タイトル:君がいる夢マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/29 00:44

●オープニング本文


眠っていた頃、よく見ていた夢がある。

お父さんとお母さんがいて、俺がいて。

毎朝お父さんは仕事に行って、お母さんは美味しいご飯を作ってくれて。

それが当たり前のように続くんだと、思ってた。


※※※

何でだろう。

俺ってば強くならなくちゃいけないのに。

彼女も出来て、強くなろうって決めたのに。

何で最近はこんなにもお父さんやお母さんのことを考えちゃうんだろう。

いつの間にか大人になってて。

俺は能力者だから。戦えないみんなを守る正義のヒーローだから。

「鉄太?」

「あ、せんせい」

「どうかしたの? ボーっとしてたけど」

「ううん‥‥ねぇ、せんせい。俺ってば最近夢を見るんだ」

夢? と主治医兼保護者の男性が聞き返す。

「うん。その夢の中ではお父さんもお母さんも生きてて、俺もまだ子供の姿で。ずっとここにいたいなって思うんだ」

でも、と鉄太は俯きながら言葉を続ける。

「今はせんせいとか俺を助けてくれるいろんな人がいるから、幸せだって、楽しいなって思うのに‥‥夢の中になっちゃうとお父さん達の所にいたいって思う」

外見だけを見ればそこらにいる普通の18歳の男の子、だけど中身はまだ子供。

子供でいながら、成長してしまった外見と能力者という戦う力を持つ事が鉄太を無理やり大人にさせようとしていた。

「僕には、何がいいっていうのは教えてあげれない‥‥でもあんまり考えすぎるようなら今日の任務は辞めといた方がいいんじゃないかな? 無理してもみんなに迷惑をかけるだけだし‥‥」

「ううん、俺行く。変なこといってごめんね、せんせい」

そう言葉を残して鉄太は任務へと向かった。

だけどずっと考え事をしていたせいか、キメラに怪我を負わされ、川に流されて他の能力者達と離されるという状況に陥るという事を彼はまだ知らない。

●参加者一覧

八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
リリー・W・オオトリ(gb2834
13歳・♀・ER
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
朧・陽明(gb7292
10歳・♀・FC
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG
バーシャ(gc1406
17歳・♀・ER
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

―― 消えた幼子の救助を ――

 今回の始まりは七海 鉄太(gz0263)がキメラとの交戦中に負傷し、川に流されて能力者達から離されてしまったことだ。
 そしてキメラは能力者達が鉄太に気を取られている間に何処かへと飛び去ってしまい、任務はキメラ捜索からと振り出しに戻されてしまったのだ。

「‥‥鉄太君‥‥無事だとは思うけど‥‥先を急ぎましょう」
 白雪(gb2228)は流されてしまった鉄太を気遣いながらも、鉄太が無事である事を信じて探しながら先へ進む事を決意する。
「キメラの事も気になるけど、まずは鉄太ちゃんを発見する事に力を注ぐ事にしようね」
 リリー・W・オオトリ(gb2834)が小さく呟く。
(「全員が無事に帰還出来るようにアクシデントがあっても冷静に対処しよう――と思ったけど流石に今回の状況では笑っていられる場合じゃない」)
 レイミア(gb4209)が心の中で呟きながら拳を強く握り締める。
「川の流れが少々早い、まずいな‥‥早く鉄太氏を見つけねば」
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)は小さな声で少し焦りを感じさせる口調で呟く。
「この先だったら川を下れば鉄太が行き着く先に行けるだろう。怪我をしてこの水の冷たさ――急いだ方がいいかもしれんな」
 朧・陽明(gb7292)が川の水に触れながら呟く。
「急ぎましょう、ゆっくりしていて最悪の事態――となってしまったら冗談にもなりません」
 イルファ(gc1067)が呟くと「そうですね‥‥それに」とバーシャ(gc1406)が言葉を返して続ける。
「鉄太さん、何か悩み事でもあったようです‥‥そのせいで戦いに集中出来ていないようにも思えましたが‥‥」
 バーシャの言葉に他の能力者達も思い当たる節があった。鉄太の心が何処か此処にあらず――のような何か不自然な違和感を。
「悩みを抱えたままでは、また同じような事態になりかねません。自分で解決されるのが一番良いのですが、私に出来る事があったらお手伝いしたいと思います」
「うん、そうだね‥‥ユウにも何か出来たらいいんだけど‥‥鉄太、何処に行っちゃったのかなァ」
 早く見つけ出さないとね、と言葉を付け足しながら呟くのはユウ・ターナー(gc2715)だった。彼女は今回が初めての任務であり、流されてしまった鉄太の事をとても心配していた。
「そうですね、悩みを聞くにも先ずは鉄太君を見つけなくちゃね」
 白雪が呟く。鉄太と関わりのある能力者ならば彼がどういう存在なのか知っているだろう。白雪は知っている。だからこそ早く鉄太を探し出してあげたかった。鉄太――彼は18歳の外見を持ってはいるけれど、心はまだ10歳の少年なのだから。

