タイトル:明日が来ないマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/19 04:23

●オープニング本文


『明日』の約束なんていらない。

『今度』の約束もいらない。

生きて帰れる保障なんてないんだから『これから』の約束なんてしない。

※※※

私の彼は能力者だ。

能力者になって1年半ほどらしく、任務に行く回数も確実に前より増えてきている。

だけど彼は任務に行く前に『約束』をしたがる。

「帰ってきたら何処か予約して飯でも食いに行こう」

「明日には帰ってくるから、何処か買い物に行こう。映画を見に行ってもいいよな」

約束自体は普通にデートするような簡単な約束。

だけど私は彼が約束の言葉を言うたびに首を縦に振る事も「わかった」という言葉を言う事もしない。

だって、私は一般人だから。戦えないから。見送るしか出来ないから。

彼が生きて帰ってくる保障はないんだから、いつでも覚悟をしておかなくちゃいけない。

もし約束なんてして、生きて帰ってこなかったら――きっと私はダメになる。

もし彼が死んでしまったら「約束したじゃない」「うそつき」酷い言葉で罵ってしまうだろう。

だからお互いのために約束はしない。

私達に『明日』が来る保障なんてないんだから‥‥。

※※※

「ほらね‥‥」

彼と一緒に任務に行った人が申し訳なさそうに私の前に現れる。

彼は酷い傷を負って、既に病院に運ばれていると言った。

なんでも新人さんをかばって怪我を負ったらしい。

「約束しちゃダメなんだよ‥‥守れる保障のない約束なんて、しちゃダメなんだよ‥‥」

少し向こうを見れば、彼らの代わりにキメラ退治に向かう者達がいて、私はその人たちをぼーっと見ていた。

●参加者一覧

リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
古郡・聡子(ga9099
11歳・♀・EL
相賀翡翠(gb6789
21歳・♂・JG
朧・陽明(gb7292
10歳・♀・FC
オリビア(gc0543
28歳・♀・ST
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
エヴリン・フィル(gc1479
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

―― 約束を否定する女性 ――

「俺が‥‥悪いんです」
 腕に包帯を巻かれながら1人の男性能力者が俯いて呟く。
 今回の能力者達に課せられた任務は、前回赴いた能力者達が退治仕切れなかったキメラの退治任務。1人の男性能力者が重傷にほぼ近い状態となり、前回赴いた能力者達は撤退を余儀なくされた――と資料には書いてあった。
「俺、初めての任務で浮かれて‥‥それで注意しなくちゃいけない所でもしなくて。だからキメラから襲われたんですけど、彼が助けてくれたんです」
 その新人能力者は現場に赴いた時の事を事細かに説明し始める。地図を取り出し、どの地点でキメラに襲われたのか、どのルートを行ったのかなど。
「怪我人も出ていますし、油断は出来ませんね。気を引き締めていきましょうか」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)が新人能力者の話を聞きながら呟く。
「足場の悪そうな廃墟に、素早い狼キメラ‥‥地の利は向こうにありそうでやがるんで、十分注意しねぇとですね」
 シーヴ・フェルセン(ga5638)も現場の状況などを聞きながら呟いた。新人能力者の話を聞く限り、廃墟はそれなりに酷い有様で明らかにキメラ側に地の利がある事が判明していた。
「しかもキメラは二匹確認されていますからね‥‥十分に注意しなくては‥‥」
 古郡・聡子(ga9099)も資料を見ながら呟く。前回赴いた能力者によりキメラは二匹いる事が確認されており、今回の能力者達に警戒感を与えていた。
「‥‥‥‥」
 相賀翡翠(gb6789)はペンダントを右手に包み、瞳を閉じながら此処にはいない恋人へ任務の成功、そして無事に帰ってくると心の中で誓う。
「他の傭兵の人がやられちゃったみたいね‥‥私達も二の舞にならないように気をつけていきましょ? ねっ――なんて、それはルーキーの私が言われる事よね」
 宜しく、と挨拶をしながら苦笑するのはオリビア(gc0543)だった。
(「未来の勇者! ジリオン! ラブ! クラフト! 参上‥‥ッ!」)
 ジリオン・L・C(gc1321)は心の中で大きく叫ぶ。彼は自称勇者であり、今回の任務が廃墟、しかもモンスター(キメラ)がいると聞いて、多少テンションがあがっていた。
「ときめきながら待ってろよ! 運命よ!」
 ぐ、と拳を強く握り締めながらジリオンは出発が待ち遠しかった。
「‥‥あ、足手まといにはならないように‥‥でも大丈夫かな、うん、大丈夫だよね‥‥あぁ、でもやっぱり心配‥‥」
 ジリオンの隣でぶつぶつと独り言を呟いているのはエヴリン・フィル(gc1479)だった。能力者として戦う事が初めてな彼女は自分でも役に立てるだろうかと心配で仕方がなかった。
 けれど、それは能力者ならば誰もが経験した事である為「大丈夫ですよ、1人ではなく皆で任務をするのですから」とリゼットが優しい言葉をかけてエヴリンの緊張を少しでも解そうとしていた。
「む、あそこで見ている者は誰かの知り合いか?」
 朧・陽明(gb7292)が此方をジーッと見ている女性に視線を移しながら能力者達へと問いかける。
「あ、あの人は‥‥その、俺のせいで怪我した人の、恋人です」
 新人能力者が呟くと朧はつかつかと女性の所へと歩き出し「何をしておる、早く病院に行くのじゃ!」と少しだけ強い口調で言葉を投げかけた。
「え‥‥」
「其方の恋人なのであろう? 大事な者なのであろう」
 朧の言葉に女性は言葉を返す事なく緩く首を縦に振った。
「今、其方がやるべき事は何じゃ? 安心せい、其方の大事な者を傷つけた代償は妾達が払わせる」
 だから早く行くのじゃ、と朧は先ほどの強い口調が嘘のように優しく微笑み、そして優しい口調で女性へと言葉を付け足した。女性は朧の言葉を聞いた後「‥‥お願いします」と小さく頭を下げると病院へと向かっていったのだった。
「さて、シーヴ達もさっさと行ってキメラ退治して帰ってきやがるですよ」
 シーヴは呟き、能力者達と共に高速艇へと乗り込んで狼キメラが徘徊する廃墟へと向かったのだった。


