●リプレイ本文
―― 風の獣・カマイタチ ――
「過去にも色々なバリエーションのキメラが出てるみたいだけど、それだけ恐れられていると見るべきか? それとも単純に使い勝手を求めてたら行き着いたのか‥‥」
どちらとも取れるわね、そう言葉を付け足して呟くのは月代・千沙夜(
ga8259)だった。
「しっかし殺傷能力は低いとはいえ、また厄介そうな攻撃持ってんな〜、どっちにしろ放っては置けねーよな」
ヤナギ・エリューナク(
gb5107)は煙草の煙を吐きながら呟き、街の見取り図を見る。現地で素早く動けるように彼が用意したものだった。
「――見えない刃でも射線上に立たなければいいだけ。何か分かるような特徴があるはずだもの」
巳乃木 沙耶(
gb6323)は淡々とした口調で呟く。彼女が言うように射線上に立たなければいいだけ、確かにその通りである。
「でも‥‥この任務を受けた前の能力者の皆様は判別が出来なかったのですよね‥‥やはり気をつけるに越した事はなさそうです」
流離(
gb7501)も前の能力者達が任務に行った時の報告書を読みながら呟く。はっきり言って前の能力者達の情報は漠然としていて、今回の役に立つような事は何もない。
だから今回の能力者達は『見えにくい刃に気をつける』くらいの事しか出来ないのだ。後は現地に赴き、実際に戦うまでどのような技なのかも判らないのだから。
「流石に相手の攻撃がはっきりとしないうちは突貫攻撃なんて無理っぽいね」
苦笑しながら相澤 真夜(
gb8203)が呟く。可愛らしい外見とは裏腹に突貫キャラな彼女は少しだけ残念そうだった。
「そういえば‥‥何でメイド服なの? いや、別に悪いわけじゃないけど」
相澤が首を傾げながら加賀 環(
gb8938)に問いかける。むすっとした表情にメイド服、しかもメイド服の上からはジャケットを羽織っており、煙草を吸っている。明らかに誰がどう見ても不良メイドにしか見えない。
「あ? 何でメイド服かって?」
加賀は呟いたあとに大きなため息を吐き「聞くなよ、キャラじゃないって自分でも思ってるんだからさ」と言葉を付け足す。
「そもそも私はメイドじゃないぞ、全く‥‥半ば罰ゲーム気分だよ」
ぶつぶつと文句を言いながら設置してある椅子に座り「普段はこんなの似合うハズもないのに」と煙草を吸いながら呟いていた。
「現地に到着したら街に寄ってキメラがいないかを確認してみますね。街の人達ならば相手がどんな感じで襲ってくるのかとか知っているような気もしますし‥‥」
ユウ・ナイトレイン(
gb8963)が資料を見ながら呟く。
「実戦経験を積む為に受けた任務だけど、結構厄介な相手――なのかな」
和 弥一(
gb9315)が資料を見ながら呟く。
「さて、と。行きますか‥‥後は行ってからじゃないと判らない情報ばかりだしな」
ヤナギがつけたばかりの煙草を苛立つようにもみ消して立ち上がる。やはりキメラによる住人達の被害などを考えると穏やかな気持ちではいられないのだろう。
「そういえば、此処に来るまでに負傷した能力者達に話を聞いてきたのですが、手を大きく振る動作の後に切られている事が多かったそうですよ」
和の言葉に「手を大きく振る動作、か」と相澤が呟く。
「多かったという事は、それ以外でも切られた事があったのね」
巳乃木の言葉に「えぇ、だからあまり確実とは言えないと彼らも言っていました」と和が言葉を返す。
「とりあえず、油断せぬように気をつけましょう」
流離が呟き、能力者達は現地へ向かう為に高速艇へと乗って出発したのだった。
―― それぞれがやるべき事 ――
本部から出発した能力者達はやや街寄りの方に高速艇を停めてもらい、街へ降り立つ。
此処から少し班分けをして別行動を取るという作戦を能力者達は立てていた。
街へ寄って住人達の話を聞く能力者達が月代、相澤、ユウ、巳乃木の四人。
キメラが居るとされている場所に赴き、キメラを見張る能力者達が加賀、和、ヤナギ、流離の四人。
「それじゃ、何かあったら知らせてくれ」
ヤナギが街へ赴く能力者達に言葉を投げかけ、見張り班の能力者達と共に街から少し離れている空き地の方へと向かって歩き出して、街へ赴く能力者たちは巳乃木のジーザリオに乗って行動を開始し始めたのだった。
※街班※
「街にキメラが居なければいいけれど。全員で空き地に行って肝心のキメラは街にいました、じゃ洒落にならないものね」
月代が呟くと「そうですね、街に居た場合は何とかして空き地に誘導しなくちゃ」と相澤が言葉を返す。
