タイトル:舞と花見温泉旅行マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/15 03:39

●オープニング本文


はらはらと舞う桜の花びら。

そして日ごろの疲れを取る温泉――‥‥。

※※※

その日、オペレーター訓練生の室生 舞(gz0140)は2日の休暇を貰っていた。

それは以前から計画していた温泉旅行に行くため。

クイーンズ記者の土浦 真里(gz0004)に教えてもらった場所に予約しているのだ。

そして、折角だから――という事で能力者を数名集めて一緒に旅行をしようと考えて能力者達にハガキを送っていた。

――

こんにちは、オペレーター訓練生の室生 舞です。

今回は温泉旅行にお誘いすべくハガキを出させていただきました。

桜の早咲きもあり、露天風呂から見る桜は凄く綺麗な場所みたいです。

他にも色々と種類の違う温泉があるみたいで、もしご都合がつくなら一緒に行きませんか?

一緒に行けるという人は1泊分の着替えと旅費の1万Cを用意のうえ、ハガキにある待ち合わせ場所まで来てくださいませ。


室生 舞

――

舞たちのほかにも数名の宿泊客がいるらしいが、大勢ではなくゆっくりと身体を休めることが出来るだろう。

この旅館は毎年、温泉から見る桜がうりであり、花見シーズンには予約でいっぱいなのだが、今年は桜が早咲きしたらしく、今の状況ではまだ予約もほとんどないらしい。

日ごろ、キメラやバグアとの戦いで身体を休める暇のない能力者達、これを機に休養を取ってみてはいかが?


●参加者一覧

マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER
芝樋ノ爪 水夏(gb2060
21歳・♀・HD
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
九龍 リョウマ(gb7106
20歳・♂・ST

