●リプレイ本文
―― 愛憎混じる再会 ――
「本部に応援要請してきたのはリタ・ボルニカ‥‥ボルニカ? ビスタ・ボルニカ(gz0202)の姉妹か?」
レィアンス(
ga2662)が資料を見ながら小さく呟く。
「リタの事は前に依頼で知ってる。これまで内勤で戦闘に出なかったリタが何故出向いたのか‥‥それだけの大事な理由があったって事か? 彼女にとって大事な‥‥」
翡焔・東雲(
gb2615)も資料を覗き込みながら小さな声で呟いた。レィアンスは翡焔の言葉を聞いて「面倒な事にならなければいいが‥‥」と言葉を返した。
「ふん‥‥今までの報告書からあまり性格の良い女じゃなさそうだな。バグアに良い性格を求めても仕方が無いか」
緋沼 京夜(
ga6138)は小さく呟き、資料にある獅子型キメラの項目を読み始める。
「とりあえずはキメラの撃破が優先なのでしょうが、生き残りの救出や他にも戦闘があるかもしれませんし‥‥いまいち目的を絞りきれませせんね」
加賀 弓(
ga8749)が資料を見て小さなため息を漏らしながら呟く。リタからの応援要請時に告げられたのは獅子型のキメラが現れた事、ビスタが現れた事などがあった。
(「キメラは撃破、ビスタと戦闘になった場合‥‥撃破は難しいでしょうね‥‥撃退出来れば良い方ですか」)
加賀はもう一度小さなため息を吐きつつ心の中で呟いた。
(「ヨリシロか‥‥俺が殺した‥‥俺は二度、お前を殺した‥‥」)
杠葉 凛生(
gb6638)が心の中で呟く。彼は妻をヨリシロにされ、手にかけた過去を持ちヨリシロという言葉に少なからず思い出してしまう部分があるのだろう。外す事の出来ない枷、恐らく彼の中でずっと引きずり続ける枷はこのようにヨリシロと遭遇するたびに彼を苦しめているのだろう。
「ビスタさん、か‥‥ハリーさんと戦った以来、ですね」
ならば、と拳を強く握り締めて言葉を付け足すのは結城悠璃(
gb6689)だった。
(「ビスタ‥‥彼女はリタ様を妹とわかっていたのでしょうか」)
イルファ(
gc1067)はぼんやりとした表情で資料を見つめ、心の中で呟く。
「リタさんを必ず救出しましょう。もし可能なら一緒に向かわれた方を1人でも多く助けられれば‥‥」
バーシャ(
gc1406)が祈るように手を合わせて呟き、能力者達はリタ、そしてキメラとビスタが待ち受ける場所へと高速艇で向かったのだった。
―― 破壊された町、怯える住人に ――
今回はビスタと戦闘になるかもしれないという状況でも能力者達は班を2つに分けて行動する事にしていた。それは生き残りを探そうと言う目的もあり、班を分けて行動した方が効率が良いからだ。効率の良さを得る代わりにビスタと対面した時の危険値が上がるリスクを踏まえて。
A班・翡焔、加賀、結城、バーシャの4名。
B班・緋沼、杠葉、レィアンス、イルファの4名。
とにかく今回は生き残り救出とキメラ退治を優先とするという事を踏まえて能力者達はそれぞれ分かれて行動を開始したのだった。
※A班※
「ビスタは一体何を考えているんだろう」
捜索をしながらポツリと呟く。今までビスタに関わる依頼を何度も受けてきたけれど、翡焔はビスタが何をしたいのか考えを読めずにいた。
「そうですね‥‥報告書などを読ませて頂きましたけど、一見自由奔放に振舞いながらも『何か』をしようとしているような気がします」
結城の言葉に「何か、ですか?」と加賀が言葉を返すが「流石に何かまでは分かりませんが」と苦笑しながら言葉を返した。
「‥‥酷い」
バーシャが足を止め、表情を曇らせながら崩れた家の方を見る。瓦礫からは血が染み出しており、キメラに殺されたのかそれとも瓦礫に巻き込まれたのか、あの瓦礫の下には人がいるであろう事が伺える。