「その他にも話を聞かなくてはいけませんね、此方に有利な情報があればいいのですけど」
ユウが手を口元に当てながら呟くと「情報がなくとも害を成すなら片付けるまでですが」と独り言のように呟く。
そうしている間に街へと到着する、やはりキメラが近場にいるせいか緊張した雰囲気が能力者達に伝わってくる。
「やはりキメラが一般人に与える恐怖は絶大ね、出来れば話を聴きたい所だけど‥‥話してくれる人はいるものやら‥‥」
月代がため息混じりに呟く。
「でも話を聞かないと此方の戦い方にも関わってきますしね」
ユウが呟いた時に「あれ、人がいるよ」と相澤が指差しながら呟く。他の能力者達も視線を其方に向けると若い男性が能力者達に頭を下げながら此方を見ていた。
「あの、キメラを退治してくれる人たちですよね? キメラはこの街にはいません、多分空き地の方だと‥‥」
男性の言葉に「えぇ、其方にも能力者は行っているわ」と巳乃木が言葉を返した。
「万が一此方にキメラがいた時の事を考えて二班に分かれて行動しているのよ、それに聞きたい事もあったし」
月代の言葉に「聞きたい事?」と男性が首を傾げる。
「キメラがよく来る時間と最後に来たのは何時頃かを聞きたいのよ」
「それと、相手がどんな感じで襲ってくるのか、どんな動きをするのか――ですね」
月代の質問にユウはさらに二つを加えて男性の言葉を待つ。
「キメラが最後に来たのは2日前だったと思います、来る時間は不規則なんですけど夕方以降が多いですね」
最初に男性は月代の質問に答え「襲い方とか、自分はあまりよく見ていないので役に立てるか分かりませんけど」と言葉を置き、そのまま言葉を続ける。
「手を大きく振る動作が多いと聞きました、後はそのまま人間を狙ってくる事も勿論あるんですけど、例えば建物を壊してその瓦礫で動けなくさせてから、と言う事もあったと聞きます」
「キメラに知恵があるとは思えませんが、用心するに越した事はないですね」
「そうですね、それでは向こうの方も気になりますし‥‥急ぎましょうか」
ユウが呟き、能力者達は男性に礼を言って巳乃木のジーザリオに乗って空き地へと移動したのだった。
※空き地班※
「‥‥寝てるよ」
「‥‥‥‥寝てますね」
目的の場所に到着した後、加賀がぼそりと呟いた言葉に和も苦笑しながら呟く。キメラは空き地の隅っこに確かに存在した。横になってぐぅぐぅと寝ている姿だったけれど。
「さて、どうするかね‥‥多分、向こうの班もこっちに向かってる頃だろうし下手に刺激するのも考えモンだし‥‥」
ヤナギが呟いた時だった、寝ていた体がのっそりと起き上がり、キメラは空き地内を見渡すように頭を巡らせた。
「もしかして‥‥何処かに移動しようとしているのでしょうか」
流離が呟くと「そうなったら厄介だな」と加賀が言葉を返した。
「しかたねぇ、行くか」
ヤナギが呟き、移動しようとしたキメラの前に姿を見せる。何処かに行こうとしていたキメラは足を止め、くるりと能力者達の方を見る。
「さて、それでは参りましょうか」
覚醒を行ったことで口調の変わった加賀が『双剣 ピルツ』を構える。
「支援はします、皆さん、どうかお気をつけて‥‥」
流離はスキルを使用して能力者達の武器を強化する。
「まずは牽制ですね、では‥‥作戦開始です」
和も呟きながら『壱式』を構えて、自分達に向かってくるキメラを迎撃すべく態勢を取る。
しかし、キメラは能力者達から少し距離を置いた所で立ち止まり、手を大きく振り上げる。
「‥‥っ!」
キメラが手を振り上げた一瞬の後、能力者達は何かに叩きつけられるようにダメージを受けて地面へと膝をつく。
「なるほど、これが『見えない刃』というわけですか」
和はぱっくりと切れた腕を見ながら呟く。太陽の光に当てればかすかに煌く程度、確かにこんなものが光のない場所で使われればいいように攻撃を受けるだけ。
「ダメージ蓄積はあんまりないな、やっぱり資料通り殺傷能力は限りなく低いと見て間違いはなさそうだ」
ヤナギが呟いた時、街に行っていた能力者達が合流してそれぞれキメラ退治の為に本気で戦う事となる。
―― 戦闘開始・カマイタチを打ち倒せ ――
全員が揃ったという事で能力者達は予め決めていた配置へとつく。
前衛に相澤と和、右翼に加賀と月代、左翼にヤナギとユウ、そして後衛に巳乃木と流離と二人一組で動く作戦を立てていた。二人一組とは言っても同じ空き地内で戦うのだからそれぞれのフォローが出来る位置に居る。
