●リプレイ本文
今回、マリの記者仲間が落としたという原稿を探すために集まった能力者達。キメラが何体も闊歩する場所に一人で行こうとする土浦 真里(gz0004)を見て、ため息を吐かずにはいられなかった。
「よお、怪我治ったのか?」
神無月 翡翠(
ga0238)がマリに問いかけると「ん、何とかね」と傷跡の残る場所を見せた。
「あんまり安静にしてると記者の腕が落ちちゃうものね」
「だから一人で行こうとするな‥‥行くなら遠慮なく俺達を連れて行け」
ため息混じりにマリに話しかけるのは花柳 龍太(
ga3540)だった。マリは能力者から何度も『一人で行くな』と言われているにも関わらず、一人で行こうとする。
「全く‥‥もう病気みたいなものね、チホさんの胃に穴が空かないといいんだけど」
小鳥遊神楽(
ga3319)も、今頃大量に胃薬を飲んでいるであろうチホの心配をして小さく呟いた。
「まあまあ、それがマリさんらしいんやないですか‥‥?」
篠原 悠(
ga1826)が能力者達を諌めながら呟く。
「巻き込まれる方は大迷惑なんだがな‥‥」
何度もマリの被害にあっている沢村 五郎(
ga1749)はじろりとマリを見ながら呆れたように呟いた。
「迷惑とかはさておき、この前怪我したばかりなのに、また危険なことを‥‥心配なのでついていくことにします」
はしゃぐマリを見て呟くのはコー(
ga2931)だった、彼なりにマリの無茶ぶりを心配しているのだろう。
「きっと能力者が何とかしてあげないと‥‥あの人、絶対死んじゃうわよ‥‥」
鷹代 由稀(
ga1601)が呟くと、能力者達はマリを見て「違いない」と答えたのだった。
「さて‥‥私と小鳥遊が土浦の護衛ね」
大川 楓(
ga4011)が呟き「頑張りましょ」と小鳥遊も大川に話しかけた。
「ま、とりあえず怪我治ったばかりだろ? 無理はするなよな? とりあえず俺達も一緒に行ってやるからさ」
神無月がマリに優しく話しかける――が、心の中では『こいつ、一人だと不安要素。目の届く範囲にいた方がマシ』と酷い事を呟いていた。
「さぁ、しゅっぱ〜つ!」
マリが元気よく叫び、能力者達は問題のデパートへと向かったのだった‥‥。
●到着! そしてA・C班レッツゴー!
「被ってろ」
デパートに着くと同時に沢村がマリに防空頭巾を被せた。
「‥‥ごろっち? それは?」
篠原が沢村に問いかける。
「篠原、お前までごろっちは止めろ‥‥一応、頭を護る為だが?」
ここでマリは悟った、沢村は天然なのだということに。
「それとこれは俺と篠原からだ」
沢村は液体の入った瓶を2本、マリに渡した。
「うちの屋台の油瓶、牛に追っかけられたら、牛の足元にポイしちゃえ!」
「奴らは蹄だ、間違いなく転ぶ」
ありがと、マリは二人にお礼を言いながら瓶を持って来たバッグの中へと直した。
此処から一歩進めばデパートの中なので、来るまでに決めていた班で行動する事になった。
A班:沢村・神無月・篠原
B班:鷹代・コー・花柳
C班:小鳥遊・大川
C班はマリの護衛班なので、A班と共に行動する事になる。
まずA・C班は一階のキメラ殲滅を行い、B班は二階のキメラ殲滅を行い、マリの原稿も探せたら探すという事になった。
あまり時間をかけたら、マリの暴走が激しくなるだけだと判断した結果だ。
「動くな」
沢村が他の能力者とマリの動きを止め、床の埃を払って耳をつけ、敵の足音を探り、反応を見る。
「どうだ?」
神無月が問いかけると「2匹ほどか」と沢村は一人呟くように答えた。その後、沢村は刀の鞘に懐中電灯を括りつけ、それを前にして進むことにした。
これによって敵から此方の先頭の位置を見誤らせ、最初の攻撃を避ける為の行動だった。
「ねぇねぇ、ゴッド――‥‥」
