●リプレイ本文
万年氷河期褌男・その名は大石
今回は大石・圭吾(gz0158)との合コン――という名目の苛め大会だったりする。
「大石様とは、久しぶりに会いますが、変わって、いないんでしょうね?」
榊 菫(
gb4318)が苦笑しながら呟く。灰色のワンピースに暖かなショールを羽織り、何処か儚さを感じさせる雰囲気だった。
「んふふ、特に恨みがあるわけじゃないけど、あたしが楽しく生きる為に生贄になってもらおう♪」
ふふふ、と楽しげな笑みを浮かべるのは香坂・光(
ga8414)だった。彼女は特に大石に恨みがあるわけではなく、大石を弄るのが楽しいらしく今回の合コンにも参加したのだと語っている。
「そういえば、私とはふんどしーちょ祭で会っているけど大丈夫かしら? 大丈夫よね、多分大石さんはBAKAだから覚えていないわよね」
そう自身に言い聞かせるように呟くのはくれあ(
ga9206)だった。ちなみに彼女は夫も子供もいるのだが某もやし娘とは別路線の魔王的性格が今回の合コンに参加して大石を弄れと脳内で命じたらしい。
「今回はどうぞ宜しくお願いしますね、まぁ――私はお店での給仕役に徹しようと思っているのですけど」
苦笑気味に呟くのは白雪(
gb2228)だった。勿論普通に給仕をするのではなく、給仕をしながら大石を弄るという意味なのだろう。
「ふふ、悪戯して褒められるなんて凄く素敵な任務ですね」
にこにことした表情で長い髪を触りながら呟くのはユーフォルビア(
gb9529)だった。今回彼女がこの合コンに参加した理由は友人が大石により酷い目にあったらしく、面識のない彼女が仕返しに参加――という理由らしい。
「ふふ、わくわくです」
ユーフォルビアはふわふわとしたサンタドレスを翻しながら大石の叫ぶ姿を想像して呟く。
(「今回は‥‥無事に帰れるのでしょうか、あの人は」)
女性陣の(色んな意味での)やる気を見て辰巳 空(
ga4698)は苦笑しながら心の中で呟いた。
(「まぁ‥‥あの人が正規軍人だったら軍法会議物の出来事が多いですからね」)
そこで辰巳は気づくべきだろう、軍があんなBAKAを雇うハズがないと、どんなに忙しくても、猫の手を借りたいほどに忙しくてもあんなBAKAを雇うはずがないのだ。
「合コンの、甘い響きに誘われて‥‥俺! 参上!」
まるでスポットライトでも浴びるかのようなポーズと共に現れたのはイロモノにこの人ありと言われているかもしれない紅月・焔(
gb1386)だった。
ちなみに彼は依頼内容の『合コン』という文字しか視界に入れておらず、大石同様に勘違いしているのだという事を彼は知らない。
(「合コンか‥‥やべ! 何だかわくわくしてきたぞ!」)
紅月は心の中で呟き、その言葉とは裏腹に表情は凛々しく、何時ものHENTAIな雰囲気を感じさせないものがあった。
しかし悲しいかな、彼はガスマスクを着用しているので何時もと違う雰囲気を醸し出していても誰にも気づいてもらえなかったりする。そんな彼は大石と同レベルなHENTAIなのかもしれない。
「おうい、待たせて悪かったな! 今日の為に褌を新しくしてきてちょっと準備に時間がかかってしまったよ!」
大きく手を振りながら能力者達の元でやってくるのは――金色に輝く褌を纏った大石・圭吾だった。いつもは白や赤だったりする褌を金色にしてくるのだから彼のやる気は能力者達の想像を超えているのかもしれない。
「合コンというのは熱血な褌師匠も喜ぶものなんですね、僕も楽しみです」
そう呟くのは大石の弟子である千祭・刃(
gb1900)だった。合コンを知らない純真な発言に能力者達は師匠のようなHENTAIにならないようにと哀れみの視線を送っていた。
