●リプレイ本文
―― キメラ退治に赴く能力者達 ――
「いつになったら平和な日が来るのかしらね」
小鳥遊神楽(
ga3319)が大きなため息と共に資料へと視線を落とす。
「街中にキメラとは、逃げ遅れの方が居ないと良いのですが‥‥」
夏 炎西(
ga4178)も資料を見ながら呟く。現場は住人の避難は済んでいると資料にあるけれど全員が逃げたという保証はないため、彼は逃げ遅れた人がいないか心配しているのだろう。
「避難は終わっていると聞きましたけど、逃げ遅れた方が何処かにいるかもしれませんね」
レイン・シュトラウド(
ga9279)も夏の言葉に賛同するように言葉を返す。
「やれやれ、何事もなく終わればいいんだがな‥‥」
ゲシュペンスト(
ga5579)がため息混じりに呟くと「あ」と小さな声が聞こえる。
「あ、あの宜しくお願いします」
鈴木 一成(
gb3878)が丁寧に頭を下げてくる。先ほどの「あ」という呟きも彼のもので、知り合いである夏とゲシュペンストが同じ任務に居る事に安心したのだろう。対人恐怖症気味である彼にとって任務に知り合いが居るのと居ないのとでは大きな差が出てくるだろうから。
「‥‥んん‥‥? いや、まさかそんな事が‥‥」
玖堂 鷹秀(
ga5346)はキメラが現れた場所を聞いて一つの不安が頭を過ぎる。彼の妻でもある土浦 真里(gz0004)がこの付近に買い物に行ってくる、そんな事を言っていたような気がするからだ。
「ほへ? どうかしましたか?」
藤河・小春(
gb4801)が首をかくりと傾げながら玖堂へと問いかける。
「いや‥‥あの、もしかしたらこの街に真里さんがいるかもしれないんですよね‥‥」
申し訳なさそうに呟く玖堂に「本当に?」と小鳥遊が言葉を返してくる。
「えぇ、一応、真里さんがいる事を覚悟して置いてください」
覚悟する程の一般人、今までのマリの悪行が伺える。
(「会った事はありませんが、色々と噂の絶えない人‥‥ですよね」)
夏は玖堂の言葉を聞いた後に小さく心の中で呟く。
(「ほへ、美味しいケーキ屋さんを探してたら問題行動ありまくりの記者さんを発見しそうですね」)
藤河が苦笑しながら心の中で呟く。
「遅れてごめんなさい! 現場の地図借りてきましたよ〜」
椎野 のぞみ(
ga8736)がバサリと大きな地図を持って能力者達の所へと駆けてきた。
「現場は街中‥‥逃げ遅れた人がいないか注意しながら行った方が良さそうですね‥‥ってどうかしたんですか?」
能力者達の苦笑した表情を見て、椎野が問いかけると「実は‥‥」と小鳥遊が今までの事情を説明する。
「マリさんが?」
椎野も苦笑するしかないらしく、ちらりと玖堂を見ながら「大変ですね‥‥」と言葉を付け足した。
その後、能力者達は地図を見ながら作戦を立て現場へと急ぐ。
―― 徘徊する獅子女 ――
「あんた達がキメラを退治に来てくれた人たちかい?」
高速艇から降りて少し歩いた所で中年女性が能力者達に話しかけてきた。様子を見る限り街の方から避難してきた人物のようだった。
「はい、他に逃げ遅れた人とかはいないでしょうか?」
夏が問いかけると「いいないと思うんだけど‥‥慌しかったからはっきりと確認してないみたいだよ」とやはり逃げ遅れた人がいるかもしれないので油断をする事は出来なさそうだ。
「あ」
そして話の途中で女性が思い出したように「住人以外ではいるかも」と呟いた。
「どういう事?」
小鳥遊が問いかけると「何か喜び勇んでキメラの方に向かってった子がいてねぇ」と女性は言葉を返してきた。
(「‥‥何故でしょう、そういう人に一人しか心当たりがないのは‥‥」)
