タイトル:カマと馬マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/03 06:59

●オープニング本文


いやぁぁぁぁぁぁぁっ!

何でアタシがこんな目に合わないといけないのよぅ!

※※※

それは雨が降りしきる夜だった。

鵺(gz0250)を含める5人の能力者達が馬型キメラを退治に森へと入り、標的を発見して戦闘を開始した。

しかし血が苦手な鵺は戦闘開始後5秒で意識を失い、他の能力者達のお荷物となっていた。

鵺以外の能力者は最近傭兵になったばかりで、実力ははっきり言ってない。

それなのに、意識を失った鵺に気をとられたせいか、不意を突かれてキメラから攻撃を食らい、大きなダメージを受けてしまった。

結局、そのまま戦闘を続けることが困難になり、退却を余儀なくされた――のだが。

怪我をしていたせいもあるのか、鵺を現場に放置してきてしまった事に4人が気づいたのは本部に帰還してからのことだった。

「あのさ、全然役に立たない奴だったけど、俺らのせいで死なれても夢見が悪いし何とか助けてやってくれないかな」

病院の帰り、痛々しく包帯を巻いた能力者達が4人、頭を下げて鵺救出を依頼してきたのだった。

●参加者一覧

シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
ルカ・ブルーリバー(gb4180
11歳・♀・ST
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
片倉 繁蔵(gb9665
63歳・♂・HG
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

―― 忘れられたカマ ――

「ふぅん、現場が小さな場所だって聞いていたけど本当に小さな森なんだね」
 夢守 ルキア(gb9436)が小さく呟く。彼女は鵺(gz0250)と一緒に任務へ向かった能力者達から地図を貰い、現場の特徴などを聞く作業をしていた。
「それじゃ、私達は鵺君を助けに行くから、キミ達もゆっくり傷を治す事に専念するといいよ」
 夢守は能力者達にそれだけ言葉を残すと、今回一緒に任務を行う能力者達との合流場所へと向かって行った。

 そして合流場所――榊 紫苑(ga8258)が大きなため息を何度も吐いていた。
「久しぶりの仕事が、これですか? やれやれ疲れそうですね」
 色んな意味で、と彼は言葉を付け足しながら再び大きなため息を吐く。
「ああ、まあ何と申しましょうか‥‥この仕事に向いておられないのでは‥‥どうしてこの方能力者になったんでしょう?」
 シア・エルミナール(ga2453)は鵺の資料などを見ながら不思議そうに呟く。そしてその言葉を隣で聞いていた榊は『イケメンゲットの為ですよ』と心の中で言葉を返していた。
「まあ、兎も角急いで助ける事には致しますけれども。夜の雨となれば体力の消耗も激しいでしょうし‥‥手遅れになる前に見つけ出せればいいですけど」
 シアが呟く。しかし鵺と面識のない彼女は知らない事だろう。あれだけイケメンゲットに燃える鵺の体力など激しく消耗してしまえばいいと狙われた者達が思っている事を。
 そして色々な意味で『手遅れな人物』という事に。
「鵺ちゃん‥‥大丈夫、かな? ‥‥心配です‥‥」
 ルカ・ブルーリバー(gb4180)がしょんぼりと俯きながら小さな声で呟く。彼女は鵺が危険だと言う事を聞き、今回は鵺を助ける事だけを考えていた。どんなにアレな人物でも一応人間なのだから、危険が迫れば万が一と言う事も考えられなくはないのだから。
「まったく‥‥いつまで経ってもへっぽこのままか――まぁ、あのままの方が玩具としては面白いがな」
 フローネ・バルクホルン(gb4744)がため息混じりに呟き、手に持っているスーツケースを見ながら不敵に笑む。
「初めての任務か、任務を成功させる為にキメラを退治せねばな――要救助者も心配ですからな」
 片倉 繁蔵(gb9665)が資料を見ながら呟く。
「そうそう〜、一応念のために確認してきたんだけど〜、森のこの部分で戦闘になっておいてきたんだって〜」
 八尾師 命(gb9785)が夢守の持つ地図のある部分をさす。そこはちょうど森の真ん中くらいの位置だった。
「あ、遅くなったかな?」
 自分達に話しかける声に気づき、能力者達は声の方向を見る。すると竜の着ぐるみを着て、巨大ハリセンを背負い、AU−KVに乗る人物がそこにいた。
「置いてけぼりにされたドジな傭兵の救出って聞いたんだけど」
「あぁ、それなら私達ですよ。もう一人来られるみたいですけど、あなたですか?」
 シアが言葉を返すと「うん、俺もその任務に参加してる」と竜の着ぐるみマン――ではなく大槻 大慈(gb2013)が言葉を返した。
「でも‥‥」
 大槻が口ごもるように呟くと「どうかしたのか?」とフローネが問いかけるように話しかけてきた。
「あ、いや。何でもない」
 大槻は手を振って「何でもない」と言うけれど、その心の中では考えている事があった。
(「男色の気があるって聞いたけど大丈夫だよな‥‥」)
 これから助けに行く人に不安があります、なんて彼には言う事が出来ず曖昧に言葉を濁すだけだった。
「さて、行きますか? 遅くなると万が一の可能性もありますし‥‥」
 榊が呟き、能力者達は鵺が置いてけぼりにされ、キメラがいまも徘徊する森へと向かうために高速艇へと乗り込んだのだった。


