タイトル:嘘吐き少年と小さな嘘マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/04 03:20

●オープニング本文


どうしよう、こんな事になるなんて思わなかったんだ。

どうしよう、2人が死んじゃったらどうしよう。

※※※

「この前、森の中でキメラを見たんだぜ」

その子供の名前は弘樹、小学5年生の男の子。

目立ちたい、という思いから弘樹はよく嘘を吐く。

自分は本当は大金持ちの家の息子だとか、いずれ本当の親が迎えに来るだとか、大抵はそんな嘘。

誰もが「嘘」って分かる嘘を吐くのだけど、その日に吐いた嘘は違った。

「キメラ? じゃあ何で弘樹は生きてンのさ。キメラにあったら殺されるって聞いたぞ」

「俺は特別だから殺されないんだよ、お前らが行ったらまず殺されちゃうだろーけどな」

「じゃあ、キメラを見に行ってみようぜ」

え、と弘樹は目を大きく見開きながら間の抜けた声で言葉を返す。

「弘樹が一緒なら殺されないんだろ? だったら行ってみようよ」

「え、で、でも危ないし、止めた方が‥‥」

「まさか今更『嘘』だなんていわないよな、よく弘樹は嘘を言うし」

「う、嘘じゃねぇよ! だったら今夜森の入り口に集合な!」

キメラが現れたというのも嘘、そして自分が特別だと言うのも嘘、後には引けなくなった弘樹は嘘に上塗りをするべく2人の友達と一緒に森へと行く事になった。

※※※

(「べ、別に今日はキメラが現れなかったとかでいいんだよな‥‥うん、そんな簡単にキメラって現れないはずだし‥‥」)

そう、物事は『キメラが現れなかった』と簡単に終わるはずだった。

だけど、弘樹を含む誰もが知らなかった――数日前に本当に森の中にキメラが現れている事に。

そして弘樹の母親に助けを求める電話が鳴り響くのは、森に入った30分後の事だった。


●参加者一覧

レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
水無月 蒼依(gb4278
13歳・♀・PN
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF
CHAOS(gb9428
16歳・♂・SF
ウルリケ・鹿内(gc0174
25歳・♀・FT
日下部 司(gc0551
17歳・♂・FC
明智 和也(gc0891
18歳・♂・DG

●リプレイ本文

―― 子供を保護する為に ――

「子供が襲われているのね‥‥」
 レヴィア ストレイカー(ga5340)は資料を眺めながら小さく呟く。彼女は幼少時、バグアに両親と共に襲われたという過去を持ち、現在子供達の心を蝕んでいるであろう『恐怖』は痛いほどに理解する事が出来た。
「必ず、全員助けてみせる」
 自分に言い聞かせるようにレヴィアは小さく言葉を付け足したのだった。
「子供が襲われている、面倒な状況なんていつもの事だ。何一つ問題はない」
 いつものように迅速に片を付けて、いつものように帰って寝よう――時枝・悠(ga8810)は冷静な目で資料を見た。
「キメラに見つからないようにしてくれているといいのですが‥‥」
 水無月 蒼依(gb4278)が少しだけ震える手で呟く。資料には子供から母親に助けを求める電話が来て、その後に本部に依頼としてやってきた――‥‥。
 キメラに見つかっていない可能性は限りなく低いのだが、それでも彼女はキメラから子供達が逃げている事を祈る。
「‥‥心細いでしょうから‥‥早く助けてあげたいですね‥‥」
 祈るように水無月は手を合わせ、他の能力者たちに言葉を投げかける。
「そうですね‥‥早く助けてあげたい、子供達は全員で――3名ですか、キメラの事だけではなく夜の森は何かと危険です、迅速に保護しなくちゃいけませんね」
 星月 歩(gb9056)が呟くと「頑張りましょうね」と水無月が言葉を返した。
「誰も死なせちゃいけない――そんな事の為に生まれて来たんじゃないんだもんね」
 CHAOS(gb9428)は呟く、子供たちが死ぬ、そんな事あってはならないんだから、と言葉を付け足しながら。
「子供だけでこんな夜の森に――‥‥何をしに行ったんでしょう」
 ウルリケ・鹿内(gc0174)が小さく呟く。昼間ならばまだ分かるとしても、夜の森に用事があるとは思えなかったのだろう。
「まぁ、今考えるべきは子供たちの安全、そして保護ですね」
 ウルリケの言葉に「大丈夫です」と日下部 司(gc0551)が言葉を返した。
「皆で協力すれば絶対に無事に保護することが出来ます、頑張りましょう」
 にこにこと笑ってウルリケに言葉を投げかける日下部、何故だか確証も何もないけれど本当に何とかなるかもしれない、と思わせるような笑顔だった。
「焦っても仕方ないのは分かるが、子供達が心配じゃ。早く助けなければならぬ」
 明智 和也(gc0891)が呟き、今回の任務に赴く能力者全員が顔合わせをしたこともあり、能力者達はキメラが潜む森から子供達を救出すべく、行動を開始したのだった。