怪しく眼鏡を光らせながら玖堂が心の中で呟く。
「ま、まぁ‥‥まだまだ確実に彼女と決まったわけじゃないから‥‥」
固まっている玖堂にゲシュペンストが言葉を投げかけ、能力者達はそれぞれ行動に移る事にしたのだった。
今回の能力者達は迅速に任務を終えるべく班を二つに分けて行動する作戦を立てていた。
A班・夏、椎野、小鳥遊、藤河の四人。
B班・玖堂、ゲシュペンスト、レイン、鈴木の四人。
両班とも『探査の眼』を使える能力者がいるので、キメラから不意打ちを喰らったり罠に引っ掛かるという可能性は低くなるだろう。
※A班※
キメラ捜索を開始すると同時に椎野が『探査の眼』を使って警戒を強める。
(「まさかとは思うけど‥‥某猪バグアホイホイ姐さんが居なければいいけど‥‥」)
椎野も何故かマリがいるような気がしてならないのか、心の中で呟きながらキメラ捜索を続ける。
「静か、ですね」
夏が周りを見渡しながら小さく呟く。建物などに大きな被害はないものの、やはりキメラが現れたせいか道の脇を飾る花壇などの花が踏み荒らされているのが分かる。
「ほへ‥‥人に踏まれた跡ですね、避難の際に踏み潰されてしまったのでしょうか」
藤河が弱々しく横たわる花を手にとって少し悲しそうな表情を見せる。
「逃げるのに必死だったからでしょうね、仕方ないかもしれないけど‥‥やっぱりこういうのは良い気分にはなれないわね」
小鳥遊も小さく呟く、その時だった。
「危ない!」
椎野が少し大きめの言葉で叫んだ。それと同時に屋根の上からキメラが能力者達に向かって攻撃を仕掛けるように襲いかかってくる。
「キメラ‥‥こんな早くに見つけられて良かったというべきかしら」
小鳥遊が武器を構えると「そうですね、後はB班に連絡して広場まで誘導するだけです」と夏が言葉を返す。
「ちょっとおおおおっ! こっちはか弱い一般人なんだからもうちょっとゆっくり走りなさいよねっ!」
その時、椎野と小鳥遊の聞きなれた声が聞こえる。あまりこの場所で聞きたくなかった声に2人は頭を抱えた。
「‥‥あれ?」
キメラを追いかけてきたマリが能力者達と顔を合わせる。
「‥‥‥‥ここで何やってるのかにゃ? マリさん」
口調は穏やかだけれど冷たい瞳で椎野がマリに話しかけると「ワ、ワタシ、マリチガーウ」と変な口調になって拒否する。
「何処からどう見てもマリさんじゃないの‥‥」
はぁ、と頭を押さえながら小鳥遊が呟く。
「下がれ! 危険だ!」
夏が叫び、藤河がマリを庇うように愛用の武器でキメラの長く伸びた爪を受け止め「今のうちに下がってください」とちらりとマリを見ながら呟く。
「で、でも取材を諦めては記者の名前が廃――「マリさん、いい加減にしないと怒るわよ」」
取材を続けようとするマリに小鳥遊が少し低めの声で言葉を投げかけると「‥‥ちぇ」とマリは不満そうに口を尖らせて言葉を返した。
「あ、キメラが‥‥」
夏が呟き、他の能力者達が視線を移すと逃げるように駆けていくキメラの姿があった。
「あー、とりあえずB班の皆に連絡しておくね」
逃げていった方向がB班が捜索する場所だと言う事もあり、椎野は『トランシーバー』でB班に連絡をいれ、キメラを追いかける事にしたのだった。
※B班※
「‥‥‥‥はぁ」
A班から連絡を受けてから何度目のため息になるだろう、玖堂は大きなため息を吐く。
「喜び勇んでキメラに向かっていった奴ってあいつかい‥‥」
ゲシュペンストも流石にフォローをする事が出来ずに苦笑する。
「も、もうすぐ広場ですけど‥‥キメラが現れますでしょうか‥‥」