―― 疾走するカマとキメラ ――

 現地は小さいと言えど森の中、しかも雨で足場も悪ければ視界も悪いという悪条件の中での任務を強いられる事になった。
「すぐに見つかると良いのですが‥‥」
 シアは覚醒を行いながら小さく呟き、鵺、そしてキメラの捜索を開始する。
 今回は場所が小規模と言う事もあり、能力者達は分かれて行動するのではなく纏まって行動するという作戦を立てていた。
「足場が‥‥戦闘中は滑らないように、気をつけなくてはいけませんね」
 足元はぬかるんでおり、気を抜けば転んでしまいそうなほどだった。
「‥‥わっ‥‥」
 ルカが滑って転びかけた所を「大丈夫か」とフローネが転ばないように腕を掴んで支える。
「この辺は特にぬかるんでるね、気をつけた方がいいよ」
 夢守の言葉に「は、はい。ありがとうございます」とルカはフローネに礼をいい、再び捜索を続ける。
「う〜ん、聞いた話ではこの辺が戦闘場所なんだよね〜」
 八尾師がきょろきょろと周りを見渡しながら呟く。雨の中、視界は悪いけれどそこに鵺やキメラの気配は感じられない。
「やっぱり、同じ場所にはいないか」
 片倉も小さなため息を吐き、周りを見る。
「‥‥あ」
 ルカが何かを見つけたように慌てて木の所に駆け寄る。
「ん? どうかしたの?」
 夢守が問いかけると「これ‥‥鵺ちゃんのです‥‥」ときらきらとした髪留めをルカが拾って能力者達に見せる。
「ふむ、確かに鵺が身に付けていた薔薇の髪飾りだな」
 フローネが呟き「どんな服装の時も身に付けていたから恐らくお気に入りの物なんだろうと思ってました」と榊が言葉を返す。
「本気で急いだ方が良さそうで「いやぁぁぁぁぁぁぁんっ!」‥‥す?」
 シアが真剣な表情で呟いた時、それらは現れた。ヒールの高いブーツを履いておりながらも全力疾走でキメラから逃げるカマと馬キメラ。
「ずいぶん賑やかだと思ったら、あなたですか‥‥?」
 榊がため息混じりに呟き、武器を手に取る。
「助けに来てやったぞ、しんどいだろうが高速艇まで走れ、そして助けに来てくれた男たちに礼をする準備をしておけ」
 フローネは『大鎌 紫苑』を構え、鵺とキメラの間に入り、鵺を追いかけるキメラに一撃食らわす――ハズだったがキメラは危険を察知したのか途中で止まる。
「いやよぅ、もう走れないわよ‥‥此処で待ってるから早く倒してよ」
 言いながら鵺は「雨に濡れて寒くて死にそうだわ」と言い、どさくさに紛れて榊に抱きつく。
「う、うわぁ‥‥」
 鵺に見つからないように大槻は隅っこで着ぐるみからAU−KVへと着替え、彼愛用のハリセン武器を構える。
(「俺も男って知られたらあんな風な扱いされるのかな」)
 大槻は想像しながら心の中で呟き、背筋が凍りつく思いがした。
「鵺ちゃんっ!」
 榊に抱きついている中、キメラが榊と鵺に襲いかかろうとする――鵺が抱きついていなければ榊は戦う事も出来るのだが「きゃあ、こわーい」と『この機会を逃すものか!』と言わんばかりに鵺が抱きついてくるので迎撃する事も出来ない。
「鵺さん、出来れば後ろに下がっててもらえますか」
 シアは小銃『S−01』でキメラに攻撃を仕掛け、動きを止めた後に少し厳しい視線を向ける。
(「はて、男性、ですよね? まあご本人の趣向をとやかく言うつもりはありませんけれど」)
 シアは心の中で呟き、再びスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。鵺があんな状態でなければ『閃光手榴弾』を使用して一気に攻めるつもりだったのだが、鵺のきゃあきゃあとした行動でそれを実行するにはあまりにも此方かかるリスクが大きすぎた。
「ほら、後ろに行こう? 怪我してるんだから大人しく治療されてるといいよ」
 夢守が鵺の手を引っ張りながらルカと共に後ろへと下がっていく。
「頑張ってねー」
 夢守は前衛で戦う榊、大槻、フローネの三人にスキルを使用してそれぞれの武器を強化する。