―― 滅びた町に潜むキメラ ――

 高速艇に乗って目的地へと到着した能力者達は、作戦段階で決めていた班で行動する事にしていた。
 ただし、分かれての捜索ではなく同じ方向を捜索――A班から少し距離を取ってB班が後ろを行く――という方法を取っていた。
 A班・シーヴ、ジリオン、オリビア、相賀の四名。
 B班・リゼット、古郡、朧、エヴリンの四名。
「この瓦礫の状態だと、どっから襲って来やがってもおかしくねぇですね」
 シーヴが廃墟を見渡しながら呟く。建物は倒壊し、地面には瓦礫の破片などが散乱している。キメラにとっても能力者にとっても身を隠す物に困る事はなく、果たしてそれが良いのか悪いのか判断する事が出来なかった。
「朧、古郡、そっちも十分に気をつけろよ」
 相賀が朧と古郡に声をかける。この3名は以前にも依頼で一緒になった事がある仲間らしく、相賀は声をかけておこうと考えていたのだ。
「大丈夫なのじゃ、其方こそ油断せぬようにな」
「心配でもありますけど、皆さんがいればきっと大丈夫ですよね?」
 朧、古郡、それぞれ相賀に言葉を返す。
 そして、キメラを退治する為に廃墟の中を能力者達は散策し始めたのだった。

※A班※
「廃墟! やはり廃墟はいいよな! 雰囲気が出る!」
 ジリオンは鼻歌を歌いながらパシャパシャと持参してきたインスタントカメラで写真を撮っていた。
「楽しそうねぇ」
 オリビアが写真を撮るジリオンを見ながら苦笑する。
「騒げばキメラが出てくるかもしれんが‥‥狙われないようにな」
 相賀も苦笑しながら言葉を投げかけると「大丈夫! キメラが出ても愛と正義の力で退治するから!」とジリオンは言葉を返す。
 しかし――‥‥ゴトッと物音がすると「ぬぉぁ! 何だいったい!」と飛び上がりながら勢いよく後ろを見る。
「瓦礫が落ちただけでありやがりますよ」
「お前‥‥結構な怖がりか」
 シーヴと相賀がそれぞれジリオンに言葉を投げかける。
「それにしても、結構酷い状況なのね。もしかしてこういうのって珍しくないのかしら」
 オリビアが上下左右、壁や窓に注意しながら小さく呟く。
「もっとひでぇ所とかありやがるですね‥‥」
 シーヴも警戒をしながら言葉を返す。シーヴの言葉に「‥‥悲しいわね」とオリビアは言葉を返し、キメラ捜索を続ける。
「まだ後ろの方も見つかってないみたいだな‥‥あんまり広くない町だからそろそろ見つかっても良さそうなんだが」
 相賀は呟き、小さなため息を漏らした。

