●リプレイ本文
―― 今回の旅行は遊園地! ――
「遊園地〜♪ 遊園地〜♪」
一泊分の荷物を抱えて楽しそうに歌っているのはクイーンズ記者の土浦 真里(gz0004)だった。
「毎回思うんだけど、良い場所を見つけてくるマリさんには感心するわ。まぁ、それを良い所だけ生かしてくれれば、あたしも安心出来るんだけどね」
苦笑しながら呟くのは小鳥遊神楽(
ga3319)だった。当然彼女の頭に浮かんでいるのはマリが過去に無茶をした数々の出来事。思い出すだけでも少し胃が痛くなってくるのは気のせいだろうか。
(「遊園地で戦って、遊んで、泊まって帰る‥‥初めての任務にしちゃ面白いじゃないか‥‥失敗するわけにはいかないな」)
セイン(
ga5186)が心の中で呟く。初めての任務で彼女にも緊張がないわけではなかったけれど、任務内容や他の能力者達を見る限り、とても危険な任務には思えなかったのでどこかホッとしていた。
「遊園地ですか、小学生の頃はよく母と行きましたが、本当に久しぶりですね。少し童心に返り楽しませても貰うとしましょう」
その前にキメラ退治ですけどね、と言葉を付け足しながら玖堂 鷹秀(
ga5346)が呟く。そんな旦那の言葉にマリは「私はお兄ちゃんに連れてってもらってたなぁ」と昔を思い出すように小さく呟いた。
「とと、レアちーったら何でそんなに大荷物!? どうした! 家出なのかっ!」
バスケット4箱という大荷物に魔法瓶を持ってやってきたのはレア・デュラン(
ga6212)だった。
「い、いえ‥‥遊園地と言うことでお弁当を作ってきたんです。こっちは飲み物ですね」
レアは朝早くから人数分のサンドウィッチを作って持ってきており、魔法瓶に入れたコーヒーやオレンジジュースも持ってきてくれていた。
「ホント!? ありがとー! マリちゃんも何か作って持ってくればよかったなぁ‥‥」
マリはバスケットの中身をちょっとだけ覗き込みながら「おいしそー♪ お昼が楽しみ♪」と言葉を付け足した。
そしてマリと話すレアを見て「こんな子も傭兵‥‥? 私より経験あるんだろうけど‥‥やっぱり心配‥‥」と呟くセインの姿があった。彼女は悪い意味で言っているのではなく、ただ純粋にレアのような小さな子が戦うという事を心配しているのだろう。
「‥‥納得がいかんな、男性型のキメラとは‥‥」
ぶつぶつと呟きながらガスマスクの第一人者(かもしれない)紅月・焔(
gb1386)がやってきた。
「納得いかんのはお前の頭だっ」
ビシッとマリがチョップと共に紅月にツッコミを入れる。何故か彼にとって重要とされているのは『キメラが現れた』という事より『何故男性型キメラなんだ!?』といった所らしい。
これで女性型キメラが現れていたら彼は一体何をするつもりだったのだろうか。
「ま、まぁ‥‥焔さんが変なのはいつものことですし‥‥それより貸切りの遊園地で遊べるのは、楽しみですけど‥‥真里さん、困っている人の弱みに付け込むような事はダメですよ?」
芝樋ノ爪 水夏(
gb2060)が何気に酷い事を言いながら、そのお説教の矛先がマリへとやってきた。
「人の弱みって言うのは、付け込むためにあるんだよ?」
まるで『当然じゃん?』とでも言うようにマリが言葉を返し、芝樋ノ爪が絶句する。そしてそれを見ていた玖堂が申し訳なさそうに頭を下げている。
(「玖堂さん‥‥真里さんと結婚してから一体何回くらい人に頭を下げたんでしょう‥‥」)
そんな事を心の中で呟きながら芝樋ノ爪は必死に謝る玖堂の姿を見ていた。
「相変わらずなんですねぇ‥‥」
水無月 春奈(
gb4000)は苦笑しながら呟く。久々に会ったというのに全く変わっていないマリを見てもはや笑いしか出ない。
「折角の遊園地ですし、キメラなんてさっくりと倒してゆっくりと遊園地を楽しみましょう」
遊園地のパンフレットを見ながら水無月は呟く。そのパンフレットには色々なものが載っており、今から行くのが楽しみで仕方なくなる。
「‥‥人のいない遊園地か」
芹佳(
