●リプレイ本文
―― カマ、大暴走 ――
夜もとっぷりと更けた頃、1人の少年が「許すマジ、許すマジ‥‥」と言いながらカンカンと神社に不釣合いな音を鳴らしながら呟いている。
その少年の名は大槻 大慈(
gb2013)である。ちなみに打ち付けているのは以前カマこと鵺(gz0250)に貰った(押し付けられた)名刺であり、そんな事をするほどに大槻の心は鵺によって汚されたのだ。
そして一方、反対側では「カップル邪悪、カップル邪悪」と明らかに妬み全開でお百度参りのようなことをしている鵺がいたりする。
同じ場所で同じような事をするあたり、意外と似たもの同士なのかもしれないと思うのはきっと気のせいという事にしておこう。
そしてまたまた別の所では鵺の暴走を止めるべく能力者達が出動する事態にまで発展していた。
「夜中に変な音がするのよ」
「何か泣き叫ぶ声が聞こえて寝れないのよ」
「キメラなら殺っちゃってよ」
様々な声が本部に寄せられ、何事かと思えば鵺の嫉妬だったというなんとも能力者の恥さらしな奴である。
(「神社で丑の刻参りって‥‥それはむしろ祟られるからやめて欲しいさぁ‥‥」)
御影 柳樹(
ga3326)は神社の三男坊という事もあり、このまま放置するのも問題があると考えてどうしても見過ごす事が出来なかったのだ。
「ふぅ‥‥今回は機嫌が悪い‥‥鵺には覚悟を決めてもらうしかないな‥‥」
フローネ・バルクホルン(
gb4744)は愛用の大鎌を手に持ち、止める気――むしろ殺る気満々だったりする。
「一般人の迷惑にならぬように、速やかに‥‥そして確実に殺‥‥連れ帰らねばな」
彼女の言葉には鵺を殺る気満々という事が見え隠れしており、生きて連れ帰る気があるのかと少しだけ他の能力者達はツッコミを入れたかった。
「ったく、アイツは何をやってるんや‥‥」
盛大なため息を吐きながらキヨシ(
gb5991)が呟く。
「嫉妬心を抱くのも無理はないでしょうが‥‥度は弁えて欲しいところですね」
希崎 十夜(
gb9800)が呟くと「それは無理やろ、鵺やし」とキヨシがばっさりと否定する。
「とにかく、鵺君が何を思ってこんな事をしているのか理解出来ぬが他の人が迷惑しておるようだし、止めた方が良いようじゃな」
片倉 繁蔵(
gb9665)がため息混じりに呟く。
他の能力者達が鵺を哀れに思う中、白虎(
ga9191)だけは違う感情を持っていた。
(「なんという素晴らしい嫉妬と怨念と絶望具合! しっと団総帥としてこの優秀なしっ闘士をスカウトしないわけにはいかない」)
「でも鵺君をあんまり苛めるのには賛成しかねるよ、鵺君だって好きでこんな事をしているわけじゃないだろうしね」
夢守 ルキア(
gb9436)が呟き「とりあえず作戦通りに行こうか」と言葉を付け足して鵺が大暴走している神社へと向かったのだった。
―― 現れたるは呪いキメラ‥‥ではなくて嫉妬に塗れた鵺 ――
「‥‥この人が鵺さん‥‥じゃないですよね」
あれから御影は浅黄色の袴に榊の枝を刺して、夜の神社へとやってきていた。とりあえず神社に詳しいという事で御影が先に神社に来る事になったのだ。
そして釘を打つ音を頼りに見つけたのはどう見ても女の子にしか見えない中高生。
「カマ、許すマジ、許すマジ‥‥」
後ろで見ている御影に大槻は気づいていないのか恨みをたっぷりと込めて釘を打つ。
「神がいる社で何をしているんですか?」
にっこりと御影は笑いかけながら大槻に話し掛ける。
「ちょ、何すんだよ!」
大槻は御影によって首根っこを捕まれ、足をばたつかせるのだが文字通り地に足がつかない状態なので諦めて子猫のように御影に運ばれる――その時だった。
「カップル邪悪、カップル邪悪」
そんな事を呟きながら同じ場所を行ったり来たりする白い着物(しかも合わせが逆)を着た鵺がいた。
「‥‥そこのお嬢さん、神社は神のおわす社、そんな事をしてると祟られるさ〜」
御影が話し掛けると「邪魔しないでよぅ! 全カップルを消しちゃうんだから!」という言葉が返ってくる。
そんな鵺にため息を吐きながら、大槻を正座させた後に「あなたも此方で正座してもらうさ〜」と鵺も強制的に大槻の隣に座らせる。
「あらン、大慈ちゃん! はっ‥‥ま、まさかアタシに会いにこんな夜更けに来てくれたの!?」
