●オープニング本文

能力者の中でいったいどれだけの人が『故郷』を無くしたんだろう。

能力者の中でいったいどれだけの人が『待ってくれている人』を亡くしたんだろう。

※※※

荻城更紗、スナイパー。

幾つかの任務をこなしてきて、漸く『新人』という域から出る事が出来た彼女だったが、その表情は浮かないものだった。

原因はとある依頼を見てから。

そこは農業などで生計を立てている小さな町だった、住人もほとんどがお年寄りばかりで人数も多くなく若者達は町を見限り、都会へと居を移し、弱者達が集まる町となった。

そこへ３体のキメラが現れて、町をめちゃくちゃにしたのだと資料には書かれていた。

勿論死者も数名出ており、能力者達にキメラ退治の任務が出たのだ。

（「でも‥‥」）

更紗は資料を見て心の中で呟く。おそらくこの町のキメラを退治してもそこで終わりではない。

町の被害状況は激しくもとの町に戻すまでにそれなりの時間がかかるだろう。

畑、田んぼ、それらもめちゃくちゃにされており、これで生計を立てている住人達にとっては大打撃となる。

「能力者はキメラを退治しておしまい、だけど‥‥残された人にとってはそこからがまた始まりなんだ‥‥」

●参加者一覧

●リプレイ本文

――　能力者に出来ること　――

　今回、能力者達が向かうのは農業などが盛んな町でキメラ襲撃により大打撃を受けた場所だった。農業で生計を立てる者達にとって田んぼや畑が滅茶苦茶にされた事は死活問題なのだ。
「キメラの被害を受けた町か‥‥毎度の事ながら、割を食うのはいつも一般人か‥‥」
　気に入らないな、レィアンス（ga2662）が言葉を付け足しながら小さな声で呟いた。
「お久しぶりですね、更紗さん。また依頼をご一緒出来て嬉しいです。お互いに頑張りましょうね」
　乾　幸香（ga8460）が更紗に話しかけると「此方こそ宜しくお願いします」と更紗が丁寧に頭を下げながら言葉を返した。
「今回のこの町、キメラ退治を終わらせても‥‥終わりじゃないんですよね‥‥」
　更紗の言葉に夜刀（gb9204）が「更紗さんの気持ち、凄くよく分かるよ‥‥」と小さな声で呟いた。
（「でも‥‥真っ先に逃げ出して、守ると誓ったものを投げ出した奴にそんな事を思う権利は無いんだろうな‥‥さて、どうするかな」）
　夜刀は心の中で呟き、資料へと視線を落とす。
「荒れ果てた町、奪われた命‥‥たとえキメラを倒しても、取り戻せないものがあります‥‥けれど、黙って見てるなんて、私には出来ません」
　獅月　きら（gc1055）が表情を曇らせ、俯きながら呟き「でも、取り戻せるものも‥‥新たに生まれるものもあるはず――ですよね？」と言葉を付け足したのだった。
「うん‥‥どんな人だって故郷を失うのは辛いって、ボクにも分かるから‥‥キメラを止めて、何か役に立つお手伝いはしてあげたいな」
　セリム＝リンドブルグ（gc1371）が拳を握り締めながら小さな声で呟く。
「あ、あの‥‥わ、私も頑張ります‥‥宜しくお願いします」
　御鑑　藍（gc1485）がおどおどとした口調で呟き、ばっと勢いよく頭を下げて今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶を行った。御鑑を含めて、今回が初任務という能力者達が３人ほどいた。それぞれ初任務に対する意気込みなども様々で、ただ任務を成功させたいという気持ちだけは一緒のようだった。
「町を復興させたい、ね」
　ラナ・ヴェクサー（gc1748）が他の能力者達を見ながらため息混じりに小さく呟く。
（「正直、私はキメラ殲滅にしか興味がないのだけどね。しかし他のチームメイト達は乗り気のようだし、仕方が無いか」）
　ラナは再び小さなため息と共に心の中で呟いたのだった。
「まぁ、復興も支援もしたいがまずはキメラの退治だ。それは俺達にしか出来ないことですからね」
　キング（gb1561）が能力者達に向けて告げる。
「それでは、そろそろ行きましょうか」
　乾が呟き、能力者達は高速艇に乗って３匹のキメラが徘徊する町へと出発していったのだった。