gc0928)は小さな声で呟きながら資料を見る。資料には遊園地内の写真も幾つか同封されており、いつもは大勢の人間で賑わっているであろう遊園地に誰もいない事に不気味さを感じた。
「こんな場所に行ったら、まるで世界に私達しか存在しないように錯覚するんだろうね」
芹佳はため息混じりに呟く。
「さて、折角久しぶりの遊園地ですもの、お仕事を手早く済ませて、あとは目一杯楽しまないとね」
小鳥遊が呟き、能力者たちはキメラ退治‥‥もとい一泊旅行へと旅立っていったのだった。
―― 無人の遊園地、静寂は不気味さに ――
遊園地に到着すると、オーナーらしき人物が能力者達を出迎えてきた。
「今回はどうぞ宜しくお願いします」
ぺこり、と頭を下げて挨拶してくる男性はやや疲れているのか少しだけやつれているようにも見えた。
「戦ってもアトラクションに被害がない場所とか、あるかしら? キメラを倒してもアトラクションを壊しちゃったら意味がないものね」
小鳥遊がオーナーに問いかけると「でしたら、この先の広場が適しているかと‥‥あそこならもし壊れたとしてもすぐに修復できるものばかりしかないので」
オーナーは能力者達の後ろを指差しながら言葉を返す。能力者達が視線を移すと、少し離れた所に広場が見えていた。
「それでしたら、私達は向こうで待ちましょうか。広いですし、闇雲に探し回っても仕方ないですしね」
水無月が呟くと「そうですね、何かあったらトランシーバーで知らせて下さい」と芝樋ノ爪が聞き込みを行う能力者たちに言葉を返した。
「それじゃ、私達は囮役として動き回っていようか」
芹佳の言葉に「あぁ、女性型でなかった事を後悔させてやるぜ‥‥」と紅月は見当違いな事を言っており、少しだけ芹佳は不安を感じずにはいられなかった。
「焔さん、張り切るのは良いですけど、怪我はしないで下さいね」
芝樋ノ爪が心配そうに言葉を投げかけると「大丈夫だ、女性型でなかった奴に対する憎しみは誰よりも深いのだから」と言葉を返して、芹佳と一緒に遊園地内へと歩き出したのだった。
「なんだか‥‥遊園地ってよくキメラが出るんですね‥‥」
いつか受けた任務思い出しながらレアは首をかくりと傾げながら呟いた。
「とりあえず、ボクは皆さんの使用しているトランシーバーの中継役として遊園地の真ん中辺りにいますね。離れすぎた場合、連絡が取れなくなりそうですし‥‥」
レアはギリースーツに身を包んだまま、スキルを使用して遊園地の真ん中辺りで隠れていられそうな場所を探す為に歩き出した。
「それじゃ、あたし達も聞き込み始めちゃいましょ」
小鳥遊と玖堂は従業員たちに話を聞く為に、従業員宿舎に向かっていく。
※従業員宿舎
「キメラの目撃場所?」
「えぇ、もし知っているなら教えていただけませんか?」
玖堂が従業員に『キメラの目撃場所』などを問いかけると、従業員の男性は「うーん‥‥」と唸りながら考え込んでしまう。
「そういえば俺は見てないんだけど、観覧車のところで見たって奴がいたぜ。そいつ、襲われちゃって怪我してさ、今はこの宿舎にはいないんだよ」
「襲われた?」
「何でも刀みたいなやつで斬られたって聞いたな、幸いにもここからここをばっさりと斬られたくらいで済んで、暫くしたら治るって言われたらしいけど」
腕から肩にかけて、を示しながら男性は答えた。
「なるほどっ、それで他にキメラに襲われた人とかはいないの?! ほらほら、さっさと答えて答えて!」
ペンとメモを構え、取材モードに入っているマリに玖堂と小鳥遊は呆れたように、そして恥ずかしくなって「大人しくしててね、マリさん‥‥」と小鳥遊が従業員からマリを引き剥がす。
「とにかく、ご協力ありがとうございました」
頭を下げつつ、玖堂と小鳥遊はトランシーバーでレアへと連絡を入れる。観覧車付近での目撃が多かったこと、見ると見境なく襲い掛かってくること、などを伝える。
そしてレアは受けた情報を他の能力者達へと伝えたのだった。
※監視カメラ室
他の能力者達が従業員達に話を聴きに行ったり、囮をしている中、セインは監視カメラ室へと来ていた。