●リプレイ本文

―― 日ごろの疲れを癒すために‥‥ ――

 今回はオペレーター訓練生の室生 舞(gz0140)が企画した温泉旅行で8人の能力者達が参加していた。
「舞さん、今回はお誘いありがとうございます」
 温泉なんて久しぶりです、そう言葉を付け足したのは舞の彼氏でもあるレイン・シュトラウド(ga9279)だった。彼自身、温泉が好きとの事で今回の温泉旅行をとても楽しみにしていたらしい。
「私も今回は楽しみにしてたのよ? オペレーター訓練生になってから舞ちゃんとあまり会えなくなったしね‥‥」
 シュブニグラス(ga9903)が舞の所へと近寄りながら話し掛ける。確かにオペレーター訓練生となってからシュブニグラスと会う機会は減っている為「ボクもお会い出来て嬉しいです」とにっこりと言葉を返した。
「でも‥‥いいのかしら?」
 シュブニグラスの言葉に「何がだ?」とマクシミリアン(ga2943)が言葉を返す。
「いえ、キメラ退治もない旅行なんて‥‥いいのかしら、と思って‥‥」
 確かにクイーンズ記者の土浦 真里(gz0004)が企画する旅行は毎回キメラ退治というオプションが付いており、その旅行に参加経験のある彼女ならばそう思うのも無理はないかもしれない。
「大丈夫ですよ、今回は『能力者』としてではなくお金を払って普通に『お客さん』で行くんですから。それに‥‥ボクだって、折角の休みくらいキメラなんて見たくないです」
 ふ、と最後の言葉は「何処ぞの暴走記者じゃあるまいし」と腹黒な笑顔で呟き、シュブニグラスとマクシミリアンは思わず見なかった事にしたのだった。
「舞さんよろしく‥‥あの時はあんなだったから驚くよね」
 柿原ミズキ(ga9347)が舞に話し掛けると「あ、ボクもあの時はごめんなさい‥‥一瞬でも驚いちゃって凄く悪い事をしたかと思ってたんです」と言葉を返した。
「大丈夫、ボクは怒ってないよ――その代わりってわけじゃないけど、これから舞って呼んでいい?」
 柿原の言葉に「はい、勿論です」と舞は笑って言葉を返す。
「舞さん、今日は誘って頂いてありがとうございます」
 芝樋ノ爪 水夏(gb2060)が舞に話し掛ける、彼女は先日の大規模作戦で想像以上の成果を出せたらしく、そのご褒美を兼ねて今回の温泉旅行に参加したのだと言う。
「あ、パンフレットとかありますか? 到着するまでにどんな温泉があるか見てみたいですし‥‥」
 芝樋ノ爪の言葉に「あ、そうでした‥‥」と舞はバッグから人数分のパンフレットを取り出して、能力者達に渡していく。
「ほぅ、色々な温泉があるんだな‥‥やはり日本人は温泉だ」
 堺・清四郎(gb3564)がパンフレットを見ながら呟く。様々な効能がある温泉があり、堺を含め温泉好きな能力者達は今から楽しみで仕方がなかった。
「へぇ、居酒屋もあるのか‥‥温泉に酒、そして花見も出来るとなれば最高だな」
 マクシミリアンはパンフレットに書いてある居酒屋の案内を見て小さく呟く。パンフレットを見る限り、それなりにお酒の種類を扱っているらしく、温泉もだけれどマクシミリアンはこっちの居酒屋も楽しみで仕方がなかった。
「空は大規模作戦で疲労した繊細でピュアな体を温泉で癒す為に来ましたよ! ええ、温泉巡りでリフレッシュ&アンチエイジングです!」
 10歳くらい若返りますよっ、拳を強く握り締めながら温泉への意気込みを語るのは最上 空(gb3976)だった。
「あ、あんちえいじんぐ‥‥? 10歳若返るって‥‥赤ちゃんにもどっちゃいますよ」
 舞が苦笑しながら呟くと「甘いです、甘いのですよ! 10歳の肌と赤ちゃんの肌、月とすっぽん、砂糖の代わりに塩を入れてしまったケーキと有名店ケーキくらいの差があります!」と力説してきて、舞は思わずたじろいでしまう。
「ふむふむ、色々な温泉があるのですね。これら全てを制覇すれば、この繊細かつピュアな空の体もリフレッシュするはず!」
 とりあえず彼女が他の誰よりも温泉を楽しみにしている事だけは分かり、舞は苦笑するしかなかった。
「みなさん、今回は宜しくお願いしますね」
 にっこりと笑顔で挨拶をしてきたのは九龍 リョウマ(gb7106)だった。微笑むその姿は何処からどう見ても立派な女性にしか見えず、どれだけの人間が彼の事を『女性』だと思う事だろう。
「それじゃ、全員集まりましたし‥‥出発しちゃっていいですか?」
 舞が能力者達に問いかけ、能力者達も首を縦に振り、1泊2日の温泉花見旅行が始まったのだった。


―― 咲き乱れる桜と癒しの湯 ――

「うわぁ‥‥」
 旅館に到着した時、誰が言ったのか分からないが旅館を囲むように植えられている桜を見て能力者達は感嘆のため息を漏らした。時期的にはまだ早いのだが、桜は見事に咲いており、はらはらとピンクの花びらが舞っているその姿はまさに幻想的としか言えない。
 それから能力者達は旅館の女将に案内され、それぞれ部屋へと荷物を置く。
「お部屋は女性と男性とに分かれておりますが、まだ部屋も空いてますので個室もご用意できます。その際は言って下さいね」
 女将は品の良い笑顔で言い「それでは、ごゆっくり」と言葉を残して能力者達の前から姿を消したのだった。
「とりあえず、自由行動って事でいいのかしら。色々と遊んじゃいましょ」
 シュブニグラスが呟き、能力者達は荷物を置いた後、行動を始めるのだった。

