●リプレイ本文
― 現れた最も嫌な敵・大石小石 ―
それはLH前代未聞の大事件なのかもしれない。30メートル前後の巨大なモノが1体と無数の鉛筆よりも少し大きいモノがLHを襲撃しにやってきたからだ。
しかし、これだけならば能力者達はまだ我慢できたかもしれない。巨大な敵と無数に存在する敵、それらを打ち倒すべく自らを奮い立たせてLHを守ろうと頑張れる筈だから。
だが、今回現れた敵は褌ファイターの大石・圭吾(gz0158)の姿をしていたから能力者達のやる気は削がれるというものだ。むしろ殺る気が満々と溢れ出てきそうである。
「面倒な奴だな‥‥あの褌は‥‥」
西島 百白(
ga2123)が「はぁ‥‥」と盛大なため息と共に呟く。
別な場所では堺・清四郎(
gb3564)が自宅窓から巨大大石と小さな大石を見てぽかんとした表情をしていた。
そして目が疲れているのかと目を擦るが彼の瞳が映す視界は擦る前と同じで。その後はよほど目が疲れているのだろうと目を洗うけれど先ほどと同じ視界に堺は頭を抱える。
「そうか、実はまだ夢の中なんだな」
そう呟いて堺は頬を抓るが何となく痛いような気がする。
「‥‥顔に傷を負った時に強く頭も打ったか‥‥? いかんいかん、マドリードでの疲れがまだ取れていなかったか‥‥酒でも飲んで今日は休むか」
結局、堺が行き着いた先は再び就寝するという現実逃避だった。しかし外から聞こえる悲鳴などで寝る事など出来ず、がばっと勢いよく起き上がって漸くこの状況を受け入れる事が出来た。
(「俺が思う事は只一つだけだ、大石‥‥日本男児の名誉の為、UPCおよびULTの名誉の為にこの世から消えうせろ!!」)
堺は心の中で呟くと自身の愛機であるミカガミに乗る為に準備を始める。勿論あの褌男を退治する為に。
「‥‥趣味が悪すぎる」
ゲシュペンスト(
ga5579)は小さな大石軍団と巨大大石を見ながらため息を吐く。
「こんなのにLHが滅ぼされた日には最大の恥だ」
むしろこんなのに滅ぼされたら他の倒れていったバグアに謝れ、という勢いである。ゲシュペンストも愛機のリッジウェイに搭乗して巨大大石を倒すべく動き始めた。
「‥‥バグアは何で、こんなに大石さんが好きなのかしら。前にも似たようなことがあったような‥‥」
天道 桃華(
gb0097)は遠くから此方へとやってくる巨大大石を見ながらため息混じりに呟いた。
「戦いに出る前に居住区への被害を少しでも食い止めないと‥‥」
天道は考えた末に褌にサラシ姿という格好で巨大大石と小さい大石を引きつけようと考えた。
「ちょっと待ちなさい! あんた達の大好きな褌よ!」
小さい大石が戦えない住人に攻撃を仕掛けようとしていた所、天道が颯爽と現れて仁王立ちする。
しかし‥‥。
「ムネ、チイサイ、キサマ、オンナジャナイ」
「ムネ、チイサイ‥‥‥‥アワレナ」
「ムネ、チイサイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ぷっ」
小さい大石は天道に対して凄く失礼な言葉を並べ立てる。しかも何故か罵声を浴びせる小さい大石たちの最初の言葉は『ムネ、チイサイ』だった。
「‥‥‥‥わざわざ着替えたのにっ!!」
拳をわなわなと震わせながら天道の怒りゲージが上昇していくのが分かる。
「ムネ、チイサイ‥‥ムネ、チイサイイィィィィ!!!」
何故か小さな大石たちの怒りゲージも上昇していく。それほどまでに天道の小さな胸が許せなかったのだろうか。
「ちょ、ちょっと! 何でアンタ達が怒るわけ!? 怒りたいのはこっちなのに!」
理不尽に怒られる天道の怒りゲージも既にMAXぶっちぎりである。
「手加減してあげようと思ったけど予定変更よ! こうなったら跡形もなく叩き潰してやるわっ!」
ムネ、チイサイの言葉がよほど彼女を傷つけたのだろう、天道の目は本気である。
そして彼女は愛機のバイパーに搭乗して、巨大大石を倒すべく動き始める。
「本当に厄介な事だけど、まぁ‥‥やるしかないわよ」
アンジェラ・ディック(
gb3967)はため息を吐き、肩を竦めて見せながら小さく呟く。