「前回は酷い目にあわせちゃいましたし、師匠を労いましょう」
ぐ、と握り拳を作りながら千祭は呟き、一緒に歩くのも恥ずかしい大石を連れて宴会場まで歩いていったのだった。
大石、それは哀れな男の名前
「この度はようこそいらっしゃいました」
宴会場へ到着すると、給仕役として白雪が動き始め、最近は寒くなってきたので能力者達に温かいお茶を出した。
「ぶふぇあっ! な、何だ、この真冬(夜)の外に出されたままで凍りつく寸前のような冷たい水は!」
何とも回りくどい言い方である、温かいお茶を啜りながら能力者達は大石が飲んでいる水のように冷たい視線で彼を見た。
「え? もしかしたら此処に運んでくる間に冷めちゃったんじゃない?」
香坂が首を傾げながら呟くが、そんな筈はない。むしろ一分も掛からない所から運んでいるのに何故そこまで急速に冷めるのか、普通の人間なら疑問に思う筈。
「なるほど! 文句を言ってすまなかったな!」
所詮はBAKAである。
「冷たいお茶で風邪を引いちゃいけないのでお酒でもいかが? 料理もどうぞ」
くれあがにこにことビールジョッキを大石に渡そうとする。しかし蜂蜜にクリームを載せただけの『ビール』にしか見えないのは気のせいだろうか。
「先にそっちのおでんを食いたい」
(「‥‥大石さんのくせに『ビール』を避けちゃった」)
にこにこと表情は変えないものの、くれあの心の中では暗黒雲が渦巻いている事だろう。
「それじゃ、私が食べさせてあげましょーか♪ あーん♪」
ちくわを箸で掴み、大石の口元まで持っていくと「あはーん」と鼻の下を伸ばしながら口を開ける――が「あっ」とくれあは滑ったような仕草をとって熱いちくわを、熱すぎるちくわを大石の素肌に当ててしまう。
「ぎゃあああああっ! ちくわ!」
大石は喚きながら暴れ、叫び、そして泣くのだが勿論これもわざとである。
「そうだ、私‥‥大石さんにプレゼントがあったんです」
泣き喚く大石を止めようとユーフォルビアが真っ赤な褌を差し出した。
「折角ですからそれを着用して合コンを楽しみましょうよ」
サンタ衣装をひらひらとさせながらユーフォルビアがにっこりと大石に微笑む。
(「も、もしや‥‥この子は俺に惚れているんだろうか、やはり今日は金色褌にして良かった‥‥!」)
大石が嬉しさを噛み締め「わかった!」と真っ赤な褌を持ってトイレへと駆け込む。ちなみに彼女が渡した褌には唐辛子などの刺激物がたっぷりと染み込ませてあり、あんな物をあんな所につけてしまったら‥‥もう、女の子として生きるしか道が残されていないような気がする――が、大石だからよしとしよう。
「‥‥た、辰巳‥‥何か、俺、男として大事な部分が痛い」
それから30分後、違和感を感じて大石がこっそりと辰巳に相談をする。辰巳は大石がいつ倒れてもいいように隅っこで待機しており、辰巳は周りを気にするような素振りを見せながら大石にしか聞こえないくらいの小さな声で言葉を返す。
「その褌が運命の女神様を怒らせたのですよ」
その褌=金色褌、と捉えた大石は「ふんがー!」と気が狂ったかのように金色褌を外へと投げ捨てる。
「ど、どうすればいいんだ? このままじゃ褌が、合コンが!」
大石はおろおろとしながら来る筈のない春を夢見て慌てていた。
「これが実戦ならとっくにキメラの餌食‥‥褌の祟りでしょうかね」
(「そ、そんなにヤバい状況なのか! 俺のコレは!」)
辰巳の真剣な表情が余計に大石の不安を掻き立てるのだが「死ぬ前に合コンを満喫せねば!」とBAKAな考えで「楽しむぞー!」と女性陣と戻っていく。
「‥‥ふ」
