●リプレイ本文
― 道化師の元へ ―
「殺人犯がどんな相手か分かりませんが、頑張らないといけませんね」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)は資料を見ながら呟く。だが資料とは言っても今回の能力者達に与えられた情報は限りなく少ないもので、あまり役に立つとは言えないものばかりだった。
「これ‥‥借りて、来たよ‥‥」
霧島 和哉(
gb1893)がこれから向かう街の地図とその他に必要な情報を纏めたメモを他の能力者達に見せる。
「黒い印‥‥が、付いてる所が‥‥目撃された場所、赤い印が‥‥殺害現場‥‥だよ」
地図には赤と黒で囲まれた丸印があり、それぞれ目撃された場所と殺害された場所だと霧島は説明する。時間帯はいずれも夜で、昼間の目撃証言はゼロだった。
「キメラか、はたまた人間か‥‥なんにせよ、物騒ですね‥‥」
はぁ、と大きなため息と共に呟いたのはドッグ・ラブラード(
gb2486)で、相手がキメラなのか人間なのか分からない現状が歯がゆいのだろう。
「そういえば、この街はキメラ退治があって詳しい報告が出されていないんですよね。何か関係があるんでしょうか」
メビウス イグゼクス(
gb3858)が呟く。確かに今回の街には少し前にキメラ騒動があり、数名の能力者達がキメラ討伐に向かっている。
その事は資料にも書かれてあり、キメラそのものは退治されたが他の依頼のようにどのように倒したかなどの詳しい報告がされていないのだ。
「何にせよ、分からない事に対して推測を立てても仕方ありませんね。とにかく現場に行って問題の連続殺人鬼に会って見ない事にはどうしようも無いかもしれません」
赤い霧(
gb5521)がほとんど真っ白な資料を見ながらため息混じりに呟く。
「人型の敵‥‥か。一般人にばかりかまけているようだけど、どのくらい強いのかしら‥‥楽しみ、ね」
カンタレラ(
gb9927)は妖艶に笑み、楽しそうに呟く。
「相手がどんな奴だろうと構わないの、戦闘欲求を満たしてくれるなら誰でも」
ふふ、と笑みを強めながらカンタレラは言葉を付け足した。
「あーあ、やだねえ殺人鬼なんて」
湊 獅子鷹(
gc0233)は大きなため息と共に呟く。彼は正義感と両親を殺したある人物への怒りを犯人に重ねて、今回の任務に参加していた。飄々とした口調だけれど、身のうちでは怒りに腸が煮えくり返るほどなのだろう。
「相手は人型‥‥キメラなのかなぁ、それとも人間なのかな‥‥」
やだなぁ、言葉を付け足しながら呟くのは汀良河 柚子(
gc1084)だった。彼女はもし相手が人間だった場合『何とか殺さずに解決する方法はないのか』と考えていた。例えどんなに相手が凶悪犯であろうとも、相手が人間である以上、キメラやバグアのように殺しておしまいと言う方法は躊躇ってしまうのだろう。
「それでは、向かいましょうか」
メビウスが呟き、能力者達が高速艇へと向かう。その途中でリゼットが足を止めた。
「少し嫌な予感が‥‥」
「どうか‥‥した?」
足を止めたリゼットを不思議に思いながら霧島が問いかける。
「いえ、何でもありません‥‥‥‥杞憂に終われば良いのですが」
ポツリと呟いた最後の言葉は霧島の耳にも届かないほど小さな声で、リゼットと霧島は少し先を歩いている能力者達に追いつくため、歩く速度を上げたのだった。
― 敵の正体は? ―
「‥‥キメラなのかなぁ」
現地に到着した後、ドッグが独り言のように呟く。
「んぁ?」
ドッグの独り言を聞いていたのか、湊が言葉を返すと「今回の事件です」とドッグは言葉を返す。