―― 疾走・夜闇の森 ――

 今回の能力者達は迅速に子供達を救出すべく2人1組の4つの班に分かれて行動する作戦を立てていた。
 1・レヴィア&時枝。
 2・水無月&星月。
 3・ウルリケ&日下部。
 4・CHAOS&明智。
 1〜3の能力者達は歩いて子供達、もしくはキメラを見つける作業を行うが、4のCHAOSと明智だけはAU−KVをバイク形態にして森中を捜索するというものだった。
「宜しくお願いするヨ」
 CHAOSが明智に話し掛けると「此方こそ、宜しく頼む」と明智が言葉を返す。
「それじゃ、子供を発見したりキメラを見つけたり、その他にも変わった事があったら連絡を取り合うようにしましょう」
 レヴィアが呟き、能力者達は班で行動を開始する事にしたのだった。

※レヴィア&時枝※
「流石に夜の森という事あって視界が悪いな」
 ふぅ、とため息を吐きながら時枝はランタンで足元を照らす。足場は悪くないけれど灯がなければ少しだけ捜索も難しくなっていただろう。
 一方、レヴィアはショットガン20にエマージェンシーキットから取り出した懐中電灯を縛って固定し、武器を構えてキメラ警戒を行いながら捜索を行っていた。
「‥‥千里眼が欲しくなるわ」
 子供達が危険な状況だと言うのに、見つけられない歯がゆさの為か少し苛立ちを感じさせるような口調でレヴィアが呟く。
「焦る気持ちは分かるが、焦りは何も生み出さない、落ち着いていこう」
 時枝の言葉に「分かってる」とレヴィアは言葉を返して捜索を続ける。捜索を続けていくうちにキメラの足跡などを見つける事が出来たけれど、その周りにはキメラの気配もない。
「‥‥此処に来た時からは少し時間が経っているのかもしれない」
 時枝がポツリと呟く。確かに周りにはキメラの気配は感じられない。時枝の言う通りキメラは近くにはいないのだろう。
「此方は未だ発見できず‥‥でも、キメラの足跡だけは見つけたわ」
 レヴィアはトランシーバーで他の班に連絡を行った後、再び時枝と共に捜索を開始したのだった。

※水無月&星月※
「まだ見つかっていないようですね‥‥」
 レヴィアからの通信を受けて水無月が小さなため息と共に呟く。
「大丈夫ですよ、きっと大丈夫‥‥」
 星月はまるで自分に言い聞かせるようにレヴィアへと言葉を返す。星月自身は照明道具を持っていないため、レヴィアから離れすぎないようにしていた。
 そして資料にはキメラの数は書いてなかったけれど、複数のキメラがいる事を想定しながら捜索を行っていた。
「あ、あれは‥‥」
 星月が呟き、水無月が視線を移すと、そこにはがたがたと震えている子供が2人蹲っていた。顔を見ると資料にあった子供の顔であり、水無月と星月は慌てて2人に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 水無月が1人の少年に話し掛けると、少年は言葉を返さずに首を縦に振る。
「‥‥子供は、3名のはずでは‥‥? もう1人の子は何処にいったんですか?」
 星月が問いかけると子供達はボロボロと涙を零しながら「弘樹を助けて!」と叫んできた。
「助けて? どういう事ですか?」
 水無月が問いかけると「弘樹が、まだ怪物のところにいるんだよぅ」と泣きながら言葉を返してくる。
「お、俺たち‥‥弘樹が襲われてるときに逃げてきたんだ‥‥弘樹をお願いだから助けて‥‥お願いだから」
 子供達2人はがたがたと震える手で水無月と星月に泣きつく。2人は子供達から聞いたことをトランシーバーを使って他の班に知らせたのだった。