そんな大石の姿を見ながら紅月が(ガスマスクの中で)不敵に笑う。彼は大石のライバルであり、友人である――と自称しているのだがほぼ初対面な不思議がある。
「おおぅ! そこの変な人も一緒にメシを食おう!」
変な人である大石に変な人呼ばわりされるのはきっとLH中を探しても紅月だけだろう。
「師匠! どんどん飲んでくださいね!」
千祭が大石にビール(に見えるソレ)を差し出しながら可愛さアピールをする。
「ほらぁ、大石さん! こっちも食べようよ」
香坂が持って来たのはカキ氷(現在真冬)冷たい料理(現在の気温マイナス2度)とっても辛いもの(既に中身は真っ赤)食べ物か分からない謎の物(中からプギャーと何かの声が聞こえる)を差し出す。
「さすが師匠、女性に大人気ですね」
千祭はにこにことした表情で呟く。しかし心の中では『そんな事はないでしょうけど‥‥』とさすが弟子なだけあって師匠の事をよく分かっていた。
「当店のサービスですよ、どれか一つだけは当たりで特別なおはぎです」
白雪が人数分のおはぎを持ってきて一人ずつ配っていく。
(「明らかに一つだけ大きさも形も違いますね‥‥」)
辰巳は自分の分のおはぎを受け取りながら大石の持つおはぎを見る。ちなみに白雪の言う『特別なおはぎ』は勿論大石にいっており、中身は鯖が入っているのだとか。餡塗れの鯖、考えただけでも胸焼けを起こしそうだ。
「そういえば、キミは具合でも悪いのか?」
真っ赤になって俯いたままの榊を見て大石が問いかけると「えっと、あの‥‥」と口ごもる。
「大石君、女性は優しく扱うものだよ――お姉さんの今日のパン‥‥「自主規制っ!」」
きっと最後には『ツ』がついたであろう紅月の言葉を香坂がスパンっとハリセンで叩きながら防ぐ。
「そういえば‥‥香坂、何かこれから異臭がするんだが‥‥」
「あ、これあたしが作ったんだ♪ 食べてくれるよね‥‥? 女の子が作った物を食べないなんて事しないよねー?」
香坂の言葉に「うっ!」と大石は言葉につまり、料理と香坂を見比べ、そしてごくりと喉を鳴らして食べ始める。その瞬間だけ大石には褌を着た天使が見えた気がした。
「顔色が悪いですね、少し休まれますか?」
辰巳がぐったりとしている大石に話しかけ、そしてボソリと呟く。
「さぞかし‥‥人にも褌にも恨まれているのですかね‥‥」
「た、辰巳‥‥今なんて言「あぁ、いえいえ気にしないで下さい」」
辰巳は気にしないでくれと言いながら胃薬を渡して大石に飲ませる。しかし気にするなと言われれば言われる程に気になるというのが人間である。
「そうそう、お菓子を作ってきたんですけど食べませんか? 一杯作りすぎちゃって」
そう呟きながらくれあは大石の前に大量のシュークリームを渡す。
「ちょっと待った! 俺も男だ、そんなトキメキ☆シュークリームを貰う権利がある!」
紅月は(ガスマスクの中で)真剣な表情をしながらくれあのシュークリームを奪い、口の中に放り込む。
「トキメキ☆シュークリームは頂い‥‥ッ!!!!」
紅月は言葉を途中で止めてその場に蹲り、ごろごろとのた打ち回る。それもその筈だ、くれあの差し出したシュークリームには唐辛子やわさびなどが入っていたからだ。
しかしガスマスク着用の彼の表情は伺えず『美味しさのあまりのた打ち回った』としか見えない。
そこで気にしてはいけない。ガスマスクなのにどうやってシュークリームを食べたんだ、それはきっと世界(に幾つあるか分からない)不思議の一つだと思って欲しい。
「お、お前! くれあが俺のために、俺の為に作ってくれたものをおおお! 吐き出せ! 吐き出すんだ!」