「あ、あなた‥‥もしかしてアタシの事が好きなのねっ、これは運命かしら!」
 手を引っ張られただけで『運命』と称する鵺、普段どれだけ運命感じているんだろうと心の中で思いつつも夢守は「あ、そうかもね」と曖昧に言葉を濁す。
(「確か、恋愛年齢の幅が凄く広いんだったっけ? 私の事を男だと勘違いしてるみたいだけど――女、なんだけどなぁ」)
 面白いから言わないけど、心の中で夢守は言葉をつけたし自分も戦う隙を見つけるため、前衛や後衛の片倉、シアの戦闘に見入る。
「鵺ちゃん‥‥怪我、少し‥‥酷いね‥‥」
 ルカはスキルを使用しながら鵺の怪我を治療していく。大きな怪我こそないけれど放っておけば、という傷が多々見られた。
「あは、まぁねぇ、とりあえず命あっただけマシって感じかしら。イケメン来たし!」
 ぐ、と拳を強く握り締めながら鵺はバチコンと夢守にウインクをしてみせる。最後の言葉と態度に本音が出ているのは気のせいだろう。
「行くぞ」
 片倉は『スコーピオン』を構えてスキルを使用しながら攻撃していく。その攻撃に合わせるようにシア、八尾師も攻撃を行い、前衛たちが攻撃しやすいように援護射撃をしていく。
「後ろから、うざい視線来て疲れそうだし、さっさと終わらせるか、なっ!」
 榊は後ろから怨念のようにしがみついてくる鵺の視線を見ないようにしながら『天照』を振り上げて攻撃を仕掛ける。
「せぇーのっとぉ!」
 大槻は『【OR】バトルハリセン』でキメラへと攻撃を仕掛ける。そしてくるりと回って次の攻撃に備えようとした時、キメラが自分目掛けて突進してくるのが見える。
「おっと」
 それを紙一重で回避し、スキルを使用してキメラの足をなぎ払うように攻撃を仕掛ける。するとキメラは攻撃を受けた事で派手に転んでばたばたともがき始めた。
「惨めな姿だね、さぁ――反逆の開始だよ?」
 夢守は「くす」と笑って見せ、スキルを使用した後に『エナジーガン』で攻撃を行った。そこでキメラが立ち上がり、能力者へと攻撃を仕掛けようとする。
「とりあえず無難に、無難に〜」
 八尾師はスキルを使用して能力者達の武器を強化した後、自らも『スパークマシン』で攻撃を行った。
 その際に挑発でもするかのような攻撃を行い、キメラの標的を自分に向ける。
「これから『閃光手榴弾』を使ってキメラの動きを止めます、それぞれ巻き添えを食わないように気をつけて下さい」
 向かってくるキメラを見据え、シアが呟き、それから遅れること数秒後に夜とは思えないほどに瞬間的に明るくなる。能力者達はそれぞれゴーグルで防いだりと各自で対処をしたおかげで巻き添えは食わなかったけれど、キメラは回避できなかったようで目をくらくらとさせながら苦しそうに呻いている。
「行くよ〜」
 八尾師は呟き、スキルを使用してキメラの防御力を低下させる。
「長雨は銃にも良くないですから、早めに終わらせてください――弾も勿体無いですし」
 呟きながらシアは『貫通弾』を使用し、スキルを使用しながら攻撃を続ける。
「この後、もっと疲れる事が発生するんだから‥‥せめてお前は迷惑かけないよう、さっさとやられてくれ」
 榊はおそらく戦闘が終わったら抱きついてくるであろう鵺の視線を感じ、大きなダメージは受けていないはずなのに、何故か体は重かった。
「さてさて、これ以上こんな雨の中で戦い続けて風邪引かないうちに切り上げちゃおうか」
 大槻がハリセンを振り回しながら呟き、キメラに攻撃を仕掛ける。
「そうだな、流石に年寄りに肉体労働は難儀なものよ‥‥」
 ふぅ、とため息を吐きながらフローネが呟く。しかし外見年齢は18歳の為『年寄り』という言葉が当てはまらないという事を彼女は自覚していない。
「そろそろキメラも限界近いみたいだから、さっさと片付けちゃおうよ」
 夢守が呟くと「同感だな」と片倉も言葉を返し、再び銃口をキメラへと向ける。
 その後、ルカがスキルを使用してキメラの防御力を低下させ、能力者達はキメラにそれぞれ攻撃して鵺を苦しめていたキメラを撃破したのだった。


