タイトル:【AP】愉快なバグア族マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/15 03:15

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。結果は実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

※※※

能力者だから、キメラと戦う。

能力者だから、バグアと戦う。

能力者だから、人々を守る。

それなら、もしバグアだったら?

※※※

奪え、殺せ、逆らう者には容赦するな。

目的の為を果たす為に躊躇うな。

たとえば、自分がバグアだったらと考えた事は?

たとえば、自分が守る側ではなく奪う側だったらと考えた事は?

※※※

能力者たちは夢を見る。

悪夢という夢を。

それは守るべき場所、守るべき人々なのに、何故か自分たちが立っている場所は守るべき立場ではなく奪う側。

「もう、やめてください」

「助けてください」

「殺さないでください」

そんな声が次々に聞こえるにも関わらず、誰一人として助ける者は存在しない。

地獄絵図のようなこの状況の中、あなたはどう動く?

※※※
状況まとめ
・このシナリオでは【能力者】ではなく【バグア】として活動していただきます。
・それぞれがどのような行動を取るのかは、それぞれで考えていただいて結構です。
・OP的にはシリアス風ですが、お馬鹿な行動もOKです。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
ユウキ・スカーレット(gb2803
23歳・♀・ST
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
シィル=リンク(gc0972
19歳・♀・EL
ガナドゥール(gc1152
42歳・♂・ST

●リプレイ本文

―― もしも、の話 ――

「やれやれ、こんな惑星にこれ以上の価値などあるように思えないのだがね〜」
 大きなため息と共に激しく戦闘する自分の同胞や能力者達を見ながらドクター・ウェスト(ga0241)は呟く。
「まったく、こんな低脳な連中相手になんでこんな原始的な手段を用いるのだろうかね〜」
 キメラを指揮し、戦闘を行わせるも彼自身のやる気はかなり低調気味のようだ。
「ふふ、そんな事を言って‥‥。それで『低脳な連中』にやられるのは嫌でしょ?」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が妖艶な笑みを浮かべながらドクター・ウェストへと話しかける。
「珍しいね〜、戦場には立たないんじゃなかったかね〜?」
「えぇ、すぐに下がるわ。開発段階のキメラだけど現段階でどれくらいまで戦えるか見ておいてもらおうと思ってね。数体連れてきたわ」
 役に立てばいいけれど、と視線を移しながらクラリッサが呟く。ドクター・ウェストも其方へと視線を移すと外見ではキメラと判断しにくい数人の男女が立っていた。
 クラリッサの開発しているキメラは簡単な検査程度でキメラと判別する事はできず、限りなく人間に近い人型キメラだった。ある程度の受け応えが可能なくらいの知能を持たせており、これが完成形にまでいけば暗躍させる事も可能になるだろう。
「正面切って、叩き壊すしか出来ないキメラなんて面白くありませんわ。ただ強さだけを追い求めるだけならば、誰だって出来ますもの。もっと楽しまなくてはいけませんわ」
 その為の手間を惜しんでつまらない戦いなんて見たくありませんもの、にっこりとクラリッサは言葉を付け足してキメラを置き「それじゃ、宜しくお願いしますわね」と言葉を残して戦線から下がっていったのだった。
「さて、どうなっているかね〜」
 キメラを再び投入した後、ドクター・ウェストが戦場へと視線を向ける。すると最初に視界に入ったのは狂喜して戦う望月 美汐(gb6693)の姿だった。
「血、血、血。血が欲しい。大鎌に注ぐ飲み物が」
 満面の笑顔で呟きながら戦う望月だったけれど、その笑顔は壊れていた。
「あは♪ 真っ赤な真っ赤な赤い花、肉の焼ける匂い、断末魔。なんて美しいんでしょう」
 なおも大鎌を振るいながら楽しそうに戦う姿を少し離れた場所からシィル=リンク(gc0972)も見ていた。
「‥‥憎いですか? 私達が。弱い者は何をされても文句は言えない‥‥大変ですね、弱いっていうのも」
 シィルは呟きながら目の前の能力者を小型の西洋剣で攻撃する。ヨリシロや強化人間が多い仲間の中、彼女だけは人間――能力者だった。
 その理由は家族の安全をバグアに保障させているから。だけど人質にとられているからとかではなく、彼女自身が選んだ道だ。
(「能力者が‥‥数人――此方は1人だって言うのに、危険な場所に回して‥‥嫌がらせですか?」)
 シィルは心の中で呟き、ため息を吐きつつも武器を強く握り締めて攻撃を行う。
「お前は、強化人間? それともヨリシロ――「いいえ」――え?」
 能力者からの問いかけにゆるく首を横に振りながら「残念ながら私は貴方達と一緒の能力者ですよ」と言葉を返した。
「私にとって人類もバグアも、何も関係ない。私は私の意志に順ずる。ただそれだけ」
 シィルの言葉に「そんな‥‥」と能力者は呟いている。おそらくシィルの事を気にし始めた優しい能力者なのだろう。
「私の事を気にしている余裕があるんですか? 随分と余裕ですね」
 攻撃を繰り出し、別の能力者を地面へと叩き伏せながら呟く。
「逃げれば追わない。けど、立ち向かうなら手心は加えない」
 シィルは呟く、その瞳はどこまでも暗く、どこまでも冷たいものだった。

