●リプレイ本文
「心配なのは‥‥分かりますが‥‥状態もはっきりしていないのに‥‥無茶しますね‥‥」
呟くのは神無月 紫翠(
ga0243)だった。
「まあ‥‥確かにな。でもいいねぇ‥‥この甘酸っぱい関係。青春の謳歌にキメラは無粋。俺が二人の体、二人の仲を守りきる!」
拳を握りながら強く叫ぶのは蓮沼千影(
ga4090)だった。
「とにかく急いで探すのは朝月の方だね‥‥どの程度の怪我か分からないけどさ‥‥」
伊佐美 希明(
ga0214)が呟き「そうだな‥‥」と御影・朔夜(
ga0240)が言葉を返した。
「しかし‥‥仲間を置いて逃げるとは大した『仲間』だ事で‥‥適当な理由で『仕方ない』と後ろめたさを肯定するなら――能力者など語る資格はない」
御影は低い声で小さく呟く。
「なるべく急いで救助に向かおう‥‥惹かれあっている二人が離れ離れになるのは悲しい事だ」
漸 王零(
ga2930)が呟き「そうだな」とリュイン・カミーユ(
ga3871)が言葉を返した。
「キメラの闊歩、朝月の傷――どちらも詳しい事が分かっていない以上、急ぐ必要があるな」
「朝月さんの回復は私に任せてください」
サイエンティストのクラリッサ・メディスン(
ga0853)が超機械を見せながら能力者達に話しかけた。
「とりあえず――怪我人を見つけるまでは踊りを楽しむ余裕はなさそうだな」
陽気な復讐者(
ga1406)は自分の武器・ヴィアを持ちながら小さく呟く。
そして、能力者達は朝月と夜陽を助けに行くべく、動き出したのだった‥‥。
●闊歩するキメラ――そして発見。
今回の能力者達は保護班と壁班の二つに編成した。
保護班となるのは伊佐美・クラリッサ・リュインの三人で、朝月と夜陽の二人を捜索、保護の役割をする。
壁班となるのは御影・神無月・陽気な復讐者・漸・蓮沼の五人で、キメラとの戦闘を担当する事になっている。
「とりあえず通信機とカラーチョークを借りてきたが‥‥」
蓮沼がカラーチョークと通信機を見せながら呟く。
「それぞれの班が離れてしまった時用に発煙筒も借りてきたぞ」
リュインが発煙筒を能力者に分けながら呟く。
「今回は全員で行動‥‥と言っても何があるかわからないものね」
伊佐美が発煙筒を受け取り、ポケットの中へと直す。
「さて‥‥帰りの目印とメッセージでも書いとくか‥‥夜陽が必ずしも先を行っているとは限らないからな」
蓮沼は言いながら『アサキ・ヤヨイ、必ず行く。待ってろ』と木に白のチョークで書いた。
「俺もキメラ討伐班だが、もしキメラが二人で倒せて、二人を発見している状態なら、俺は二人の護衛に回りたい」
蓮沼が呟くと「その時は構わんさ」と御影が答えた。
「ねぇ‥‥これ、何かな」
伊佐美が木を指差しながら呟く。その先にあるのは木につけられた不自然な傷。その傷はある方向に向かって、木につけられていた。
「‥‥この高さは‥‥ちょうど座り込んだくらいの‥‥高さですね‥‥」
神無月がしゃがみ込んで呟く。
「本当ですね‥‥それによくは見えないけれど‥‥これは血――?」
クラリッサが地面に染み込んだものを見つけ、それが『血』だと言う。
「だとしたら‥‥これは朝月の血なのかもしれないな。普段では見つけにくい低い位置に傷がつけられていたのは、傷を負っている朝月がしゃがみ込んだ時につけたものかもしれない」
陽気な復讐者は淡々と状況を冷静に分析していく。
「しかし‥‥地面に染み込んだ血の量を見ると――状況は急を要するもののようだな」
漸が呟き、能力者達は傷のついた木を目印に歩いていく。
そして、その先には小さな洞窟のようなものがあり、その中で人の気配がした。それと同時にキメラの気配も‥‥。
「彼の治療を行うから、壁班はキメラを引き離してくれる?」
伊佐美が洞窟の中へ入る間際に壁班に問いかける。
