タイトル:蒼―目覚めの色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/07 23:49

●オープニング本文


その少女は眠り続ける―‥‥愛しき半身を置いたまま‥‥

※※※

その少女の名前は沙羅と言う。

現在は18歳なのだが、彼女の時は17歳のままだ。

1年前、能力者になったばかりの彼女は無謀な戦いを行い、そのまま植物人間となってしまったのだ。

『バグアが闊歩する世界だけどさ、この青空見てたら嫌な事忘れちゃうよね』

沙羅は空が大好きで、毎日一回は必ず空を見上げていた。

『きっと沙羅たちが頑張れば空から神様が降りてきて、バグアをやっつけてくれるかも!』

夢のようなことばかり言っていた彼女だったが、ある日、もう目覚めないといわれていた植物状態から回復したのだ。

「‥‥貴方は誰―‥‥」

そう、俺の事も忘れていた。

生まれたときから全てを二つに分け合った、半身ともいえる彼女‥‥俺の双子の姉・沙羅は眠りの中に全てを置いてきてしまったのだ。

「沙羅‥‥? 嘘だろ、俺の事覚えてないのかよ! 父さん達を殺したバグアを一緒にずっと倒し続けようって約束しただろ!」

沙羅の肩を掴み、激しく揺さぶりながら叫ぶ俺に沙羅は怯えた表情を向けた。

「沙羅って‥‥誰? あなたは何で私をそんな目で見るの‥‥」

怯える彼女に俺はだらりと腕を落とし、そのままその場に座り込んでしまった。

「綺羅君――このまま沙羅ちゃんは全てを忘れたままでいた方がいいんじゃないかしら‥‥」

一人の看護婦が待合室で天井を仰いでいた俺に話しかけてきた。

「‥‥どういう意味ですか」

「沙羅ちゃんは綺羅君とは違う、女の子なのよ? 女の子らしい幸せをこれから掴んでいけるんじゃないかしら‥‥無理に思い出させて沙羅ちゃんを苦しめるようなことは‥‥」

「貴方に何が分かる、両親を失った俺達は寄り添いあいながら生きてきた。俺達が一番苦しかったときには誰も助けてくれなかったくせに! こんな時には偽善者面でそんな事を言うのか!」

ふざけるな! 病院の中だと言うのに俺は大声を上げて走り出した。

――向かう先は俺と沙羅が一番幸せだったころに住んでいた家――‥‥。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
楓華(ga4514
23歳・♀・SN
キリト・S・アイリス(ga4536
17歳・♂・FT

●リプレイ本文

●彼女の意思は――‥‥

「はじめまして」
 車椅子に座り、虚ろにこちらを見る少女・沙羅に猫のぬいぐるみを渡しながら話しかけるのはキリト・S・アイリス(ga4536)だった。
「あなたは‥‥?」
「僕はキリトって言います。宜しくね」
 沙羅は猫のぬいぐるみを受け取りながら「ありがとう、宜しく」と答える。そんな沙羅の様子を見て如月・由梨(ga1805)は小さく呟いた。
「美しい過去を引き換えに、辛く悲しい事を捨てる事ができたのなら‥‥それはそれで幸せなのかもしれませんね‥‥」
「一番心配なのは綺羅の方だな‥‥自棄になって冷静さを欠かしているだろうから‥‥」
 呟くのは鷹見 仁(ga0232)だった。
「‥‥そうですね‥‥彼は最後の肉親を最も残酷な方法で失ってしまったのですから‥‥」
 ベル(ga0924)が鷹見の呟きに言葉を返し、沙羅を見る。
「どうしますか? 沙羅さんを――連れて行くんですか?」
 楓華(ga4514)が今回一緒になった能力者達に問いかける。
「私は――沙羅さんに空を見せてあげたいです、綺羅さんと一緒に‥‥」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)がポツリと呟く。
「私はどちらでもいいわ。私にとって、彼女が生きようが死のうが興味ないから」
 海音・ユグドラシル(ga2788)が霞澄の呟きに髪をかきあげながら言葉を返した。
「俺は何とも言えないなあ‥‥本人の意思に任せる―でいいんじゃないか?」
 九条・命(ga0148)の言葉に「そうですね」と霞澄も答えた。
「沙羅さん――綺羅さんが貴方たちの自宅へと向かわれたようです‥‥少し危険かもしれませんが、それでも良ければご一緒しませんか?」
「ちょっと! 何を言うんですか! 彼女は安静にしなくてはいけないのですよ!? それを戦場に連れて行くというのですか」
「‥‥聞く限り、貴女が患者とその家族の心に配慮しているとは思えません」
 霞澄が反対した看護師に厳しく言うと「結構言うねぇ」と鷹見が少し驚いた表情で話しかけてくる。
「いえ‥‥綺羅さんは彼女から言われた言葉で、彼女以上に傷ついていると思いますので」
「ふぅ‥‥安静が必要な者を連れ出すんなら‥‥それなりに覚悟なさいな?」
 海音はどちらかといえば沙羅を連れて行くのに反対だったようで、小さく呟くと戦場に向かう為の準備をし始めた。
「私‥‥行きたいです。私に詰め寄った彼――懐かしい感じがして‥‥」
 沙羅の言葉に「決まりだね」とキリトは車椅子を押し、綺羅が向かった場所へと動き出したのだった。