監視カメラ室を管理する男性の話によれば、キメラが現れた時の映像はそのまま残してあるといっていたので、それらを見ようと思ったのだ。それに遊園地内を歩き回るより至る所に仕掛けられている監視カメラで見た方がキメラ発見が早いかもしれない、とも。
「本当だ、何回もキメラが現れてるけど観覧車のところが一番多い‥‥今は何処にいるんだろう‥‥」
セインは呟きながら監視カメラ映像の視点をボタンを押して切り替えていく。するとジェットコースターと観覧車の中間地点辺りに刀を持った不審な男がいた。背中には黒い翼が生えており、明らかに『人ならざるもの』を現していた。
「キメラを発見しました! 観覧車からジェットコースターの方向に向かった中間地点辺りにいます!」
トランシーバーでレアに連絡をいれ、レアは慌てて待機班・囮班などに伝え、自らも戦闘すべく待機班がいる広場へと向かい始めたのだった。
※囮の2人
「観覧車からジェットコースター側に向かった中間地点‥‥ね、行こう」
芹佳が通信を受け、パンフレットにて自分がいる場所、そしてこれから向かうべき場所を確認して紅月と共にキメラがいる場所へと向かっていった。
キメラ自体も能力者達の存在には気づいていないのか、普通に遊園地内を歩いており、芹佳は少しだけ拍子抜けをした。
「ふふふふ、奴か‥‥男性型である事を恨むがいい」
くくくく、と紅月は怪しげな表情で呟き、色んな意味で芹佳は不安になる。
「さて、広場まで誘導しようか」
芹佳は呼笛を思い切り吹く。それはキメラが此方に気づくようにと行った行動であり、予想通りキメラは音に反応して芹佳と紅月の方を見る。
そして腰にさしていた刀を手に取り、にぃ、と楽しそうな笑みを浮かべた後に2人へと襲い掛かる。
「女性型ではない貴様が! 俺に勝てると思うのか!」
紅月は『くわっ!』と目を見開き、壱式でキメラの攻撃を受け止める。女性型だったら負けてたのかよ――というツッコミを決してここで入れてはいけない。
その後、2人が広場へとキメラをおびき寄せ、既に集まっていた能力者達によってキメラ退治が開始されたのだった。
―― キメラをさっさと倒して遊んじゃおうぜ! ――
「‥‥この後の楽しみの為に早々に退場してもらうわ。あなたにここは相応しくないもの」
小鳥遊は小銃S−01をキメラに向けて構え、発砲しながら呟く。
「ハンドガンなら‥‥大丈夫だよね‥‥たぶん!」
セインはなるべく遊園地に被害を出さないようにとハンドガンで攻撃を仕掛けた。しかしキメラは能力者達に向けて攻撃を仕掛けてくる。
遊園地に被害を出さないようにと攻撃を行う能力者達、壊れても関係ないと思いっきり暴れるキメラ――そこに僅かな差が出たのだろう。
「!」
芹佳にキメラの攻撃が当たる、その瞬間に銃声が響き、キメラは地面へと倒れこんだ。撃ったのはキメラの死角となる場所から狙いを定めていたレア。
「風向きは大丈夫‥‥弾道は弾を流さないように‥‥」
呟きながら再び撃つ。
「貴様の敗因は‥‥女性型じゃなかったことだ!」
まだ言っているのか、というツッコミはナシにしていただきたい。紅月は壱式を振り上げ、キメラへと向けて思い切り振り下ろす。
「遊園地の方や、ここで遊びたい方達の為に、倒されてください」
紅月が攻撃を行った後、立ち上がる暇すら与えずに芝樋ノ爪が追撃して機械剣αと夕凪にて攻撃を仕掛ける。キメラは避けようとしたけれど、スキルによって素早く移動してきた彼女の攻撃を避ける事は出来なかった。
「へぶっ!」
「あら、すみません」
水無月が攻撃を仕掛けようとした時、振り上げた手が紅月にまともにぶつかってしまい、紅月は喰らわずとも良いダメージを受けてしまう。
「このまま、一気に切り下げます」
天剣ラジエルを携え、水無月はキメラへと攻撃を仕掛ける。
「まだまだ、行きますよ」
水無月は呟いた後、再び攻撃を仕掛けてキメラを確実に弱らせていく。
「随分と余裕だね、後ろががら空きだよ」
芹佳は呟きながら構えていた蛍火にて攻撃を仕掛ける。