鈴木は『探査の眼』を使用しながら警戒を強め、そして周りを見る。A班が居る方向とB班が向かっている方向の間に広場は存在しており、上手くいけば挟み撃ちという好条件の中で戦いをする事が出来るかもしれない。
「それにしてもマリさんがいるなんて‥‥何でこんな所に‥‥しかも話を聞く限り、写真とか撮って取材していたようですけど」
レインが呟くと「‥‥で、でも‥‥ご無事のようですし、よ、良かった‥‥のでしょうか?」と鈴木が呟く。此処に来なければ心配せずともよかったのだから、マリに怪我がないという点だけを見れば良かったと言えるだろう。
その時だった、此方へとやってくるキメラの姿を視認し、それぞれ戦闘態勢を取る。場所は広場の目前。
「スイマセン、広場に‥‥キメラが現れたので急いでください、スイマセン」
鈴木がA班へと連絡をいれ『バスタードソード』を構え、戦闘を始める。
「ヒィ――ハァ―――――!! ひゃはははっうわははひーっひっひっひ!」
鈴木は今までの対人恐怖症気味の彼とは正反対に覚醒を行うと同時に異常なほどテンションが高くなる。
「イヤーッハハハハァッ!! 野良キメラ如きが他人様にご迷惑をかけるなんて生意気なんですよぉ!!」
そう叫びながら鈴木はスキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛ける。鈴木が攻撃を仕掛けてくるのが分かったのかキメラは避けようとしたけれどレインのスキル攻撃によって足を止められ、鈴木の攻撃をまともに受ける。
「援護は任せてください」
レインは呟き、再びスキルを使用しながら攻撃を仕掛け「逃がしませんよ」と言葉を付け足した。
「二挺拳銃を試すには丁度良さそうだ」
ゲシュペンストは呟き、両方の手に小銃『S−01』を構えてキメラへと向ける。そして西部劇のようにバンバンと撃ち放つ。
そこへA班が合流して、能力者達はキメラ退治の為、本格的に攻撃を開始するのだった。
「は、はぁい‥‥鷹秀、本日はお日柄も良く‥‥あ、あはは」
軽く手を挙げ、居場所がなさそうな表情でマリが玖堂へと話しかけるのだが、任務中という事もあり、あまり大きなお叱りは受けなかったが、にっこりとこれ以上ない爽やかな笑顔で『後で覚えていなさい』と無言の圧力をかけられていた。
「援護射撃をするわ、巻き添え食らわないように気をつけてね――尤も、あたしが味方を撃つなんて真似はしないけど」
小鳥遊はスキルを使用しながら攻撃を仕掛け、キメラの動きを止める。そして戦えないマリを狙って攻撃を仕掛けようとキメラが動くのだけれど「私が相手だ!」と夏がマリの間に割って入り、キメラをマリから離す。
「その程度の攻撃、私には効かない」
夏はキメラの攻撃を『リセルシールド』で防ぎ、反撃として『イオフィエル』で攻撃を仕掛ける。
「この後、すこ〜しお仕置きタイムがあるから早く倒されてね」
椎野も『バスタードソード』を振り回しながらキメラへ攻撃を仕掛ける。この時、マリの護衛についた玖堂がキメラの防御力を下げるスキルを使用して、能力者達の武器を強化するスキルも使用していた。
「下半身が獅子‥‥ラミアと呼ばれるタイプですね、日本では蛇の下半身が有名ですが、まぁ、それは横に置きましょうか」
キメラの爪を受け流しながら藤河はスキルを使用して攻撃を仕掛ける。
「これ以上の面倒はごめんだ! さっさと逝っちまいな!」
玖堂も『エネルギーガン』で攻撃を仕掛け、キメラの動きが止まったと同時にほぼ全員で攻撃を仕掛けてキメラはそのまま地面へと倒れていったのだった。
―― お仕置きタイム ――
無傷でキメラ退治――とは行かなかったが、大きな怪我もなくキメラ退治を終えた能力者達は『何故マリがいるのか』と言う事を問い詰めている最中だった。