神無月の肩にぽんと手を置き、彼が振り向くと――そこには金髪のかつらを被って下から懐中電灯を照らしているマリの姿があった。突然の出来事で驚いたのだろう、神無月はドキッとした表情で暫く固まっていた。
「マリさんナイス! うちもやる〜!」
そう言って篠原も下から懐中電灯で顔を照らす。
「止めろ‥‥」
恐らくはたから見たら凄く怖い集団に見えるだろう。
「私達は貴女の護衛が主な任務、基本的には貴女の傍を離れないわ。だから少し窮屈な思いをさせるかもしれないけれど我慢してね」
大川が苦笑しながらマリに話しかける。小鳥遊はマリの如何なる行動にも対処できるように様々な行動パターンを予想していた。
そして、暫く歩いた後‥‥能力者達の顔つきが変わり、大川と小鳥遊はマリを連れて少し後ろへと下がった。
「え? 何?」
マリがきょとんとした表情で問いかける。
「キメラが近いのよ、あたし達の指示には従って頂戴。さもないと命の保障は出来かねるから」
小鳥遊の真剣な顔にマリも首を縦に振ったのだが、ここで大人しくしているマリではない。何をしようかと色々と頭の中で考えていた。
「本当は‥‥互いが互いをフォローできる距離にいた方がええんやけど‥‥」
「それには時間が掛かりすぎる、キメラが潜む中、お荷物(マリ)を抱えては戦えない。手っ取り早く終わらせるしかないだろ」
目の前に現れたキメラ2匹の前で篠原と沢村が話していた。
「ちょぉっと! ごろっち! 今『お荷物』と書いてマリと読んだなああっ!」
後ろの方でマリが叫んでいるが、ここは無視して戦うしかない。恐らく一階には2匹のキメラのみだろう。
「さて、始めますか‥‥強化したい方はいますか? 回復も致しますので思いっきり戦ってOKですよ」
神無月が覚醒し、練成強化を篠原と沢村に発動する。神無月、彼は覚醒する事で口調が丁寧になる特徴があるようだ。
「さぁっ! ライブの始まりや!」
篠原は叫び、スパークマシンを両手で持ち、射程距離を保つ。2匹のキメラを個人で相手するのも良い方法かと思ったが、流石に相手が悪い。ここは協力して戦うのが一番早くすむだろう。
最初に走り出したのは沢村、それを見たキメラは闇雲に腕を振り回してくる。その攻撃に対し、沢村はキメラが手を出してくる時のみ手だけを攻撃し返していた。
それを何度も繰り返すうちにキメラの頭の中には『手を出す=攻撃される』という考えがインプットされたのか、手を出すのを渋り始めた。
「終わりだ」
沢村は呟き、キメラの腕を斬り落とすと、それを待っていた篠原がスパークマシンで攻撃し、キメラを1匹撃破した。
「この調子で行けば結構楽そうやね」
篠原が2匹目のキメラを攻撃する射程内に入り、沢村に話しかける。
「今のと同じような方法で攻撃するぜ」
「あいあいさー!」
「のっちとごろっちは大丈夫かな」
中々戻ってこない二人を心配して、マリが呟く。
「大丈夫―‥‥彼らは貴女を守る為に命掛けで戦っている。その仲間の邪魔をして要らぬ怪我をさせて御覧なさい。後顧の憂いを断つために、あたしがきっちりとマリさんを苦しませないよう殺してあげるから――そう覚えておいて」
呟くのは小鳥遊、いつキメラが襲ってくるか分からない状況のために覚醒している彼女だが、覚醒は彼女の性格までも変えてしまうようだ。
この時、初めてマリは小鳥遊が怖いと思ったのだとか‥‥。
「護衛する人を殺しちゃ大問題でしょ」
苦笑しながら大川が小鳥遊に話しかける。
そして、キメラ退治を終えた二人が戻ってきたのだが‥‥背後からキメラが攻撃を仕掛けている事に小鳥遊が気づき『貫通弾』で襲ってきているキメラの頭部を狙う。流石にキメラといえども頭部を損失しては生命を維持出来ないようで、血を噴出しながらズシンと重い音を出して倒れていった。
「さ、これでこのフロアにキメラはいない――でいいのかしら?」
小鳥遊が問いかけると「後は上からの気配だな」と沢村が答えたのだった。
●B班・原稿を無事に届けないと彼らが危ない?
