●リプレイ本文
―― 夜闇に潜む牙 ――
「スナイパーの篠崎です、宜しくお願いします」
篠崎 公司(
ga2413)が丁寧な口調で今回一緒に任務へ向かう能力者達へと挨拶をした。
「此方こそ宜しくね、あたしはマリオン・コーダンテ(
ga8411)、クラスはエキスパートよ」
瞳や髪の色と同じく爽やかな感じで挨拶をするマリオン達に他の能力者達も次々に簡単な自己紹介をしていく。
「20人、被害に遭って1人も死者が出ていないという事はそこまで力を持ったキメラではなさそうだが‥‥」
複数いるのが厄介だな、鳳凰 天子(
gb8131)は言葉を付け足しながら呟く。資料に書かれている事、それは目撃情報などの確かな情報ではなかったけれどキメラが複数いる可能性が高いという事実。
「それでも20人も負傷者が出てるんだ、危険なキメラが彷徨っている状態は好ましくねえしな。とっとと片付けて街の人間を安心させてやろうぜ」
Anbar(
ga9009)が受け取った街の地図を見ながら呟く。街の規模はお世辞にも大きいとは言えず、キメラを捜索する点だけは苦労する事はなさそうだと彼は心の中で言葉を付け足した。
「‥‥死者が出ていなくても負傷者が既に20人‥‥これは‥‥早めに排除しましょう‥‥これ以上の被害は食い止めなくては‥‥」
水無月 蒼依(
gb4278)が資料を読みながら静かな闘志を心の中で燃やしている。
「無論でござる、これ以上の被害は食い止めてみせるでござるよ。それに人を襲う獣となれば臭いもするはず‥‥その辺りも注意しておきたいでござるな」
サムライを思わせる格好をして呟くのは兼定 一刀(
gb9921)だった。
「さて、この度はいかなるものであろうかな‥‥」
ゼノヴィア(
gc0090)が資料を見て呟く。
(「わんちゃん、わんちゃん‥‥どんなわんちゃんだろ‥‥」)
フロスヒルデ(
gc0528)はボーッとしながら心の中で呟いていた。そんな中、緊張の為か他の能力者よりも早めに覚醒していた彼女の頭の中に声が響き渡る。
(「あんたねぇ‥‥相手はキメラよ、キ・メ・ラ。初依頼って言っても分かるでしょう」)
声の主は彼女が覚醒した時のみに現れる小さな人形のような幻影のなっちゃんだった。
「はっ、まだ挨拶してなかった‥‥! 初依頼参加のフロスヒルデです、皆よろしく!」
他の能力者達よりもワンテンポ遅れた挨拶に「宜しく」と能力者達は笑いを堪えきれずに挨拶を返したのだった。
「それじゃ、挨拶も済んだことですし‥‥そろそろ向かいましょうか」
篠崎が呟き、能力者達は高速艇へと乗り込んでキメラが潜む街へと出発していったのだった。
―― 闇に光るモノ ――
今回は複数のキメラがいる事を考慮し、迅速に任務を遂行できるようにと班を2つに分けて行動する事にしていた。
アルファ・篠崎、マリオン、鳳凰、フロスヒルデの四人。
ブラボー・Anbar、水無月、兼定、ゼノヴィアの四人。
「捜索中は適度に連絡を取り合いましょう、それでは‥‥」
篠崎が呟き、それぞれの班はキメラ退治の為に行動を開始し始めたのだった。
※アルファ班※
出発する前にそれぞれの班がどのルートを捜索するか決めており、アルファ班は決まったルートを歩いて捜索する。
「ふふ、それじゃ『探査の眼』を使うわね」
マリオンが呟きスキルを使用する。これで警戒を強める事が出来て、キメラからの不意打ちなどをある程度は防ぐ事が出来るだろう。
「今回はエキスパートの人が多いのが幸いだな」
鳳凰が捜索をしながら呟く、確かに今回はエキスパートが多い。不意打ちなどを受ける可能性が限りなく低くなったのは間違いないだろう。
「わんちゃんどこ〜‥‥」
ふらふらと捜索をするフロスヒルデに(「こらっ、皆についていきなさい!」)となっちゃんからの叱咤の言葉が響く。
「うぅ‥‥ごめんなさ〜い‥‥」
