●オープニング本文

面白いモノを見せてあげる。

善人気取りの能力者達が‥‥どんな風に対処するのか見ものだわね。

※※※

「ま〜た、こんなに子供を連れ去ってきて‥‥後始末が面倒じゃない」

山奥にある大きな屋敷、既に持ち主は殺されており、無残な姿が屋敷の中に放置されていた。

そして、地下室にはオーガスタによって攫われてきた子供達が恐怖でがたがたと小さな身体を震わせている。

「仕方ないでしょう‥‥弟が見つからないんですから」

オーガスタは狂気染みた瞳で子供達を見ている。

「ねぇ、どうせそいつらって切り刻んでキメラにするだけなんでしょ？　だったらあたしにくれない？　面白い使い方をしてみようと思うの」

くすくすとビスタ・ボルニカ（gz0202）は笑いながら子供達へ屋敷の中を見渡した。

オーガスタとビスタが拠点としていた屋敷、この場所は『鏡屋敷』と呼ばれるほど、屋敷の中には鏡が至るところに設置されていた。

安っぽい鏡からアンティークの鏡まで、それはもう様々な鏡があった。

「面白い使い方？」

「えぇ、どうせこれだけさらってきているんだから能力者達が来るのも時間の問題でしょ？　だったら面白い使い方した方が楽しいじゃない」

そう呟き、ビスタはけらけらと笑ってみせる。

子供達の恐怖、それは怪しく輝く鏡だけが見ていた。

そして能力者達は驚くことになるだろう、予想もせぬ敵が待ち受けているという事に。

●参加者一覧

●リプレイ本文

――　鏡が魅せる悪夢　――

（「何なんだ、この胸騒ぎは‥‥」）
　鉄 迅（ga6843）はざわざわと何か胸の辺りで疼く気持ち悪さに眉を寄せた。
「また誘拐‥‥奴か‥‥？」
　天狼　スザク（ga9707）は資料を見ながら小さな声で呟く。誘拐と言う手口からビスタ・ボルニカ（gz0202）の仕業ではないかと考えて、天狼は今回の任務に参加していた。
（「いや、奴だと判断するにはまだ早い、か‥‥」）
「子供が１２人も‥‥」
　翡焔・東雲（gb2615）も資料を見て呟く、攫われた人数から見て攫った人物が『子供だけ』を狙って攫ったのは明白。
「何のために――なんてどうせロクな理由じゃなさそうだけどね」
　翡焔が呟くと「どんな理由があるかなんて、あまり知りたくもないですしね」とヴァイオン（ga4174）が言葉を返してくる。
　確かに彼の言う通り、たとえどんな理由があろうとも子供達を攫っていいという結論には至らないのだから。
「はいはーい☆　楽（gb8064）さんだよーん♪　今回は宜しくねーん☆」
　楽が軽い口調で能力者達に挨拶をする。その手には今回の任務に役立つ地図や持ち主の情報、周辺情報が纏められたメモと子供の写真が持たれていた。
「とりあえずー、情報集めてみたよーん☆　あと搬送用車両も借りれるってー☆」
　救出する子供の数は１２人、能力者たちをあわせれば２０人にもなる為に本部に搬送用車両を借りられるかを楽は聞いており、事情が事情な為に借り受ける事が出来たのだ。
「お疲れ様、これで子供を助けた後にどうやって連れ帰るかは問題なさそうだね」
　サンディ（gb4343）が楽に言葉を投げかけ、彼が持って来た資料に目を通す。
「ふぅん、この屋敷って４０代の男の人が１人で住んでるんだね――骨董品やアンティークを集めるのが趣味で特に鏡を集めるのが好きなんだね」
　サンディはメモに書いてある事を口に出して読み上げる。
「子供を攫ったのはこの屋敷の主でしょうか？　それに‥‥何故子供達が此処にいると分かったんでしょう」
　天宮（gb4665）が疑問に思った事を口にすると「あ、それはねー☆」と楽がぱらぱらとメモを捲りながら呟く。
「麓の町の人が食料とか届けに行ってるらしーんだけどー、行方不明になった子供の靴が屋敷の敷地内に落ちてたんだってー。それに子供が攫われ始めてから屋敷の主とも連絡が取れなくなったらしーよー」
「成程‥‥犯人はその屋敷の主か、もしくは‥‥」
　天宮は途中で言葉を止め「とにかく、現地へ行ってみないと何も分かりませんね」と言葉を付け足した。
「とりあえず、現地へ向かおう――嫌な予感がするんだ」
　紅月　風斗（gb9076）が呟き、能力者たちは不安に胸を疼かせる者、予想している人物であってほしくないと願うもの、様々な思いを胸に秘めながら高速艇へと乗り込み、子供達を救うべく行動を開始したのだった。


