●リプレイ本文
―― 風邪引くのはいいけど、移すなよ ――
「今回はどーぞ宜しくなんだぜ‥‥ッ! へぶしっ!」
盛大なくしゃみと共に能力者に挨拶をしてくるのは褌一丁でLH(だけではないが)を歩き回る変態、大石・圭吾(gz0158)だった。
「なんとかは風邪を引かないっていうけど嘘なんだねー? それとも大石さんの場合はBAKAを超越してるから引くのかな?」
何気に酷い事を言っているのは香坂・光(
ga8414)だった。酷い事を言っているが、実際その通りなのだから仕方ない。
「まさか大石さんに風邪を引かせられるウイルスが存在するなんて‥‥実は未知のウイルスで、今回のキメラに効果絶大だったりしないかしら?」
くれあ(
ga9206)が真面目な顔で呟く。確かに今まで真冬に褌一丁でも風邪を引かなかった大石の過去を見ればそう思いたくなるのも無理はないのかもしれない――が残念ながら未知のウイルスではなく一般的な風邪菌だ。
「いくら、戦争が相手を待たないとは言え、大石さんがその体調で出てくるとは‥‥正直驚きを隠せませんね」
「そうだろう? げふんげふん」
大石は大威張りで言葉を返すが、辰巳 空(
ga4698)の心境としては『誉めてねーよ』である。感染症などを舐めていると大変な事にもなりえるし、何より1人の医者としては目の前で死なれても困ると考えているのだ。それがたとえ大石という限りないBAKAでも。
辰巳は出発前に大石を軽く診察し「この体調で任務に参加するなら‥‥生命の保証はしかねますよ」とはっきりと伝えた。
「俺は死なない、世界中の褌が俺を死なせるわけないからな――げほげほげげぇっほ」
何処からその自信はやってくるんだ、辰巳は心の中で呟きながら彼が能力者用に調整してきた食事と薬を差し出す。
「香坂、これをやろう」
しかし大石は薬が嫌いなのか香坂に薬だけあげようとして、香坂からチョップでツッコミを入れられていた。
(「濃いですねぇ‥‥」)
エイミ・シーン(
gb9420)は「薬は嫌いだ」と騒ぐ大石を見ながら苦笑する。彼女は知り合いのおかげで大石の褌一丁という格好には驚く事はなかったのだが、その人物の濃さに少しだけ驚きを隠せなかった。
「どんな病に掛かっていてもスタイルを変えずに自分の責任を全うする‥‥素晴らしい心意気」
湊 影明(
gb9566)は何があっても自分の思う道を曲げない真っ直ぐな大石を見て少しばかり感動を覚えていた。
「そうは思わないか?」
湊はジャック・ジェリア(
gc0672)に話を振ると「いや、話には聞いているんだけどさ‥‥」と苦笑しながら言葉を返す。
「俺的には話に尾鰭が付きすぎじゃないかなと思うんだよね。だってさ、そこまでのBAKAなら生きてる方がおかしいだろ?」
ジャックが大石をチラリと見ながら呟く。しかし残念なことに大石はそこまで(むしろそこまで以上)のBAKAであり、更に残念な事に風邪を引きながらもぴんぴんと生きている。
「圭吾さん、風邪引いてるんだからマスクをつけた方がいいんじゃないかな?」
ティム・ウェンライト(
gb4274)が大石に話し掛けると「いや、心配無用だ。げぇっふんげふん」と大石は言葉を返してきた。
そこで能力者達は思った事だろう。
『こっちに移るからさっさとマスクつけろよ、BAKA』
「ほ、ほら。これとっても似合うから、是非つけて」
ティムが大石に差し出したのはマスクを加工して褌のように前垂れをつけたアレンジマスク。
「おおお! これは褌みたいでかっこいいじゃないか! ありがたく貰うよ」
大石は気に入ったのか意気揚々とマスクをつける。
(「うん、不本意だけど‥‥仕事だから」)
ティムは何かに耐えるように心の中で呟いた。
「褌、など既に過去の物、だよ‥‥今はビキニパンツの時代だ、このフィット感が心身を強固にする」
UNKNOWN(
ga4276)はビキニパンツ一丁と言う姿に黒の帽子、黒革の靴に手袋、そしてスカーレットのタイ――という大石に似て非なる姿でやってきていた。
「ふん、ビキニパンツなど履いて何が楽しいんだ。この風にはたはたと揺らめく褌の方が良いに決まっているだろ!」
激しく咳き込みながらも大石は褌の良さをアピールする、しかしはっきり言って他の能力者達にとってはどうでも良い事だったりする。
しかし、なおも自らのスタイルを誇張する大石を見て湊はまた間違った方向に感動を覚える。
「この、湊影明‥‥大石殿の剣となりましょう」
