●リプレイ本文
―― 取り残されたキリー ――
事の始まりはキルメリア・シュプール(gz0278)が買い物に行き、その場所が火災に見舞われた事からだった。
「え、キリーちゃんがあのデパートに? 大丈夫、必ず無事に助け出してみせますよ、ママさん」
龍深城・我斬(
ga8283)はキリーの母親、リリシアの手を握りながら力強い口調で元気付けるように言葉を返す。
そして能力者達はキリーが来たデパートへとやってきていたのだが‥‥想像通りデパートの周辺は消防車やレスキュー、そして野次馬でごった返している。
「はわわ、消防隊や警察の人にはお話してあるのですよー、邪魔にならないように助けましょー」
土方伊織(
ga4771)は予め皆で決めていた通り、救出する際に本職の人間達の邪魔にならないように連絡をしておいた。
そして必要な情報の提示を願い出ると火元は最上階のフードコートから、そして分かっているだけでも数名はまだデパートの中に取り残されているらしいという事が分かった。
「お姉ちゃんは僕が助けるっ」
白虎(
ga9191)は拳をぎゅっと握り締めながら少し大きな声で叫ぶと「そうね、キルメリアさんの他にも一般人が取り残されているみたいだし、何とか救出しなければ‥‥」と御沙霧 茉静(
gb4448)が言葉を返した。
「ガス爆発によっての火災だから、いつ次の爆発が起きてもおかしくない状況なんだね。とりあえず‥‥はい、これ」
神咲 刹那(
gb5472)はじゃらりと鍵の束とデパート内の見取り図がコピーされた紙を他の能力者達に渡していく。
「とりあえず自分が担当する階の鍵は各人で持っておくようにしようよ、こんな状況だし立ち入り許可はちゃんと取ってあるから」
神咲が鍵を能力者達に渡しながら「扉そのものが壊れてなければ使えると思うし」と言葉を付け足したのだった。
「そういえば、世界のうさぎ特集をしていたんですね‥‥キリーさんがそこにいると確証はないけど、私は7階から捜索します」
冴木美雲(
gb5758)は頭から水を被った後、建物の横にある非常階段を登り始めたのだった。
「この程度の事件、名探偵である私の手にかかれば、すぐに闇へと葬り去ることが出来る」
各務 百合(
gc0690)は「ふ」と不敵に笑って見せながら呟いた。彼女は妄想癖が強いらしく今回は自分を『名探偵』であると思い込んでいるようだ。
「キミ達は‥‥?」
「私は、名探偵ムノーだ。私達に策がある。この一件、手を組んでみないか?」
野次馬を整理する警官が能力者達に気づいたのか各務の言葉を聞いて「は?」と目を丸くして言葉を返してきた。
「あれ、何でここに‥‥?」
避難した人間達の中にいたのは仮染 勇輝(
gb1239)だった。
「にゃ! 何で此処にいるのにゃ! ま、まさかキリーお姉ちゃんと‥‥」
「え? キリーさんがどうかしたんですか?」
目を瞬かせながら言葉を返す仮染に、キリーとデートしていたわけではないと知ると白虎は「ここにお姉ちゃんが取り残されてるのにゃ!」と慌てたように言葉を返した。
「え、この中に‥‥? 分かりました、俺も探します、いいですよね」
仮染の言葉の後「あの、だから、避難しないと‥‥」と警官が困ったように言葉を投げかけてくる。
「あぁ、大丈夫。俺達は知り合いの救助と取り残された一般人を助ける為に来たんだから」
困惑する警官を宥めるように龍深城が言葉を返すと「あ、そうだったんですか‥‥それは失礼しました」と警官は申し訳なさそうに頭を下げ、能力者達は残されたキリー、そして一般人達を救出すべく行動を開始し始めたのだった。
―― それぞれの行動 ――
土方は消防隊や警察と能力者達が連携を取れるように下から消防隊員と一緒に行動をする事にしていた。
「はわわ、トランシーバーもありますし、いざと言う時にはこれで連絡が取れるーですよ」
そして非常階段を使って各務は監視カメラ室へと向かっていた。監視カメラが動いていれば取り残された一般人、そしてキリーの居場所も分かると思ったからだ。
「良かった、まだ動いてるな‥‥」
各務はスキルを使用しながら監視カメラの確認を行っていく。火元は教えてもらった通りフードコートから発生したらしく、フードコートに取り残されている人物は‥‥。
「こちら名探偵だ、フードコートに取り残されている子供が2名いる!」
炎が迫る中、2人の子供が互いを抱きしめあいながら泣き喚いている姿があった、炎の影響なのかあまり鮮明には映し出されないけれど取り残された子供がいる事だけは分かり「すぐに向かう」と仮染からの返答がきた。
「バレンタインの贈り物を買いに来てただけなのに、まさかここにキリーさんもいるとは思わなかったな」
