タイトル:侍任侠道マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/14 23:30

●オープニング本文


俺は昔から任侠映画が大好きだった。

そういうのに憧れて、一時はそっちの世界にいた事もある。

しかし、俺が本当にやりたいのは――正義の味方だったんだ。

だから俺は足を洗って、能力者になった。

能力者=バグアと戦う=正義のヒーロー!

正義のヒーローといえば剣でバシバシ戦って魔法やら技とかで戦う奴だ。

俺もそういうのになれるんだと考えてたら嬉しくなった――――なのに。

‥‥‥‥なんで俺はファイターじゃなくサイエンティストなんだよぉぉぉぉ!!

※※※

侍が好きで任侠が好きなサイエンティスト・春風(はるかぜ/34歳)。

何ともメルヘンな名前ではあるが、常に黒いスーツを着用して、強面そのもの。

「あんたって本当に無口でクールよねぇ‥‥」

同じ任務を行った者からは『近寄りがたい』『何考えてるのか分からない』などといわれる毎日。

(「近寄りがたい? ハ、近寄ってもらっちゃ困るんだよ――ファイターに近寄られちゃ‥‥羨ましくて泣けてくるだろうがぁぁぁぁ‥‥」)

「本当に無表情よね、何考えてるのか分からないっていわれるのも納得だわ」

(「何を考えてるのか分からない? 分かってもらっちゃ困るんだよ! 俺がファイターに憧れてるなんて‥‥知られるわけには行かない、知られたら同情されて『へっへーん、うらやましいか!』とファイターに苛められるだろうがぁぁぁぁ‥‥」)

恐らく春風がこんなことを頭の中で考えているなど誰も夢にも思わないことだろう。

「あ、そういえばこの任務に行ける? 間違って受けちゃったんだけど」

「‥‥‥‥あぁ、構わない」

女性能力者から任務の資料を受け取り、一緒に任務に行く能力者達との合流場所へと足を伸ばした。

●参加者一覧

シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
東條 夏彦(ga8396
45歳・♂・EP
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
祈良(gb1597
15歳・♀・FT
森ヶ岡 誡流(gb3975
34歳・♂・BM
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG
相賀 深鈴(gb8044
17歳・♀・ER
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