「え、えぇと買い物に来てたんだけど、何でかわかんないけどキメラがやってきちゃって〜、つい、記者としての本能が爆発しちゃった☆」
えへ、と言葉を付け足しながら全く反省の色が見られないマリに普段は穏やかな椎野がついに大きな声で叫ぶ。
「おめえすったらことぬかして、死んだらどうすんだ!?」
貴女そんな事言って、死んだらどうするの!? という意味の言葉なのだが北海道弁が分からないマリにとって『死んだらどうすんだ!?』しか理解する事は出来なかった。
「‥‥マリさん? 今回は巻き込まれただけだからマリさんが悪くないのは分かってるわ。でもね、何で玖堂さんやあたしにすぐさま連絡を入れなかったの? 旦那様や親友のあたしの事が信じられない?」
小鳥遊の言葉に「そんなんじゃないけどさぁ〜‥‥」と拗ねたような言葉をマリは返す。
「確かにいつでも助けに行けるとは約束できないけれど、マリさんの為ならば可能な限りは駆けつけるわよ、あたしは」
それに、と言葉を続ける小鳥遊に「ま、まだお説教続くの〜?!」とうんざりしたような表情でマリが呟く。
「勿論よ、それに安全も確保していないのに取材を続けるのは感心しないわ」
小鳥遊のお説教に「もう勘弁してよ〜」とマリが泣きそうな声で叫ぶ。
「貴女がマリさんでしたか、いやぁ、道理でお逃げにならないと‥‥お噂はかねがね伺っております」
夏は自己紹介をしつつ、逃げようとしなかったマリの行動を思いだして苦笑する。
「凄い記者魂ですけど、命は大事になさってくださいね?」
首を傾げながら夏が言葉を投げかけると「勿論っ」とマリが返事だけは素直に返してきた。
「仕事熱心というか怖いもの知らずというか‥‥まぁ、あまり無茶はしてくれるなよ」
ゲシュペンストが話しかけると「怖がってたら良い記事はかけないのよっ」と力説するがそんな彼女にこれから気をつけようという気が毛頭ないらしい。
「僕は行くなとは言いませんけど、あんまり旦那さんに心配かけちゃ駄目ですよ、せめて一言言ってから行動しないと‥‥」
レインの言葉に「私は買い物行くって言ったよ?」とマリは言葉を返してくる。
「いえ、そういうことではなくて‥‥」
何か何を言っても無駄のような気がして「いえ、いいです」とレインは諦めたように肩を竦めてみせた。
「あ! そこの貴方はさっき滅茶苦茶なテンションで戦ってた人だっ! ちょっと取材いい!?」
きらんと目を輝かせながら鈴木に話しかけると「へ!? いえ、そのっ‥‥わ、わ、私はただの一般人ですからっ」と言葉を返した。
「何言ってんの! ただの一般人というのは私みたいなか弱い人を言うのよ! いいから取材させなさいよっ」
首根っこ掴みながら鈴木に詰め寄るけれど「真里さん」と玖堂の言葉に「な、何?」とゆっくりと振り返る。
「言っても無駄でしょうが注意しておきます‥‥キメラが出たらまずは避難する事、何をしてくるか判らないんですから迂闊な行動はしない事、いいですね?」
玖堂の言葉に「わかった」と素直に言葉を返す辺りが全くわかっていない証拠だとマリは気がついていない。
「ほへ、前の取材では会えなかったので、一度会ってみたかったのです。ほへ、昔のお隣さんの男の子からも聞いてます」
藤河がおっとりとした口調で話しかけ、マリのバッグから見えかけているケーキバイキングのチケットを見ながら「ケーキが食べたいです」と言葉を付け足す。
「立ち話もなんですし、帰ってケーキと紅茶でも飲みながらゆっくりお話しましょう」
その後、能力者達は報告の為に本部へと帰還する。その高速艇の中で小鳥遊から『暫くはお嫁さんに専念する事』という罰を与えられたマリなのだった。
END