「コールサイン『Dame Angel』、LHに襲来せし大石1体と小石無数を直ちに撃退するわよ。迷惑千万な状況は直ちに処理するに限るわよ」
アンジェラの言葉に「宜しくお願いします」と室生・舞(gz0140)はぺこりと頭を下げて他の能力者達の対応に当たったのだった。
「――――くっ、バグアめ」
UNKNOWN(
ga4276)は憂いの表情で巨大大石を見て、そして愛機ヘルヘヴンを高速二輪モードにしたまま巨大大石へと向かってKVを走らせたのだった。
― それぞれの戦い・小石 ―
「殲滅‥‥開始‥‥!」
西島は無数の小さな大石の前に立ち『M−121ガトリング砲』で可能な限り、小さな大石の数を減らしていく。やはり小さいというか見た目通りに個々の強さは下の下以下であり殲滅に苦労する事はない。
だが、数が多ければ何が起こるか分からないのが戦いである。
「‥‥面倒だな」
ちっ、と舌打ちをしながら小さな大石から距離を取って『M−121ガトリング砲』のリロードを行う。
しかし戦いを行ううちにガトリング砲も弾切れを起こしてしまい、そのまま西島はがしゃんとガトリング砲を放り捨てるように投げると『グラファイトソード』を構えて近づいていた小さな大石を斬り伏せる。
「遠距離より‥‥俺はやはり‥‥こっち、近距離だな‥‥」
馴染んだ感触に西島は小さく首を縦に振ると「さて‥‥狩りの始まりだ‥‥」と言葉を付け足したのだった。
「危ないわ!」
アンジェラが呟き、西島の背後にいた小さな大石数体を『アサルトライフル』にて撃ち倒す。西島は背後を見ると褌を持った小さな大石が数体倒れており、おそらく褌で西島の首を絞めようとしてきたのだろう。
「面倒は‥‥嫌いなんだ」
呟きながら此方へと向かってくる小さな大石に向けて『ソニックブーム』を仕掛けて一気になぎ倒す。
「とりあえず、相手がどんな様相であろうとも平静でいないとね。まぁ‥‥ああいうものだから人によっては心理ダメージが大きいでしょうけども」
苦笑しながらアンジェラが呟き、アサルトライフルで攻撃を続ける。確かにこんな褌一丁の敵が相手ではマトモな能力者達は耐えられない可能性が高いのだ。
「他の皆はあの巨大大石と接触したみたいね、私達も小石を片付けて行きましょう」
アンジェラは呟き、倒しても倒しても減らない小さな大石に少しだけため息を吐いた。
「いい加減‥‥面倒に‥‥なってきたな‥‥」
苛々とした口調で西島が呟き、小さな大石たちの攻撃をグラファイトソードで防ぎ、カウンター攻撃として小さな大石を攻撃する。単調なその行動に苛々とするのも無理はないのかもしれない。
しかし小さなダメージも積み重なれば大きくなり、既に西島とアンジェラの生命値は半分近くまで削られていた。
「ふぅ、まだ戦えるけど‥‥このままじゃキリがないわね」
アンジェラが呟いた時「ガァァァァァァァァ!!!」と西島が大きな声で叫び始める。
「いい加減にしろ! 貴様等あぁ!!」
小さな大石を蹴り飛ばしたり、殴りつけたりなどしながら西島が叫ぶ。
「見渡す限り褌! いい加減にしろ! せめて海パンにしろ!!」
(「‥‥ツッコミ所はそこでいいのかしら」)
西島の叫びを聞きながらアンジェラは冷静に心の中でツッコミを入れて小さな大石を退治している。
「ガァァァァァァァ!!!」
既に西島は暴走モードに入っているようで小さな大石を蹴り飛ばしたり、踏み躙ったりしている。気がつけばアンジェラと西島、2人の後ろには小さな大石で出来た山が完成していたのだった。
― それぞれの戦い・大石 ―
「あれと戦ったら俺の剣虎が穢れる気がしてならん」
巨大大石を見ながら堺がポツリと呟く。一度口に出してしまうと沸々とこみ上げてくる怒りが堺の中で渦巻く。
「なんだかそう思うと無性に腹が立ってきた‥‥」
ぐぐぐ、と拳を強く握り締めながら堺は呟きミカガミで巨大大石へと立ち向かい始める。
「ぅぁ‥‥嫌なもの見た」