(「やべぇ、マジな目で言ってる‥‥ここは頼まれた俺の責任は重いのか?」)
湊の言葉にジャックは心の中で呟く。彼は湊の大事な人に大石からBAKAが移ったり、大石に関わった事でおかしな雰囲気になるのを止めてくれと頼まれていた。
「それじゃ、キメラを早く退治してしまいましょうか」
辰巳は呟き、能力者達はそれぞれの思いを胸に秘めてキメラが現れた場所へと出発していったのだった。
―― 下水道・スライム退治 ――
「えっと、ご無理だけはなさらないようにしてくださいね?」
下水道に到着した後、エイミが大石に心配の声をかける。少し離れた距離から。最初エイミは「あの格好で風邪を引かないのか‥‥」と考えていたらしいが、現在進行形で風邪を引いている事に気づいて「そういえば風邪を引いていたんでしたね」と慌てて言葉を言いなおした。
「大石さん、これを着てください」
「断る」
辰巳が防寒具を大石に差し出すのだが一瞬で断られてしまう。
「これ以上悪化してもいいんですか! いいから着てください!」
ぐいぐいと防寒具を押し付ける辰巳だったが「いらーん!」と弾いて、防寒具は哀れな下水道へとぼちゃんと落ちてしまう。
あなたは‥‥ふるふると拳を震わせながら辰巳が呟くと「まぁまぁ、道中の大石さんのお世話はお任せ下さい」と苦笑しながらくれあが間に入ってきた。ちなみにノリなのかくれあはナース服を着ている。
「‥‥噂に尾鰭、なかったな‥‥」
BAKAさ加減に呆れながら、ジャックが湊に向けて言葉を投げかけると感動しているのか返事がない。
「うおおおお!」
突然大石の声が響き渡り、何事かと大石に視線を向けてみれば‥‥縛られて引きずられる大石の姿があった。何故かは分からないが『亀で甲な縛り』で引きずられている。
「本当は寝袋でもあったらよかったんだけど、借りられなかったからとりあえず縛って引きずる事にしたから」
にっこりとくれあは呟く。
「そうだね、これで厄介な大石さんは動けないのだ‥‥というかまず匂いが厄介だね‥‥うー、さっさと倒して外に出たいのだ」
鼻を抓みながら香坂が呟く、確かに下水道と言う事もあり匂いは半端なく強烈な物だった。
「ふむ‥‥あれ、だね」
UNKNOWNが前方に見えるスライムを見ながら呟き、能力者達は戦闘態勢を取る。最初に攻撃を仕掛けたのはUNKNOWNだった。
彼はまだ此方には気づいていないキメラをエネルギーガンにて攻撃し、辰巳が追撃するように天剣ラジエルで攻撃を仕掛ける。
その時、攻撃を仕掛けたキメラが強力な酸攻撃を仕掛けてきたが、辰巳はエンジェルシールドにてそれを防御する。攻撃をした後で僅かに動きの鈍くなったキメラに香坂が機械剣αで攻撃を仕掛け、まずは1匹目を退治する。量産型のキメラなのか実力そのものは大した事はないようだった。
「くれあ! くれあ! 俺の足足足足足あーしー!」
煩いな、とくれあが大石に視線を向けると‥‥そこには大石の足に絡まったキメラの姿があった。恐らくは下水道の中から這い上がり、大石の足に絡みついたのだろう。
「今回、俺は守る為に戦う‥‥!」
機械剣βを構えながら湊が呟く。
「待て待て待て! げふぇぁ! 俺の足を斬り落とすのは守るじゃない!」
「気にする事はない、よ。大石だから大丈夫だろう」
UNKNOWNはエネルギーガンで大石の足に引っ付いているキメラを攻撃し、大石からキメラを引き剥がす。その際に大石もダメージ受けたのはとりあえず置いておこう。
何となく放っておけなかったエイミはスキルを使用して大石を治療してやるのだが‥‥「もしかして‥‥俺に気があるのか!?」と言われてしまい、治療した分以上にダメージを与えたくなったのは言うまでもない。
「あそこにも‥‥!」
ティムがもう1体のキメラを発見して、超機械クロッカスで攻撃を仕掛ける。
「こんな場所にいつまでもいたら、匂いが取れなくなりそうなのだ‥‥!」
香坂は機械剣αでティムが攻撃して動きが鈍くなったキメラに対してスキルを使用し、攻撃を仕掛ける。
UNKNOWNが引き剥がしたキメラには湊が機械剣βにて斬撃を繰り出した。そして湊の攻撃の後、ジャックがスキルを使用しながら小銃で攻撃を繰り出す。
キメラを退治したのを確認すると、湊は親指をビッと立てて爽やかにガッツポーズを取る。
「うおおおお! 同士が戦っているのに俺だけ安静にしているわけにもいくまい!」
ぶちっとロープを引きちぎり、大石も戦う――のかと思えば暴れているだけでむしろ能力者たちの方に被害が出ている。
「おとなしく、してろ、っての!」
