タイトル:大石君は褌がお好きマスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/02 00:17

●オープニング本文


この褌、今度こそ役に立つはずだ。

さぁ、俺が(少し前に)夜なべして作った褌を受け取ってくれぃ!

※※※

『結婚式』
 愛し合う2人が生涯を共にする証の儀式。
 さまざまな人たちに祝福され、新郎と新婦の2人は新たな人生の出発をするのだ。


「ほぅほぅ、結婚式か。なるほど、これは祝いをせねばな」

褌をはためかせ、腕組みをしながら呟くのは、LHの変態として有名(かもしれない)な大石・圭吾(gz0158)だった。

「いつも世話になっているしな」

結婚をするのはナットー探偵事務所のノーラ・シャムシェルという女性。

大石とは全く面識はない、むしろ彼女が大石を世話したこともない。

それなのに何故大石は彼女を知っているんだろうとかは深い大人の事情なので気にしないようにしよう。

むしろ妄想壁のあるBAKAのたわ言として今の言葉は聞き流してほしい。

「せっかくのお祝い事だ、祝いの品でも持っていくかな、何がいいかな」

う〜ん、と大石は唸りながら悩み、やはり自分が貰って嬉しいものがいいだろうとたどり着いてはいけない結論にたどり着いてしまった。

「そういえば、前に埋められた褌があったな、あれをやろう」

しかも決して余り物かよ、とか思ってはいけない。余談だが、彼はジューンブライドの時期に一度能力者達に褌をプレゼントしようとして、能力者達の手によって褌は地中に埋められてしまった。

その際に泣きながら褌の入った段ボール箱を掘り出す彼の姿が見受けられたらしい。

とにかく色々と突っ込みたいことが山ほど存在するが、まずは置いておこう。

ナットー探偵事務所のノーラの結婚式、こんな褌BAKA☆LOVEのために台無しにさせるわけにはいかない。

しかも折角の結婚式という晴れ舞台、このBAKA、このBAKA(大事なので二度言います)のせいで忌まわしい記憶とさせるわけにもいかない。

どうか傭兵の皆さん、この抹殺したいくらいのBAKA(でも抹殺はいけません)を止めてあげてください。

●参加者一覧

/ 西島 百白(ga2123) / UNKNOWN(ga4276) / 辰巳 空(ga4698) / キョーコ・クルック(ga4770) / 百地・悠季(ga8270) / 香坂・光(ga8414) / 天(ga9852) / 天道 桃華(gb0097) / 千祭・刃(gb1900) / 堺・清四郎(gb3564) / 矢神小雪(gb3650) / ソフィリア・エクセル(gb4220) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 東青 龍牙(gb5019) / フォルテ・レーン(gb7364

●リプレイ本文

―― 周りにとっては迷惑でも本人は祝う気満々なんです ――

 全ての始まりは大石・圭吾(gz0158)と書いてBAKAと読む男の行動から始まった。
 ナットー探偵所のノーラ・シャムシエル(gz0122)が天(ga9852)と結婚するという話を何処からか大石は聞きつけて『お祝い』と言う名前の嫌がらせをしようと考えていた。本人は全く嫌がらせと自覚してするわけではないのだが、周りから見たら嫌がらせ以外の何者でもない事を彼は決行しようとしていた。

