タイトル:冬の狂桜マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/26 01:26

●オープニング本文


その桜は狂い咲く。

花びらを刃に変えて、見るものを惑わし、切り刻む。

※※※

その山には桜が咲いている。

その桜は人を襲い、自らを血で染め上げて艶やかに咲くのだとか。

「桜がキメラと化し、狂い咲いて人を襲う――か、花見の時期だったら大変だったわね」

女性能力者は資料を見ながらため息混じりに呟く。

「地面に確りと根付いてて動けないから近寄らなければ被害はなさそうだけどな」

「それがそうでもないみたいよ、この山の麓に街があるんだけど花びらが襲ってくるんですって。これは能力者も実際に行って見てきたらしいわ」

倒してこなかったのか? と男性能力者が言葉を返すと「うーん、その辺が詳しくは分からないけど」と女性能力者も首を傾げながら言葉を返した。

「とにかく、油断は許されないみたいね――花びらの攻撃は大した事はないみたいなんだけど――塵も積もればって事もあるでしょうし」

女性能力者は呟きながら再び資料に目を落とす。

そこにはぼやけているけど、その存在を誇張するかのような桜が映し出されていた。

●参加者一覧

水無月 湧輝(gb4056
23歳・♂・HA
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
九条・葎(gb9396
10歳・♀・ER
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
9A(gb9900
30歳・♀・FC
カンタレラ(gb9927
23歳・♀・ER
ゼノヴィア(gc0090
20歳・♀・EP
風間 千草(gc0114
19歳・♀・JG

●リプレイ本文

― 冬の桜を狩る者たち ―

「退治するのは桜の花か‥‥害がなければ咲かせといても良かったんだろうがね‥‥」
 超機械『ST−505』を弾きながら呟くのは水無月 湧輝(gb4056)だった。
「このあたしに向かって桜のバケモノたぁ、いい度胸だぜ」
 腕を組み、少し不機嫌そうに呟くのはウェイケル・クスペリア(gb9006)である。
「こんな任務、さっさと終わらせて遊びに行くに限るぜ」
 ふん、と腰に手を当てながらウェイケルは今回の任務の資料に視線を落とす。
「‥‥冬の桜」
 ぽつりと呟くのは九条・葎(gb9396)で、かくりと首を傾げながら資料を見ている。
(「冬の桜って、風情があるんでしょうか? 寒空の桜というのも悪くは無いと思いますが‥‥季節外れの感は拭えません」)
 何を思って植えて行ったんでしょう、九条は心の中で疑問に思っている事を呟く。
「そういえば、前に行った能力者が斬らないで帰った理由を調べてみたんですけど‥‥」
 エイミ・シーン(gb9420)が調べた事を纏めたメモを見ながら他の能力者達へと知らせる。
「えっと、資料にもある通り桜の花びらで攻撃してくるみたいなんだけど‥‥本体に近くなる程花びらの威力が増すみたいだよ。だから倒せずに帰ったみたい」
 エイミは『何故能力者達がキメラを倒さずに帰って来たのか』を不思議に思って調べた所分かったことだった。離れている分には資料にある通り、大きな威力は発揮しないらしいが、近づけば近づくほど花びらの数が増し、此方が受けるダメージが大きくなっていくのだと言う。
「洗脳してくる可能性もなくはないと思って調べてみたけど、洗脳とかの心配はなさそうだね。あ、でもキメラだって分かってるけど凄く綺麗な桜だったって言ってたかな」
 エイミの言葉に「桜‥‥ねぇ」と9A(gb9900)が苦笑しながら言葉を返す。
「ま、どれだけ綺麗でも所詮はバグアが作ったキメラだ。叩っ斬るだけさ」
 9Aの言葉に「そうなんだけどね」とカンタレラ(gb9927)が苦笑しながら呟く。
「まぁ、私がこの任務に参加したのは冬に咲く桜が見たくて‥‥とちょっと動機が不純かしら。でもキメラでも凄く綺麗だと思うのよね」
「ふむ、確かに冬に舞う桜‥‥さぞやの風情である様だな。害さえなければ断たれる事もなかったのだろうが、これも人の営みか」
 全身を鎧で包み、古風な口調で話すのはゼノヴィア(gc0090)だった。鎧で彼女自身が見えないせいか威圧感を感じさせていた。
「とりあえず、前任の能力者達が任務遂行できなかったのは花弁のせいだとしても、まだ何か残されているかもしれないな。何にせよ、慎重に、かつ迅速に事を済ませたいものだ」
「そうね、もう一度作戦内容を確認してから出発しましょうか」
 カンタレラが呟き、能力者達は自分達が話し合って決めた作戦内容が書かれた紙をもう一度よく見る。
 山に到着したら後衛の火力を面として集中してくる花びらなどをねじ伏せ、前衛の為に道を開いて、前衛が突破して桜の樹を攻撃するという作戦。
「突破する前衛さんには私が練成強化をするわね」
 カンタレラが呟き「ふむふむ」と千草 千草(gc0114)が呟きながら作戦内容を確認している。
「なるほどそういう作戦で行きますか、わかりました」
 首を縦に振りながら千草は呟き「それじゃ出発しましょう」と能力者達は現地へ赴くために高速艇へと乗り込んだのだった。


