●リプレイ本文
「女の顔に傷なんて酷いな‥‥マリにはさんざからかわれとるけど、心配やな」
クレイフェル(
ga0435)は呟きながら自分の髪飾りに触れる。蒼い飾玉が両端についた髪紐は、故人に貰った大事な物――だから兄の形見を取り戻したいというマリの気持ちが分かるのだ。
そして、彼と同じようにマリの気持ちが分かる者‥‥神無月 翡翠(
ga0238)、漸 王零(
ga2930)、花柳 龍太(
ga3540)もクレイフェルと同じように形見を探そうと心に誓っていた。
「しかし‥‥噂には聞いていたが、まぁ‥‥随分と仕事熱心な記者だな――関わりを持った面々にはご愁傷様としか言えないな」
呟くのは威龍(
ga3859)だった。
「あはは、にいやんから聞いてた噂の記者さんとお話出来る機会がやっと来たわけやけど‥‥怪我してるんやったら、あんまり激しい応酬は出来ひんやんね〜‥‥」
篠原 悠(
ga1826)が少し残念そうに呟く。
「そうだね‥‥額を五針も縫うほどだから、いくらいつも元気なマリ君でも今回は‥‥ね」
国谷 真彼(
ga2331)も苦笑しながら篠原の言葉に答えていた。
「一応、記者さんを助けた能力者に話を聞いてきたんやけど‥‥校内入ってすぐの理科室に倒れていたらしいですよ」
篠原が予め調べてきた事を纏めた紙を見ながら報告していく。
「あ、僕も多少は調べてきたよ。廃校となった原因もキメラが現れた事だったらしく、校内は結構荒れているみたいだね」
国谷も自分が調べてきた事を話していく。
「あぁ、忘れていました――初対面の方もいますし‥‥。スナイパーのコー(
ga2931)です」
ぺこりと頭を下げて挨拶するコーに初対面の能力者達は「宜しく」と言葉を返した。
●肝試しにぴったり! 雰囲気全開の廃校!
「ふむ。お化けでも出そうだな」
目的地に着くと同時に漸が廃校を見ながら呟く。本当は昼間に来れたら良かったのだが、意外と時間が掛かってしまい、日も暮れた夜になってしまった。
「こんな所にまで取材‥‥取材の為なら火の中&水の中かよ」
神無月はため息を吐きながら呟く。
「此処からは決めた班で動くんやな」
クレイフェルは言いながら手配しておいた無線機と校内の見取り図を能力者達に渡していく。
「とりあえず‥‥一番チョーカーを落としていそうなのは倒れていた場所‥‥つまり理科室かな」
花柳が見取り図を見ながら話す。廃校自体はさほど大きなものではないので探すのに苦労はしないだろう――が、キメラがいるとなれば話は別だ。
第一斑・神無月、クレイフェル、篠原、漸の四人はキメラの寝床を探る。もしかしたらキメラが形見を持って移動している可能性もあるからだ。
第二班・国谷・コー、花柳、威龍の四人はマリが倒れていた周辺での捜索を行う。
「しかし簡単には行かなさそうですね」
コーが呟きながら、校舎の中を指差す。すると何かの影のようなものが2つほどちらついている。
「また‥‥上手い具合に両方に別れて行動しているみたいだな‥‥」
威龍が校舎内を歩くキメラの姿を見て、ため息混じりに呟く。
「さて――ちゃっちゃと終わらせてマリんとこ行こか」
クレイフェルの言葉を合図に2つの班はそれぞれ自分達が探す場所へと向かっていったのだった。
●第一班
「まず、俺がキメラを引き付けて外に出すわ、皆は外で待っとってな」
クレイフェルは言いながらキメラの気配がする場所へと走っていった。
「ほな、うちらは外で待っとこか、にいやんがキメラ連れてくるやろし」
篠原が神無月と漸に向けて話し、三人は外へと出て、キメラが来るのを待った。
「戦闘は、任せるぜ? 強化と回復はしてやるから、どんと行って来い」
神無月は話しながら『練成強化』を使用し、篠原と漸の武器を強化した――その時、クレイフェルが犬型キメラをおびき寄せて、外へとやってきた。
「ふむ、邪魔者がいない方が探しやすくなるというものだな――我は聖闇倒神流継承者、零―――参る!」
漸は叫び、それと同時に「さぁっ! ライブの始まりやっ!」と篠原も叫び、小銃・スコーピオンで前衛の漸とクレイフェルの手助けをするように援護射撃を行う。
「犬ならば――ヒトに従順であるべきだとは思いませんか?」
クレイフェルも戦闘開始と同時に覚醒し、ヒット&アウェイで攻撃をしていく。