 そして、一方――人間達が避難した場所では子供や女性達が1匹の猫を見て騒いでいた。
「わぁ、可愛い猫ちゃんだ。こんな可愛い猫ちゃん見たことなーい」
(「今まで見た事がないくらい可愛い猫だと? ふふん、厳選して100匹にまで絞り込んだ候補の中から選んだヨリシロだから当然。愛でたくなるのも無理はないが、気安く触らないで欲しい――むしろさっさと離して欲しい」)
 そう、この可愛らしい猫――実は新居・やすかず(ga1891)であった。同胞達には欺瞞の為だと言い張り、この姿へとなっているのだが実はかなりの猫好きであり、今現在一番幸せなのは彼だろう。
(「この姿で人間を欺く事で安全な場所からの指揮も取れるし、簡単にスパイ活動も出来る」)
「本当に可愛いなぁ、ここに置いてても戦闘に巻き込まれるだけだしLHに連れて帰って飼おうかな」
(「LHに連れて‥‥? こいつら能力者か? バレたら袋叩き‥‥いや、研究所送りかも」)
 少しだけ不安になりつつ、能力者の腕から逃げて地面に立つ。
(「とりあえず、司令部の方に戻って無人機に指示を出す仕事に戻ろう」)
 ととと、と軽い足音を立ててあせらずゆっくりとバレないように新居はその場から立ち去ったのだった。
「クラークさん? クラークさーん? 聞こえてますー?」
 ユウキ・スカーレット(gb2803)は改造して首を2つ増やし、機体色を漆黒、目の部分だけを赤というケルベロスを連想させる外見にしたワイバーンを繰りながらクラーク・エアハルト(ga4961)に通信で話しかける――がクラークからの返事がない。
「クラークさん!」
 少し大きめの声で話しかけると「む‥‥すまん、少し寝ていた」という言葉が返ってきて「はぁ」とユウキは小さなため息を漏らした。
「状況はわかってます?」
「あぁ、状況は把握している。ゴーレム隊、いくぞ」
 クラークの言葉を合図にカスタム・ゴーレムに搭乗する機動兵器部隊が動き始める。クラークはその指揮官であり、ユウキは今回クラークと共に連携を取って戦場を攻略していく事になっている。
 能力者達のKVが向かってくる中、ゴーレム隊もそれぞれ動き出し、白ゆりのエンブレムを掲げ、灰色に塗装した機体を繰りながらクラークも動き出す。
「ユウキ、こっちは重装備で足が遅い。敵を撹乱してくれ」
 クラークの言葉に「わかりました」とユウキは言葉を返し、ワイバーンを繰る。クラークはバグア式スラスターライフル、シールドガトリング、ヒートディフェンダー、ショルダーキャノンなどの武装をしており、動きが遅いという欠点があった。
 その欠点を補う為に今回ユウキと行動を共にする事になっていた。
「ひと〜つ、ふた〜つ、あははっ! ちゃんと避けないと蒸発しちゃいますよ?」
 ユウキの撹乱や攻撃で相手側の陣形が崩れた所をクラークは狙って攻撃を行う。KVは自分達が相手をしているけれど、生身の能力者達に対してはドクター・ウェストやクラリッサの作ったキメラや他にもヨリシロ達が対応している。
「状況はどうかね〜?」
 ドクター・ウェストからの通信が入り「此方は問題ない」とクラークは短く言葉を返す。
「其方も問題はなさそうだな。流石はドクター・ウェスト特製のキメラだな。まぁ、これからも頼りにさせてもらうよ」
 そう言葉を返して通信を切ろうとしたら「隠れている住人達は任せるよ〜」という言葉がドクター・ウェストから返された。
「あん? 面倒事はこっちにまわすなと‥‥もう切ってやがる」
 はぁ、とため息を吐いた後に「ガナドゥール! 町の住人の扱いは任せる!」と少しイラついた口調で通信を行ったのだった。
「任されてしまいましたか‥‥」
 通信を切りながらガナドゥール(gc1152)が目の前で恐怖に怯える住人達をちらりと見る。
「さて、先ほどあなた方の事を私が任されました」
 穏やかな口調、そして穏やかな言葉、だけど住人達の恐怖が薄れる事はなかった。
「皆様、恐れる事はありません。従順な者にバグアは寛大です」
 にこやかに告げられた言葉。だがガナドゥールの背後には鹵獲KVが住人達を見下ろすように立っている。
 つまりガナドゥールの言葉に従わぬ場合はいつでも暴威に変われる事が無言でアピールされている。それが分かっているから住人達も下手な動きが出来ないのだろう。
「あまり賢くない選択はお勧めしませんけど‥‥どうしても、という方は止めません」
 ガナドゥールの言葉を聞きながらも住人達の中には僅かな期待があった。それはまだ戦場で戦う能力者達。
 だが、住人達は動く事が出来ない為に知らない。その頼りにしている能力者達が現在どのような状況なのかを‥‥。