※レトロゲーム会場※
 旅館経営者が大のお祭好きと言う事で、この旅館では季節に関係なく射的やヨーヨー釣り、金魚すくいなども出来るようになっている。
 勿論、屋台の食べ物も売っており、ちょっとしたお祭気分を味わう事が出来るのだ。
「へぇ、射的ね」
「面白そうじゃない、マシーさん、やってみたら?」
 シュブニグラスが射的用のライフルをマクシミリアンに渡しながら呟く。
「俺は博愛主義者なんで銃器は得意じゃないんだ。スナイパーとかの仕事じゃねぇのか?」
 マクシミリアンの言葉に「あら、勿論レイン君にもしてもらうわよ? まずはマシーさんから」とシュブニグラスは否定の言葉を許さないとでも言うようににっこりと笑顔で言葉を返した。
「しょうがねぇなぁ‥‥やればいいんだろ」
「そうそう、ほら、あの大きい変な人形なんか狙いどころじゃない?」
 シュブニグラスが指した先には何処かで見たようなキメラに似たぬいぐるみ。
 マクシミリアンはライフルを構え、一番大きなクマのぬいぐるみを狙って撃つ。あまり上手ではないのだが、標的が大きいという事もあり、見事命中してぬいぐるみが倒れかけた――その時に事件は起きた。
 ――――びよん。
「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」
 目の前の出来事にマクシミリアン、レイン、シュブニグラス、そして舞も目を丸くして互いの顔を見る。
 ちなみに説明すると、命中して落ちそうになったぬいぐるみが勢いよくありえない動きで元の位置に戻ってきたのだ。殴っては元に戻ってくるアレのような動きで。
「くそっ、どうなってやがる! 今のおかしいだろ!?」
 真っ先に我を取り戻したマクシミリアンが3人に同意を求めるのだが「あ、あの‥‥あれ」と舞が指を指す。
 そこには『変なぬいぐるみなんて狙いやすいものを狙う人には落とさせてあげません、っていうかあのぬいぐるみ欲しいんですか?』と旅館経営者の憎たらしい言葉が書かれた看板が立てかけられていた。
「ほ、ほら次はレイン君よ。あの人形狙っちゃダメみたいだから注意してね」
「ちょっと待て! 俺の時にその看板に気づいてくれよ! 恥ずかしいじゃないか!」
 マクシミリアンの言葉を見事スルーしてレインがそれなりに小さい的を狙うと『ジュースタダ券』と書かれたものが転がってきた。
「あれ、あそこにいるの九龍さんですね」
 舞がヨーヨー釣りをしている九龍の姿を見つけ、射的を終わらせて九龍の所へと向かう。
「へぇ、上手いんだな」
 九龍の手には既に3つのヨーヨーが持たれており、マクシミリアンが話し掛けると「小さい頃によくやりました」と言葉を返し、色っぽい手つきでヨーヨーを釣っていく。
 それを見てシュブニグラスとレインも挑戦してみるのだが‥‥。
「‥‥‥‥ちょっとこれ反則じゃない?」
「射的は得意なんですけど‥‥ヨーヨー釣りって、結構難しいんですね‥‥」
 上の言葉はシュブニグラス、下の言葉はレイン。2人とも4回ほど挑戦したのだが、結局ヨーヨーを取る事は出来ず、苦笑した係のおじさんが「おまけだよ」と1つずつヨーヨーを渡してきたのだった。
「あら、ありがと♪ ふふ、これで真里ちゃんのお土産ゲットね」
 喜ぶかは分からないけど、と言葉を付け足しながらシュブニグラスは満足そうに呟き、次のゲームへと向かっていったのだった。