●綺羅と沙羅――そして戦闘

「ほら、寒いでしょう」
 キリトは言いながら沙羅にマフラーとココアを渡す。
「あ、ありがとう」
 沙羅は車椅子を押してもらい、マフラーなども貰い心苦しい気持ちになっていた。
 沙羅が一緒に来ることになった事で、能力者達は以下のような班分けを行った。
 A班:如月・海音・楓華
 B班:九条・霞澄・キリト
 護衛班:鷹見・ベル
「あの人‥‥私の双子の弟だったんですね‥‥」
 沙羅がポツリと呟く。此処から自宅はすぐ近く――その前に九条が簡単だが、今の沙羅と綺羅の状況を説明していた。
「まぁ‥‥二卵性みたいだし、外見では分からないのも無理はないかな」
 九条が沙羅に答えると「違うんです」と沙羅が短く否定する。
「違う?」
「私と彼はこの世でたった二人の肉親だと説明してくれましたよね‥‥だったら私は何があっても彼を忘れてはいけなかったんです」
「それは沙羅のせいじゃないだろ? 故意に忘れたわけじゃないんだし‥‥」
 沙羅の言葉に鷹見が話しかけると「ありがとう、でも――」と口ごもり、俯いてしまった。
「これは傭兵をしている皆に言える事だけどさ、俺達が傷つき、苦しんだ分、救われた命、守れた笑顔があったと思う、そして‥‥それで俺達が救われたこともあったはずだ」
 鷹見の言葉に「気障だなー、仁は」と九条が茶化すように話しかけてきた。
「でも‥‥綺羅さんは本当にあなたのことが大事だったんですね」
 途中で車椅子を押す役がキリトからベルに代わり、沙羅に話しかけた。
「え?」
「本当に大事でなければ‥‥こんなにも簡単に冷静さを失うわけがありません」
 ベルの言葉に「そう‥‥なのかな」と沙羅が呟く。
 そして、それと同時に聞こえてくる男性の悲鳴に近い叫び、そして耳を劈くような歌のような音。
「此処からは耳栓をしての行動にした方が良さそうですね、沙羅さん達は下がっていてください――鷹見さん、ベルさん‥‥沙羅さんを」
 如月の言葉に「分かりました」とベルが答え、沙羅の車椅子と一緒に後退する。
「お願い‥‥綺羅を助けて! あの子‥‥鳥系のキメラと相性悪いのよ」
 前衛に向かう如月の服を掴み、沙羅が懇願するように頼んだ。
「え――あれ? 今、私‥‥」
 自分でも口走ったことに驚く沙羅だったが、如月も少し驚いたような顔で前衛に向かっていった‥‥。


●戦闘開始、綺羅を救え!