そして玖堂がスキルを使用して、キメラの防御力を低下させ、能力者達の武器を強化して、能力者達は弱ったキメラにトドメを刺すために攻撃を行い、見事にキメラを退治したのだった。
―― お楽しみタイム! 日ごろのストレスを発散すべく遊びましょ! ――
キメラ退治が終わった後、能力者達は宿泊するホテルへとやってきており、少し休憩してから遊園地で遊ぼうという事になっていた。
「あ、あのお昼ご飯作ってきたんですけど‥‥」
おずおずとレアがバスケットを差し出すと「ちょうどお腹空いてたから助かるわ」と小鳥遊がバスケットを取り、他の能力者たちを呼ぶ。
「あ、あの‥‥出来れば皆さんで食べたいですけど、その、別にご用事があるなら無理にとは‥‥」
レアが呟くと「まず遊ぶにしてもお腹が空いてたら思いっきり遊べませんしね、皆で頂きましょう」と玖堂が呟く。
「わ、美味しいですね」
芝樋ノ爪がサンドウィッチをぱくりと食べ、感想を言うと「あ、ありがとうございます」とレアが照れたように言葉を返した。
「あ、これは真里さんと‥‥その、あの‥‥えっと、しょ、しょう‥‥うぅ、編集部の皆さんで食べてください」
能力者達に作ってきたクッキーを渡し終えた後、レアがマリに差し出す。
「ありがとっ。こっちがマリちゃんで、こっちは翔太に渡しておけばいいのね♪」
「え」
レアの言いたい事が分かったのか、マリは部屋へ持っていくバッグの中に貰ったものを入れる。
「あ、ありがとうございます‥‥」
照れたように顔を赤くしながらレアは呟き、サンドウィッチをぱくりと食べたのだった。
そしてお昼ご飯が終わった頃、各能力者達は遊ぶために行動を開始し始める。
「ねぇ、玖堂さん。ちょっとマリさん借りて遊んできてもいいかしら?」
話しかけられた玖堂はにっこりと笑って「えぇ、後で私とも遊園地を回りましょうね、マリさん」と言葉を返し、マリと小鳥遊を見送ったのだった。
「こ、小鳥ちゃんが乗りたいのって‥‥‥‥これ?!」
目の前にズズンと佇むのは『スラッシュツイスター』と書いてあり、乗っている最中に何回くるくると回らなければならないのだろう‥‥と少しだけマリは気が遠くなった。
「‥‥いつもマリさんには振り回されてばかりだし、たまにはあたしにも付き合ってもらうわよ」
凄く楽しそうにマリへと言葉を投げかけ「いぃ〜〜やぁ〜〜!!」と叫ぶマリを引きずって『スラッシュツイスター』へと乗り込んだのだった。
その後も絶叫系をほとんど乗りつくし吐きそうになるのをマリは必死で堪えていた。
「あら、もうダウン? 結構だらしないのねぇ、マリさんは」
一通り乗りつくして満足になったのだろう、小鳥遊は笑いながらマリへと言葉を投げかける。
「‥‥こ、小鳥ちゃんの馬鹿‥‥絶対仕返ししてるでしょ、ぜぇ〜〜ったい、無茶なんて止めてやんないんだから‥‥!」
マリの言葉を聞いて「あら、そう?」と小鳥遊は不敵な笑みを浮かべて「二週目、行きましょうか」と叫ぶマリを引きずりながらぐるぐる回転する『スラッシュツイスター』のところまで歩き始めたのだった。
「あ、あれ‥‥? アトラクションで遊ばないんですか?」
バスケットの片付けなどをした後、レアも遊園地内に出てみると広場の可愛いベンチに座っている芹佳を見つけ、レアは話し掛ける。
「あぁ、私は賑やかな所が苦手だから、静かな所で休ませてもらおうと思って」
芹佳が言葉を返すと「そうなんですか」とレアも言葉を返す。
「それにこの広場からだと、結構色々な声が聞こえるんだよね」
「声、ですか?」
「そう、例えば絶叫が苦手だから「いやだー」って叫んでるあの記者さんの声とか。此処は遊園地の中で真ん中くらいに位置するからかな、何処いくにしてもこの広場を皆通るんだよ」
芹佳の言葉に「ほんとうだ‥‥」と観覧者からコーヒーカップへ移動する能力者を見つける。そして別な能力者はお菓子の家から、ジェットコースターへと向かっている。
「それじゃ、ボクはお菓子の家を見てきますね」
ぺこりと頭をさげてレアはお菓子の家へと向かっていった。