※温泉※
 こっちには一足先に温泉に入りに来ている能力者の姿があった。
「ふぅーうぇい、極楽極楽ですね」
 生き返ります、と言葉を付け足しながら最上が満足そうに温泉を楽しんでいる。ちなみにこのお湯の効能は『成長促進』と言うものがあり、本当かどうかは定かではない。
「はぁ‥‥せめてCくらいは欲しかったな‥‥」
 自分の平らな胸を見ながら柿原がため息を吐く。そしてその時、水面に映った自分の顔を見てギクリとした表情を見せた。
(「ここに映っているのは‥‥誰なの。ボクと同じ顔をしている偽者は‥‥‥‥ダメだ、今はそんな事考えちゃ、何しにきたかわからないよ」)
 柿原は首を左右に振りながら、視線を水面から桜へと移す。
「どうか、しましたか?」
 芝樋ノ爪が柿原に話し掛けると「ううん、何でもないんだ」と言葉を返すと「そうですか? それならいいんですけど‥‥」と言葉を返し、芝樋ノ爪はちゃぷんと肩まで温泉に浸かる。
(「やっぱり、長く浸かっていた方が、良いんですよね‥‥?」)
 結構、胸に関して彼女は切実らしく恐らく誰も止めなかった場合、のぼせるまで温泉に浸かり続けるかもしれない。
「それにしても見事な桜ですね、空の美幼女さには負けますが」
 何故か桜に対してライバル心を燃やす最上だったけれど、突っ込みを入れる者はいない。

 そして男湯の方では、堺が温泉に入ろうとしていたのだが着替えを入れる籠がない事に気づき、旅館員に「籠がないんだが‥‥」と話しかけた。
「あ、あの‥‥その、その筋の人には温泉をご遠慮していただきたいのですが‥‥」
 その筋の人、堺は軽くショックを受けながら「違う、これはキメラやバグアとの戦いでついた傷だし、俺もその筋の人ではない」と言葉を返す。
「え! そ、それは申し訳ありません! か、籠を持ってきますね!」
 まるで逃げるように旅館員は一目散に駆けていき「また、間違えられた‥‥」と凹む堺だけが残された。
 はぁ、とため息を吐きながら堺は温泉へと入り、桜を見上げる。
「この風景だけでも来た甲斐があったというものだ‥‥夜には酒を持ってきて花見酒というのもいいかもな」
 桜を見上げたまま堺は呟き「この風景が当たり前に見られる‥‥そのような時代が来る事を切に願わん」と言葉を付け足した。
 その後、堺はパンフレットにあったうたせ湯や足湯などを堪能する為に浸かっている温泉から出て、別の温泉へと歩き出したのだった。


―― 夕御飯、そして卓球勝負へ‥‥ ――

 それぞれ昼の時間を自由に過ごし、6時になったので夕御飯が用意されている部屋へと能力者達は集まってきた。旅館と言う事もあってか、料理は和食で統一されており、今が旬の物ばかりを使った料理だった。
「御飯とお味噌汁のおかわりは自由ですので、その際には呼んで下さいね」
 女将は丁寧に頭を下げて部屋から出て行き、能力者達は箸を持って食べ始める。
「うん、美味いな」
 蕗の薹や小松菜が用いられた料理を食べながら堺が呟く。
「そういえば後で居酒屋に行って皆で宴会、でしたよね」
 九龍が料理を食べながら問いかけると「そうね、でもそれはもうちょっと遅い時間でもいいんじゃない?」とシュブニグラスが言葉を返す。
「卓球部屋を見つけたから皆でしましょうよ」
 この部屋に来る途中、宿泊客が卓球で遊べるようにと専用に部屋が作られているのをシュブニグラスは見つけたのだろう。
「卓球か‥‥」
 あまり得意ではない、むしろ苦手の部類に入るのでマクシミリアンは少し唸りながら呟く。
「僕は参加したいですね、舞さんはどうしますか?」
 食べながらレインが呟くと「あ、ボクも参加したいです」と言葉を返した。
「勿論、私も参加するわ♪」
「あ、それじゃ私もご一緒させていただいていいですか?」
 芝樋ノ爪が呟くと「勿論よ、レイン君たちを倒しちゃいましょ」とシュブニグラスは言葉を返す。
「お言葉ですが、やるからには勝ちたいと思ってますので‥‥負けませんよ」
 レインも少しだけ闘志を露にしながら言葉を返す。
「僕は観戦させてもらおうかなぁ」
 九龍が呟く。
「ボクは皆が卓球している間はゲームでもしに行こうかな」
 柿原が呟くと「パンチングマシーンとかはあったか?」と堺が既にゲーム会場に行った能力者達に問いかける。
「あ、確かありましたよ。他にも結構色々種類ありましたし、結構楽しめると思いますよ」
 レインが言葉を返すと「そうか、あるなら俺はゲームの方に行かせて貰おうかな」と堺は呟いたのだった。
「空はまだ制覇してない温泉があるので、温泉に入ります!」
 空はもくもくと御飯を食べながら言葉を返し「それじゃお先にですよ!」と言って温泉へと向かっていってしまう。
 周りを見れば既に食べ終わっている能力者ばかりで、最上を見送った後にそれぞれ自分が向かうと決めた先へと歩き始めたのだった。