――　夜に潜むは動き始める悪の手　――

　高速艇に乗って現地まで来た能力者達だったが、問題の屋敷までは山越えをしなくてはならず、本部にて申請して借り受けたマイクロバスに乗って屋敷まで行く事にした。
　本当ならば屋敷の敷地内に高速艇を停める事も出来たのだが「能力者が来ましたよ」と犯人に知らせる形になるので山越えをする方法を能力者達は選んだ。
「‥‥あれを見てください」
　屋敷が肉眼で確認出来る位置まで移動を終えるとヴァイオンが車の中から屋敷を指差す。
「どうかしたのか？」
　鉄が言葉を返すと「あれだけの部屋があるのに、電気が１つもついていません」とヴァイオンは呟いた。
　その言葉に能力者達は屋敷に視線を向ける、確かに夜なのにも関わらず電気はどの部屋もついていない。
　山の静けさもそうだが、屋敷までもが不自然な静けさを纏っている事に能力者達は不気味さを感じずにはいられなかった。
「敵がいる筈なのに、あまりに気配がなさ過ぎる‥‥こんな感じ、前にもあったよな、サンディ」
　翡焔が呟くと「そうだね――でも、同じであってほしくないけど」とサンディは言葉を返した。その言葉に「確かに」と翡焔は言葉を返した。彼女達が考えている状況と今回も全く同じだとしたら、その先には悲劇しか待ち受けていないのだから。
　そして屋敷の前に車を停めて、能力者達は不気味に佇む屋敷の中へと足を踏み入れる。
「‥‥これは」
　天宮が屋敷の門に取り付けられているインターホンを見ながら呟き、そして押す。
「ちょっ‥‥「大丈夫です、これ主電源が切られてますから」‥‥え？」
　天宮は「ほら、ここの『ＯＮ』の所にランプがついていないでしょう、屋敷の中にある主電源が切られてるからインターホンも作動していないんですよ」と言葉を付け足した。
「此処から先は何が起こるか分からないってことか、気を抜かずに行かないとだね」
　天狼が呟き、能力者達は屋敷の扉を開けて中へと入る――それと同時に屋敷内の異様な空気に能力者達は目を丸く見開いた。
「鏡‥‥？」
　そう、ありとあらゆる場所に色々な鏡が設置されているのだ。
　そして真っ暗だった屋敷内の所々に薄暗いランプが点灯する。まるで誰かが「いらっしゃい」とでも言っているかのように。
「楽さん、か弱いから先頭は歩かないよん」
　スキルを使用しながら楽が能力者達に告げると「私が先頭を歩くよ」とサンディがエンジェルシールドを前面に構えながら先頭を歩き出した。
「この屋敷は鏡が多い、どうにも嫌な予感がする」
　明滅を繰り返す電気にも不気味さを感じ、紅月は呟く。
「楽さん、鏡や屋敷について何か感じないか？」
　天狼が楽に問いかけると「うーん、楽さんてば何も感じないなぁ‥‥鏡も普通の鏡っぽいしー？」と楽は言葉を返す。
「本当に、あの時と似てるよ‥‥」
　翡焔は首元で揺れる犬笛を握り締めていた手を離し、思いを振り切るように頭を振る。
「こんな薄気味悪い所に‥‥さぞ怖い思いをしているでしょう」
　サンディが呟くと「とりあえず子供達を捜さなくちゃねー」と楽が言葉を返す。
「自分達と子供達の無事、これが最優先で犯人の捕縛が任務じゃないしねー☆」
　楽の言葉に「そうですね、まずは子供達の無事を確認しないと」とヴァイオンが言葉を返した。
「ちょっと待って」
　楽が呟き、先へ進む能力者達を止める。能力者達の足音が止まったのに、ひたひた、と何かが此方へ近づいてくる足音が能力者達の耳に響いてくる。
「‥‥誰だ」
　鉄がやや緊張した表情で呟き、攻撃態勢を取ると窓から差し込んだ月明かり、そして屋敷内を照らす明滅する光によって現れたのは‥‥子供だった。
「あの顔、確か攫われた子供の１人だ」
　鉄が呟き、一歩後ろへと下がる――すると能力者達を囲むように次々に攫われた子供達が目の前に現れたのだ。
「‥‥全員いますね、特に怪我をしている様子もないですね」
　ヴァイオンが子供達の様子を見ながら呟く。１２人も攫われ、誰も『怪我１つしていない』この状況に妙な違和感を感じながら。
「こんな所にいて疲れたろう、ほら、ジュースでも飲むか？」
　紅月がジュースを子供の１人に向けて放り投げる。もし子供達がキメラと化していればフォースフィールドで弾かれるはず、そう考えて。
　しかしフォースフィールドは発生せず、子供の腕にがつんとジュースは当たるだけ。子供達は床に落ちたジュースを拾うこともせず、空ろな瞳で能力者たちを見ているだけ。
　その時、ライトが３回ほど明滅を繰り返し、それと同時に子供達が能力者達へと襲いかかってきた。ある者は手にナイフを持って、またある者は飾られた花瓶などを投げつけて。
　不本意ながら戦闘となってしまったために能力者達は分かれて行動する事にした。フォースフィールドが発生しないのならば子供達はキメラではない、キメラではないのなら殺す必要がないからだ。