「うわぁ」
お菓子の家とは言っても家そのものがお菓子で出来ているわけではなく、家の中に色々なお菓子があるのだ。今日は能力者達だけで貸切状態なので売店はないけれど、普段はお菓子を売る場所なのだろう。家の隅っこにはレジが見えた。
「こういうの、見てるだけでも楽しいな‥‥」
可愛いチョコレート、綺麗な飴細工、それらを見ているだけでもレアは楽しい気分になってきた。
「お店、してればよかったのにね」
お菓子の家に入ってきたセインがレアに話し掛ける。セインは年下が好きで世話を焼きたがる性格であり、レアの事が放っておけなかったのだろう。
「あっちにはお菓子じゃないけとキーホルダーとかのお店があったよ、もしかしたら頼めば売ってくれるかも」
セインに言われ、レアはお菓子の家を後にしてお土産グッズが売っている店へと向かって歩き出したのだった。
「あー‥‥疲れた‥‥」
絶叫系に振り回されたマリがホテルに帰ろうとしていると、怪しげなガスマスク男を発見する。何故か表情は見えないのに、もじもじしているのだけは分かってしまう辺りマリは「疲れが押し寄せそうだ」と酷い言葉を呟いたのだった。
「マリリン、ちょっと聞きたい事があるんだけど‥‥」
もじもじしながらガスマスク男・紅月はマリリンことマリに話しかけてくる。
「んー? 美人なインフォメーションガールは知らないよ」
「違うし」
「じゃあ何さ」
「‥‥や、年頃の女子の喜びそうな事や物って何かなぁって思ったり思わなかったり、でもやっぱり思ってみたり」
年頃の女子、その言葉を聞いてマリは『にやぁ』と放送できないような酷い顔をして笑う。
「そっか、がすっちょにも春が来てるのか! 年頃の女子ねぇ‥‥やっぱりキメラがいる取材場所を教えてくれたりじゃないかなー?」
「‥‥‥‥普通の、普通の、ふ・つ・う・の! 女子が好みそうなものを‥‥」
「あんた! マリちゃんが普通じゃないって言うわけ!」
首をぎゅうううううと絞めながら言葉を返すと「ぎぶぎぶぎぶ!」と壁をばしばし叩きながら紅月が降参する。
「誰にやるかとかわかんないけど、がすっちょがしてあげたい事でいいんじゃないの? 好きなものとか、人によって違うんだからさ‥‥というわけで頑張りたまえ、青少年!」
きゃはははは、と騒ぎながらマリはホテルへと帰っていく。
そしてマリと入れ替わりに芝樋ノ爪が紅月のところへとやってきた。
「遅くなってごめんなさい、焔さん」
「や、いいけど‥‥‥‥‥‥手、とか繋いじゃう?」
手を差し出しながら紅月が芝樋ノ爪に話し掛けると、彼女は嬉しそうに「はい!」と言葉を返して手を繋ぎながら遊園地内を歩くことにした。
「私、絶叫系は苦手なので観覧車とかメリーゴーランドの方がいいんですけど‥‥いいですか?」
芝樋ノ爪の言葉に「いーよ」と紅月は言葉を返しながら、メリーゴーランドの方へと向かう。
「‥‥白馬の王子様ですか」
ぷ、と笑いを堪えながら偶然一緒にメリーゴーランドに乗っていた水無月がぼそりと紅月だけに聞こえるように呟いた。
白馬に乗るガスマスク男、確かに怪しさ満点ではある。かくいう紅月もそれなりにテンパっているようで芝樋ノ爪に『せくはら』する事も忘れている。
ちなみに『そこは普段から忘れとけよ』というツッコミは決していれてはいけない。
その後、2人はコーヒーカップや観覧車など絶叫系以外のアトラクションを楽しんでホテルへと戻っていったのだった。
その頃、水無月は色々とアトラクションを楽しんでいた。ミラーハウスやお化け屋敷など様々なアトラクションがあり、飽きる事はない。
「あ‥‥」
そして視界に入ったのは、イベント広場。先ほどの広場よりは少し狭いけれど、ステージなどがあって普段は手品や子供向けの歌などのショーを行う場所なのだろう。
「最低でも、ココくらいには立ちたいものですね」
一応アイドルですし、水無月は言葉を付け足しながらステージを見る。きっとステージの上から見る景色と此方から見る景色では全然違うのだろう。
「‥‥ちょっとだけ」
