●リプレイ本文
―― 奪われた聖夜 ――
「あら、舞さん。此方で会うのは随分と久しぶりですね」
室生 舞(gz0140)が能力者達に渡す資料を纏めていると水無月 春奈(
gb4000)が話しかけてきた。
「こんにちは、春奈さんも今回の作戦に参加されているんですよね、怪我しないで‥‥というのは無理かもしれませんけど、気をつけて下さいね」
舞が心配そうに呟くと「大丈夫ですよ、他の皆様もいらっしゃいますし」と水無月は言葉を返してきた。
「去年も出たって話は聞いたが、バグアも何が楽しくてこんなもん作るかねぇ‥‥」
ゲシュペンスト(
ga5579)は呆れたような口調で舞の持つ資料を覗き見しながら呟いた。
「バグアのする事ですからね。これで効果があるとでも思っているのでしょう」
レイン・シュトラウド(
ga9279)は淡々とした口調で呟きながらゲシュペンストに言葉を返した。
「‥‥子供達の夢を壊すなんて、許せません」
レインは顔にこそ出さなかったけれど僅かな怒りを滲ませながら呟いた。
「そうそう、室生さんにちゃんと挨拶するんは初めてやな、キヨシ(
gb5991)や、宜しく」
キヨシは舞の方を見て手を差し出しながら話しかける。
「室生 舞です、まだオペレーターとしては未熟ですのでお役は立てませんが‥‥宜しくお願いします」
舞は丁寧に頭を下げた後にキヨシと握手をして挨拶の言葉を返す。
「カワイイ彼女やん」
キヨシは肘でレインをつつきながら舞には聞こえないくらいの小さな声でレインをからかう。
「か、からかわないで下さいよ‥‥」
レインは少しだけ頬を赤く染めながらキヨシに言葉を返す。そんな2人の様子を舞は首を傾げながら見ていた。
「そうだ、舞さん」
水無月がキヨシ達のやり取りを見て、にっこりと笑いながら「レインさんとは‥‥最近いかがです?」と舞に問いかける。先ほどのレインのような焦りを今度は舞が見せる番で「な、何言ってるんですかっ」と慌てながら水無月に言葉を返した。
「まいさん、絶対に倒して見せるからね」
柿原ミズキ(
ga9347)が舞の手を握り締めながら話しかけてくる。年齢と口調の差に舞は一瞬きょとんとしながらも「宜しくお願いします、でも‥‥怪我には気をつけて下さい」と言葉を返した。
「あの、今回の資料です、高速艇の中ででも読んでください」
舞が能力者1人1人に資料を渡しながら話しかける。
(「サンタのキメラか‥‥反吐が出るぜ」)
相賀翡翠(
gb6789)は露骨に不機嫌さを出しながら資料に目を通す。いつもはこんな不機嫌さを露にする事はないのだが何か思う所があるのか、誰の目から見ても不機嫌と分かる程だった。
(「相賀さん‥‥随分と‥‥入れ込んでる? ‥‥無茶しなければ‥‥いいケド‥‥」)
鷹谷 隼人(
gb6184)はちらりと相賀に視線を向けながら心の中で呟く。
(「サンタに化けて‥‥子供達を? く、くふふ‥‥叩ッ斬り甲斐がありすぎて困るなぁ――皆殺しだ」)
9A(
gb9900)は過去の自分と重なる部分があるのか煙草を灰皿にもみ消しながら今にも爆発しそうな怒りを抑える。所属していた小さな劇団、そのメンバー達がバグアに殺されたという過去を持つ彼女にとって今回の事件は許しがたいものだったのだろう。
「さて‥‥そろそろ‥‥行きますか?」
鷹谷が呟き、能力者達は資料を持って高速艇へと向かっていく。
「あ、舞さん。今回の作戦が終わったら被害者の子供達が入院している病院で小さなクリスマスパーティーをしようと思うんですけど‥‥もし良かったら来ませんか?」
レインの言葉に舞は少し困ったように「行きたいのですけど‥‥ごめんなさい、お仕事があって‥‥」と申し訳なさそうに断ってきた。