※ウルリケ&日下部※
「既に1人の子が襲われている‥‥急がなくちゃいけませんね」
 ウルリケが呟くと「そうですね、いそぎましょう」と」日下部が言葉を返した。少し風が出てきたのか木々が揺らめく音がする。
「鹿内さん、何か聞こえませんか?」
 日下部が問いかけると「いえ、まだ何も」とウルリケは言葉を返す。
「きっと子供は負傷しているでしょうから、急いで見つけないと‥‥」
 ウルリケが呟いた時だった、少し先の方からガサリと不審な音が聞こえる。キメラの可能性もあるので、2人が警戒しながら近寄ると‥‥。
「う、うぅ‥‥」
 血まみれの子供が腹部を押さえて倒れているのがウルリケと日下部の視界に入ってくる。
「だ、大丈夫?!」
 ウルリケが慌てて駆け寄ると「だいじょうぶ‥‥だから」と少年は苦しそうに息をしながら言葉を返してきた。
「出血こそ多いもの、意識が確りとしているから大丈夫だと思います――ただ」
 日下部は言葉を濁すように小さく呟いた。その先の言葉はウルリケも分かっていたのだろう。

『このままの状態だったら、安心は出来ない』

 子供で出血が多いのだから、それなりの不安要素は残る。このままキメラ退治が順調に行けばこの少年も助かるだろう。
「‥‥キメラ退治を早々に終わらせなくちゃいけませんね」
 ウルリケが呟き、負傷している子供を発見したこと、出血が多いことを他の能力者に知らせた。
 そして少しでも気が紛れるようにとウルリケは持ってきていたチョコレートを少年へと渡した。
 その時だった、CHAOSと明智が捜索中にキメラを発見し、現在交戦中だという連絡が入ったのは――‥‥。

※CHAOS&明智※
「‥‥嘘を吐いた子、もしかしたら軽度のパラノイア‥‥偏執病なのかもしれないね」
 CHAOSは明智のAU−KVを運転しながら小さく呟いた。あれからウルリケ達が少年から少しだけ話を聞きだし、少年の1人が嘘を吐いたために夜の森へとやってきたことを能力者たちは知った。
「自分を見てもらいたくて吐いてしまう無垢な嘘、あれがその代償だとしたら、あまりにも重過ぎるヨ――誰も死なせちゃいけない、子供にそんな罪――重すぎる」
 CHAOSの言葉に「そうだな、しかし」と明智は前方を見る。其処には子供くらいの大きさの狼、今回の対象であるキメラであろう。
「子供達を無事に助けるためには、あやつが厄介じゃな」
 明智は呟き、CHAOSもAU−KVを降りてトランシーバーで他の能力者達に連絡を入れる。子供達は3人とも見つけ出し、それぞれの能力者達がいるため心配はする事ないだろう。
 ただ、負傷している子供を助けるためにはやはりこのキメラを退治しておかないといけないだろう。
「もうすぐで此方へ来るそうじゃ、それまで‥‥此処に足止めを!」
 明智が呟くと同時にスキルを使用し「この一撃、確実に当てる!」と叫びながら攻撃を仕掛けた。
 明智の攻撃はキメラの腕へ掠り、追撃としてCHAOSもスキルを使用してスパークマシンαで攻撃を仕掛けた。
 2人で足止めを始めてから10数分が経過した頃、他の能力者達も集まり始め、子供を助けるため、森の入り口付近に追いつめたキメラを退治するため行動を開始するのだった。