「ふふ、能力者達が弱き者を護るのが建前というのなら、それを利用しない手はありませんわね。せっかくの子供たちの晴舞台なんですもの。凄惨で怨嗟の声に充ち満ちている舞台を用意してあげなくちゃね」
 ドクター・ウェストに預けた数体の他に住人達の方へとキメラを放つ。もちろん不自然にならないように避難民のようにして住人達が隠れている場所へと潜り込ませた。
 そしてまた別の場所では新居が「ふふふ、僕に出会った不幸を呪うがいい!」と叫びながら司令部の一角から無人機たちに指示を出していく。
 しかし彼は気づいていなかった。司令部にいる同胞達からの視線に。それがどういう意味を持つ視線なのかは、あえて言う事はしないでおこう。
「まだ生きてる。私と一緒にまだ踊りたいの? 構いませんけどちゃんとついてこられますか?」
 狂喜的な笑みを浮かべながら『踊り』という名の戦闘を始める。既に彼女が持つ武器は大勢の人間、能力者の血を吸って真っ赤に染まっている。
「ひっ‥‥も、もう‥‥」
「命乞いなんか聞きませんよ? だって、好きなんでしょう? 泣くのが。だからそれらしくしてあげますよ。あは、あははっ!」
「うわああああっ!」
 少し離れた所から悲鳴が聞こえて、能力者が逃げていくのが望月の視界に入る。
「あれ、逃げられたんですかー?」
 望月がからかうように話しかけると「逃げる者は追わない主義」とシィルが短く言葉を返した。
 そしてそれから暫くが経過した頃、攻撃をやめるようにという指示が聞こえてきた。
「望月、遊びすぎだ。強化のし過ぎじゃないのか?」
 クラークからの言葉に「えぇ、せっかくもっと踊れると思ったのに」と不満そうに望月が言葉を返す。
「‥‥働き蜂なら他の所でも取れるじゃないですか、殺っちゃいましょうよ」
 望月が呟くけれどクラークのため息が聞こえて「早く絶滅しないかなぁ、人間」と望月は諦めたように独り言を呟いたのだった。