「いえ、無理にではありませんから気にしないで下さい」
レインは言葉を返すと、先に高速艇へと向かった能力者達を追いかけ、任務へと出発したのだった。
―― 朽ちた孤児院、惨劇の跡 ――
「‥‥酷いですね‥‥到底許せるものではありません‥‥」
高速艇の中、資料を読みながら水無月が小さな声で呟いた。
「‥‥‥‥まったくだな、反吐が出る」
相賀は水無月に言葉を返すように苛々とした口調で呟いた。
「後悔という言葉をしっかり覚えさせましょう、覚えたところで泉下で使えるかどうかは分かりませんが‥‥」
(「子供に手を出すんは許せんなぁ」)
水無月の呟きを聞きながらキヨシは電子煙草を咥えて心の中で呟く。しかし彼がそんな事を考えている事など誰も気づく事はないだろう。彼は普段通りへらへらとしているのだから。
キメラが潜んでいるとされる孤児院跡は高速艇から離れた少しの所にあった。
今回の能力者達は迅速に任務を終わらせる為、班を二つに分けて行動するという作戦を立てていた。
正面班・水無月、9A、柿原、キヨシの四人。
不意打ち班・ゲシュペンスト、レイン、相賀、鷹谷の四人。
正面班の能力者たちがキメラを相手にしている間、不意打ち班はキメラの背後へと回って不意打ちを仕掛ける――という作戦だ。
「くれぐれも気をつけろよ、相手は7人も殺したキメラだ」
ゲシュペンストの言葉に「叩っ斬り甲斐がある」と9Aは短く言葉を返し、それぞれの能力者達は行動を開始したのだった。
※正面班※
「‥‥クリスマスパーティーの準備がされていたんですね‥‥」
割れた窓にスプレーで飾られたサンタやトナカイ、折り紙で作られた輪などが血に塗れており、悲惨さが伺えて水無月は俯きながら呟いた。
「クリスマスパーティーの準備‥‥子供達の些細な楽しみさえも奪うのか」
9Aは床に落ちた血まみれのぬいぐるみを拾いながらため息混じりに呟く。
(「きっと‥‥みんなたのしみにしてたはずなのに‥‥それをぼくはゆるさない」)
柿原は俯きながら心の中で呟き、拳を強く握り締める。
「キメラ‥‥何処におるんや――アレかな?」
キヨシが呟くと、サンタの格好をしたソレが外へと向かっていくのが視界に入ってきた。外に向かってくれるなら好都合、と能力者達は息を潜めてキメラが外に出るのを確認して、自分達も外へと出る。
「さてと、始めよかぁ!」
キヨシは叫びながら『M−121ガトリング砲』で弾幕を張り、キメラの動きを制した。そしてキヨシは後ろへと下がり、前衛で戦う能力者達の援護を行う事にする。
その時、銃声が響き渡り水無月の腕をキメラの持つ銃の弾丸が貫く。
「――――ッ」
「はるなさん! だいじょうぶ!?」
柿原が慌てて水無月に駆け寄る。その間、キメラが近づかないようにキヨシが射撃でキメラへと攻撃を仕掛けている。
「‥‥大丈夫です‥‥豆鉄砲が利くわけもありません。まぁ、精々抵抗してください」
ふぅ、と息を整えながら水無月が小さく呟く。
「最低でも、あなたがやった事を同じ事をやり返してあげましょう」
冷たく呟く水無月の言葉に情は微塵も感じられなかった。
「よほど叩っ斬られたいらしいな」
9Aは髪の色を黒く染めながら、右手で背中の『忍刀 颯颯』を、左脇の『アーミーナイフ』を左手で抜き、キメラへと切っ先を向ける。
「人を殺すのは楽しかったか? だったら――その楽しみを分けてもらおうか、理解できるかはわからないけどな」
9Aは呟きながらキメラへと攻撃を仕掛け、後ろへと下がる。ヒット&アウェイ方式で攻撃を仕掛けているので、キメラの攻撃をあまり受ける事はなかった。