―― 嫉妬に燃える男・春風 ――

(「今回はファイターが三人もいるのか‥‥果たして俺は正気でいられるだろうか‥‥」)
 黒いスーツに身を包んだ強面の男性・春風は同行する能力者達のリストを見て盛大なため息を吐いた。
(「あの連中か‥‥くそぅ、大剣なんか持ちやがって‥‥俺に対するあてつけか、バカヤロウ」)
 心の中でぶつぶつと文句を言いながら春風はファイターらしき能力者達を羨望と悲しみの目で見ている。
「春風でありやがるですか? ファイターのシーヴ・フェルセン(ga5638)でありやがるです。どうぞ宜しくしやがってくれ、です」
 ぺこりと丁寧に頭を下げるシーヴに「あぁ、宜しく」と短く言葉を返す春風だが――その視線はジーッと大剣に向けられている。
(「大剣に視線を感じやがるのは、気の所為でありやがるですかね?」)
 シーヴはかくりを首を傾げながら心の中で呟くが、問いかける前に他の能力者達が春風に挨拶をし始めたので後から聞く事にした。
「春風か、いい名前じゃねぇか。元同業者って話を聞いててな」
 東條 夏彦(ga8396)が手を差し出しながら春風に挨拶をする。ちなみに東篠も春風と同じく任侠の世界にいた人物らしい。
「‥‥しゅんぷう、じゃなくて、はるかぜだ」
 名前の読み間違いに春風が低い声で呟くが「言いやすいから俺はお前を『しゅんぷう』と呼ぶぜ」と東條は言葉を返し「‥‥好きにしろ」と短く春風は言葉を返した。
「俺は虎牙 こうき(ga8763)っす! 今回は宜しくお願いしますね♪」
 虎牙が明るく手を差し出しながら挨拶をすると「‥‥あぁ、宜しく頼む」と言葉を返し、右手を差し出した。
「えっと、ファイターの祈良(gb1597)だよ‥‥よろしくね」
 ほわほわとした雰囲気の祈良が挨拶をすると春風の眉間がピクリと動く。
(「こんな嬢ちゃんまでファイターか‥‥ちくしょう、神様って奴ぁよっぽど俺の事が嫌いみたいだな――――泣いちゃうぞ、このやろおおおおお!!」)
 拳をふるふると震わせながら春風が心の中で叫ぶのだが、その叫びが能力者達に届く筈はない。変なおっさんが可愛い子を見て震えている、程度にしか認識してもらえないだろう。
「俺は誡流だ、宜しくな?」
 森ヶ岡 誡流(gb3975)が春風に挨拶すると「‥‥あぁ」と短い言葉だけが返ってくる。
「‥‥一つ聞いてもいいか? 何故それを被っているんだ」
 春風が佐賀十蔵(gb5442)の被っている『れいちゃんのお面』が物凄く不審だったのか問いかけると「ウケ狙いだ」と短い言葉が返ってくる。
「そうか‥‥あまりウケていないようだが、そうか、聞いてすまなかった」
 春風は何故か少し申し訳ない気分になって言葉を返した。
「虎牙さん、春風さんですね。同じサイエンティストの沢渡と申します」
 丁寧に頭を下げながら挨拶をしてきたのは沢渡 深鈴(gb8044)だった。
「若輩者ですので何かお気づきの点がございましたらご指導をお願いいたします」
 深々と頭を下げながら沢渡は言葉を続けると「いや、此方こそ宜しく頼む」と春風は言葉を返す。
「はは、あんまりサイエンティストらしくない俺っすけど宜しく頼むっす」
 その時「遅れましたー!」と元気よく黒髪の少年が走ってやってくる。
「初めまして、新米ファイターのレオって言います」
 にこにこと笑顔いっぱいで挨拶をするのは黒瀬 レオ(gb9668)だった。
(「新米‥‥ファイター‥‥だと」)
 再び心の中でファイターに対する嫉妬炎が燃え上がったのかギロリと黒瀬を睨むような強い視線で見る。ちなみに本人は睨んでいるつもりはなく、果てしない羨望の眼差しの末である。
「――で、シーヴの大剣、どうかしやがったですか?」
 首を傾げながらシーヴが春風に問いかける。
「ちらちら見てやがりましたよね? 何でもねぇならいいんですが、何か問題でもと思って、です」
 剣を抜いて見せながらシーヴが春風に負けないくらいの無表情で問いかけると「‥‥いや、別に」と視線を逸らしながら言葉を返し、そのまま一人高速艇の方へと行ってしまう。
(「ちくしょう、ちくしょう! 剣なんか抜いて見せやがって! ちくしょう!」)
 今にも泣きたい気持ちを我慢しながら春風は高速艇の中でひっそりと「ちくしょう」と呟いた。
(「‥‥はん、知り合いに同じ感じの奴いたな。無表情に限って心の中じゃ変な事を考えているんだよな」)
 東條はため息混じりに心の中で呟き、他の能力者達と共に高速艇乗り場へと向かったのだった。