『褌をプレゼントしよう(前に埋められたけど)』

 そう、これはもう立派な善意と言う名前の犯罪である。
「‥‥また‥‥あいつか‥‥面倒な‥‥」
 西島 百白(ga2123)は大きなため息を吐きながら小さな声で呟く。
「何であの人はあんなに学習能力というものが皆無なのでしょうね、大石さんを更正させよ‥‥とのお達しですか」
 辰巳 空(ga4698)も西島と同じように大きくため息を吐きながら呟く。大石というBAKAに関わる以上、疲労感とため息は切っても切れない縁となってしまうのだろう。
「天もノーラもあたしにとって大恩ある方々で、それが一緒になって幸せになるのならば祝福すること自体には賛同なのだけれど‥‥」
 百地・悠季(ga8270)が苦笑しながら呟く、しかし大石がしようとしているのは彼女の言うような『幸せ』になる事ではなく、むしろ不幸にしてしまう事。
 だから彼女は大石の祝福の仕方に賛同することが出来なかったのだ。
「行き過ぎの行為は周りにも迷惑だし、押し付けられた当人達にも気持ち的に断りづらいでしょうに、ましてや自覚がないのは相当困った限り‥‥」
 百地は何かを考えるようにぶつぶつと独り言を呟き‥‥そして恐ろしく邪悪な笑みを浮かべる。
「ここは絶対に阻止して、尚且つ二度としないように精神的に殺してあげようかしらね」
 ふふ、と笑みを零しながら呟く百地の表情は果てしなく怖い。
「まったく大石さんにも困ったもんだね」
 香坂・光(ga8414)も苦笑しながら呟く。
「とりあえず、今回もきっちり邪魔して、きっちりお仕置きしないとね♪ ‥‥効果があるかどうかはさておき」
 香坂は頭の中でお仕置き場面を想像してみるが『反省』の文字と大石が果てしなく遠い距離にいるような気がして苦笑するしかなかった。
「今回はマジで行くわよ! 前回穏便に済ませてやったらこれだ!!」
 くわっと目を見開き、拳を強く握り締めながら天道 桃華(gb0097)が大きな声で叫んだ。
「もはや説得は諦めた、今回は真正面から戦いを挑んで粉砕してやるわ」
 彼女の言葉だけを聞いていればどんなキメラやバグアと戦うのだろうとか思いがちだが、今回の敵はあくまでも大石という褌BAKAな奴だ。ある意味最強(HENTAI的な意味で)な相手に能力者達に勝ち目はあるのだろうか‥‥。
「‥‥はぁ、またしても師匠が暴走ですか‥‥」
 千祭・刃(gb1900)は深く大きなため息を吐きながら呟く。大石の弟子である彼は別にお祝いに褌を持っていくのがいけないとか、そのような考えはなかった。
 しかし大石はBAKAなので、もう一度繰り返そう、BAKAなので暴走する事が多々あり、千祭は暴走しすぎの師匠を大人しくさせる為に今回の任務に参加した――と表向きの理由はこれなのだが‥‥。
(「時にはお仕置きも必要です。多少過激でもいいでしょう。師匠、褌一丁ですが頑丈ですから‥‥それと弟子の僕を放っておいて初恋の人に現を抜かした罰を与えます」)
 恐らく最後の言葉が千祭の本音なのだろう、少し前の任務で(むしろお仕置き任務で)褌BAKAなはずの大石は『初恋の人』の為に弟子である彼をないがしろにしていた。
 それが彼の心で私怨という名前の炎を滾らせて、今回爆発しようとしている。
「‥‥俺が大石に言える事があるとすれば一つだけだ、今すぐ病院にいけ、いや、俺が病院送りにしてやる」
 堺・清四郎(gb3564)は名刀『国士無双』を握り締めながら低い声で呟く。その声の低さから彼の現在の怒りが伺えた。
「結婚式に褌‥‥しかも中古の奴を送りつけようとするなんて一体どういう神経をしているんだ‥‥」
 堺が言うのも尤もな事だ、しかしその言葉を大石本人に言えば「こんな神経」と思わず斬り捨てたくなるようなくらいにさらっと言葉を返されることだろう。
「新郎新婦の幸せの為になんとしても止めねば‥‥」
 堺の言葉に新郎である天が苦笑しながら「あはは‥‥」と元気のない笑みで苦笑している。
「まぁ、本人に悪気はない筈だから、その‥‥まぁ、穏便に済ませてくれ」
 天の言葉に「天は良い人なんだな」と堺がポツリと呟く。
「‥‥俺が仮にやられていたら迷わず首をすっ飛ばす所だ」
 堺の冗談なのかそうでないのか微妙な(恐らく9割は本気と書いてマジと読むであろう)口調の呟きに、再び天は苦笑した。
「‥‥結婚祝いに褌贈るなんて‥‥色々とお世話になっている天伯父様や最近ブルーになっているノーラおば‥‥お姉様に精神的苦痛を与えるのは絶対に許せませんわ!」
 ソフィリア・エクセル(gb4220)がさらりと髪をかきあげながら呟く。
「この『天使の微笑み』の称号を持つソフィリアが不穏分子を葬り去って差し上げますわ!」
「いや、別に葬るまでしなくても‥‥」
 大石抹殺に執念の炎を燃やすソフィリアに天が苦笑しながら言葉を返す。ちなみに余談だがソフィリアが持っているのは『天使の微笑み』ではなく『悪魔の微笑み』という称号だったりする。その点を言えば、恐らく称号に相応しい働きをしそうだ、と他の能力者達は心の中で呟いた。
「あ、ひゃくしろ見っけなり! 一緒にふんどし魔のふんどしを処分するなりー!」
 リュウナ・セルフィン(gb4746)が西島を見つけて、ぱたぱたと手を振る。
「あ、ちょっと待ってください‥‥」
 たたた、と西島のところに駆けていくリュウナを追いかけるのは東青 龍牙(gb5019)だった。
(「折角のプレゼントを処分なんて、ちょっと可哀想な気がしますが‥‥」)
 東青は心の中で呟くが、大石が良かれと思って実行しようとしている褌プレゼントは最低でも集まった能力者達の数だけ迷惑をする人が居るので、褌焼却処分は決行するしかないのだろう。
「とりあえず、今回の目的は褌の焼却と大石さんの説得だね〜、終わった後は『子狐屋』で打ち上げとかしませんか〜? きっと疲れるだろうし、終わった後は皆でゆっくりしたいよね」
 矢神小雪(gb3650)が今回の大石暴走を止める為に集まった能力者達へと話しかける。彼女の言う通り、きっと、いや必ず終わった頃には疲れるだろう。
「俺はアイツを相当の馬鹿だと思っているが、十二宮並みの危険人物だと認識している、ゆえに止める手段は選ばない」
 フォルテ・レーン(gb7364)は低く呟く。あんな褌馬鹿と一緒にされては十二宮達も怒り狂ってしまうことだろう。
「えーと、とりあえず‥‥皆落ち着いて穏便に済ませような‥‥? 何か結構殺気立っているのがいるみたいだけど‥‥」
 困ったように天が呟くと「分かってる」とほとんどの能力者達が言葉を返すが、大石次第では抹殺したい気持ちに駆られるのは間違いないだろう。