――　荒らされた町に残るは恐怖　――

　今回の能力者達はキメラの数に合わせて３班構成で町の中でキメラ捜索を行う作戦を取っていた。
　Ａ班・乾、ラナ、獅月の３名。
　Ｂ班・キング、夜刀、御鑑の３名。
　Ｃ班・レィアンス、セリム、更紗の３名。
「何かあったらトランシーバーで連絡を取り合えばいいな」
　レィアンスが呟くと「そうだな、幸いにも１班に１人はトランシーバーを持ってる奴がいるからな」とキングが言葉を返し、それぞれの能力者達はキメラを捜索する為に班での行動を開始したのだった。


――　それぞれの戦い　――

※Ａ班※
「資料にあるキメラ出現場所は地図によると‥‥この辺ですね」
　乾は地図を指差しながら呟く。資料にはキメラの出現した場所などが書かれており、それにしたがってある程度の範囲を絞って効率化を図っていた。
「そういえば、キメラというのは知能が存在するのかしら？　その行動原理から、皆無だと思うけど」
　ラナの言葉に「どうなんでしょう、今まで知能のあるキメラに出会った事は無かったと思いますけど‥‥」と乾が言葉を返す。
「キメラに知能なんて‥‥いらないと思います。ただ奪うだけの存在に‥‥今でさえ厄介なのに、知能があるキメラが出てきてしまったら、もっと状況は悪くなっちゃいますから‥‥」
　獅月の言葉に「確かに、状況が良くなる事はないですものね」と乾も表情を曇らせながら言葉を返す。
「キメラは３匹だったね、散らばって行動しているのかしら、それとも――‥‥」
　ラナが呟いた時だった。うぅ、と何かが唸る声が聞こえ、３人はぴたりと歩く事も話す事もやめる。
「アレが‥‥今回のキメラ」
　ラナが呟き、マーシナリーボウを構えて建物に身を隠す。建物に身を隠しながら狙撃するのが一番安全だとラナは考えた。
「どうやら他の２班も現在戦闘中のようです、ですからこの３人でキメラを退治しなくてはなりませんね」
　どの班も手が離せないようですし、と乾が言葉を付け足す。それぞれが戦闘準備をしている間に他の班に連絡をいれていた。
　しかし残る２班も現在キメラとの戦闘中らしく３班全てが３人での戦闘を強いられる事になっていた。
「いきます、援護をお願いします」
　乾が呟き、イアリスを構えて前へと走り出す。キメラも迎え撃とうと攻撃態勢を取るけれどキメラの攻撃を乾はバックラーで防ぐ。キメラが攻撃を仕掛けた間に獅月が小銃Ｓ−０１でスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、乾が斬る。そしてキメラが立ち上がる前にラナがスキルを使用しながら弓での攻撃を繰り出す。
「あなた達のせいで大勢の人が苦しんだ、きっとあなた達を倒した後も苦しい事は続くと思う‥‥だから私はあなた達が許せない」
　獅月は呟きながら攻撃を仕掛け、キメラの足止めを行う。そしてその隙にラナはスキルを使用しながらキメラの目を狙って攻撃を仕掛け、乾が強力な一撃をキメラへと叩き込み、１匹目のキメラを退治したのだった。