天道はバイパーに搭乗して戦闘を行うのだが、陸戦で戦う以上、大石を見上げなければならない。その先に何があろうとも、彼女は見上げるだろう、戦うために。天道が止まっている場所は大石の足の間、見上げれば必然的にそれがある。嫌なものを見せられた腹いせに彼女は『明けの明星』や『KVジャイアントハンマー』で叩き込む。
「はぅぅっ‥‥!」
男性の急所とも呼べる場所を攻撃されて巨大大石は涙目になり、そのまま地面へとうずくまり「はぅぅぅ」と悲痛な声をあげている。
「隙あり!」
蹲った巨大大石に突撃するように駆け出すと天道は『ツインドリル』で巨大大石のOSHIRIを狙って攻撃する。俗に言うKANCYOのような使い方である。もし、もしも使われているツインドリルに心があったならば『いやあああ、やめてぇぇぇ!』と泣き叫んでいることだろう。
「えぐえぐ、こんな使い方したくなかったー」
泣きながら天道は呟き、再び攻撃態勢を取る。その頃、ゲシュペンストは巨大大石を頭上から攻撃する為にビルの屋上などを飛び移りながら巨大大石へと接近していた。
「くぬぅ‥‥俺の褌を狙って攻撃とは‥‥さすがは胸が小さい女だ! 心も小さい!」
意味が分からない。しかし天道の怒りを駆り立てるには十分すぎる言葉だった。
「待てぃ!」
巨大大石の頭付近にあるビルの屋上から太陽の光を背にして現れたのはゲシュペンスト。
「あられもない姿で闊歩する変態よ! 己の姿を見るがいい! 正しき姿を示す光、人それを鏡と言う‥‥」
ゲシュペンストの言葉にビルの窓ガラスに映った自分を巨大大石は確認する。
「うむ、イケメンだ」
もはや話にならないほどに頭が湧いている。
「人を変態扱いするとは‥‥キサマ何者だ!」
恐らくこれを聞いていた能力者達は心から思った事だろう、変態に変態と言って何が悪い、と。
「キサマに名乗る名はない!」
そう叫ぶとゲシュペンストはビルの屋上から飛び降り『究極、ゲシュペンストキック』を食らわす。ゲシュペンストキックとは『レッグドリル』を使った必殺攻撃パターンだった。まるで戦隊モノのようにド派手な急降下キックである。
「究極! ゲシュペンストキィィィィック!!」
ゲシュペンストは叫びながら巨大大石に攻撃を仕掛ける。巨大大石の頭に命中したその攻撃は巨大大石から意識を少しだけ奪い、巨大大石はズシンと大きな音をたてながら地面へと倒れた。
「卑怯な‥‥おのれぇぇぇ‥‥」
呻くような低い声と共に巨大大石が立ち上がろうとした時、高速二輪モードで小さな大石達を蹂躙しながらやってきたUNKNOWNがローリンエンドで円状のブラックマークをつくり、パワースライドのドリフトをかましながらダブルフロントフリップの前方2回宙返りをして、そのまま巨大大石に突撃する。
勿論そんな事をすれば機体が炎上するのは目に見えている、しかしUNKNOWNは機体が炎上する前にコックピットから脱出を図る。怪鳥の構えで飛び上がり、爆風でさらに上空へと押し上げられて、蹲ったまま爆風に曝される巨大大石の上にひらりと降り立つ。
「‥‥くっ、バグアめ」
UNKNOWNは呟きながらぐりぐりと足の下の巨大大石を踏み躙る。勿論彼は大石に対して恨みはない、しかし敵となった以上戦わなければならないのは運命である。白絹のロングマフラーを風に靡かせながら大破して炎を巻き上げる自分の機体を見たのだった。
「この程度で‥‥俺が死ぬかぁぁぁぁぁ! 俺が死んだら残された褌はどうなるんだ! 死んでなるものかぁぁぁ!!」
まず、大石が死んでも褌たちの日常は変わらないことは言っておこう。
「貴様が死んでも世界にマイナス部分はない! むしろプラスになる事ばかりだ!」
堺は殺意と必殺と滅殺の思いを込めて『雪村』で攻撃を仕掛けた。
「死ねぃ!」
堺は急所を狙って攻撃を仕掛ける、そして再びゲシュペンストも攻撃を仕掛けて巨大大石が立ち上がる隙を与えない。
「許さん! 俺の褌を奪うためにこんな事をするなんて‥‥!」
大石は爽やかに微笑んで『キラン☆ビーム』で能力者たちに攻撃を仕掛けた。このビームによって生き残っていた仲間の小さな大石もなぜか攻撃を受けて倒れていく。
「何て技なの! こんな技にやられるなんて嫌よ! この巨大大石っ! 大人しくしないなら‥‥斬り落とすわよ!」