「‥‥向こうからも‥‥キメラの気配がします‥‥蓮沼さんは残って‥‥一緒に護衛をしてくださると助かるのですが‥‥」
神無月が呟く。キメラの気配から察するにそこまで強力なキメラではないと判断したのだろう。
「他の壁班が問題ないなら‥‥俺は此処に残りたいんだが‥‥」
蓮沼が他の壁班に問いかけると「我は問題ない」と陽気な復讐者が答える。他の能力者も異存は無いようで首を縦に振った。
「じゃあ‥‥キメラの事は宜しく」
伊佐美・クラリッサ・リュインが洞窟内に入り、蓮沼はキメラが襲ってくる時に備えて、洞窟入り口前で待機する。
「あんたが朝月?」
洞窟の一番奥で腹を押さえて一人の男性が倒れていた。
「あ――あんた、は?」
苦しげに言葉を紡ぐ朝月に「助けに来たよ」と伊佐美が答えた。
「あの能力者達の言うことに間違いはなかったな‥‥」
リュインが思い出したように呟く。彼女は朝月を置いて逃げた能力者達に状況を聞いてきていたのだ。
その中で「森を左に真っ直ぐ進めば洞窟があるから、もしかしたら‥‥」と能力者たちは俯きながら呟いていた。
「いっ―――」
伊佐美が朝月の体を動かした時に、彼は痛みに表情を歪めた。
「あんた男だろ、我慢する! それに痛いのは生きてる証拠‥‥感覚があるなら大丈夫そうだね。クラリッサ、治療をお願い」
伊佐美が振り向き、クラリッサに呟くと「任せてください」と超機械を用いて『練成治療』を発動して朝月の傷を癒していく。
「でもよく生き延びていましたね‥‥朝月さん。流石に死者を生き返らせるのは神の領分ですから‥‥」
クラリッサが治療しながら呟くと「やりたい事があるからな」と癒えていく傷を見ながら小さく呟いた。
「やりたい事?」
リュインが問いかけると「じゃじゃ馬にな、言いたいことがあるんだよ」と照れたような笑みを見せた。
「汝の言うじゃじゃ馬とは夜陽と言う娘か。その娘も汝を助けようとこの場所に来ているぞ」
リュインの言葉に「何だって!」と勢いよく起き上がるが、激痛が体を襲い、再び冷たい地面へと倒れこんだ。
「他の仲間がキメラ殲滅に向かっている――恐らく彼女がやられるという事はないだろう」
リュインが呟き「とりあえず我はキメラの方へ向かう」と言い残し、洞窟から出て行ってしまった。
「動きたいなら最低限の治療を受けてから、その状態で動いても足手纏いにしかならないんだよ」
伊佐美が朝月を軽くビンタして呟くと「‥‥夜陽に似てるな」と苦笑気味に呟いた。
「さて‥‥どうなっていますでしょうか‥‥」
クラリッサが治療を続けながらキメラと戦う壁班の心配をしていた。
●壁班A:御影・陽気な復讐者
「翼をもがれて地で足掻く貴様の無様な姿‥‥最高の終演且つ終焉だな。あまりに楽しみでぞくぞくしてきたよ」
剣の柄にキスをしながら残忍な笑みを浮かべ、彼女は覚醒した。
「――アクセス」
それに続いて御影も覚醒し、ハンドガンを構える。
「この『悪評高き狼』が月と太陽を助ける為に行動するとはな‥‥全く皮肉な話だよ」
御影は陽気な復讐者より少し後ろで鳥型キメラに発砲する。空を飛んでいるため、本来の攻撃法で戦えない陽気な復讐者もハンドガンに持ち替えて発砲する。
二人からの銃撃で鳥型キメラは上手く避けきれなかったのか、翼を負傷し、地べたに落ちてきた。
「‥‥さぁ、我を楽しませてくれ――」
覚醒したことで狂気染みた表情になった陽気な復讐者は武器をハンドガンからヴィアに持ち替えて斬りつけ攻撃をする。
「ははっ‥‥もっとだ! もっと我を楽しませろ!」
斬りつけ、返り血を浴びるたびに陽気な復讐者は狂喜の声をあげる。
陽気な復讐者の攻撃から逃げようとした時、彼女の脇をすり抜けた弾丸がキメラに命中する。
「生憎と≪魔弾の射手≫の名は伊達ではなくてな‥‥逃げられると思うなよ‥‥」