(「そろそろ、不意打ち班が来る事かな」)
キヨシが心の中で呟き、不意打ち班が来るのを待っていた。
※不意打ち班※
「正面から攻める班はみんな張り切ってるな」
遮蔽物に隠れた不意打ち班は正面班の戦う姿を見ながら小さく呟く。恐らく子供達の無念などを考えれば自然と張り切る事になっているのだろう。
不意打ち班もキメラ捜索をしていたけれど、派手な物音に気づき、戦闘開始がされたのだと思い、戦闘場所付近に身を隠して突入するその時をひたすら待っている状態だった。
「それにしても‥‥悲惨な場所だな」
相賀は武器を取り出し、いつでも戦闘に迎えるよう準備をしながら孤児院跡となった建物の中を覗き見た。窓ガラスは割れて、中は荒れ、血痕と思しきものがそこら中にある。一体どれだけの恐怖を子供達は味わったのだろうと考えると相賀は自然と武器を握る力が強くなる。
「もう少し‥‥待ってから‥‥突入する方がいいかも‥‥しれない」
鷹谷は彼が普段愛用しているスナイパーライフルのスコープを利用して戦闘現場を見ながら小さく呟いた。
「ボクはいつでも突入するのは大丈夫です」
レインは呟きながら『スコーピオン』に弾丸を装填して、手に持つ。
「‥‥そろそろ大丈夫、そうです‥‥いきましょう」
鷹谷の言葉を合図に不意打ち班はキメラの背後から攻撃を仕掛けるのだった。
―― 戦闘・夢を壊したサンタキメラ ――
「後ろが疎かですよ」
正面班と戦闘していたキメラの背後から不意打ち班が突入して、本格的にキメラ退治の戦闘へと入る。
スキルを使用しながらレインが遮蔽物から姿を見せて『スコーピオン』で射撃する。レインの攻撃を受けて動きが止まったキメラにゲシュペンストが攻撃を仕掛ける。
「鉛弾なんかプレゼントされても誰も嬉しくないだろう」
ゲシュペンストは呟きながら『激熱』を振るう、なるべく短い時間で退治する事を狙っており、能力者達は不意打ち班が来てからキメラを包囲して袋叩きにするような感じだった。
「‥‥させない‥‥攻撃は‥‥封じさせてもらう」
味方に対して攻撃を仕掛けようとしているキメラに気づいて鷹谷は『アラスカ454』でキメラの手を狙って持っていた銃を撃ち銃口を逸らす。
「散れ! 目障りだ!」
相賀は叫びながらスキルを発動させ、キメラの背面を狙って撃ち、その攻撃で出来た僅かな隙を利用して柿原が攻撃を仕掛ける。
「俺らの銃はお前らみたいな奴を撃つ為に存在する――遠慮なくいかせてもらうぜ!」
自分に向いている銃口を弾くように思い切り強く『妖刀 天魔』で斬りつける。その際にスキルを使用しながら攻撃を行う。
「ほら、休む暇なんかあると思ってるの?」
相賀の攻撃の後に9Aがスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。9Aが攻撃を仕掛けた後、キメラから離れる際に傷を負うが構う事なく後ろへと下がった。
「今だ! キヨシ君、撃て! ボクが合わせる!」
9Aが叫び、キヨシは『貫通弾』を『小銃 S−01』に装填して放つ。キメラにキヨシの攻撃が直撃した後「ブッた斬れろォォォォ!」と叫びながらスキルを使用して9Aは攻撃を仕掛け、キメラを地面へと伏せる。
「お前だけは絶対に許せんなぁ」
冷たい表情で能力者達にトドメを刺されるキメラを見ながらキヨシは小さく呟いたのだった。
―― クリスマスパーティー ――
能力者達はキメラ退治をした後、生き残った子供達が入院している病院へと赴いていた。この時期、この病院では小さなクリスマスパーティーをするのが恒例であり、能力者達も混ざって子供達を慰めようとしていたのだ。