そんな様子に苦笑しながら「あまり離れると危ないですよ」と篠崎が優しく注意をする。それを聞いたフロスヒルデは「ごめんなさい〜‥‥」と小さく言葉を返した。
「あら‥‥?」
先頭を歩いていたマリオンがぴたりと足を止めて「止まって」と小さな声で呟く。
「そこのカドを曲がったすぐの所にキメラがいるわ、こっちにも気づいているわ‥‥あのカドを曲がってくるのを待ってる」
マリオンの言葉に他の3人の能力者達はそれぞれ武器を持つ、先頭にいたマリオンはすぐに横に避けて他の能力者達の攻撃の邪魔にならない場所へと移動した。
「――来る!」
マリオンの言葉と同時に黒い体毛に身を包んだ獣が襲いかかってくる。
篠崎はすぐに距離を取って『長弓 クロネリア』でキメラに向かって攻撃を仕掛ける。彼の攻撃はキメラの前足へと刺さったけれど、構わずに能力者達へと攻撃を仕掛けてきた。
しかしキメラの攻撃は能力者に当たる事はなかった。なぜなら鳳凰が狙われたフロスヒルデとキメラとの間に割って入って『バックラー』によって攻撃を防いだからだ。
「あ、ありがとうございます‥‥っ」
フロスヒルデがお礼を言うと「構わん、来るぞ」と言葉を残して横へと飛ぶ。
「分かっています」
フロスヒルデは集中して『ポメグラネイト』を振り上げて、斧の重量と遠心力を最大限活用してキメラへと攻撃を仕掛けた。
「一・撃・必・殺!」
攻撃はマトモに当たり、キメラは地面へと叩きつけられたのだが‥‥キメラの息の根を完全に止めるまでには至らず、キメラはゆっくりと起き上がる。
「あれ‥‥?」
(「あんたにはまだ早いって事でしょ。ほら、早く離れなさい」)
なっちゃんの声に促されてフロスヒルデは後ろへと下がる。
「逃がしませんよ」
篠崎は『弾頭矢』を使用してキメラへと攻撃をしかける。方向を転換する際に篠崎の攻撃を受けたため、そのままバランスを崩して再び地面の上へと舞い戻る羽目になった。
「そのまま寝ていなさい、それがあんたにとって一番良い事かもね」
マリオンは『ハンドガン』で攻撃を仕掛けてキメラが起き上がるのを阻止する。その間に鳳凰が『機械剣α』で攻撃を仕掛ける。攻撃を仕掛けた際に多少の攻撃を受けたけれど大きな傷ではなく、彼女は怯む事なく攻撃を続けた。
そして篠崎が動きを止めるように矢を放ち、マリオンとフロスヒルデが攻撃を仕掛けてキメラを退治したのだった。
「‥‥ふぅっ、とりあえずは1匹‥‥向こうの班はどうなのかな?」
フロスヒルデが呟くと篠崎が『トランシーバー』にて連絡を取る。現在向こうの班も交戦中という言葉が返ってきた。
「それじゃ、早く向かわないと‥‥」
フロスヒルデが呟くと「そうね、それじゃ向かいましょう」とマリオンが言葉を返してブラボー班が交戦している場所目指して動き始めたのだった。
※ブラボー班※
「やれやれ‥‥結構暗いな」
Anbarは呟きながらスキルを使用して、キメラの待ち伏せや罠などに対応出来るようにしていた。それにも関わらず未だにキメラは発見できていない。
「‥‥なかなか発見できませんね‥‥」
水無月が小さなため息と共に呟く。まだ何も騒ぎは起きていないから一般人などに被害が出ている可能性は少ないだろうが、早めに見つけない犠牲者が出ないとも限らない。
そのせいもあるのだろうか、少しだけ水無月は焦っているようにも見えた。
「今回のキメラは黒い獣だと聞く。影に紛れているやもしれんが、建物の上から来る事も考えておかねばな」
ゼノヴィアが呟きながら建物の屋根を見る。確かにキメラが真正面から来てくれるとは限らない、むしろ暗闇に紛れて、もしくはゼノヴィアの言う通り上からの奇襲攻撃を仕掛けてくると考えていた方がいいかもしれない。
「‥‥ビンゴ、かもな」
Anbarがポツリと呟き、勢いよく上を見る。すると今にも此方に襲い掛かってきそうな黒い獣が息を殺しながら見ていた。
「来るぞ!」
Anbarの言葉と同時に建物から飛び降りてキメラが襲い掛かってくる。