「どうします？！」
　ヴァイオンが子供達の攻撃を避けながらペアを組んでいる天狼へと言葉を投げかける。
「どうするも何も‥‥子供達がキメラじゃないなら攻撃するわけには行かないだろうな、恐らく子供達をあんな目にあわせている張本人がいるはずだ、探そう」
　天狼は言葉を返し、ヴァイオンは以前ミラーハウスで戦ったことを思い出してペイント弾を鏡に向けて放つ、広い屋敷の中、それは目印の意味でもあった。

「どうすればいいんだよ‥‥」
　鉄が後ろから追いかけてくる子供達を見ながら呟く。フォースフィールドが発生しなかった事を喜んだまではいいが、何が原因なのかさっぱり分からず逃げ回ることしか出来ない。
「‥‥とりあえず、横の部屋に入って様子を見ましょう」
　天宮がカドを曲がったすぐの部屋に入り、子供達は廊下を走って突き抜けていく。
「どうし‥‥」
　天宮の言葉が途中で止まり、鉄が不思議そうに彼が見ている視線の先を見る。するとそこには無残な姿で転がっている男性の死体があった。死体の損傷から見てもそれなりに日にちが経過している事が伺える。
「‥‥ちょ、それじゃ‥‥誰が子供達を？」
　鉄は呟き、他の能力者達に知らせる。屋敷の主は既に殺されている事、そしてこの屋敷には子供達、そして能力者達以外の誰かが潜んでいる可能性が高いという事を。

「楽さん、もう疲れたー‥‥」
　走りながら楽が心から疲れたような表情で呟く。
「何でキメラになってないのに襲ってくるかなー、洗脳とかー？　でも誰にー？」
　色々な疑問を口にしながら楽が走っていると「喋りながらだと余計に疲れるよ」と翡焔が言葉を投げかけてきた。
「馬鹿ねぇ、襲い掛かってくるんだから『敵』でしょ？　さっさと殺っちゃえばいいじゃない」
　突然聞こえた女の声、そして突き当たりの所に立つ不敵な笑みを浮かべた女、ビスタが其処に立っていた。
「ビスタ！　やっぱりお前かぁ！」
「殺せないならアタシが殺してあげましょうか？」
　くすくすと笑いながらビスタは剣を手に取って２人の後ろを追いかけてくる子供達へと斬りかかろうとした。
「やめろ！」
「！」
　楽はビスタの攻撃をデカラビアで受け、翡焔は子供を庇うために間に入る。
　しかし、庇った子供から翡焔は刺され、腹部に傷を負う。
「トドメを、刺しなさい」
　ビスタの言葉と同時にライトが明滅を繰り返す、そして‥‥子供がトドメを刺そうとした時、楽が鏡を派手に割り始める。
「動けるかい？　動けるならそっちの鏡を使い物に出来なくしてー！」
　楽の言葉に翡焔はペイント弾を使って鏡としての機能を無くさせる、それと同時に子供達はその場に倒れ、ビスタは舌打ちをしながら２人の前から姿を消した。
「子供達の洗脳は鏡だよー！　鏡を使っての洗脳だから鏡を割れば大丈夫！」
　トランシーバーを使って楽が鏡を割るように指示する。