「酷いもんだ‥‥」
翡焔も表情を歪め、視線を逸らす。今から助けようとしても明らかに手遅れの状態と言うことが分かり、助け出すならキメラなどの問題を解決してからにしようと彼女は思った。
それにしても酷い、とA班の能力者達はキメラ捜索を行いながら呟く。町の中からは煙が上がり、恐らく生き残ったと思われる人間達は逃げたのだろう。町の中には至る所に人間の死体が転がっていた。それは大人から老人、さらには子供まで。悲惨すぎる状況に吐き気を催した時だった。
「‥‥能力者‥‥?」
がこ、と瓦礫の崩れる音がしたと思うと、女性能力者が傷を押さえながら現れた。最初は警戒していた能力者達だったけれど、名前を聞いて女性が敵ではない事が判明する。
――彼女は、リタ・ボルニカと名乗った。
B班からキメラと遭遇したと連絡が来たのはその直後。更にそれから2分後、ビスタも現れたという最悪な状況にB班は見舞われていた。
「私を連れて行って下さい‥‥姉、いえ‥‥姉の姿をした化け物の所へ」
※B班※
「‥‥‥‥」
杠葉はビスタ‥‥いや、ヨリシロに対し深い憎悪を抱いていた。死者の体も精神も乗っ取る浅ましさは死者と生者。両者への冒涜だと考えているから。
(「ビスタと遭遇しないのが一番いいんだが。個人的にはオーガスタは何処だ――と問いただしたいが、今回の任務からすれば蛇足もいいところか‥‥」)
レィアンスは心の中で呟きながら小さなため息を漏らす。
「大丈夫ですか?」
「あ? あぁ、何も問題は無い」
イルファが問いかけると、レィアンスは緩く首を振りながら言葉を返した。
「何か感じるか?」
探査の眼を使用している杠葉に緋沼が問いかけると「いや――特には、何も」と言う言葉が返されたのだが、次の瞬間「そこの曲がり角だ!」と大きな声で叫ぶ。
それと同時にキメラが現れ、能力者達は攻撃態勢を取る。そしてすぐさまレィアンスがトランシーバーでA班に連絡を入れて現在地とキメラが現れた事を報告した。
「今、報告した」
レィアンスの言葉に「分かった。ならば合流するまで此方は此方で戦おう」と緋沼が言葉を返して闇剣サタンを構える。
「レィアンス様、援護します」
イルファが呟き、拳銃バラキエルで射撃を行う。射撃援護を受けレィアンスも蛍火と愛用の柄無でキメラへと斬りかかろうとする――その時にある程度は予想していたけれど、突然の出来事が起きたのだ。
「楽しそうな事しているじゃない、あたしも混ぜてよ」
ビスタがいつも持っている剣でキメラごとレィアンスを貫く。
「ぐ――‥‥」
キメラごと貫かれたせいで深く刺さる事はなかったけれど、それなりにダメージを与えられたのは事実。ビスタが現れたのを見て杠葉が再びA班へと連絡を入れる。
現在、最悪の状況になっている――と言う事を知らせる為に。
―― 裁かれるべきは生きたる愚者達 ――
B班からの連絡を受け、A班がB班と合流したのは連絡を貰ってから十分程が経過した頃だった。A班が到着した時には既に傷だらけの能力者。4人という少ない人数でキメラとビスタを相手に苦戦していたのがよく分かる状況だった。
「お願い! 姉さんを‥‥姉さんの姿をした悪魔を殺して! 姉さんならこんな酷いことはしない!」
泣き崩れるようにリタが叫ぶと「生きてたの? 殺したと思ってたんだけど」とビスタが下卑た笑みを浮かべながら呟く。
「早く、殺してか‥‥まぁ、他人の憎悪に首を突っ込むほ程暇じゃないんでな。いつも通りに行くか」
緋沼は呟き闇剣・サタンでキメラへと攻撃を仕掛ける。だが、彼の相棒である杠葉は首を縦に振る。
「いいぜ、その願い‥‥叶えてやるよ」