「ちょ、違うし!「照れなくてもいいのよ! ありがとう!」人の話を聞け! カマ!」
「とりあえず何があったかは知らないけど、人を呪う事、それ自体が自分を貶めるのだと気づくさー」
御影のお説教タイムが続く中、途中で殺気を感じる――そして感じると同時に鵺たちを襲う人物がいた。
「な‥‥!」
御影はフトリエルで攻撃を防ぎ、防戦しながら様子を見ることにする。
「いやぁ〜ん、こわぁいっ!」
「来るな来るな! 俺はお前の方が怖いよ!」
ハリセンで鵺をばちこんと殴る大槻なのだが、そんな事で引き下がる鵺ではない。
「鵺よ、依頼として請け負った以上‥‥元凶を断たねばなるまい‥‥覚悟は良いか?」
襲い掛かってきたのは日ごろの鬱憤を晴らそうと言わんばかりに、鵺を止めるべく依頼を受けた能力者だった。勿論全員が襲い掛かるというわけではないのだろうが。
「鵺さん、少し下がっとくさー」
自分を護る御影に、鵺が『きゅーん☆』とときめているのを御影は知らない。
「ふっ‥‥邪魔をするというのなら、諸共に滅してくれよう」
フローネは怪しく笑みながら呟く、既にもう何が何やら状態である。
「いくら変態かてそこまではあかんて、ここを通りたければ俺を倒してから通れ!」
キヨシがフローネと鵺たちの間に立ちはだかり巨大ハリセンを構えてフローネに襲い掛かる。
「いたぁぁぁぁぁい!」
しかしハリセンが直撃したのはキヨシが庇っているはずの鵺だった。
「あ、あれ? なんでや‥‥?」
再度フローネを止めるべく攻撃を繰り出すのだが、ヒットするのは鵺。
「う〜む、どうやら身体が拒絶反応しよるみたいやなぁ‥‥」
襲い掛かる奴の気持ちが分からんでもないからな、キヨシは心の中で言葉を付け足す。
「何故こんな事をする? 他人の迷惑になるとは考えなかったのか?」
片倉(覚醒状態)が鵺に問いかけると「だって、彼氏が出来ないんだもの‥‥」としょんぼりとしながら言葉を返してくる。
「鵺くーん!」
夢守が鵺の名を呼びながら近づいてくる。何故か希崎に肩車をされながら。どうやら以前約束をしたらしいのだが、何故かこんなタイミングで約束が果たされるとは誰が予想しただろうか。
「嫉妬は確かに女性を美しくさせる‥‥でも憎悪は醜さしか生まない。辛さも苦しさも、打ち明けていいから、本当の鵺君を見せて!」
夢守が鵺の目から視線を逸らす事なく言葉を投げかける。
「周りの人だって休んでいるんだ、それに女の子が夜中に出て行っちゃ、危ないでしょ? 私達が間に合ってよかったけど、チャント危機感を持つこと、わかった?」
夢守の言葉に「ごめんなさい」と鵺はしょんぼりとしながら言葉を返す。
しかしここで間違えてはいけない、夢守の言う事を今回の事情を知らぬ人間が聞けば『鵺が襲われかけた』『何か鵺につらいことがあった』と取れる言葉なのだが、最終的に行き着く答えは『ただの嫉妬』なのである。
そして夢守も真顔で語るのだが、希崎に肩車をされながら――という格好なので少しだけお間抜けさが加わり説得力に欠ける部分があった。
「そうね、アタシったらなんて見苦しいことをしていたのかしら‥‥こんなんだから彼氏が出来ないのよね‥‥」
わかってんじゃねぇかよ、誰かの心の中でツッコミが入るが実際に口には出さない。
「ごめんなさいっ――うあ」
今まで正座していたせいか、立ち上がり「いやぁぁん」と大槻の方へと倒れこむ。
「やめろ! 来るな――ぁぁぁぁぁ」
げしっと鵺を蹴りつけるが、鵺と同じく足がしびれているために言葉にならないツラさが襲い掛かってくる。
「とりあえず、天罰覿面って感じか」
希崎が呟く。確かに人を呪った2人が同じ目にあっているのだから天罰といったら天罰なんだろう。
(「さて、どうしたものかね」)
片倉はオロバスの盾を構えて心の中で呟く、説得などをしようかとも彼は思ったのだが言葉を使う事が苦手であり、他にも鵺を説得しようとする者がいるのだから他の能力者に任せようと考えたのだ。
「アタシ、今度は人を呪うのを控えるわ」
鵺の言葉にきっと誰もが思っただろう。やめる、ではなく『控える』のかと。
「良く頑張ったね、プレゼントだよ‥‥薔薇が好きって言ってたから薔薇のアロマキャンドル」
夢守が差し出すと「きゃあ♪」と喜びながらそれを受け取る。