―― キメラ去り、カマが復活 ――

「ガルルルルッ」
 戦闘が終わり、治療などをしている間に大槻は鵺に向けて威嚇するような唸り声を上げる。
 ちなみにこんな事になる前には一つの騒動があった。

〜数分前〜
「助けてくれてありがとうねっ」
 鵺が全員(拒否権なし)に抱きついてお礼を言っている時に悲劇は起きた。
「な、何するんだっ! 俺には彼女がいるんだからなっ!」
 鵺=男色、という方程式が彼の頭の中に渦巻いていたせいか必要以上に警戒してしまう。
「彼女‥‥? あぁ、あなた女の子かと思ったら男の子だったのね! つまりアタシ達はきっと今、劇的な出会いをしたのよ」
 どれだけ湧いた頭してるんだよ、大槻は心の中で呟くが時既に遅し。彼は見事に鵺の『運命の人』の一人に加えられてしまったのだから。
〜回想終了〜

「だから俺には彼女がいるんだから却下だ!」
 巨大ハリセンでばちこんと叩くのだが「ふふ、愛に障害物はつきものだわ」とある意味ストーカー並のプラス思考で大槻をぞっとさせた。
(「美女なら大歓迎だけどカマは勘弁だっ」)
 大槻は心の中で呟くが、それからも鵺に「アタシの名刺よ」と聞きたくない事までびっしりと書き詰められた名刺を(無理矢理)渡されげっそりとする。
(「とりあえず、男に生まれなくて良かった――というべきでしょうか」)
 一連のやり取りを見ながらシアが冷静に心の中で呟く。そして自分に来なくて良かったと榊は同情の目で大槻を見る。
「榊ちゃぁんっ、タイジちゃんたら酷いのよぉ!」
 何気に大槻の事を名前呼びしている上に「酷い」と縋るように泣きついている。
(「酷いって言いたいのは俺なのに」)
「それにしても凄く怖かったわぁ‥‥アタシ、か弱いから‥‥」
 鵺の言葉に恐らく全員が思った事だろう――お前、能力者だろ、と。
「救出が遅れてすみません、怖い思いをしたでしょう? マドモワゼル」
 夢守が跪いて年齢の割には気障な台詞と態度で鵺を見つめる。
「あ、あなたこそアタシの本当の運命の人だわ!」
 しかし鵺は気づいていない。夢守が『女の子』だと言う事に。普通に鵺の性別を考えれば『女の子』に恋するのが当たり前なのだが、彼はカマ、カマなのだ。
「あは、恋多き人だね〜」
 八尾師はにこにこと遠巻きに見ている、恐らく見ている側にとってこれ以上ないくらい面白いなのだろうが(望む事なく)巻き込まれた方としては迷惑以外の何者でもない。
「‥‥その様子じゃ大きな怪我はなさそうだな、嬢ちゃん」
 片倉が話しかけるが「惜しい、あと30年早くに出会ってたら‥‥!」と指をパチンと鳴らしながら言葉を返した。しかしその30年前の片倉に出会っていたなど鵺は微塵も気づいていないのは何故だろう。

 その後、フローネの持って来たチャイナドレスを高速艇の中で鵺が着るのだが――明らかに深すぎるスリットの為に見えなくていいものが見えてしまい「お嫁にいけないわ!」と鵺が泣き始めたのは言うまでもない。
 しかし、そのスリットを見て着ると決めたのも鵺だと言う事を忘れてはいけない。

END