仮染は苦笑しながら8階へ到着し、備え付けられていた消火器を使って子供達の所へと行く。
しかし炎の勢いが強いためか消火器だけでは炎を抑えきれず、仮染は子供のところまで向かったはいいのだが帰り道がない事に気づく。
(「俺だけなら逃げられるだろうけど‥‥」)
仮染は視線を子供に落としながら心の中で呟く。どうするかと迷っていた時に少しだけ炎の勢いが弱くなるのを見落とさず、消火器で少しでも炎の勢いを止め、子供を抱えて炎の中から脱出する。
「8階にて子供を2名保護した、このまま6階くらいまで下りるから窓の所に寄せてくれ」
仮染はトランシーバーを使って叫ぶと「分かりましたー! 伝えるですよー」と土方から言葉が返ってきたのだった。
「にゃ! 子供がいたのかにゃ、キリーお姉ちゃんは‥‥まだなんだにゃ」
白虎は少しだけしょんぼりとしながら呟く。白虎も8階から下にかけて捜索していたのだがキリーの姿は見受けられなかった。
「携帯電話が繋がらなかったと言ったな、もしかしたら繋がらない場所にいるんじゃないか? 地下とか壁が厚い所とか。とりあえず俺は子供達を避難させる」
子供を抱えたまま白虎の横を通り過ぎようとした時「白虎、先に見つけたら彼女を頼む」と通り過ぎ様に言葉を投げかけたのだった。
その頃、洋服売り場――6階を捜索していたのは龍深城だった。まだここには炎は来ていないけれど、いずれ巻き込まれるのも時間の問題だろう。
「おーい、誰かいるか? いたら返事をしてくれ」
少し大きめの声で龍深城が叫ぶのだが返事が返ってくることはない。そしてトランシーバーにチラリと視線を落とす。未だにキリーが発見されたという報告はない。
「彼女も能力者だ、なのに脱出できないてぇと怪我してるか、煙に撒かれて動けないか、あるいはどっかに閉じ込められたか‥‥エレベーターで移動中に閉じ込められたとかありがちかな」
龍深城は捜索を続けながら5階、紳士服売り場へと下りていく。
「キリーさぁん!」
冴木は7階へとやってきており、キリーの名を大きな声で呼ぶ――が返事は無い。
「あ、キリーさんや一般人はいた?」
御沙霧が冴木に話し掛けると、冴木は俯いて首を横に振った。
「そう‥‥あ」
御沙霧が見つけたのは広告にあった『世界のうさぎ特集』コーナー。ほとんどがぬいぐるみやグッズばかりになっているのだが数匹のウサギがカゴに入れられたままの状態になっているのを御沙霧は見つける。
「此方、御沙霧。人ではないのだけど、生きてるうさぎを見つけたの。カゴごと階段の所に置いておくから消防隊の人たちに連れて行ってもらえるようにしてもらえない?」
トランシーバーを使って御沙霧が呟くと「僕たちが今6階にいるですから、7階に行った時に一緒に連れてくですよ」と土方が言葉を返してきた。
御沙霧は「お願いね」と言葉を残してキリーや一般人を救助する作業に戻っていった。
その時「4階に女の人がいる」と各務からの連絡が来て「ボクが4階にいるからすぐに向かうよ」と神咲が言葉を返し、女性の所へ急いで向かう。
「あ、いた」
各務の言う通り、確かに女性がいた。恐らく避難時の混乱に巻き込まれたのだろう、頭を打っているらしく気を失っていた。
「大丈夫? うーん、起きないか‥‥仕方ない」
神咲は女性を背負いながら、他にも一般人がいないかを捜索する。その時、消防隊のはしご車が窓際に寄ってきているのを見て女性を任せて、神咲は再び捜索へと戻ったのだった。
「‥‥もしかしたら、カメラの届かない位置にいる人物もいるやもしれんな――各階の人達に名探偵からの連絡だ。現在、消防隊と傭兵があなた方を助けに来ている。故に非常口や監視カメラの範囲まで移動できれば、あなた方は助かる、繰り返す‥‥」
各務は動ける人物達は自分で自分の居場所を伝えてもらおうと放送をかけた。
その時、エレベーター内の監視カメラが壊れている事に気づく。何も映し出さず、恐らく爆発のショックで壊れてしまったのだろう。
「取りあえずボクはこれからエレベーターの方を調べてみるにゃ!」
白虎はトランシーバーで全能力者達に向けて言葉を投げかけると、エレベーターの扉をガスに引火しないように気をつけて開く。
「これで1階とか2階とかにあったらどうしようかにゃ、持って来たワイヤー1階とかまで届くとも思えにゃいし‥‥って思ったら意外と近くにあったにゃ」
恐らく場所的に6階と7階の間であろう場所にエレベーターはひっそりと止まっていた。
「お姉ちゃん! 誰か! いるかにゃー!」
大きな声で叫ぶと「白虎!? いるんならさっさと助けに来なさいよ、ヘタレ!」といつものキリーの声が聞こえて安心したようなしないようなそんな複雑な心境の白虎だった。