 それから能力者達はキメラ、そして鉄太の捜索を開始する。最初は全員で行動をして、キメラか鉄太、どちらかを見つけた後は分かれて行動する事になっている。
「キメラからの強襲とかも考えて動かなくちゃね」
 白雪が呟きながら地面や木などを気にかけながら歩く。
「鉄太ちゃんの保護を優先しなくちゃ‥‥ボクの子供も生きていれば鉄太ちゃんと同じくらいかな。もう若い命を失うのは見てもいられないからね‥‥」
 今のボクに出来る範囲で全力を尽くすよ、リリーは過去に亡くした自分の子供を思い出しながら表情を歪めながら呟く。能力者であれば過去に思い出したくもない思い出、忘れてはいけない出来事などがあるだろうが、リリーはそれから逃げる事をせずに向き合っている。
 そしてその過去と同じ事を繰り返さない為にも鉄太を助けてみせると心の中で呟いたのだった。
「これ‥‥さっきのキメラと同じ色の羽、ですね」
 レイミアが地面に落ちていた黄色の羽を拾い上げながら他の能力者達へと見せる。普通の鳥の羽かとも思ったけれど、鳥の羽にしては大きすぎる。そして色などから先ほど逃げたキメラと酷似しており、キメラの物と考える事が妥当だろう。
「恐らく鉄太もこの先に流れ着いているだろう、キメラまでもいるとなれば‥‥」
「‥‥急いだ方がいいですね」
 朧が呟き、その言葉の先をイルファが呟いた。能力者達に嫌な汗が流れる。怪我をして流された鉄太にはキメラに見つかっても戦う力は無いだろう。
 つまり今現在鉄太がキメラに見つかってしまえば、最悪の状況になる可能性が非常に高いのだ。
「もしかしたら流された後、自力で何処かに行っている可能性も捨てられませんね」
 バーシャは呟きながら周りを見渡し、鉄太が倒れていないかなどを探す。勿論それと同時にキメラに繋がる痕跡を探す事も忘れない。
 その時だった。ばさばさと翼を羽ばたかせる音を響かせながらキメラが上空を飛んでいるのを発見。今まではきっとどこかに身を隠していたのだろう。上空から能力者達を見つけたらしく、キメラは急降下して能力者達めがけて攻撃を仕掛けてくる。
「此処で分かれましょう、白雪さん達は鉄太様を‥‥」
 イルファが呟き、M−121ガトリング砲を構えながらキメラを迎え撃つ準備をする。
 今回の能力者達は鉄太とキメラ、どちらかと遭遇したら班を分けて行動する作戦を急遽立てていた。
 鉄太班・白雪、レイミア、バーシャ、ユウ。
 キメラ班・エイミー、イルファ、リリー、朧。
「鉄太を見つけた時にはすぐに知らせるぞ」
 朧は言葉を残し、そのまま鉄太班と一緒に鉄太を見つけて保護するためにキメラの対処はキメラ班に任せて駆け出したのだった。