―― でもBAKAだから常識が通じないんです ――

「おお! 天じゃないか! どうしたんだ? この前貰った赤褌なら返さないぞ!」
 まず、作戦開始の為に大石を呼び出す必要がある為、天が大石の携帯に電話をかけて呼び出す事から始められた。
「やぁ、ちょっと話があってね。結婚式の事で、出席するだろ?」
 天が話しかけると「勿論だとも! 呼ばれてなくても行くぞ!」と大石は言葉を返してくる。電波越しに喋っているので見えはしないけれど、きっと電話の向こうでは『きらーん』と爽やかなのか暑苦しいのか分からない空気を纏っているのだろう。
(「そういえば、大石って俺が呼んだんだっけ‥‥それともノーラが呼んだのかな」)
 呼ばれなくてもいく、という大石の言葉に天は一体どっちが結婚式に呼んだんだろうと心の中で呟くが「それで話ってなんなんだ?」と話しかけてくる大石の言葉で現実に引き戻される。
「いや、今カフェに来ているんだがちょっと出て来れないか――いや、今の場所を教えてくれ、俺が行くよ」
 カフェに来てくれ、と言ってから天は気づく。此処はお洒落なカフェ、そこに大石が来ては大騒ぎになるかもしれない(色んな意味で)と考えたのだ。
 その後、天は大石の場所を聞き出して彼が居る場所へと向かう。
 しかし、彼は大石のBAKAさを甘く見ていた――‥‥。