― 舞う花びら、不気味に佇む山 ―

 目的の山へと到着して、能力者達は高速艇を降りてからキメラがいるとされている場所へと向かう。山全体が不気味な雰囲気に包まれており、それもキメラのせいなのだろうか、と能力者達は心の中で呟いた。
「‥‥この山道だとその格好きつくないです?」
 エイミがゼノヴィアに話しかける。彼女は全身が鎧に包まれているため、他の能力者達より重さと戦っている。
「む、少しな‥‥だが問題は「もう少し‥‥だからふぁいと!」」
 ゼノヴィアが言葉を言い終わる前にエイミはゼノヴィアの背中を押して、少しでもゼノヴィアの負担が軽くなるようにした。
「ありがとう、受けた恩は戦場で返す」
 ゼノヴィアの言葉に「困った時はお互い様だよ」とエイミはにぱっと笑って言葉を返した。
 そんな中、水無月は先頭に立ち、エレキギターの形状をしている超機械を鳴らしながら目立つように行動を始めた。
「目立って大丈夫かい?」
 9Aが問いかけると「問題はないだろう」と水無月は短く言葉を返した。
「黙ってたって攻撃は飛んでくる。だったら他の被害が出ないように注目を集めた方がいいんじゃないかね?」
 水無月の言葉に『確かに』と思った瞬間、空からピンク色の花びらが舞い始め、能力者達を傷つけ始めた。これがキメラの『傷つける花びら』なのだろう。
「さて‥‥突入路を作る。あとは頑張れよ」
 水無月は先ほどまでと表情を変えて前衛で戦う能力者達に言葉を投げかける。
「ち、ウザってぇ」
 小さな花びらたちを見てウェイケルが忌々しそうに呟く。花びらを操っているキメラを倒さない限り、キリがないのでウェイケルが呟くのも無理はない。花びらのスピード自体はゆらゆらとゆっくりなのだが、数が多いためやはり苦労は拭えない。
「悪夢を終わらせるよ」
 エイミは『機械本 ダンタリオン』に向けて呟き「そして奏でるよ、狂想曲を」と『超機械 ザフィケル』を構えながら呟く。
「ふ、こういうのは花見のシーズンに見たいね――残念だけどボクはキメラから放たれる花びらを見ても負の感情しか現れてくれないよ」
 9Aは呟きながら『忍刀 颯颯』で花びらを斬りつけていく。しかしやはり全てを斬る事は適わず僅かながら傷を負ってしまう。
「あら、綺麗ね」
 カンタレラは舞う花びらを見ながら呟く。危ない物だと分かっているけれど『綺麗』と思う感情はどうにも出来ないと心の中で呟く。
(「不謹慎かもしれないけど、年の瀬に綺麗な物を見れて良かったな」)
 カンタレラは『エネルギーガン』で花びらを撃ち、前衛たちが前へ前へと進んでいく援護を行う。
「確かに綺麗だけど、桜吹雪‥‥ここまで豪勢だと、ちょっと食傷気味かもしれないわね」
 カンタレラは花びらを撃ちぬきながら「やっぱり適度が一番なのかしら」と言葉を付け足した。
 そしてゼノヴィアは後方から援護をしてくれる能力者たちを全面的に信頼してキメラ本体がいる場所へと進んでいく。途中後衛が攻撃できなかった花びらが襲いかかるように来るが『エンジェルシールド』によってダメージを防ぐ。
「支援します」
 千草は『SMG スコール』で花びらを撃ちぬきながら前衛たちを前へと進めていく。あまり大きな山ではなかったという事もあり、山に入ってから20分程度でキメラがいる場所へと到着する事が出来た。勿論それまでに花びらによって多少のダメージは受けていたけれど本体との戦闘には支障が出ない微々たる傷だった。
「しかし厄介だな、此方の様子を悟ってなのか、花びらが樹を守るようにしている」
 水無月の言葉に能力者達は視線を向ける。確かに情報どおり、本体に近づくにつれて花びらの数などは多かったけれど前任の能力者達が撤退するほどには感じられなかった。恐らく、今回の能力者達は無理矢理にでも突破してきた事に対して危機感か何かが働いたのだろうか、樹を覆うようにびっしりと花びらが存在していた。
「邪魔だっ!」
 ウェイケルは『鉄扇』を構え、スキルを使用しながら「纏めて吹っ飛びやがれ!」と叫び、攻撃を仕掛ける。吹き飛ばしきれなかった花びらがウェイケルに襲い掛かってくるけれど『盾扇』で上手く防御する。
「さて、折角道を切り開いてくれたんだ――ボクも動くかな」
 9Aは呟きながらウェイケルの攻撃のよって僅かに開かれた道を見てスキルを使用しながら本体へと向かって走り出し、攻撃を行い、すぐに後ろへと下がる。彼女はヒット&アウェイでの攻撃を得意としており、近くの木の枝に『忍刀 颯颯』をつきたててそれを足場に一気にジャンプして枝へと駆け上がった。そして登った所で紐を引いて忍刀を回収する。