「最近は人型とか多いみたいですし、やっぱり今回は人型のキメラなのかなーと」
決め付けるのはいけないですけどね、とドッグは言葉を付け足す。
「俺は強化人間かと予想しているが、とりあえず、殺害現場とか見て回ろうか。住人達からの協力は得られそうにないし」
赤い霧が近くの家に視線を向けながら呟く。住人達はまるで恐ろしいものでも見るかのようにカーテンの隙間などから能力者達を見ている。恐らく自分達の為に来てくれた能力者だと信じたいが、状況が状況なので信じきれないと言ったところだろうか。
能力者達は過去三件の殺害現場へと赴き、状況を見る。多少日にちが経っているけれど血痕は生々しく残されており、当時の悲惨さを思い浮かべさせる。
「あれ、此処は殺害現場じゃないですよね‥‥」
リゼットが呟き、足を止めたのは公園だった。地図上には何も印がつけられていないのに、遊具などが壊れており、明らかに戦闘を行った後のように思える。
「キメラと戦った場所じゃないかな?」
汀良河が遊具の傷を見ながら呟く。爪痕のようなものが残されている事から獣型などのキメラを能力者達は連想する。
「苦労したんでしょうね」
メビウスが公園内を見渡しながら呟く。確かに遊具は壊れ、地面はひび割れており、それなりに苦戦していたであろう事が伺える。
「日が暮れる‥‥」
湊が呟き、能力者達は『連続殺人鬼』を探す為に、予め決めた班で捜索をする事にした。今回の任務を成功に導くべく作戦を立てていた時、3班に別れて『連続殺人鬼』を探す事に決めていた。
A班・カンタレラ、霧島。
B班・汀良河、ドッグ、リゼット。
C班・メビウス、赤い霧、湊。
「何か分かったらお互いで連絡を取り合いましょ」
カンタレラが呟き、それぞれ散って捜索を行う事にしたのだった。
※A班※
「あんた達は‥‥?」
買い物帰りなのだろう、中年女性が顔を強張らせながらカンタレラと霧島の2人を見て呟く。
「別にそんな怖がらなくてもいいと思うんだけど‥‥」
カンタレラが苦笑しながら呟くけれど、この街の住人にとって住人以外の存在は恐怖でしかないのだろう。中年女性は声にならない悲鳴でそのまま走って逃げていってしまう。
「‥‥よほど、怖い‥‥思いを、してるんだろうね‥‥」
霧島が逃げていく中年女性を見ながらポツリと呟く。霧島は一般人を装い、霧島のAU−KVを手押しでカンタレラが護衛役のような立場にある。
勿論これは『連続殺人鬼』の油断を誘うため、いつでも戦闘出来るようにお互いに武器の準備だけは怠ることはなかった。
「そろそろ行動を開始する頃かしら‥‥」
カンタレラは呟きながら空を見上げる、オレンジ色だった空はもう闇色に染まり月が浮かんでいた。
「お前達、この街の住人か?」
捜索をしている時、突然後ろから話しかけられてカンタレラと霧島は視線を移す。そこには黒いコートを着た男が立っており「お前達、この街の住人か?」と先ほどと同じ質問を投げかけてきた。
「いえ、何故?」
「この街は危険だ、特に夜はな。死にたくないなら直ぐに街を出ろ」
カンタレラの言葉に男は表情を変える事なく言葉を返し、そのまま2人の前から立ち去った。
「!」
立ち去る間際、コートの中に霧島が見たものは確かに能力者が使う武器だった。
※B班※
「あの‥‥大丈夫ですか?」
リゼットがドッグに話し掛ける。彼女が心配するのも仕方が無いかもしれない。リゼット、汀良河から少し離れた所をドッグが歩いているのだから。
「あ、や。別に大丈夫だから‥‥」
ドッグは苦笑しながら言葉を返す、彼は女性恐怖症な部分があり今回の班分けはリゼット、汀良河の2人とも女性な為にドッグは少し身構えてしまう所があるのだろう。
「そうですか?」