「それで話とはなんだろう?」
 大石がいたのはラストホープ内にある本屋、店員の『さっさと出て行けよ』的なオーラをバシバシと受けていながら、なおも本屋に居続ける大石を別な意味で尊敬しそうになる。
「いや、実は‥‥「いや、ちょっと待て! 幾ら何でも急すぎると思うんだ」‥‥え?」
 天の言葉を止めて大石は一人頭を抱えて葛藤し始める。むしろ頭を抱えたいのは天なんだという事にこのBAKAはいい加減気づくべきだと思うのだが、あえてそこは大石という事でスルーしよう。
「もうすぐ結婚式なんだろ、俺の事は気にするな! 俺は所詮日陰の身、覚悟はしているんだからな」
(「‥‥どうしよう、何を言っているのかさっぱり理解できない‥‥こういう時は何て言うべきなんだろう‥‥」)
 一人勝手に妄想を始める大石に天はなるべく大石を傷つけないような言葉を選ぼうと頭をフル回転させるが、この状況で何を言えば大石を傷つけないのかさっぱり彼には分からない。
「えっと、大石? とりあえず順序よく話をしてくれないかな?」
「うむ、天は俺の事が好きなんだろう?」
 順序良くと天は言ったのに思いっきりフライングした話になっているのは気のせいだろうか。
「‥‥いや、決して大石の事が嫌いとかじゃないんだが‥‥」
「俺と結婚式を挙げたいんだろう?」
「‥‥‥‥‥‥」
 とりあえず、この場所にいるのが天だけだった事を大石(と書いてBAKAと読む)は神に感謝するべきなんだろう。他の能力者がいたら、きっと問答無用で斬り殺されていそうなほどの爆弾発現だ。
 ちなみに天にはそんな趣味はまったくない。大石の犯罪的な思い込みの結果だ。
「いや、あの‥‥」
「今度の結婚式でノーラが着る花嫁衣裳を俺に着ろという話なんだろう?」
 誰の話を、何処の部分を、どう捻じ曲げて聞けばこんな結論に至るのか分からないが、大石の言葉に流石の天も否定の言葉を言いたくなった。むしろ言った方がいいよ、と誰かが囁いているような気がする。
「いや、俺が言いたいのは‥‥その、気持ちは嬉しいんだけど‥‥結婚式の祝いに褌はちょっと‥‥ね」
「いや、そこは褌でよいと俺は思うんだ」
 何の根拠があってきっぱりと断言するのか、説得は無理だと判断して持参していた無線アクセで他の能力者達に合図を送る。
「それじゃ、俺はこれから準備に取り掛かるから天も早くした方がいいぞ」
「あ、あぁ‥‥」
 此処で優しい彼は聞けなかった。一体大石は天に何を求めていれば『早くした方がいいぞ』と言っているのだろう、と。
 しかし大石は途中で足を止め、天の方をくるりと見る、そして‥‥。
「幸せになろうぜ!」
 BAKAは既に天と結婚する気満々らしく、きらんと爽やかな笑顔を残して去っていった。
(「‥‥もし、これが失敗したら俺‥‥ノーラじゃなくて大石と結婚する羽目になるんだろうか‥‥」)
 何度も言うけれど、天にはそんな趣味は全くない。むしろ大石にもないはずなのに『赤褌をくれた→俺の事が好き→これはもう結婚しか!』という突っ込み処が満載の方程式によって計算されてしまった結果なのだ。
「俺に出来るのはここまでかな‥‥その他は皆に任せよう」
 遠い目をしながら天は呟いたのだった。


―― 大石撲滅‥‥もとい更正大作戦 ――

※西島、リュウナ、東青※
「‥‥‥‥さて、始めるか‥‥」
 天からの合図を貰ったころ、西島はリュウナと東青と一緒に焚き火の準備をしていた。勿論寒いからと言う理由ではなく、大石の褌を滅殺する為の焚き火だ。
 ちなみに分かっているとは思うけれど、大石が身につけている褌ではなく、彼がプレゼントにしようとしている褌を滅殺という事なのでお間違いなく。大石の身につけている褌を滅殺してしまったら、お子様達の教育上宜しくない事が起きてしまうから気をつけねばならない。
「ひゃくしろー、何をしてるなりかー、お手伝いをするのらー」
 リュウナが焚き火の準備をしている西島の所へと駆けて来ると「‥‥あぁ、燃えるモン、探して来い‥‥」と西島がリュウナと東青に言葉を投げかける。
「えっと、枯葉とかでよろしいでしょうか?」
 東青が西島に問いかけると「‥‥あぁ‥‥それでいい」と低い声で言葉を返す。
「ひゃくしろー♪ 持ってきたのらー!」
 ばさっと大量の枯葉を持ってリュウナが西島の所へと駆けて来る。
「‥‥準備‥‥完了‥‥」
 西島はリュウナと東青が集めてきた枯葉に火をつけて小さく呟く。
「あの‥‥これってなんですか?」
 東青が二つの容器を指差しながら西島に問いかける。
「‥‥こっちは水‥‥火災防止‥‥だな。こっちは‥‥灯油‥‥対褌用?」
 西島はそれ以外にも消火器も用意していたが、こちらはまだリュウナと東青が見ない場所に隠していた。最悪の事態にならない限りは使う事は考えていなかったからだ。
「‥‥ついでに焼き芋でも食うか‥‥?」
 待機している間、寒いので焼き芋を焼いて食べて待っていようという事になった。
「お芋はリュウナに任せるなり! にゃ! 煙が!」
 リュウナが芋が焦げないように警戒していた所に煙をまともに受けてしまい「にゃ! にゃー!」と手でぱたぱたとしながら煙くて苦しそうにしている。
「だ、大丈夫ですか? け、煙が!」
 東青もリュウナを助けようと近寄り、煙の餌食となってしまう。
「‥‥いいから‥‥俺に任せておけ‥‥」
 はぁ、とため息を吐いた後にリュウナと東青を後ろに下がらせて芋を焼き始めたのだった。