「‥‥うーん、意外と苦労しそうな感じじゃないな‥‥」
それを少し離れた距離から見ている神無月はキメラと能力者との戦闘を見て、冷静に分析していく。
「この程度のキメラにマリは殺られたのか?」
考え込みながら戦う漸に「死んでませんて」とクレイフェルが苦笑しながら答える。話をしながら戦闘できるという事は実力的に大したキメラではないという事を証明している。
「そろそろ倒して形見を探すとするか‥‥汝には我の過去の贄となる以外の道はない、清浄なる闇の中で未来永劫に眠るがいい」
漸が呟き、トドメの攻撃をしようとした時「ちょっと待った!」とクレイフェル&篠原の声が見事にハモる。
「トドメはこれで! 無理やったらすぐにファングに切り替えるさかい」
そう言ってクレイフェル、篠原の二人が取り出したのは――巨大ハリセン。
「チェストォォォォォッ!!」
篠原が叫びながら、クレイフェルと共にバチコーンと巨大ハリセンでキメラを叩く――がトドメを刺すまでには至らなかった。
「何でやねん! そこはノリで倒れるところちゃうんかい!」
クレイフェルはすぐさまファングに持ち替えて、そして篠原は小銃・スコーピオンを装備してキメラに攻撃を仕掛ける。
(「‥‥ハリセンで倒せなかったのがショックだったのか?」)
それを見ていた神無月は首を傾げ、そして漸はため息を吐いてそれを見ていたのだった。
「さて、問題は形見のチョーカーだな――‥‥」
●第二班
「一体マリ君は、此処で何を調べたかったんだろう‥‥」
ぎしぎしと軋む廊下を歩きながら国谷は呟く。
「さぁな‥‥とりあえずは形見探しだな、動けないマリの代わりに俺達が形見を探してやらないとな‥‥」
花柳は呟きながら、ペンダントに触れる。彼のペンダント、それは両親の形見だった。
「そうだな、しかしマリ嬢が見たキメラは犬形態という事は、人狼のように機動性に富んだ奴の可能性もあるな‥‥」
「そう――――来た‥‥」
威龍の言葉に、コーが言葉を返そうとした時、近づくキメラの気配に声を抑えるように低く呟く。
「とりあえず理科室以外の教室に誘い込もう」
国谷の言葉に、能力者達は首を縦に振り、理科室の隣にある鑑賞室へと誘い込んだ。
「‥‥行きます」
コーが覚醒しながら呟き、アサルトライフルで攻撃を仕掛ける。そしてコーの攻撃の後、休む暇も与えず、花柳が両手に持ったグレートソードで攻撃を仕掛ける。
「‥‥グゥオァァッッ!」
犬―というより威龍の言った狼に近いキメラは雄叫びをあげて能力者達に反撃を繰り出す。
「敵の動きが早い――コー君、強化するから足を撃ち抜いてくれないか?」
国谷がコーに問いかけると「分かった」と強化をしてもらった後、再びアサルトライフルを構える。
「捉えた‥‥!!」
攻撃をしながら、コーは感情を無理矢理抑え込むかのように低く呟き、キメラの足を見事に撃ちぬいた。
キメラの動きが落ちた後、花柳と威龍が接近攻撃でキメラを仕留めたのだった‥‥。
「はー‥‥これ以上のキメラの気配もないし、恐らくこれで最後でしょう。あとはマリ君のチョーカーを――――あ」
●意外な場所に意外なモノが二つ。
「にいや〜ん、チョーカーない〜〜‥‥」
篠原が巨大ハリセンでクレイフェルをバシバシ叩きながら愚痴るように呟く。彼女が愚痴りたくなるのも無理はない。3階建ての校舎、その中で一斑が受け持つ半分を全て探し終えても見つからないのだから‥‥。
「痛! 痛! ハリセン振り回すんやったら隅っこでも探せや!」
ハリセンで叩かれながらクレイフェルが叫ぶ。
「うーん、これだけ探しても見つからないって事は‥‥向こう側にあるんじゃないか?」
神無月の言葉に「我もそう思う」と漸も短く答える。
「ん? これは――‥‥」
漸がキメラが寝床としていた教室の隅に置かれた古い冊子を見て、不思議そうに首を傾げる。
「5年2組、土浦 真里‥‥将来の夢はお兄ちゃんと一緒に雑誌を作る事です。お兄ちゃんと一緒ならきっと実現出来ると思います――この廃校は真里の母校だったのか‥‥」
この場所は職員室だったのか、この学校に通った者が将来の夢を書いた冊子が何十・何百と置いてあった。
「‥‥もしかしてマリはこれを探してたんじゃないか?」
神無月が呟く。
その時、別行動をしていた2班が此方へとやってくるのが視界に入ってきた。