「それにしてもアタシの為にこんなに人が集まってくれるとは思わなかったわぁ」
鵺が呟くと「‥‥どうだ? ちょうどいいからこいつらとデートしては」とフローネが言葉を返してくる。
「せやな、鵺、これからええとこ行かへんか?」
キヨシが賛同するように言葉を投げか掛けると「い、イイトコ!? ま、まさかあんな場所に‥‥!?」と鵺が指差す方向を見ると悪趣味なネオンがちかちかとするホテルがあった。
「いやいやいやいやいや、あそこはええとこ過ぎるから他のところや!」
いつもの空気に戻ったことを確認して片倉は神社の隅に座り、月見酒を始める。
(「いくら迷惑行為をやめさせるためとはいえ、女子を傷つけるのはどうも苦手だからな‥‥」)
片倉は未だに鵺が『女性』だと思い込んでいるため、どうも乱暴な説得はしたくなかったのだ。
しかし‥‥ここで彼が許すはずもない。
「お前のしっとパワーはその程度か! 人から説得されて収まるような炎はしっととは呼べないのにゃ!」
くわっと目を見開いた白虎が鵺にびしっと指差しながら話し掛ける。
「それに1人で呪いなんてオカルトに縋っても無意味だ! カップルが憎いならしっと団に来るにゃ! ボクたちと共に戦おう!」
白虎がどこか演説染みた口調で鵺へと言葉を投げかけ、こっそりと「しっと団にはイケメンいっぱいいるにゃ」と耳打ちをする。
イケメン――その言葉は収まっていた鵺の嫉妬ファイアーを再び呼び起こし「アタシ、しっと団に入るわ!」とその場の勢いで決めてしまう。
「でも、キミ、男の子でしょ? 何でメイド服を――はっ」
「ええと、これ普段着だし。深い意味(鵺対策)はない――「ヤダ! あなたもアタシと同じ人なのね!?」――にゃ?」
何故か深い誤解を招いた白虎。鵺と同じ人、それすなわちオカマ認定。
「ちょ! ちが「いいの! 何も言わなくていいのよ! だからアタシの事を分かってくれるのね! おまけにイケメン紹介なんて‥‥なんて嬉しいの!」人の話を聞くにゃ」
イケメン紹介、おまけに同類参上という事もあって鵺のテンションはマックスぶっちぎる。
「あなたも可愛いけど、男の子だったら良かったのにねぇ‥‥」
希崎を見ながら鵺が呟き、希崎は本日最大限のショックを受ける。確かに女性のような顔立ちではあるが、希崎は立派な男の子である。
(「ショックだけど、狙われないのならいいのかな‥‥」)
そう希崎が思っていた矢先に「男の子だよ」と夢守がさらりとバラしてしまう、そして‥‥あとは言わなくてもわかるだろう。運命だのなんだのと言いながら希崎すらも標的にしてしまうのだ。
「やぁん、運命じゃない! アタシと結婚しましょうよぉ!」
「いや、そういう趣味は全くないので‥‥「そんな遠慮しなくていいのよぅ!」‥‥あんまり聞き分けがないなら‥‥指と爪の間に煙管刀を刺しますよ?」
にっこりと爽やかに、そうまるで春の風が吹きぬけるようなこれ以上ない爽やかスマイルで鵺に言葉を返す。
「い、いいわよぅ! 他にもイケメンはいるもの! あ、そうだわ! 今日こそあなたの正体を教えてもらうわよ! いつも忽然と姿を消しちゃうんだもの!」
鵺が片倉に詰め寄ると「‥‥いや、それより呼んでるぞ」と向こう側を指す。
すると「まだお説教は終わってないさー」と既に正座している大槻の横を指しながら御影が鵺を呼んだ。
そして、その後、能力者達によって今回の鵺の暴走は止められたのだが、鵺のしっと団加入により更なる暴走が待ち受けているような気がするのは、とりあえず今の段階では忘れておこう。
この騒ぎが落ち着いた頃、鵺はまたこっそりと神社でお百度参りを始める。結果、あんまり懲りていないのは鵺が馬鹿だからだろう。
「‥‥あいつは絶対来る‥‥この恨み、晴らさでおくべきか! 否! 晴らすべき!」
鵺がきっと来るであろう事を先読みして大槻は神社で寝ていた。
「やぁん、可愛いじゃない!」
しかし鵺が半径3メートル以内に近寄ったことでくわっと覚醒して「キサマの首には賞金が掛かっているんだ! 俺の為に死んでくれい!」とハリセンでフルボッコにする。
ちなみに賞金は掛かっていない、たとえ鵺がもしバグア派になってもかかる賞金はきっと底値であろう。
さらに後日――‥‥。
「はぁい、イケメンに会いにきたわぁ!」
そんな事を言いながらしっと団兵舎へと赴く鵺の姿があった‥‥。
END