※卓球会場※
「へぇ、さっきは中まで見なかったけど、結構な広さなのねぇ」
 卓球会場に到着するとシュブニグラスが感心したように呟いた。
「よっぽど此処の経営者は遊ぶ事が好きなんだろうね」
 九龍も会場を見渡しながら呟く、確かに彼の言う通りだろう。遊び好きでなければ旅館内にゲーム会場など作らないはずだから。
「それじゃ始めましょうか‥‥手加減はしませんよ?」
 芝樋ノ爪が呟くと「望むところです」と舞がニッコリと笑って言葉を返す。その笑顔の後ろに腹黒い何かを感じたのだが、きっと覚えているべき事ではないと思い、芝樋ノ爪は忘れる事にした。
「あはは、始める前から何か既に白熱しているような気がするんだけど‥‥」

 九龍はパイプ椅子に腰掛けながら4人の様子を見ながら呟く。
「女ってのは怖いねぇ‥‥」
 同じく九龍の隣でパイプ椅子に座っているのはマクシミリアンだった。
「それじゃ、行きます――よっ!」
 こん、と小気味良い音が響きレインがラケットで玉を打つ。暫くはラリーが続いたのだが、舞のミスで先に点を取ったのはシュブニグラス&芝樋ノ爪の2人だった。
「あぅ、ごめんなさい‥‥」
 舞がしょんぼりとしながら呟くと「大丈夫ですよ、取り返せばいいんですから」と呟き、今度はレインが点を取る。
「少し暑くなってきましたね」
 4人の戦いを見ている時、暑くなってきたのか九龍が服をぱたぱたとする。現在は覚醒はしていないので出ている所は出ていないはずなのに、何故か色気のある行動で卓球会場を使用していた一般客の視線を釘付けにしていた。
「お、決着がついたみたいだな」
 最終的には1点差でシュブニグラスと芝樋ノ爪の勝利となって終わった。途中から芝樋ノ爪も白熱してきたらしく浴衣の袖をまくって動きやすくしていた。その際、色々と見えてしまいそうな部分があったけれど、そのたびにシュブニグラスがフォローを入れていたので心配する事はない‥‥筈だ。
「ふぅ、汗かいちゃったわね。水夏さん、舞ちゃん、一緒に温泉にいかない? マシーさん達も温泉に行ってきたら?」
 シュブニグラスの言葉に「そうですね、それじゃその後で居酒屋集合ですね」と九龍が言葉を返し、それぞれ温泉へと向かい始めたのだった。

※レトロゲーム会場※
「あ‥‥」
 柿原の呟きの後「はぁ」とため息が漏れる。彼女がため息を吐いた原因は掠りもしなかった射的の的だった。
「射的で景品とか、取れたためしがないんだよね‥‥何でかな」
 はぁ、と再びため息を吐きながらもう一度狙う。
「今度こそ‥‥あっ!」
 またダメだった、言葉を付け足しながら柿原は呟く。それから更に2回挑戦してみたけれど、柿原の手に景品がやってくる事はなかった。
「あれ?」
 温泉にでもまた行こうかな、そう考えていた時、パンチングマシーンの前に立つ堺の姿を見つけ「パンチングマシーンかぁ」と呟いた後に温泉へと向かったのだった。
「覚醒していないならどのくらいだ‥‥?」
 拳をボキボキと鳴らし、グローブをつけて堺はパンチングマシーンの前に立つ。
 どうやら堺は非覚醒状態でどのくらいの力があるのかを試そうとしているらしい。
「‥‥セイハァ!」
 どごん、という音と共に画面に表示された数字で堺はダントツ1位を取得している。ちなみに1位と2位の間にはかなりの差が出ており、非覚醒状態でもかなりの実力をつけているという事に間違いはないだろう。
「さて、時間的にも夜桜が綺麗だろうな――宴会の前に温泉に入ってから行くかな」
 堺は呟き、温泉へと向かう。