「キメラが出るってのに、一人で向かうとはな‥‥よっぽど頭に血が昇ったか‥‥まぁ、成すべきことは一つだがな」
 九条が呟き、周りに他のキメラがいないかを確認する。
「今日も宜しくお願いね?」
 霞澄は自分の所有する武器・洋弓『アルファル』に向けて呟き、弾頭矢に鋭覚狙撃を用いてハーピィにダメージを与えていく。
 キリトも護衛班に近い位置でキメラの攻撃に備えている。沙羅が普通の能力者ならそんな事をする必要もなかったのだが、彼女は今、記憶をなくしている‥‥戦い方を知らない一般人同様なのだ。
「‥‥空を飛んでいる、厄介過ぎますね――せめて地上に降りて戦ってくれれば此方が有利なのですが‥‥」
 如月は長弓『鬼灯』でハーピィに向けて攻撃するが、中々致命傷を与えるまでに至らない。
 そして視線を少し横に向ければ、倒れている綺羅の姿。戦いに参加する前に綺羅の状況を確認してみた所、命に別状はない――というより精神的なダメージの方が強いのだ。
「私もせめて歌声だけでも封じれればと邪魔しているのですが、このままじゃキリがありませんね」
 楓華も長弓を使い、ハーピィに攻撃を仕掛けているのだが、歌声だけを封じているだけで戦いに進展はなかった。
 鷹見は震える沙羅を守ることだけに専念し、ベルは小銃・スコーピオンでハーピィの体力を削りながら攻撃していく。
 彼の戦いは敵を倒す為ではなく、誰かを守るための戦い――それゆえに彼は強いのだろう。
「せぇーのっ!」
 九条が叫ぶと同時に家の屋根に上り、瞬天速でさらに跳躍してハーピィにファングで攻撃を仕掛ける。虚を突かれたハーピィは九条の攻撃を直接受け、地面に叩きつけられた。
 そして、地上にいた能力者達はそのチャンスを逃すものかと一気に攻撃を仕掛ける。
「これで終わりだ――っ!」
 護衛班に確実に被害がない状況なのを確認し、キリトも攻撃に加わる。
 ハーピィは歌声に近い悲鳴をあげながら地面に伏せたのだった‥‥。
「この小鳥は限りある生を堪能できたのかしら‥‥」
 海音は絶命したハーピィに向け、小さく呟いた。


●綺羅と沙羅、二人が歩むこの先は――。

「何で、俺なんかを助けたんだ‥‥俺にはもう何も残ってないのに」
 綺羅は失っていた意識を取り戻すと同時に小さく呟く。
「綺羅さん、あなたがいなくなったら沙羅さんはどうなるのですか!? それを考えて行動してください!」
 如月の言葉に綺羅は俯き、言葉を返さない。
「記憶がないからって、全てがゼロになるわけじゃないわ。大切なのは、其処からどんな関係を築いていくか‥‥でしょう?」
 海音の言葉に綺羅はハッとして沙羅の顔を見る。
「沙羅の事が大切なんだろ? 離れたくないんだろ? こんな馬鹿をやっちまうくらいに。だったら戦いだけのことじゃなく、それが終わった後の事も考えなくちゃな」
 鷹見の言葉に「‥‥俺だって」と綺羅が呟く。
「沙羅さんは昔、空から神様がって言ってたみたいだね。本当の理由は沙羅さんにしか分からないけれど‥‥想像なら出来るんだ」
 キリトがポツリと呟き、沙羅と綺羅はキリトの顔を見た。
「キミ達の両親は亡くなってしまって、二人きりになってしまった――だからとてもお互いを大切にしていたはずなんだ。沙羅さんが願っていたのはバグアの殲滅よりも‥‥本当は綺羅さん、あなたを失いたくなくて言っていた言葉なんじゃないかな」
 キリトの言葉に二人はハッとして互いの顔を見合わせる。
「第二の人生もいいのでしょうが‥‥忘れている人、それも大切だったはずの人が傍にいるのでしたら‥‥思い出すのがいいのかもしれません‥‥思い出さなくても、記憶を失う前以上に互いを大切にすればいいのではないでしょうか」
 楓華の言葉に「私は‥‥」と沙羅が綺羅に向けて小さな声で話し始める。
「私はまだあなたのことを思い出せない‥‥もしかしたら一生思い出せないのかもしれない‥‥けれど、これだけは分かる。あなたは私にとって一番大事な人だったんだと思う」
 沙羅の言葉に綺羅は涙を流し、地面を強く握り締めていた。
 その後、能力者たちと綺羅・沙羅は二人が好きだった場所で空を見上げ、本部へと帰っていったのだった。
 きっと、二人が『ゼロ』から始めるために‥‥。

END