「妖怪桜など必要はない、消えてもらおう」
 ゼノヴィアは呟きながらスキルを使用して本体へと斬りつける。その際に花びらをも薙いで、ぱらぱらと斬られた花びらが地面へと舞い落ちていく。
「花びらが多いですね、これでどうだっ」
 千草はスキルを使用しながら扇状に薙ぐ。そして花びらの覆いが消えた所へ前衛の能力者達が駆け出していく。
「支援します」
 千草はスキルを使用して前衛の能力者達が進めるように援護射撃を行う。
「自分を守る為に花びらに守らせるか、しかしその盾も剥がれてきているようだね」
 水無月は『和弓 月ノ宮』へと武器を持ち変えた後、呟きながらキメラを狙い打つ。
「ふむ、流石に手が足りないか‥‥お嬢さん達には怪我をさせないようにしたいんだがね」
 水無月は戦う女性能力者達を見ながら苦笑気味に呟く。しかし全員花びらによって細かな傷を負っており、既に無傷なものは存在しない。
「いくぜ!」
 ウェイケルはスキルを使用しながらキメラに張り付く花びらを吹き飛ばし、キメラを無防備状態にする。
 しかし花びらはキメラを守りに戻るのではなく、まるで邪魔するかのように攻撃を行う能力者達へと向かって襲い掛かる。
「まばゆき光彩を刃となして汝を引き裂かん! 迸れ、イカヅチ!」
 九条はまるでゲームの中の呪文のような言葉を呟きながらスキルを使用した後に『機械本 ダンタリオン』で攻撃を仕掛ける。範囲攻撃の出来るダンタリオンならば複数の花びらを退治出来る事が出来る。
「我が書に宿りし異相の公爵、汝が英知もて彼の者の屍を晒せ!」
 九条が再び攻撃をした後、エイミもダンタリオンで攻撃を行い花びらを滅していく。
「1‥‥2‥‥3発ッ!」
 9Aは後衛が花びらの相手をしてくれている間に前衛の能力者達と共にスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、9Aが下がると同時にゼノヴィアが攻撃を仕掛ける。キメラの攻撃は花びらだけではなく枝を伸ばすというものもあったけれど、よく見れば回避できない速さではなく、枝攻撃は能力者達の苦になる事はなかった。
「手ごたえはあったかい?」
 9Aは下がるとカンタレラへと問いかける。
「えぇ、少なくとも私には手ごたえがあったように見えたわ」
 カンタレラは呟いた後に「だいぶ弱っているんじゃない? 花びらの数が少なくなってきたわ」と舞う花びらを避けながら呟く。
「それじゃ、スキルを使って強化するから頑張ってね」
 カンタレラが呟くとスキルを使用して前衛たちの武器を強化し、同時にキメラの防御力を低下させる。
「もう、花吹雪は見飽きたな‥‥やはり、花見と言うのは春に酒を飲みながら見るのがいい」
 水無月は呟きながら弓を構え、ひゅん、と風切り音を響かせながらキメラへと攻撃を仕掛けた。
「さて、そろそろ仕舞いにさせてもらうぜ、今まで付き合ってやったんだ。満足だろ」
 ウェイケルも『鉄扇』を構え、キメラへと攻撃を仕掛ける。攻撃を仕掛けるたびに能力者達へと攻撃を仕掛けている枝が震えるように一瞬だけ動きを止める。痛覚があるならば『痛い』と感じている所なのだろう。
「我が願いは眼前の敵の殲滅、その偉大なる力を指し示せ!」
 九条も普段の対人恐怖症気味の態度とは全く正反対のハイテンションで呪文の詠唱のように叫びながら攻撃を仕掛ける。
「綺麗な桜‥‥一生懸命生きているかもだけど、ゴメンね」
 エイミは呟きながら前衛の能力者達を狙う枝を『ロケットパンチ』で攻撃を繰り出し、枝を叩き折る。
「ボクはそれがキメラやバグアであれば容赦はしないよ」
 9Aは武器を構えてキメラに斬りつける。その瞳には自分で言っている通り情けなどの暖かい感情は見られなかった。
「桜なら美しく散って見せろォォォっ!」
 9Aはスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける、すると木そのものがバキリと音を立てて割れ始めた。その隙を逃さぬようにカンタレラがスキルを使用して能力者の武器を強化する。
 そしてゼノヴィアが攻撃を仕掛け、枝がゼノヴィアを狙ったところを千草が枝を撃ち落とし、トドメの一撃をゼノヴィアが繰り出したのだった。