※B班※
「瓦礫のせいか、死角が多いですね‥‥」
 リゼットがA班から少し離れた所を歩きながら呟く。町の状況は予想通りに酷いものだと彼女は心の中で呟く。今にも倒れてきそうな建物、少しの風で落ちる小さな瓦礫。その物音1つ1つにも警戒をしなくてはならず、能力者達はぎりぎりまで警戒を強めていた。
「酷いものじゃな、襲われさえしなければ平和な町であったろうに」
 朧が歩きながらため息交じりに呟く。花壇と思われた場所はグチャグチャに踏み荒らされ、花だったものの残骸が枯れ散っていた。
「‥‥可哀想、こんな踏み荒らされる為に咲いたわけではないのに‥‥」
 踏み荒らされた花達を見て、古郡は表情を曇らせる。
「そ、そろそろ目隠しを取った方がいいかな‥‥」
 ぶつぶつとエヴリンは呟きながら、覆っていた目隠しを取り、覚醒を行う。
「よ、よし‥‥何かやれそうな‥‥」
 覚醒を行った事でテンションがあがる――その時、何か物音がしてエヴリンが振り向くと物陰からこちらを見ているキメラの姿があった。
「わっ、こ、こっちに来ないで下さいっ」
 エヴリンが呟き、B班の能力者がキメラ退治に向けて戦闘態勢を取る。そしてエヴリンはトランシーバーを使ってA班へと連絡をいれ、すぐさまA班が合流して戦闘を開始し始めたのだった。


―― 荒ぶる獣達の咆哮 ――

 最初に攻撃を仕掛けたのはリゼット。カプロイアM2007でキメラに向けて射撃を行う。
 そして古郡が和弓・月ノ宮を構えてスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。2人の射撃でキメラが足を止めた所にシーヴがヴァルキリアを構え「力押しにゃ負けねぇですよ!」と少し大きめの声で叫びながらスキルを使用し、機動力を削ぐために脚部を攻撃する。
 キメラはシーヴの攻撃によって片足を失ったけれど、ジリオンの方に向きを変えて攻撃を仕掛けようとする。
「ぬぉあ! あ、危ないじゃないか! 俺様が勇者の必殺技、勇者よけで避けなかったら‥‥怪我をしていたぞ!」
 どきどきと早鐘を打つ心臓を押さえながらジリオンが目を瞬かせながら叫ぶ。
「おい、あれ!」
 相賀が視線で合図を送る。他の能力者達もキメラに気をつけながら視線を移すと、そこにはもう1匹のキメラが姿を現していた。
「2匹同時に現れたか‥‥ならば予定通り1班1匹で退治するようにすればいいのじゃな」
 朧が呟き、A班とB班はそれぞれ別々のキメラを相手に戦い始めるのだった。
 最初にダメージを与えていたキメラはA班が受け持ち、オリビアがアーミーナイフをキメラへと投げつけ、A班へとキメラの意識を向かせる。
「私は治療メインで考えているんだけど、銃で援護するわね」
 オリビアは呟きながら小銃S−01で攻撃を仕掛ける。そして相賀はスキルを使用しながら拳銃バラキエルでキメラの行動を阻害し、前衛が戦いやすいようにキメラの視野外から攻撃を仕掛けて翻弄する。
「これ以上の犠牲を許すかよ!」
 相賀は呟きながらキメラからの攻撃は瓦礫を盾にして防ぐ。
「その通りでありやがりますよ!」
 キメラの意識が相賀に向いた所でシーヴが死角から攻撃を仕掛け、正面からはジリオンが炎剣・ゼフォンを構えてキメラへと向かう。
「行くぜ! 秘密の特訓で強化された俺様の神秘の直接攻撃を受けやがれ!」
 背後と正面、両方からの攻撃を行い、A班は1匹目のキメラを仕留めたのだった。