※温泉※
「こんなに温泉が沢山あるなら、頻繁に来てもきっと飽きないわね」
 シュブニグラスは温泉に浸かりながら桜を見上げて呟く。
「他にどんな温泉があるかあっちに書いてたからちょっと見てくるわね」
 シュブニグラスはそう言葉を残して看板の方へと歩いていく。
「そういえばレインくんと舞、良い感じで妬けちゃうな‥‥ボクも誘えばよかった」
 温泉に入るとき、ちょうど一緒になった柿原が舞へと言葉を投げかける。彼女にも彼氏がおり、レインと舞の姿を見て『誘えばよかった』と思ったのだろう。
「また今後も旅行は企画する予定ですし、その時一緒に行けたらいいですね」
 舞が言葉を返すと「うん‥‥あのさ」と柿原が言葉を続ける。
「これから、話すのただの世迷言だけど‥‥いい?」
「え? 勿論いいですよ?」
 舞が言葉を返すと「ありがと」と言葉を返し、柿原はポツリと話し始める。
「分からないんだ‥‥きっとボクに本当に辛い状況の人の気持ちなんて‥‥結局自己満足でしかないんだ‥‥偽善なだけで」
 柿原はぼろぼろと涙を零しながら呟く。
(「ボク自身が壊れそうで怖いよ‥‥今のボクはすごく不安定でいつどうなるか分からない、いつか戦う事が生き甲斐の狂人に‥‥ボクには何もない、信念も折れない強さなんてない‥‥ただあるのは迷いと変わらない弱さだけ‥‥」)
 柿原は心の中で呟き、更に涙が溢れてくるのを感じた。
「ボクは‥‥人の気持ちなんて分からなくていいと思います」
「え?」
 舞から出たのは意外な言葉で柿原はきょとんとする。
「その人の辛さなんてその人にしか分からないと思うんです、似たような経験をしていても『同じ事』じゃない。だから完全に人の気持ちを理解するなんて、ありえないです」
 だから、と舞は言葉を付け足して柿原の方を向く。
「そのままでいいと思います、自己満足でも偽善でもミズキさんが戦う事で助かる人が必ずいるんですから‥‥戦う事に不安を持ったら誰かに相談すればいいんです」
 だからそんなに考え込まないで下さい、舞はにっこりと笑顔で柿原に言葉を投げかけたのだった。
「舞さん、柿原さん、あっちの温泉の方が桜が綺麗に見えましたよ」
 別な温泉から此方へとやってきたのだろう、芝樋ノ爪が舞と柿原に話し掛ける。
「あら、ちょうどその近くに滝湯があるの。舞ちゃん、滝湯に打たれて見ましょうよっ」
 シュブニグラスも温泉の看板を見終わって帰ってくる。
「あ、柿原さんはどうしますか?」
 引っ張られながら舞が柿原に話し掛けると「ボクはもう少し此処で温まる事にする」と言葉を返し、シュブニグラスと舞を見送ったのだった。
「風も温かくなってきて‥‥もうすぐ春ですね」
 芝樋ノ爪がポツリと呟くと「うん、春――だね」と柿原も言葉を返した。
「あら、最上さんも滝湯にいたのね」
「勿論です、全て制覇するのです!」
 しかし最上はほとんど制覇しており、シュブニグラスと入れ替わりで出る所だった。
「さて、風呂上りの珈琲牛乳を堪能しにいくのですよ! あと疲れた体をマッサージチェアで癒すのです!」
 だだだ、と元気よく走っていく最上を見てシュブニグラスは「若いわねぇ」と呟いたのだった。