「接近します、援護をお願いします!」
和が叫びながらキメラへと向かう、そして巳乃木は愛用の銃で和と一緒に飛び出していった相澤の援護をするように射撃をしていく。
「気をつけて下さい、負傷したら治療しますので」
流離もスキルを使用して能力者達の武器を強化し、いつでも治療が出来るように待機する。
「逃がねェゼ?」
キメラが前衛2人の攻撃を避けるように左に避けた所、ヤナギが素早く攻撃を仕掛けて元の位置に戻す。ユウも隙を突くように攻撃を仕掛け、前衛2人の攻撃を避けきる事が出来ないようにした。
「被害を出したくないのよ、大人しくやられて頂戴」
月代が『デヴァステイター』を使用しながら攻撃を行い、そして呟く。味方が攻撃しやすいように射撃を行い、勿論味方に誤射しないようにも心がける。
「そのまま終われると思うなよ?」
ヤナギは仲間の攻撃が終わったすぐにスキルを使用して攻撃を行う。その際、近距離から『見えない刃』を受けたけれど、咄嗟に避けたため大きなダメージを負うに至るまでではなかった。
「ただのイタチのように大人しくしておけばよかったものを――今更ですが」
巳乃木は攻撃を仕掛けながら淡々とした口調で呟く。横にキメラが逃げようと動くけれど「逃げ場など与えませんよ」と先読みをしていたのか巳乃木の射撃からキメラが逃げ切る事はできなかった。
「ほらほら、そっちにばかり気をとられてるとこっちの攻撃を避けられないんじゃない?」
からかうように相澤がキメラに向けて言葉を投げかけ、『忍刀 颯颯』で攻撃を仕掛ける。
「わっ」
接近で爪を飛ばしてくる攻撃をキメラが行い、相澤の頬を掠める。
「どうぞ此方の事を少しでも思ってくださるなら素直に倒されてください。そちらの方が私達も助かりますので」
加賀は双剣を振り下ろしながら呟く。
「ユウ、行くゼ?」
ヤナギの言葉にユウは首を縦に振り、ヤナギの攻撃と合わせるようにスキルを使用しながら攻撃を仕掛けた。
「この動作‥‥皆、アレが来るゼっ!」
ヤナギの言葉に能力者達はそれぞれ身を守る。キメラが大きく手を振り、それまで能力者達がいた所に傷が出来る。ヤナギの言葉がなかったら逃げ遅れて、大きな傷こそなかっただろうがそれでも負傷していたに違いない。
「今です‥‥お願いします!」
流離はスキルを使用してキメラの防御力を低下させ、流離の言葉を聞いた能力者達は総攻撃のようにしてキメラに攻撃を食らわし、見事キメラを退治して見せたのだった。
―― 荒れた風、穏やかになりて ――
「あーっ、もう。ったくまだまだ覚醒による変化に慣れやしねぇ。メイド服が似合うような性格にはなるんだが、それ以上に私らしくなくて嫌になるな」
戦闘が終わった後、覚醒解除した加賀が乱暴に頭を掻きながら叫ぶ。まだ傭兵歴の短い彼女にとって覚醒による変化に慣れる事が出来ないのも無理はない。
「イアリスを持ってきていてよかったわ」
月代は小さく呟く。最後のトドメの時、彼女の持つ『デヴァステイター』は弾切れを起こしてイアリスとスキルを使用した攻撃でトドメを行った。
「皆、無傷とは行かなかったけど重傷者がいないからまだよかった方かしら」
月代の言葉に「そうだな、これくらいの傷なら許容範囲かもな」とヤナギが言葉を返した。
「久しぶりの刃、存分に振るわせていただきましたね」
和は武器をしまいながらキメラの遺体を見て呟く。
「とりあえず私はジーザリオで高速艇の方に向かいますね、一緒に来られる方は乗ってください」
巳乃木の言葉に「あ、俺は街に寄ってから行く」とヤナギが言葉を返した。どうやら彼は自身が持ち込んだ楽器で慰安演奏をしようと考えていたらしい。
「俺の演奏で街の皆が楽しんでくれればいいんだけどな」
「私も街の方に行きますね、演奏も聴きたいですし、住人の人たちに怪我がないかも心配ですから‥‥」
街に行く前に退治したのだから大丈夫だとわかっていても流離はやはり心配なようで街の方に行くとおずおずと手を挙げながら呟いた。
「判りました、それでは高速艇で待っていますね」
巳乃木は高速艇に向かう能力者を乗せて高速艇が降り立った場所までジーザリオを運転しながら向かっていった。
それから街へ向かった能力者達が高速艇に戻ってきたのは二時間後。演奏が長引いた事により遅れたことをヤナギが詫びるのだけれど、何処か嬉しそうな表情でもあった。
そして能力者達は本部へと帰還し、今回の報告を纏めて提出したのだった。
END