小さく呟いた水無月はステージの上に上がってみる。
「まぁ、広さくらいは覚えておきましょうか。いつかは役に立ちそうです」
ステージの端から端までを歩き、そして観客席を見下ろす。きっといつかはこんなステージにあがってみせる、そう心の中で呟きながら水無月はステージを降りたのだった。
そして、日も暮れかけた頃にマリと玖堂は一緒に遊園地内で遊んでいた。玖堂も絶叫系が大好きなようで、マリがへろへろになるまで連れまわされ『今日だけで何回のジェットコースターに乗ったかな』とふらふらする意識の中でマリは考えていた。
「絶対、鷹秀って絶叫系とか苦手っていうか、興味ないっていうか、そんな感じだと思ってたのに‥‥」
「はは、そう思われがちかもしれませんがこれでも結構遊園地とか好きですよ? 特に絶叫マシンは大好きですから」
現在、2人は観覧車に乗っており、玖堂の膝の上にマリが乗るという格好だった。
「いつもごめんね、結構マリちゃんてば無茶してるし、心配とかかけてるけど‥‥」
マリの意外な言葉に『自覚あったんですか』と思わず言葉を返しかけたが「いいですよ、その辺も含めてマリさんなんですから」と言葉を返し、完全にバカップルモードになっていのだった。
(「そんな風に言われると、無茶しないで下さい、なんていえないじゃないですか」)
苦笑しながら抱きついてくるマリを見て玖堂は心の中で呟いたのだった。
―― 夜、それぞれ ――
がしゃがしゃがしゃ〜〜んっ!!
遊園地を堪能した後、ホテルに戻った能力者達はホテル側が用意してくれた晩御飯を食べていた。
その頃、まだ部屋割りは決められていなかった為、芝樋ノ爪が驚くべき一言を紅月に告げたのだった。
「一緒の部屋でも、良いですよ?」
部屋をどうしようかーという話をしていたのだろう、突然そう言われて意外と純情シャイボーイの紅月は積み重ねてあったシャンパングラスを思いっきり倒してしまったのだ。
「もしかして、本気にしたんですか?」
くすくすと言葉を投げかけてくる芝樋ノ爪に「いや、そんな、別に、おいら‥‥!」と紅月はすでに自分を見失いつつあった。
「冗談ですよ、焔さんにとって私は信頼する仲間、なんですよね?」
「‥‥‥‥や、これでも信頼以上に‥‥いや、何でもないっす」
紅月は晩御飯を一気に掻きこみ「先寝るッス」とロビーで鍵を貰って部屋へと帰って行ったのだった。
「ふふ、それにしても今日は楽しかったわ。またこういう旅行なら来てみたいわね。傭兵やってれば中々こういう時間って作れないし‥‥」
小鳥遊が呟くと「確かに、任務とは思えないくらい楽しかったよ。こういう依頼ならまたやってもいいかなぁ」とセインが言葉を返してきた。
「あ、レアちー、ちょい来て来て」
ちょいちょいと手招きしながらマリが周りに誰もいない所へとレアを呼び出す。
「これ、翔太から預かって来てンの。バレンタインのお礼だってさ」
そう言ってマリがレアに手渡したのは、飴玉の形をした綺麗なストラップだった。
「お菓子よりもこういう使ってもらえるやつの方がいいかなーって真剣に悩んでて笑えたよ、というわけで渡したからねー!」
おやすみー、そう言葉を残してマリは玖堂と一緒に部屋へと戻っていく。
「あ」
水無月はデジタル時計が指す日付を見て小さくため息を吐いた。
(「そういえば、私そろそろ誕生日でしたね。最近ばたばたしてて忘れてました‥‥」)
水無月は心の中で呟きながらロビーで部屋の鍵を受けとり、エレベーターで部屋がある階に向かう。エレベーターは外の景色が見えるようにガラス張りになっており、ちかちかと光る夜景がやけに綺麗に見えた。
「‥‥そういえば、こういう景色を見るのも随分久しぶりですね‥‥」
今日は良い夢が見れるかも、そう言葉を付け足しながら水無月は部屋へと入り、ベッドの中へともぐりこんだのだった。
これにてドタバタ旅行だったけれど、遊園地旅行はおしまい。
次の日の朝、いつまで経っても起きないマリがギリギリに起きて帰り支度を慌ててしているのを見て能力者達が笑うのはこれより8時間後の話である。
END