「あの、ここは男湯――ですよ?」
 九龍が温泉の『男湯』ののれんをくぐって入ろうとした時に呼び止められる。
「僕は男だから大丈夫ですよ」
 苦笑しながら九龍は言葉を返し、男湯へと入っていく。
「通常で出す半分の量なら許可してるので大丈夫ですよ」
 女将はマクシミリアンと堺に桶に入った御酒の徳利を差し出しながら言葉を返していた。
 折角桜が綺麗なのだから夜桜を見ながら花見酒をしたい、マクシミリアンと堺が女将に話した事がキッカケだった。普通ならば事故防止の為にあんまりやらせてもらえないらしいが、この旅館は桜をメインにしているので多少の融通は利くらしい。
 だから聞いてきた人だけに許可するという方法を取っているのだと女将は言葉を付け足していた。
「許可もらえてよかったな――ん?」
 男湯へと向かう時、男湯と女湯の入り口真正面にある休憩室で最上が珈琲牛乳が入った瓶をぐいぐいと飲んでいる姿を2人は見かけた。
「ぷはぁ! 風呂上りのこの一杯、五臓六腑に染み渡る感じですね!」
 まるで酒でも飲んでいるかのような口調で呟く最上の姿にマクシミリアンと堺は互いに顔を見合わせて苦笑する。
 その後、最上は温泉饅頭を買い、マッサージチェアでマッサージを始めている。
「ふぅぇいーふっふっふ、やはりマッサージチェアは良いですね、一家に一台欲しい感じです」
 親父かよ、と突っ込みを入れたくなるその口調に笑いながら2人は男湯へと向かっていったのだった。
「はあぁぁぁ〜‥‥ゴクラクジョードってやつだなぁ‥‥」
 温泉に浸かり、桜を見て御酒を飲みながらマクシミリアンが呟く。
「前にこれ、テレビで見かけてしてみたかったんだよな」
 マクシミリアンは桶をお湯に浮かべながら笑って呟く。
「今回はその筋の人に間違えられたりと落ち込むことはあったが、この景色を見れば落ち込みも吹き飛ぶな」
 風によってはらはらと舞う桜の花びらを見ながら堺が呟く。
「さて、そろそろ宴会の時間だろう? あがらなくていいのか?」
「あっちに変わった温泉があってさ、俺はそっちを入ってから来るよ」
 マクシミリアンはそう言葉を返すと「それじゃ先に行っているからな」と言葉を残して温泉から出て行ったのだった。
 堺が居酒屋に向かう途中、最上が部屋に帰ろうとしているのを見て「宴会は参加しないのか?」と話し掛ける。
「空は美容の為に夜九時前には完全睡眠に入るのです」
 最上はそう言葉を返して部屋へと入っていったのだった。
「あの年から美容に気をつかうのか‥‥」
 堺のその言葉は誰の耳にも届くことはなかったのだった。


―― 宴会 ――

「あの、舞さん――これをお渡ししたいんですけど‥‥」
 レインと舞は一緒に居酒屋へと向かっており、その途中でレインが舞に差し出してきたものがあった。それは『【OR】【Silmeria】Shamrock Ring』であり、可愛い形の指輪だった。
「だいぶ遅くなってしまいましたけど、誕生日プレゼントです。あとホワイトデーも近いのでこれも‥‥」
 レインはクッキーも渡しながら少し顔を赤くして呟いた。
「ありがとうございます‥‥凄く嬉しいです」
 舞は今日一番の笑顔で言葉を返し、さっそく指輪を嵌めたのだった。