事件に巻き込まれ、生き残った子供達は10名近くでその全員が包帯などに包まれて痛々しい姿をしていた。
「大丈夫、もう怖くない」
ゲシュペンストが子供達を安心させるように頭を撫でながら話しかけてやると、撫でられた少女はぎこちない笑顔をゲシュペンストに向けた。
レイン、柿原、9A、相賀は病院の調理室を借りてそれぞれ目的の物を作ろうとしていた。レインはマドレーヌやクッキーなどの焼き菓子を、柿原と9Aは2人で協力してケーキを焼き、相賀はここに来る途中にあったスーパーで材料を調達してクリスマスらしい料理を作ることにしていた。
「えと、お料理の準備、お手伝いします」
病院の調理師達の手伝いを申し込む水無月の姿はクリスマスらしくミニスカサンタ、ミニスカの部分はとりあえずおいておこう。
「ほらほら、喧嘩せんと沢山あるから仲良ぅせい」
キヨシはスーパーで買ってきたお菓子やジュースを子供達に配っている最中で、沢山お菓子を取ろうとした子供達を諌めている。
「ん、こんなモンかな」
料理を終えた相賀の前に並ぶのはフライドチキン、ピザ、スープ、サラダの数々。勿論医者に許可を取って作っているので子供達の健康に影響はない。
「こき使う事あったら遠慮なく言ってね、ボクも子供好きだし何でもしちゃうよ」
9Aの言葉に「ありがとう」と柿原は言葉を返してケーキ作りを続けていた。
「これで人数分かな」
マドレーヌやクッキーの詰め合わせを子供達の人数分作り終えたレインが小さく呟き、会場へと向かう。
「‥‥やっぱりクリスマスはこうでないといけませんね」
子供達の笑顔を見ながらレインは呟き、1人1人に渡していく。
「はいはい、ケーキの登場だよ」
9Aが豪華に飾られたケーキを子供達の前に置くと「うわぁ」という感嘆の声が聞こえてくる。
そして戦隊ショーの衣装を身に纏い、子供達の前へと現れる。
「偽者はオレ達が倒してやったぞ、だから安心してくれよ!」
その言葉に子供達はきゃあきゃあと騒ぎ始め、瞬く間に柿原の周りに子供達が集まる。
「ほーら、お姉さんの髪を見ててごらん‥‥よっ、ふっ、ほら!」
9Aは自分の覚醒状態を利用して髪の色を変え、子供達を楽しませている。
「ん?」
会場が子供達の声で賑わう中、姿を見かけない鷹谷に気づき相賀が外へと出る。
「貴方は兵器か‥‥意思を持つ兵なのか‥‥それはどうでもいい。貴方と戦った1人として‥‥冥福を祈ります」
そのままにしておくわけにもいかぬとシートを被せて持って来たキメラの死体を前に鷹谷は呟いていた。勿論子供達に当時の恐怖を思い出させるわけにもいかないので見つからない場所にひっそりと隠していたけれど。
「こんな所にいたのか、パーティーは始まってんぞ」
相賀の言葉に「あぁ、今行きます‥‥」と短く言葉を返す。
「今回は‥‥だいぶ苛々されてたみたい‥‥ですけど」
鷹谷の問いかけに「‥‥別に何でもねぇ、ただ、心底怒りがこみ上げてきただけだ」と相賀は横を向きながら言葉を返してくる。
「は、俺らしくもねぇな」
相賀はため息混じりに呟くが、クリスマスの楽しい時間をクリスマスを象徴するモノ真似て作られたキメラが壊した、この事実が彼にとっては凄く腹立たしかったのだろう。
「戦闘が終われば‥‥そこに敵も何もない。今回は‥‥許されざる行為だったかもしれませんが‥‥彼は僕らに裁かれています。僕が許せないのは‥‥この兵たちの上官‥‥作戦立案者です」
鷹谷はキメラではなくバグアにたいして深い怒りを見せながら呟く。
「とりあえず、戻ろうや。子供たちにコレが見つかってもマズイしな」
相賀の言葉に頷き、2人はそのまま会場へと戻っていったのだった。
END