 そして同時刻、B班もキメラとの戦闘を行っていた。
「矢を放ちます!」
 古郡が叫び、それと同時に『ひゅん』と風きり音が響き、キメラの目を射抜く。キメラの悲鳴が廃墟内に響き渡った後、朧が前へと立ち、鉄扇と盾扇の攻防一体の技を繰り出す。そして攻撃を繰り出した後、靴に取り付けたステュムの爪で再び攻撃を繰り出す。
「あ、あの‥‥強化と弱体しますね」
 エヴリンは呟きながら、スキルを使用して能力者達の武器を強化した後、キメラの防御力を低下させる。
 その直後、キメラはリゼットに急接近して攻撃を繰り出そうとしたけれどベルセルクを既に構えていたリゼットは迎撃態勢を取っていた。
 そしてキメラが向かってくるタイミングに合わせて突き攻撃を仕掛けた。
「雷帝の雷、其の身に受けよ」
 朧は呟きながらスキルを使用し、攻撃を仕掛けて2匹目のキメラを無事退治し終わったのだった。


―― 明日の約束 ――

 キメラ退治が終わった後、能力者達はオリビアの練成治療で傷の治療を受けていた。重傷者は出なかったものの、やはりキメラ退治で無傷で任務を終える事は難しかったからだ。
「シーヴ、この後に重体になった能力者の見舞いに行きてぇでありますが、他に行く人はいやがりますか?」
 シーヴが問いかけると合計で4名の能力者が一緒に行く事を告げてきた。
「それじゃ、他の皆には申し訳ねぇでありますが任務報告をお願いしやがるです」
 シーヴは告げると、高速艇に乗り、本部に到着した後、そのまま任務報告に行く者と男性能力者の見舞いに行く者とに別れたのだった。

「あ‥‥」
 病院に到着した後、受付で病室を聞いて歩いていると本部で出会った女性が休憩室でぼんやりと座っていた。
「容態はどうでありやがりますか?」
 シーヴが問いかけると「あ、幸いにも命に別状はないそうです」と女性は言葉を返した。
「‥‥私は、約束するのが怖いんです。彼は戦いに赴き、私は待つだけ。きっといつか最悪の日が来るんじゃないかと思うと‥‥彼と何か約束をするのが怖いんです」
 女性は震える手を握り締めながら今にも消え入りそうな小さな声で呟いた。
「‥‥シーヴの伴侶も一般人でありやがるです。でもシーヴが任務に出かける時は、いつも『Vi ses』と国の挨拶で約束を交わすです」
「怖く、ないの?」
「その約束には必ず帰って会おうっつー祈りが込められてやがります。だから彼もそうなんじゃねぇかと。約束という形の祈りを、一緒にして欲しい、です」
 シーヴの言葉が終わると「明日が来るかどうか不安なのは能力者も一緒です」とリゼットがポツリと話し始める。
「でも、絶対に帰って来たいから、約束したいんだと思います。約束を命綱に、どんなにぼろぼろになっても大切な人の所に帰れるように」
 リゼットの言葉に「あんたの彼氏も同じなんじゃねぇか?」と相賀が呟いた。
「能力者だからって、いつでも何でも出来るわけじゃない。だからこそ、約束をしたいんじゃないか?」
 あいつはどんな気持ちで待ってんだろ‥‥と相賀は小さく言葉を付け足す。だけどその呟きは本当に小さなもので他の者が聞き取る事はなかった。
「約束には、魔法がかかっているのだ! 貴様の身は、熱い魂は、彼の迷える魂を受け止められるのに、何故しないのだ!」
 ジリオンはきらきらとした顔で女性へと告げる。
「約束は、帰ってくるという祈り‥‥命綱‥‥私は自分のことしか考えずに約束なんてしなかった‥‥」
 最低ですね、女性は言葉を付け足しながら涙をこぼし、呟く。
「それならこれからしていけばいいじゃないですか」
 リゼットが穏やかに微笑みながら「帰ってくるための命綱をこれからしていけばいいんです」と女性に言葉を投げかける。
「ありがとう」
 女性は涙をぬぐいながら男性の下へとかけていく。
「‥‥今度、俺も本音を聞いてみるかな。これからの為に」
 相賀は窓から見える空を仰ぎながら小さく呟いたのだった。


END