―― 粛清開始のゴングは鳴らされた ――

「しかし、天の奴も困った奴だなぁ。結婚が決まってから俺にプロポーズなんて」
 大石はぶつぶつと呟きながら歩いているが、天が大石にプロポーズしたという事実はこの世の何処を探しても存在しないので褌男の妄想としてスルーしておこう。
 その時、大石の携帯電話に天から電話が掛かってきて、待ち合わせをしようと言ってきた。
「実は話し忘れたことがあってね、俺も向かっているから今から言う場所で待っていてくれ」
 天の言葉に「分かったぜ! ずっと待ってるからな!」と傍から聞いたら勘違いされそうな言葉を言いながら大石は電話を切る。
 しかしこれは悪夢への招待状だと言う事をまだ大石は知らなかった‥‥。

「‥‥ふぅ、あそこか‥‥」
 フォルテはジーザリオの窓から待ち合わせ場所を見ながら小さく呟く。彼の車の中にはロープとセメント、大人1人が入るであろうドラム缶が後ろの座席に置かれている。
「‥‥さて、行くか」
 フォルテはチラリと大石を見る。何やら大げさに飾られた箱を持っており、しかも何故か無駄に大きい。
(「まさか‥‥あの箱の中いっぱいに褌が入っているとでも言うのか‥‥!」)
 信じられない馬鹿さ加減にフォルテは思わず息を呑んだ。そして彼はアクセルを踏み、大石を狙ってジーザリオを発進させた。目指すは大石、まずは奴の動きを止めねばならないと考えてフォルテは強くアクセルを踏む。
「ふざけ過ぎにも程があるっての‥‥」
 しかし大石は何かを察知したのか、それともただの偶然なのか、箱から褌が一枚ひらひらと舞い上がって大石はそれを追う、そしてその次の瞬間にフォルテのジーザリオが突っ込んでくるというミラクルなことが起きてしまった。
 そこへ天もやってきて、わけがわからない大石をジーザリオの中に突っ込んでフォルテは再び発進させる。
「ちょ、な、何だ何だ! 一体何なんだ! もしかして俺の褌を狙う奴か! 褌は渡さんぞ!」
 此処で補足しなくても分かってくれるだろうが、フォルテは別に大石の褌に興味はない。いや、奪うという目的はあるから用事はあるけれど、大石の褌なんかに興味を示したりなどは全くない。
「もしかして俺の事を覚えていないのか? 一回会ったきりだけど――結婚式の余興の事で、ちょっと話をな」
「ほほう、余興か。それは是非とも話を聞こう――だが、何故俺は縛られているんだろう」
 大石を車に乗せた後、フォルテは少し走らせた所で車を停めて大石をロープで縛り始める。此処で大石に新たな趣味が出てしまっても、きっと大石のせいではないような気がする。
「いや、練習だよ。他にも余興をする人がいるからそこまで向かうから」
 余興、と言う名前のお仕置きになるなど大石は夢にも思っていないだろう。
「どんな余興なんだろうな、俺の褌が役に立てばいいが」
 縛られながらもそんな事を言う大石を見て、天はこの後に起こるであろう出来事を思って苦笑するしか出来なかった。