杠葉は呟き、拳銃マモンでキメラへと攻撃を仕掛ける。
「援護します。心置きなく暴れてください」
イルファは呟きながらSMGスコールでキメラに攻撃を行い、援護を受けてレィアンスが再び武器を振り下ろした。
「お前が、お前が襲った連中の中に妹がいたって分かってるのか?」
翡焔は二刀小太刀・疾風迅雷を構えながらビスタへと問いかける。
「勿論よ。ビスタ・ボルニカとしての記憶はあたしにもあるもの」
「たとえ死んでも、意識はなくなっても、その体が、ビスタとして生きていた事を‥‥ビスタを忘れたくなかったんだろう‥‥ハリーも」
翡焔が「人間も捨てたもんじゃないな」と言葉を付け足しながら呟くと「あはははは」と甲高い笑い声が戦場に響き渡った。
「馬鹿じゃないの。そういえばアンタって結構ハリー坊やに構ってた女よね。何? あいつにでも惚れてた? あははっ」
翡焔を侮辱するような言葉を投げかけ、翡焔はギッと強くビスタを睨み付ける。
「貴方がビスタ・ボルニカさんですよね? お噂はかねがね。色々と言いたい事はありますがとりあえずこれだけは言わせて貰います。ここらでその体を解放して貰えませんか?」
加賀が穏やかな口調、そして最後には強くビスタを睨み付けながら問いかけるが、帰ってきた言葉は「NO」だった。
「そうね、あたしを見たくないんだったら――アンタ達が死ねばいいじゃない!」
言葉を終えると同時にビスタが襲い掛かり、結城が愛用の二刀小太刀で防ぐ。だが威力が強い為か、地面の土に結城の足がめり込む。
「くっ、さすが‥‥きつい‥‥っ」
結城が表情を歪めながら攻撃に耐え、A班とB班の能力者達はそれぞれの相手との戦闘を続けるのだった。
※B班※
「制圧行動開始、追撃などさせません‥‥!」
イルファがスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、キメラの追撃を防ぐ。
そして緋沼は杠葉の憎悪に注意を向け、彼の行動を予測しながら前衛でキメラの行動を妨害し、杠葉に好機を与えていた。
(「俺の分まで存分に喰らえ‥‥お前の贖いは、俺の復讐だ‥‥」)
緋沼は心の中で呟き、スキルを使用しながら強い一撃を食らわし、杠葉が攻撃できるように正面から退く。
その好機を逃すまいと杠葉はスキルを使用して手足を狙って攻撃を行う。彼の攻撃の後、緋沼とレィアンスも攻撃を行い、キメラは横倒しになって手足は完全に機能しなくなっていた。
(「ちっ、錬力の低さが呪われるな‥‥派手な立ち回りが出来ない」)
レィアンスは心の中で小さく毒づき、キメラへと攻撃を仕掛ける。どす、とキメラの足を地面へと突きたて、反対側の足も地面へと突きたててキメラの動きを完全に封じる。
そして杠葉とイルファがそれぞれスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、獅子型キメラにトドメを刺したのだった。
※A班※
「姉さんの姿をした悪魔――ねぇ、ふふふ」
可笑しそうに笑いながらビスタは愛用の剣を振るう。
「あれは‥‥姉さんじゃない、姉さんなんかじゃ‥‥」
リタが呟き、動こうとするのをバーシャが止め、スキルを使用してリタの治療を行う。
「その傷で動くのは無理です。治療しますから少し待ってください」
バーシャは呟きながら治療を行う中で(「なぜ、こんな‥‥」)という気持ちでいっぱいだった。リタとビスタは姉妹、だけどビスタは死に、ヨリシロとなって再び姿を現した。その時のリタの気持ちを考えるとずきずきと胸が痛む気持ちでいっぱいだった。
「はぁっ!」
加賀は鬼蛍で攻撃を仕掛ける。だが大振りすぎてビスタにはさらりと避けられてしまう。
「あはは、そんな大振りじゃ当たらないわよ」
