●リプレイ本文
―― 今年も彼女は相変わらず ――
「今年の仕事始めがこれかい‥‥年明け早々から面倒な事になったもんだ‥‥」
はぁ、とため息を吐いて苦笑しながら呟くのはゲシュペンスト(
ga5579)だった。
「俺の方はシヅをデートに誘おうと思ってクイーンズ編集室に行ってみれば‥‥何と言うか徹底的にマリはお払いした方がいいんじゃないか?」
クイーンズ記者の静流を彼女に持つ威龍(
ga3859)も盛大なため息を吐く。
「友達の報告書とかを読んで知ってはいたが、色んな意味で凄いよな‥‥うん」
ジン・レイカー(
gb5813)も苦笑しながら呟く。
「‥‥たまには普通の取材をしてるマリさんを見たいですね」
水無月 春奈(
gb4000)が呟くのだが、恐らくそれを見ることは適わないだろう、いや‥‥すでに目にしているのかもしれない。なぜなら土浦 真里(gz0004)は今回のような事が『普通の取材』なのだから。
「はぁ、新年早々に何時も通りの出来事ですか‥‥今年も楽はさせてもらえないという事なのでしょうね、きっと」
虚ろな目で低く笑いながら呟くのはマリの旦那でもある玖堂 鷹秀(
ga5346)だった。普通ならば結婚して幸せなはずなのに、何故か彼は日に日にやつれていくような気がするのはきっと気のせいではないだろう。
「マリも結婚して少しは大人しくなるかと思ったが、無鉄砲なところは相変わらずか‥‥破天荒な嫁さんを貰って、玖堂さんも苦労するな」
哀れみの視線と共に威龍が呟くのだが玖堂は力なく笑うだけだった。
「ま、まぁ‥‥さておき土浦の救出だな――キメラの目撃数は?」
白鐘剣一郎(
ga0184)がマリのいる森にいるキメラの目撃数を確認する、するとオペレーターは「目撃数は1匹ですね」と言葉を返してきた。
「はっきりと1匹だとは言えないのですが、目撃証言全てが『1匹』になっていますので、8割方は1匹だと思って間違いないと思いますが‥‥」
「油断は出来ないというわけだな」
オペレーターの言葉の続きを白鐘が呟き、オペレーターは首を縦に振った。
「ふふ、綺麗な狐と聞いたら噂がキメラでも見てみたいものねぇ♪」
羅・蓮華(
ga4706)が今回の資料を見ながら楽しそうに呟く。彼女は覚醒状態が金色の狐耳と尻尾が現れて人妖狐化するため、今回のキメラには他の能力者以上に興味があるのだろう。
「ふむ、一番の問題は件の対象人物が大人しく言うことを聞いてくれるか、でござるな」
佐賀重吾郎(
gb7331)が呟くと「十中八九無理でしょうね」と玖堂が遠い目をしながら言葉を返した。
「まぁ、こうしていても何も始まらん。出発してマリを助けに行こうか」
威龍が呟き、能力者達は無鉄砲破天荒記者が彷徨っている森へと出発していったのだった。
―― 静寂の森・潜むキメラ ――
マリを救出、そしてキメラを退治にやってきた能力者達は迅速に任務を遂行すべく班を2つに分けて行動する作戦を立てていた。
A班・白鐘、水無月、羅、佐賀の四人。
B班・威龍、玖堂、ゲシュペンスト、ジンの四人。
「とりあえずマリの救出・保護が最優先だな。何かあったらお互いの班で連絡を取り合おう」
威龍が呟き、A・Bの両班はそれぞれ行動を開始し始めたのだった。
※A班※
「静か‥‥ですね」
水無月が森の中を見渡しながら呟く。キメラがいるせいなのか森の中はひっそりと静まり返っていた。
「皆でお互い死角をカバーし合おう、不意打ちを受けると厄介だからな」
白鐘が呟くと他の3人も首を縦に振る。
「それにしても、その週刊記者さんは何処にいるのかしらね?」
羅が周りを見渡しながら呟くけれど、マリの姿は見当たらない。
「真里さ〜ん、助けにきましたよ〜。近くにいたら返事をしてくださ〜い」
水無月が『バハムート』をバイク形態にして乗りながら少し大きめの声で叫ぶけれど、マリからの返事は無い。
「この辺にはいないのでござろうか」
佐賀も捜索しながら呟くが、僅かな鳥の羽ばたく音しか聞こえず、人の気配は感じられない。
「ねぇ、これって‥‥」
捜索をしている途中で羅が足を止めて地面を指差す。するとそこにあったのは少し大きな獣の足跡。普通の獣ならばここまでの大きさは無い。
つまり――‥‥。
「キメラが、この近くにいるという事なのでしょうか‥‥?」
水無月が触れた木には爪の跡も残されており、残された爪跡は古いものではなく、先ほどつけられたような傷跡だった。
「人の気配は無いから、救助対象は近くにはいない‥‥これだけでも幸いかな」
白鐘が小さく呟き、愛用している『月詠』に手を掛ける。
「‥‥視線はそのままで聞いて。此処から20メートルくらい行った所にある木の右上、キメラがいるわ」