「くっ‥‥アルファ班に連絡をお願いします、私は少しでもあれの相手をしますので」
水無月が呟いた時にアルファ班からの通信が入った、先ほどキメラを退治したという通信で、今から此方へ向かうといって通信を切った。
「それでは、此方も片付けてしまいましょう‥‥罪なき人々を傷つけたこと‥‥到底許される事ではありませんよ」
水無月は呟きながら『菫』を構え、スキルを使用しながら攻撃を仕掛けた。その間、キメラも攻撃を仕掛けようとしたのだが、Anbarの攻撃によって邪魔をされた挙句に隙が出来てしまい、水無月の攻撃をまともに受けてしまう。
「お主の数々の狼藉、許すわけにはいかないでござる! いざ!」
兼定は愛用の武器を構え、スキルを使用しながらキメラへと近づき、そして攻撃を行う。今回は傷を癒してくれるサイエンティストが同行していないため、傷を受けるのは最小限にしなくては――兼定は心の中で呟きながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
そしてキメラが反撃と言わんばかりに攻撃をし返してきたのだが、ゼノヴィアが兼定とキメラとの間に入って『エンジェルシールド』によって攻撃を防ぐ。
「助かったでござる」
兼定は軽く礼を言ってキメラへと攻撃するために武器を手にする。
「構わん、気にするな」
ゼノヴィアは短く言葉を返して兼定と共に連携をするように攻撃を仕掛けた。
「犬っころ風情がいつまでもでかい面を晒しているんじゃねぇよ、てめぇにはここでくたばってもらうぜ?」
Anbarが接近戦を行う能力者たちを援護するように射撃を行い、キメラの足止めをする。
「傷つけられる苦しみ、あなたには理解できないでしょう‥‥だから私はあなた達に対して容赦はしません‥‥自分の行いはご自分に返ってくるという事をご理解なさいませ」
水無月はキメラに冷たい視線を向けて、手にした武器を振り下ろした。
20人の負傷者を出しながらも死者が出なかったというだけあって、力そのものは大した事はなかった。
そのせいもあってか、弱り始めたキメラに能力者達はそれぞれ攻撃を仕掛けて、アルファ班に続いて2匹目のキメラを退治したのだった。
―― キメラ退治を終えて ――
ブラボー班がキメラ退治を終えた頃にアルファ班が合流した。
「おや、お手伝いの必要はなかったようですね」
篠崎が苦笑しながら呟く。
「一応、ここに来るまでに他にもキメラがいないか見たけど、それっぽいのはいなかったわね」
マリオンが呟くと「確か傷口の種類も2種類でしたよね、これで終わりでしょうか」と水無月が言葉を返した。
「でも、倒したつもりで実は残ってました――じゃ洒落にならないから街全体を隈なく調べてからいこうぜ」
Anbarの言葉に「そうですね、そっちの方が私達も安心ですし‥‥」と水無月が言葉を返した。
「ふぅ、それにしても‥‥今回は2班に分かれて倒せるようなキメラだったからよかったが‥‥これが強敵だったら、と思うとぞっとするな」
鳳凰が呟くと他の能力者達も同じ事を考えているのか、首を縦に振った。
「拙者たちの傷もあまり重傷とは言えないものでござったからな‥‥『さいえんちすと』の御方たちがおらぬ以上、怪我には十分気をつけなくては」
兼定の言葉に「そうね、大怪我をしていたらと考えると怖いわ」とマリオンが言葉を返す。
「まぁ、此方側にも大した傷もなく退治できたからよしとするべきだろうな」
ゼノヴィアの言葉に「ふぅ、でも初任務ドキドキした‥‥」とフロスヒルデが小さく呟く。
「なっちゃん‥‥私、困っている人の為に頑張るよ! これからも宜しくね」
フロスヒルデが呟くと(「当たり前でしょ、仕方ないから宜しくしてあげるわ」)という声が響き、フロスヒルデはにっこりと笑顔になったのだった。
それから能力者達は街の隅々までキメラがいないか確認をした後で報告の為に本部へと帰還していったのだった。
END