リゼットが言葉を返した時、A班から連絡が入る。奇妙な男と出会ったこと、街を出ろと忠告してきた事、そして恐らくは能力者であろうという事。
「‥‥何者なんでしょう? 柚子たち以外にも能力者が来ているんでしょうか?」
汀良河は首をかくりと傾げながら呟く。
「いえ、それなら此方にも何らかの連絡があるでしょうし‥‥」
リゼットも首を傾げながら言葉を返し、とりあえず捜索する事を優先して、殺害現場付近などへ向かう事にする。
「あ、此処のカドを曲がった所が一番新しい殺害現場ですね」
ドッグが呟きながらカドを曲がると、そこには壁一面に広がった血の跡。あまりの悲惨さに思わず目を背けたくなる程だった。
「‥‥此処まで、するなんて‥‥何かよほどの理由でも‥‥?」
壁に叩きつけられるように残された血痕、死んだ後にも斬り刻んだのは明らかで何かよほどの恨みでもあるように感じられた。
その時だった、C班の能力者から一般人を襲う『何者か』を見つけたという連絡が入ったのは‥‥。
※C班※
それは信じがたい事実だった。A班、B班の能力者たちと離れて捜索を開始していた所――『それ』と遭遇した。
「きゃあっ!!」
町外れの第二公園、そこで襲われているのは先ほどA班の能力者達が出会った中年女性だった。そして今にも武器を構えて振り下ろそうとしているのはA班が出会った黒いコートの男、そしてその後ろには3人の人物が立っている。暗闇で分からないけれど、黒いコートの男の仲間である事は間違いないだろう。
明らかにキメラでもない雰囲気に黒いコートの男と中年女性の間に入り、攻撃を天剣ウラノスで受け止める。
「貴方達の目的は一体何ですか‥‥? 何故、無関係な人々を!」
メビウスの言葉に「無関係?」と黒いコートの男が呟き、自嘲気味に「この街の奴ら全員は死ぬべきだ」と自嘲気味に笑みを漏らしながら言葉を返してきた。
「これで連絡を!」
メビウスは携帯していたトランシーバーを赤い霧に渡し、受け取った赤い霧はA班とB班に現在の居場所と『連続殺人鬼』らしき人物と遭遇した事を伝えたのだった。
「能力者‥‥なのか‥‥」
「そう、出来れば邪魔しないで欲しいな」
黒いコートの男の後ろに立っていた人物が呟く。声を聴く限り男なのだろう。
「邪魔しないでくれればお互い怪我もなく終われると思うんだけど」
「煩いな、人殺しはどんな理由であれ人殺しだ‥‥さっさとくたばった方がいいんだよ‥‥」
湊は二刀小太刀・月下美人を構えて男達へと切っ先を向ける。
「仕方が無いな」
低い声が聞こえたかと思うと、男達が攻撃を仕掛けてきたのだった。
― 能力者 VS 能力者 ―
A班とB班がC班の元に到着したのは連絡を受けてから15分が経過した頃だった。
「どんな理由か知りませんが、一般人に手をあげたこと。同じ能力者として許すわけにはいきません!」
リゼットはベルセルクを構えながら自分達に敵意を向けてくる能力者達に言葉を言い放つ。
「そう、能力者――なの、フフ、イイわね、それ」
カンタレラは妖艶な笑みを見せながら楽しそうに呟く。
「今回は‥‥戦闘になっても、邪魔、しない‥‥約束だから、ね」
霧島がカンタレラに言葉を投げかける。
「待って! 何で能力者の貴方達がこんな事を‥‥」
汀良河が問いかけると「キメラ退治に来たあの日」とポツリと男が全ての原因となった事を話し始めた。
「俺達は5人で任務に来ていた」
5人という言葉に能力者達は違和感を覚える、目の前にいるのは4人。1人足りないのだ。
「相手は獣型で強かった、俺達の中で1人重傷者が出て‥‥そいつを何処かの家でかくまってくれればよかったんだ。俺達がキメラを退治する間、攻撃を受けないように、死なないように、家の中に入れてくれればよかった」