― 桜散りし今は ―

「ふっ、やっかいな敵だったな」
 戦闘が終わった後、千草が木に凭れかかりながら小さく呟く。
「この桜も、キメラなどにされなければ‥‥人から愛でられたというのにな」
 水無月が倒れて動かなくなったキメラを見ながらため息混じりに呟いた。
「くそ、細かい傷で疼きやがる」
 花びらや枝によって傷つけられた手や足などを見ながらウェイケルが忌々しそうに呟く。よく見れば他の能力者達も小さな傷だらけになっている。
(「華が散る様は確かに美しい‥‥ですがそれだけです。痛い思いをしてまで見とれるほど雅に傾倒していません」)
 覚醒を解除したことで元の対人恐怖症気味に戻ってしまった九条は心の中で呟く。
「今年の桜はこれで見納めね‥‥また、来年、ってね。エイミちゃん、怪我してるの? 他の皆も怪我してるのね‥‥」
 カンタレラが治療しようとした時に九条が『拡張練成治療』で治療を行う、元々が大きな傷ではなかった為、後は本部に戻って報告を行った後、各自でするのがいいだろう。
「もっと怪我なく任務を果たせたらいいのにね」
 カンタレラは他の女性陣の心配もしながらため息混じりに呟いた。
「ふむ、この事件はこういうことだったのだな、なるほど報告させてもらおう」
 千草はキメラを倒したあとにキメラの攻撃方法などを考えて今回の事件を検証していた。
 その後、高速艇へと戻り、本部へと戻る僅かな時間の中で水無月は叙事詩のように今回の任務内容を書く。吟遊詩人は介添え人ではないから、と言う事で自分の事を書く事をせずに、まだ途中のところで本部へと到着して水無月は書いていたものを閉じ、他の能力者達と共に報告へと向かったのだった。


END