「これがマリ君のチョーカーじゃないかな? キメラが口の牙に引っ掛けてたみたいで‥‥」
国谷が少し汚れたチョーカーを能力者達に見せる。
「こっちも記者さんの捜してた(であろう)物が見つかったよ」
篠原が呟き、先ほどの古い冊子を見せる。
「僕たちにとって、戦争の傷跡にしか映らないこの校舎も、たくさんの人の思い出が詰まった場所なんだ‥‥」
国谷が俯きながら、小さく呟く。
「さて――‥‥それじゃあマリのところへと向かいましょうか」
コーが呟き、能力者達はマリが入院している病院へと向かったのだった‥‥。
●怪我してもマリはマリ、そんなんで懲りるマリじゃないんです
「すっかり遅くなってもうたけど、大丈夫かな」
篠原が病院内を忍び足で歩きながら、小さく呟く。
「だが、早く持っていかないと病院から脱走する可能性もあるだろうしな‥‥今日くらいは大目に見てもらおう」
威龍も小さな声で、言葉を返し、マリが入院している部屋の前で立ち止まった。
「お邪魔しま――――す?」
篠原が小さな声で病室内に入ると、額に当てられる冷たい感触――‥‥。
「チョーカー持っているんでしょう? 返して」
左手はそのまま、マリは右手を差し出し『チョーカーを返せ』という仕草を見せる。
「これなんやけど―‥‥」
「ありがとう、お礼をしなくちゃね―――‥‥」
がちり、と音をさせて、トリガーにかける指に力を入れた。
「―――っ!」
篠原が覚悟して、目を閉じた瞬間――。
「なぁーんちゃって! 水鉄砲よ、これ、ほら」
マリが言うと同時にピューと冷たい水が篠原の顔を濡らす。
「ま、マジで驚いたやないですか!」
篠原が反論すると「ごめんごめん、暇でさあ」と部屋の電気を点け、ベッドに腰掛けた。
それと同時に能力者の目に入ってくる痛々しいマリの姿、額に包帯は巻かれているものの、傷が大きいものだとすぐに能力者達は分かった。
「あんたがマリか、今度は落とさないようにしろよ? 次は、取りに行ってやれるとは限らないんだからな」
神無月の言葉に、マリは答えずに「ふふ」と不敵に笑っている。
「‥‥って何でハリセン組が三人もいるのよ」
マリはクレイフェル、篠原、コーの持つ巨大ハリセンを見て、盛大に笑い出す。
「しかもクレイやんは両手! 次の記事がさっそく書けるわ」
「マリのおかげで(かは知らんけど)ショップでハリセン買えるようになったわ。おおきに」
クレイフェルが両手に持つハリセンをマリに見せ、笑いながら話しかける。
「記事! いつも楽しみにしてますよっ! でも死んでもうたら新しい記事、書けないやないですか〜。気をつけてくださいねっ!」
篠原の言葉に「うん、ありがと〜! 何か妹に欲しい!」と篠原をぎゅうっと抱きしめる。
「大事なものが見つかって良かったな。汝の記事は毎回楽しみにしている。次回の記事も楽しみにしているから、早く良くなってくれ」
漸の言葉にマリは笑いながら言葉を返した。
「大丈夫だって〜。怪我って言っても額の傷くらいしかないんだからさ、すぐに退院して取材続けるわ!」
「何が起こるかわからないこの情勢‥‥形見をなくしたくないなら1人でいくんじゃない」
花柳の言葉に「心配ありがと、花ちゃん♪」と反省の色が全くない笑顔でマリは答えた。
「お体には気をつけてください」
コーが猫のぬいぐるみをマリに渡そうとしながら話しかける。
「え? 私に? いいの?」
「はい」
コーの言葉にマリは喜んで受け取ろうとしたが「あ、駄目だ‥‥」とマリは落ち込みながら呟く。
「うちの記者仲間の一人でチホってのがいるんだけど、猫グッズはあの子に取り上げられちゃうのよ‥‥だから、残念だけどもらえないわ」
くぅ! とマリは泣きながらぬいぐるみをコーに返した。
「これも目的だったんだろ」
泣くマリに花柳が冊子を渡す。
「ぎょ! な、何で‥‥」
マリは恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら「中、見た?」と恐る恐る問いかけてくる。
その問いかけに能力者達は互いに顔を見合わせ、ニィっと不敵な笑みで答える。
「もちろん、見た!」
そして、その後、マリの病室からは恥ずかしさのためか奇怪な叫び声が響いたのだとか‥‥。
END