※鉄太班※
「キメラが現れた以上、急いで鉄太さんを見つけなくてはいけませんね‥‥」
 レイミアが呟きながら双眼鏡を覗き込み、捜索を続ける。もしかしたら此方からは見えにくい場所にいる可能性も考えて、レイミアは双眼鏡を使って捜索をしていた。
「鉄太は何処なのかなァ‥‥キメラは他の皆が相手してくれてるから、襲われてる心配はなくなったんだけど‥‥」
 ユウはきょろきょろと周りを見渡すように探しながら小さく呟く。
「怪我をしてるから、もし流れ着いた所から動いていたとしても遠くまでいけるはずもないと思うわ」
 白雪の言葉に「私もそう思います」とバーシャが言葉を返す。
「あっ、あれ‥‥」
 ユウが呟きながら指差したのは川の方。途中の岩に引っかかってぐったりとしている鉄太の姿があった。岩にぶつかった時にでも出来た傷だろう、額から血を流しており、一番背の高い白雪が川に入って鉄太を引き上げる事にした。他の能力者達が助けに入っても良かったのだが、流される万が一の事を考えて白雪がいくことになった。
「大丈夫ですか?!」
 白雪が鉄太を抱えて川から上がる。いくら中身が10歳の少年でも外見は確りとした18歳なのだ。白雪は少々苦労しながらも鉄太を引き上げていた。
 その後、バーシャがスキルを使用しながら鉄太の傷を癒していく。
「キメラが現れた地点からそこまで離れてはいないようですね」
 レイミアもスキルを使用して鉄太の傷を治療しながら小さく呟く。その言葉にユウやバーシャ、白雪もレイミアが見る方向を見れば確かにキメラ班の戦う姿が見える。だが、すぐ近くというわけではないから、どのような状況かまでは分からなかったけれど。
「う‥‥」
 暫くの時間が経過した頃、鉄太が苦しそうなうめき声と表情をしながら目を覚ました。
「‥‥大丈夫?」
 ユウが鉄太を覗き込みながら話しかけると、鉄太は首を縦に振って「大丈夫」と言葉を返してきた。
「きめら、退治に行かなくちゃ‥‥」
 よろよろと立ち上がる鉄太を能力者達は止めたけれど、鉄太自身が行くと言って聞かなかった。
「鉄太、見つけたからそっちに行くね。状況はどう?」
 ユウがトランシーバーでキメラ班に問いかけると、予想以上に苦戦を強いられているという事を聞かされる。
「それでは行きましょうか」
 白雪が呟き、鉄太に無理をさせない程度に歩き始めてキメラ班の方へと向かい始めたのだった。

※キメラ班※
「くっ‥‥さっきから攻撃のたびに上へと逃げて‥‥」
 エイミーはグロリオサでキメラに攻撃を仕掛けたが、キメラは上空へと逃げてそれを避け、それを見たエイミーが忌々し気に呟いた。
「‥‥とりあえずは翼を何とかしないとマトモに攻撃する事も出来なさそうだね」
 木の影に隠れて様子を見ているリリーはため息混じりに呟く。
 そんな中、イルファがシグナルミラーでキメラの気を自分へと引き、急降下してきた所をM−121ガトリング砲で攻撃を行って、地面へと一時的に引きずりおろす。翼を狙った筈だが、僅かに逸れており身体の方にダメージを与えていた。勿論、倒せればそれはそれで問題がなかったのだけれど。
 だけどそこまで簡単に任務を終わらせてくれるはずもなく、むくりと起き上がったキメラは再び上空へと逃げようとする。
 空へ飛び立つ一瞬の隙を突いてエイミーが攻撃を仕掛け、朧も鉄扇で攻撃を仕掛け、靴に装着したステュムの爪での攻撃も行う。その際にキメラからの攻撃を受けたけれど盾扇で防ぎ、大きなダメージには至らなかった。
 そこへ鉄太を捜索していた班から鉄太を連れて其方へ向かうとの連絡が入った。戦闘をしながらだった為、詳しくは聞き取れなかったけれど鉄太が来ると言って聞かなかったらしい。
「こっちの状況? あまり良いとは言えない。空を飛ぶ分厄介さが増している」
 エイミーは言葉を返し、ぷつりと通信を切る。恐らく十数分の間には合流するだろうと考え、少しでもキメラの体力を削る事を決めた。
「そう何度も空へ行くのを見逃すと思わない方がいい」
 エイミーは呟きながら小銃S−01でキメラの翼を狙って攻撃を仕掛ける。朧も紫電槌へと武器を持ち替えてキメラへと攻撃を仕掛けた。
 そしてもう一度イルファが攻撃を仕掛けようとした所で白雪達がやってきてそれなりに弱っているキメラにトドメを刺す為に能力者達はそれぞれ行動を起こす。