※Ｂ班※
「酷い状況だ‥‥」
　キングは小さく呟きながら荒らされた畑や田んぼを見る。
「連中‥‥やりたい放題やってくれたな‥‥」
　夜刀も見渡しながら呟く。住人達はおそらくどこか安全だと思える場所に避難しているのだろう。慌しく出て行った痕跡が見えた。
「あ、あの‥‥こ、これってキメラの足跡でしょうか‥‥」
　御鑑が呟き、地面に残された足跡を指差す。それは並みの獣の足跡にしては多少大きく、周りには人間の血であろう血痕がべっとりと残されている。
「‥‥ほぼ間違いなくキメラの足跡だろうな」
　キングがしゃがみ、足跡と血痕を見ながらため息混じりに言葉を返す。
「上だ！」
　突然夜刀が叫び、御鑑を突き飛ばす。夜刀の行動にキングも後ろへと飛ぶ。
「きゃあっ！」
　御鑑は地面へと転び、先ほどまで自分が立っていた場所を見て目を丸く見開く。それもそのはずだ。先ほどまで御鑑が立っていた場所、そこには此方を見て唸るキメラの姿があったからだ。
「‥‥家の屋根の上を移動していたのか‥‥」
「いきなり突き飛ばしてごめん、大丈夫だった？」
　キングはキメラを見ながら呟き、夜刀は御鑑に話しかける。
「は、はい‥‥す、すみません‥‥」
　御鑑は立ち上がり、それぞれ戦闘態勢を取る。キングは後ろへと下がり、両手に持った小銃Ｓ−０１で弾切れに注意しながら射撃攻撃を行う。
「ちくしょう、当たらねぇ‥‥」
　キングは小さく舌打ちをしながら呟きスキルを使用して再び狙い撃つ。そこを夜刀が足を狙いながら攻撃を仕掛ける。
「‥‥ぐっ」
　しかしキメラが噛み付いてきて、夜刀はキメラを引き剥がした後に口の中に手を突っ込んで、そのまま上空へと放り投げる。その攻撃が痛かったのかキメラは表情を歪めながら苦しそうに呻いた。
「ああ、イテェに決まってんだろ‥‥だけどよ、この苦しみは一瞬だ。こうでもしない限り、逝った連中にもこれから戦う連中にも申し訳がたたねぇだろうが‥‥！」
　夜刀は血が流れる拳を見ながらキメラへと吐き捨てるように呟く。その呟きがキメラに対してなのかそれとも自分自身に対してなのかは夜刀自身にしか分からない。
「行きます」
　御鑑は呟き、蛍火を構えスキルを使用しながらキメラへの距離を詰め、攻撃スキルを使用しながらキメラへ刀を振るった。そして彼女が下がった後にキングが射撃で足止めを行い、夜刀が前に出て攻撃を仕掛け、さらに追撃するように御鑑が攻撃を行う。素早いキメラだが、これを何度もやられては素早さも落ち、しまいには３人の能力者達の攻撃を受けて地面に倒れ、そのまま起き上がらなくなったのだった。

※Ｃ班※
「‥‥こうしてみると、更紗と同じ依頼を受けるのは久しぶりだな。聞いた話ではだいぶ強くなったとか‥‥いいことだ」
　レィアンスが更紗に話しかけると「いえ、ボクなんかまだまだですよ」と困ったように笑って更紗は言葉を返した。
「俺は――弱くなったかも、しれないな。得る事で失った‥‥いや、最初から、俺には何もなかったのか‥‥更紗にもあれだけ偉そうな事を言ってきて、我ながら情けない事だ」
　その呟きは更紗に対してではなく、自分に向けて呟いた言葉なのかもしれない。そう思い、更紗は言葉を返す事が出来なかった。
「あ、此処は花壇だったんだ‥‥」
　セリムがキメラ捜索をする中でぴたりと足を止め、花壇だった場所を見る。キメラや逃げ惑う人々に踏みにじられたその場所は既に花壇と呼ぶのも難しいものになっていた。
「きっと、丁寧に手入れをしていた人がいたはずなのにな‥‥」
　レィアンスが小さく呟くと「キメラを退治すれば、きっとまた綺麗な花を育てる人がいるでしょうか‥‥」と更紗が小さく呟いた。
「あの‥‥あれって‥‥」
　セリムの言葉にレィアンスと更紗は彼女が指差す方向を見る。すると家の外で何かを食い漁る大きな狼の姿が視界に入ってきた。食い漁っているのは恐らく家の中から持ち出してきたであろう食料の数々。肉や魚なども見受けられたが、既に腐っており異臭を発している。
「行きます」
　セリムはスキルを使用しながら洋弓・リセルを構えて攻撃を仕掛ける。完全にふいを突かれたキメラは出遅れ、その間に更紗も弓での攻撃を仕掛ける。
「これ以上この場所を好きにはさせない‥‥その為にボク達がいるんだから‥‥！」
　セリムは呟いた後にひゅんと風きり音をさせながら再び矢を放つ。
「前衛は任された‥‥援護を頼む‥‥」
　レィアンスは言葉を残してスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。キメラも攻撃を仕返すのだが、レィアンスは大きな傷を受ける事もなく、愛用の柄無で攻撃を繰り出した。
「――っ、そこ！」
　ひゅん、と刀を振るいながらレィアンスは再び攻撃を仕掛ける。素早さが特化してはいるけれど、その分他の部分が劣っており、能力者達はあまり大きなダメージを受ける事はなかった。それでもダメージが積み重なった時が怖いのでなるべく攻撃を避けるようにはしていたけれど。
「行くぞ！」
　レィアンスがスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、援護の更紗とセリムがそれぞれ弓での攻撃を行う。レィアンスの攻撃によって動きが止められたキメラは後からやってくる弓矢をよける事が出来ずに、そのまま急所へとあたり、地面へと落ちていったのだった。