「そう――ここで我らと戦いを交えた事が貴様の最大の不運だ――もう去ね」
陽気な復讐者は呟き、ヴィアで勢いよくキメラを斬りつけたのだった。
「‥‥ふん、この程度では足りないな。私の既知感を拭う展開を見せてみろ‥‥」
呟きながら御影もハンドガンでキメラに発砲したのだった。
●壁班B:神無月・漸
「‥‥少し‥‥離れてしまったようですね‥‥ですが朝月さんは無事との事でしたし‥‥問題はキメラと‥‥夜陽さんですね‥‥」
キメラの気配がする方向へと歩きながら神無月が呟く。
「どうやら‥‥キメラと戦闘している能力者がいるようだな」
漸が指差した方を見ると女性が一人キメラと戦っていた。
恐らく彼女が夜陽なのだろう。
「きゃああっ!」
キメラの攻撃を受け、夜陽は木に激突する。その隙を突いてキメラがトドメを刺そうとした時、神無月が長弓でキメラを攻撃した。
「大丈夫か?」
キメラは能力者達と距離を取る為に空へと再び羽ばたきだした。
「‥‥無理しすぎです‥‥冷静でなくては‥‥大怪我しますよ?」
神無月が夜陽に問いかけると「だって‥‥朝月を‥‥」と涙を流しながら呟いた。
「朝月なら無事だ。今は仲間が治療をしている、場所は此処を真っ直ぐ行って七本目の木を左だ。木に目印があるからそれを見ていけば、無事に着くだろう」
だから行け、漸は呟き、夜陽を朝月の元へ行かそうとする。
「で、でも――キメラが」
「‥‥キメラは此方で対処可能です‥‥あなたはあなたの為すべきことを‥‥」
神無月の言葉に夜陽はよろめく体で立って「ありがとう」と笑みを浮かべ、大事な朝月のところへと向かう為に走り出した。
それを邪魔しようとしたキメラに漸が蛍火で斬りつける。
「二人の邪魔をするとは何と無粋な‥‥そんなことは我がさせん。我は聖闇倒神流継承者、零―――参る!」
漸は低く呟き、そしてキメラに斬りかかる。
だが、空中へと逃げられ漸の攻撃は宙を斬るだけだった。
「‥‥さて、援護するがあてにするな。威力は弱いんだからな? 後は任せる」
覚醒したことで口調が変わった神無月に「分かった」と漸は短い言葉を返し、再び蛍火を構える。
「‥‥空から見上げていないで――いい加減‥‥地べたを味わえ」
神無月が低く呟き、矢を放つが、キメラは少し低空になり、矢を避ける。
そして再び空へ飛び上がろうとしたとき、リュインが木の上からキメラを攻撃してきた。
「言われただろう? 地べたを味わえ――と」
リュインがファングでキメラを殴り、地面へと落とす。
そして起き上がろうとしているキメラに隙が出来て、三人の能力者は一気に攻撃を仕掛ける。
「我に歯向かうなど百年早い! 鳥は焼き鳥で十分だ!」
「汝には我の過去の贄となる以外の道はない。不破の楔鎖たる我の闇影の双刃にて清浄の闇の中で未来永劫に眠るがいい」
リュインと漸が呟き終わると、残ったのはキメラの死骸だけだった―‥‥。
●漸く自分の気持ちに気づいた二人――。
「それにしても対のような名だ。縁とでも言うのか‥‥我は信じないが」
にや、と笑みを浮かべながら朝月と夜陽をリュインは見る。
「やれやれ‥‥お疲れ様でした‥‥夜陽さん‥‥気になって好きだと自覚したのなら‥‥行動起こすことですよ? どんな結果になろうとも‥‥です」
神無月の言葉に夜陽は顔を赤くして、朝月を見る。そして朝月の顔に赤かった。
「ケンカするほど仲がいい‥‥のかもしれないが、二人とも素直になりな」
蓮沼の言葉に二人は首を縦に振った。
「はあ、せっかく戦いの援護しようと思ったのに、両方とも戦いが終わってるんだもんな‥‥」
「私の超機械もです‥‥」
二人は残念そうに呟き、今回は出番のなかった長弓と超機械を見て、ため息を吐いたのだった。
そして後日――漸が二人の見舞いに向かったのだが、完全に二人の世界に入っているため、扉の外に花を置いて立ち去ったのだとか‥‥。
END