それなのに、と中年女性を睨みつけながら「こいつらは!」と突然声が大きくなる。
「血まみれの奴を家に上げて、キメラが血の匂いを追ってきたらどうするんだ、能力者は戦うのが当たり前、戦いで死ぬなら本望だろう。それがこの街の住人達が俺達に言い放った言葉だった」
男の言葉に何も能力者達は言えず、言葉の続きを待つ。
「結局、そいつは死んだ」
「何も変わらなかったかもしれない、アイツは死ぬ運命だったのかもしれない。だけど‥‥受け入れてくれていたら、あいつは人を憎みながら死ぬ事はなかった!」
これ以上の話は無意味だ、男は呟きながら武器を手に取る。そして後ろにいた3人もそれぞれ自分達が動きやすい位置へと移動する。最悪の状況に能力者達も武器を手に取る。
「待って! 柚子バカだから分かんないけど殺されたから殺し返すじゃ、柚子たちも一緒だよ!」
汀良河の言葉に「ようは、何もさせなきゃいいんだよ!」とドッグが言葉を返し、武器を手にする。
「私は‥‥戦えない大勢の人の為に戦う、そう誓いました――貴方達がそれを崩すというのならば‥‥私は全力でそれを止める!」
メビウスも武器を構え、男へと向かって攻撃を仕掛ける。
「俺には‥‥殺人を咎める事は出来ない‥‥俺も同じだ‥‥いや、俺の方が人を殺しただろう‥‥でも‥‥敵は斬る!」
赤い霧はガノを構え、投降してくれ、と言葉を付け足すがそれを聞き入れてくれる者は誰もいなかった。
「うるさい!」
相手の一人、恐らくはスナイパーだろう能力者が攻撃を仕掛けてくる。霧島はカンタレラの盾になり、カンタレラはその隙に雷光鞭で攻撃を仕掛ける。
「‥‥あは、気持ちイイ、わね‥‥」
カンタレラの攻撃を受け、スナイパーの能力者は武器を落とす。一般人相手には強者でも同じ能力者同士の戦いになれば、腕は格段に落ちるようだ。
「お願い! 投降して! このままじゃ‥‥誰も喜ばない!」
汀良河が必死に勧めるが、相手の能力者達は聞き入れようとはしなかった。
「‥‥邪魔、だよ‥‥」
霧島はスキルを使用しながら能力者を地面に叩きつけて呟く。そして別の能力者にドッグが射撃を行うが、それは避けられてしまう――だがそれはドッグの予想通りの行動だった。
「弾丸は避けれても‥‥こいつはどうだ!」
弾丸の影に隠れるような位置からスキルを使用し、攻撃を仕掛ける。
「大人しく投降なさい、そして罪を償うべきです」
メビウスが冷ややかに語りかけるが「罪を償うのは此処の住人だ」と短い言葉が返ってくる。
「同じ能力者、だからこそ許せない事があります」
リゼットは黒いコートの男の足を狙い、攻撃を仕掛ける。それと同時に赤い霧からの攻撃も来ており、赤い霧の攻撃を避ける事に精一杯だった男はリゼットの攻撃を受けてしまう。
「不破流小太刀術‥‥内の壱‥‥鎌鼬――因果応報、くたばりやがれ」
湊の攻撃を避けようとしたけれど、先ほど痛めた足のせいで動く事が出来ず、男に近寄った湊は太股を強く突き刺し、もう片方で首を横に斬りつけた。
「!!」
男が血を吐き、地面に倒れると3人の能力者達は慌てて駆け寄ってくる。
「お前達は俺に‥‥付き合わされた、だけだ‥‥全て手を下したのは、俺‥‥何も変わらないと分かっていても、何かせずには、いられなかっ‥‥」
男の手がぱたりと地面に落ちる、それから暫く経過した頃に雨がポツリ、ポツリと降りだす。
「ハハ‥‥これで俺もアイツと同類か‥‥」
湊の頬を濡らすのが涙だったのか、それとも雨だったのか、それは彼にしか分からない。そして一番の戦闘力を持っていた能力者が倒されたことで3人は投降し、本部へと連行されたのだった。
END