大石は紅月の胸倉を掴みながら揺さぶる、しかし紅月も吐き出して良い物なら吐き出したい所だと言う事を大石は知らない。
「大丈夫ですよ♪ まだ沢山ありますから♪」
そう言いながらくれあはドンとシュークリームをテーブルの上に置いた。ちなみにハズレは分かるようにクリームを多く盛られている事を大石は知らない。
「それじゃ早速! くれあが俺の為に作ってくれたシュークリームを!」
ばくりと食べた大石が笑顔のままその場に蹲る。
(「こ、此処で嫌な顔をしたらくれあが傷つくかもしれん! 此処は耐えろ、耐えるんだ! たとえ唐辛子の味がしても!」)
大石は口の中に広がる唐辛子の味に耐えながらも「う、うまー」と弱々しく笑う。
「大石さんへ特製料理をお持ちしました」
白雪がにっこりと笑いながら『褌ステーキ』や『褌風味のコンソメスープ』などを持ってくる。此処で疑問に思ってはいけない、何故料理に褌を使うのか、など。
「そうそう、合コンの定番と言えば王様ゲーム! というわけで王様ゲームしよ!」
ユーフォルビアが(細工済みの)籤を取り出して全員に配る。勿論細工してあるのだから大石が圧倒的に(絶望的に)不利である。
「なぁ、何か様子がおかしいんだが――これは合コン、だよな?」
紅月が合コンにしてはキャッキャ☆ウフフがない事を疑問に思い辰巳に問いかける。
「これは合コンと言う名前を借りた大石さん弄り大会ですけど?」
辰巳の言葉を聞いて紅月の背後で『合コン』という文字版がガラガラと音を立てて崩れていく。
「俺は‥‥裏切りは許さない‥‥」
ごごごごご、と怒りと悲しみのオーラを纏いながら紅月は宴会場を出て、依頼人の男性の所へと駆けていった。
この場合、確認しなかった彼が悪いんだと言う事はこの際置いておこう。
「あら、大石様? どうしたんですか?」
王様ゲームで大石が怪しげな袋に入る、という事になったのだが中々大石は入ろうとしない。
「いや、だって‥‥これ、何か動いてるし」
「もう、いいから入ってくださいっ」
ユーフォルビアは渋る大石を半ば無理矢理袋の中に詰め込み、外から殴る蹴るの暴力を行った。
「昔、兄様から聞いた一番酷い経験からヒントを得ました」
ぎゃああ、とか、うおお、とか叫び声が聞こえるのだけれどそこはあえて聞かない事にした。
そして大石がヤバいと感じたのか辰巳がストップをかけて応急処置を施す。
「もしかしたら‥‥大石さんが褌に拘る限りこのような事が起きるのかもしれませんね」
ぼそ、と治療の合間に呟かれた辰巳の言葉だったが「俺は、褌を信じる」とまるで数十年来の友人を信じるような口ぶりで言葉を返してきた。
「さて、大石さんを弄ったし後は‥‥食べるのだ♪ 沢山食べるのだ〜♪」
香坂はテーブルの上に並べられた料理を見てがつがつと食べ始める。
「あの、俺のメールアドレス‥‥」
大石がくれあに渡そうとしたのだが「えぇー、私には心に決めた相手が」と夫と子供が居る事をさりげなく、そして堂々と知らせる。
「そ、そんなー!」
がっくりと肩を落とすと「師匠、楽しんでいただけま‥‥」と千祭が言葉を止めた。そこにはいつものBAKAな師匠ではなく春到来の筈が冬続行で嘆き悲しむ師匠の姿があったのだから。
「あらあら、まだまだ沢山もてなしを用意していたのですけど‥‥」
白雪が残念そうに呟く。そして大石は榊と視線を合わせて「俺と――「一度お断りしているのに覚えてませんか?」」とにっこりと断られる。
結局、大石は運命の恋人には出会えず、紅月は合コンを楽しめず、能力者達はまだまだ用意していた大石のもてなしを使いきらないうちに大石が消沈してしまった事により、それぞれお解散となったのだった。
END