言葉を区切るたびに『ぴこん』という音が響き、ジャックの巨大ぴこぴこハンマーにて叩かれている大石の姿があった。
「風邪で具合が悪い大石さんも頑張ってるんだから、私もちゃんと看病しないと」
そう呟き、くれあは既にただのどろどろとした液体になったスライムキメラを集め始める。
「栄養満点のものを食べてもらわなくちゃね」
にっこり、くれあは限りなく怪しい笑顔を浮かべながら小さく呟いた。
「僕を本気にさせるとはやるね♪ でも、本気になった僕は強いのだぞ」
香坂は4匹目のキメラを相手に機械剣αを振り上げて攻撃を仕掛けていた。
「危ない!」
ティムがスキルを使用しながら香坂の所へと距離を詰め、香坂の背後から攻撃を仕掛けようとしていたキメラに攻撃を仕掛けた。
「とっておきの一撃をお見舞いってね♪」
エイミは超機械クロッカスにて攻撃を仕掛けたあと、ロケットパンチで追撃する――が「はははは! 風邪を引いてもこの大石倒れはせぬぶぅ!」とキメラとの間に入ってきた大石に攻撃を命中させてしまった。
「‥‥と、とっておきの一撃‥‥」
エイミが嘆いているとジャックが小銃で攻撃を仕掛ける。銃が効きづらい相手だけれど数を撃ち込めばそれなりの成果は得られるはず、と考えての行動だった。
「とりあえず、他には見当たらないようだし早く倒す、としよう」
UNKNOWNが呟き、エネルギーガンで攻撃を仕掛け、他の能力者達も目の前のキメラを退治する為に攻撃を仕掛けた。
合計で5匹のキメラが下水道内に住み着いており、退治した後も見回りを行い、完璧にキメラがいないと分かると能力者達は安心のため息を吐いたのだった。
―― キメラ退治し、BAKAは残る ――
「無事にキメラを退治できて良かった」
湊は呟くと、何故か、何故か褌一丁になり互いの健闘を称えるように抱き合う。
しかし大石は何もしていないにも関わらず「俺、頑張った」的な態度を取っているBAKAなので下水道に沈めても今のところ誰も文句を言う能力者はいないような気がする。
「影明‥‥今すぐそいつから離れ、普通に戻ってくれ‥‥頼む」
涙を流しながら(嘘泣きだけど)ジャックが湊に銃口を向けながら懇願する。
「それは無理だ、今俺は友と分かり合えたのだから」
既に暴走している湊を止める事はきっと誰にも出来ない。それを悟ったジャックは「俺の力が足りなかったか‥‥」と呟きながら意外とあっさりと引いたのだった。
そして大石に視線を移したジャックは「話が膨らんでいるだけだと思っていた俺が悪かった‥‥世の中広いな‥‥」と遠い目をしながら小さく呟いたのだった。
その後、下水道から出た後――‥‥UNKNOWNというひき逃げ魔(という名のバグア)によって恒例となった大石ひき逃げが起こるかと思った――のだが。
「危ない!」
くれあが大石を突き飛ばし、今回はUNKNOWNに轢かれる事は免れた――のだが運がいいのか悪いのか、大石はあいていたマンホールから再び下水道へと落ちていき、それなりに怪我をしてしまう。
慌ててエイミが回復をしようとしたけれど「このまま病院に強制連行です」と辰巳が呟き、風邪を引き、怪我をした大石をそのまま病院へと搬送していったのだった。
「おかゆを作ってあげたのだ♪ はい、大石さん♪ あ〜ん♪」
検査などが終わった後、香坂がおかゆ(地獄の釜ほどにゆだっている)を食べさせようとする――がここはお約束と言う事でおかゆの入ったお皿ごと大石にぶちまけてしまう。
「‥‥‥‥!!!」
大石は言葉にならない悲鳴をあげ、蹲っている。
「ご飯も食べたし、お薬ですよー」
にっこりと爽やか笑顔で差し出してくるくれあの手に持たれているものは、明らかに先ほど倒したキメラの成れの果て。
「おおおおおおお! まずいまずい、それはまずい! やめてくれ!」
「‥‥スライムアタックーーー!!」
くれあの『お薬』から逃れられ安心していた大石の口の中にティムによってスライムゼリーが投げ込まれる。
「あらあらあら、一度食べたら2回目が来ても変わらないわよね」
くれあはそう言いながら大石の口の中に『お薬』を流し込んでいく。
「えっと‥‥こういう場合はどういう反応をした方がいいのかな」
苦笑するエイミだったけれど、湊が大石に近寄り「今日はあなたに大事なことを教わった」と握手する姿を見て「何でやねんっ!」と思わずツッコミを入れてしまう。
その様子を見ていたジャックは「うん、俺の手には負えないよ」と呟き、成り行きを見守る事にしたのだった。
END