―― 敵さえも嫉妬の対象・春風 ――

 今回、キメラがいるとされているのは廃墟。しかし元々が小さな町だったので分かれて捜索する事もないと能力者達は一緒にキメラ捜索をするという作戦を立てていた。
「では、行くとするか」
 虎牙は高速艇を降りながら小さく呟く。
「あ、そういや、この前間違って買ったんだがサイエンティストの春風さんなら上手く使えるか? 良かったら受け取ってくれ」
 森ヶ岡が春風に渡したのは『機械剣α』だった。
「‥‥これを俺に?」
「迷惑だったらすまない」
「いや、ありがたく使わせてもらう」
 春風は武器を受け取りながら「ありがとう」と言葉を付け足す。
(「つまりRPGで言う所の魔法剣になるのか、これは――かっこいいじゃねぇか! 神は俺を見捨てていなかったっ! やっほーぃ」)
 心の中で歓喜の声を叫ぶ春風に能力者達は不審の目を向けるばかりだった。
「そういえば、春風さんの覚醒状態の変化はどんなものなんですか? 結構変わる方もいらっしゃいますよね。私は表情や感情がなくなってしまうので、あまりお見せしたくないのですけど」
 苦笑しながら沢渡が呟き、その言葉に春風は『ハッ』としたようにからんと武器を落とす。
(「やべぇ、超やべぇよ‥‥俺の覚醒状態、ファイターをジト目で見ちまうんだよ!」)
 その頃の春風の脳内では『ハッ、所詮ファイターに憧れるサイエンティストだよな』とファイター三人に苛められる図が出来上がっていた。
「いいいいいや、べべべべべつに大した変化はないんだ‥‥気にするな」
 明らかに動揺しまくりの言葉に沢渡は首を傾げながら「はぁ、そうですか?」と言葉を返した。
「春風さんはいつもスーツを着ていらっしゃるんですか?」
 きらきらとした目で春風を見る。彼は任侠について偏った知識を持っており『カッコイイ!』と春風や東條を見ていた。
 そして能力者達はキメラを捜索する為に廃墟の中へと足を踏み入れる。小さいながらも花に囲まれた町だったのだろう。町の至る所には花壇跡があり、踏み荒らされて滅茶苦茶になった花の残骸などが見受けられた。
「しかし悲惨な状況だなぁ‥‥此処の住人達は無事だったんだろうか」
 コロッケを食べながら森ヶ岡が廃墟の中を見渡す。
「もしかして、あれでありやがるですか?」
 シーヴが物陰に隠れている『それ』を見ながら呟く。マントを羽織り、剣と盾を手にしたRPGには王道とも呼べる勇者のような格好をしたキメラがそこには存在した。
(「‥‥そうか、神様って奴ぁ本当に俺が嫌いなんだな、キメラが勇者の格好してるのに俺は‥‥俺はああああ‥‥ドちきしょう!」)
「‥‥ああいうのもキメラなんですか?」
 苦笑しながら黒瀬がキメラを指差して呟く。経験浅いながらも色々な部分で衝撃が大きいようだ。
 シーヴはキメラを発見すると同時に走ってキメラへと回りこみ、退路を断ちながらスキルを使用して逃走阻止をする。
「あっしの獲物は国士無双、つい最近手にいれた相棒でさぁ。仲良くしやしょうや」
 それじゃ好きなように抜きなせぇ、東條は言葉を付け足しながら武器を構え、他の能力者達と共にキメラを包囲するように動く。
「‥‥ごめんね」
 虎牙は聞き取れない程の小さな声で呟き、そして『天剣 ウラノス』を手に持つ。
「ん。大丈夫‥‥いく、よ」
 祈良は自分に言い聞かせるように呟き、キメラへと攻撃を仕掛ける。
「おいおい、何処に行くつもりだ? お前の為にこれだけの人数が揃ってるんだぞ?」
 森ヶ岡はスキルを使用してキメラの斜め後ろに接近し、そのままの態勢からスキルを使用して攻撃する。
「そうだ、逃げる事は許されない」
 佐賀は愛用の小銃でキメラを狙い撃つ。
「ふむ、やっとスナイパーらしい事が出来るぞ、何せ今までは歩兵な戦闘ばかりしていたからな――さぁ、行くぞ、キメラ、豚のような悲鳴をあげろ」
 佐賀は小さく呟きながら再び狙い撃つ。
「春風さんは強化と弱体をお願いします。私は後衛で治療を優先にしますから」
 沢渡の言葉に「‥‥あ、あぁ。わかった」と言葉を返す。
「見かけで判断しやがるな、ですよ」
 支援を受けてシーヴが攻撃を仕掛けようとしたその時だった。
「――――?」
 思わず攻撃の手を止めそうになる程の強い視線を感じてシーヴは攻撃を仕掛けながらちらりと視線の方を見る。
 すると春風がキメラを、いやシーヴをジト目で見ており、はっきり言って気持ち悪い。
「ちくしょう、お前らみたいな嬢ちゃんがファイターで活躍できるのに何で俺はサイエンティストなんだよぅ、これはいじめか、いじめだな、ちくしょう、泣くぞ」
(「強化の支援を受けている筈なのに、全然強化されてる気がしやせんね」)
 ぶつぶつと呟く春風の言葉を聞いてしまい、東條は心の中で呟きながらキメラへと向かう。
「ばかやろう、俺をそんな哀れんだ目で見るな」
(「覚醒してる間、ずっとあんな感じなのかな、春風さん‥‥」)
 虎牙も春風の言葉が聞こえたのか、苦笑しながら春風の嫉妬の言葉を聞いて攻撃を仕掛ける。
(「何となく分かってたけどね。あんな、強い視線向けられたら、分かっちゃうよ」)
 祈良が苦笑しながら攻撃を仕掛ける。
「とりあえず、倒させてもらう、ね?」
 祈良が呟きながらスキルを使用して攻撃を仕掛ける。
「っと、所詮は偽者の勇者様だよね、攻撃も何もかもが効かないよ?」
 黒瀬は呟きながらスキルを使用し、愛用の『黒刀 炎舞』で攻撃を仕掛ける。
「ここ、がら空きだ‥‥焼き尽くせ、炎舞っ!」
 黒瀬が攻撃をした事を合図に他の能力者達も攻撃を仕掛け始めた。
「春風! 弱体頼みやがるです!」
 シーヴの言葉を聞いて春風が『練成弱体』を使用する。するとシーヴは『紅蓮衝撃』を使用して無駄に派手に攻撃を仕掛けた。
「ちくしょう‥‥派手に攻撃しやがって、俺へのあてつけか? あてつけだな?」
 ぶつぶつとマイナスオーラを漂わせながら独り言を呟く春風を気にする事なく東條も攻撃を仕掛ける。
 しかし攻撃を受けたキメラが黒瀬に攻撃を仕掛けようとしている事に気づき、虎牙がキメラの武器を自分の武器で受け止める。
「あ、ありがとうですっ」
 黒瀬が礼を言うと「気にする事ないっすよ」と言葉を返し、キメラに攻撃を仕掛ける。
「春風さん! 任せた!」
 森ヶ岡の言葉に春風が彼から貰った『機械剣α』を構えて意気揚々と攻撃を仕掛け――ようとしたのだが佐賀の一撃によりキメラは春風の攻撃を受ける前に倒されてしまった。
「‥‥‥‥」
「さて、一仕事終わったな」
 佐賀は「ふぅ」とため息を吐いて呟くが、その後ろではふるふると震える春風の姿があった。