 拉致されたとは夢にも思わない大石が連れて来られたのは多くの能力者達が居る場所。
「おおぅ、こんなに大勢で余興をするのか‥‥?」
 しかし見知った顔を見つけて、縛られた体で這いずり、褌が入っているであろう悪趣味な箱を守るようにした。
「ふははははは! 褌を愛しながらも、その力を間違った方向に使うもの! それを粛清する為、褌仮面参上!」
「天に輝く太陽の美少女戦士! 褌シスターズ参上ッ! さぁ、この日輪の輝きを恐れぬなら、かかってきなさい!」
 香坂と天道の二人が大石の前でポーズを取りながら決め台詞を叫ぶ。しかし大石は現在縛られており、かかっていきたくてもいけない状況なのを彼女達は気づいていない。
「はっはっはっは! 俺はそんなもの恐れはしないんだぜ! むしろお前達はその胸の小ささを恐れる必要がはぁっ!」
 大石は言葉の途中で褌シスターズの二人から攻撃を受ける。恐らく大石が決して口にしてはいけない言葉を言ってしまった為だろう。
「大体、何で私がこんな格好をしていると思うの! これも全て大石さんのせいだわ!」
 天道の現在の格好、警戒されないようにゴーグルで顔を隠し、服はサラシに褌という格好だった。年頃の娘がするような格好ではないのだが、これも全て大石のせいという事で問題はないだろう。
「とう! さあ、粛清の為に尋常にお縄につくのだ!」
 びしっと香坂が叫ぶのだが、既に大石はお縄についていたりする。
「大石さん、あなたには学習能力というものが皆無のようですね」
 辰巳が覆面をつけた状態で大石に話しかけると、流石の大石も驚いたのか「な、何でこんなに変人が多いんだ‥‥?」と一番の変人である大石が呟く。彼はもう少し、もうかなり自分を知るべきだろうと能力者達は心の中で呟いた。
 ちなみに辰巳は大石がロープから脱出した時の事を考えて、すぐに捕まえられるようにと要所にワイヤーとスタンガンとサイレンを組み合わせたトラップを仕掛けていた。だからもし万が一大石が逃げ出しても捕まえられないという状況には陥る事がないだろう。
「お前はとりあえずセメントで埋められていた方がいい」
 フォルテが呟いた後「ちょっと待って」と百地が言葉を挟んで、パチンと指で合図をする。ちなみにこの合図は大石フルボッコタイム突入のお知らせでもある。
「あたしは素手であんたに触るのも嫌だから」
 百地は大石を蔑むような目で見ながら『バトルスコップ』で大石を殴打する。ちなみに大石は何で自分が殴られているのかさっぱり理解していない。
「大石さん! 覚悟!」
 香坂はすちゃっと『巨大ハリセン』を取り出して大石を殴り始める。大石は褌以外を着用していない、つまり素肌にバシバシとハリセンが当てられて地味に痛い。
「き、キミ達は褌仮面と言いながら俺を攻撃するのか!」
 同じ褌同士だとでも思ったのか、大石は信じられないものでも見るような目で香坂と天道の2人を見る。信じられない存在なのは褌BAKAの大石だと言うのに。
「師匠ー! 助けに来ましたー!」
 AU−KVを駆使しながらやってきたのは大石の弟子である千祭だった。
「おお! 弟子よ! 俺を助けてくれがはっ!」
 しかし助けに来たと思われた千祭はAU−KVごと大石に体当たりをする。
「で、弟子よ‥‥身動き取れぬ師匠を、師匠をおおお‥‥」
 大石は呻きながら千祭を見る。
「すみませんっ! わざとじゃないんです!」
 慌てて千祭が駆け寄って謝る‥‥のだが、本当はわざとである。弟子である自分より初恋の人を優先した大石に対して千祭は嫉妬の炎を滾らせていた。
「見つけたぞ! キメラめ! よくも大石の姿を真似したな!」
 そんなキメラはいない、むしろ作るバグアはいない。能力者達は心の中でツッコミを堺に入れながら大石型キメラ(と思われてた本人)を攻撃するのを見ていた。
「うおらああああ!」
 峰打ちの国士無双、しかも手加減ナシという状況の中、普通のキメラならば死んでいるのではないだろうか、と思える攻撃を受けながらも大石は生きている。まるでG(という名の虫)並みの生命力に拍手を送りたい気持ちである。
「お、俺は何もしていないのに‥‥俺は、俺はああ‥‥」
 嘆き叫ぶ大石に矢神がにっこりと話しかける。
「大石さん‥‥結婚式で褌を配るんですってね‥‥どのフライパンがいいですか? ‥‥答えは聞くけど、変えないから」
 つまり大石に選択権はないという事なのだろう。にっこりと笑いながら矢神はガッスンガッスンとフライパンで大石と料理していく。料理と言っても美味しく食べられる料理ではなく、痛めつける方の料理なのだけれど。
「えぇと、こんにちは♪ 天伯父様の姪でソフィリアと申します。親愛なる伯父様を祝福してくれるそうで、ありがとうございます」
 にっこりと天使のような悪魔のような微笑と共にソフィリアが大石に言葉を投げかける。
「おおぅ、こんな格好で申し訳ないが大石だ、可愛い姪がいるじゃないか、天は」