「みんな! お姉ちゃんを見つけたにゃ! 7階付近のエレベーターの中にいるにゃ!」
白虎の言葉に「すぐに向かいます!」と冴木が言葉を返して通信を切る。
「今から助けるのにゃ!」
白虎が天窓を開けて「今行くにゃ!」と飛び降りようとした時「ストップ」とキリーからとめられてしまう。
「1つ言っておくわね、あんたが降りてきても閉じ込められる奴が増えるだけ。例えあんたが踏み台になっても天窓まで届かないからね!」
しかし天窓から手を伸ばしてもキリーには届かない、どうしようかと悩んでいた時に「上手に隠れたね、キリーさん」と冴木がにっこりと顔を覗かせてきた。
「私が降りて、キリーさんを持ち上げるので、上から引き上げてください」
冴木が言うと同時にエレベーター内へと降りてキリーを持ち上げる。
そして白虎がキリーを引き上げるのだが‥‥。
「お、お姉ちゃん。ちょ、ちょっと重いにゃ‥‥」
「あんた、それ死亡フラグ。帰ったら覚えてなさいよ」
助けてもらっているはずなのに、何故か脅しをかますキリーに白虎は(「いつも通りで嬉しいんだか悲しいんだかわかんにゃいにゃ」)と心の中で呟いたのだった。
「とりあえず、逃げ遅れた人はもういないみたいだが、一応注意してくれ」
各務からの通信に能力者達はもう一度急いでデパート内を見て脱出する事にしたのだった。
―― 救出成功 ――
「はわ、無事でよかったーですよ」
土方がキリーに話し掛けると「この犬失格が!」と頭突きを食らわされてしまう。
「あんたもね、犬なら犬らしく嗅覚使ってさっさと助けに来なさいよね! そんなんで立派な犬としてやっていけると思ってんの!?」
(「‥‥僕は人間なのですー、立派な犬じゃなくて立派な人間になりたいです‥‥」)
うるうるとしながら心の中で反論(口に出せば頭突き確実だから)した。
「とりあえず怪我もなくて安心したよ、お母さんも心配してたよ?」
龍深城がキリーに話し掛けると「閉じ込められてただけだったもんね」と笑いながらキリーは言葉を返した。
「でも後でちゃんとお母さんには電話しておいた方がいいよ、凄く心配していたから」
龍深城が言葉を付け足すと「うん、さっきメールしたから大丈夫よ」とキリーは携帯電話を見せながら呟く。
「お姉ちゃ――「さっきはよくも人をデブ扱いしたわね」――にゃああ、お、おでぶさんなんて一言も言ってないにゃ!」
白虎が抗議するも「煩い」の一言で片付けられてしまい、キリーラリアットの刑を受けてしまう。
「そういえば、キミがキリーさん? これを仮染さんって人から預かってるよ」
警官がキリーに渡してきたのは恐らく火災が起きる前に買ったのであろう『チョコレートクリームケーキ』だった。
「‥‥何よ、お礼も言わせずにいなくなっちゃうなんて」
口を尖らせながらキリーは呟く。
「無事でよかったわ」
御沙霧がキリーに話し掛けると「‥‥喧嘩を売ってるのね」と御沙霧の胸を見ながら呟く。とりあえず彼女にとって胸の大きい人は敵であるという認識があるようだ。
「そんなつもりはないんだけど‥‥それだけ元気があれば心配する事はなさそうね」
大人な対応で御沙霧はキリーに言葉を返す。
「本当はキリーにうさぎのぬいぐるみを持ってきてあげるつもりだったんだけどなぁ、あ、勿論お金は後で払うつもりだったけど」
神咲が残念そうに呟く。しかし火元がすぐ上の階だった為に無理な事は出来なかったのだ。
「別にいらないわよ、私にはお気に入りがあるもの」
いつも持ち歩いているうさぎのぬいぐるみをバッグから出しながら神咲に見せる。
「別に広告にあった時計を持ったうさぎなんて全然欲しくなかったんだから」
(「ほしかったんだ‥‥」)
苦笑しながら神咲が心の中で呟くが、元気なキリーの姿を見て少しホッとしたのだった。
「っていうか、あんた、もしあそこで白虎がワイヤー持ってなければどうやって逃げるつもりだったのよ」
キリーが冴木に向けて言葉を投げかける。あの時、白虎がワイヤーを持っていなければ冴木自身は取り残されていたかもしれないのだ。
「親友の為に身体を張るのに、理由なんていらないでしょ?」
冴木のさも当たり前とでも言うような口調に「馬鹿」とキリーは照れたように顔をそらしながら「ありがと」と言葉を返したのだった。
「ふ、また1つ、危うく迷宮入りする事件を解決してしまったよ」
呟く各務に「迷宮入りしてんのはあんたよ」とキリーの毒舌が飛んでくる。
しかし全く気にしない各務にキリーの苛々ゲージが上昇していき、八つ当たりとして白虎が殴られるまであと2分34秒――。
END