天道の言葉にハッと巨大大石は斬り落とされるかもしれない場所を隠す。
「隠す事もない、そのまま無に還れ‥‥」
堺はそのまま再び攻撃を仕掛ける、巨大大石は転んでしまうと起き上がるのに時間がかかるのか中々起きられずにいる。
勿論、そのチャンスを逃す能力者達ではない。それぞれの持てる力全てを出し切って巨大大石に攻撃を仕掛け、そのまま巨大大石を退治したのだった‥‥。
― 目覚め、悪夢から覚めて ―
これまでの話は全て夢であり、能力者達は貴重な初夢を大石に捧げてしまったと言っても過言ではない。
「‥‥最悪だ」
汗びっしょりで目覚めたのは西島、彼は目が覚めたあと暫くの間天井を眺めており、そして夢の中とはいえ大石が出てきた事に対して沸々と腹が立ち始め、新年早々から大石を探しに本部へと向かう。
するとそこには任務を探している大石の姿があり「おい」と西島は話し掛ける。
「おお、あけましておめでぶぁ!」
大石の言葉を最後まで聞くことなく西島はその顔面に拳を叩き込んだ。
「‥‥恨むなよ?」
そうは言っても大石としては何故自分が殴られるのかさっぱり理解することが出来ず「ちょ、何で俺が殴られるんだ! 理由を説明するんだ!」と叫び続けていた。
そしてUNKNOWNは椅子に腰掛けたまま眠ってしまっていたらしく、がばっと勢いよく起き上がり、そのままコートを翻し急ぎ足で格納庫へと向かう。
(「正夢か‥‥」)
UNKNOWNは「ふ」と口元に薄く笑みを残しながら格納庫へと向かう。しかし夢の中では大破した筈のヘルヘヴンの無事な姿を見て愕然とする。
そして「くっ」と呟きながら片膝をつき、がっくりとした表情を見せる。
「くっ‥‥バグアめ‥‥いや、キャァ〜〜ス〜〜タ〜〜〜!!」
UNKNOWNの叫びが格納庫内に響き渡ったのだった。
「もしかして‥‥今年の俺の運勢は悪いのか? 初夢からあんな夢を見るなんて‥‥」
ゲシュペンストも同じく汗びっしょりで起き上がり、見慣れた自分の部屋である事を安堵した。
(「しかし本当に夢でよかった‥‥あんなのが現実だとしたら恐怖なんてもんじゃないぞ」)
はぁ、とゲシュペンストはため息を吐いた後に水を一気に飲み干す。よほど水分を消費していたのかペットボトル1本分を苦なく飲み干す事が出来た。
「最悪だわ、最悪以外のなにものでもないわ」
はぁはぁ、と髪を振り乱しながら天道も目を覚ました。彼女としては彼氏とラブラブな夢でも見たかったのだろうが、よりによって現れたのは褌男、今年一年、始まりからして不吉である。
「それにしても夢の中まで胸ない胸ないって‥‥私はまだ12歳だもの! これからの成長具合によって大きくなるのよ!」
「無理だと思う」
いきなり返事が来たことにたいして「はっ!?」と天道が周りを見渡すと何故か大石が我が家に乗り込んできていた。恐らく彼女の父に会いにきたのだろうが天道の呟きを聞いてしまった大石が自信満々で言葉を返してきた。
「‥‥夢の中でも、現実でも‥‥! あんたなんか嫌いよー!!」
新年早々、天道の家では彼女の叫びが響き渡ったのだった。
「ぶはぁっ! 何と言う初夢だ!」
堺は息を乱しながら起き上がり、顔を覆っていた褌を床に投げ捨てる。どうやら朝の着替えに出しておいた褌が堺の顔に引っ付いていたらしい。見る人が見たらまるで死人の如くであり別な意味で「きゃー!」だったに違いない。
「しかし大石‥‥ここまで迷惑な奴だったとは‥‥次にあったら一発殴らせてもらおう」
堺は汗に塗れた額を拭い、顔を洗いにふらふらと洗面所へと向かっていったのだった。
「‥‥なんだろう、今年の初夢は清々しくなかったなぁ‥‥一年の始まりなんだからもうちょっと清々しい夢にしてくれてもいいのに」
アンジェラは呟きながら水を一口飲む。夢の中では延々と小さな大石を相手にしていたせいか、あまり夢だったという実感がなく、今まで戦っていた、そんな気がしてならなかった。
「まぁ、とりあえず暫くはあの顔を見たくはない、かな?」
苦笑しながらアンジェラは呟き、今日も1日頑張るために着替えを始めたのだった。
END