 バーシャとレイミアがスキルを使用しながら能力者達の武器を強化する。
「そのまま逃げ失せれば良いものを‥‥」
 白雪――人格が真白に交代している彼女は冷たく呟くと魔創の弓をぴしりと構えて弓矢を放つ。そしてリリーがスキルを使用して能力者の武器を再び強化する。キメラが再び空へと逃げた後は超機械フェアリーエッジにてリリーは攻撃を仕掛けてダメージを与える。
 しかしその攻撃でキメラがリリーへと攻撃を仕掛けた――が身を挺してエイミーがかばい、キメラをじろりと見る。
「あたしが目の前で女性が傷つけられるのを許すと思いますか?」
 攻撃を受けたエイミーは呟き、キメラへと向かって走り出す。その動きに合わせてイルファとユウがそれぞれ所持している銃やガトリング砲で攻撃を仕掛けてキメラの翼を撃ち抜き、地面へと叩き落した。
「地面に落ちた鳥は惨めなものですね」
 エイミーは呟きながら攻撃を仕掛け、続いて朧が攻撃を仕掛ける。翼を失ったキメラは空へ逃げる事もかなわずに身体をよじらせながら何とか逃げ出そうとしている。
 だが結局は逃げる事も叶わず、能力者達によって総攻撃を受けてキメラは死んでいったのだった。


―― 助け出された幼子、彼が求めるものは ――

 キメラを退治した後、能力者達はそれぞれ傷の手当や鉄太の手当てなどで暫くは忙しかったけれど、それも1時間もしないうちに終わった。
 そして何故戦闘中に集中力がなかったのかを能力者達が問いかけると彼が抱えている悩みを鉄太は泣きながら吐き出した。
「別にいいのよ。誰しも夢見る事だから」
 最初に言葉を返したのは真白だった。
「悩む事でも恥ずかしい事でもない。むしろその想いを大事にしてあげて。きっとご両親も喜んでくれると思うわ」
 真白の言葉に鉄太の涙が余計に溢れ出してくる。
「ボクも両親や兄弟、夫、子供‥‥色んな人を失ったんだ。だから昔に戻りたい、っていう気持ちは分かるんだ。ボクだって過去に戻れるなら戻りたい。でも、そんな事は出来ないんだよ」
 諭すように話しかけるのはリリー。彼女の頭の中には過去に失った人々の顔が思い出されては消えていっている事だろう。
「だから、今を精一杯生きるんだ。歳を取って、その時が来ればボクも皆の所へ行く。その時に胸を張って会いたいからね。キミはキミが行きたいと思う道を行きなさい。きっとご両親もそう思っているはずだから」
 リリーは悩む事も悪くは無いが、そこで鉄太が立ち止まって欲しくなくて言葉を投げかけた。同じ痛みが分かる彼女だからこそ言えた言葉なのだろう。
 そんな様子を見てエイミーは珍しく表情を和らげて微笑んでいた。
「私も皆さんが仰った事と同じ気持ちですね。失ったものを大切に思う気持ちは尊いものです。それが取り返しのつかない事であればあるほど心に残ります。それでも、今貴方には新しい大切なものが生まれているはずです。そして貴方が失われる事で悲しむ人もいる事を忘れないでください」
 バーシャは鉄太と視線を合わせながら「過去を忘れる必要はありません。でも貴方の今、大切な者を思う気持ちを強く持っていてください」と言葉を付け足す。それだけがバーシャの望みだといいながら。

 その後、能力者達は鉄太を連れて任務完了の報告を行うために高速艇へと乗ってLHへと帰還していった。
 その高速艇の中、ユウがハーモニカを吹いて鉄太を元気付けていた。その音色は鉄太の心にしみ込み、止まっていた涙があふれそうになるのを鉄太は必死で我慢していたのだった。
だが、エイミーだけが別のことを考えていた。
(「そういえば、鉄太氏以外全員女性だったな。普段むさ苦しい事の多いメンバーから比べると天国のような環境だったな」)



END