 そう言って握手をしようと縛られながら手をもじもじさせる大石だったが、ソフィリアはそれを一瞥するとヒールの踵でぐりぐりと足を踏みつける。さしずめその状況は女王様と犬のようだった。
「さて、お祝いの品がどうとか小耳に挟んだのですが‥‥」
「お、おおぅ、褌をプレゼントしようと思っているんだ」
「天伯父様は裁縫やお料理が得意ですし、折角ですので完成品なんかよりは反物とか生地とか、食材とか‥‥そう言った物の方が喜ぶかと思いますが、いかがでしょう?」
「しかし俺は褌が良いと思う」
 所詮BAKAを説得しようなんて無理があったのだ、ソフィリアの言葉も見事にスルーして自分の欲しい物を押し付けようとする考えを改めようとはしない。
「とりあえず考えておいて下さ「いや、考えなくてもいいとおもう」‥‥」
 所詮はBAKA、BAKAに常識人の言葉が通じる筈もなかった。
「とりあえず、お前はこれにでも入ってろ、な?」
 フォルテがドラム缶の中に無理矢理大石を入れる。その上でセメントを流し込もうとするが、流石にそれは天によって止められてしまった。
 そして大石が大事そうに持っていた悪趣味な箱を取り上げて、少し向こうで待機している西島たちの所へと向かう。もちろんドラム缶IN大石も。
「俺のふんどしいいいいっ! 夜なべして作ったんだっ! 返してくれよ! 俺のふんどしいいいい!」
 何やら悲痛な叫び声が響くのだが、言っている事は所詮褌の事であり、普通の人間ならばあそこまで騒ぐほどの事ではなない‥‥はずだ。
 そして大石が運ばれてくるのを知った西島はリュウナと東青に「‥‥芋の‥‥避難を優先する」と呟く。確かに大石の褌が焚き火の中にINされてしまえば焼き芋は食品としての価値を失うだろう。
 いや、実際に失いはしないけれどそれを食べるというのは精神的に苦痛を感じること間違いなしだろう。
 そしてその褌が入った悪趣味な箱が向かうのは‥‥先ほどまで焼き芋が焼かれていた焚き火――流石に大石も何をされるか察知したのか「おおおおおお!」と突然阿呆のように叫び始めた。
「やめろ! 何で褌を燃やそうとするんだ! そんなに褌がキライなのか!」
 そこまで褌を主張するお前が嫌いだよ、数名の能力者達の心の声が聞こえるのは気のせいだろう。
「よく考えろ! 褌に罪はないだろう! 燃やすなら俺を燃やせ!」
 大石の悲痛な叫びを聞いて『出来るものならそうしたいよ』と考える能力者達もきっと少なくはない。
 そして大石の嘆きも空しく褌たちは炎の中へ入れられてしまった。
(「師匠、僕の嫉妬心も、この炎のようにメラメラと燃えているんですよ‥‥」)
 何処か黒い笑顔を浮かべたまま千祭が心の中で呟くが大石は燃える褌たちを救出しようとするのに頭がいっぱいで、そんな弟子の気持ちなど全く分かっていない。
「弟子ならば燃える褌を助けるのが当たり前だろう! それでも弟子か!」
 大石の叫びに「それとこれとは別です」とあっさりと千祭は言葉を返す。
「おおおおおっ!」
 大石は叫びながらロープの拘束を弾き、慌てて焚き火へと駆け寄る。
「‥‥自分で‥‥な‥‥?」
 西島が消火用の水を大石に渡し「ありがとう!」と言いながら大石は焚き火に向かって消火用の水をかける。
 しかし炎が消える所か『ファイヤー!』と叫ぶかのように勢いを増す。どうやら西島が渡したのは消火用の水ではなく灯油だったらしい。
「‥‥‥‥おおおお‥‥」
「‥‥すまない‥‥間違えた‥‥」
 もちろん素で間違えたのではなく、これも計算のうちだと言う事は言うまでもない。
「ちくしょう! 貴様等‥‥俺の褌に一体どんな恨みがあればこんな事をするんだ!」
 むしろ自分が原因だと言うことに気づけと突っ込みたい。大石が怒りに任せて能力者達に攻撃を仕掛けようとしたのだが、辰巳が仕掛けていたトラップに引っ掛かり「ぎゃああ‥‥」と戦う前から撃沈してしまった。
「さて、これからが本番よ‥‥」
 百地が冷笑を浮かべながら取り出したのはトランクス、それを大石に着せようというのだ。もちろん褌の上から。
「やめろー! そんな邪道なモンはいらん! 日本男児は褌だろうがああああ!」
 暴れまくる大石を、弟子を始めとした能力者達によって押さえつけられて、大石は悲しくもトランクスを履かされてしまう。
 そして『本当はトランクスが好き』と書かれた看板と首から提げてその姿をデジカメで激写する。ある意味ではスクープになるのかもしれない。
 一体何にその写真を使うのか、予想は出来るけれど大石はBAKAだから『もしかして俺の写真が欲しいためにこんな事を‥‥?』とか思い始めている始末。
「ふぅ、それにしてもあれだけすれば褌の復活はないよね‥‥って普通にないかぁ」
 燃えていく褌を見ながら香坂が苦笑気味に呟く。
(「でもまた夜なべしてでも作りそうな気がするなー‥‥BAKAだし」)
 香坂は心の中で呟く。もしそれを口に出してしまい、大石が聞いたら本当に実行するかもしれないと考えたからだ。
「この看板も付け足しておくわね」
 天道がもう一つの看板を大石の首にかける。