羅が視線はそのままで能力者達に話しかける。恐らくキメラは此方の様子を窺っているのだろう。警戒するような、しかし今にも飛び掛ってきそうな――そんな雰囲気を出していた。
「此方‥‥A班、キメラを確認した。まだ救助者は発見していない、これより‥‥牽制に入る」
白鐘がトランシーバーを使ってB班へと連絡を行う、ほぼそれと同時にキメラが此方へとやってきてA班はB班が合流するよりも早く戦闘を開始したのだった。
※B班※
「A班の方がキメラと遭遇したようだな、1匹だけと油断は出来ないがマリの捜索を急ごう」
A班から『キメラを確認した』という連絡があった後、威龍は投稿ハガキと地図とを見比べながら「このハガキの主が目撃した場所とは違う場所にいるんだな」と言葉を付け足した。
「しかし、前にも思ったがトラブルを引き寄せる能力だけは抜群だな‥‥いや、自分からトラブルに突入しに行ってるのか?」
苦笑しながらゲシュペンストが呟くと「自分から、ですね」と遠い目をしながら玖堂が言葉を返した。
「とりあえずどの辺にいるんだろうな、大きくもないけど小さくもない森だから結構探すのには苦労するなぁ‥‥」
ジンが「うーん」と唸りながら周りを見渡してみる、キメラの近くにいないだけでもまだ良い方なのだが、先ほど威龍も言った通りキメラが1匹だけとは限らないので捜索を急がねばならない。
「あの女が何かしでかす前に片付けてしまいたいところではあるな‥‥前みたいにキメラを追っかけてなけりゃいいが‥‥あ、キメラはA班が交戦中だから、その心配だけはないな」
苦笑しながらゲシュペンストが呟く。
「此方から闇雲に探しても仕方ありません、照明銃でも打ち上げてマリさんに此方の居場所を知らせましょうか」
玖堂が呟いた時だった。
「あれー? 鷹秀じゃん」
頭が痛くなるほどのけろりとした口調で話しかけてきた人物がいた、勿論言うまでもないが捜索対象だったマリである。
「あ、もしかして助けに来てくれたんだー? ありがとー♪ やー、さっきまでキメラの近くにいたんだけどさー、ちょっとヤバイかなー? って 逃げてきたんだよねー。でもでも結構な良い写真が撮れたから現像したら見せてあげるねー」
能力者達の苦労など微塵も感じていないマリはカメラを見せながら「あはは」と笑って話している。
「こちらB班、救助対象を見つけた。これより其方に向かう」
威龍はトランシーバーでA班に連絡をいれ「とりあえず無事でよかったというべきか」とけろりとしているマリを見て盛大なため息を吐いたのだった。
「ちなみにキメラは何匹いた?」
ゲシュペンストが問いかけると「ん〜? 多分1匹じゃないかな? 結構歩き回ったけど他には見つからなかったし」と恐らく今回の取材で得た情報を書いたメモなのだろう、それを見ながらマリは言葉を返してきたのだった。
「まぁ、大人しく待っているとは思わなかったがな‥‥」
苦笑しながら呟くゲシュペンストに「本当に、凄い人だよな」とジンは小さな声で独り言のように呟いた。
「とりあえずA班のところに急がないとな」
ジンは付け足すように呟き、A班がキメラと交戦している場所へと急いだのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS 狐型キメラ ――
「救助者はB班が見つけたようだ、だが‥‥このまま放置しておくわけにも行かないからな。叩かせてもらうぞ」
白鐘が呟き、狐型キメラに斬りかかる。マリを救助したからといってキメラを放っておいていいという事はない。
「そうね、B班が来るまでは牽制をしておいて合流したら一気に叩きのめしましょ」
羅はキメラの攻撃を『盾扇』で防ぎながら呟く。
「速い、素早い、だがその程度では‥‥」
佐賀はキメラの攻撃に耐えながら呟き『蛍火』で攻撃をし返すのだが、キメラにはひらりとかわされてしまう。
「逃げられると思ったら大間違いですよ」
後ろへステップした所に水無月が待機しており『天剣 ラジエル』で攻撃を行う。その時にマリを連れたB班が合流して、能力者達はキメラを退治する為に本格的に戦闘を開始したのだった。
「真里さんは後ろにいてくださいね――じゃないと、守りきれねぇからよ!」
玖堂は覚醒を行いながらマリを後ろへと下がらせ、スキルを使用してキメラの防御力を低下させた。
「えぇー、もっと前にいかないとちゃんと戦闘場面を撮れないんだけどなぁ‥‥」
玖堂の言葉にマリは口を尖らせて文句を言うのだけれど、とりあえずは従っておくことにした。なぜなら背中ごしでも分かるくらいに黒いオーラが玖堂に漂っているような気がしたからだ。
「ほら狐さん、私は美味しいわよ。食べられたら狐の共食いかしら? ふふっ」