―― 戦い終わり、嫉妬の果てに ――

「何か妙に怨念こもってた気ぃしやがるですが、このタイプの敵嫌いです?」
 戦闘が終わった後、能力者達は沢渡の治療を受けており、その中でシーヴが気になった事を春風に問いかけた。
「つか、ファイターばかり見てなかった、です? 吐けば楽になりやがるですよ」
 じー、と見つめられながらシーヴに問い詰められ春風は震えながら言葉を紡ぎだす。
「ちくしょう! 何で俺はサイエンティストなんだ! 俺だってファイターが良かったのに! 何で嬢ちゃんみたいなか弱そうな子が大剣なんか振り回してんだ! ちくしょう! しかもさも自慢気に大剣は見せびらかすし! 派手に攻撃するし! トドメ取られるし!」
 今まで溜めていた言葉が爆発したのか春風は今にも泣きそうな声で叫びだした。
「とりあえず落ち着きなせぇ、まぁ‥‥俺も似たような事なんだが」
 東條の言葉に「お前もファイターが良かったのか!」と春風はくわっと強面の顔を近づけながら言葉を返してくる。
「俺は刀一筋だからな、適正は別が良かったんだが‥‥まぁ、今のクラスでしか出来ねぇ事を見つけつつ手前のやりたい事をやる、これしかねぇだろうな」
 手前も同業ならハジキ(エネルギーガン)やワッパ(機械剣)でも使って見やがれ、東條の言葉に春風は貰った機械剣を見る。
「あのさ、俺もさ、昔は憧れるだけでサイエンティストらしく頑張ってたんだけどさ。でも今じゃこれだもんね」
 虎牙は『天剣 ウラノス』を見せながら苦笑して言葉を続ける。
「だからさ! 春風さんも頑張って、サイエンティストは戦闘が苦手って前提をさ、一緒に覆さないッスか?」
 虎牙の言葉に「覆す‥‥か」と春風は何かを考え込むように呟いた。
「あのね、私も、最初は、ファイターって嫌だった、から。家族をキメラに殺されて、キメラが怖いのに、適正があって、能力者にならなきゃいけなくて‥‥前に出て戦う事が、凄く嫌だった」
 祈良の言葉に春風は自分がサイエンティストで嫌だったように、祈良も決してファイターという自分が好きだったわけではないのだと気づく。
「でも、一緒に戦ってくれて、励ましてくれる、仲間がいて、守りたいって思う人も、いっぱい出来て‥‥みんなのおかげで、今の私がいるから。私は、私に出来る事をやろうって、ファイターとして頑張ろうって思えるようになったんだ」
 祈良の言葉を聞きながら春風は我侭全開だった自分を恥じる。
「春風も、サイエンティストとして、出来る事、いっぱいあるから、頑張って欲しいな‥‥」
「今回のキメラさんを見ても分かると思います、いくら勇者でも周りから支援する仲間がいないと勝てないのですよ」
 治療を終えた沢渡が春風に向けて言葉を投げかけた。
「俺‥‥馬鹿だよな‥‥ないものねだりばかりして‥‥これからは気持ちを入れ替えて頑張るよ」
 機械剣を手にして「勇者は諦めた」と呟き、そのまま言葉を続ける。
「魔法戦士目指して頑張るよ、俺」
(「‥‥あんまり分かっちゃいねぇでありやがりますね」)
 シーヴは心の中で冷静にツッコミをいれ、他の能力者達と共に本部へと報告の為に帰還したのだった。


END