―― 戦闘開始 ――

「あなたの牙如きに負けやしないわ」
 レヴィアは呟きながらスキルを使用し、ショットガン20でキメラへと攻撃を仕掛ける。
「この手の常套句はあまり好きじゃないんだが‥‥安心しろ、もう大丈夫だ」
 がたがたと震える子供達に時枝は言葉を残し、自分の方へ向かってくるキメラへスキルを使用して攻撃を行った。それは近くにいる子供達が危険な目に合わないようにした行動だった。
「大丈夫、私達で必ずお家に帰してあげますから――安心して」
 ウルリケも子供達が安心できるように笑いかけた後に武器を構える。
「はぁっ!」
 ウルリケは時枝が攻撃を行った後、少しだけ止まったキメラの足を狙って攻撃を行う。いかに素早いキメラであろうと、動きの元である足を絶ってしまえば動けなくなるはずだから。
「子供達には、絶対に手出しはさせないよ」
 日下部は真剣な顔でキメラを見据え、そして攻撃を行う。
「死にたくなければそこを動くな」
 明智は子供達を見て低い声で呟く、恐らく子供達は恐怖で動く事は出来ないだろう。つい先ほどまで自分達の命が危険にさらされていたのだから。
「全く‥‥狼とはこんなに素早いものだったとは‥‥」
 予想以上じゃ、明智は言葉を付け足しながら攻撃を仕掛ける。しかし多少の傷を受けても元々が素早いのか避けられてしまう。
「1対1じゃないんだ、1人を避けた所で安心は出来ないだろう」
 キメラが攻撃を避けた後、キメラの背後から呟きながら攻撃を行う。
「‥‥同感です」
 水無月も攻撃を仕掛ける。しかしダメージは与えても致命傷にはならなかったためか水無月は少しだけ眉を寄せながら呟く。
「‥‥速さがあっても力が足りませんか‥‥まだまだですね‥‥」
 水無月が攻撃を行った後、星月もコンユンクシオを振り上げて攻撃を行う。
「親を失った子がつらいように、子を失った親のつらさがどれほどのものか、奪うだけのあなたには分からないでしょうね」
 レヴィアは呟きながらショットンガン20で攻撃を行い、キメラの足を止める。
 そして日下部も武器を構え、スキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「サポートは任せろ! ガキ共は絶対に傷つけられねぇからな!」
 CHAOSが叫び、スキルを使用して能力者達の武器を強化する。そして自らも攻撃すべくキメラへと向かって駆け出した。
「吹き飛べ! 犬っころぉぉ!」
 CHAOSが攻撃を仕掛け、他の能力者たちもそれぞれがあわせるべく攻撃を仕掛ける。戦闘の中で足を既にやられているキメラは避ける事も適わず、能力者達の総攻撃をまともに受けてそのまま地面へと沈んでいったのだった。


―― 嘘吐き少年とごめんなさい ――

 キメラ退治を終えた後、能力者達は子供達を連れて病院へとやってきていた。一番大きく負傷していた弘樹はすぐに処置が行われたおかげで命に別状はなく、数週間の入院と言うことになっていた。
「置いてって‥‥ごめんな‥‥」
 残り2人も軽い怪我を負っていたため、処置をしてもらった後に置いて逃げたことを弘樹へと謝りに来ていた。
 しかし弘樹も嘘を吐いたという引け目から2人のことを責めようとはしなかった。
「キメラはね‥‥純粋に殺すための存在よ‥‥簡単に命を奪ってしまう、でも‥‥あなたたちが無事でよかった」
 だけど今回のような事はないように、と注意をレヴィアは行った。
 時枝も何かいおうかと考えたけれど、嘘を吐いた方も煽った方にも非があり、それは自分で考えなければ意味がないと思い、何も言わないことにする。
「助かってよかった‥‥家族を失うのは、凄くつらいもの」
 星月は少し寂しそうな表情で呟く。彼女は記憶を失っており、意味こそ違うけれど『失う』つらさは誰よりも分かっているからだろう。
「言葉であれこれ繕わず、自分自身を誇れる人になれ。簡単なことじゃないけど、きっとそれってカッコイイ生き方だヨ」
 CHAOSの言葉に弘樹は静かに首を振って「もう、うそつくのやめる」と短く言葉を返したのだった。
「さっき、友達からはちゃんと置いていかれたことを謝ってもらっただろ? お前もちゃんと嘘を吐いたことを謝るんだぞ?」
 日下部が話し掛けると弘樹は首を縦に振る。
「作戦通り‥‥いや、それ以上の成果じゃな」
 明智が小さく呟く。きっと弘樹はこれから嘘を吐かなくなるだろう、そう考えて『救助する以上』の成果があったと口にしたのだ。
 そして水無月は病院から出た所で横笛を吹いていた、子供達が助かってよかった、という安心した音色を。


END