羅はキメラの正面に立って扇を構える、そしてキメラの攻撃が直撃する一歩前まで悠然とした態度でおり、そして攻撃を流れるように避ける。挑発とも取れる行動にキメラも多少怒りを感じたのだろう。今までよりも素早い動きで羅に向かってキメラが走り出した。
「‥‥正面ばかり見すぎですよ、注意力が足りません」
羅に向かっていくキメラに水無月が呟き、側面から尻尾を斬り落とす勢いで攻撃を仕掛ける。あまり良いとは言えない音をたてながらキメラの尻尾は地面へと落ち、けたたましいキメラの叫び声が静かな森の中に響き渡った。
「‥‥この尻尾でうまくアクセサリーできないものでしょうかねぇ‥‥」
「止めておいた方がいいんじゃないか? あんまり縁起が良いモンとも言えないしな」
水無月の呟きに威龍が言葉を返し、スキルを使用してキメラとの距離を詰め、再びスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「とりあえず、邪魔にならないようにしてくれればそれでいいさ。それ以外は言っても意味がなさそうだしな」
ゲシュペンストはマリに言葉を投げかけながら『小銃 S−01』で牽制攻撃を仕掛け、次いで『激熱』へと武器を変えてスキルを使用しながら攻撃を仕掛けた。
「ひはっ、さぁ‥‥楽しませてくれよ? まさかそれでおしまいじゃねぇだろうな?」
ジンは真っ赤な瞳でキメラを見据え、キメラの死角から『隼風』を使って中距離攻撃を仕掛け、そして後ろへと下がる。
「ほらほら、もっと楽しませてくれないと面白くねぇだろ?」
再び前へと距離を詰め、今度は中距離ではなく近距離から連続で攻撃を仕掛ける。
「天都神影流・斬鋼閃っ!」
ジンの攻撃を数度受け、逃げようとキメラが後ろに下がった所を白鐘がスキルを使用して攻撃を仕掛けた。
「流石に素早くてもこの人数をうまくは避けきれないだろ?」
ゲシュペンストが呟きながら攻撃を仕掛け、かなり弱らせて来ているのを感じたのか玖堂がスキルを使用して能力者達の武器を強化する。
「そろそろおしまいねっ! ちゃんと写真を撮らなくちゃっ!」
カメラをすちゃっと構えて前に出ようとしたマリを見て玖堂は大きなため息を吐く。
「あの時のように少しくらいおしとやかになってくれると‥‥有り難てぇんだけどなぁ〜」
「あの時?」
玖堂の言葉にマリが首を傾げながら問いかけるとニヤと玖堂は黒い笑みを浮かべる。
「具体的に言うと『離れちゃヤダ』って首に腕を「うわわわわわわわわわ!!!」‥‥大人しくしとくよな?」
何を言おうとしているのか理解したマリは大声で玖堂の言葉を遮り、真っ赤になりながら首を縦に振るしか出来なかった。
「何だかよく分からなかったが、とりあえず大人しくなったのか‥‥?」
白鐘はスキルを使用しながら『天都神影流・流風閃』を繰り出して攻撃を行う。
「はぁい、いらっしゃい」
よろめいたキメラは羅の方へと向かいながら攻撃を仕掛け、羅の繰り出したスキルによって他の能力者の方へと飛ばされてしまう。
「そっち行ったわよ!」
地面に叩きつけられるようにキメラは転がり「さようなら、気品の欠片もないキメラさん」と水無月の攻撃によってトドメとなったのだった。
―― 懲りないからマリなんです、懲りるはずがないんです ――
「下調べ不足でこの事態。勢いだけで動くと酷い目に逢うという教訓として、少し自重した方がいいぞ」
苦笑しながら白鐘がマリに向けて言葉を投げかけるのだが「大丈夫よ、このくらい慣れてるもん!」と全く懲りていない、反省の欠片もない言葉が返ってくる。
「マリが我儘言う分だけ旦那に負担かけているって、そろそろ気づけよな。新婚早々で未亡人にマリがあえてなりたいっていうなら俺は止めないけどな」
威龍の言葉に「なんてこというのよ! うちの鷹秀は死にませんっ!」とチョップを食らわしながら言葉を返す。
「まぁ、今回も無事に帰って来れましたけど‥‥あまり無理はしないで下さいね」
「‥‥‥‥」
全く守るつもりがないのか、マリは水無月の言葉に対してにっこりと微笑むだけで『うん』という言葉を言う事はなかった。
「そういえば、今日はいつもより暴走が酷かった気がしますが‥‥何かあったんですか?」
玖堂が問いかけると「え? 新年早々こういう事に巻き込まれるって事は今年も無茶しなさいって言われてるのかなって思っただけー!」と笑いながら言葉を返した。
「‥‥『今後も同じような事が起きるから少しは自重しなさい』という戒めの現れだと私は思うのですが如何でしょーか!!」
玖堂は拳を強く握り締め、拳骨の中指部分でマリのこめかみをぐりぐりとしながら言葉を返し「い〜〜た〜〜い〜〜! ちょ! 真面目に痛い痛い!」とマリは悲痛な叫びをあげる。
しかしマリは肝心な所でおバカであり、キメラに怪我させられたらこれ以上に痛いという事を気づこうとしなかったのだった。
END