 そして、予定時間を少し越えた所で最上を除く能力者達と舞とで宴会が始まった。
「俺はビール派だけど温泉旅館だとやっぱり日本酒だな」
 マクシミリアンが日本酒の入ったグラスをぐいっと一気に飲み干すと「ふふ、マシーさんてば御酒だったら何でもいいのかと思ってたわ♪」とシュブニグラスが何気に少し酷い言葉を投げかけていた。
「否定はしないけど、その言い方は結構傷つくぜー? しっかし骨休めばっかりなんでそろそろマジで仕事しないとな」
 そう呟きながら「お、何飲む?」とレインに御酒のメニューを渡しながらマクシミリアンは絡む。
「まだボクは未成年ですから、ジュースをいただけますか?」
 やんわりと御酒を断りながらレインは舞の分とオレンジジュースを注文した。
「あ、私はちょっと疲れたので部屋でゆっくりとさせていただきますね。酔いつぶれた方人を運ぶ時、手伝いが要りそうなら遠慮なく言ってくださいね」
 芝樋ノ爪が席を立ちながら能力者たちへと言葉を投げかけた。
「あと、楽しむのはいいですが、くれぐれも他の方の迷惑にならないように、気をつけて下さいね」
 風紀委員らしい彼女の言葉に他の能力者達は苦笑して「了解」と言葉を返したのだった。
「この土瓶蒸し、美味い‥‥」
 もくもくと料理を食べながら堺が小さく呟く。
「え? 本当に? 私も頼もうかしら‥‥堺さん、結構美味しそうな料理頼んでるし‥‥ほら、マシーさんはどうする?」
 シュブニグラスがメニューを取り出し注文する料理を選び始める。
「ふふ、やっぱり御酒は皆で飲むのが楽しいですよね」
「あぁ、そうだ――は?」
 堺が言葉を返すと、酔っ払って覚醒している九龍の姿があった。ちなみに浴衣姿なので胸元がはだけているのだが、元々男性の九龍は一切気にしていない。
「飲むと人肌が恋しくなるんですよね」
 ふふ、と妖艶な笑みを浮かべながら九龍は柿原へと抱きつく。既に酔っ払いは止められない状況のようだ。
「あ、そーだ。2人が付き合っているのは見ていて分かりましたが、どの辺まで進んでいるのですか?」
 にっこりと笑顔で九龍が問いかけ、レインは真っ赤になる。
「な、ななな‥‥そういうことは「ちゅうです」‥‥そう、ちゅうって‥‥舞さん!?」
 レインが必死に言わないようにしていた事を舞はさらりと答え、レインを含めて他の能力者達も驚いて舞を見たのだった。
 勿論、その後にからかわれたのは言うまでもない。


―― 旅行終了 ――

 そして朝、何故か最上は「美容の為です!」と4時に起きて帰る準備をしていた。夜九時前に寝た彼女はたっぷりと睡眠をとって朝から元気なのだろう。
 それに比べ、早めに部屋に帰った能力者もいるが数名は朝方まで飲んでいたらしく「も、もうちょっと寝かせて‥‥」と今にも倒れそうな声で言葉を返してくる。

 それから数時間後、漸く他の能力者達も起き始め、土産を買う為に売店へとやってきていた。
「‥‥何か、ガスマスクに合いそうなものはないでしょうか」
 芝樋ノ爪は売店の中を見て周り、悩んでいると「これなんていかがですか?」といかにも怪しそうなペイントシールを差し出してきた。
「い、いえ‥‥自分で選ぶので、気をつかわなくても大丈夫です」
 舞の勧めるままに買ってしまったらきっととんでもないものを買う羽目になる、そう思った芝樋ノ爪は悩みながらも自分で選んで買うことを決意する。
「くっ! 温泉卵チョコ味ですと! ‥‥激しく地雷臭がしますが、試さずにはいられません!」
 最上は明らかにマズ‥‥あまり口に合わなさそうな温泉卵を持って売店のレジへとかけていく。
 勿論「買わなければよかった」と最上が後悔するのは自宅に帰って、それを食べた1秒後の事である。
「みなさん、今回はお疲れ様でした!」


END