避けながらビスタが笑うけれど、それは加賀の思惑通りだった。加賀の思惑は自分が攻撃を当てる事ではなく、自分に気を引かせて、自分の大振りを避けた所を他の能力者に攻撃させる――と言う事なのだから。幸いにもまだビスタはそれに気づいておらず、加賀の攻撃を避け、そしてある時は攻撃を仕返してくる。
「アンタって学習能力ないわけ? そんな大振りじゃ当たらないって言ってるでしょ」
「えぇ、分かっています」
加賀の言葉に「え」とビスタが呟き、加賀の攻撃を避けた――だがそこに待ち構えていたのは二刀小太刀を構えた結城と翡焔の姿。
「しまっ――誘われた!」
ビスタが呟くが、2人の攻撃を避けることは叶わず、まともに攻撃を受けてしまう。
「くっ‥‥」
何とか身を翻して腕と足だけに傷を留めたビスタだったが、予想外の傷を受けてジロリと冷たい目で能力者達を見る。
「あたしがアンタ達なんかに‥‥あたしが、アンタ達なんかに――!」
叫んだ瞬間、ビスタの腹部を銃弾が貫く。
「貴様らバグアは‥‥何処まで奪えば気が済むんだ」
撃ったのは杠葉。そして撃たれたと同時に緋沼が接近して「自分の血で染まれ――お前が失い、奪われる番だ」と低い声で告げる。
だが、まだビスタを死に至らしめるだけの傷を与える事は出来ておらず、緋沼を蹴りつけて壁へと叩きつけ、ビスタは能力者達と距離を取る。
「ふぅ‥‥リタ」
突然名前を呼び、リタの方へ視線を向ける。
「アンタの中であたし――いいえ、ビスタがどれだけ美化されてるか知らないけどイイ事を教えてあげるわ」
血を流しながらも楽しそうに笑って言葉を続ける。
「あぁ、でもこれを言っちゃアンタがツライかもねぇ‥‥どうしようかな」
壁に背中を預け、悩む素振りを見せるビスタに「何が言いたい」とレィアンスが切っ先をビスタに向けながら言葉を投げかける。
「普段のビスタは良い人だったかもしれないわ。でもあたしが今している事もビスタが望んだ事よ」
ビスタから告げられた言葉に能力者達は意味が分からず、眉間に皺を寄せる。
「どういう、意味ですか」
バーシャが言葉を返すと「言葉の通り」とビスタは短く言葉を返す。
「あの時の仲間を殺しているのも、あたしが今日アンタを殺そうとしたのも、ビスタが望んでいる事。こういう澄み切った青空の時には否応無く思い出させるのよ。痛い、裏切られた、何で、どうして、そんな事ばかりがね」
ビスタの言葉にリタは思い当たる節があるのかがくがくと体を震わせながら呟く。
「‥‥姉さんは、私達を恨んで‥‥?」
ビスタから告げられた言葉にリタはガクリと膝が折れて地面に座り込む。
「それなのに何を勘違いして美化しているのか知らないけど、姉さんならこんな酷い事はしない? だったかしら。残念ね。あんたの美化した姉さんを壊して」
よく喋る女だ、緋沼は呟きながらビスタへと斬りかかる。
「俺の中の修羅は貴様等と本質的には変わらない。だからこそ、殺せる」
緋沼が呟き、攻撃を仕掛けようとした瞬間、ビスタが緋沼の腹部に蹴りを入れる。それと同時に腹部に走った痛みに緋沼は膝をついた。
「使うつもりはなかったのに。意外と追い詰められちゃうんだもの」
ビスタは呟きながら自分のサンダルを指差す。彼女のサンダルからは刃が飛び出しており、サンダルに刃物を仕込んでいた事が伺える。
「今日はもういいわ。このまま戦ってたら結構危ないかもしれないしね。でも勘違いしないで。危ないのはあんた達も同じよ」
ビスタは閃光弾のようなものを地面に投げつけ、能力者達の目を眩ますと、そのまま能力者達の前から姿を消したのだった。
能力者達は知る。ビスタの行いの先に生前のビスタの最後が関係している事を。
END