)の首が耐え切れずにゴトンと落ちてしまっただけの話だ。
「そこのキメラァ! 目の前の奴ら殺しなさいよ! それで全力とか言うなら今すぐ詫びて死んでしまえ!」
 ついにゲージを振り切ったキリーの魔王力はキメラを応援すると言う意味の分からない行動に出て能力者達を驚かせる。
「き、キリーさん‥‥」
「あんた達、そんなに私の首が欲しいわけ? でも残念ね。これが終わったらあんた達の首全部もぎ取ってあげるから覚悟しなさい」
 物凄く低い声で呟かれ、キリーの怒りがフルパワーな事を知り、とりあえず全てはキメラを倒してからと能力者達は戦闘に集中する。
(「何か‥‥あの首が睨んでそうで怖いんだけど‥‥」)
 幡多野はキメラに攻撃を仕掛けながらちらりと落ちた首を見る。首だけ放置されているせいか物凄く恐ろしい物に見えるのはきっと気のせいではないだろう。
「ふふ、そういえば覚醒変化の実戦での初のお披露目ね。より魔王らしくなったわ」
 満足そうに呟きながらアーシュは攻撃を仕掛けるのだが「ぽんこつ魔王」とぼそりとキリーが呟く。
 結局、一体何が何だか分からないままキメラを退治し能力者達はキリー(像)の首を囲むように立っていた。
 きっとキメラとしては「俺が出る意味はあったのかな?」と言いたい所だろう。それほどまでにキメラの存在は薄いまま終了してしまったのだから。


―― 魔王、降臨す ――

「モーニーカー、今すぐ飛べ。むしろ飛べ。死んで詫びろ、この馬鹿」
 全てが終わった後能力者達の所へモニカがやってきた。
「え、えっと荒れちゃったお庭をお掃除するです。庭師さんにお聞きしながら元通りに出来るように頑張るですよー。だから機嫌直して下さいですー」
 土方がキリーを宥めるように呟くと「さっさと直せ、馬鹿犬娘」をパンチを繰り出しながら言葉を返す。
「でもモニカは命綱なしのバンジー決定だからね。さっさと飛べ」
 キリーの言葉を聞いてアーシュはモニカに向けて十字を切り「別に私キリスト教徒じゃないけど」と言葉を付け足した。助ける気は全く無いようだ。
「あーはいはい! 代わりにやりますよ! やればいいでしょう! いいだろう、虎と言えど猫科! 華麗に着地してやるにゃー!」
 白虎が呟き「白虎がやるなら首にコレつけてくれる?」とキリーが差し出したのはロープ。
「これを柱に括り付けてバンジーよ」
 どれだけ勢いをつけた飛び降りなのだろうかと白虎は思う。それと同時に殺す気満々かよ! とツッコミたくもなる。
「あ、あとでですねー」
 そそくさと白虎は逃げ出し、ガーデニングをを開始する。
「モニカさん、私が護身術を教えてあげます。いざとなったらこれで‥‥身を護ってください」
 冴木が呟く。しかしその途中の間には「キリーから」という言葉が入っており「この馬鹿!」とキリーからスパコンと叩かれてしまう。
「まず、こう手首を持って、こっちに曲げて、ここでこう入り込んで‥‥えい!」
「いたたたたた!」
 冴木は何故かキリーを実験台にして技をかけている。その姿を見てモニカは「わ、私はそんなものは必要ありません!」と八つ当たりが来ない内に逃げ出してしまった。
「みーくーもー‥‥!」
「はっ、何でキリーさんが技にかかっているんですか!」
 あんたのせいでしょ、と言いかけて「姉様、自分のお庭なんだからお手伝いした方がお花さん達も喜ぶの」とファリスが言葉を投げかけてきた。
 嫌よ、と言い掛けてキリーの視界にはとある物が入ってきてつかつかと歩き出す。
「はぁ‥‥お庭壊しちゃった‥‥キリーちゃん怒ってるよね‥‥」
 しゅんとしながらフロスヒルデが呟くと「ちゃんと謝れば許してくれるでしょ」となっちゃんが言葉を返す。
「うぅ‥‥ごめんなさい! キリーちゃん!」
 わんわんと泣きながらキリーに抱きつくが「庭を元に戻せばいいわよ!」と言葉を返してある人物の元へと向かう。
「あ、あによ‥‥もしかして文句でも言おうっていうの?!」
 エスターがつかつかと歩いてくるキリーに問いかけると「あんたじゃないけど‥‥そうね文句言って欲しいなら言ってあげるわよ」とキリーが愚痴を長々とエスターに向けて投げつける。その内容のほとんどが「へたれ」「役立たず」「無能」など相手を傷つける言葉ばかりだった。
 その頃、幡多野はキメラの侵入経路などを調べる為に屋敷を歩き回っていた。
「それにしても‥‥凄いお屋敷‥‥だね‥‥うちの家も‥‥それなりに広かったけど‥‥全然規模が違うな‥‥キリーさん‥‥お嬢様なんだね」
 幡多野はポツリと呟き、屋敷を見渡す。お嬢様で母親から甘やかされて育ったならばあの我侭ぶりも納得だな、と心の中で幡多野は呟いた。
「にゅはは、この難攻不落の『しっと城』に挑むのは誰だー♪」
 いつのまにか白虎は噴水から水を引いて池を作っていた。その中央にはレンガや板でお城を作っており、上機嫌で呟く。
「私よ」
 声が聞こえたと同時にしっと城は踏み潰され、無残な姿になった。
「何勝手に人の庭に池なんか作ってるのよ」
 この馬鹿! と叫びながら白虎を蹴りつける。しかしキリーはまだ知らない。暗黒の森をテーマに庭の一角に朝顔の種を大量に撒かれているという事に。
 キリーの像から型を取って複製して自宅に置こうかな、と考えている白虎に。


END