――　復興・死なない人々の心の名は希望　――

　それぞれの班がキメラを退治し終わった事で、能力者達は住人達が避難している場所を調べ上げて、退治したことを知らせた。
　そして、そのまま帰る事はせずに能力者達は復興支援を行う事を決めていたのだ。
「少しでも、役に立てばいいが‥‥」
　レィアンスは畑や田んぼに落ちている瓦礫などを退かす作業を行う。そのとき、更紗が「レィアンスさん！」と走って近寄ってきた。
「えっと、何か様子がおかしかったので‥‥言いたいなと思ってたことがあります。レィアンスさんは得る事で失ったといってましたよね‥‥ボクにはそれが何の事か分からないですけど、得る事で失ったり弱くなる事はないと思います。その、失った何かを、弱くなった何かを受け入れた時にきっと前以上に強くなれると思うんです」
　生意気言ってごめんなさい、と更紗はぺこりと頭を下げてそのまま他の能力者達のところへと行ってしまった。
「あ、よかったら更紗ちゃんも手伝ってよ。町の人達全員分の料理って作るの時間かかるし‥‥」
　夜刀の言葉に「分かりました、それじゃこれを切りますね！」と材料を切り始めた。
「おにぎりも沢山作らないと‥‥それと、私は今回の報酬は辞退しようかな‥‥」
　獅月の言葉に「それは駄目だよ」と１人の中年女性が獅月へと言葉を返してきた。獅月は誰かにいったつもりではなく、独り言だったのだが聞いていたのだろう。
「あんた達は命をかけて戦ってくれただろ？　それに見合う報酬を貰わなくちゃ頼んだあたしたちの気がすまないよ‥‥こうして料理を作ってくれたり、復興を手伝ってくれるだけでも凄く嬉しいんだからさ」
　中年女性の言葉に獅月は薄く微笑んで「おにぎり、もっと作りますね」と言葉を返した。
「夜刀君、料理ってこんなに手がかかるものだったのね」
　ラナが苦笑しながら夜刀に向けて呟くと「手をかけた分だけ料理は美味しくなるからね」と言葉を返した。
「あぁ、そうだ‥‥今後また同じ依頼に赴く事もあるでしょう。その時は宜しくね」
　ラナの言葉に更紗は目を瞬かせた後に「此方こそ、その時は宜しくお願いします」と言葉を返したのだった。
「‥‥自己満足に過ぎないかもしれませんけど、偽善でもやらないよりはマシですからね‥‥」
　乾は岩や荒らされた畑の復旧などを行いながら呟く。中には能力者達を「偽善者」と罵る住人達もいたけれど、それでも乾は構わないと思いながら作業を続けていた。
「これで大丈夫だな」
　キングは救急セットを使って負傷した住人達の治療を行っていた。中には命には別状がないけれど、それなりに大きな傷を負った住人もいてキングはそんな住人達の治療をずっとしていた。
　そんな中、セリムだけは少し離れた所に立っていた。
「浮かばれぬ魂に祝福を、移ろわざる心に慈悲を、願わくばその先行きに光多くあらん事を‥‥」
　今回の事で亡くなった者達のお墓をセリムは作り、そのお墓に追悼を捧げていた。
「キメラも他の生き物も、人間も同じ生き物なのに‥‥何でこんなに風が哀しいんだろう‥‥」
　ぽつりと呟き、セリムは空を仰いだ。

　その後、全てとまでは行かなかったけれどある程度の復興作業を終えた能力者達は本部へと帰還して今回の報告を行ったのだった。


ＥＮＤ