「やる事はシンプルだけど、灯りの確保とかクリアしなきゃならない問題多いよね‥‥ま、なるようになるでしょ」
鷹代が懐中電灯を点灯させながら呟く。
「別行動の班からの連絡で一階は殲滅したそうです。数は2匹、予想よりは少ないですね。二階もせめて2匹くらいまでだといいんですけど‥‥」
コーが呟き、キメラの気配を探る。
「確か原稿を落としたのはおもちゃ売り場‥‥って話だよな? 先に原稿見つけとかないか?」
花柳の提案に「そうねぇ」と鷹代が言葉を返す。
「目的のものさえ手に入れば、思いっきり戦えるし‥‥そっちの方がいいかもしれないね」
「でもキメラ殲滅はどうしますか?」
コーが問いかけると「面白いもの、あるわよ」と一つの玩具を取り出した。鷹代がどこからか拾ってきたらしきもの、それは電池を入れれば大きな音を出す玩具で、キメラを呼び寄せる十分なえさになりえる。
「電池もあるし――原稿さえ見つかれば、これを使ってキメラをおびき寄せることができるわね」
三人は首を縦に振り、まず最初にクイーンズの原稿を探すことにして、玩具売り場を目指したのだった‥‥。
逆を言えば、暗闇の中、キメラに見つからぬように遠回りをして玩具売り場に向かう事のほうがよっぽど難しいことなのかもしれないと、全てが終わってから三人は考えたのだとか‥‥。
そして漸く玩具売り場に辿り着いた三人、でも全てが苦労だったわけではない。二階部分を全て歩く形になったおかげでキメラの数が把握できたのだから。
「数は2匹でしたね、一階と合わせて合計4匹――よくこんな一箇所に集まりましたね」
コーが問いかけると「キメラの気持ちは分からんな」と花柳が苦笑して答えた。
「ほらほら、原稿探す! じゃないと‥‥きっと『二階にいってたのに原稿一つも見つけられないの!?』ってあの人から言われそうだわ‥‥うん、彼女に会うのは初めてだけど、そんな気がする」
鷹代の言葉に「間違いないな」と花柳が呟く。彼はマリの事をよく知っているのでマリが言うであろう言葉が次々に頭の中に浮かんできた。
「あ、これじゃないですか?」
コーが手にしたのは少し大きめの茶封筒に入ったもの。表には『クイーンズ原稿』と赤文字で書かれていて、間違いなくマリの記者仲間が落とした原稿だろう。
「さて、これの出番ね」
鷹代は玩具を取り出し、電池を入れて、少し遠くまで放り投げる。もちろん壊れないようにある程度の力は抜いて、だけれど。
そして、リモコンのスイッチを押すと『ビィーッ! ビィーッ!』と玩具が大きな音を鳴らし始めた。
「‥‥来た」
花柳が集まってきた2匹のキメラに視線を向け、低く呟く。
「目ぇつぶって!」
突然、鷹代が叫び、コーと花柳はそれに従い、瞳を強く閉じる。鷹代は照明銃を使ったのだ。
「いいわよ、そんなに時間稼げないし――叩くなら今のうちね」
鷹代が呟き、それと同時にキメラに攻撃を仕掛けたのは花柳だった。近距離で戦えるのは三人のうち、彼しかいない。鷹代とコーは花柳の攻撃に合わせるように長弓『鬼灯』とアサルトライフル、それぞれの武器で援護するように攻撃を仕掛けた。
鷹代の使った照明銃のおかげでキメラは目が眩み、思うように動けないのか、腕を闇雲に振り回すだけで、能力者達に攻撃を与える事はできない。
「まずは1匹目!」
花柳が豪破斬撃を使い、キメラの首を落とす。後衛の二人がピンポイントで急所と思われる場所を狙って攻撃していた為に花柳はキメラを倒すことが出来た。
「2匹目も行くぞ――」
こうして、三人はそれぞれの役割に勤め、キメラ2匹を見事撃破したのだった。
●めでたしめでたし――しかしGの恐怖が‥‥。
「ありがと〜〜〜っ!」
能力者達が合流し、マリはB班から原稿を受け取る。
「怪我は大丈夫ですか? あまり無理はしないでください」
コーが原稿を渡すときにマリを気遣うように呟く。
「ありがと、コっち!」
「はい! マリ隊長! お腹が空きました! 皆で焼肉でも食べにいかへん?」
牛型キメラと戦い、焼肉が食べたくなったのか篠原が手を挙げて提案する。
「のっち隊員! その意見は可決する! ごろっち隊員! キミは支払い係に任命する!」
びしっとマリは沢村を指差して「財布をお出し!」と待ち構えている。
「なんで俺が‥‥」
「けちごろっち。仕方ない! この大役は花っち「断る」」
任命される前に花柳は断り、足早にその場所を去ろうとするがマリが何処から取り出したのか孫の手で花柳の襟に引っ掛ける。あやうく窒息寸前だ。
「‥‥ここに取り出したるはごろっち&のっちがくれた護身用油瓶‥‥だれか私とのっちに焼肉を奢ってくれ! じゃないと‥‥燃え尽きさせたくなるゾ(はぁと)」
にっこりと笑顔で言うマリの言葉が本気なのだとすると、集まった能力者は焼肉代で自分の命を買う事にした。
しかし――‥‥焼肉屋に行く前に腐敗した食料品などに集ったゴキちゃんに、この世の者とは思えない叫び声がデパート内に響いたのだった。
「屋台を経営している立場上‥‥怖くな――やああっ! こっち来んなあああああっ!」
END