「ふぅ、これで大丈夫かな――やっぱり鏡が何かの仕掛けになってたみたいだね」
　サンディは紅月と一緒に鏡を割り終え、倒れた子供達を抱えて合流する事にした。
「そういえば、通信で女がとか言ってたな」
「‥‥多分ビスタだよ、手口からしてそうじゃないかとは思ってたけど」
　サンディが言葉を返すと「だからさっさと子供をキメラにしてしまえばよかったんです、そうすれば時間稼ぎくらいにはなったのに」と男の声が響く。
　勢いよく２人が後ろを振り返ると、そこには狂気染みた笑みを浮かべる男・オーガスタが立っていた。
「アンタ達が子供を攫ったのか？」
　紅月が問いかけると「えぇ、弟を探していましてね。残念ながらいませんでしたけど」とにっこりと言葉を返す。
「無垢なる神の子羊たちをこれ以上冒涜することは許さない」
　サンディが剣の切っ先を向けながら呟くと「人は生まれながらの罪人ですよ」と言葉を返してくる。
「そう、だから死になさい」
　背後から現れたビスタが攻撃を仕掛けてきて、２人は他の仲間達と合流すべく屋敷の中を駆け出した。


――　戦闘開始　――

「伏せてください！」
　玄関ホールに来た所でヴァイオンの声が響き、２人は子供を庇うようにして伏せる。するとスキルを使用して壁を移動したヴァイオンがビスタに向けて隠し持っていたナイフを投擲する。
「この程度の攻撃は効かないわよ！」
　剣でナイフを弾いたビスタだったが、天狼がビスタの隙を突いて攻撃を仕掛ける。
「己の力を過信しすぎだ――それだけの実力はあるんだろうがな」
「それはお互いさまでしょう」
　背後からオーガスタが攻撃を仕掛けてきて「私の存在を忘れてもらっては困ります」と言葉を付け足した。
「子供達は‥‥絶対に死なせない」
　鉄は呟き、フォルトゥナ・マヨールーで攻撃を仕掛けて、天宮は距離を取って攻撃を仕掛ける。
　楽は子供が巻き込まれないように少し離れた所で子供達を護っている。
「先に行く、追撃を宜しくね」
　サンディは紅月に言葉を残して攻撃を仕掛ける――が避けられてしまう。だがすぐ後ろから攻撃態勢に入っていた紅月の攻撃は避けきれず、直撃はしなかったもののダメージを負わせる事が出来た。
「そいつが今度のお前の相手か？　そいつはこの笛よりいい音がするのか！」
　翡焔が犬笛を見せながら叫ぶと「あたしは、楽しい毎日を送りたいだけ」とビスタは言葉を返してくる。
「強い奴と戦いたい、それがあたしの楽しみ」
「お前達は腕っぷしが強くても、心は弱者だ」
　天狼の言葉にビスタが高らかに笑う。
「心？　逆に言わせてもらうわ、たとえ心とやらが強くても力が伴わなければただの負け犬の遠吠えよ。弱い奴は死んでいく、強い奴だけが生き残るのよ」
　ビスタの言葉には何か引っ掛かるものがあり、能力者達は眉間に皺を寄せる。
「それが油断ですよ」
　ヴァイオンはスキルを使用しながら急接近し、急所を狙って刺し貫く――‥‥が僅かに場所がズレて急所を刺すまでには至らず、腕を刺すのみになった。
「油断？　これは余裕って言うのよ」
　そして、彼らの後ろにあった大きな窓ガラスを割って外へと出る。それと同時にビスタが幾つかの手榴弾を使用して能力者達の足止めを行う。
「ハリー坊やが辿りつく事が出来なかったこと、あたしはしてみせるわ。これはその前哨戦よ」
　さよなら、それだけ言葉を残してビスタとオーガスタは屋敷から姿を消した。

「とりあえず、子供達は欠けることなく無事でよかったです」
　ヴァイオンが呟き、眠る子供達を見る。
「せめてもう少し場所が良かったら黄金銃が使えたんですが‥‥」
　悔しそうにヴァイオンが呟き、拳を強く握り締める。
「‥‥俺が真に倒すべき存在が何なのか‥‥やっとそれが分かった気がする‥‥」
　鉄は決意を固めるように小さな声だったけれど、強い意思を含んだ口調で呟いた。
「子供達も疲れているだろう、早く親元に返してやろう」
　紅月が呟き「そうですね、帰りましょう」と天宮が言葉を返し、能力者達は帰還する。
　ビスタが残した言葉に引っ掛かりを感じながら。

ＥＮＤ