「化石のような装置で物資を食いつぶしながらでないと宇宙に行けない連中相手に、何故雑草の芽を1つ1つ手で摘み取っていくような非効率的な制圧を行うのかね〜?」
 司令部に戻ったドクター・ウェストは不満そうに上層部へと進言する。彼の言葉を聞いた上層部は言葉を返す事はなく「何か文句でも?」という意味合いの視線だけを送った。
「前から言っているが、繁殖型キメラの大量投入や、小型キメラによるウイルス散布など、効率的で圧倒的に対処の難しい方法があるではないか〜。何故行わないのかね〜」
 だけどドクター・ウェストが納得するような言葉はもらえず、結局苛々が募るだけに終わってしまった。
「こんな惑星にこれ以上の価値などあるように思えないのだがね〜」
 吐き捨てるように呟き、ドクター・ウェストは下がっていったのだった。

「あら、何を飲んでいるの?」
 クラリッサが司令部内の休憩室に姿を現すと、既に帰還していたクラークがぼんやりと花を見ながら座っていた。
「クラリッサか‥‥飲むか? 何でもキリマンジャロコーヒーというらしい。まぁ、この男の出していたコーヒーの味は出せんがね」
「私はブランデーがあるから結構よ、さっきまで可愛い私の子供たちが活躍する場所を見ていたんだけど、少々呆気なくてこっちに来たの‥‥それは、ユリね」
 クラークが見ている花を見てクラリッサが呟く。
「ユリの花‥‥何が良いのか‥‥だが、まぁいいか。そういえば、地球の文化で女同士が付き合ったり恋愛するのを百合というらしいが何でか分かるか?」
「‥‥さぁ? 私たちには理解不能な事も多いものよ。この惑星の人間達が私たちバグアを理解できないように、ね」
 クラリッサの言葉に「確かに」とクラークは言葉を返し、コーヒーを飲み干したのだった。
「あー、私にもくださいよ。それ。結構がんばったでしょ、今日は」
 コーヒーを飲んでいるとユウキがやってきて「ずるい」と拗ねたように呟く。
「飲みたければ勝手に飲めばいいだろ」
 苦笑しながら言葉を返し、新しいカップにコーヒーを注いでユウキに渡したのだった。

 他の同胞達が司令部へ戻った中、シィルとガナドゥールは住人達の見張りをしていた。先ほどまではクラリッサが送り込んだキメラによって混乱が生じ、利用価値のある人間が多少減ってしまったけれど見張る側としては楽になった。
「私たちはただ平穏無事に暮らしたいだけなのに‥‥」
 ポツリと呟いた言葉に「彼らを止めたいですか?」とシィルが言葉を投げかける。
「え?」
「止めたければ、まず私を倒すしかないでしょうね。来ますか‥‥? 其方の正義のヒーローでもいいですよ?」
 シィルはちらりと能力者を見ながら呟く。しかし住人や能力者達には自分たちが勝てない事を知っているので唇をかみ締めたまま、再び地面へと座り込んだのだった。
「ふむ、なるほど」
 ガナドゥールは住人達、そして能力者達を見て利用価値のある者とそうでない者のリストを作っていた。
「私はこれを提出してきますので、見張りをお願いします」
 ガナドゥールはシィルに住人達の見張りを任せて、上官にリストを提出する為に司令部へと戻っていった。

 これはありえない現実。
 もしかしたらありえたかもしれない現実。
 常に正義と悪は平行線で並んでおり、それがどんなきっかけで逆転するか分からない。
 これはありえなかった『もしも』の話。


END