『危険ですので近寄らないで下さい』

「‥‥ある意味、本当にぴったりな言葉よね」
 トランクス姿で放置される男、何処からどう見ても危険人物にしか見えないため、天道が用意した看板は妥当なものだった。
「このまま樹海に捨てに行くか、その方が天の結婚式が終わるまで現れないだろうからいいんじゃないか」
 堺の言葉に「さ、流石にそれは‥‥別にそこまでしなくても‥‥」と天は既に落ち込んでいる大石を見ながら言葉を返した。
「とりあえず、この辺に放置しておいて、皆さん、この後『子狐屋』で打ち上げしませんか?」
 矢神が能力者達に話しかけると「いいですね」と辰巳が言葉を返す。
「にゃ! 打ち上げに行く前にふんどしに敬礼なり!」
 びしっと敬礼をするリュウナに「とりあえず此処からいく前に火の確認をちゃんとしないといけませんね」と東青が呟き、焚き火の周りなどの確認を行う。
「ああああ‥‥俺の褌、褌が燃えカスに‥‥うああああ‥‥」
「やかましい!」
 嘆く大石の言葉をフォルテが一喝するが、大石は悲しみが大きいらしく泣き止まない。はっきり言ってウザイ。
「‥‥敵だったら‥‥どんなに良かったんだろう‥‥」
 フォルテが大石を見ながら呟く。いっそのことバグアでもキメラでも敵だったら遠慮なく斬り捨てることが出来るのに、恐らくフォルテの心の中にはこういう言葉があるのだろう。
 確かに斬り捨てた方が世の為人の為となるかもしれない、しかしこんな奴でも一応は能力者なので斬り捨てる事も許されない。
 その後、能力者達は子狐屋へと足を運び、通常任務より遥かに疲れた(主に精神面)の打ち上げをする事となったのだった。


―― やはり大石は最後にはこうなる ――

 褌を奪われ、能力者達から置いていかれ、大石は看板をぶら下げながらトランクス姿でトボトボと哀愁を漂わせながら帰路についていた。
「気落ちしているようだが、どうしたのかね?」
 キョーコ・クルック(ga4770)が大石に話しかけながら大石を轢く。
「ぐはっ! な、何故‥‥今回はあんのんはいなかったぞ‥‥しかも誰だ、お前は!」
 よろめきながら大石がキョーコに話しかけるが、彼女は大石の言葉に耳を貸さずにカンペを見ている。
 しかし彼女の姿格好、何処かで見覚えがあるような気がするのは気のせいだろうか。フロックコート、ボルサリーノ、性別こそ違うけれど雰囲気はUNKNOWN(ga4276)そのものだった。
「えと‥‥「くっ、バグアめ」‥‥これでいいのか?」
 キョーコは首を傾げながら気絶した大石を近くの結婚式場へと運び、新郎新婦が乗る車の空き缶の隣に大石を繋ぐ。誰が使うか分からない車だが、きっとこれを使う新郎新婦には前途多難の相が出ているに違いない。
「天がどこで結婚式挙げるか知らないけど、これで依頼は果たせたと‥‥」
 キョーコはそれだけ呟き、満足そうに去っていく。
 そして彼女と入れ替わりにやってきたのはUNKNOWNだった。
「おや、こんな所に大石が‥‥」
 UNKNOWNはそれだけ呟くとつながれていた大石を荒縄を使って確りと固定する。
「くっ、バグアめ‥‥こんな所に大石を‥‥」
 ちなみに数秒前に車に確りと固定したのはバグアでも何でもなくUNKNOWN本人である。
「待っていろ、仇は取ってやるからな」
 UNKNOWNはそう言葉を残し、姿のないバグアを追って去っていった。ちなみに大石は死んではいない。

 そんなこんなで色々とあった大石妨害作戦は見事に成功して、大石の手元から褌は消え、能力者達は任務を成功させる事が出来たのだった。
 それから数日後、堺が少し悪かったかなと『赤褌』と持って大石のところにお見舞いに行ったところ「お前、俺に褌をくれるのか!」と大層喜んでいたのだが‥‥。
「もしかしてお前も天と同じで俺の事が好きなんだな!」
 果てしない方向へと勘違いして、堺は思わずお見舞いでプレゼントした赤褌を取り返してしまったのだとか‥‥。


END